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No.17608の一覧
[0] 【習作】惑星でうなだれ(現実→惑星のさみだれ)[サレナ](2010/03/28 09:58)
[1] 中書き[サレナ](2010/03/28 09:57)
[2] 第1話[サレナ](2011/08/01 03:37)
[3] 第2話[サレナ](2010/03/28 22:43)
[4] 第3話[サレナ](2011/08/01 03:37)
[5] 第4話[サレナ](2010/07/31 04:00)
[6] 第5話[サレナ](2011/08/01 03:38)
[7] 第6話[サレナ](2011/08/01 03:47)
[8] 第7話[サレナ](2011/08/01 04:18)
[9] 第8話[サレナ](2012/08/03 00:02)
[10] 第9話[サレナ](2013/12/01 01:09)
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[17608] 第4話
Name: サレナ◆c4d84bfc ID:4645a4fd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/31 04:00
「……いただきます」

「普段マトモなの食べてないでしょ!
 夕日の大好きなカラアゲ作ってあげたわよ!」

目の前にはこんもりと皿に積み上がったカラアゲ。
山と用意された好物に腹の虫は煩く鳴いている。
一つつまんでみると、サクサクとした食感と、中から零れ出る肉汁の味が口の中に広がった。
美味しい。
ひょいひょいと箸が進み、ご飯も味噌汁も一緒に無くなっていく。
ただ、流石にこの量は食べきれないんじゃないかと思う。
僕に比べて小石の皿はあまり減っていない。
何気に巻き添えを食らわせてしまった気がしないでもないが、折角おばさんが腕を振るってくれた手前何か言う訳にもいかず、そのまま食事を進めた。

「どーお? 今の生活の調子は」

「順調ですよ」

予想外の出来事に巻き込まれてドタバタしているが、そのおかげで姫と出会うことが出来た。
今はまだ無力な自分だけど、彼女の力になりたいという明確な目標が見える分、頑張り甲斐が在る。
姫繋がりで氷雨先生ともよく話すようになり、学校もそれほど退屈しない。
朝は食事をご馳走になっているし。

「サークルとか入ったのかい? まあバイトが忙しいかもしれないけど、友達もちゃんと作りなさいよ」

「はい……」

指輪の騎士の一員というのもある意味サークルだろうか。
まあ所詮、最終的に敵対する以上、友達になろうとは思わないが。
もともと友達なんて作る気も無いけど。

「あ、そういえば、小石」

「何、夕兄?」

友達と聞いて、この前会った小石の幼馴染の事を思い出した。

「この間、向こうで天川君に会ったよ」

「天川って、もしかして彦君?」

「ああ」

「あら、そういえばあの子もそっちの方に進学したんだったかしら」

この家族の方が余程馴染み深いだろう彼の話は、小石もおばさんも興味をそそる内容らしい。

「彦君どうだった? 元気そう?」

「そうだな。といっても、僕も簡単に挨拶したくらいだからそんなに詳しく分からないけど」

「いきなり高校デビューとかしてなかったかい?」

「もー、彦君がそんな事してたら雪が降るよ」

「あら、ああいう大人しそうな子が、案外環境が変わると弾けたりするのよ?」

「彦君は大人しいけど、もともと弾けてるよ」

「いや、どんな奴だよそれ」

思わず入れる突っ込み。
小石がフォローしていたが、おばさんがからかって笑い、おじさんは黙々と料理を食べていた。
その席に、僕も一緒に混じっている。
暖かい食事と明るい話し声が広がる光景。
この家の食卓で、こんな風に暖かい食卓を囲うのは随分久しぶりだった。



「明るい家族だな」

頭にタオルを乗せて湯に浸かる。
湯船の縁に掴まるようにして、ノイも風呂に入っていた。
お風呂を堪能するトカゲを見るのは初めてだ。

「小石殿とは仲が良いのか?」

「どうかな? 小さい頃は結構懐かれてたと思うけど、最近はそんなに会う事も無かったから」

もともとこちらから親戚の家に行くような機会はそんなに無かった。年に1度在るか無いかくらいの筈だ。
基本的に祖父は自分から誰かと交流を持とうとしなかったし、子供の自分だけで遠出する訳も無い。
祖父の家に小石達一家が遊びに来た時に相手をしていた覚えが在るので、嫌われてはいないだろう。

