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No.17694の一覧
[0] 聖闘士星矢~ANOTHER DIMENSION海龍戦記~[水晶](2013/09/09 21:34)
[1] 第1話 シードラゴン(仮)の憂鬱[水晶](2011/03/19 11:59)
[2] 第2話 聖闘士の証!エクレウスの聖衣の巻[水晶](2011/03/19 12:00)
[3] 第3話 教皇の思惑の巻[水晶](2010/11/02 23:03)
[4] 第4話 シャイナの涙!誇りと敵意の巻[水晶](2010/04/23 01:43)
[5] 第5話 宿敵との再会!その名はカノン!の巻[水晶](2011/01/21 12:17)
[6] 第6話 乙女座のシャカ!謎多き男の巻[水晶](2010/04/23 01:48)
[7] 第7話 新生せよ!エクレウスの聖衣の巻[水晶](2010/04/23 01:50)
[8] 第8話 その力、何のためにの巻[水晶](2010/04/23 01:54)
[9] 第9話 狙われたセラフィナ!敵の名はギガスの巻[水晶](2010/04/23 01:56)
[10] 第10話 天翔疾駆!対決ギガス十将の巻[水晶](2010/04/23 01:59)
[11] 第11話 黄金結合!集結黄金聖闘士の巻[水晶](2010/04/23 02:01)
[12] 第12話 ぶつかり合う意思!の巻[水晶](2010/05/12 22:49)
[13] 第13話 海龍戦記外伝~幕間劇(インタールード)~[水晶](2010/07/30 11:26)
[14] 第14話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ黄金聖闘士(前編)の巻 8/25加筆修正[水晶](2011/01/22 12:34)
[15] 第15話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ黄金聖闘士(中編)の巻[水晶](2010/08/26 03:41)
[16] 第16話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ黄金聖闘士(後編)の巻  ※修正有[水晶](2010/09/29 02:51)
[17] 第17話 交差する道!の巻[水晶](2010/10/26 14:19)
[18] 第18話 千年の決着を!の巻[水晶](2010/11/19 01:58)
[19] 第19話 CHAPTHR 0 ~a desire~ 海龍戦記外伝1015 [水晶](2010/11/24 12:40)
[20] 第20話 魂の記憶!の巻[水晶](2010/12/02 18:09)
[21] 第21話 決着の時来る!の巻[水晶](2010/12/14 14:40)
[22] 第22話 邪悪の胎動!の巻[水晶](2011/01/18 21:12)
[23] 第23話 CHAPTHR 1 エピローグ ~シードラゴン(仮)の憂鬱2~[水晶](2011/03/19 11:58)
[24] 第24話 聖闘士星矢~海龍戦記~CHAPTER 2 ~GODDESS~ プロローグ[水晶](2011/02/02 19:22)
[25] 第25話 ペガサス星矢! の巻[水晶](2011/03/19 00:02)
[26] 第26話 新たなる戦いの幕開け! の巻[水晶](2011/05/29 14:24)
[27] 第27話 史上最大のバトル!その名はギャラクシアンウォーズ!の巻 6/18改訂[水晶](2011/06/20 14:30)
[28] 第28話 戦う理由!サガの願い、海斗の決意!の巻[水晶](2011/06/20 14:30)
[29] 第29話 忍び寄る影!その名は天雄星ガルーダのアイアコス!の巻[水晶](2011/07/22 01:53)
[30] 第30話 激突!海斗対アイアコスの巻[水晶](2011/09/06 03:26)
[31] 第31話 謎の襲撃者!黒い聖衣!の巻[水晶](2011/09/08 03:15)
[32] 第32話 奪われた黄金聖衣!の巻[水晶](2011/09/16 09:06)
[33] 第33話 男の意地!の巻[水晶](2011/09/27 03:09)
[34] 第34話 今なすべき事を!の巻[水晶](2011/11/05 03:00)
[37] 第35話 海龍の咆哮、氷原を舞う白鳥、そして天を貫く昇龍!の巻[水晶](2012/04/23 00:54)
[38] 第36話 飛べペガサス!星矢対ジャンゴ!の巻※2012/8/13修正[水晶](2012/08/13 00:58)
[39] 第37話 勝者と敗者の巻[水晶](2012/08/13 04:15)
[40] オマケ(ネタ記載あり)[水晶](2011/11/05 14:24)
[42] オマケ 38話Aパート(仮)[水晶](2012/09/24 23:39)
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[17694] 第16話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ黄金聖闘士(後編)の巻  ※修正有
Name: 水晶◆1e83bea5 ID:11bb2737 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/29 02:51
「うわわわわっ!?」

 ジャミールからセラフィナを攫った者達の小宇宙を辿り行ったテレポーテーション。
 幼い貴鬼にとっては負担の大きい超能力の行使であったが、セラフィナを助けるためとあれば戸惑う理由は無い。
 これまでにムウの指導の下で幾度も成功させている。ここ半年の間に限れば失敗した事は一度も無かった。
 異なる点は、ムウが傍にいない事。万一の事態に対する保険が無い、つまりはそういう事なのだが、貴鬼には失敗はしないという自信があった。

