神話の時代より、大海を統べる海皇ポセイドンと地上を守護する女神アテナは地上の覇権を巡り対立を続けている。
汚れきった地上を破壊して、そこに神話の時代のように心清き人々だけの理想郷を創り上げようとする海皇ポセイドン。
人の善なる心を信じ、地上の破壊を阻止しようとする女神アテナ。
どちらが正しいのか。
考える。
夢の中、いや、あれは恐らく時間も空間も次元すらも超えたこことは違う別世界だ。
そこでシードラゴンを騙る男が最後に繰り出した技によって四散し、肉体を失ったおれはこの世界で再生――転生を果たしたのだろう。それが解る。
霞がかった前世界の記憶と比較して分った事だが、オレからすればこの世界は数年ほど過去にあたる。
思考も口調もあの世界のオレに引っ張られている気がするが、今更そんな事はどうでもいい。
オレの知識が確かであれば、この地の近くには風化して朽ち果てたとはいえ海皇ポセイドンの地上神殿があったはず。
「……師匠の小宇宙を感じたせいか、それともこの地がそうさせたのか」
海闘士だけが感じ取れる海皇の力の残滓、そして八十八の聖闘士の最高位である黄金聖闘士の一人タウラスのアルデバランの強大な小宇宙に触発されて覚醒した、そんなところか。
海皇による地上世界の浄化、その後にもたらされる理想郷に心惹かれるモノがあったのは確かだが、おれは夢の中のオレ程にそれを強くは願っていない。
はっきりとは思い出せないが、夢の中のオレは常に一人だったように思う。
何のしがらみも無く好き勝手に生きていたようだが、おれは違う。おれには僅かながらも繋がりがある。
城戸の爺さんや辰巳あたりがどうなろうと、正直知った事ではなかったが、短いながらも城戸邸で共に過ごした百人の孤児。
皆の仲が良かった訳ではないが、それでもおれ達には同じ身の上としての奇妙な仲間意識はあった。
海闘士として生きるという事は、やがてアテナの聖闘士となるであろうあいつらと敵対する事を意味する。
「それは……さすがに気が引ける」
今を守りたいと思うならばアテナ、今を破壊して変革を望むのならばポセイドン。つまりはそういう事。
行き着くのはそこだ。
「……それにしても、あの男は何者だったんだ?」
記憶の探索の中で思い浮かぶのはシードラゴンの鱗衣を身に纏ったあの男。
今のおれにとっての最大の懸念。
そもそも、おれたち海闘士はこの時代に目覚める予定ではなかった。少なくともあと二百年は。
神話の時代、アテナに敗れた海皇はその魂を封印され、その効力が無くなるまではまだ時を必要としたのだから。
アテナによって施された封印を海闘士が解く事はできない。それを行えるのはアテナ自身か聖闘士、もしくは力無きただの人間だけである。
その効力が失われる時まで、海皇と共に海闘士も眠りにつくはずだったのだ。
あの時は、訪れた海底神殿内には海皇の気配は感じなかった。
イレギュラー的な目覚めかとも考えたが、あの場に安置された七つの鱗衣も眠りから目覚めていた。
それは海将軍の目覚めの兆し。
他の六人の海将軍も覚醒するのであれば、その目覚めは海皇の意思であるはず。
つまり、何者かが海皇の封印を解いたという事。
「怪し過ぎるな」
海闘士の聖域とも言える海底神殿に潜み、シードラゴンの名を騙り、覚醒直後であったとはいえオレを圧倒したあの男。
海闘士ではない。当然ながら力無き人間でもない。
ならばアテナか。違う。
人として降臨するとはいえ、アテナは女神。その肉体は女性の物。
残る可能性はただ一つ。
「ならば――聖闘士、か」
鱗衣のマスク(兜)に隠れて顔も分らず、あの男の名前もおれは知らない。