「この間会った織彦という青年とは、元々付き合いが在ったのか?」

「いや、僕は特に無いよ。小石の家の隣に住んでいたから、あっちへ遊びに行った時に何度か会ったってぐらいだ」

それも結構うろ覚えだけど。
小石の友達で会った事が在るのは彼だけだったから、偶々印象に残っていた。

「そういえば、織彦殿も姫と同い年なのだったな」

「そうだけど……?」

「いやなに。あの青年を見たとき、何処と無くお前と似た雰囲気が在るように見えたからな。
 もしかしたら彼も姫を気に入るかもしれないなと」

ニヤニヤと笑うトカゲを逆さ吊りにしてやった。

「ええい、放せ! おろせ!」

「ほほう」

――もしや、姫狙い!?

いや、そもそも僕のは忠誠心だ。
もし僕に似ているというなら、恋慕では無く彼も姫にかしずきたかっただけかもしれない。
それに、たとえ姫が誰かを好きになったとしても、僕の忠誠には何の変わりもない。
いや待て。もしも恋人の存在が姫の目的を惑わすような事があっては……
って、馬鹿か僕は!
姫がそんなことで目的を見失う訳が無いだろう!
しかし主の障害になる可能性があるというならそれを排除するのは当然でありそれこそ忠義!
これは断じて嫉妬心だとかそんなんじゃない!

「どうやって消すか……」

「おい、なんだか前と比べてえらくしょーもない理由でその発言をしてないか……?」





第4話 透明人間と東雲半月





「さーて、次は、と」

地図を片手に町中を散策。
連休という事もあり、家族連れやカップルの姿がよく目に付いた。
昼過ぎからずっと歩き回っているが、人波も車も一向に絶える様子が見当たらない。
今日は歩いている間に、何度人とぶつかりそうになったか分からない。

折角の休みに俺が何をしているかといえば、いざ戦いが始まった時にどこから観戦したらいいか、ベストな場所を探して下見をしている所だ。
騎士であれば泥人形の出現は気配で察知することが出来るけれど、そこに馬鹿正直に真っ直ぐ向かっていては、戦闘の余波に巻き込まれてしまいかねない。
移動範囲の大きい戦闘もある筈だから、どこから覗き込めばよく見えるのか、巻き添えを避け易いかを考えておく必要がある。
それに、俺はまだここの土地勘が無い。
道に迷って目的地にたどり着けないような面倒、もとい無様は晒したくないので、今の内に調査しておこうという訳だ。

希望としてはビルの屋上なんかが良いと思う。
町中の戦闘は上から見下ろせるし、高い建物からなら山間部も眺め易い。
俺は良さげな建物を見かけては忍び込み、屋上に出られるかどうかを試し、そこが観戦に適しているか調べ続けていた。

「大小こだわらず見てるけど、どうにもしっくりこないなぁ」

「どうしてその努力を他の方向に向けないのでしょう……」

今見てきた場所は、大体似た様な高さの建物が連立しており、屋上から屋上へ移動する様な使い方には良いかもしれないが、かといってその移動範囲が景色を眺めるのに向いているかと言われるとそうでもない。
外から外観を見た時点で分かっていた事とは言え、毎回階段の上り下りをする訳だから溜め息の一つも出る。
屋上から建物の中に戻り、鍵を掛け直した。

鍵の開け閉めの問題は掌握領域を使う事で簡単に解決出来る。
まああまり精密な物は無理だけど。
内側のノブに摘みが付いた物なんて良いカモである。
残念な事に自分にはピッキング技術の持ち合わせは無いから、精密な鍵だと開けられない場所や、開ける事しか出来ない場所もある。
閉められない鍵では開けたまま放置する事になり、何度も繰り返すと怪しまれる恐れが在るので、あまりやりたくない。

