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No.17694の一覧
[0] 聖闘士星矢~ANOTHER DIMENSION海龍戦記~[水晶](2013/09/09 21:34)
[1] 第1話 シードラゴン(仮)の憂鬱[水晶](2011/03/19 11:59)
[2] 第2話 聖闘士の証!エクレウスの聖衣の巻[水晶](2011/03/19 12:00)
[3] 第3話 教皇の思惑の巻[水晶](2010/11/02 23:03)
[4] 第4話 シャイナの涙!誇りと敵意の巻[水晶](2010/04/23 01:43)
[5] 第5話 宿敵との再会!その名はカノン!の巻[水晶](2011/01/21 12:17)
[6] 第6話 乙女座のシャカ!謎多き男の巻[水晶](2010/04/23 01:48)
[7] 第7話 新生せよ!エクレウスの聖衣の巻[水晶](2010/04/23 01:50)
[8] 第8話 その力、何のためにの巻[水晶](2010/04/23 01:54)
[9] 第9話 狙われたセラフィナ!敵の名はギガスの巻[水晶](2010/04/23 01:56)
[10] 第10話 天翔疾駆!対決ギガス十将の巻[水晶](2010/04/23 01:59)
[11] 第11話 黄金結合!集結黄金聖闘士の巻[水晶](2010/04/23 02:01)
[12] 第12話 ぶつかり合う意思!の巻[水晶](2010/05/12 22:49)
[13] 第13話 海龍戦記外伝~幕間劇(インタールード)~[水晶](2010/07/30 11:26)
[14] 第14話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ黄金聖闘士(前編)の巻 8/25加筆修正[水晶](2011/01/22 12:34)
[15] 第15話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ黄金聖闘士(中編)の巻[水晶](2010/08/26 03:41)
[16] 第16話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ黄金聖闘士(後編)の巻  ※修正有[水晶](2010/09/29 02:51)
[17] 第17話 交差する道!の巻[水晶](2010/10/26 14:19)
[18] 第18話 千年の決着を!の巻[水晶](2010/11/19 01:58)
[19] 第19話 CHAPTHR 0 ~a desire~ 海龍戦記外伝1015 [水晶](2010/11/24 12:40)
[20] 第20話 魂の記憶!の巻[水晶](2010/12/02 18:09)
[21] 第21話 決着の時来る!の巻[水晶](2010/12/14 14:40)
[22] 第22話 邪悪の胎動!の巻[水晶](2011/01/18 21:12)
[23] 第23話 CHAPTHR 1 エピローグ ~シードラゴン(仮)の憂鬱2~[水晶](2011/03/19 11:58)
[24] 第24話 聖闘士星矢~海龍戦記~CHAPTER 2 ~GODDESS~ プロローグ[水晶](2011/02/02 19:22)
[25] 第25話 ペガサス星矢! の巻[水晶](2011/03/19 00:02)
[26] 第26話 新たなる戦いの幕開け! の巻[水晶](2011/05/29 14:24)
[27] 第27話 史上最大のバトル!その名はギャラクシアンウォーズ!の巻 6/18改訂[水晶](2011/06/20 14:30)
[28] 第28話 戦う理由!サガの願い、海斗の決意!の巻[水晶](2011/06/20 14:30)
[29] 第29話 忍び寄る影!その名は天雄星ガルーダのアイアコス!の巻[水晶](2011/07/22 01:53)
[30] 第30話 激突!海斗対アイアコスの巻[水晶](2011/09/06 03:26)
[31] 第31話 謎の襲撃者!黒い聖衣!の巻[水晶](2011/09/08 03:15)
[32] 第32話 奪われた黄金聖衣!の巻[水晶](2011/09/16 09:06)
[33] 第33話 男の意地!の巻[水晶](2011/09/27 03:09)
[34] 第34話 今なすべき事を!の巻[水晶](2011/11/05 03:00)
[37] 第35話 海龍の咆哮、氷原を舞う白鳥、そして天を貫く昇龍!の巻[水晶](2012/04/23 00:54)
[38] 第36話 飛べペガサス!星矢対ジャンゴ!の巻※2012/8/13修正[水晶](2012/08/13 00:58)
[39] 第37話 勝者と敗者の巻[水晶](2012/08/13 04:15)
[40] オマケ(ネタ記載あり)[水晶](2011/11/05 14:24)
[42] オマケ 38話Aパート(仮)[水晶](2012/09/24 23:39)
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[17694] 第25話 ペガサス星矢! の巻
Name: 水晶◆1e83bea5 ID:ecc718c3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/19 00:02
 1986年8月31日――ギリシア。
 現地時間09:30――アテネ市内シンタグマ広場。



