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No.17694の一覧
[0] 聖闘士星矢~ANOTHER DIMENSION海龍戦記~[水晶](2013/09/09 21:34)
[1] 第1話 シードラゴン(仮)の憂鬱[水晶](2011/03/19 11:59)
[2] 第2話 聖闘士の証!エクレウスの聖衣の巻[水晶](2011/03/19 12:00)
[3] 第3話 教皇の思惑の巻[水晶](2010/11/02 23:03)
[4] 第4話 シャイナの涙!誇りと敵意の巻[水晶](2010/04/23 01:43)
[5] 第5話 宿敵との再会!その名はカノン!の巻[水晶](2011/01/21 12:17)
[6] 第6話 乙女座のシャカ!謎多き男の巻[水晶](2010/04/23 01:48)
[7] 第7話 新生せよ!エクレウスの聖衣の巻[水晶](2010/04/23 01:50)
[8] 第8話 その力、何のためにの巻[水晶](2010/04/23 01:54)
[9] 第9話 狙われたセラフィナ!敵の名はギガスの巻[水晶](2010/04/23 01:56)
[10] 第10話 天翔疾駆!対決ギガス十将の巻[水晶](2010/04/23 01:59)
[11] 第11話 黄金結合!集結黄金聖闘士の巻[水晶](2010/04/23 02:01)
[12] 第12話 ぶつかり合う意思!の巻[水晶](2010/05/12 22:49)
[13] 第13話 海龍戦記外伝~幕間劇(インタールード)~[水晶](2010/07/30 11:26)
[14] 第14話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ黄金聖闘士(前編)の巻 8/25加筆修正[水晶](2011/01/22 12:34)
[15] 第15話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ黄金聖闘士(中編)の巻[水晶](2010/08/26 03:41)
[16] 第16話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ黄金聖闘士(後編)の巻  ※修正有[水晶](2010/09/29 02:51)
[17] 第17話 交差する道!の巻[水晶](2010/10/26 14:19)
[18] 第18話 千年の決着を!の巻[水晶](2010/11/19 01:58)
[19] 第19話 CHAPTHR 0 ~a desire~ 海龍戦記外伝1015 [水晶](2010/11/24 12:40)
[20] 第20話 魂の記憶!の巻[水晶](2010/12/02 18:09)
[21] 第21話 決着の時来る!の巻[水晶](2010/12/14 14:40)
[22] 第22話 邪悪の胎動!の巻[水晶](2011/01/18 21:12)
[23] 第23話 CHAPTHR 1 エピローグ ~シードラゴン(仮)の憂鬱2~[水晶](2011/03/19 11:58)
[24] 第24話 聖闘士星矢~海龍戦記~CHAPTER 2 ~GODDESS~ プロローグ[水晶](2011/02/02 19:22)
[25] 第25話 ペガサス星矢! の巻[水晶](2011/03/19 00:02)
[26] 第26話 新たなる戦いの幕開け! の巻[水晶](2011/05/29 14:24)
[27] 第27話 史上最大のバトル!その名はギャラクシアンウォーズ!の巻 6/18改訂[水晶](2011/06/20 14:30)
[28] 第28話 戦う理由!サガの願い、海斗の決意!の巻[水晶](2011/06/20 14:30)
[29] 第29話 忍び寄る影!その名は天雄星ガルーダのアイアコス!の巻[水晶](2011/07/22 01:53)
[30] 第30話 激突!海斗対アイアコスの巻[水晶](2011/09/06 03:26)
[31] 第31話 謎の襲撃者!黒い聖衣!の巻[水晶](2011/09/08 03:15)
[32] 第32話 奪われた黄金聖衣!の巻[水晶](2011/09/16 09:06)
[33] 第33話 男の意地!の巻[水晶](2011/09/27 03:09)
[34] 第34話 今なすべき事を!の巻[水晶](2011/11/05 03:00)
[37] 第35話 海龍の咆哮、氷原を舞う白鳥、そして天を貫く昇龍!の巻[水晶](2012/04/23 00:54)
[38] 第36話 飛べペガサス!星矢対ジャンゴ!の巻※2012/8/13修正[水晶](2012/08/13 00:58)
[39] 第37話 勝者と敗者の巻[水晶](2012/08/13 04:15)
[40] オマケ(ネタ記載あり)[水晶](2011/11/05 14:24)
[42] オマケ 38話Aパート(仮)[水晶](2012/09/24 23:39)
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[17694] 第37話 勝者と敗者の巻
Name: 水晶◆1e83bea5 ID:b52576b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/13 04:15
「――幼きアテナよ」

