ブログのみに転載していましたが、
「まぁ下げ投稿なら良いか」という軽い気持ちで投稿。
本編や今までの番外とは全く雰囲気が違う可能性があります。
また、一郎に恋愛ENDはないわーという人は読まないことをオススメします。
まぁ一体何人の方が下げ投稿に気付いてくれるかが問題ですけどね。
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はたして今の交友関係はどのように築かれていったのか、ふと気になるときが来る。
それは俺がホームレスという普通ならばそういう友情だとか愛情だとか魔法だとかに無縁な立ち居地。
もしくは職業ともいえるかもしれないが、どうしてこうなったと考えるときがあるのだ。
別に黄昏ているわけでも、達観しているわけだが非常に不思議に思うことではある。
思ったところであまり深く考えず、まぁ生きているからいいやで思考を終わらすのもまたいつものやりとり、心の中でのことではあるのだが。
◆
一郎は全く分かっていない、分かっていなさ過ぎると思う。
何が分かっていないかというと、それはもう説明しきれないほどの量になるので説明は省くが。
それをあえて、じゃあ二十字で表せというのであれば、「分かってない、分かってないよ!」である。
だからって一郎にばれたら恥ずかしいってものじゃないけどね。
でも、やっぱり……
「何で分からないのかしら」
公園で一人寂しく、まるでリストラされたサラリーマンのごとくブランコに座って言ったその言葉は、誰に聞こえるもなく消えていった。
いや、実際分からないのは一郎が私の気持ちに気付かないのが分からないのではなく、どうしてそんな事を思うようになってしまった自身についてだ。
なんであんな奴の事を好きになってしまったかが一番の謎、不可解、不思議である。
そこらへんどうなのかしら。
どこで、どこからこの気持ちの発端で始まりなのだろうか、これを知る必要があると考える。
もし、それを知ることが出来れば今更ではあるがあんな男と縁を切ることが出来るかもしれない……。
「な、何を考えてるのよ私はっ! 一郎と縁を切るだなんて……って、これじゃあまるで一郎と縁を切るのを恐れてるみたいじゃない!」
ああ、もうっ! 何なのよ!
もっと一郎がしっかりしてれば私がこんな気持ちになることも無かったじゃない!
悪いのは一郎よ。
そう、全部一郎が悪いのよ。
いつも……いつもふらっと勝手にいなくなって寂しい思いをするのは私……なんだから。
でも、いいわ。
寛容で偉大な私は許してあげるんだからね。
今はこっちにいるからいつだって会えるもの。
…………、
「あれ? 今私すごく恥ずかしいことを考えたような気が……」
自分で何を言ってるか考えてるかもだんだん分からなくなってきた。
というより、本当に自分が分からなくなってきた。
やっぱりこれは振り返りが大切ね。
今から先を考えたって、一郎の行動を読めるはずもないし、これから先発展しそうも無い。
なら過去から見習うことがあるかもしれないわ。
そうね、一郎と初めて会ったのはこの公園だったわね……。
襲われていた男達から助けてくれたのは、血だらけの顔をした自分と同世代くらいの子供だった。
今もその光景が簡単に思い浮かぶ辺り、相当ショックな出来事だったのか、それとも衝撃的な血だらけの顔を見たせいなのか、それとも……
「一郎と初めて会ったあの場面を忘れたくないから? ……ないわ、絶対に無いわ」
とにかく今も忘れることは無く覚えている。
一郎が命の恩人だった。
これは間違いなくそうであり、今も感謝もしている。でも、これは恋愛感情とは関係ないような気がする
だって命を助けられた借りというのはあまりにも大きく、どうやって返せばいいというのか。恋だの愛だの云々の話ではない。
しかし、一郎は借りのことは特に気にしていない。覚えていないようだった。
「一時的な記憶喪失……だったかしら? 覚えてないわよ、そんなどうでもいいこと」
そもそも今でこそ一郎のことはよく知っている分かっているつもりではあるが、あの時は実は助ける気が無かったのでは無いかと思う。
そうだったら……嫌、ね。
出来れば自分を助けてくれたという事にして欲しい。
しかし重要なのはそこではない。いや、重要かもしれないがもっと優先されるべき重要事項がある。
それは怪我が完治するまでの期間の間は、バニングス邸──私の家に共に暮らしていたことである。
その期間というのは僅かなものだった。
本当に少ない時間だった。
でも、その期間に自分が得たものはとてつもなく大きかった。
私は元々達観したような、面白みのない少女だった気がする。
そのせいか友達が出来なかった。
そのせいで虐めにあう事も少なからずあった。
その結果、なるべく人と関わらないようにした。
でも、虐めなんかに屈するわけも無く全て返り討ちにして見せたような気がする。
どうだったかなんて、正確な記憶はすでに分からない。
ただ覚えているのはあの時の一郎の言葉が私の世界を広げ、今の交友関係を築けるようになったという事。
なのはとすずかという親友を得、そこにフェイトやはやてといった新たな親友にも巡り会えた。
「あ、そっか。そうなんだ……」
一郎を意識するようになった時期なんて、分からないのだ。
過去を振り返ろうが結局いつからそういう感情を抱き始めたのか分からなかった。
よく考えれば分かることだった。
振り返った程度で分かるなら誰も恋で苦労はしないのだから。
「つまり、これは神が私に授けた試練ってことよね。ふふ、ならいいわ。その試練乗り越えてやろうじゃないのっ!」
この程度で屈するようなアリサ・バニングスじゃないわ!
