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No.17768の一覧
[0] とあるヒロインの御坂美琴【禁書目録再構成】 [とある文芸部員](2010/04/01 00:08)
[1] 第一話(禁書目録編プロローグ)[とある文芸部員](2010/05/15 00:59)
[2] 第二話[とある文芸部員](2010/04/01 00:13)
[3] 第三話[とある文芸部員](2010/04/03 02:57)
[4] 第四話[とある文芸部員](2010/06/18 22:05)
[5] 第五話[とある文芸部員](2010/04/06 17:11)
[6] 第六話[とある文芸部員](2010/04/16 01:36)
[7] 第七話[とある文芸部員](2010/04/16 01:51)
[8] 第八話(禁書目録編完結)[とある文芸部員](2010/05/15 01:00)
[9] 第九話(吸血殺し編プロローグ)[とある文芸部員](2010/05/27 19:59)
[10] 第十話[とある文芸部員](2010/06/09 19:39)
[11] 第十一話[とある文芸部員](2010/06/09 19:48)
[12] 第十二話[とある文芸部員](2010/07/22 18:41)
[13] 第十三話[とある文芸部員](2010/07/22 18:42)
[14] 第十四話[とある文芸部員](2010/08/06 01:51)
[15] 第十五話[とある文芸部員](2010/08/06 02:00)
[16] 第十六話[とある文芸部員](2010/08/24 23:40)
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[17768] 第十四話
Name: とある文芸部員◆b391eec1 ID:24c22098 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/06 01:51
 美琴に夕食を振る舞ってもらった上条は、絶対に同居なんてしてたまるかといいながら、結局は美琴宅に泊ってしまった。

 本当は泊るつもりなんてなかった。一度泊ってしまったら、このままずるずる同居に持ち込まれそうで怖かったからだ。

 しかし美琴とインデックス、二人の美少女に潤んだ瞳で上目遣いに見られると、きっぱり断ることなんてできなかった。

 それに、とてつもなく柔らかそうなベッドという誘惑には勝てなかった。もう橋の下で寝泊りするなんてごめんだった。

 頭を掻きながら「仕方ねえなぁ……わかった、わかったよ」と頭を掻き回す横で、美琴とインデックスが目薬片手ににやりと笑ったのを、上条は知らない。

 とにかく美琴の家に泊ることになった訳だが、ここで問題が発生する。

 仲良く一緒に風呂に入った美琴とインデックス(黒子がいたら血涙を流しそうなシチュエーションだ)の風呂あがり姿に興奮して、思わずロリコンの汚名を拝命する行動をとった。……という訳ではない。

 正直狙っているだろっていうぐらい、暑い暑いと着崩した格好をしていたが、鉄壁の理性で乗り越えた。この時ばかりは、上条は自分を褒めた。

 変態紳士にならずに済んだが、その問題に風呂自体は関わっている。

 二人の後に風呂を頂いた上条は、久しぶりにゆったりした気持ちで湯船を堪能したのであるが、着替えようとした段階で気が付いた。

 着替えがない。

 寮から追い出された時の鞄に、無事な衣服を少しは詰め込んでいたのだが、いかんせんコインランドリーに行くお金すらなかったので、もう未使用の衣服はなかった。あるのは辛うじて残っていた下着だけ。

 そこで美琴がどこからともなく、上条にぴったりなパジャマを提供してくれた。

 深く考えては負けだと思い、どうにか礼を述べて受け取り着替えた。

 美琴とインデックスとお揃いの、色違いのゲコ太パジャマだ。上条はある程度予想はしていたが、やっぱこれはねえよと渋い顔をした。

 着替え終わってリビングに向かうと、美琴が頬を赤らめ、満足げにパジャマ姿の上条に頷きながらこう述べた。

「このままじゃアンタも不便だし、明日、日常必需品をまとめて買いに行くわよ。お金?大丈夫大丈夫、美琴センセーに任せなさいって」

 ありがたい話ではあるが、あれ、これって同居フラグが立っているような……? 何故か悪寒がした。

 しかし膝元で暑さにだれるインデックスをあやしていると、いつの間にかそんな考えもどこかに吹っ飛ぶ。

(まっ、気のせいだろ。あれで美琴のやつ、面倒見のいいとこあるしなー)