 広場に面した小さなカフェ。
 多少古びた感じはあるものの、地元の人々や観光客によってそれなりに長く繁盛している店である。

「アテナの聖闘士……ですか?」

「そう、聖闘士じゃよ。しかし、ここに住む人々でも彼らに出会う事などまれじゃというのに。……おまえさんらは運が良い観光客じゃのォ」

 店内にはこれからの予定を話し合っている観光客や、地元の常連客の何気ない雑談の声もあって中々に騒がしい。

「運が良いって! 冗談じゃ――」

 そんな中にあってもなお、この男性の声は店内に大きく響き、皆の視線が何事かとその彼の元に集まった。
 そこにはカメラを首に下げた日本人と思われる男性と眼鏡をかけた女性、そして地元の客には馴染みである初老の神父。この三人が、テーブルを挟んで何やら話をしているようだった。

「ホッホッホ。まぁ落ち着きなさい」

 昨晩の事を思い出し、いささか興奮気味であった男性であったが、気さくな様子で笑いかける初老の神父に毒気を抜かれたのか。

「……はぁ。……もう、笑い事じゃないですよ神父さん。驚くやら怖いやらでこっちは死ぬかと思ったんですから」

 それとも周囲の観光客の目を気にしてか。
 落ち着きを取り戻した彼は、気まずそうに立ち上がると周りの客たちに「何でもないですから」とペコペコと頭を下げる。
 隣に座る彼女が「何やってるのよ」と溜息交じりに呟いた言葉を聞き、彼はそれなりに恰幅のある身体を一回り小さくして椅子に座り直した。

(しょぼくれたクマ、いや、パンダかしら?)

「それで、えっと、そのセイントって何なんですか?」

 内心そのような事を考えている等おくびにも出さず、彼の脇腹をつつきながら女性が神父へと尋ねた。

「ふむ。その前にもう一度よいかのう? おまえさんらが昨晩見たという光景を、その話しをの」

 好々爺とした雰囲気はそのままに、しかし、どこか芯の通った神父の様子に二人は思わず互いに顔を見合わせる。

「あ、はい。あれは、私たちが凄い音を聞いて、流星が落ちたんだと思って。何なんだろうって、その音がした方へ向かって――」

 そして少しばかり逡巡を見せたものの、女性が口を開き昨晩見た事をポツリポツリと語り始めた。

「気を失った中学生ぐらいの男の子がいたんです。多分私たちと同じ日本人だと思います。全身傷だらけで、酷い怪我で。痣とか擦り傷とかがいっぱいで……」

「大丈夫かって声をかけたんですよ。そうしたらその男の子は目を覚ましたんですけど、混乱してるのかこっちの質問には何も答えてくれなくて」

「あいつはどこだ、って。あいつが来る、ってすごく怯えた様子で。だから聞いたんですよ、あいつって誰なのかって。その直後です。
 落雷みたいな大きな音がして。何なんだって振り向いたらこっちに近付いてくる人影が現れたんです。そこには私たちしかいなかったはずなのに、いつの間にか――」





 1986年8月30日――ギリシア。
 エーゲ地方――古代神殿跡地。



 衝撃で飛びかけた意識が全身に奔る激痛によって覚醒する。

「くっ、そっ!」

 血反吐を吐き、悪態をつきながらであったが、星矢は痛む体をどうにか気力で奮い立たせると追撃を警戒して即座に構えを取った。
 これ見よがし――姿は見えずとも――に、カシャンカシャンと聖衣のすり合わせる音が聞こえて来る。

(……意味もなく敵に接近を知らせる事は愚行、だったっけ?)

 その音に星矢が思い浮かべたのは魔鈴の教えであった。
 ならば、これは、どういう事か。油断か? ミスか?