こうなったら意地でも、一郎を私に惚れさせてやるんだから!
そう決意した時だった、ポケットの中のケータイが鳴り始めた。
着信を確認すればお父様からで、その内容は……
「……え! でも……うん、分かった」
お父様との通話が終わった後、どうしようもない虚しく悲しい気持ちが心の奥から溢れてくる。
そして思う。
もしかしたら、これが……タイムリミットかもしれない、と。
「初恋は実らない……現実になっちゃうわね」
◆
珍しくすずかがやってきた。
どうやら相談らしいのだが、その内容はアリサのことだった。
アリサは最近、自分の父親に結婚するように急かされているらしい。
確かに、アリサや俺なんかの年齢ならそろそろ考慮してもいいぐらい年だろう。
もちろん俺は考えたことも無いが、アリサはそうもいかないという事。
そりゃあバニングス家なんて言えば、かなり有名な資産家だし、その跡継ぎが必要になるのは分かる。
つまりは婿養子が必要なのだ。
アリサの父親、古く言えば政略などといった利益の為の結婚をしろというわけではなく、単にアリサのパートナーを見つけろという事らしい。
経営自体はアリサでもやっていけるが、それを一人で行うのは至難の業。
それを支える人が必要だと考えているらしい。
富豪にしては珍しく庶民的な人だなと思う反面、そういえば昔会ったときもアリサが一番の父親だった気がする。
つまりアリサには幸せな結婚をして欲しいということだろう。
しかし、それでも最近は見つけられないのならお見合いを、といった流れらしい。
まぁそれは富豪とかに関わらずよくあることじゃないかと思ったのだが、そうでもないらしい。
すずかが言うには、
「えっとね、私達ぐらいのお見合いになるとほぼそれで決まっちゃうというか……、ほら相手にも失礼に値するから……かな?」
つまりはお見合いしたらもれなく結婚まで行き着くらしい。
なんとも世間離れしているというか……理解しがたい世界ではある。
「で、その話を俺にしてどうするの?」
「どうするのって……一郎君。その言葉はさすがに私は無いと思うなぁ」
「無いって……一体……」
すずかが俺を侮蔑するような視線を送る。
すずかの表からはすずかには珍しく嫌悪の感情すらも読み取れる。
しかし、俺は何故そんな目を向けられるのか分からない。
別にすずかに軽蔑されても俺としては何も問題も無いが……。
「一郎君はまず自分の胸に手を当てて考えるべき。あとは、そうだね……アリサちゃんとの事を考えてみて」
「アリサ、ね」
昔は妹のような存在だった。
それから色々あって紆余曲折あって、今こうしてまたこの町に戻ってきたとき最初に出迎えてくれた。
いや、あれは待ち伏せだった気がするけど。
つまり今、俺にとってアリサの存在は……
他の人と俺との立ち居地はならとなんとなくなら決まっている。
なのはは魔法関連で、フェイトも同じと考えられるし、ドクターはホームレス関連。
残るはすずかとアリサだが……すずかはどちらかというよアリサに付き添って俺と関係があるという感じだ。
ならアリサは……
「アリサはなんで俺と関係があるのかな。そりゃ昔に色々と会ったがそれと今とは関係ないし。昔からの惰性とか?」
「結局分からないんだね。それはあまりにもアリサちゃんがかわいそうだよ」
「そう、言われてもね……」
「アリサちゃんあんなにも一郎君ことが」
「俺のことが?」
「……そこから先は私の言えることじゃ──ごめんね、電話が着たみたい」
そう言うとおもむろにすずかはポケットからケータイを取り出す。
通話に出ると、なんどか言葉を呟いた後通話を切った。
再びケータイをポケットにしまうと、張り詰めた様子でキッと俺を睨みつけた。
すずかが普段纏わないようなその雰囲気に、少し呑まれかけるものの何とか平静を装う。