 なんてのほほんとしている隙に、美琴とインデックスが互いにサムズアップしていたことに、もちろん上条は気付いていない。

 壊れっぱなしの玄関(セキュリティー完備のマンションなので、明日修理するくらいまでなら安心らしい)に繋がる廊下の左右の部屋の内、美琴と反対の部屋を借りた。

 上条は人間らしい環境で寝られることに歓喜し、若干涙ぐみながらベッドに入るや否や、疲れからかすぐに眠ってしまった。






 そして翌朝。

 上条のベッドに美琴やインデックスが! なんて素敵イベントは生じることもなく、久方ぶりの爽やかな朝を迎えた。

 どうにか部屋干しで乾いてくれた服に着替えた後、洗面所で顔を洗い、リビングに行くが誰もいない。

 まだ寝ているのかと思ったが、ダイニングから良い匂いがしていることに気付いた。

 足を運ぶと、すでにインデックスが姿勢良く席に着きながら、フォークとナイフを持って涎を垂らしていた。

 ほんと、食い気ばかりのシスターだなと呆れながら、オープンキッチンの方を見ると、案の定美琴が料理を作っている。

 ベーコンが焼ける香ばしい臭いが漂ってきて、無意識に鼻を鳴らしてしまう。

(って、インデックスのこといえないな)

 誤魔化すように上条は挨拶をした。

「うーっす、美琴、インデックス。お前ら早いな」

「おはよう当麻。そういうけど、私達そんなに早く起きてないわよ。アンタが起きるの、ちょっと遅かっただけよ」

「おはよう」

 美琴は手を休めずに応え、インデックスはご飯が待ち遠しいのか、気もそぞろに挨拶を返す。

「なんか手伝おうか?」

「気にしなくても、もうすぐできるから。座ってて」

 何から何まで世話になっている分なんだか申し訳ない気がしたが、素直に上条も席に着いた。

 何気なくキッチンで忙しなく調理する美琴を見ていると、何故か面映ゆいような、くすぐったいような不思議な気分になり、目線を天井に移す。

 微かに紅潮した上条を見て、インデックスが不思議そうに首を傾げた。

 それほど時間が経たない内に美琴が調理を終え、朝食にしては異様に種類と量のある食事が並べられた。

 食い盛りの男子高校生がいるからではなく、主に暴食シスターがいるからである。

「朝からこんなに美味しい食事を食えるなんて、上条さん感激です」

 食欲魔神と化したインデックスの隣で、普段トーストのみなど適当な朝食しか作っていなかった上条は感謝の念を表す。

「まっ、当然でしょ。美琴センセーの実力を舐めないでよね」

 対面の席で軽口を叩く美琴であったが、とても嬉しそうに笑っていて、上条は思わず言葉に詰まる。

「ん、んん。よし、じゃあインデックスに食い尽くされないうちに、とっとと食うか」

「むむ、とうまのぶんは私のもの、私のぶんは私のものなんだよ」

「どこで覚えたそのジャイアニズム。変に日本に感化されやがって、ほんと、お前がシスターだってこと忘れそうになるよ……っていっているうちにもう大半の料理が消失っ!」

 返せー! とひたすら料理を口いっぱいに頬張るインデックスに、上条は半ば涙目で絶叫した。

 だがいうことを聞くはずもなく、インデックスはとまらない。料理は無情にもどんどん無くなり、上条の瞳から本当に涙がこぼれそうになる。

「なんだなんですかせっかく人が幸せに浸ってたというのに――不幸だーっ!」

 上条には悪いが、幸せをそのまま現した光景に、美琴はこの日常がいつまでも続けばいいなと願いながら、追加を作る為にキッチンに向かった。


 

  