「うわあ~~っ、お、落ちるぅうううう!?」

 それが、どういう事か“失敗”した。
 転移中に感じたのは普段とは異なる感触。
 全身を包み込む様な抵抗感と、引っ張り上げられる様な奇妙な感覚。
 イメージするならば、水中から何者かによって引き上げられる、腕では無く足首を掴まれて。
 初めての感覚に戸惑い、そして目の前に飛び込んできた光景に、貴鬼は混乱し悲鳴を上げていた。

 一言で言えば、運が悪かった。
 これは、聖域に張られた結界による影響であり、決して貴鬼が失敗したというわけでは無かったのだが、そんな事を本人が知る由も無い。
 もう一つ。目的地が聖域だと分っていれば貴鬼に変わってムウが行っていたのであろうが、小宇宙を目印としてのテレポーテーションではそこまで分る筈も無く。
 結果として、シャカの誘導もあってテレポーテーション自体は成功したものの、到達場所に問題が残った。

 聖域の上空である。

 失敗した、ショックを受けた矢先にこの状況。
 全身に受ける風圧。
 迫り来る建造物。
 敷き詰められた石畳。
 完全にパニックに陥った貴鬼は叫ぶ事しか出来ない。

「ひッ、ひぃやぁああああああ!? ム、ムウ様ぁあああ!? おねえちゃぁあああん!!」

 もう駄目だと、貴鬼が諦めかけたその時、

「耳元で叫ぶな」

 ぐいっと、力強い何かが貴鬼の身体を掴む。

「この程度の高さならコイツでいける……か?」

 そう言って貴鬼の身体を小脇に抱えたのは海斗であった。
 迫り来る眼下を見据えながら、空いた手で自らの聖衣の肩をドンと強く叩く。
 その瞬間、ガシャンという音を立てて聖衣の背中から純白の翼が展開した。
 広げた両手よりもさらに大きい。
 それは天馬の証、天駆けるエクレウスの翼。
 動きの邪魔にならないよう、普段は背中に収納されているパーツである。

「うわあぁあ――って。あ、あれ?」

 グンと、上へと引っ張られるような感覚。
 そして、自分の身体に感じていた風圧が収まった事で、貴鬼は恐る恐る目を開けた。
 先程とは事なりゆっくりと迫る石畳。自分を抱えている海斗。その背に広がる聖衣の翼。

「すっげぇえ~」

 安全が確保されたと分ると途端に余裕が生まれたのか。
 貴鬼はきょろきょろと眼下の光景を見渡し始める。
 真下には巨大な神殿の様な建物が在り、その前後を一本の長い階段が繋いでいる。
 どちらの先にもここと同じ様な神殿が在った。
 少し視線を動かせば、巨大な火時計が見える。時間を示す場所に幾つかの炎が灯っている。
 見慣れない風景にせわしなく頭を動かしていると、小さな声であったが海斗の呟きが聞こえた。

「パラシュート代わりになるかと駄目もとでやってみたが……。背中の翼は飾りじゃ無かったワケだ、さすがムウ」

「……え?」

「黙ってろ、舌を噛むぞ」

 何やら聞き捨てならない事をさらっと言われた気がした貴鬼であったが、海斗が聖衣の翼を収納した事で慌てて口を閉じ落下の衝撃に備える。

「ん~~んんっ……あれ?」

 落下の速度を感じたのは一瞬。
 何時まで経っても貴鬼が予想していた衝撃を感じる事は無く。
 ふわりと、羽根のように柔らかく。
 海斗は静かに着地を果たしていた。





「ねえ兄ちゃん、ここって?」

「聖域だな。しかも、よりにもよって――十二宮、か」

「十二宮?」

「怖い聖闘士の居る場所だ」

 貴鬼の問いに応えながらも、海斗の意識は周辺の様子を窺う事に集中していた。
 上空からの光景と慣れ親しんだ空気、炎が灯された火時計と回廊によって繋がった宮。
 ここが聖域であり、今自分達が居る場所が十二宮である事は把握している。
 自分達の侵入に反応が無いところから無人の宮だと推察できるが、何れにせよ海斗としてはあまり長居したい場所では無い。

「……ここは」
 
 十二宮はそれぞれの星座に因んだ装飾やオブジェが、各宮の入り口にはそれぞれの星座を示す刻印が刻み込まれている。
 鏡映しのように左右対称に作られた宮。そして入り口に刻まれた双子座の印。

「……双児宮、か。だったら、この下が金牛宮で上が巨蟹宮」

 この先にアテナが住まう神殿が在る。

(今はどうでもいいか)