「アリサちゃんね、今日お見合いを受けるんだって」
「そう……か」
おそらくこれで結婚相手が決まるのであろう。
あの父親がアリサにお見合いを進めるぐらいなのだから、よほど優秀でいい人なんだろうな。
そして結婚となれば立場というものができるだろう。
結婚すれば相手が出来るのだし、異性の俺、ましてホームレスの俺なんかには会えなくなるかもしれないな。
もう、二度と顔を真っ赤にし怒った表情でここに来る事もない……のか。
ふむ……そう思うと感慨深くなるものがある……かな。
ちょっと寂しい。
寂しい、ね。俺にしては珍しい感情かも知れない。
特に人にそういうのを抱くのは……喪失感、なのかもしれないが。
「まぁそれでアリサが幸せになれるならどうってことも──」
「それ……本気? 一郎君」
空気が凍りついた。
すずかのその言葉が、その雰囲気がこの場を完全に凍りつかせた。
俺でもさすがに……怖いと思うほどに。
「一郎君はアリサちゃんが幸せなら、なれるならそれでいい、って考えるの?」
「そ、そりゃあ結婚できるなら幸──」
「なら、一郎君が……一郎君が幸せにするべきじゃない?」
「は?」
いや、本気で何を言ってるのか分からなかった。
俺がアリサを幸せに?
何を言ってるんだ?
俺が……俺がアリサを幸せに出来ると本気で思っているのか?
そんなこと……そんなこと絶対ありえないのに。
「ありえないなんてありえない。これは一郎君が昔言ったことあるよね? 一郎君からすれば冗談のつもりだったのかもしれないけど、今ここが、今この時がそれだと思うよ」
「だから何を──」
「アリサ・バニングスは一郎君のことが好き」
「…………え?」
「二度は言わないよ。だから後は自分で考えて。でも、一言──
──アリサちゃんを不幸にしたら私は貴方を絶対に許さない」
すずかは最後にお見合いの場所だと思われる場所が書かれた地図を渡して、去っていった。
「どうしろって……どうしろっていうんだよ……」
俺は途方にくれたかった、しかし途方にくれる時間はほとんどなかった。
◆
アリサ・バニングス、アリサ・バニングス、アリサ・バニングス。
何度も、何度も心の中で呟く。
お前は俺の何なんだ。
俺はお前の何なんだ。
『アリサ・バニングスは一郎君のことが好き』
この言葉は俺の中で響き渡り、脳内を今も脅かしている。
お前は俺の何なんだ、と。
俺はお前の何なんだ、と。
アリサにとって俺は恋の対象。
アリサにとって俺は愛の対象。
そういうことなのだろうか。
いや、恋だとか愛だとかそんなのは俺にも分からない。きっとアリサにも分かっていない。
でも、俺が好きということは分かっているらしい。
アリサが言ったわけじゃない、アリサの心情を俺は知った。アリサがこれから結婚するかもしれないことも知った。もう、会えなくなる可能性がある事を俺は知っている。アリサもきっと分かっている。
アリサとはデート紛いの事をした。
アリサは年相応の女の子のように笑い楽しみ、俺も同じく疲れながらも楽しんだ。
だからそれはきっと楽しかった思い出。
思い出は忘れることはある。
忘れられない思い出もあるが、この思い出はきっと忘れられないのだろうと俺は何の根拠もなしに思う。
しかし、それ以前の思い出は……正直覚えていない。
なら、もしかしたらこの思い出も忘れてしまうかもしれない。
過去の経験から俺はそう予測する。
何の根拠も無い理由と経験から来る理屈。
どれもこれもが不安材料で不確かなものだった。
そして自覚した。思い出と同じように俺とアリサの関係というのもとても不確かで儚いもだったのではないかと。
俺がアリサに自分から会おうとはしない。
アリサは自身の身でわざわざ度々会ってくれた。
もしかしたら、俺はアリサが会いに来てくれるから会おうとしなかったのかもしれない。
