結局俺の平穏と言うのは、ダンボールに始まり、ダンボールに終わるのではないかと思う。
これは所謂、一種の性善説や性悪説ならぬダンボール説と言うのがあっても不思議ではないのではないかと思う。
いっそ、これを題材にした小説でも書いて、どこかしらにでも投稿してみたら案外設けることが出来るんじゃないかとも思う。
思うが……。
将来のなりたい職業、ホームレスが一位に輝いたりしてな。
「……ないか」
いや、ありえるかもしれない。
俺が必死に宣伝して、宣伝して、宣伝してダンボールの素晴らしさをとくことが出来ればあるいは……。
いやいや、やっぱりないな。
さすがに現実を見よう。
俺の周りは人がいかにも通らなさそうな、山の中。
山を抜けると崖が広がっており、その下には列車が通るような線路がある。
線路があるだけで、駅は無いのだからここに人が訪れる理由がまず無い。
電車でよく見る森と言えども、利用価値が無いのであればただの景色にしかならない。
つまりは機を隠すなら森や林作戦!
……だと、ちょっと意味が違ってくるくるけど、つまりは見つかる心配の低い土地を選んだと言うことだ。
ダンボールハウスの設置場所に。
もちろん土地代など払えるわけも無いので、ばれればすぐに撤去となる。
まぁだからこそばれにくい場所を選び、さらにはステルス布で特殊効果を持たせるわけだ。
万全の対策と言えよう。
安全地帯。
秘密の隠れ家。
知る人はいない家となる。
ダンボールハウスの組み立て自体はすでに手馴れたもので、半日も使えばほぼ理想形態。
大きさにしたら、だいたい……だいたい……まぁかなりの大きさだね。
ダンボール三百個分くらいかな?
今回の家は、補強として木材なども使った。
木をバッタンバッタン倒してしまえばそこにさら地が出来てしまうので、多くの木から少しずつ剥ぎ取った。魔法のナイフで。
近いうちはこれを応用すれば二階建てのダンボールハウスも出来るんじゃないかと思う。
そんな経緯をもって、外枠は完成したのでいよいよ中身である。
ベッドは草木を応用すればいいとしても、生活必需品の水は非常に手に入りにくい居場所となる。
なので、飲み食べをする場所は別に確保するようにする。
水の確保は以前と同じで公園で、保管場所は公園に近い山に確保。
食べ物は山と海で獲得して、水の保管場所で食べる。
つまりは、食べる家と住む家が存在する。
多少は住む家に水を置くことにしておけば、緊急には備えられるだろう。
そんなわけで、これらの作業をするのに丸一日かかった。
素材集め、材料集めが最も大変で疲れたが終わってみればなんのそのである。
ミッドチルダは地球ほど寒暖の差がないので、住み易くもあり冷暖房の心配は無い。
食料の心配は自然の恵みがあるし、なによりスクライアガイドブックまである。
生活向上のために近いうちに電気が使えるようにしたいが……それは後々考えるとする。
何よりも居場所の確保と生きれる状態を作ることが出来たので最低限の目標は達成である。
ミッドチルダ二日目は作業の一日となったわけである。
その翌日。
実はまだこのミッドチルダと言う土地のことはよく知らないので、観光に出ることにした。
自分の住まう土地を理解していれば、生活はより楽になるだろうという企みを元にだ。
こんな時に役に立つのがスクライアガイドブックだ。
都心部のことについてはあまりりかかれていないが、地方に関してはなかなかどうして情報がある。
地方には遺跡とかそういう貴重なものが多かったからなのだろうか。
「ほほぉ。北部には聖王教会という宗教みたいなものがあるのか」
これといって、宗教に興味があるわけではない。
ただその教会の近くには自然が多い、と言う点に目がいったためだ。
そして、ここらへんはベルカ領と言うらしく、また別の組織のようなものがあるらしい。
管理局からしてみれば異国……みたいなものだろうか。
どちらにしろ、異なった文化があるということであり、そこに第二の拠点を置くのもいいかもしれないと思った。
上手く行けば、ダンボール教を作って……って、何の話をしてるんだ?