 ふと、脳裏に浮かんだそれを、海斗は忘れようと軽く頭を振って貴鬼を見た。

「貴鬼、セラフィナの小宇宙は?」

「……ううん、この辺りにお姉ちゃんの小宇宙は感じない。でも、とんでもなく大きな小宇宙があちこちから感じるよ!」

「感覚は一流だよな、お前。俺はそういう繊細なのは……って、この感じは戦闘の真っ最中か? それで、一番近いのが……」

「あっちだよ、大きな小宇宙が四つ。ジャミールで感じたいやな小宇宙と……バルゴの小宇宙!?」

「バルゴ? ああ、俺にも分る。で、この纏わり付く様な感じは――エキドナか!」

 丁度良い、そう言って駆け出そうとする海斗。

「ちょ、兄ちゃん!?」

 待って、とその後を追うべく走り出す貴鬼。
 しかし、

「ふぎゃ!?」

 突然その足を止めた海斗。
 既に走り出していた貴鬼は急には止まれない。
 海斗の足に勢いよく、しかも生身や靴にではなく聖衣にぶつかる。
 鼻を抑えて涙目の貴鬼である。
 文句を言おうとした貴鬼であったが、不意に“気付いて”しまう。
 急速に接近しつつある複数の悪意ある小宇宙に。
 いやな予感を感じて背後を、金牛宮の方を見た。

「に、兄ちゃん! 後ろから何だかいっぱい来るよ!!」

「正直、時間が惜しいんだがな。ま、後ろから邪魔されるのも面白くないか」

 うざったい、と呟いて、海斗も背後へと振り返る。
 そこには今まさに、金牛宮を抜けて駆け上って来るギガス達。
 あちらも双児宮の前に立つ海斗と貴鬼の姿に気が付いたのであろう。
 明確な敵意と殺意に満ちた攻撃的な小宇宙が二人へと向けられた。

「ひいっ!? う、うわわわわっ!?」

 遊びでも訓練でも無い、貴鬼にとって初めて向けられた明確な殺意。
 圧迫されるような感覚。
 吐き気を催す様な不快感。
 全身が震え、思わずその場にしゃがみ込んでしまいそうになる。
 幼く、戦闘経験のない貴鬼には、まだそれを平然と受け止められる余裕は無い。

「……え?」

 その感覚がぷつりと途絶えた。

「ほれ、下がってろよ貴鬼」

 そう言って海斗が貴鬼の前に立つ。
 それだけの事で貴鬼の身体から震えが消えていた。
 貴鬼が見上げた海斗の表情からは、不安も緊張も浮かんでいない。
 むしろ、何がおかしいのか口元を歪めて笑みを浮かべてすらいた。

「クッ、ククッ。いや、まさか俺が形だけとはいえ十二宮を守る事になるとは思わなかった、って事だ」

 双児宮を前に、ギガス達を見下す様に立ち塞がる海斗。
 ゆらりと立ち昇る小宇宙。
 海斗の戦意を示すかのように、徐々にその大きさを増す。

「……来たな」

 そうして遂に、海斗の目の前にギガス達が現れた。
 その数は十人以上。

「ほう、ここまで無人の宮が続いたので、てっきり我等に恐れをなして逃げたものと思っていたぞ」

「……退け小僧」

「十二宮にはそれを守護する星闘士が居ると聞いた。ならば小僧、お前がそうか?」

「苦しみたくなければさっさと退け。楽に殺してやろう」

 海斗を前に口々に語り出すギガス。
 言っている事は違えども、その根底にあるものは同じ。

「まあ待て」

 その前に、一際屈強な体躯のギガスが歩み出た。
 十二宮がアテナを守る為の砦である以上、それらを繋ぐ回廊も侵入者に対する備えを考慮されている。
 特にこの場で最もギガス達に影響を及ぼした事は通路の幅の狭さであった。
 並の人間よりも一回りも二回りも巨大な体躯を持つギガス。
 それが十人も集まればまともに動けるものではない。
 そして、どれ程数を引き連れようとも正面から対峙するしか無く、同時に仕掛けられる人数も限られる。
 そこまで考えての行動であったのか、単なる驕りであったのか。

「たかが聖闘士の小僧一人に我らが全員で掛かる必要もあるまい。このギガス十将の――」

「うるさい黙れ」

 口上を待ってやる義理は無い、とばかりに海斗が口を開く。
 そしてギガスが名乗りを上げるよりも速く、放たれた拳がギガスの顔面を打ち抜いた。

「ガッ!?」

「遅い」

 次いで胴体に一撃。
 巨体をくの字に折り曲げて崩れ落ちようとするギガスの身体を「邪魔だ」と蹴り飛ばす。
 そして、海斗は密集状態にあったギガス達の中心へと飛び込んだ。

「な、何いっ!? エウリュ――」

 小僧と侮っていた相手からの予想外の一撃に、ギガス達から余裕が消え去った。

「き、貴様あぁあッ!?」

「許さんぞ小僧!!」

 拳を振り上げて海斗へと迫るギガス達。

「兄ちゃん!!」

 危ない、と。その光景を見ていた貴鬼が叫ぶ。
 死ね、と。ギガス達が叫ぶ。

(集束させる……もっと鋭く、もっと速く!)