この世界にあの男と同一の存在がいるのかも、それ以前にこの世界があの世界と同じ流れに沿うのかも分らない。
「あいつはオレよりも強かった」
あの時の戦いを思い出す。
鱗衣の有無は問題では無い。
純粋な力量でオレはあの男に敗れた。
「流れに沿うにしろ沿わないにしろ、用心に越した事はない、か。ここなら聖闘士の動きも情報も分り易そうだし、強くなって損はない。それに――」
海闘士に鱗衣があるように、聖闘士には聖衣(クロス)と呼ばれる鎧がある。
聖闘士として認められれば聖衣を与えられるらしいが、聖衣もまたその所有者を選ぶ。
仮に聖闘士として認められ聖衣を与えられたとしても、海闘士であるおれがそれを纏えるのかどうかは分らない。
分らないが、海闘士として地上粛清を目指すより、海闘士が聖闘士を目指す事の方が面白そうではある。
首尾よく聖衣を手に入れ、それを纏う事ができれば。
仮にこの世界でもシードラゴンの鱗衣が奪われたとしても、あの時の二の舞になる事は避けられるかもしれない。
「……やってみるか」
どう振る舞うべきか。
そうして小一時間ほど悩んだ後、おれはこのまま聖域に留まり聖闘士となるべく修業を受ける事に決めた。
第2話
聖域に来て早四年。
俺は今日、聖闘士となれるかどうかの運命の日を迎えていた。
教皇の御前にて行われる聖闘士候補生たちとの試合。それに勝ち、己の力を見せる事により俺は晴れて聖闘士として認められる事となる。
試験の場所である闘技場には、新たなる聖闘士の誕生を見届けようと多くの者達が集まっていた。
しかし、その中に師匠の姿は無い。
師曰く――
『この聖域内で、今のお前と正面から戦って勝てる者はそうおらん。白銀、いや黄金聖闘士であれば話は別だがな。俺は勅命を受けたので見届けてやる事はできん。が、まぁ問題はなかろう』
との事。
それを聞いた時は素性がバレたかとも思ったが、どうやら純粋に俺の力量を認めた上での言葉らしく。
高く評価してもらえた事は、弟子としては素直に喜びたくもあるが、実際のところは……微妙だ。
言葉のままに受け取れば、あの世界でオレを倒した男は少なくとも黄金聖闘士クラスの力量があったという事になる。
「それでは、これより最終試練を始める。ゴンゴール、海斗よ、準備はよいか?」
その教皇の宣言で、闘技場内にいた者達が歓声を上げる。
壇上に立つ教皇の横に、神官たちの手によって聖衣が収められた箱が置かれた。
「聞け! この戦いの勝者に栄誉ある聖闘士の証である聖衣を授けよう。この子馬座(エクレウス)の青銅聖衣を!」
「ブッ!?」
教皇の宣言に、皆の前にその姿を見せた聖衣の存在に、場内のざわめきが増した。
ある者は感嘆の声を、ある者は畏怖を、ある者は羨望を。
候補生や雑兵達にとって、それはまさしく喉から手が出るほどに欲する物。
それを目の当たりにして浮つく気持ちは分らなくもない。だが、俺はその聖衣の名を聞いて思わず噴き出しそうになっていた。
子馬座。ギリシア神話ではペガサスの弟ケレリスの姿とされ、伝令神であるヘルメスがカストルに与えた名馬である。
そこまではいい。
問題は、神話には複数の解釈があるように、子馬座にも幾つかの由来があるという事。
海神ポセイドンが三又の鉾で砕いた岩の中より飛び出しただの、その槍で突き殺しただの、と。
海皇由来の聖衣など洒落になっていない。
でき過ぎ、あるいは作為的とすら思えるこの巡り合わせに呆然とする俺。
この姿を見て緊張をしているとでも思ったのだろうか。
「頑張れよ海斗ーッ!」
「うるさいよ星矢。お前には他人の心配なんてしている余裕は無いだろ」
聞きなれた声に視線を向ければ、頭を抑えて蹲る星矢と何食わぬ様子でこちらを見ている魔鈴の姿があった。