 朝食を終え食後の休憩をとった後、三人は昨夜の約束通り、買い物に出かけた。

 行き先は虚空爆破事件を経て、新たに改装されたセブンスミストである。

「へえー、前よりいい感じじゃない? 内装もなんか前より明るくなってるし、品揃えもますます豊富になってるし」

「そうかあ? 俺には違いなんてよくわかんねえけどなあ」

 自分の服を買いに来たというのに気だるげに答える上条に、美琴は少しばかりカチンときたが、ここは女の度量を見せるところよと我慢する。

 ごほんと咳払いをし、美琴は努めて笑顔を保って問いかける。

「それじゃ、アンタの服を選びましょっか。一応は要望は聞くけど、あんまダサいの選ぶんだったら私が選ぶからね」

 しかし振り向いた先に上条はいなかった。慌てて辺りを見渡すが、インデックスすらどこかに消えてしまっている。

 ただ一人、美琴だけが馬鹿みたいに取り残されていた。

「……あんのバカども。いい年して入店早々迷子になってんじゃないわよ!」

 不穏な電気の爆ぜる音をまとわせながら、美琴は二人の姿を探す。しかし捜せど捜せど見つかる気配もない。

 しまいには迷子センター呼び出しという羞恥プレイでもしてやろうかと考えるが、店の片隅にある特設コーナーでようやく二人の姿を見つけた。

 文句の一つや二つでもいってやろうとするが、インデックスの嬌声にかき消される。

「見て見てとうま! 超機動少女カナミンのドレススーツがあるよ! もしかしてこの店はカナミンご用達?」

「ただのコスプレ衣装だっての。ていうかインデックス、お前いつの間にカナミンなんて知った? 日本かぶれにも程があるだろ」

「私が着てもいいかな!」

「おーい、インデックスさんや、聞いてますかー? ……って聞いてねえし。てかなんで普通のチェーン店にこんなもん置いてんだ。色物実験品ばかり扱う学園都市に変に感化されたのか?」

 なにやらはしゃいでいる白いシスターと、それに振り回される日曜日のお父さんみたいな高校生が、アニメや漫画の仮装衣装の前にいる。

 ある意味すでにコスプレをしている(本人にそういえば激怒するだろうが)インデックスが、カナミンの衣装を着たいと騒ぐのはどこかシュールな光景であった。

「アンタ達、こんなとこでなにやってんの」

 小さな子どものように目を輝かせるインデックスに毒気を抜かれた美琴は、疲れた声で問いかけた。

「ああ、美琴。わりいな、勝手に離れて。でも、インデックスが目敏くここを見つけて突撃するもんだから。さすがに一人にするわけにもいかなかったしなあ」 

「インデックスも女の子だから、服を見てはしゃぐのも分かるけど……これはないわ。セブンミストもいい感じに改装されたかと思ったら、こんなもの置いてくれちゃってまあ……」