 シュラは言った、小宇宙を研ぎ澄ませと。
 その言葉を思い出し、海斗がイメージするのはエクスカリバー。
 求めるのはあの鋭さと速さ。
 目の前に立ち塞がる全てを撃ち貫くための力。

「エンドセンテンス!!」

 海斗を中心に放たれる青い光弾。
 それは海斗の小宇宙の高まりに応じるように徐々にその形を変えていく。細く、鋭く。
 
「な、何だこの光は!?」

「ひ、光が……」

 遂には光弾は無数の閃光と化して、群がり来るギガス達の身体に無数の軌跡を描き――深く、鋭く、その身へと破壊の力を刻み込んでいた。

「うぎゃああーーーーーーッ」

 嵐の様に吹き荒れる巨大な小宇宙。
 爆発にも似た轟音と、それに混じるギガス達の絶叫。
 巨体が弾かれるように次々と宙へと舞う。

「ッ!?」

 眩いばかりの輝きに思わず目を閉じてしまった貴鬼。
 だから分らなかった。
 黄金の光を放った聖衣の輝きを。
 海斗の身体から立ち昇った小宇宙のビジョンを。
 天駆ける天馬がその姿を変えようとしていた事を。



 やがて、舞い上げられたギガス達が次々に地上へと叩きつけられていく。
 呻き声も無ければ、身動ぎする気配すら無い。
 双児宮の前に訪れる静寂。
 海斗を中心として激しく吹き荒れていた小宇宙は、まるで凪の様に穏やかな静まりを見せていた。

「やっぱり、あの切れ味は俺には無理だな。貴鬼、終わったぞ」

 静寂を破ったのは海斗の声。
 ポンと、頭の上に置かれた手の感触に貴鬼は顔を上げる。

「どうやら上でも戦闘が始まったな。俺は行くが貴鬼、お前は――」

 ジャミールへ戻れ、と言おうとした海斗であったが、

「おいらも行くよ! 大丈夫、危なくなったら隠れるからさ」

「……離れとけよ、巻き込まれても知らんからな」

 言われると思ったとばかりの貴鬼の反応に、隠れてコソコソされるよりはマシかと、妥協する。

「行くぞ」

 そう言って、海斗は十二宮を駆け上がる。



『戦うのですか?』

 ジャミールを離れる前にムウはそう海斗に尋ねた。

『今の貴方にはこの戦いに関わる理由がありません。違いますか?』

 セラフィナは気にもしてはいないだろうが、海斗は命を救われた事を恩だと感じているし、大きな借りが出来たと思っていた。

「借りを作ったままで放っておけるか」

 拳を握り締め、ただ前だけを見る
 目指すのは十二宮最奥へと続く教皇の間、エキドナの居る場所。





 第16話





「どうやら、この辺りは片付いたみたいだね」

 瓦礫に腰掛け、聖衣についた埃を払い落しながら魔鈴が呟く。
 その身に纏うのは鷲星座(イーグル)の白銀聖衣。
 プロテクターとしての防御特性を特化させた白銀聖衣にあってイーグルの聖衣は敏捷性を重視した物であり、纏う部位は必要最低限の部位に留められている。

「まあ、所詮コイツらはギガスにとっての雑兵なんだろうさ」

 魔鈴の呟きに答えるシャイナもその身に聖衣を纏っている。
 蛇遣い星座(オピュクス)の白銀聖衣。
 イーグルの聖衣と同じく敏捷性を重視している為か、身に纏う部位は青銅聖衣並に少ないが、上半身だけで言えばイーグルの聖衣よりもパーツが多く身を守る範囲も広い。

「こんな風に、ね」

 そう言ってシャイナは足下に倒れているギガスの徒兵の身体を蹴り転がした。
 邪魔な小石を蹴飛ばす、その程度の動作。
 その僅かな衝撃で、倒れ伏していたギガスの身体が崩れ去り塵となった。
 風が吹き、塵と化したその身体を空へと舞い上げていく。
 それを目で追いながら、そう言えばとシャイナは魔鈴に問うてみた。

「……アンタ、星矢はどうした?」

 二人が居るのは居住区から少しばかり離れた小高い丘。
 ここからは居住区全体を見渡す事が出来る。
 聖域全体からは未だ戦いの気配は消えてはいないものの、幸い居住区への被害は未然に防げた事は見て取れた。
 そして、悪意ある巨大な小宇宙がそれを上回る小宇宙によって次々と消えている。
 その事を感じ取り、こうして世間話を持ちかける程度の余裕がシャイナにも生まれていた。

「おれも戦う、なんてふざけた事を言ったから寝かしつけてきた。今頃良い夢でも見ているだろうさ」

「そりゃあまた随分と過保護な事で」

「勝てない相手に挑んで殺されるのは星矢の勝手さ。でもね、この四年間の苦労が無駄になるのは面白くない……それだけだよ」

「無駄、ね。だったら一日も早く聖闘士になる事を諦めさせてやったらどうだい? 星矢じゃあたしが育てたカシオスには勝てないよ。今までもそうだったし……これからもそうさ」