軽く手を振ってそれに返す。
鷲星座(イーグル)の魔鈴(マリン)。星矢の師匠であり白銀(シルバー)の位にある女聖闘士。
聖闘士の女子は仮面を着ける事を掟とされるため、常々その無愛想な仮面の下にどんな素顔があるのかが気になって仕方がなかった。
一度駄目で元々と「素顔を見せてくれ」と頼んだ事があったが「死にたければ見せてやるよ」と拳とともに凄まれては引き下がるしかない。
それから暫くの間は、聖闘士候補の女子達から親の仇を見るような目で見られ続けていた。
師匠に理由を尋ねても「分らん」の一言で済まされた。
「おや、星矢に魔鈴じゃないか。ああ、確かアイツはお前たちと同じ日本人だったね。同胞が気になるのかい? 東洋人同士仲の良い事で」
「わたしは別に興味なんて無いさ。星矢がどうしてもと言うから来てやっただけ。そう言うお前こそ、こんな所に来るなんてらしくないじゃないか。どうしたんだいシャイナ」
「確認に来ただけさ。所詮東洋人如きが神聖なるアテナの聖闘士になれるはずが無い、という現実のね」
「その通りです、シャイナさん。ふしゅらしゅらしゅら~」
そう言って魔鈴に近づいたのは、蛇遣い星座(オピュクス)のシャイナとその弟子カシオス。
シャイナは魔鈴と同じく白銀の位に位置する女聖闘士。
魔鈴の無地の仮面と異なり、隈取が入った仮面が特徴的だ。
聖闘士の女子は――以下略。
掟とは言え、仮面など視界を遮り呼吸の邪魔にしかならないと思うんだが、この辺りの事は聖闘士を目指し四年経った今でも俺には良く理解ができない。
服装のセンスも理解ができない。
常々思うが……なんだあのけしからん恰好は。
恥ずかしくはないのだろうか?
魔鈴はどうみてもレオタード。
シャイナに至っては革製ビキニの水着姿にしか見えない。
俺と同じ十四歳らしいがそのプロポーションは小娘のものではない。
「アレか、戦意高揚のためか? 仮面で素顔が分らなければ恥ずかしさも三割減とか? けしからんな聖闘士、実にエロい」
やはりこのまま聖闘士として生きてみるかと、あっという間に過ぎ去った日々に思いを馳せる。
『いいか海斗。この世の全ては原子でできている。人も草木もこの石も、だ』
聖域での修業の日々は、肉体的には辛くも苦しいモノでもなかった。
当然だろう。
どれ程過酷な修行内容であっても、それはあくまでも『小宇宙(コスモ)に目覚めていない者が聖闘士を目指す』為に組まれたモノ。
『我々聖闘士の闘技とは、己の内にある小宇宙を極限にまで高め爆発させる事で――原子を砕く事にある』
自分の内に眠る宇宙、すなわち小宇宙を感じる事ができるかどうか。聖闘士の必須条件であるそれに目覚める事こそが修行の目的。
海闘士として目覚めていた俺からすれば、与えられた修行は全て解答片手に問題を解いているようなモノだった。
辛かったのは主に精神面。
ここ聖域は聖闘士の総本山。
敵の本拠地にただ一人という状況に加え、俺を聖闘士とするべく真剣に取り組んでくれる師匠には申し訳なかったが、まさかこの地で
「小宇宙にはとっくに目覚めてます。俺、実は海闘士です」
なんて言えるはずもなく。
それに、俺自身は聖域を破壊してやろうだの、聖闘士をどうこうしてやろう等とは思ってもいなかったのだが、本来海闘士と聖闘士は敵同士。
負い目というか、引け目もあって。
他人との関わりを可能な限り避け続けたおかげで友人らしき友人もなく。精々が知人を両手で数えられる程度。
強いて言うなら、俺と同じようにここに送られた星矢とその師匠である魔鈴ぐらいか。
前世のオレを寂しいヤツだと思っていたが、今の俺も大概寂しい奴だと気付いてしまい軽くへこむ。
