ヴィヴィオとの生活は極めて良好といえるだろう、この一週間。
さすがに幼いヴィヴィオにちょっとグロいものや、えげつないものを食べさせるわけにはいかないので、うまく調理する。
まぁなのはもヴィヴィオを預かってもらっていると言う現状の為、お金は多少工面してもらってはいるが。
全額負担させるのはなんというか……男として負けた気が……。
いや、ヴィヴィオをそれに巻き込むのはいけないので、大体夜はなのはといつもの場所で合流して、ご飯を食べたりする。
外食もあるが、なのはがわざわざ手料理したものまで……。
ううん! 美味い!
そういうわけで、今のところは平穏無事だったりする。
「ねぇお兄ちゃん、あの虫さんはどうやって捕まえるの?」
「あ、あれはね」
上に逃げていく習性を利用して、上空にダンボールを投げ……
「木を蹴るとっ! ね? 簡単でしょ?」
木を蹴って、虫を飛ばしダンボールの中へと誘導する。
これぞまさに、達人業。
「すごーい! ヴィヴィオもやってみる!」
そういうとヴィヴィオはよいしょとダンボールを持ち上げて、投げると……手前でダンボールが落ちしまった。
いや、目に見えてたけど……分かってたけどね。
「で、できないよぉ」
「練習すれば出来るようになるさ」
「うん、分かった! 練習してみる!」
そう言って、何度も何度も同じ事を繰り返す。
その度に目の前に落ちて、涙目でこっちを見るがまた頑張って挑戦する。
子供ってのは本当に見てるだけで癒されるなぁ……。
はっ! なんかすごくおやじっぽい気がしたぞ今!
危ない、危ない。
危うくこのままいくとヴィヴィオにお兄ちゃんではなく、おじさんといわれるところだった。
挑戦しては失敗して挑戦して失敗して……あの負けん気の高さはなのは譲りなのか?
全然諦めようとしないんだけど……それどころか少しずつ飛距離が伸びているような……。
き、気のせいだよな!
さすがにそこまで早く成長するわけがないよな。
ああ、ビックリしたぜ。
そして、今夜はヴィヴィオは疲れてしまったのか、先に眠ってしまった。
まぁこのダンボールハウスにいる限りは安心なので、今日は一人でなのはに会う事になった。
「マスターカミュ」
「……はいよ、兄ちゃん。それに、それじゃあマスターカミュっていう人の名前に聞こえちまうよ」
「カミュ……カミユ、カミーユ? 女みたいな名前だな。……お、なのは。ほとんど毎日ご苦労なことだな」
「ううん、大丈夫だよ。それにここのラーメン美味しいし、前にお世話にもなったしね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、ここで自作の弁当を広げて食べな──まぁいいけどよ」
なのはは実質ここでラーメンを食べるのは週一程度である。
それを許すマスターはなんと心の広い方か。いつもそう思うよ。
俺にもただでカミュを出してくれるしね。
「今日はヴィヴィオは……連れてないんだね」
「ああ、先に寝ちゃったからな。今日は新しい葉っぱのお布団だから気持ちぃとか言いながら」
「葉っぱのお布団!? ど、どんな環境でヴィヴィオを……心配になってきたかも」
何を今更言ってるのだ、なのはよ。
葉っぱのお布団だぞ? 意外と気持ち良いんだぞ。
今度郵送で送ってやろうか? 自分で布団の形は作ってね、葉っぱだけ送るから。
「それはただの嫌がらせだよね……あ、郵送といえば、なんで一郎君からレリックが送られてくるの!? しかも郵送で!」
「レリック?」
「赤い宝石のやつだよ。しかも、ちゃっかり着払いだったよね……」
そうかちゃんとなのはに届いたのか。
それは良かった。
「なんでって、この間ホテルで密輸者から手に入れたから」
「ホテル? あ! あの窒息して泡吹いてたの一郎君がやったんだ……ちょっと納得したかも」
へぇCQCって意外と効くんだ。
あの後確認する暇がなかったから、どうなってるか気になって──はいないな。忘れてたし。
「そんな話はいいの! それよりどうしてあの場にいたの!?」
「……潜入ミッション」
「なにそれ?」
「極秘任務だ」
「極秘?」
「ああ、だから詳しくは話せない」
「そ、そうなんだ」
どことなく重い雰囲気を出したらあっさり信じてくれた。
ふっ、なのはよまだまだ青いな。
それに実はその赤い奴をもう一つ俺が持ってるとも知らずに……。
なのはとしばらく雑談をし、そろそろ解散かって雰囲気になったときになのはが唐突に言った。
「明日……明日終わらすから。それまで……よろしくね」
明日……明日が山場と言うことか。
◆
翌日。
今日が山場と言えども気負うことなく、いつも通りにヴィヴィオと過ごしていた時の事だった。
久しぶりに見る、あの丸い奴──ガジェットが木の影越しに見えたのだった。
……なのはの目論見は外れたか。
俺のほうにも来てやがる……って、ここに何しに来たんだ?