ダンボール教とか絶対に需要少ないだろ。
そもそもダンボールを祭ってどうするんだよ……。
あれか? ダンボールのご加護とかつくのか?
すごいファンタジーだよ、それはそれで。
ダンボールなのにファンタジーってもうめちゃくちゃだけど。
話がだいぶ逸れた。軌道修正。
こうやってガイドブックを見てると、かなり自然が多いイメージがある。
実際は都心部を覗いたら自然溢れるいい場所なのでは無いだろうか。
だとすると……地球なんかよりよっぽど住みやすい。
俺自身地球と言っても僅かな場所しか言ってないのが、そう言わすのかもしれないが、今までの中ではここが澄みやすいのは事実であるのは間違いない。
「なんだかんだで順風満帆なのかな」
機能の朝からかなりな面倒ごとに巻き込まれて前途多難だと思い、気落ちしたが、これなら案外すんなりと生きていくことが出来るかもしれない。
そして、気ままな暮らしを……。
そういえば、教会の前にいた綺麗な長い金髪の女性がとてつもなく綺麗だったな。
◆
「一人で外食って……しかもラーメンって寂しくないのかよ」
「ふぇ!? だ、だれ──一郎……君?」
夜釣りを楽しみ、寝釣り体勢まで持ち込んだところで、もうこの辺でいいかななんて思いながら引き上げての、帰宅途中のことだった。
ミッドチルダの繁華街はすでに闇に沈み、僅かにある光は、遅くまで経営しているコンビニ的な場所や居酒屋。
ちょっと怪しげなお店や、素朴なラーメン屋のようなお店ばかりだった。
人通りも少なく、この時間帯だとむしろ浮浪者や不良ぐらいしかいないのではないかななんて思いながら通りをやや遠く、さらに人のいない場所から眺めていると、
そこに見知った容姿を持つ女性がラーメン屋に入っていくのが見えた。
こんな時間に女性がラーメンって、しかも一人で……きっと独身で青春なんて言葉とは無縁の人だったんだろうな。
そう考えながらも、やはり少しその人物が気になったので追ってみれば……、
「一人寂しくラーメンを食べるなのはがいた。そんななのはに俺が泣いた。しょうがない、俺がここはおごってやろう」
「べ、別に一人でラーメンぐらい食べるよっ! それに一郎君におごられるほど同情されるのはちょっとショックかも」
肩と頭が力なく垂れるその姿はまさに、ガーンと言う効果音や、ショボーンといった雰囲気がピッタシだった。
「これでもかなりお金が稼いでるんだよ」となのはは言い訳を続ける。
青春を代償にお金を得たと言うことか……なのはの人生ってなんだか哀れに見えてきた。
やはり同情に値する。
……ホームレスに同情されるっていろんな意味でなのはってすごいね。
「それより何で一郎君がここにいるの!?」
「ん? なのはを見かけたから」
「そうじゃなくてっ! ……そっか、一郎君相手だから常識的に考えるが通用しないんだった。久しぶりの再会だから忘れちゃったよ」
ちょっと皮肉気味の発言のような気がする。
何かに対して怒っていることでもあるのだろうか。
ちなみに俺はなのはの白い姿でピンクの砲撃を見なければなのはとは普通に接することは出来る。
あの砲撃はやはり……トラウマものだった。
「一郎君てば、私が会いたいときにいつもいないもんね。こういうときは急に現れるのに」
「ホームレスに束縛求められてもなぁ」
「そこまでのことは言ってないよ!」
「そうだ、なのは。なんで一人でラーメン食べてるんだ、しかも少し寂しそうに」
「私のお話はスルーなの!? さ、寂しくなんかないよ。ここは前にはやてちゃんがここのラーメンが美味しいって言ってたからためしにきてみただ──」
「レイジングハート久しぶり」
《お久しぶりです》
「久しぶりだよ……私がこうやって振り回されるの……なんだか懐かしいなぁ」
