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No.17768の一覧
[0] とあるヒロインの御坂美琴【禁書目録再構成】 [とある文芸部員](2010/04/01 00:08)
[1] 第一話(禁書目録編プロローグ)[とある文芸部員](2010/05/15 00:59)
[2] 第二話[とある文芸部員](2010/04/01 00:13)
[3] 第三話[とある文芸部員](2010/04/03 02:57)
[4] 第四話[とある文芸部員](2010/06/18 22:05)
[5] 第五話[とある文芸部員](2010/04/06 17:11)
[6] 第六話[とある文芸部員](2010/04/16 01:36)
[7] 第七話[とある文芸部員](2010/04/16 01:51)
[8] 第八話(禁書目録編完結)[とある文芸部員](2010/05/15 01:00)
[9] 第九話(吸血殺し編プロローグ)[とある文芸部員](2010/05/27 19:59)
[10] 第十話[とある文芸部員](2010/06/09 19:39)
[11] 第十一話[とある文芸部員](2010/06/09 19:48)
[12] 第十二話[とある文芸部員](2010/07/22 18:41)
[13] 第十三話[とある文芸部員](2010/07/22 18:42)
[14] 第十四話[とある文芸部員](2010/08/06 01:51)
[15] 第十五話[とある文芸部員](2010/08/06 02:00)
[16] 第十六話[とある文芸部員](2010/08/24 23:40)
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[17768] 第十話
Name: とある文芸部員◆b391eec1 ID:ae4c2439 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/09 19:39
 上条当麻は大きな問題を抱えていた。

 それは個人の力ではどうすることも出来ず、誰かの助けなしに解決できない問題だ。

 しかし世の中には薄情な人間しか存在しないのか、みなことごとく上条の懇願を断り、結果上条はリストラされたサラリーマンの中年よろしく、ベンチで黄昏れていた。

 ちなみにその問題とはインデックスの保護ではない。

 病院で美琴に話した通り、小萌先生のもとで元気に暮らしている。

 ところどころ嘘を交えながら事情を説明すると、にこやかに「いいですよー、上条ちゃん」とあっさり了承してくれた時は、何度頭を下げても感謝の念を表せなかったほどだ。

「いつもいつも女の子絡みの厄介事を抱え込んでいるので、先生すっかりなれちゃいましたよー」

 余計な一言を付け足された瞬間、感謝の念が半減してしまったが。

 だがインデックスは当初「やだやだ! とうまと一緒のほうがいいんだよ!」と拒否をしていた。

「上条ちゃん、モテモテですねー」

 にこやかながらも含みのある笑みに、上条は頬をひくつかせながらも、どうにかインデックスを説得しようと努力した。

 結局はインデックスに現実というものを本当の意味で見せつけ、しぶしぶ了承させた。

 さすがにあの惨状を見せられれば、さしものインデックスも黙らざるをえなかった。

 こうして一時しのぎだが、とりあえずインデックスの保護の件を片付けたのだが、

「うだー、やっと全部片付いた。上条さんはもう疲れました。しばらく休みます。ゴロゴロします」

 といって自室でくつろぐ訳にもいかなかった。

 そんなことをしている暇はなかった。

 インデックスに見せつけた現実が、上条に重くのしかかっていた。

 自室でくつろぐ? そんなことできるはずがない。


 何故ならば、そもそも自分の家がないからだ。


 学生寮はあの事件で、美琴とインデックスによって滅茶苦茶にされていた。ステイルや神裂も少なからず荷担していたが、この二人に較べれば可愛いものだろう。

 電化製品をことごとく破壊したり、超電磁砲で壁に大穴空けたり、ケーキナイフを差し込んだみたいに学生寮を光の柱で切断したり……考えるだけで頭が痛くなる。人払いの術のおかげで人的被害がなかったことだけが唯一の救いだろう。

 特に騒動の中心になった上条宅は、もはや原型をとどめていないほど荒れに荒れ、とても人が住める環境ではなくなっていた。

 キャッシュカードが無事だったことだけは、日頃の不幸を鑑みるに奇蹟といっても過言ではなかったが、家具や生活用品なども大多数のものが破損し、使い物にならなくなった。
 
 これだけなら、上条も追い詰められることはなかった。

 部屋は滅茶苦茶になったが、寝泊まりだけならバスタブでも可能であり、赤貧生活になるが家具やらなんやらはまた買えばいい。電化製品もありがたいことに美琴が弁償してくれる予定であった訳であるし。