「そろそろ日も暮れてきたし、今日の所は諦めた方が良いかもな」

「でしたら、早くここを出ましょう。なんだか身の危険を感じますし……」

「あー」

ザンが不安がるのも分かる。
さっき上ってくる途中、グラサンにスーツ姿のおっさん達が扉の前で直立しているのを見かけたからだ。

「どう考えてもかたぎの人じゃないですよ、あの方達」

「だからって、そんなにビクビクしなくてもいいんじゃないか?
 向こうからこっちは見えないんだし」

「それは分かっているのですが……」

それでも不安だと言う事らしい。
職業に貴賤無しとは言うが、かといって積極的に関わりたい人種ではない事は確かだ。
警戒して損は無い。
俺とザンは速やかに立ち去ろうと、こそこそしながら階段を下りていく。
そんな時、丁度通ったフロアの扉が開いて、会話が聞こえてきたので思わず覗き込む。

「それじゃ、また頼むな。風神」

「おっけーおっけー、この半月様の力が必要な時はいつでも呼んでくれ」

げ。

部屋から出てきたのは東雲半月。
その足元には犬が一匹。

「お、織彦さん! 犬の騎士がいますよ!(小声)」

「ザン、逃げるぞ!(小声)」

なんてこった。
よりにもよって半月が出入りしてた事務所のビルだったとは。
自分の迂闊さを恨めしく思いながらも慌てて階段を駆け下りた。
あの人は泥人形がどうとか関係なく、普通に気配とか察知してくるから、一刻も早くここから離れなくてはいけない。

「む」

「どうしたノコ?」

「今、逃げるように階段を下りていった者がいる……」

「なんだ、不振人物か?」

やばい!

俺は走る速度を上げると、飛び出すように建物から抜け出した。
しかしその直ぐ後から半月達も追っかけてきた。

「待て待てーい、何処だ曲者!
 ん? いないぞ」

「いや、あちらだ。姿は見えないが確かに人がいる」

「お! マジモンの透明人間かよ!?
 そりゃ捕まえるっきゃねー!!」

畜生、あのクソ犬、余計な事を!
俺はザンを引き連れて全力で駆けた。
兎に角距離を取らなくては。
下手に彼の間合いに入れば、その天才的感性という奴で理不尽に捕まえられるかもしれない。

人をかわしながら駆け抜け、時々避けた背中を押すなりして簡易障害物にする。
我ながら迷惑行為この上ない。
同じように突っ走ってくる人間がいるから、ぶつかった人の意識はきっとそちらに向くだろうと自分を誤魔化し、今はただ逃げ続ける。
幸い、こちらの姿が正視出来ないからか、半月の追ってくる速度はそれほどでも無い。
このまま距離をとっていれば、上手く撒く事が出来るかもしれない。

「うーむ、見えない相手を追うのも意外と難しいな」

「しかし匂いは誤魔化せん。そう易々とは逃すまい」

「あ、そうだ。ノコなら大体の位置わかんじゃん」

「何? おい、何をする!!」

「なんだ?」

騒がしい声に後ろを振り向く。
丁度人の波が途切れて半月の姿がはっきり見える。
彼は立ち止まったその場からこちらに向かって……

「いっけー!! スーパーノコミサイル!!」

「「な、投げたーーー!?」」

犬の騎士はまっすぐこちらに向かって飛んできた。
ぶつかればアウトだしここで避けても再び距離を取るのは無理だ。
だったらする事は一つ!

「どりゃあああああ!」

「ぐはぁっ!?」

俺は容赦無く犬をぶっ飛ばした。
悲鳴を上げて弾き返されたノコは地面に転がった。
敵の攻撃は防いだ。しかしこちらも足を止めてしまっている。

「そこかーっ!!」

距離を詰めた半月。

「くっ」

覚悟を決めてもう一撃、今度は半月に向けて放つ。
見えていない攻撃に、何がどうして反応できるのか、半月の手は攻撃を捌く為の位置に的確に構えられていた。
攻撃が防がれる。
見えない相手だろうとその技の冴えが淀む事は無く、彼の手は俺の攻撃を掴み取り鮮やかに投げ飛ばす。
――筈だったその瞬間、俺は領域の一部を解除した。
ニヤリと不適に笑っていた半月の顔が驚愕に染まった。