加えて、聖域の人間は妙なプライドがあるのか、東洋人である俺や星矢に何かに付けては「東洋人の癖に」と難癖を付けて来る候補生や雑兵共。
その都度、相手を裏路地に連れて行きボコる日々。
「――あ、その中に居たなお前。確か……権三さん?」
「ゴンゴールだ! あの時の恨みも込めて叩き潰してくれる!!」
そう叫び、ゴンゴールが文字通り飛び掛かって来た。
過去を想っている間に、どうやら試合が開始されていたらしい。
その跳躍はゆうに十メートル以上。普通の人間では不可能な跳躍であっても小宇宙に目覚めた聖闘士にとっては驚くには値しない。
「……少なくとも、小宇宙を燃やせるだけの力は得たのか」
「抜かせ! 喰らえ、この俺の必殺技“スタンピングタップ”を!」
俺としては褒めたつもりだったのだが、馬鹿にされたとでも思ったのか。
上空からゴンゴールが繰り出したのは、両足を使っての無数の蹴りだった。
小宇宙が込められたその蹴りは、衝撃波を伴って雨あられの様に俺目掛けて降り注ぐ。
「逃げ回るだけか? そらそらそらそらぁあっ!!」
攻撃を避けるものの、一向に攻め手を見せない俺の姿を見て手も足も出せないと思ったのか。
完全に調子に乗っている。
戦いを観戦している者達の中には「いいぞゴンゴール!」だの「東洋人に聖衣を渡すな!!」等と煽り立てる者の多い事。
どうも聖闘士と雑兵との間にある意識の差が激しいというか。
比較できる程多くの聖闘士を知っている訳ではないが、一応は女神アテナと地上の平和のために戦う仲間であるはずなのに、この空気の悪い事。
「くく、クククッ。はははははっ!!」
力に酔いしれて自分を見失っているのか、俺は放たれるその攻撃に悪意ある小宇宙を感じ始めていた。
「なっ、なんだよこいつ等!」
「よしな星矢」
「だって魔鈴さん!」
「落ち着いてよく戦いを見るんだね。心配はいらないさ。お前も気付いているだろうシャイナ?」
「……フンッ」
「相変わらず仲が悪いな、あの二人。いや、むしろ仲が良いのか? さて……」
幼馴染とも言える星矢と俺達の事情を知る魔鈴はそんな空気に不快感を表していたが、チラリと教皇を見ればただ静かにこの戦いを見ているだけ。
本来は敵対する立場である俺が言うのもなんだが「これで大丈夫なのか聖域?」と思わず心配してしまう。
「手も足も出ないのか? 随分と差が付いたようだな、ええっ海斗ぉっ!」
繰り出される攻撃は、今では一秒間に七十五発。
その攻撃を前にしても俺に焦りはない。
衝撃波を伴う攻撃は俺の師匠であるアルデバランが最も得意とする闘法であり、必然的にその弟子である俺もその手の闘法は熟知している。
相手が悪かったと言ってしまえばそれまでだが、ゴンゴールには状況を引き寄せる力とやらが足りなかったのだろう。
言い替えれば、俺と戦う事が決まった時点で全ては終わっていたのだから。
大体、海闘士最強である海将軍が聖闘士ですらない候補生相手に負けたとあっては他の海闘士に示しが付かない。
「……示しを付ける気もないけどな」
「ええいっ、ちょこまかと逃げ回りやがって! だったらこれで止めにしてやるぞ!!」
そう叫び、ゴンゴールは跳躍した。これまで見せたどれよりも高く、高く。
どうやら必殺の一撃を放つようだと感じた俺は、何をしてくるのかと、ある種の期待を込めて上空を見上げた。
「喰らえ! 超高高度からの――“スタンピングタップ”!!」
俺は、この戦いで始めて拳を握った。
「高く跳び上がる意味がないだろうが!!」
「げぴょん!?」
グーパンチ。
思わず繰り出したツッコミは空を切り裂き音速を超え、その衝撃波はゴンゴールを遥か空の彼方へと吹き飛ばしていた。
