旅に終着地はあるのか。
旅人に終わりは無いけれど、旅には終わりが来るとは思う。
それはつまり……俺もそろそろ地に足をつけるときが来たと言うこと。
否、前のような放浪するのではなく一箇所に留まる生活に変わると言うことだ。
「本当に色々な世界を見てきたからな」
最近の印象で大きいのは、あの丸い……とある情報によるとガジェットと言うらしい。
その情報と言うのは、丸いのに追いかけられていた俺を偶然助けてくれた騎士の人が言っていた。
格好いい騎士の人曰く、
「一般人を巻き込むほどは落ちてはいないつもりだ」
とのこと。
なんか色々引っかかる言い方ではあったけれど、気にしたらいけないような気がする。
その騎士の人は、小さい妖精みたいなのと小さい子供をつれていた。
……ロリコン? と思わなくも無いが、あまり触れない方がいいだろう。
人の嗜好なんて人それぞれだ。
騎士のイメージが、ホームレス狩りやらロリコンって……なんか色々とすごいような気がするけど、それも気のせいだ。
まぁ確かに小さい子は可愛かったけど……俺もやばいかもしれない。
あれだ、旅が長いとどうしても異性に会う機会が無いので、会った時に余計に……と言うことだと思う。
たまに海鳴に戻ったときにアリサに会ったり、旅先でなのはに会ったりするときにドキッとするのは、つまりそういうことだろう。
閑話休題。
もちろん、旅先で人に助けられるなんてことはまず起きることは無いので、基本的にはガジェットから逃げるしかないのだが。
さすがに毎度毎度追いかけられては逃げて、隠れて抵抗していては、こちらの身が持たない。
旅とは気ままに楽しく。
旅は縛られずに自由になれる方法の一つ。
ガジェットによりこの二つが阻害される。酷い邪魔者である。
こうなったら、この旅はただの危険でしかなく、死の臭いが立ち込めてくる。
もちろん、あてなき旅なので危険は常に背負うものであるが、この件はそれとは別物である。
狙われているのだから、たぶん。確証が無いので断定は出来ないが……。
それに、もう海鳴に戻ってもいい頃だとは思う。
年齢はすでに十九歳になり、大抵の人はこの年では大学生になるが、社会人だってなる。
なので、もう十分に大人と言える。保護される可能性は……昔に比べたら低いだろう。
ああ、そう考えるともうちょい頃合を考えて戻ったほうがいいかもしれない。
聞くところによると魔法世界では就職年齢が低く、俺のような年齢では働いているのが当然のようだった。
確かに、なのはの就職はやけに早い……早すぎた気がするけど、つまりはそういことだった。
年齢による保護は無い、その上いざと言うときは魔法を使えるし、あのステルス布もある。
魔法世界では保護もしくは捕まえられる可能性は低いわけだ。
ならガジェットの現れにくい場所で停泊がいいかもしれない。
……中心都市のよう場所になるのかな。
いや、いっそ停泊と言わずに別荘みたいな……。
海鳴市にあるのは本拠地で、魔法世界にあるのは拠点……ホームレスの本拠地と拠点。
「これはいいアイディアかもしれない」
各世界や地方に人が住まうことが出来るように、お手軽ダンボールハウスを設置をする。
そうするとあら不思議、旅人たちの溜り場になり、まるで酒場のような場所になる。
たとえならなくても俺の別荘なので問題はなし。
「では、まずその第一段階として魔法世界の本拠地決めをしなければ……」
出来れば大都市のある場所。その上に自然もある。
これは食べ物の確保に必要だから。
可能であれば、文明の発達してる場所。
今の俺の持っているものは多数のダンボール、それを改造する為の簡易な道具とスクライアガイドブック、少しの服類とサーマルスコープにステルス布しかない。
まぁ他にもないことも無いが、大して重要なものではない。赤い宝石とかもね。
それに、一箇所に家を構えるのならそれなりのものが必要になる。
久々にダンボールハウスを本格的に建てるわけだしね。
そして、基本的にそこが俺の魔法世界での住まいなので、ガジェットの出ない場所。
これらが整っている世界が望ましい。
しかし、こんな都合の良い都市があるわけが……あった、というよりは行ったことがある。
あの爆発に巻き込まれた世界だ。