 そのアヴィドの言葉に星矢が、瞬が、氷河が沙織へと振り返り――

「えっ?」

「何!?」

「アテナ? 沙織お嬢さんが!?」

 海斗はアヴィドへと向かって踏み込んだ。
 パンと、大気が破裂した様な音が鳴り響き、星矢達が今度はその音へと向けて振り返る。
 カランと、射手座のマスクが地面に転がっていた。

「ククッ、アテナとの語らいを遮りいきなり殴り掛かって来るとは……。これは飼い犬の躾がなってないのではありませんかなアテナ?」

「そう言うお前は一体どこのどいつの飼い犬だ?」

 海斗の突き出された左拳をアヴィドが右手で受け止め、アヴィドの繰り出した左脚での蹴りを海斗が右手で止めていた。

「気配がおかしい。まるでギガス達の様な――冥府の気配が濃過ぎる」

「人の事をとやかく言えるのか? こうして触れ合った事で分ったが、貴様の魂の在り様も――随分とおかしいな」

「――ッ!?」

 アヴィドの言葉を受けた海斗は、ハッとした様子で慌てて左手を振り払い、その場から飛び退く。
 ピシリと音を立て、アヴィドの右手を覆った聖衣が砕け散り鮮血が舞う。しかし、アヴィドはそれを気にした様子も無く、興味深そうに海斗を眺めていた。

「ほう、強いな。単純な力比べでは勝てんか。だが――」

 右手から滴り落ちる血を振り払い、懐から葉巻を取り出すとそれを咥えてニヤリと笑う。

「積尸気を、鬼蒼炎の事を知りながら俺の間合いに踏み込んだのは浅慮だったな。この傷の代償に……」

 轟、と音を立てて海斗の左腕が蒼い炎に包まれて――

「貴様の魂を焼き尽くす」

 ――燃え上がる。

「海斗ッ!」

「――来るなッ!」

 飛び出そうとした瞬を制止すると、海斗は右手に生じさせた水球を燃え上がる左腕に叩きつけた。

「ぐぅッ!」

 焼け付く様な音と閃光が広がる。
 咄嗟の事で目を瞑った星矢達とは異なり、その全てを見ていたアヴィドが感嘆の声を漏らした。

「ほう、ただの水では決して消えぬ炎を消すとはな。貴様のその水、アレグレの息吹の様に浄化の力があるのか」

 聖衣に亀裂こそ走っていたが、アヴィドの言う通り海斗の左腕を包んでいた炎は完全に消え去っていた。

「だが、鬼蒼炎に包まれたその左腕はしばらく使い物にはなるまい?」

「……試してみるか?」

 不敵に笑ってみせながら、海斗が拳を握りしめた左手をアヴィドへ向けて突き出す。

「そっちこそ、呑気に葉巻なんぞ咥えちゃいるが、まともに吸えてはいないだろう?」

「フッ」

 口元を歪めてアヴィドが笑い、ビキシッと音を立てて聖衣の胸部に亀裂が走った。

「クククッ、ハハハハハハハッ! 面白いな貴様!! 奴からのくだらぬ雑事などさっさと済ませて、と思っていたが!
 俺は今どうしようもなく――貴様を叩き潰したくなったぞ! 完膚なきまでにな!!」