「それが出来れば楽なんだろうけどね。諦めろと言って諦めるような奴ならとっくに日本に帰っているよ」

 魔鈴はそう言うと、無駄話は終わりだと言わんばかりに立ちあがり、周囲の様子をうかがい始めた。
 意識を集中し、感覚を広げる魔鈴の身体からは、うっすらと小宇宙が立ち昇っている。
 シャイナには分らない感覚であったが、空から周囲を俯瞰する、そういうイメージなのだと魔鈴から聞いた事があった。

(こういう繊細さはあたしには無いな)

 好きか嫌いかで聞かれれば、迷う事なく嫌いと答える。シャイナにとって魔鈴はそういう相手であったが、その能力は認めていた。



「何だ? 今感じた小宇宙は……アイツの?」

 僅かに感じた覚えのある小宇宙。
 一種のトランス状態となった今の魔鈴に話し掛けたところで返事が返る事はない。

「まさか、ね」

 それはないか、と。
 手持無沙汰となり、さてどうするかとシャイナが視線を動かし――違和感にその動きを止めた。

(何だ?)

 見晴らしの良い丘の上。
 ここにいるのは自分と魔鈴の二人だけ。
 周囲にあるのは朽ちた遺跡の瓦礫とギガス達の塵と化していく骸。
次々と“撒き上がる”塵。

「風は……吹いていない。なのに――塵が撒き上がる!?」

 魔鈴は何も感じていない。自分も何も感じない、見えもしない。
 半身を下げ身構える。
 気配は無い。
 それでも、拙いと、感覚が訴える。
 感覚に従い思考を打ち切る。
 今は考えるよりも動け、と。
 塵が撒き上がる場所。何も無い筈のその場所へ拳を撃ち込む。
 音速を超える拳撃、放たれる衝撃波。
 二発、三発と続けて放つ。
 拳撃は空を切り裂き大地を穿つ。
 手応えは――ない。

「シャイナ!」

 焦りの籠った魔鈴の声。
 何だ、と問う間もない。

「ッ!?」

 四方から迫る圧迫感。
 脇目もふらず、シャイナはその場から急ぎ飛び出した。
 その直後、大地に十字の亀裂が奔る。
 背後から吹き付ける熱波と飛礫、そして轟音にシャイナの身体が吹き飛ばされる。

「っくぅううう!!」

「シャイナ!?」

 魔鈴は叫び、シャイナのもとへと駆け寄ろうとして気付く。

(飛礫が――砂塵が“あの場所にだけ”届いていない)

 魔鈴の視線の先。遮る物が何もない、見晴らしの良いこの場所で、そこだけが何かに遮られているかのように影響を受けていなかった。

「まさか、小宇宙によって姿と気配を消しているのか? 試す価値はある!」

 右足を引き右拳を腰だめに構える魔鈴。
 相手の正確な位置が分らない以上、必要となるのは手数。

「流星拳!」

 それは、秒間百発以上の拳を放つ音速の連撃。小宇宙の散弾。
 無数の拳撃が空を切る中、鈍い音を響かせて遂に数発の拳が見えぬ敵を捉えた。

「そこか! よくもやってくれたね、倍にして返してやるよ!!」

 好機とばかりに立ち上がったシャイナが追撃を仕掛ける。
 今まで見えなかった敵の姿が、じわりと空間に浮かび上がろうとしていた。

「コイツを喰らった奴は口を揃えてこう言うのさ――電撃を喰らったようだ、とね」

 右手の指先を鉤爪の様に曲げ小宇宙を込めて大きく振り上げる。

「受けてみな! サンダークロウ!!」

 雷の爪。その名の通り、シャイナの繰り出した拳は落雷にも似た轟音を響かせて見えざる敵へと打ち込まれた。

「ハッ、どうだい!」

 確かに感じた手応えにシャイナは勝利を確信し――



『ほう。私の存在に気が付くとは、女の身でありながら――見事。しかし神である私に対して拳を向けるその姿勢、やはり人間は邪悪』



「な、何だ!? 直接脳裏に響いてくるこの声は!」

「小宇宙が、巨大な小宇宙がヒトの形を!? お、大きい……十メートル以上? マズイ!! 駄目だ! 離れろシャイナ!!」

 距離を置いていた魔鈴だからこそ気が付く事が出来た。
 シャイナでは近過ぎて気付けなかった。
 そこに現れたのは群青の炎を纏った巨人。

「我が名は群青(キュアノス)の炎(プロクス)。神の前ぞ。さあ、平伏せ娘よ」

 無造作に振るわれる巨腕。
 ただそれだけの動きであったが、巨人が身に纏う破壊の小宇宙はそれすらも必殺の技とする。

「!?」

 目前に迫る破壊の力。
 シャイナがそれに気付いた時にはもう遅い。
 先のダメージもあった。
 受けるのか、避けるのか、相討つのか。思考が身体に追いつかない。身体が思考に追いつかない。