「マグロぉ!?」

「ぎゃああああああああ!!」

俺が攻撃に使ったのはザンだった。
バットのように振り回しノコを討ち取り、半月に向かって投げつけていた。
マグロは泣いていた。

驚いていても半月の腕が止まる事は無く、ザンの姿は明後日の方向に飛んでいく。
半月の意識が僅かに逸れた。
俺は地面に屈むと、街路樹の下に手を伸ばす。
そして握り締めたそれを半月に向かって投げつける。

こちらが動いた事に気付いたのか、半月こちらに顔を向けた。
だが攻撃方法は見えていない。領域は再び展開している。
防ごうと伸ばされた手は空を切り、手をすり抜けた後、顔面へと到達した。

ばふっ

「ぐわあーーーー! 目が、目がーーー!」

「半月!?」

砂による目潰しは見事に命中。
領域と併用して作った見えない目潰しは、流石の半月といえども回避出来なかった様だ。

「えげつない……」

いつの間にやらザンが近くに戻っていて、俺の攻撃手段にコメントを零す。
ムスカになってのた打ち回っている半月を尻目に、俺達は再び逃走を開始した。

まさに間一髪だった。
だがこれは所詮足止めだ。
向こうにノコがいる以上、少しばかり距離を取っても再び追い詰められるのは目に見えている。
音なら多少は誤魔化せる。
けど匂いは駄目だ。
どうにかして一度完全に見失わせない事には、このままジリ貧の状況が続いて最終的に詰んでしまう。
なんとか奴の鼻を誤魔化手段を考えないと……?



「――ふふふふ」



ゾクリと、背筋に冷たい物が走る。
いくつも角を曲がり姿が見えなくなっているが、悪寒を感じるこの方向は、間違い無く半月のいる位置だ。




「おい、半月」

「心配すんなってノコ。ちょこっとやり込められただけだ」

「むう……」

そこに、先程までの飄々とした半月の姿は無い。
楽しい相手を見つけたと言わんばかりに、その顔は凶暴に哂っている。

「おもしれぇ!! すぐおれ様が捕まえてやるぜぇ!!」

戦場に向けて駆け出す姿は、弟のそれと重なっていた。




「はっ、はっ、はっ」

見えない位置からもこのプレッシャー。
まださっき走っていた距離も進んでいないというのに、呼吸が辛くなってくる。
夕日の様に逃走に領域を使えない事が恨めしい。

「この殺気は泥人形を彷彿ほうふつとさせられます……」

「まったく、これだからチートは……!」

俺は全力で走っていたが、元々の運動性能が違い過ぎる。
徐々に徐々に距離が詰められているのが分かり、もう既に余裕は無い。

「あの、こちらに逃げても帰れないのでは?」

「寮に戻るのは無理だ。逃げ切れるとは思えないし、家の位置がバレてもヤバイ」

それ以上に、そこまで俺の体力が持ちそうも無かった。
どうせ今から完全に振り切るのは無理だ。
今出来るのは、相手が諦める程度に追跡が困難な状況を作ること。

俺は目的地を目指し一気に駆ける。
今日の散策が役に立った。
とは言えその散策が原因でこんな事になっているのだけど。
出来るだけ多くの角を曲がって追跡し辛くさせ、肺が苦しくなっても速度はけして緩めない。
急げ急げ急げ。
そのままどうにか追いつかれずに最後の角を曲がった所で、ザンの警告がはしった。

「織彦さん、来ます!」

「そこかああああ!」

滑り込むように曲がり角でブレーキをかけ、俺の位置を視界に捉える半月。
ここにいる事を確信している姿に、見えているのかと突っ込みたくなる。
もう後ろを確認する暇は無い。
背後の威圧感を無視してラストスパートをかけた。
見えていなくても迫る脅威を背中に感じる。
上体を前に。
踏み出す一瞬。
躊躇は無し。
跳躍。
俺は体を投げ出し、宙へ舞う。
スローモーションの様に漂う中、目だけ自分の居た位置に向けると、半月ががっしりと空を掴んだ所だった。