ま、まさか!? 俺の赤い宝石を狙ってるわけじゃ!?
と、その前にヴィヴィオも守ってやらないとな。
「ヴィヴィオ、家のなかに入ってな」
「どうしたの? お兄ちゃん?」
「ちょっと、な。これからちょっと危ないことがあるかもしれないから、入ってな」
「う~ん、わかった」
ちょっと考える素振りをしながらも、ダンボールハウスにハウスしたヴィヴィオ。
さぁ、ここからはいよいよ俺の……俺の時間だ。
敵は一体のガジェットのみ……
「ふっ、ガジェット一体ぐらいどうってこと、は……は?」
すると、さらに奥にはもう一体見えた。
ちなみに二体ともまだ周辺をウロウロしてるだけだ。
「ま、まぁ二体でも今の俺なら勝てるだろ……え?」
どううやって忍び寄って不意打ちで倒すかを考える為に周囲を見渡したらさらにもう一体。
今の時点で合計三体。
「さ、三体か……く、苦しいが出来ないこともな──もう嫌だ」
もっと視野を広く、上手く倒せるコースは無いかと模索してみると。
出てくるわ出てくるわ丸い集団。
ぞろぞろと言うよりはごろごろと。
「だ、大丈夫……。まだあいつらだけなら問題ない。い、一応他に敵はいないかサーマルで確認を……」
サーマルをつけることにより熱源反応で生き物識別をし、多少遠くまで見渡すことが出来る。
周囲を確認すると、ああ、ガジェットだらけなのが改めて実感できる。
その現実を見て、がっくりとうな垂れて地面を見ると……
「あれ? おかしいな。地面にも熱源反応が……しかも人間のような機械のような」
明らかに普通の動物でもないし、ましてはただの人でもない。
しかし地面の中をかなりの速さで動くものが……そうか。
これは……無理だね。
「……一般人は大人しく、部屋に引きこもるべきだよねっ」
俺は戦闘なんて出来ないんだよぉ、こんちくしょう。
諦めてヴィヴィオの待っているハウスに戻った。
ああ、糞……あの光景を見ただけで体が震えてくるよ……
「お兄ちゃん大丈夫?」
「うっ……へ、平気さ」
「う~ん……いい子いい子。大丈夫だよ」
ち、小さい女の子に、慰められちゃった。
もう嫌だ、あのガジェット軍団……助けてなのはー!
でも、まぁ……ここに隠れてる間は大丈夫のはず。
きっと、たぶん、おそらくは……。
結局気付けば俺もヴィヴィオも寝てしまい、起きたころには周囲には何も反応はなかった。
二人揃って生き延びられたようだ。
もう……こんな経験は真っ平ごめんだ。
◆
なのはから事の顛末を大体聞いた。
全てを話すことは規則柄できないが、それでも十分の情報だった。
つまりは今まではテロリストが管理局の陥落を狙っていて、それを防ぐのが仕事だったらしい。
大業なことで。
そして、その本格的な争いが昨日あり、敵の保有戦力の半分以上が確保されたらしい。
なんでも、相手が勝利条件に挙げていた人物の確保が出来なかった生で持久戦に持ち込まれ、せっかくの奇襲も失敗に終わったとかどうとか。
勝利条件になるほどの人物ってやっぱり管理局の偉い人なのかな?
残った敵の戦力は要るものの、逃亡を図り現在行方知らずらしい。
それでも、もう反抗できるほどの戦力は残ってないだろうから問題は無いとのことだ。
それよりも、今回のテロ。
実は管理局の上層部も関わってたとか関わって無いだとか……まぁそこら辺は俺にはあまり関係の無いことだ。
つまりは一応の平和が訪れたと言うことで。
俺に平穏な生活が返ってきたと言うことだ。
「まぁ色々あっただろうけど、お疲れさん」
「うん、ありがとう。……でも、実は今回の大活躍だったのは一郎君なんだけどね……」
「ん? どうして?」
「うーん、これはちょっと今は話せないかな。それよりヴィヴィオは?」
「ああ、ここに」
「ママー!」
「ヴィヴィオー!」
親子の感動の再会じゃないか、全く。
水を差すのは趣味じゃないし、なのはの話も終わったようなので俺はさっさとお暇する。
なのは……お幸せにねっ。
その後はいつものハウスに直行だったのだが……、そこで思わぬ人物に出会うことになった。
「ふふ、ようやく来たね。久しぶりだね、イチロー君」
そう、何を隠そう俺が今まで生きてこられたのはその人のステルス布の発明があったからだ。
本当に感謝してる人だ。
そして、その人と言うのは……
「あ、あなたは……紫の男!」
「な……他に呼び方は無かったのかね!?」
だって、名前教えてもらってないし。
それに……何だこの大所帯。
しかも、紫の男以外は全員女性じゃないか。
なんか夫婦っぽい雰囲気出してる人に、性格の悪そうなメガネに、血の気が多そうな人に、見るからにSっ気のある人……。
「ドクター、本当にお知り合いの方ですか?」
「この人が私のISの発案者だなんて、全然思えないわね」
「人は見かけによらぬ、ということではないか? クアットロ」
「……はぁ」
これはあれか、俺が挑発されてるのか?