「あ、あ……」

 視界の中、魔鈴がこちらへと飛び出そうとするのがシャイナには分った。
 無駄だ、と言ってやりたいがそんな猶予が無い事は理解している。
 迫る拳。
 この時、不思議な事に、シャイナはこの場を中心として聖域全体の様子が手に取る様に解る、そんな奇妙な感覚を経験していた。

(死を前にして小宇宙が爆発したって事か、この感じは)

 身体は動かない、なのに思考は澄み渡る。
 今まで感じ取れなかった各地の小宇宙が判る。
 生命と小宇宙は必ずしもイコールではないが密接な関係にある事に違いは無い。
 実際、極稀ではあったが五感の一部を失った聖闘士の中には、以前よりも遥かに小宇宙を高める事が出来る様になった者もいたという。

(だからってこんな時に。あ~あ、こんなのがあたしの終わりとはね)

 悔いは有る。やりたい事もすべき事も。自分は死を目前にしても生き足掻く。
 そう思っていただけに、妙に達観している今の自分に苦笑する。

 迫り来る死の瞬間。

 ふと、自分が死んだと聞いたらあいつはどう思うのか、と。瞳を閉じたシャイナはそんな事を思い浮かべて――

「……?」

 何時まで経っても訪れない衝撃。
 何も感じる間も無く死んでしまったのか。
 ならば、今こうして思考している自分は何なのか。
 死を意識した瞬間のあの奇妙な感覚は既に無い。
 愚にもつかない事を考えながら、そうだった、とシャイナは閉じていた瞼を開く。

 視界に広がる一面の赤。
 風に吹かれて空へと舞い上がる薔薇の花弁。
 その中で悠然と佇むのは黄金の輝きを纏いし聖闘士。
 右手に持った一輪の薔薇でプロクスの拳を止めている。

「急ぎ戻ってみれば……全く、情けない事だ。シャカやアイオリアが居ながら……この聖域を汚らわしい巨人族の血で染める事になるとは。実に嘆かわしい」

「……何者だ貴様」

 問い掛けるプロクスの口調が固い。
 それも当然。
 花一輪で自分の拳を止める。そんな事が出来た相手など話にも記憶にもない。

「我が名はアフロディーテ。ピスケスのアフロディーテ」

 羽織っていた純白のマントを翻し、アフロディーテが名乗りを上げる。
 それに応える様に、宙を舞っていた薔薇の花弁が螺旋の渦と化して一斉にプロクスへと迫る。

「ぬうっ!? 小賢しい真似を」

 視界を埋め尽くさんばかりの赤。
 小宇宙の込められたそれは、プロクスの視界を奪っただけではなく、感覚すら狂わそうとしていた。

「そこのシルバー二人、あのギガスの相手はこのアフロディーテがしよう。君達はここから離れたまえ、邪魔だ」

 敵の姿を見失い動きを止めたプロクスを前に、シャイナ達へと淡々と言い放つアフロディーテ。

「なっ!」

 助けられた事は感謝するが、邪魔だと、こうもハッキリ言われて引き下がれるシャイナではない。

「よしなシャイナ。相手は黄金聖闘士、大人しく従うものさ」

 いきり立つシャイナを抑え、ほら行くよ、と魔鈴がシャイナの腕を取る。

「フフッ、分れば良い。それに、どうやらまだ戦闘を続けている地区もあるようだ。ならば、君達はそこに向かいたまえ」



「……素直に自分に任せろと言えばいいのにねぇ」

「何か言ったかイーグル?」

「いえ、別に」




「ええい、この程度!!」

 プロクスが拳を引き構えをとった。
 小宇宙によって生じた炎が拳を包み込む。
 炎を宿した両手を広げ、それを宙を舞う花弁目掛けて振り下ろした。

「我らギガスは大地――ガイアの加護を受けし者! 大地に宿りし炎の力の前にこの様な花弁など!!」

 その言葉の通り、次々と燃え上がり灰と化していく花弁。
 視界が晴れ、プロクスの視線の先にはただその場に立ち尽くすアフロディーテの姿が見えていた。
 握り締めていた拳を開き、纏った炎が指先へと伸びる。

「焔爪鞭!!」

 それは片手に五本、計十本の炎の鞭となってアフロディーテへと襲い掛かった。
 アフロディーテは動かない。

「神の裁きを受けろ!」

 振り下ろされる炎の鞭。
 空を裂き、大地を抉り、アフロディーテの身体を捉える。
 聖衣を引き裂き、粉砕し――その身を燃やし尽くした。

「愚かなり、人間よ」

 業火の中で崩れ落ち灰となったアフロディーテの姿を一瞥すると、プロクスはその場から立ち去るべく踵を返す。
 先程から共に聖域へと侵入した十将や兵神達の小宇宙を感じ取れなくなっている。
 その事がプロクスに焦りを生む。