「……なワケないよな~」

 六年間の付き合いは伊達ではない。つまりは「時間をやるから抵抗して見せろ」と余裕を見せ付けているのだ、魔鈴は。その事が解り過ぎるだけに星矢の苛立ちは収まらない。
 とはいえ、実際に手加減をされている身でもある。ここで迂闊に文句の一つも言おうものなら、ただでは済まなくなるのは身をもって知っていた。

「あの人たちは……離れたのか?」

 先程まで自分の近くにいた観光客らしき二人は、魔鈴の接近に気付いてこの場から逃げ去っていた。気持ちは分るので非難するつもりもない。
 おそらく、ではあったが、気絶した自分を心配してくれていたのであろう。そんな二人を巻き込まずに済んだ事は星矢にとっては僥倖であった。

「……くっそぉ」

 だからといって、自分の置かれた状況が好転したわけでもないのが頭の痛い所。
 明日に迫ったカシオスとの聖衣を賭けた決戦を前に最後の追い込みをする事は分らなくもないが、合格条件は魔鈴に確かな一撃を与える事。

「無茶苦茶だ! 聖衣を纏った聖闘士相手にだぞ!? ったく、どんだけ性格が悪いんだよ魔鈴さんは……」

 出来るわけないだろうと、そう愚痴をこぼしつつも「どうにか」と星矢が策を弄する暇もなく。

「ハンッ、まだそれだけ軽口を叩ける元気があるんなら――」

「!? クッ魔鈴さん!!」

 目の前には魔鈴の姿。気付いた時にはもう遅かった。

「聖域に戻ってあと百回シミュレーション」



 魔鈴が構えを取った。星矢がそう認識した時には――



「げ、げふ……」

 その身は既に天高く殴り飛ばされおり、受け身を取る間もなく額から大地に叩き落とされていた。

「……カッコ悪いね星矢。今の一撃程度をかわせないようで、どうやってカシオスに勝つつもりなの?」

「い、いっつぅう~~。生身の魔鈴さんに勝てないのに聖衣を纏うって、なんだよそれ!! 心配しなくてもオレはカシオスなんかには負けないよ!
 それに、試合は明日だってのにこれ以上シゴかれたらカシオスと戦う前にあんたに殺されちゃうよ!!」

 頭を押さえ、多少ふらつきつつも即座に起き上がって文句を言い始めた星矢のタフさに、さすがの魔鈴も呆れ半分感心半分。

「……相変わらず頑丈な奴ね」

 その姿に、思わずこの点だけは評価してやっても良いと魔鈴は考えてしまう。
 とはいえ――

「どの道、頑丈なだけならカシオスとやり合ったところで殺されるだけさ。いや、なまじタフな分より凄惨な殺され方をするだろうね。じわじわとさ。
 耳を落とし、鼻を削ぎ落し、そして最後にはその首を……」

「ちょっ!? お、おどかさないでよ魔鈴さん!!」

「だからさ。そうならないように、せめて相打ち程度には持って行けるようにしてやろう、ってのさ。ほら、聖域に戻ってあと百五十回だよ」

「増えてるよ! だから! オレは魔鈴さんには勝てないけどカシオスには負けないって言ってるだろ!!」

「……ふぅん」

 これまでも魔鈴の言葉に星矢が逆らう事は多々あった。それでも一撃くれてやると納得して静かになったものだが、今日の星矢は違った。
 真っ直ぐに自分を見つめて来るその視線に、その眼差しには確かな自信が、力があった。

「そうね、そこまで言うなら証拠を見せてよ。お前はこの六年間、カシオスに勝てた事は一度もない。そんなお前が明日は勝てると言っている。納得出来ると思う?
 お前が死のうがどうなろうが、私にはどうでもいい。でもね、お前に付き合った六年が無駄になるのはシャクなのよ。だからさ、私が安心して眠れるように証拠を見せて」

「……」

 証拠を見せろ。その魔鈴の言葉に星矢の顔つきが変わった。
 悪く言えば年相応のおちゃらけた悪ガキのような雰囲気が――戦士のそれへと。

「よぉ~し!! よっく見ろよ魔鈴さん! これがオレの力のすべて……」

 深く息を吸い、静かに吐く。二度、三度と繰り返し、星矢は拳を振り上げる。
 狙うのは己の足下。
 星矢は大地に刻み込もうとしていた。自分がカシオスに勝てるという証拠を。
 魔鈴は何も言わない。腕を組み、星矢がこれから行おうとする事を見逃すまいと、その動きをじっと見つめていた。

「これがオレの中の――」



「フンッ、証拠なぞ必要あるまい」

 だから気が付かなかったのか。
 第三者の接近を。

 星矢が自らの拳を大きく振り上げたその時、巨大な影が星矢の身体を覆う。
 身長二メートル以上はあろうかという巨漢の男がこの場に姿を現していた。
 ファンタジー風に言い表すならば、“火竜”のようにも見える意匠を施された真っ赤な聖衣を纏った男だった。
 頭部と両肩、両膝、そして胸部。六つの魔獣の顔が存在する異形の聖衣を。

「お前は……ドクラテス」

「ドクラテス?」

「カシオスの兄貴さ」

 星矢の呟きに答えた魔鈴の言葉に「兄弟!?」と星矢が首を傾げつつも、こちらへと近付いて来るドクラテスと呼ばれた男を見る。

(カシオスの兄貴、ていっても……似ていないな。デカイってことぐらいだぞ。それに、後から出てきたこいつらも……一体何者なんだ?)