「なのはが俺に弄ばれて喜んでる……なのはは変わったな」
「も、もうっ! そう言うところばっかりちゃんと聞いてて!」
ああじゃない、こうじゃないと俺は久しぶりの親友との会話をかわす。
こうやってなのはと暢気に話すのはすごく久しぶりだった気がする。
主に俺が旅に出たせいなのかもしれないが。
「うぅ……一郎君の前だとどうも調子が出ない」
そんな事を俺としゃべっている間に、何度もぼやいていた。
まるでこんな面を出すのは一郎君だけなんだからね、と言われているようだった。
じゃあ、特訓と称して砲撃を撃ち込むのも俺だけなのかと知りたい。
「今私ね、はやてちゃんの部隊でね……」
気付けばなのはが今まで自分のどんなことがあって、今どうしているかを語っている。
俺は聞き役なんだけど……あんま聞いてなかった。ラーメンが美味そうでついそちらばかりに気を取られて。
でも、あれだろ? なのはの話を要約すると。
敵を薙ぎ払ってたらエースになれた。そして、人に魔法を教えるようになり、後輩も薙ぎ払うようになった。
青春を代償にしたらお金を手に入れた、ただし使い道がない。
はやてちゃんに部隊に誘われたから、敵がいない間は新人を薙ぎ払っている。
そんな感じだと思う。
新人哀れ。そして、なのはに魔法を習った先輩が君らにアドバイスを上げよう。
生きてれば辛いことも楽しいこともある、と。
そのアドバイスを直接伝えてあげたいけど、俺まで巻き込まれたら勘弁なので、心の中で応戦するとする。
頑張れ新人よ。
「ところで、なのは話は終わった?」
「うん。ってちゃんと聞いてくれた?」
「え、ああ。うん、そうだな……聞いてた、かな」
「あ、曖昧すぎるよ……」
なのはが若干涙目になっているのはきっと湯気が目に染みたからに違いない。
お互い時間も時間だったので、この後も一言二言話しをして家に帰った。
なのはに「今どこにいるの? まだ旅をしてるの?」と聞かれたから、「秘密基地に住んでるよ」と答えてやった。
正確な場所などは教えずに。
向こうもこちらの真意が分かったのか、詳しいことは聞かずに「相変わらずだね」と苦笑した。
この後に、今の仕事に区切りがついたら今度こそ魔法を一郎君に、とか勝手に燃えていたので、家は決して見つからないようにしなくては。
あんな経験は一度で十分だ。
その夜のこと。
「私から逃げ切れると思ってたの? 一郎君?」
白い魔物が追ってきて、無理やり魔法の特訓をされる夢を見て、俺は新たな決意を胸に、絶対にねぐらをばれないようにしなくてはと固く誓った。
ダンボールに。
◆
数日後のこと。
この日は住んでいる森の細部まで把握するまで歩き回っていると、下に列車が通っている崖に突き当たった。
大体森の散策はこんなものかななんて思っていると、空中からヘリの音が……。
「へぇこの世界にもヘリコプターがあるん──は?」
次の瞬間空から人が降って来た。
な……な、な! どんなアクション映画だよ。
いくらここが魔法の世界だからって、あれは飛ぶのではなくて落ちていってたぞ……。
しかも、列車にしっかり着陸してるし。
遠くからだから良く見えないけど、落ちたのは女の子や男の子ばかりじゃないか?
すると今度は空にピンクの閃光が見えて、心のどこかで納得した。
「なんだ……ただのなのはか。それに、金色ってことはフェイトもか?」
空を縦横無尽に飛ぶ二人を見る。
そして、俺がとるべき行動は決まった。
「よし! ……森に避難だ」
一般人は大人しく戦闘には加わらずに、家に立て篭って恐怖に震えるのが仕事だよね?
{ボキボキ何かが折れる音がした。Sts編はこれからがカオスに!? 分かりませんけどね}