※注意
本編とは全く趣旨が違います。
本編のような物(ダンボール的な意味)を望んでいる場合は見ないほうがいいと思います。詳しくは感想欄にて。
この話は、一郎が旅に出ている間の出来事です。
では、それでもいいと言う方はお読みください。
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私──月村すずかには、この世界では唯一無二にして、自他共に認める最高の親友がいる。
アリサ・バニングスは綺麗な金色の髪を持ち、とても友達想い親友の想いの、私の大切な親友の一人である。
彼女を含む、私の親友達との出会いを語り始めれば。
それこそ今から十年近くも時を遡り、それはもう普段は自分ってちょっと冷めてるかも? なんて思う私でも熱く語らなければならない。
否、たぶん語ってしまうだろう。
それほどまでに私は──たぶん私たちは長い付き合いで強く結ばれた絆がある親友であり、これからもずっと親友であるのだと思う。
そんな彼女アリサちゃんの様子がおかしいのに気付いた。いや、本当はずっと前から。
これまた十年ほど前から語りださないと、アリサちゃんの心境を説明するのは難しいがそれは割愛。
結論から言えば……
「あいつ……今どこでなにやってるんだろう……」
このように誰かを想って上の空になることがしょっちゅうと言うことだった。
無意識で上の空になっちゃってるから、注意しても無駄なんだよね。
昔はよく注意してあげたんだけど、今じゃもうこれがアリサちゃんらしいって感じだよ。
でも、ここでちゃっかりあいつって言って抽象的にしてるのも無意識なのかな?
自分の想い人を知られないようにする自己防衛?
それでも私たちはアリサちゃんが誰のことを想ってるか分かってるけどね。
幼少からの付き合いは伊達じゃないし、ずっと傍で見守ってきたんだから。
「あいつって誰かな?」
でも……そんなアリサちゃんに、ついつい悪戯心が出ちゃうのもしょうがないことだよね?
すでにこの質問を言ってのやりとりも前から何度もやってるけど、こう言うとアリサちゃんは、顔を真っ赤にしながらうろたえるんだよね。
その姿がなんだか恋する乙女って感じで、可愛いんだよ。
「あ、あ、あ、あいつはあいつよ! 今ごろどこをほっつき歩いてるんだかっ! まったく……」
……計画通り。ニヤリって感じ。
今日もりんごのように真っ赤な可愛い顔をありがとう。
あいつ──ほっつき歩いているあいつというのは、つまり一郎君のこと。
私と一郎君というは、別段アリサちゃんやなのはちゃんのように深いかかわりがあるような間柄ではない。
ただ、私のお姉ちゃんとはちょっとした師弟関係だったりもするんだけど……そこら辺は私にも分からないんだよね。
確かにお姉ちゃんを紹介したのは私だったけど、その後は守秘義務だとか何とか。
お姉ちゃんに技術を叩き込まれた一郎君の技術も私から見ても目を見張るものがある。
ただ……。
ただ……。
専門がダンボールってどういうことなの?
ええと、まぁ……深く考えたら負けだよね。
うん、そうだよ。あの一郎君だからね。
それこそ考えすぎたら、なのはちゃんやアリサちゃんの二の舞。
ボケの嵐に、突っ込まざるを得ない状況に至り、自然と突っ込み能力が鍛えられてしまう。
いうならば、一郎君と言う存在が自動芸人育成器みたいなもの。
別に巻き込まれるのが嫌と言うわけではないが……ね?
私がアリサちゃんやなのはちゃんのように、人に突っ込んでるところなんて想像できないよ。
それこそ私が、私ではなくなるような……一郎君、恐ろしい子だよ。
「そんなに心配なら、なのはちゃんとかに伝達とか頼めば?」
「その程度で見つかるなら苦労しないわよ……」
一理ある。
神出鬼没にして、唯我独尊というか。
独特の世界観に、どくどくの完成を持ち合わせ、謎の力を用いる一郎君を補足するのは至難の業。
それこそアリサちゃんの家──バニングス家が総力を挙げてももしかしたら一郎君の行動を把握することは不可能かもしれない。
もちろん、私の家の月村家に置いても同様に。
どちらにしろ、一郎君はなんか次元旅行とか行ってるらしいからこの地球にしか権力持ってない私達には無理なんだけどね。
「なのはも管理局の知り合いとかに頼んで、ある程度は一郎の安全を確認できるようにしたがってたんだけど……管理局もお手上げとのことよ」
「あはは、本当に一郎君はすごいね」
「でも、あいつのことだからこうやって会話してるときに急に現れても不思議じゃないわよね……」
「……否定できないところが本当にすごいよね」
数年前なんて、アリサちゃんの家に急にやって来たかと思ったら、子供をつれていたらしいし。
ああ、そうだ。
あの時のアリサちゃんも面白かったなぁ。
顔を真っ赤にして、息を切らして酸欠になってフラフラになりながらうちに来たときはビックリしたけど、一番ビックリしたのは、
閉口一番に「い、い、一郎が……こ、子供を……ほ、本当に結婚しちゃったのかもしれない」なんて言いながら泣き出すんだもん。
あんな弱気な──少女なアリサちゃんを見るの初めてだったかもしれない。
いつだってアリサちゃんは自分の胸の内は悟らせないようにしているのだから。
でも、その言動は最初は意味が分からなかったなぁ。
いきなり結婚とか子供とか言われても私が慌てちゃうと。
勘違いして、アリサちゃんが子供を身ごもって結婚するのかと思っちゃたし。何時の間に一郎君とそんな仲に……とも思ったし。
勘違いだったけどね。
もっと前には、なのはちゃんを通しての結婚宣言なんかもあったよね。
なのはちゃんもアリサちゃんも結婚と言う単語に捉われすぎて、映画にありがちな死ぬ前のシーンってことに気付いてなかったよね……。
二人してあたふたしてる姿は貴重で見てて、和んだけど。
本当に一郎君は罪な男だよね。
「ふふふ、出てこれるもんなら出てきなさい。絶対に驚いてやらないんだからっ!」
「別に一郎君は驚かそうとしてやってるわけじゃないと思うけど」
「すずか甘いわよ。一郎は何時如何なる時も、私を脅かせてきた。そう、これはきっと私とあいつの戦いなのよ!」
握りこぶしを作って力強くそう語るアリサちゃん。
さり気無く、私を除外している辺りどうなんだろう?