 ドクラテスの後を追うように、その部下と思われる男たちも現れていた。皆が同種の赤い聖衣らしき物を纏っている。違うのは魔獣の顔が頭部の、ヘルメット型のマスクの一つだけである事。

 無言のままドクラテスが腕を動かす。
 それを合図として、一糸乱れぬ動きで部下たちが星矢たちを囲い込むように動いた。

「くっ、こいつら!?」

「落ち着きなよ星矢。さて……これは何のつもりだいドクラテス」

 逸る星矢を抑え、周囲の状況を見渡しながら魔鈴が静かに問いかける。

「フッ、何のつもりか、だと? お前こそ何を言っているのだ魔鈴。ここはどこだ? 聖域の結界の外だ。試合を目前に控えた者が結界の外に出るなぞ――逃亡以外の何がある?」

「シゴキに力が入り過ぎただけさ。心配しなくても――」

「な、何だと! 誰が逃げたりなんかするもんか!!」

 逃げ出した、と。そう言われた事で星矢がいきり立った。
 抑えていた魔鈴の手を払い除けてドクラテスへと迫る。

 しかし――

「口では何とでも言えるぞ」

「現に、お前は結界の外にいる」

「フフフッ」

「候補生でしかない、しかも日本人のお前の言う事と、聖闘士であるドクラテス様の言う事。さて、聖域はどちらを信じるかな」

 その前にドクラテスの部下たちが立ち塞がり、星矢の行く手を阻む。

「そうだ、過程なぞどうでもいい。お前はカシオスと戦うまでもなく――ここでオレに始末されるのだからな」

 部下を下がらせてドクラテスが前へと踏み出した。
 見上げる星矢と見下すドクラテス。知らず、星矢の足が一歩下がる。
 体格差だけではない“存在感”そのものの差に、星矢は背中に冷たい汗が流れるのを感じ取っていた。





 第25話





 星矢の眼前に “赤”が迫る。それはドクラテスの聖衣の色。
 視界を埋め尽くす赤色はドクラテスの拳。瞬く間に星矢の視界を埋め尽くす。
 パンチは見えている。しかし身体が動かない。反応が追い付かない。

「ぼさっと――」

 星矢の身体に衝撃が走る。

「――してんじゃないよ星矢!!」

「がぁッ!!」

 吹き飛ばされた星矢の身体が遺跡の――瓦礫の山へと叩き込まれる。
 石材が音を立てて砕けるのと同じく、先程まで星矢が立っていた場所からも爆音が響いた。

「う……ぐぅ……。ま、魔鈴さん?」

 瓦礫を振り払い腹を押さえて立ち上がる星矢。
 巻き上げられた砂塵が風に吹かれ、徐々に視界をクリアにしていく。
 そうして星矢の目に大きく抉れた大地が、拳を大地へと突き立てた巨大な影――ドクラテスの姿が映った。

「ま、魔鈴さん? 魔鈴さーーん!!」

 星矢の声が辺りに響く。
 魔鈴からの返事はない。

「……う、嘘だろ?」

 脳裏によぎるのは最悪の光景。

   ドクラテスの巨体がゆっくりと立ち上がり、大地に突き立てた拳をゆっくりと引き抜く。
   その手に掴まれたのは赤く染められた――魔鈴。

「う、うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 全身に受けた打撲の、裂傷の痛みも忘れて星矢が吼えた。
 拳をふるう。感情のまま、激情のままに。

「ドクラテスッ!」



 突き立てた拳に伝わる感触にドクラテスは眉を顰めた。
 星矢に向けて振り下ろした“一撃”は咄嗟に割り込んできた魔鈴によって逸らされた。
 それはいい。
 仮にも白銀の聖闘士であれば“そのくらい”はやって見せるだろう。
 だが、しかし――

(あの体勢から“二撃目”をかわした、だと?)