 アヴィドの身体から立ち昇る暗黒の小宇宙がその密度を増して周囲へと広がる。
 対峙する海斗からも青と白の螺旋を描いた小宇宙が立ち昇る。

「これが……海斗の本気の小宇宙か」

「くっ、二人とも……なんて攻撃的な小宇宙なんだ」

 対峙する二人を前にして星矢達は動けない。
 自分達が動く事で対峙する二人もまた動くのだろうという事が、理屈ではなく感覚として理解出来てしまったために。

「左手の使えない海斗と幾ばくかのダメージを抱えたあの男。下手をすれば、このまま千日戦争(ワンサウザンドウォーズ)に似た状況になるかも知れん」

 海斗の実力を知っている氷河には星矢や瞬ほどの驚きは無い。冷静に戦況を分析し千日戦争の可能性を示唆する。
 千日戦争(ワンサウザンドウォーズ)――実力の伯仲した黄金聖闘士同士が戦った際に陥ると言われる状況である。お互いに一歩も動けず、千日経っても結着が着かず対峙し続けるという意味だ。

 その場の誰もが固唾を飲んで見守る中、遂に状況が動いた。

 誰もが予期しなかった第三者の手によって。



 ――いつまで遊んでいるつもりだアヴィド。

 その女の声は、波動を伴って周囲へと広がった。
 物理的な圧力を感じさせる程の巨大な小宇宙の波だ。

「うわぁッ!」

「うぐぅ、な、何なんだ? この息苦しさと圧迫感は……」

 その影響により瞬が膝をつき、氷河が意識すら押し潰そうとする不可視の重圧に表情を歪める。

「さ、沙織お嬢さん、大丈夫か?」

「わ、わたしは大丈夫です星矢。でも……こ、この小宇宙は……」

 星矢と沙織は互いに支え合う様にしてどうにか立てている、といった状況だった。

「……チッ」

 つまらなそうにアヴィドが舌打ちをし、海斗との間合いを開けた。

「この感覚は――まるであの時の、ポルピュリオンと対峙した時の様な……」

 海斗もまた、目の前のアヴィドよりもこの異様な小宇宙の持主に脅威を感じ、その意識を向ける。
 いつしか空は黒雲に覆われ、周囲はまるで夜の中であるかの様に暗く。
 星矢達が高まる圧力に蹲る中で、海斗だけは厳しい表情のまま空を見上げていた。そして気付く。

「まさか――」

 かつて、これと似た感覚を自分に与えた存在を思い浮かべ――最悪の想像に思い至る。

「――神か!?」

 その瞬間、黒い空に雷鳴が鳴り響いた。

 黒い空を雷光が切り裂く。
 切り開かれたそこに、黄金に輝く何かがあった。
 林檎だ。黄金に輝く林檎が空に浮いていた。
 そこに人影が映っていた。それは、少女であった。