 中盤になって仲間になった悪役ヒロインの、ど派手に露出している衣装を手にとって、美琴はなんともいえない表情でいった。

「ねえねえみこと! 一緒に着てみない!?」

 インデックスがカナミンの衣装を小脇に抱えながら、美琴を期待した目で見つめる。まるで子犬のような愛くるしさに、美琴がどうしたものかと唸る。

「いや、でもねインデックス、さすがに私もこれは……」

「いやなのみこと?」

 某CMのチワワのように潤んだ瞳で見つめてくるインデックス。

 美琴がたじろぐと、ポンッと肩を叩かれた。上条が諦めろといった目で首を振っていた。

「あー、もう! 着ればいいんでしょ、着れば!」

 美琴は自棄になって叫んで悪役ヒロインの衣装をもぎ取ると、インデックスを連れて試着室に入った。   

 残された上条はご愁傷様ですと手を合わせながら、そういえばここに来た目的って俺の服を買うためじゃなかったっけと今更なことを考える。

「まあ、しかたねえか」

 そういいながら暇つぶしにとコスプレ衣装を見渡した。

 男性用のものもあるにはあるが、大抵の衣装は女性用でしかも露出が激しいものが多い。

「最近のアニメってこんなのばかりだよなー」 

 美琴が手に取った衣装を思い浮かべる。あれも半端無く布地が少ないというか、ぶっちゃけエロかった。

 ……そうか、アレを美琴が着るのか。

 そう考えるだけで、得体の知れない衝動が上条の身のうちに宿った。

「いやいやいやいや上条さんや、中学生に何を考えてんだ? しかも相手は美琴だぞ?」

 突如として湧いた、黒ビキニのエロ鎧装備の美琴が流し目でこちらを見ているイメージを、頭を振って払おうとする。

 しかし払っても払っても煩悩は湧いて出てくる。

「うおおおっ! 消えろっ、消えろっ! 俺の幻想!」

 右手で頭をガンガン殴るが、さしもの幻想殺し(イマジンブレイカー)も高校生の妄想という名の幻想をぶち殺すことはできなかった。

 しまいには妄想の中の美琴が上条にしな垂れかかってきて、耳元で愛の言葉を囁いてきた。

 上条的に絶対ありえないシチュエーションに、どこからともなく湧いてきた青髪ピアスの幻影が上条の肩を優しく叩く。


 ようこそ、ロリの世界へ。


 青髪ピアスは実に良い笑顔で親指を立てた。

「行ってたまるかぁぁぁぁっ!」

 今までどんな幻想も打ち砕いてきた己の右手を信じ、上条は全力で自身の頭を殴る。 

 学園都市第一位との戦闘を超える、理性と妄想との激しい戦いの幕が切って落とされる!

 と思いきや、

「…………アンタ、なにやってんの?」

「とうまがバカな頭を、更にバカにしようとしているよ」

 このままでが気絶しかねない勢いで殴り続けていると、夏場にそぐわない北極の吹雪のような声が上条に掛けられた。インデックスと美琴の声だ。どうやら着替え終わったらしい。

「い、いや、これにが訳があってですね――」

 そういって振り向こうとするが、すぐさま全力で二人から目線を逸らした。

(って、今の今まで嬉し恥ずかし思春期妄想してったっていうのに、実物なんてみれっかー!)

 訝しげな視線をひしひしと感じながらも、上条は必死に心を落ち着かせようとする。息を吸っては吐き、それを繰り返す。

「ちょっと、大丈夫なの?」

「みこと、キューキューシャっていうのを、呼んだ方がいいんじゃないの?」

 様子のおかしい上条を心配する美琴の傍らで、インデックスがかなり失礼なことをいっているが、いっぱいいっぱいで聞こえていない。 

 それでもどうにか動揺を押さえ込み、努めて自然な笑顔を浮かべ(実際はひくついているが)、上条は今度こそ二人の方を振り返る。

 インデックスがカナミンの衣装を着られたからか無駄にはしゃいでいるが、ほとんど視界に入ってこなかった。

「ど、どうかな?」

 美琴が恥ずかしげに身体をもじもじさせながら、上目遣いで聞いてくる。

 妄想での予想を超える露出の多さに上条は息を飲み、まじまじと美琴を見つめてしまう。

 白い色をした触りたくなるようなふともも。意味をなさないスカートから覗ける、布地面積の少ない食い込んだビキニの下。くびれた腰と可愛いらしいへそ。

 そして胸――むね…………胸?