 しかし持ち前の不幸スキルが、こういう時に限っていかんなく発揮されてしまった。

 始めにいっておくと、上条は自室を含めた学生寮の破壊には一切関与していない。

 そのはずなのに、何故か寮の管理人にこれら全てが上条によるものだと勘違いされ、日頃から不幸による問題を起こしていたことも加味された結果、怒り狂う管理人に学生寮から追い出されてしまったのである。

 部屋が直るまでではない。正真正銘、学生寮から強制退居させられたのである。

 事件に荷担していたのは事実であった訳ではあるが、この仕打ちはあまりにもむごい。

 学校側からはどうせいつもの不幸の結果だろうと判断され、この不祥事で特に罰せられなかったことはよかったが、追い出された学生寮を見上げ、密かに涙することをとめることはできなかった。

 しかし、ここからが本当の不幸の始まりだった。

 何件も不動産屋を回った上条ではあるが、物件を見せて貰うどころか来た瞬間に断られた。それどころか疫病神扱いされ塩をまかれたこともあった。

 どうやら不動産屋のブラックリストに、上条当麻の名が載ってしまったらしい。

「お、俺もとうとう犯罪者扱いか? A級戦犯ですか? なんにも悪いことはしてねえのに。不幸だー!」

 道端でそう叫んでみても、道行く人に不審な目を向けられるばかりであった。

 それでも諦めずに不動産を回ろうとし、とりあえずは一時的に友人の家に泊めてもらおうとしたが、

「悪いなーかみやん、管理人から泊めさせんなっていわれてるにゃー」

「フラグ男は泊まらせへんでー! 下宿先の女の子に旗はあげさせへん!」

 などと全て断られてきた。

 本当に、全く持って薄情な人間ばかりであった。

 仕方なく安ホテルに泊まっていた上条であったが、通算何度目であろうか財布を落としてしまった。しばらくの軍資金にとお金をおろしたばかりなので、通帳の残高もゼロである。