「な……何?」

 そこに映った少女の顔を見て、咄嗟に海斗はその視線をある人物へと向けていた。

 再び雷鳴が鳴り響く。続けて五回。
 一つ鳴る度に地面に巨大な石柱が突き立てられて行く。

「いや、柱じゃない!」

 瞬が叫ぶ。

「これは――石櫃だ!!」

 雷が――落ちた。

 石櫃が轟音と共に崩れ去り、そこからゆっくりと五つの人影が姿を現す。

 一人は矢を象った聖衣を纏った男。

「矢座(サジッタ)の魔矢」

 一人はその左腕に巨大な盾を備えた聖衣を纏った男。

「楯座(スキュータム)のヤン」

 一人は十字の刻印を施された聖衣を纏った男。

「南十字星(サザンクロス)クライスト」

 一人はその手に銀色に輝くハープを持った、かつては伝説の吟遊詩人とまで呼ばれた男。

「琴座(ライラ)オルフェウス」

 一人は最強の称号を与えられた古の聖闘士を名乗る男。

「オリオン星座のジャガー」

「……そんな、まさか……」

 石櫃から現れた五人の姿を、名を聞いて瞬が信じられないと頭を振った。

「……遥か古の戦いにおいて、アテナの聖闘士として勇名を馳せた伝説の闘士……」

 争乱の邪神との戦いで、常に先頭に立って戦い続けた勇者達の名だ。

「――違う、な」

 瞬の呟きに否定の声を上げたのはジャガーを名乗った男だった。

「我らはこうして今、此処にいる。そして、我らはアテナの聖闘士ではない。我らの神の名は――エリス」



「エリス様に忠誠を誓った幽闘士(ゴースト)よ」





 第37話





 エリスの幽闘士(ゴースト)。
 雷鳴と共に現れた五人の戦士。彼らは星矢達を一瞥すると――

「お迎えにまいりました――アテナ」

 王を迎える騎士の如く。戸惑いを見せる沙織を前にして、その場に膝をついた。

「我らが主――エリス様が貴女をお待ちです」

「エリ、ス……? まさか!?」

 ジャガーの言葉、エリスの名を聞いた沙織はハッとした様子で空に浮かぶ光を――黄金のリンゴへと目を向ける。
 生前、祖父城戸光政は幾つもの伝説や伝承、神話を幼い沙織に聞かせ続けてきた。

「……彗星レパルスの導きによって、争いの女神エリスが黄金のリンゴに姿を変えて蘇る……」

(この世を災いの世界にするために)

 その時、沙織の思考を打ち切らせるようにぐっと、肩にかけられた星矢の手に力がこもる。
 未だ足下のおぼつかない様子ではあったが、それでも背筋を伸ばして沙織を庇う様に立つ星矢の姿に、ほう、とゴースト達が笑みを浮かべた。

「大人しく我らと同行して頂けるのであれば何もいたしません。そう、貴女の大事な聖闘士達がそれ以上傷付く事もありますまい」

 ゴースト達が立ち上がり、先頭に立つジャガーが沙織へと向かって歩みを進める。

「くっ、この……!」

「お前では無理だ。下がっていろ星矢」

 そうはさせじと、身構えた星矢の前に立ち塞がる影があった。氷河だ。
 氷河の身体から立ち昇る小宇宙が、凍気に満ちた白の世界が星矢達を護る様に広がり、ゴースト達の“黒”を塗り潰す様に侵食する。

「エリス様の小宇宙の波動を受けながらも立つ、か。敵は――エクレウスとフェニックスだけかと思っていたが、これは認識を改める必要があるやもしれんな」

「ほざけ。貴様らが何者で、何を目的として沙織お嬢さんを狙うのかは知らん。だが、この黒くざわつく小宇宙を、その持ち主を放って置く事は出来ん。それだけは分る!」

 氷河の拳が白鳥座の軌跡を描き、闘志に満ちた小宇宙が白鳥のオーラとなって舞い上がる。
 動きをみせようとした背後のゴースト達を制したジャガーが「面白い」と笑う。

「受けよ我が氷の拳を! “ダイヤモンドダスト”ーーッ!!」





「……チッ。次から次へと」

 氷河とジャガーの戦いを前にして海斗が舌打ちを一つ。
 目の前には残る四人のゴーストが立ち塞がり行く手を阻んでいた。

「他のブロンズ共はともかくとして、貴様だけは別だ、エクレウス」

「このまま見逃すには貴様の力、あまりにも危険過ぎる」

 そう思うなら俺の邪魔をするな。
 ヤンとオルフェウスの言葉に対して喉元まで出かかった言葉を飲み込み、どうするかと海斗は思考する。
 ゴースト全員と戦い、勝つ。それだけで良ければどうとでも出来る自信はある。
 背後にいるアヴィドと戦い、勝つ。後先を考えなければ、これも何とかなると思っている。

(問題はこの状況か。この二つを同時に行い、なおかつ沙織達を護る、ってのは……)

 氷河には悪いが、海斗は氷河がジャガーを倒せるとは思っていない。氷河の戦闘力が白銀(シルバー)聖闘士に匹敵する事を知っていても、だ。
 ゴースト達から感じる小宇宙の強さから、その戦闘力をシルバーの中位から上位クラスに匹敵すると想定してなお、ジャガーのそれは四人を上回っている。
 黄金聖闘士が不在の時代の聖闘士であれば、最強の称号を与えられていた事にも納得出来た。