 確証はなかった。ドクラテス自身、魔鈴に当てた瞬間も、避けられた瞬間も見ていないのだから。
 ハッキリとしている事はただ一つ。拳に伝わる感触は、それが伝える事は、ただ大地を穿っただけなのだと。
 その通り、砂塵の晴れた視界にはクレーターと化した大地が映るのみ。
 どういう事だと思案しかけたその時、

「う、うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 咆哮とともに立ち昇る小宇宙を感じた事でドクラテスは即座に思考を打ち切った。
 そちらへと視線を向ければ、瓦礫の中から立ち上がった星矢の姿。

「星矢か? な、何だと!? まさか、何故お前のような奴から小宇宙を感じるのだ!? それに、その背に浮かび上がるのは!?」

 全身に打撲と裂傷を負った傷だらけの星矢。その身から立ち昇る小宇宙にドクラテスは動揺を隠せなかった。
 星矢の小宇宙の強さに、ではない。

「ドクラテスッ!」

 拳を振りかざして迫る星矢。その背に浮かぶ、立ち昇る小宇宙がオーラとなって映し出したビジョンに、である。

「馬鹿な……。何故だ!? 何故お前の背に――ペガサスが見えるッ!!」

 天駆けるペガサスの如く。
 青白いオーラを纏った星矢の拳がドクラテスへと迫る。

「おおおおおおっ!!」



 ガッ!



「ドクラテス様ッ!?」

「馬鹿な!?」

「お、おのれ星矢ッ!!」

 その光景に、ドクラテス配下の兵達がざわめき立つ。
 彼らからすれば、ドクラテスが大地に拳を突き立ててから今までの間は僅か数瞬の出来事に過ぎなかったのだ。
 砂塵が薄れ、視界が晴れた先に目にした光景は彼らにとって理解の範疇を超えていたのだ。

 気合いの声とともに振り抜かれた星矢のパンチはドクラテスの胸元へと突き立てられていた。
 赤い血が聖衣を伝い流れ落ちる。

「……う、ううっ……」

 だが、苦悶の声を上げているのはドクラテスではなかった。

「ぐぅううっ」

 右手を押さえてよろめく星矢。
 拳から流れる血がポタリポタリと地面に落ちる。

「フンッ、馬鹿め。小宇宙に目覚めていた事には驚かされたが……お前如きが素手で聖衣を砕けるとでも思ったのか」

「がっ!?」

 振り下ろされた手刀が星矢の身体を打ちのめす。

「ドクラテス様!」

「おおっ!」

 その姿に、無事を確認して安堵する部下達をドクラテスは片手で制する。

「フンッ、静まれ。さあ星矢、聖域から逃亡を図ったお前には罰を与える。それが掟だ。このドクラテスの言葉は全て参謀長のものと思え。逆らう事は許さん」

 そう言って、ドクラテスは蹲る星矢へとその手を伸ばし――



「そこまでだ」



 その手を掴み取られていた。

「お前は……」

 己の手を掴んだ人物を、その傍に立つ魔鈴の姿を見て、ドクラテスから表情が消えた。

「そこまでだドクラテス。落ち着けよ、少しばかり“早とちり”が過ぎるぞ」

「青銅の分際で、いや、聖衣を失くし聖闘士ですらなくなった半端者か……」

「星矢が結界を出たのは修練中の事故だ。逃亡云々はお前の誤解だよ、それで納得しろ。これ以上騒ぎを大きくするな」

「フンッ。どうやったかは知らんが、魔鈴を助けたのはお前か――海斗」

 ドクラテスは忌々しそうに海斗の手を振り払い、星矢の事などどうでもいいとばかりに睨み付ける。

「当たり前だ。この時期に、こんなつまらん私情で、聖闘士を死なせる阿呆がいるか」

「……どういう意味だ」

「きな臭くなってきているんだよ、色々とな。それにだ、お前がカシオスを溺愛している事は皆が知っている。シャイナの元からカシオスを引き抜いた時に、な。そんなお前がこのタイミングで星矢に手を出す。
 邪推されるだけだ。『カシオスでは星矢に勝てないからお前が手を出した』と、な」

 海斗がどこか呆れたように、そう言い終わったのと同時であった。

「黙れっ!!」

 ドクラテスの剛腕が唸りを上げて突き上げられたのは。
 大地がその勢いに巻き込まれるようにめくれ上がり、破壊の力とともに遥か上空へと吹き上げられる。

「チッ」

 直撃を避けた海斗であったが、周囲に広がる余波を察知して思わず舌打ちをしてしまう。

「派手にやり過ぎだ! 観光地だぞ!? 場所を考えろ!」

「なっ!?」

 その瞬間、ドクラテスの表情が驚愕に歪んだ。
 飛び上がった海斗が両手で繰り出した掌打によって。

「俺の力が抑え込まれて……いや、掻き消される!? 打ち消されただと!! 馬鹿な! 聖衣を失くした青銅如きに!?」

 驚愕はそれで終わらない。
 降り注ぐ閃光――“エンドセンテンス”によって周囲にいたドクラテスの部下たちが次々と倒されていく。自分の身に何が起こったのかを気付かぬままに。