 昨日は橋の下で一夜を明かした。その辺で拾ったボロボロのタオルケットに包まって眠ろうとしたが、あまりの切なさにろくに眠れはしなかった。

 そうした要因が重なり合った結果、上条は今、ただただベンチでうなだれることしかできなかった。

 夕日が辺りを優しく照らしているが、上条の心までは癒してくれない。上条のいる辺りだけ、夜が来ているような暗さだった。

「……ははは、人間って本当に不幸なら、不幸だーっていう気力すらわかないんですねー。うは、うははは……」

 乾いた笑い声をあげた後、お腹の虫がグーと鳴いた。

「もう上条さんは限界です……朝からなんにも食べてません。もう何日もまともに休んでません。つまりなにがいいたいって不こ(グウウ)……腹へった」

 本当に不幸とすらいえなくなり、涙がほろりと零れる。

 散々不幸な目にあってきた上条ではあったが、食うものどころか住む場所すらない不幸は初めてだった。

 もはや立ち上がる気力もなく、上条はベンチで頭を抱えるばかりであった。

「ん、んん! ア、アンタ、こんなところでなにしてんの?」

 誰かがなにかをいっている。しかし疲れきった上条の耳には入ってこない。

「ちょ、ちょっと聞いてる? 返事くらいしなさいよ」

 上条は知っている人間の声が聞こえた気がしたが、疲れからくる幻聴だと切って捨てた。

「聞けっていってんでしょうが無視すんなやコルァーー!」

 幻聴とは思えない大声が聞こえたと思った瞬間、バチバチという音が鳴り電撃が飛んできた。慌てて立ち上がり、右手でかき消す。

「うわっ! な、なんだなんだ? いきなり攻撃するなんて……まさかインデックスを狙う魔術師か?」

「アンタなにボケてんのよ。さっきから声かけてたでしょうが。なんでいつもいつも気づかないのよ」

 このバカとつけ加えながら、美琴が苛立たしげな表情で立っていた。

「なんだ、ビリビリ中学生か」

「だから毎回毎回、ビリビリいうなっていってんでしょうが!」

「悪いな、今はお前に構っている余裕はないんだ。今日のところは勘弁してくれ」

「……アンタ、人をバカにしたあげくに帰れってか? どれだけ人をバカにすれば済むのよ!」

 美琴がわめくが、吐かれた言葉は上条の耳の右から左へと抜けていった。普段ならここまでおざなりな対応はとらないが、今は誰であろうとまともに相手にする気力がない。

 そんな仲が良くなる前みたいな上条の態度は、美琴の怒りに燃料を注ぎ込むばかりであった。

 散々に上条への文句やら不満やらをぶちまけられ、どんどん気力が削られていく。

 上条は心なしかへたれているツンツン頭を、思いっきりかき回した後、仕方がないので美琴の話を聞くことにした。

「ったく、仕方ねえなあ。……んで、わざわざ電撃まで飛ばしてなんの用だ? まさかむしゃくしゃしてるのでやった、今も反省していない、なんてことはねえよな」

 先ほど電撃を打ち消した右手をぶらつかせながら、問いかける。

 すると美琴はさっきまでの威勢はどこへやら、急に視線を泳がせた。

「えーと、その、ね。なんていうか――」

 不明瞭な言葉ばかり呟く美琴に、上条は訝しげな顔をする。よく見ると若干頬が赤く染まっていたのだが、上条は全く気づいていない。

「なんていうか――そう! アンタが元気にしてるか気になっただけよ!」

 とってつけたような言い方だが、脳に栄養が回っていない上条は言葉そのままの意味で捉え、素直に返答する。

「見てわかるだろ? 上条さんは今、とっても疲れてます。元気なんて欠片もございません」

「ふ、ふーん。そっか。んじゃあ、どうして元気がないの?」

「それはもう、聞くも涙語るも涙の出来事があってなあ。具体的にいうと……美琴やインデックスのせい(グウゥ)だー……」

 本当は怒鳴ってやりたい気持ちもあったのだが、腹の虫には勝てなかった。文句をまくしたてる気力もなく項垂れる。

「私やインデックスのせいって、アンタの学生寮がめちゃくちゃにされたこと?」

「……そうだ。お前らのせいで俺は寮殺し(ホームブレイカー)というどこのテロリストですかっていう不名誉な称号を与えられ、寮から追い出されたあげく、不動産屋に戦犯扱いされて今も住む家がねえんだよ。お前にわかるか? 『寮殺しが来たぞ! 早く店を閉めろ!』『帰れ! この寮殺し!』とかいわれる切なさが。やるせなさが」

 力なく自身の不幸を語る上条に、美琴は真剣な表情を取り繕う。だが、よく見ると口元が弛んでいた。 

「ああ、やっぱりそうなったわね――計画通り」

 いつかの妹のような台詞をいい、小さくガッツポーズをとった。

 さすがに美琴の異変に気づいた上条は、顔を上げて美琴を見つめた。

「なあ美琴。今変なこといわなかったか?」

「別に。なんにも変なこといってないわよ。アンタの聞き間違いじゃない?」
 
「そうかあ? いや、そうなのか。……ダメだ、そう考えると本格的にやばい感じがしてきた」

 思考をはっきりさせようと頭を振るうが、眩暈がして逆効果だった。小さく唸りながら額を押さえる。

「大丈夫?」

 美琴が気遣わしげに上条の顔をのぞき込んだ。まるで恋人のような距離感に慌てて頭を下げようとするが、眩暈のせいでうまくいかない。

「うう……上条さんは本格的にダメそうです」

「んー、確かに顔色悪いわね。……これならもっと早くにすればよかった」

 なにやら気になる言葉があったが、空腹と疲労で世界が軽く回っている上条には聞こえていない。頭の中で暖かい寝床と食べ物が飛び回っている。

 もう我慢できない。

 喉を鳴らし、上条は最終手段に打って出ることにした。

「なあ、美琴。悪いんだけど金貸してくれないか? またも全財産を落としちまってな。バイトしてすぐ返しますから、頼む。ってか、お願いします神様仏様美琴様。貸していただけるのでしたら、不肖、この上条何だって致します」

 上条は頭をこれでもかというくらい深く下げた。

 中学生にたかる高校生。

 生物は自身の生存の為には、何だって出来るという一例がここにあった。

 美琴は以前にも上条に金を貸したことがあるのだが、かつてないほどの切羽詰まった態度にうろたえた。

「ちょ、ちょっと、いいから頭上げなさいよ。ご飯くらい私が食べさせてあげるから」

「美琴センセー、問題は食事だけじゃないんです。上条さんはもう橋の下で眠るのは嫌なんです。あったかい寝床で寝たいんです。頼みますから、ホテルに泊まるお金も貸して下さい」

 そろそろ土下座へと移行しかねない勢いで、更に頭を下げる。

 そんな上条を見て美琴が抱いた感情は、保護欲をそそる上条への慈愛でも、まして情けない男と切り捨てる非情でもない。

 美琴の目は、まるで長年待ち続けた獲物が罠にかかったように、ぎらついた光を放っていた。


 来た! 来た来た来た、来た!