 いっその事、アナザーディメンションで諸共に吹き飛ばそうか。そんな事を考える。
 次空間を捻じ曲げて異次元の彼方へと敵を葬り去る双子座(ジェミニ)の秘技。
 異空間への扉を開き、敵を葬り去る海将軍シードラゴンの秘技ゴールデントライアングルとも通ずる部分の有る技である。

(案としては悪くない。悪くはないが、問題はその後だな)

 “千年前の自分”と“かつての自分”はそれを“道”として用いる程に制御しきっていたが、今の海斗には入口を開く事しか出来ず、出口を創り操作する程の制御力は無かった。

(石の中にいる、何て洒落にならん)

 その瞬間、思考の隙を狙ったかの様にゴーストの二人――魔矢とクライストが仕掛けた。

「狙った獲物は絶対に外さぬ死の狩人。それがこのサジッタの魔矢よ。くらえ! “ハンティングアローエキスプレス”!!」

 引き絞り放たれる矢の如く。突き出された魔矢の左拳から無数の小宇宙の矢が放たれる。そのビジョンはまさしく矢であった。

「“エンドセンテンス”!」

 迎撃の意識に反して咄嗟に動かぬ左腕。それに眉を顰めながら、海斗が光弾を放つ。
 ドガガガガッ!

「何っ!? ええぃっ!!」

 ぶつかり合い、打ち砕かれて行く小宇宙の矢。ならばと、更に勢いを増して放たれるハンティングアロー。
 しかし、その降りしきる矢の雨の尽くを打ち砕き、粉砕して、光弾が次々と魔矢へと襲い掛かる。

「だがっ! この楯座のヤンに、この最高の盾に通じるものかッ!!」

 魔矢の前に立ったヤンが、自身の星座の象徴とも言える左手の巨大な盾でもってエンドセンテンスの全て受け止める。しかし――

「い、勢いが……!? な、何だこの衝撃は! た、耐えきれ――ぐおおおおおーーっ!?」

「ヤン!? う、うわああーーっ!」

 レンガの壁に向けて撃ち出された機関銃の如く、瞬く間に巨大な盾が砕け散る。
 その勢いのままに、ヤンは背後に庇った魔矢を巻き込んで吹き飛ばされた。

「案ずるより産むが易し、ってか」

「魔矢! ヤン! おのれぇッ!!」

 吹き飛ばされた仲間の姿がクライストを吼えさせた。

「このクライストの拳は全てを凍らせる絶対の凍気の拳!」

 両腕を交差させ自身の星である南十字星を形作り必殺の拳を放つ。
 受けるか、躱すか。
 その判断を下すより速く、海斗は自身の身体に感じる違和感に気が付いた。
 何かに引っ張られている。視線を動かせば、オルフェウスが手にしたハープから幾つもの光が伸び、それが自分の身体に巻きついている事に気付く。

「君の動きは封じさせてもらった。このストリンガーの呪縛からは逃れられ――」

 逃れられない。そう続けようとして――オルフェウスは驚愕の表情を浮かべてその場から飛び退いた。それは直感に従っての行動であった。
 一条の閃光。そうとしかオルフェウスには見えなかった。
 切断されたストリンガー、弦が宙を舞い、大地が一刀の元に切り裂かれる。
 海斗の放った手刀による一閃。

 鍛えられし聖剣(エクスカリバー)には未だ至らず。しかし、聖剣である事に変わりなく。

「シュラ曰く、故にこの拳は“カリバーン”」

「な、何という……一撃……」

 オルフェウスの額から血が流れ、琴座の聖衣に一本の線が奔る。ガシャンと音を立て、その手から両断されたハープが地に落ちた。

 こうして拘束を切り払い、自由を取り戻した海斗にクライストの一撃が届く。
 十字の形に集束された凍気が海斗を襲う。
 ドシュオォオオオオ……!!
 強烈な凍気は瞬く間に海斗の姿を巨大な氷柱へと変えていく。