「…………ないなあ」

 自身の妄想の数段はボリュームのない胸に、上条は思わず呟いてしまった。

 絶対に口にしてはならない禁断の言葉を。

 耳をつんざく、まるで大量の爆竹が一斉に鳴ったような音がした。

 その音で我に返った上条は、両手を振り回して否定する。

「いや、違う、そういうんじゃねえんだ! 決して美琴様の胸が小さいといったのではなく、なんというかこう、布地が少ないなーって意味でいっただけでして」

 弁明する上条に美琴は優しく微笑む。ただし目はまったく笑っておらず、絶対零度の冷たさを宿している。まとう大量の電撃が美琴の怒りを如実に表していた。

「な、なあ、インデックスもほら、なんとかいってやってくれよ」

 今は魔法少女の格好をしているが、一応慈悲深いはずのシスターさんに助けを求めた。しかし彼女は歯を凄まじい勢いで鳴らし、今にも上条に食らいつこうとしている。

 魔法要らずの粉砕(むろん頭蓋骨を)少女。

 妙なキャッチフレーズが浮かび、この世に神もシスターもいないことを知った上条であった。……本人の自業自得であるが。

「ねえ、当麻。私、改装したばかりのセブンミストを臨時休業にしたくないの」

 わかってるわよね、アンタが身体で受け止めんのよ? と言外に含めながら右手で電撃の槍を形成する。

「いやいや待て待て美琴! そんなもん食らったら死んじまうって! 上条さん、右手以外はいたって普通の身体なんですよ?」

「なんべん叩きのめされても立ち上がってくる不死身っぷりを見てると、こう思えてくるのよねー。当麻はきっと、10億ボルトの電流を浴びてもぴんぴんしてるだろうなって」

「無理無理無理無理! 死にます! そんなもん浴びたら上条さん絶対死んじゃいます!」

「みこと、その後でとうまの頭蓋骨を砕いてもいいかな?」

「もちろんいいわよ。大丈夫、これはギャグだから。次の一コマで治るわよ」

「上条さんにギャグ漫画主人公補正は掛かってません! 頼むから漫画と現実の区別をつけて下さい!」 

 美琴の電撃で衆目を集める最中、懇切丁寧な土下座で命乞いをする。

 しかし美琴とインデックスはそんな上条の言葉も馬耳東風で、青筋を立てたにこやかな笑みで親指を下に向けた。

「ねえ、とうま。今更許されると思っているの?」

「乙女の心を傷つけた罪、どれだけ重いか思い知らせてあげる」

 セブンミストを、店内にいる人を守るため、乙女の怒りを身体一つで受け止める上条の悲鳴が店内にこだました。

 一度ならず二度も救ってみせた上条は、まさに主人公(ヒーロー)そのものであった。

 例え怒りを買った理由が男として失格の、最低発言だったとしても。

「んぎゃあああああ! し、しし、しびれ、これむ、りがああああ!」

「ほらほら、電圧あげちゃうわよー♪」

 そんな最低な主人公を守ってみせると誓ったヒロインは、嗜虐的な笑みを浮かべ電撃を浴びせていた。
 
 
 


  
 上条はあれから二人にさんざんに痛めつけられ、ぼろ雑巾のように床に転がっていた。

 人体に悪影響を及ばさず、しかし最大限に痛みを与える電撃を浴びせに浴びせた美琴は、初めて上条に能力が通用した喜びからか、実に晴れやかな顔で額の汗を拭った。

 上条の頭を囓り続けたインデックスも、満足げな顔で歯に絡まっていた髪を吐き捨てる。

 ……このシスター、美琴達と出会ってからどんどんガラが悪くなっているような気がする。

「当麻―、生きてる?」

 すでに元の常盤台の制服に着替えた美琴が、上条の背をつつきながら訊ねる。しかしぴくりとも動かない。手加減はしたので生きてはいるが、さすがに一コマで復活するのは無理のようだ。