 上条が自分を見てないことをいいことに、美琴は小さくガッツポーズをとった。

 練りに練った作戦を実行する、今がその時だ。

 わははははは、とお嬢様とは思えない山賊のような笑い声を上げたい気分を我慢して、美琴は上条の肩へと手を置く。

 興奮と緊張から微かに手が震える。それを自覚すると、途端に鼓動が早くなった。

 喉を鳴らし、美琴は上条にいってみせる。


「それだったら……わ、私がアンタを泊めてあげてもいいわよ」


 瞬間、上条の身体が凍った。

 美琴をぎこちなく見上げ、その顔が真っ赤に染まっているのを確認し、再度凍る。美琴も硬直したまま動かない。

 夏真っ盛りなのに、まるで氷像が二体立っているかのようだった。

 上条は美琴のいった言葉の真意を読み取ろうとした。何度も何度も反芻し、ようやく口にできたものは、たった一つ。

「………………はあ?」

 わけがわからないという、疑問だった。

「お前、なにいってんだ? 無理に決まってるだろ。女子寮にお泊まりなんて、そんなに上条さんを犯罪者にしたいんですか? ……いや、その前に白井に殺される。確実に殺られる。アイツなら嬉々として、いやむしろ鬼気として俺の息の根をとめにくるぞ」

 心臓に直接金属矢を撃ち込まれる自分を想像してみる。空の胃袋がきりきりと痛んだ。

「なにいってんの。アンタを女子寮に泊まらせる訳ないでしょ。私、アンタも黒子も犯罪者にしたくないし」

「じゃあ、ホテルを予約するから、そこに泊まらせてあげるって意味か? そんなめんどくせえまねしなくても、お金さえ貸してくれたら、後は自分でなんとかできるぞ」

「それも不正解」

「じゃあ答えはなんだよ?」 

 首を捻る上条に、美琴はわざとらしく咳払いをした。

 少しでも気を抜くと喉が震えそうになる。しかし美琴は、泳ぐ目線をどうにか上条に合わせた。

「だ、だから、私の家に泊まらせてあげるっていってんのよ」

「いや、だから女子寮は無理ってお前もいっただろうが」

「大丈夫だから。全然問題ないから」

「いや、問題大ありだろ。俺はまだ死にたくない」

「黒子ならいないわよ。代わりに別の子がいるけど」

「もっと問題だろ! 見も知らない男がいきなり泊まりに来たら、その子めちゃくちゃ困るだろうが!」

「それだって大丈夫よ。その子はアンタのこと知っているし、むしろ望むところじゃないの?」

「……み、美琴さん? 何故に青筋を立てていらっしゃるのでせうか?」

「いや、ねえ。私がこんだけ努力してるっていうのに、このボンクラときたら、せっせと旗揚げにいそしんでくれちゃってまあ……」

「こ、怖っ! ビリビリさせながら凄むなよ」

 美琴から距離をとろうとする上条を見て、ようやく美琴は我に返った。電撃を消し、頬を軽く叩いて気を持ち直す。

 またも緊張感やら羞恥心やらで上手く切り出せなくなるが、美琴は勝負の決め時を見誤る女ではない。

 ちぐはぐな会話に終止符を打つべく、美琴は自分の持てる勇気を最大限に使ってとった行動を告白した。

 これからの二人の関係を、より先に進めるために。

 上条当麻を射とめるために。


「あのね、私、実は今日――」 

 
 