あ、ぶ、ねー……

川の真ん中で、盛大に水が跳ね上がった。




「成る程な。川に飛び込むことで匂いを消したか」

波打つ川面を見て、ルドは相手の行動を察する。
このまま相手が川に沿って進めば、正確な位置は分からなくなる。
わざわざ川を張ってまで探し続ける必要が在る相手でないし、今回は諦めた方が良いだろう。

「あーあ、逃げられちまった」

「気が抜けているぞ」

「わりーわりー」

半月に悪びれた様子は無い。
思わぬしっぺ返しを食らったようだが、本人は特に気にしていないようだ。
殺気を込めて追い回していたのも本気では無いのだろう。

「しかし、どうやらあれはカジキマグロの騎士か。
 おかしな能力を使う奴だ」

姿を消す能力。
補助系の能力を使う騎士は今までもいたが、ここまで徹底的に攻撃力を無視した能力というのも珍しい。
一体どんな人間が考えたのか。

「面白かったけどな」

「ふん。逃げるだけの能力など役にたたん」

「案外魔法使いを暗殺したり出来るかもよ?」

「こそこそしていて何をたくらんでるか分からん。梟の騎士の例もある」

騎士といえども千差万別。
誰もが半月の様に騎士に相応しい力と志しを持ち合わせている訳ではない。
騎士である事だけで信頼足り得ない事は過去に学んだ。

「機会があったら話せばいいさ」

結局は言葉を交わしてみなければ何も分からない。
逃げ回る騎士が今後も生き残っていたのなら、その時に問えばいい。
何を思って戦いに参加しているのか。
最強の騎士たる相棒から逃げおおせた相手の事を考えたまま、その場を去った。
きっと、ザンの相棒なら変わり者である事には違いない、と思いながら。




……。

「行きましたよ?」

ぶくぶくぶく

「ぷはっ」

ザンの言葉でようやく水中から顔を出し、潜めていた息を吐き出した。

「くっそー、死ぬかと思った」

(死んでもいいとか言ってた気が……)

「おいザン、言いたい事でもあるのか」

「いえ、特には」

物言いたげだったザンに睨みを利かせる。

「ふん、死んでもいいが、苦しい思いしながら死にたいとは思ってないんだよ」

バレテル!? と分かり易いリアクションを返すザン。
川辺まで泳いで行き、陸地に上がる。
全身が重い。
子供の頃と違って服が大きい分吸い込む水の量も増えているし、全力疾走を続けた事で体力も消耗している。
膝が笑いそうになるが、俺自身も笑ってしまいたい心境だ。

「いやー、やってる時は死にそうで考える暇なかったけど、この年で本気の鬼ごっことか結構楽しかったかもなー」

いやホント疲れたけど。
楽しいイベントではあったと思う。
精神的に疲弊するのはもう勘弁だけど。

「戦場に出れば嫌でも体感できますよ」

「嫌だから出ないって」

今日みたいに身の危険を感じながらの追いかけっこをもっと楽しみたいとか、何処のマゾですか。
まあ純粋に生き死にだけならそこまで精神的なハードさは無いとは思うが。
今回のは捕まったら戦場にかり出されるとかそういうピンチだったしな。
兎に角。

「しんどいのは勘弁って事で」

上着を脱ぐ。
絞ると大量の水が零れ出すのを見て、風邪引いたらどうしようかと思った。
濡れてる事自体は領域で隠せば問題ないんだけどね。
ポケットの中に手を突っ込んで、地図がおじゃんになっていた事に気付いて内心涙目である。
歩き出せば靴がぐちゃぐちゃで気持ち悪い。
憂鬱な気分のまま、そろそろ帰ろうかと思った矢先、携帯が鳴った。
そういえば携帯もポケットに入っていたんだっけと今更思い出す。
水没したというのに壊れていない事に気付いてほっとした。
買ったばかりで買い替えでは流石に懐が痛すぎる。
最近の携帯の防水機能の性能に感心しつつ、取り出して名前を確認すると、どうやら小石からのようだ。
通話ボタンを押し、耳に当てる。

「もしもし、天川ですけど、どーした?」

「あ、彦君?」

久しぶりに聞く耳慣れた声。
最後に会話をしたのが引っ越す前だから、もう一月以上経ってる事になる。
考えてみれば、これだけの期間小石と会っていないのは初めてかもしれない。