「“サザンクロスサンダーボルト”ーーッ!!」

 凍結した海斗へ向けてクライストが十字に交差させた手刀を叩き付けた。
 ガシャァアアアン!!
 氷柱の中央、海斗を中心として巨大な十字が刻み込まれ――爆砕した。

「フ、フフ、フハハハハハハーーッ!!」

 光り輝きながら周囲を舞い散る氷の結晶の中でクライストが笑う。
 己の勝利を信じて。

 四散する氷塊と共に吹き飛ばされながら。

 そう、確かに巨大な氷柱は砕かれた。爆砕した。
 その内側から。海斗の手によって。
 突き出された右手は掌底の型を成し、両足は大地に根を下ろす大樹の如く不動。
 最速の抜拳――牡牛座の黄金聖闘士アルデバランの必殺の拳“グレートホーン”、その変形である。
 海斗に向けて吹き付けられた凍気はグレートホーンの生み出した風の壁によって遮られていたのだ。

「こっちは“未来(さき)”に倒さなくちゃならない相手がいるんだ。“過去”相手に手間取っていられないんだよ」





 パァンと乾いた音が鳴り響く。
 次いで、ピシリと。耳障りな、細かな音が続く。

「あ、ああ……そんな!?」

「な、何だと? 氷河のダイヤモンドダストを片手で受け止めるなんて……」

 瞬と星矢の驚愕の声。それは呻きにも似ていた。
 ぽたりぽたりと赤い雫が地に落ちる。
 それを辿ればジャガーによって受け止められた氷河の右拳に辿り着く。

「む、むうおお……っ……」

「フフフッ」

 苦悶の表情を浮かべる氷河とは対照的にジャガーの顔には笑みが浮かんでいた。

「永久氷壁の中に封じられていたキグナスの聖衣か。我らが生きた時代にもそれを身に纏えた者は居なかった。
 青銅位の聖衣ではあったが、だからこそ、それを身に纏える者はどれ程の戦士であるのかと夢想したものよ。その点では期待以上であったな」

「くっ!」

 僅かではあったが氷河の拳を掴んでいたジャガーの手から力が抜ける。
 氷河は即座にジャガーの頭部目掛けて回し蹴りを放ち、その手を振りほどくと距離を取った。
 凍気に護られ高い防御性能を持ったキグナスの聖衣、その右手は氷河の血によって赤く染まり、聖衣は粉砕されていた。

「褒めてやるぞキグナス。このオレの右手を薄皮一枚とは言え凍りつかせたのだからな」

 無造作に振られたジャガーの右手から氷の破片が振り払われる。
 その手には、オリオン星座の聖衣には傷一つ見当たらない。

「さてアテナよ。もう一度問いましょう。大人しく我らに付いて来て頂けますか? 返答如何によっては――」

 ジャガーが氷河へと踏み込む。
 氷河の反応よりも速く、その拳が腹部へと突き刺さる。

「が……ぁ!?」

 身体をくの字に折り曲げて倒れ込みそうになる氷河。

「貴女の聖闘士が一人ずつ死ぬ事になる」

 その後頭部目掛けてジャガーの拳が振り下ろされる。

「氷河ぁッ!? これ以上はやらせない! “グレートキャプチュアー”!!」

 その一撃を止めたのは瞬。
 瞬の手から放たれたスクエアチェーンが振り下ろされたジャガーの拳ごとその身体を幾重にも縛り付ける。

「次はお前かアンドロメダ! だが、これしきの拘束などで――」

 一見して少女と見紛う瞬の容姿からは想像も出来ない程に強力な力――瞬の小宇宙を受けたアンドロメダの鎖が、ジャガーの身体を拘束した。まるで巨獣を締め上げるが如く。

「馬鹿な、何だこの力は!? この小宇宙は!? アンドロメダお前は!」

 氷河のダイヤモンドダストを受けてなお笑みすら浮かべていたジャガーが初めて見せた苦痛の表情。
 そして、二人のゴースト――魔矢とヤンが海斗によって倒された事を確認した瞬は、