 白井黒子の機嫌はすこぶる悪かった。

 風紀委員(ジャッジメント)の仕事を終え、自室に戻ろうとしている最中なのだが、その足取りは乱暴なものだった。

 もう何日も休むことなく風紀委員の仕事をしているせいで、せっかくの夏休みなのに愛しのお姉様との時間を作れないせいだ。

 今日も夏休みに浮かれた馬鹿な学生が騒ぎを起こしたので、ドロップキックをかましてストレスを発散させようとしたが、憂さは晴れないままだ。

 固法から大量の書類仕事を課せられ、処理するのに夕方近くまでかかってしまったことが、眉間の皺を更に深くさせていた。

 しかし黒子の不機嫌の大半を占めているのは、別の理由だった。

 ここ最近、美琴の様子はおかしかった。

 まるで誰かを想うように顔を赤らめぼんやりしていると思ったら、急に慌てたように虚空に手を振ったり、ベッドで眠る美琴に夜這いをかけようとしたら、例の殿方の名前を呼んだり。

 一週間ほど前に連絡もなしに無断外泊をして、しかも入院して帰ってきた時からだ。

 怪我一つなかったことだけが唯一の救いであったが、どう考えてもあの類人猿もとい上条が関わっていることは疑いようがない。その日一緒にいたのを、黒子はしっかり目撃している。

 しかし美琴は、事情を何度問いただしても話してくれなかった。

「……まったく、あの時きっちりと、息の根をとめてさしあげればよかったですわ」

 黒子は自分の能力不足を嘆いたが、上条からすれば十分に寿命を縮められる出来事であった。

 軋むはずのない床をみしみしといわせながら、黒子は寮内を進む。その度にツインテールが乱暴に跳ね回った。

 学園都市に残っている寮生は、そんな黒子にどん引きだった。

「だいたいお姉様も、なぜあの殿方に執着するのでしょうか。まあ確かに、そこらのお下品な男性よりもかは幾分ましですけれども……」

 事件解決に協力してもらったことを思い返すが、すぐさま黒子は頭を振った。

「いえ、やはりありえませんわっ! あの猿以上人間以下の類人猿にお姉様をお任せすることなんてありえませんの! お姉様にはこの黒子がお似合いですのに。なのにお姉様ときたら。……ああっ! お姉様ぁ!」

 無体な美琴の仕打ちを思い出し、身もだえる。最近上条を庇うために電撃を放つ割合が多くなってきたことが、黒子の切なさに拍車をかけていた。

 寮生は不気味に思い、みな自室へと引っ込んでいったのだが、美琴のことで頭がいっぱいな黒子は気づいていない。

 黒子はひとしきり悶えた後、顔を凛々しく引き締めた。

「わたくし、決めましたわ」

 握り拳を作り、慎ましやかな胸の前にやる。

「今日こそお姉様に、真の愛に気づいていただきますの。あの殿方よりも、わたくしの方が数百倍お姉様を愛しているということを教えて差し上げますわ。全身あますことなく、この身体を使って」

 ふひひひひひ、と先ほどの凛々しい表情はどこへやら、お嬢様どころか女とすら思えない、いやらしい笑みを浮かべた。

「ささささあ! お待ちになって下さいね、お姉様~!」

 黒子は軽やかに、跳ぶように自室の前まで歩んだ。

「お姉様~! あなたの黒子、ただ今戻りましたぁ!」

 ドバンッという効果音が似合う勢いでドアを空けた。

 普段ならば「黒子、アンタもっと静かに入りなさい!」など非難の声が返ってくるはずなのだが、室内は静かなものだった。

「お姉様? いらっしゃらないのですか……………………って、ええ!」

 それだけじゃなかった。部屋には美琴どころか、美琴の私物すら一切残らず存在してなかった。

「お、お姉様? お姉様―――――!!」

 あまりにも信じられない事態に、黒子は悲鳴を上げた。

「な、ななななななにが起こったのですの? ま、まさか誘拐されたのでは……でも、レベル5のお姉様をどうにか出来る人間がいるとは思えませんし。では家出! って、ありえませんわね。仮に真実だとしても、家具一式を持ち出す訳ありませんもの」