そうだとすれば、俺はどれだけアリサに……。
「そうだな、これは借りだ。ホームレスに似合わないありえない出会いをくれた。出会ってくれたアリサへの借りだ。だから、たまには俺から会ってやらんとな」
借りは返さなくてはならない。
ホームレスという自由で身軽な身において借りはただの重荷でしかない。
俺はまだホームレスだ。
だから俺は借りを返すぞ、アリサ。
すずかからもらった地図を広げる。
どうやらお見合い会場はそう遠くない場所にあるようだ。
これなら走っていける。
10分……いや、5分で十分。
そう思いながらもすでに、全力全快の全力疾走の死力を尽くす勢いで走っている。
過呼吸? 酸欠? だからどうした、その程度で今の俺を止められるものなら止めてほしい。
今までだってどんな自然の摂理だろうが、理だろうがぶっ飛ばしてきたんだぞ。
会場が見えてくる。
それなりに大きく、警備員の姿も見える。
人の数は多くないが、俺はアリサに会うだけだ。
正面から堂々と突入してやる……と思ったが、もしかしたらこれが最後のミッションかもしれない。
何故最後かというと、理由は特にない。
絶対無いが、そうだな。
やっぱり最後はスニーキングミッションに限る。
いつもの、恒例の、もはやお決まりのダンボールを被り潜入する。
普通ならばれる? ばれるはずが無い。
俺を誰だと思っている。今俺がどんな決意を思ってここに来ていると思っている。だから見つかるはずが無い。
アリサのいる場所は……中に特設された中庭にいるようだった。
お見合いもいよいよ終盤なのかもしれない。
時間が無い、ここからは一気に仕掛けることにする。
中庭へ急ぎ急行、と言っても見つからないようにだが、それでも精一杯のスピードでたどり着く。
すぐにアリサは見つかった。
他の人がいない辺り、もしかしたら貸切で行っているのかもしれない。
ブルジョワめ。
そんなブルジョワは……
「誘拐して身代金を要求するに限るな!」
「だ、誰だ君は!?」
アリサをひょいっと担ぐと、隣にいたスーツの男が驚きの声を上げた。
何だね君は?
何を言ってる俺は……
「ただの通りすがりのホームレスだ!」
「え!? い、一郎!?」
ホームレスの一言で俺と判断するのはどうか思うが、そんなのはこの際突っ込んでいられない。
この金髪の女は頂いた、と俺は棄て台詞をいいこの場を急ぎ立ち去った。
アリサを奪った瞬間、そこかしこからたくさんの人がこちらに集まってきたが、急に方向を変え真逆の方へ走り去った。
おかげで楽に脱出することができたのだが……。
「い、一郎どうしてここに」
「ふむ、借りを返しに」
「借りって、一郎は私に借りなんて無いじゃない。それこそ私が一郎に借りを返さなくちゃ──」
「最近ブームって知ってる?」
「……何よ? 何の脈絡もなしに」
「ホームレスとお金持ちが恋をするらしい」
「……もうっ! 馬鹿!」
そうそう、やっぱりこの顔を真っ赤にして怒った姿だよな。
◆
後日談というわけではないが、この後の話。
あの日、俺の脱出に協力してくれたのはすずかだった。
何でそんなところにと思ったが、それを聞くのは野暮というものかもしれないので聞かなかった。
ただ、その借りもまた大きいなとか思ったが、すずか曰く「だったらちゃんとアリサちゃんを幸せにしてね」とのこと。
はぁ……本当に大きな借りだ。
そして、あのお見合いは結局破綻した。
そりゃそうだろうな、あれで成立したらそれはもう……色々と俺の苦労が台無しだ。
俺はその後アリサにめっきり怒られ、アリサのお義父さんにめっちゃ怒られ……ふぅ疲れたぜと言ったところだ。
さて、さて。
なら俺とアリサの関係はというと……どうだろうな。
{なぜか一郎なら略奪愛だろ、常識的に考えてと思う作者がいたとかいなかったとか}