 ちょっとやりすぎたかなーと頬を掻きつつ、どうしたものかと考えていると隣からお腹が鳴る音がした。

 同じくシスター服に着替え終わっているインデックスが、お腹を押さえしょんぼりした顔で美琴に訴える。

「みことー、お腹空いたよー。そろそろ昼ごはんにしよう」

「……アンタねえ、まだ十二時前で朝さんざん食べたくせに、もうお腹空いたの? ゲコ太のお医者さんじゃないけど、私もアンタの胃袋がどうなってるのか気になるわ」

 呆れながらも基本的にインデックスには甘い美琴は、せがまれると断ることができない。

「しょうがないわねえ。それじゃあどこかで食事にしましょうか」

 ご飯ご飯とはしゃぐインデックスとともに、上条の両脇を抱えて引きずるように、美琴はセブンミストを後にした。

 当初の目的だったはずの上条の私服を買うことも忘れて。

 足が地面に擦りつけられる振動に呻きながらも、「ふ、不幸だぁ……」と上条がいっているが、二人の少女はまったく聞いていなかった。






 とあるハンバーガーのチェーン店にて。
 

 夏休みということもあってか、店内は客で満員であった。近くの喫茶店はまだ空いている席があったのだが、ツインテールの客が何事かを絶叫していて、それが怖くて新しい客が誰も入ろうと思わなかったのも一因であろう。

 席はどこも満席で、相席したり順番を待つ客も見られる。

 いや、一つだけ空いている席があった。

 四人掛けの席なのに、たった一人で食事をしている少女がいた。

 しかし誰もがそこに空席などないと思っているかのようにスルーしている。それどころか少女を視界に入れた瞬間、何か見てはいけないものを見たかのように目を逸らしてしまう。

 少女の顔がそうせざるを得ない造りをしている、という訳ではない。長く艶やかな黒髪と純大和撫子といった美しい顔立ちは、むしろ見惚れてもいいくらいだ。

 では何故、少女と相席をしようとする者がいないのか。原因は少女の格好にあった。
 彼女はいったいどういう訳か、巫女服を着ていた。

 ここが神社であったのならばなんの問題もなかった。しかしここは街中で、しかもファーストフードのチェーン店である。例え彼女が本職の巫女さんであっても、これが私服であるはずもないのに。

 とにもかくにも日常の背景に留めるには、少女はあまりにも浮いていた。

 その浮きっぷりに更に拍車をかけるように、少女は山盛りになったハンバーガーを次々と食べている。巫女さんがジャンクフードを食す光景は、なんというか異様だった。

 大食らいなのかと思いきや、彼女の顔は真っ青だった。時折苦しそうに口元に手を当てては、次のハンバーガーを無理やり口に詰め込んでいる。一種の精神修行にも見えなくもない。

 周囲から圧倒的存在感で浮きまくっている少女は、気管に入ったのかむせた。涙目で何度も咳き込んだ後、抑揚のない声で力なくいう。

「……調子にのって。頼みすぎた」

 そのまま倒れこみたい衝動を抑え、少女は未だ大量に残っているハンバーガーに手をかける。その執念がどこからくるのだろうか。

 そんなリアルフードファイトを繰り広げる巫女の少女と、上条達が出会うのは少女が全身全霊を掛けてハンバーガーを完食した五分後だった。




































 まず初めに更新が遅れて、皆さん申し訳ありませんでした。
 部活の総会やレポートなどリアルでやらなくてはならない作業が多すぎて、SSを書く時間がありませんでした。本当に申し訳ないです。
 幸いにもテストはなく長期休業に入ったので、今後は更新が大幅に遅れることはないと思います。ただ休みといっても就活情報を集めたり、登校用の原稿を書いたりするので、極端に更新が早くなることはないです。
 その代わりといってはなんですが、番外編を書いてみようかなと思っています。
 具体的には物語から十年後、未だに上琴の世話になっているインデックスの日常を描く「とある一家の独身貴族(パラサイトシングル)」というネタな話とか、打ち止めの事件を振り返りながら一方さんが語る、上条当麻という男についてなど真面目な話とか。
 何を書くかは決めてませんが、いろいろ考えてますので楽しみにしていて下さい。

 さて、十四話の内容についてですが、姫神がようやく登場しました。フードファイトしている姫神を書きたくなったので、予告通りに上条一家との遭遇まで書けませんでしたが……
 初めの方はある意味、姫神が活躍する機会を用意するつもりです。
 そして原作よりも早く生じたコスプレイベントですが、結果がこうなってしまったのは風斬との戦闘力の差のせいでしょう(あえて何のとはいわない)。





 次回、今度こそ上条一家と姫神の遭遇編です。



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