「封印から目覚めたばかりとはいえ、たかが人間に敗れたのか?」

 あり得ぬと、逸る気持ちを抑えて一歩を踏み出し

「……ほう、万全であれば負けぬと? 自ら攻め込んでおきながら、その言い訳は実に見苦しい」

「何!? 馬鹿な!! 何故貴様が生きている!? 灰と化した筈だ!!」

 聞こえた声に振り返る。
 そこには目の前で灰と化した筈のアフロディーテが何事も無かったかのように悠然と立っていた。
 焔爪鞭で砕いた筈の聖衣には傷一つ無く、焼き尽くした筈のその身には傷一つ見当たらない。

「こ、これは一体? 私は幻でも見ていたと言うのか!? それに……何、だ? 力が……入らぬ……」

 突如として全身を襲う脱力感。 
 膝をつき頭を垂れるプロクスの目に、自らの四肢に突き刺さる紅い薔薇が映った。

「その真紅の薔薇はブラッディローズ。お前の血を吸って紅く染まった白薔薇だ。そしてこれが――」

 動揺するプロクスを前に、アフロディーテはそう言って一輪の赤い薔薇を差し出した。

「デモンローズ。良い香りがするだろう? と言っても、本来のデモンローズに比べて色も香りも劣る物だ。
 この香気を吸った者は幻に囚われ、まどろみの中ブラッディローズによって思考と体力を奪われる」

「馬鹿な、一体何時の間に? その様な物は……まさか!!」

 そこでプロクスは思い出した。
 目の前の聖闘士が現れた時の事を。薔薇の花弁に包まれて現れた事を。

「あの宙を舞っていた花弁がそうだったと言うのか!?」

「気付いた時にはもう遅い。このアフロディーテと対峙した時、ギガスよ、お前は既に敗北していたのだ」

「お、おのれぇええええええッ!! 認めぬ! 神が人間如きに屈するなどあってはならぬ!! うオォオオオオオオオ!!」

 プロクスの身体から吹き荒れる小宇宙が炎となって、周囲の色を紅蓮に染め上げる。

「神を前にしてのその傲慢、許すまじ! 神に逆らう人間よ! 貴様は邪悪だ!! 私の手によって神罰を与えられなければならない!!」

 生み出した炎によって四肢に突き刺さったブラッディローズを焼き払い、プロクスは咆哮を上げてアフロディーテへと迫る。

「愚かな。美しい薔薇には棘があるのだ。無碍に手折れると思っているのならば、それこそがお前達ギガスの傲慢であると言わざるをえない」

 アフロディーテの手にした薔薇の色が変わる。赤から黒へ。

「実に醜悪。だからこそ、せめて散り際だけはこのアフロディーテが美しく飾ってやろう。舞えよ黒薔薇! ピラニアンローズ!!」

「花弁如きでこの焔爪鞭は止められん! 燃やし尽くして――な、何だとぉお!?」

 目前の光景に驚愕するプロクス。
 アフロディーテの放った無数の黒薔薇は焔爪鞭に触れて燃え尽きるどころか、逆に焔爪鞭の炎が掻き消されていく。
 それは、触れる者に死を与える毒を秘めた黒薔薇。
 それは、触れる者全てを破壊する棘を持った黒薔薇。
 そして、遂に黒薔薇がプロクスに触れた。
 亀裂を奔らせて次々と砕けていく金剛衣。

「こんな事が……こんな事が……」

 それが、プロクスが残した最期の言葉であった。





 行く手を遮る兵士達を歯牙にもかけず吹き飛ばし、立ちはだかる青銅聖闘士や白銀聖闘士達をその巨躯を持って象が蟻を踏み潰すが如く粉砕した。
 侵略して勝利する事。
 蹂躙して支配する事。
 それが暴力の権化であるギガスにとっての全て。
 白い巨人アネモスと黒い巨人ブロンテーの戦いは、正しくギガスの在り方そのものであった。

 しかし――

「ば、馬鹿な! 身動きがとれぬ!? それにこの巨大な小宇宙!?」

「人間が……人間如きの小宇宙が我等に匹敵するなど――ありえん!!」

 その暴力の権化が今、明らかな怯えを見せて恐怖に揺らいでいた。
 目の前に立つ二人の聖闘士を前に。

「リストリクション。ヒトのカタチをしているからと思い試してみたが……。蠍の一指、効果はあったようだな」

 全身の感覚を麻痺させて、拳を振り上げた体勢のまま動きを止めたアネモス。その前に現れたのは蠍座の黄金聖闘士ミロ。
 ゆっくりと、右手の人差し指をアネモスに突き付ける。その爪は紅く鋭い。

「これ以上、お前達の好き勝手に出来る等と思うな」

 片膝をつき腹部を抑えて蹲るブロンテー。その前に立つのは獅子座の黄金聖闘士アイオリア。
 静かな口調とは裏腹に、その身から迸る小宇宙は熱く激しい。
 ギシリと音が鳴る程に力強く握り締めた右拳を、ブロンテーの眉間へと突き付ける。