 あれでもない、これでもないと言葉をまくし立て、一人でやいのやいのと騒ぐ。

 その形相は必死そのもので、血走った目が恐ろしかった。

 しかしいくら考えても黒子はこの異常事態の原因が思い当たることがなく、次第に「お姉さま!」と叫ぶばかりとなった。

「白井、うるさいぞ! 普段から寮内で騒ぐなと、あれほどいっているというのに。お前はまだ懲りんのか!」

 寮監が黒子の悲鳴を掻き消すような怒声を上げて、黒子の自室に飛び込んできた。

 少しでも理性が残っているのであれば、寮監の制裁が発動する前に言い訳らしきものを連ね、結局は首を横に折られるのであるが、今の黒子に冷静さの欠片もない。

「りゅ、りょりょりょりょ寮監様っ! お、お姉様が! お姉様が! 誘拐? い、いませんの! 家具ごと全部、なにもかもお姉さま、消えて、家出? わたくしにはなにも知らされずっ! いませんのーーーー!」

 もはや言語として成り立っていない言葉の羅列を上げ、寮監の足もとに縋りつく。

 いつもとは異なる反応に、寮監は訝しげに眉を顰めるが、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった黒子の顔を見て、ため息をついてハンカチを差し出した。

「わかった。わかったからまず顔を拭け」

 黒子はハンカチを受け取るやいなや、鼻を強くかんだ。まだしゃくりあげながらもハンカチを返そうとするが、寮監は全力で拒否した。

 言葉の端から黒子が狂乱した理由はなんとなく察しているが、落ち着かせる意味合いもこめて寮監は問いかける。

「それで、お前が泣き叫ぶ理由はなんだ?」

「で、ですから、お姉様がいませんの! 家具や私物まで全部まとめて、いないんですの!」

 やはり理由はそれかと、寮監は今更なことをいう黒子に白けた目線を送った。

「なんだ、そんなことか。当たり前だろう」

「な、なにをおっしゃるのです! お姉様がいなくなるなんて、常盤台としても大問題ですのよ! 寮監様だって、責任をとらされるかもしれませんのに」

「なにをいっている? お前は承知していたのではないのか?」

「……承知? いったいなんのお話ですの?」

「まさか白井、聞いていなかったのか?」

 質問に質問で返す寮監に、事情を知らない黒子は混乱した。自身の状態を棚に上げ、まさかあまりの異常事態に寮監が錯乱したのではと考えた。

 しかし事態は、黒子の予測の斜め上を遥かに超えていた。

「ほんの一週間ほど前、御坂から引越しする旨を聞いたのだが、知らなかったのかといっている」

「はい? い、今なんて……」

 とても信じられない単語を混じっていたことに、黒子が激しく動揺するが、寮監は構わず話を続ける。

「なにやら学園都市の外部から、御坂の知りあいの子が引っ越して来てな。その子はどうも常識に疎いらしく、心配だから別に部屋を借りてその子と一緒に住むそうだ。たしかインデックスといったか? まあ、外国人で閉鎖的な環境にいたシスターだから、日本の常識を知らないのも無理ないだろう」

「う、うええ! ま、まさか寮監様、それでお姉様に退寮許可をお出しになったとでも?」

 信じたくない推測であった。愛しのお姉様が自分を捨てて、他の女と住むなんてこと。

 違うという答えを求め、黒子はありもしない希望にどうにか縋ろうとする。

 しかし、ありもしないものは、やはりありはしないのだ。

「ああ、そうだ。場所も学びの園のすぐ近くだし、問題は特になかったからな。昼ごろに御坂は、私に今まで世話になった礼を述べて出て行ったぞ」

 希望は目の前で、粉々に砕け散った。

 砕け散った欠片に、今までのお姉様との思い出が映っては消えていく。

 黒子と自分を叱る声。

 黒子と自分にあきれる声。

 黒子と自分に笑いかける声。

 美琴が自分の名を呼ぶ声だけが反芻される。

 しかしそれは全て過去のものとなり、これから永遠に消えてなくなるような錯覚がした。

 学校が一緒であるし、美琴が黒子を見捨てるはずもないのだが、絶望に染まった黒子にはそれも効果がない。

 頭を抱え、目をこれでもかと見開き、黒子はただ一言、


「お、お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 と絶叫し、意識を手放した。
 


































 同棲イベントフラグ、立ちました。
 これは吸血殺し編なのかと首を傾げたくなるような事態に。
 美琴センセーの猛攻はとまる様子がありません。
 オチ担当の黒子もこのままで終わるとは到底思えないですねw
 
 今週の土日に新入生歓迎合宿に行ってきます。
 新入生がたくさん入ってくれて、正直一安心です。
 しかし現部員よりも新入部員の方が合宿参加者が多いなんて……
 どうしてこうなった?


 次回はあの人が登場します。


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