「……化物め……」

 そう呟く事しかドクラテスにはできなかった。

「……頭は冷えたか?」

 背後から聞こえる海斗の声、そして背中に当てられた拳から伝わる攻撃的小宇宙に。

「確かに、今の聖域の連中なら星矢たちの言葉より参謀長の覚えが良いお前の言う事を信用するだろうな。事実がどうであれ、だ」

「……」

「今なら穏便に済ませるさ。もう一度言うぞ、このまま聖域に戻れ。これ以上醜態をさらしたくはないだろう?」

 醜態。そう言われたドクラテスの口元からギリッと噛み締めた音が鳴る。このような状況でなければ激昂していた事であろう。

「お前のプライドのために言っている。気付いていないのか? だったら自分の胸元を見てみろ」

「!? ……こ、これは……。馬鹿な!? 聖衣に亀裂が! お前の仕業か!?」

「違う。星矢だ。星矢の放ったあの一撃だ」

 聖衣の中でも最も強固であるはずの胸部に刻まれた深い亀裂。それは、確かに星矢が突き立てた拳の位置に合致していた。
 赤く塗られた星矢の血がそれを証明していた。

「聖衣がなければ負けていたんだよ――お前は。聖衣を持たない、候補生相手に、な」

 その言葉にドクラテスが動いた。
 即座に振り返り、射殺さんばかりの視線をもって海斗と対峙する。

「ここで去るなら不問にする。おまえの誤解だった、とな。これに関しては黄金聖闘士デスマスクも証人だ」

「……」

「……お前の暴走で明日の試合を無くす気か?」

「何?」

「お前がどうなろうが知った事じゃないが、カシオスとは知らない仲でもない。シャイナの事もある。二人の六年間が無駄にされるのはさすがに、な」

「……四年だ。この二年間、カシオスを育てたのは俺だ」

「だったら自分の弟子を信じろよ。正々堂々正面からやり合っても勝てる、と」

「……当然だ」

「そうかい」

 会話が止まる。
 しばし、無言のまま睨み合いが続く。

 先に視線を、動きを見せたのはドクラテスであった。
 周囲に倒れた部下達が呻きを上げながらも次々と立ち上がり始めた事で。

「良いだろう、この場は退いてやる。俺が手を出さずともカシオスが負けるはずがない」



 そう言い捨てるとドクラテスは踵を返し、部下達を引き連れて聖域へと戻って行った。
 去り際に見せた視線から嫌なモノを感じた海斗であったが、嫌悪の矛先が星矢たちから自分に向けられたのならば特に問題はないな、と気にする事を止める。
 その事よりも、差し迫った問題が目の前の惨状の隠蔽だった。
 周囲の遺跡はその原型を失い、地面には大きなクレーター。
 深夜とはいえ、市外から離れているとはいえ、人気が全くないわけではない。これはさすがに気付かれる可能性がある。

「しまったな。不問にするって事は、この始末を俺一人でやるしかないって事か」

 こう言った雑務に対応する部門は聖域にも存在するが、そこに手伝いを頼むと言う事は今回の事を報告する必要がある。
 適当に誤魔化せば、とも思ったが――

「アイオリアに下手な嘘は通用しないからな。師匠はいないし……」

 全てを話せば理解してもらえるとも思うが、今の海斗には可能な限りアイオリアと会う事を避けたい事情があった。

「……後でシャイナに、いや駄目だな。デスマスクに口裏を合わせてもらおう。工作には……ニコルを引っ張って来るか」

 また嫌味を言われるな、と深く溜息を吐く。
 悪い奴ではないのだが、海斗にとってニコルは正直言って関わりたくない相手であった。
 とはいえ、部下もなく、知人も少ない海斗にこういった事を頼れる相手など数える程度しかいない。
 その事に思い至り頭を抱えたくなったが、


 ――ま、魔鈴さ~~ん! 良かった! 無事だったんだ!!

 ……人の事より自分の心配をしな。怪我人に心配されるなんて冗談じゃないよ。


 背中越しに聞こえて来るやり取りに「ま、仕方ないか」と覚悟を決めた。


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