しかも、発案者とかどういうこと? 全然意味が分からないんだけど。
「止めたまえ。彼は私の友人だよ。あー、イチロー君は私の事をドクターでも、好きなように呼んでくれて構わないよ」
「じゃあ、ドクターでいいや。それで何しに来たの?」
「ふむ、それなんがね……」
どうやらドクターはちょっとしたお金持ちだったようで、棄てられてしまった子供を拾っては育ててたらしい。
それが年が経つと、だんだん家計が厳しくなり、追い討ちとなったのが自身の職を失ってしまったらしい。
どうやら、それはこの間のテロが関係してるらしく、運悪く会社が潰れてしまったとのことだ。
そこでついに破綻して、家を失ってしまったとのことだ。
さらに悪いことに借金まで抱え込むことになり、この世界では普通に暮らしていくのが不可能になってしまったらしい。
……色々と突っ込みたいところはあるけど、
「大変だったと言うことは分かったよ」
「……まぁ君のせいでもあるんだけどね」
「ん? 何か言った?」
「いや、なんでもないさ。それでかつての約束を果たしてもらおうかと──」
「訪ねてきた、ということか」
なるほど、全て理解した。
つまりドクターは……、
「俺の弟子入りを望んでいると?」
「ふむ、まぁ間違いではないな」
来るものは拒まない。去るものは追わず。
つまりは……
「了解。俺がドクターを立派なホームレスにしてやるよ!」
「ああ、助かるよ。君と僕とでホームレスの天下を取ろうじゃないか!」
「あ、それいいね」
「だろ?」
「「ははははは」」
「ドクターを遠くに感じます」
「なんか楽しくなってきましたわ」
「く、クアットロ血迷ったか!?」
「……はぁ」
じゃあ、さっそく色々と教えなくてはね……。
あ、そうか。
魔法世界でドクター達は住めないんだっけ? じゃあ……あそこしかないな。
◆
「なーんーで! 増えてるのよ!」
「ん? どうしたアリサ」
「ほぉ、君が噂のアリサ君かね? 噂はかねがね」
ドクターにホームレスの技術を教えるために、帰ってきたのは海鳴市。
懐かしき俺の原点の場所。
「しかも、男だけじゃなくて女まで……はっ! まさか、これって!?」
俺は海鳴市に帰ってきて、いの一番にマイホームへ帰った。
もちろんこの世界を知らないドクターたちを置いていくわけにはいかないので、一緒にだ。
ここで驚いたのは、ドクターの四番目の娘の能力がなんとあのステルス布と一緒だということだ。
おかげでここまで何の苦も無く戻ってこれた。
そして、数年放置してたのでさぞ俺のハウスはぼろくなってしまっているだろうと思って帰ってきたのだが……。
ハウスは昔の状態を維持されていた。
驚いてなかには言って確認すると……アリサがいたのだ。
いや、もっと驚いたよ。
その時の慌てようといったら、それはもう……、
「え、あ……あれ、一郎? か、帰ってきたの?」
いつもの力強さは無くすごく弱弱しくほほを赤く染めながらで、まるで……乙女のようだった。
というか、乙女かよって突っ込んだら、怒られた。
「乙女じゃないわよお姫様よ」って返したのは、さすがアリサ。俺の相方だった。
そして、ドクター達を見てこの状況である。
「そ、そうよね……結婚とか言ってたもんね……」
なんかすごくアリサが勘違いしているような気がする。
もしかして未だに、あれを引きずっているのだろうか。
さすがに可愛そうに見えてきたな……誤解を解いてあげるかな。
「結婚? はてイチロー君はしてなかったような」
「え?」
「してないよ、アリサ。何を勘違──痛っ!」
「い、一郎のばかぁーーっ」
「アリサ!?」
「一郎君もなかなかに罪な男だね。ホームレスなのに」
いや、ホームレス関係ないだろ……。
まぁアリサのことだから明日には元に戻っていると信じ、これからは……
「ドクター」
「うん? ああ、いよいよか……」
俺たちホームレスの時代が今始まる!
{今までお読みいただきありがとうございました。この作品は一応これにて完結と言うことにさせてもらいます。あとがきを読まない方とはここでしばしのお別れですが、
また作者の作品を読む機会があれば、是非ともお目を通して指摘なり、感想なりを書いていただけると嬉しいです。約三ヵ月半と言う期間ではありましたが、本当にありがとうございました}