 力無き人々の嘆きの声を聞き、アイオリアにその“拳”を止める理由は無い。
 戦士達の血に濡れた巨人を前にして、ミロには“慈悲”を与える理由が無い。

 ブロンテーはアイオリアの背後に吠え猛る黄金の獅子の姿を見た。
 アネモスはミロの背後にその毒針を今まさに自分へと向ける巨大な黄金の蠍の姿を見た。

「もはや問答無用!」

 その言葉に込められた思いに違いはあれど、奇しくもアイオリアとミロの啖呵は一致していた。

「ライトニングボルト!!」

 アイオリアの右拳が輝きを放つ。
 それはアイオリアの必殺の拳。
 光の一撃。全てを破壊する光速の拳。

「スカーレットニードル。今から放つこの技は蠍座の星の数、すなわち十五発を撃ち込む事で完成する。
 本来であれば降伏か死か、その十五発の間に考えるゆとりを与える慈悲深い技ではあるが――お前達には必要あるまい!!」

 ミロの右手から放たれる赤い閃光。
 針よりも細く、髪の毛よりも細く。
 相手の中枢神経へと直接撃ち込まれるその一撃は、蠍の毒のような激痛を相手に与える。
 アネモスの身体をキャンバスに見立て、蠍座の軌跡を描くように正確無比に撃ち込まれたその数は十四。

「蠍座の心臓部に位置する赤い巨星。スカーレットニードルの致命点、最後の一指を受けよ。スカーレットニードル――アンタレス!!」

 アネモスの肉体に刻まれた蠍座の刻印。
 蠍の心臓を狙った致命の一撃。
 それは、アネモスの心臓の位置と一致していた。

 光。それが、ブロンテーが最期に思った事。
 熱。それが、アネモスが最期に認識できた事。

「――――――――!!」

 大気すら震わせる絶叫。
 最早声では無く周囲へと響き渡る轟音。
 砕け散る金剛衣。破片を撒き散らしながら衝撃に吹き飛ばされる白と黒の巨人。
 それは互いにぶつかり合い、鈍い音を立てて大地へと崩れ落ちた。





「もう一度言いましょう。聖闘士を――甘く見ない事です」

 シャカの言葉に嘘は無い。それはデルピュネにも理解出来ていた。
 感じ取れる小宇宙は確かにエクレウスのもの。
 しかし、デルピュネは困惑していた。ジャミールで対峙した時とは明らかに小宇宙の高まりが違う。

 そして――

(馬鹿な、この地に侵入した他の者達の小宇宙が感じ取れぬ)

 十将だけではなく、王に黙って兵神すらも動かした。
 必勝を期しての侵攻であった。
 勝てると、そうヤツは言っていたのだ。
 今の聖域にアテナは無く、兵も無いと。

「ク、ククク、クハハハハハハッ! そうか、そう言う事か!! 口惜しい! 口惜しいぞ!! アハハハハハハハハ!!」

 そう叫ぶや否や、デルピュネは仮面を抑えながらまるで気が触れたかの様に哄笑を始めた。
 そのあまりの様子に、サガもカミュも、目の前で対峙するシャカでさえ思わず動きを止めてしまう。

「王は知っていたのか? 所詮我等は贄か!? そんな事が認められる筈があろうものかッ!!」

 気鬼迫る、そう形容するに相応しいデルピュネの変貌。
 そして、振り上げた右腕から迸る炎が無差別に撒き散らされる。

「……これは」

 迫る幾つかの炎を相殺しながら、勢いこそ激しいが先程までと比べてあまりにも威力が無い事にシャカは疑念を抱く。
 何かの策か、そう考えたシャカであったがその答えは即座に明らかとなる。

「最早貴様等の相手をしている暇などはないわ」

 天高く舞い上がったデルピュネが、その身体を何も無い空間へと溶け込まそうとしていた。
 アンブロシアと言う物にあれほどの執着を見せておきながら、突然の逃げの一手。

「逃がさん」

 その動きに反応したのはカミュ。
 転移される前に仕留めると拳を向けたが、突如左右から迫って来た炎の蛇にその動きを止められてしまう。

「これは先程の炎か!」

 無差別に放たれたかに見えた炎は、巨大な炎の蛇の姿となってこの場にいる者達全てを焼き尽くそうと動き出す。
 カミュが見上げた先では既にデルピュネの半身は空間に溶け込んでいた。

(間に合わない)

 そう考えた瞬間、カミュの目がデルピュネへと向かう一筋の光を捉えた。
 それは純白の聖衣を纏った聖闘士。エクレウスの海斗。

「キ、キサマ――」

 デルピュネもまた迫り来る海斗の姿に気付いていたが、既に転移に入っていてはどうする事も出来ない。
 伸ばされた海斗の手がデルピュネの肩を、その身に纏っていた金剛衣を掴む。
 そこにビシリと亀裂が奔った。

「セラフィナを返してもらう。聞けないと言うのなら――」

 ぞくり、と。静かに告げる海斗の様子にデルピュネの身体が震える。

「叩き潰す」

 そう言って、海斗はデルピュネと共に聖域の空からその姿を消した。


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