この場と言うか、この場所を提供してるのは私なのに。
でも……しょうがないかな。
アリサちゃんって一郎君の事を考えてる時は、全然周りが見えないから。
しかも、なんていうのかな……アリサちゃんの場合は恋で見えなくなるというより、「今度こそ絶対に勝つ!」みたいな感じ?
たまにすごく恋してるなぁって感じる時もあるけどね。
例えば……
「というか、今すぐ出てきなさいよ! 決着をつけるわよ!」
これをエキサイト通訳すると「もうっ! 私は一郎がいないともう駄目なんだからねっ! だから早く帰ってきてよぉ」と言う感じだね。
付き合いの長い私が言うんだから、むしろこれが正しいと言えるんじゃないかな。
きっと、たぶん、おそらく……じゃないかな。
「一郎君のことだから、そんなこと言って出てくるとは思えないよ?」
「そ、それもそうよね……。じゃあ、出てくるな、絶対に出てきちゃ駄目よ一郎!」
逆に言えば出てくるんじゃないかと思う辺り、もうアリサちゃんは……。
でもさっきからこれって、一郎君が出てくるのを素直に望んでるとも取れるんだけど、アリサちゃんは自分で気付いてるのかな。
たぶん、気付いていないと思うけど。
さり気無く必死だよね、アリサちゃん。
「むしろ、あれじゃないのかな」
「あれって?」
「いつの間にか、あの家に帰ってるなんてこともあるんじゃないかなって」
「……ありえるわね。そっか、その手があったわね。わざわざ受身でいるよりも、来るであろう場所で待ち伏せして、こっちが攻めてやろうじゃないの!」
待ってなさい一郎、ここからは私のターンよ、とアリサちゃんはものすごい意気込む。
まるで、ようやくあの家に行く口実が出来たかのようだった。
う~ん、理由を与えちゃったかな?
まぁそれでアリサちゃんの恋路が上手く行くなら私としては嬉しいことだけど。
親友の恋が叶うのならば、親友である自分はまるで自分のことのように一緒に祝福できる。
相手が一郎君と言うだけで、難儀な話であり、それが叶うとは想像もできないけどね。
アリサちゃんもとんだ人に惚れちゃったよね……。
本人には自覚はまだないようだけど。
◆
──張り込み一日目
「さぁ何時だって出てきなさい!」
ダンボールでできたテーブルを勢いよく、叩きながら見えない相手に挑発をする。
誰に向かって挑発をしてるの? アリサちゃん……。
それじゃあまるでドン・キ・ホ──
「あ、テーブルが壊れちゃった。え……ええと、どうやって直せばいいのかしら……」
──三日目。
「まだまだ始まったばっかし……じっくりと追い詰めてやるわよ」
相手がこの状況を知らなくちゃ追い詰められないんじゃ……。
──一週間目
「そ、そろそろ来るんじゃないかしら。……はぁ。…………はぁ」
そんなに来て欲しいなら素直に言えばいいのになぁ。
そしてさらに数ヶ月が経った。
「帰ってこない……出てこない……現れない……そうよね、数年待っても現れないのにたった数ヶ月張り込みした程度で出てくるわけないわよね。ふふふ」
瞳に色がなく、自暴自棄に成りかけているアリサちゃんだった。
アリサちゃんがこの数ヶ月もの間、毎日……毎日あの家に行っては待ち伏せしているのに全く現れる気配はなかったようだった。
アリサちゃんだって暇なわけじゃないのに、毎日大変だよね……。
「アリサちゃん。そろそろ、諦め──」
「嫌よ! ぜっっったいに嫌! ここまでやったからには意地でも待ってやるんだから!」
「アリサちゃん……」
「そ、それに……私がこの家を守らなかった誰が、守るのよ。こんなダンボールの山なんてごみと一緒に処分されるのが関の山じゃない!」
うん、アリサちゃんの決意は分かったよ。
私の考えていた以上──だったんだね。
それなら私はアリサちゃんの親友として、アリサちゃんを影ながら見守らせてもらうよ。
一郎君……もし、アリサちゃんを不幸にするようなことになったら、私が許さないからね。
それから数ヵ月後にすずかは、久しぶりに帰ってきた一郎のことを嬉々として報告するアリサに柔らかな笑みを見せ、再びアリサの幸せを願うのであった。
{こんなアリサ……あったと思います! ……たぶん}