「あれ? もしかして外?」

車の騒音でも聞こえたんだろう。
日の暮れたこの時間帯に出歩いている事を不思議がられた。

「散歩してた」

「あはは、いつもふらふらしてたけど、今もおんなじなんだ」

中学の頃も放課後に適当に歩き回っていたので、その事を言ってるんだろう。
まあ今日のは目的在っての散策だけど。

「掛けなおした方がいいかな?」

「気にしなくていいよ。もう帰るだけだし」

服がびしょびしょのまま歩き回っていてはどう見ても不審者だ。
それに、また東雲さんに見つかったら今度こそアウトだろう。
掌握領域を展開しなおすと、帰り道を歩き始めた。

「それで、どうしたんだ、急に?」

「あ、そうそう。今こっちに夕兄が来てるんだけどね?
 夕兄が彦君と会ったって話を聞いたから、どうしてるかなーって思って」

それでつい電話したという事か。

「元気でやってる?」

「ああ。入学早々一週間休んだから体調は万全だ」

「何やってるの!?」

「まあ聞いてくれ。突然ペットを飼うことになったから色々入り用になったんだ」

「寮なのに良いの?」

「大丈夫だ。俺にしか見えないから」

「もっと現実を見ようよ……」

ああなんという事だ、まるで俺が頭の可哀想な人みたいに思われたじゃないか。
マグロというと夕日さんに気付かれかねないから誤魔化したのが仇になった。

「いやその、そう、スカイフィッシュだからさ」

「それって虫の残像じゃなかった?」

誰だよ、小石にどうでも良い雑学教えたの。

俺だよ。

「変な事言ってると、友達出来ないよ?」

「心配無い。初めからいないからな」

「作る努力をしようよ~」

心配性だなぁ、小石は。
良い子だけど、いらん苦労を背負い込みそうでお兄さんは心配だよ。

「なに、部活入る予定とかも無いし、そうそう困る事も無いって」

「彦君。私、彦君がどうしてその学校を選んだのか分からないよ……」

野次馬根性です。

事情を知らないと無目的にここに来たようにしか見えないよねやっぱり。

「前に言ってた、楽しそうな事、在った?」

「んー、これから、かな」

「そう?」

まだ泥人形とはすれ違っただけだ。早く観戦しやすい場所を見つけないと、と思う。
あんまりうろうろして、また今日みたいな目に遭っても困る。

「そっちはどうなんだ? 友達は増えたか?」

「うん。入ってすぐ、声かけてくれた子がいてね~」

その子の友達を紹介してもらったとか、部活で知り合った子がどういう子だったと説明する小石の声は弾んでいて、とても楽しそうな事が分かった。
新しい勉強が楽しい、最近祖父が笑ってくれるようになって嬉しい、と、新しい生活の素晴らしさを語ってくれる。
勉強と部活に加え、家事に祖父のお見舞いまであるというのに疲れた様子が無いのは、それだけ充実しているという事だろう。
ありきたりな毎日を楽しそうに過ごす小石と話していると、退屈退屈言っている自分の、なんと心の貧しい事か。
悟ったような事を言っていても、自分は彼女のようには到底なれないから、素直に感心してしまう。

荒んだ心に吹きすさぶ、春の夜風が身にしみた。

「ふえっくしゅ!」

「風邪?」

「いやぁ、川に飛び込んじまってさ」

「え~、また?」

「またとか言うな」

小石の中で俺はどれだけ川に飛び込むキャラクターになってるのか小一時間問い詰めたい。

「駄目だよ、体に気をつけないと。一人暮らしだと熱出しても看病してくれる人いないんだからね?」

「はーい」

「もう……」

何故だろう、いつもいつも小石には呆れられている気がする。
日頃から影薄く何事も無く過ごしている筈なんだけどなぁ。

『小石ー、お風呂空いたぞー』

「わかったー!
 それじゃ、もう切るね」

「そうか。そっちも体に気をつけろよ」

「うん、川に飛び込まないようにする」

「言ってろ。じゃあな」

「またね、彦君」

電話が切れた頃には、もう家の前だった。


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