「……命までは取りません。あなたも聖闘士であったのならば、その力を正しい事のために――」

 ジャガーに対して降伏を願った。

「敵であっても情けを掛ける、か。それ程の力を秘めながら、いや、力が有るからこそか? それとも本質的なものか」

 何を言われたのか分らない。一瞬その様な表情を見せた後、ジャガーは穏やかな表情を浮かべて笑みを見せた。
 それはアテナの聖闘士として地上の愛と平和のために戦った、真の聖闘士と呼ばれた男の顔であった。
 その表情に、理解を得られたのだと、瞬の警戒が僅かに緩む。

「……アンドロメダ」

 しかし、次いで放たれた言葉には一切の熱が無く。
 ジャガーの顔から表情が消えた。

「その甘さは戦士にとって侮辱以外の何物でもない。戦いを――オレを愚弄するなッ!!」

 これが、一輝が瞬に告げた言葉が現実となった瞬間であった。
 “その甘さがいつかお前の命取りになる”、と。

「ぬぅおおおおおおおおおおッ!!」

「そんなッ! チェーンが!?」

 咆哮にも似たジャガーの雄叫び。
 その身を拘束していたネビュラチェーンがまるで飴細工の様に粉々に砕け散り弾け飛ぶ。
 燃え上がる怒りと憎悪がジャガーの殺気を引き出してしまったのだ。

「真の聖闘士だと? そんな言葉などに意味は無い。お前はオレの何を知っている? オレの戦いを知っているのか?
 死の暗黒の中で人知れず忘れ去られて行く事の無念さが分るものか!」

 黒く燃え上がった小宇宙を身に纏いジャガーが跳ぶ。
 ジャガーから迸る殺意の小宇宙に満たされた空間がその姿を歪め――瞬達を銀河の中へと誘う。現実ではない。小宇宙が生み出すビジョンだ。
 しかし、その中にある瞬達には現実であった。足下にあるはずの大地の感覚が失せ、広大な銀河の中では自分の在る場所ですら掴めない。

 分る事はただ一つ。
 その銀河の中で一際異彩を放つ邪悪な彗星が自分目掛けて迫り来る事だった。



「後は――」

 立ち塞がった四人のゴースト全てを退け海斗が駆ける。
 狙いはジャガーだ。正しく言うなれば、ジャガーを排し沙織達の安全を確保する事。後顧の憂いなくアヴィドと一対一の状況を生みだす事にあった。
 その海斗の肩を、

「この場所は――良くないな」

 掴む者がいた。

「下らぬ邪魔が多過ぎる」

 海斗が振り向く。

「俺にも貴様にも、な」

 ニヤリと口元を歪めたアヴィドと海斗の目が合った。
 ぞわりと足下から這い上がる悪寒に、海斗は己の判断が過ちであったと痛感した。
 何よりも優先して倒すべきはこの男であったのだ、と。

 表すならば“怨”という音。浮かび上がった幾多の鬼火が海斗とアヴィドの周囲を覆い尽くす。

「続きは“向こう”でやろうか。あそこならば誰からも邪魔は入らん。例えエリスであっても、だ。今のアレにそこまでの力は戻っていないからな」

 宙に浮かぶ黄金のリンゴ――エリスの意思に向けられたアヴィドの視線。そこには確かな怒りがあった。憎悪があった。
 それは、対峙したていた海斗にすら向けられていなかった感情であった。

「さあ、行こうか。冥府の入り口“黄泉比良坂”へ」

 這い上がる悪寒が鬼火に照らされ黒い影となる。
 影は無数の人型となって海斗の身体にしがみ付き始めた。まるで地の底に引き摺り込む様に。亡者が天より垂らされた一本の蜘蛛の糸に群がるが如く。



「――“積尸気冥界波”」

 アヴィドと共に海斗の姿が消え去り――

「――“メガトンメテオクラッシュ”!!」

 自らを彗星と化したジャガーの一撃が大地を抉る。

 噴き上がる紅蓮の炎が大地を赤く染め上げていた。


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