ついでとばかりに――闘技場も。
「な、何という強大な小宇宙!」
「し、信じられん!? 舞台が吹き飛んでいるではないか!!」
「流石はアルデバラン様の弟子という事か!」
クレーターと化した舞台の中央。
そんな外野のざわめきに反し、俺はその場で項垂れがっくりと膝をついていた。
目立たないようにと気を配ってきたこれまでの努力を無駄にする一撃を、よりにもよってツッコミで放ってしまった。
内心の動揺を隠しつつゆっくりと立ち上がり周囲を見渡す。
腰を抜かした神官に右往左往する雑兵たち。
余波に巻き込まれて頭から瓦礫に突っ込んだ者もいれば、呻き声を上げて助けを求めている者もいる。
「……何という阿鼻叫喚」
「ペッペッ。うわ~、凄いぜ海斗!!」
「ぐむぅうぅうう……おぉおおおぉおお……」
瓦礫にまみれながらも素直に俺の勝利を喜ぶ星矢。
股間を抑えて蹲るカシオス。
何と言うか……スマン。
「……」
その横で、じいっとこちらを見て――いや、睨みつけてくる魔鈴とシャイナ。
気付かなかったふりをして、慌てて目を逸らそうとしたが遅かった。
俺と目が合った二人は、無言で自分の身体に付いた埃を払い始めた。
表情は分らないが、仮面越しでも分る。アレはヤバい。
二人のその身から怒りの小宇宙が立ち昇るのが見える。
『――見事だ海斗よ』
浮ついた気分など容易く吹き飛ばされる。威厳と迫力、そして威圧感に満ちたそんな声だった。
その声を聞いた瞬間、ゾクリとしたものが俺の背筋に走る。
「ッ!?」
素早くその場から飛び退いた俺は、声の主を前に身構える。
視線の先に立つのはこの聖域の統治者である教皇。
マスク(兜)に隠れてその表情は分らないが、俺の中の何かが――本能とも言えるそれが、目の前の存在に対して激しい警鐘を鳴らす。
「まさかこれ程の力を持っていたとはな。アルデバランから才能のある者を育てていると聞いていたが……」
動悸が激しくなり視界が歪む。
試合の前では感じる事のなかった圧倒的なまでの存在感。
一歩、また一歩。
教皇が近付く、ただそれだけであるはずなのに、俺の身体は意思に反して臨戦態勢に入ろうとする。
海闘士としての本能的なモノなのか、生物としての防衛本能なのかは分らない。
拳を打込み、蹴りを繰り出そうとする肉体の衝動を抑え込み、俺は目の前の得体の知れない存在を睨みつけた。
「そう緊張せずとも良い。女神アテナに代わって教皇の名の下に新たな聖闘士の誕生を祝福する。聖闘士の証である聖衣を授ける。
海斗よ、ただ今を持ってお前はアテナの聖闘士となった。これよりは『エクレウス(子馬座)の海斗』と名乗る事を許そう」
静まり返った闘技場。
俺と教皇との間にある不穏な空気を感じたのか、誰ひとりとして口を挟もうとする者はいなかった。
異論の声も、祝福の声も――ない。
「さあ、聖衣をここへ」
その教皇の言葉で慌てて動き出す神官達。
それは、温かみと包容力に満ちた穏やかな声だった。
先程の光景がまるで嘘のように喧騒を取り戻す場内。
「……は、ハッ、直ちに!!」
暫くして、神官や雑兵達の手で子馬座の聖衣が俺の前に運ばれる。
その時には教皇からあれ程感じていた得体の知れぬ威圧感もなくなり、俺の中にあった燃え盛る様な猛りも静まっていた。
「……確かに受け賜わりました。アテナのため、地上の平和のためにこの力を振るう事を――」
その時。
聖衣を前に誓いの言葉を述べる俺の肩に、そっと教皇の手が置かれた。
「フフフッ、実に興味深い。青銅の器では抑えきれぬその猛々しいまでの覇気。これからの働きに期待せずにはおれんな」
ポンポンと俺の肩を軽く叩くと、纏った法衣を翻し教皇はこの場から悠然と立ち去って行った。