ちょっとした自然もあったし、確か海のような場所もあった気がする。
大都市のような場所も会ったし、なによりそれだけ人のいる場所ではあのガジェットは出てこないだろう。
うん、決めた。
次の世界はその世界……、
「名前は確か……ミッドチルダだっけ?」
どこかで聞いたことがあるような気がするけど、きっと有名な都市だからに違いない。
◆
「ミッドチルダよ、俺は帰ってきたーーっ!」
同じ世界に何度も行くことなんてないからちょっとした感激で叫んでしまった。
海っぽい場所に向けて。
いや、暢気にこんなことしてる場合じゃないじゃないか。
一夜明かす程度なら、その辺のベンチでもいいかもしれないが、しばらくここに住むとなるとちゃんとしたダンボールハウスが欲しい。
もちろん、ステルス搭載の迎撃・防衛システム完備のダンボールハウスをだ。
残念ながらまだ魔力吸収と言うのは出来ないが、幸いなことに魔力だけならかなりの量が貯めることができた。
毎日地道にを数年間やった甲斐があったというものだが……されど、防げるのは一回なのでやっぱり見つからない事を前提。
戦わないことを前提だ。
そもそも、こんな都市で戦いが起きるとは思えないけどね。
そんなどこかの都市の多発テロが起きるわけでもないし。
それでも、備えあれば憂いなし。日本人たるもの準備は心の予防線なので、準備はしておくとする。
無論、いつでも気軽に逃げれる準備をね。
さて、暗くなり始める前に買い出しに行かなくてはと思い、一歩踏み出したその時、誰かに呼び止められた。
「おまえがイチローか?」
嫌な予感がするよ。
とても面倒なことに巻き込まれそうな、そんな嫌な予感。
後ろから声がするのに、振り向いたらそのまま一気にどん底まで巻き込まれそうな、そんな感じがする。
しかも、割と危険で危ない方向に。
逃げなくては。
なんとかしてこの危機を抜けなくては。
「いいえ、人違いです。私の名前はジョンですヨ?」
振り向かずにとりあえず、他の人の名前を言っておく。
これで騙されるとは到底思えないけ──
「そうか、人違いだったか。すまないな」
あまりの驚きに振り返って、声の主ををみると……小さくて眼帯をつけてる銀髪の女の子だった。
その女の子は、迷惑かけたなと言葉を残しそそくさとどこかへ歩いてしまった。
俺はその光景に呆然とする……。
あれで騙されたのか? ……俺の演技力がすごかったのか?
もしくは、相手がそうとう天然系だったのか……う~む、真意を測りかねる。
でも、助かったので気にしない方向で行こう。
にしてもさすが魔法の世界……今更ながらファンタジーだななんて思ってしまう。
俺は自己紹介をしていなければ、著名人と言うわけでもないのに俺の名前を知ってる人がいるとは……。
魔法世界においては、プライバシーなんて無いようなものなのだろうか……。
常に魔法によって監視されてたりするのか!?
……なにそれ、怖い。
まぁさすがに、監視まではないか。
プライベートが若干ばれやすくて、情報が筒抜けしやすいということなんだろう。
そうなれば、俺のここでの生活は常に細心の注意を払う必要があるようだ。
もちろん誰にも見つからないように、怪しまれないようには俺の生活の基本だけどね。
いや、この世界においてはある程度は見つかっても案外大丈夫だった気がする。
前に来たときは、あの空港のような場所で寝泊りしたが、多少は訝しがられたものの通報まではされなかったし。
まぁそれはあくまで短期的に見て、長期的に見れば通報されるやも知れないが、海鳴市──元の世界よりはましだろう。
さて、そんな俺の生活の基盤はお得意のダンボールハウスなのだけれども……。
「時間的に見て今から作るのは、厳しいものがあるよな……」
空はすでに暗くなり始めているし、まず道具を作って拾うところからしなくちゃいけないし。
しょうがないので、今夜は前に泊まった空港にするしかない。
家の準備は明日以降にするとしよう。
今日のところは、明日への家の構想を練りながら寝るとしようじゃないか。
空港の場所は覚えているので、黙々と空港に近づき。
目的地に着くころにはあたりはすっかり真っ暗だった。
「そういえば、今日は何も口にしてないな……」
三度の飯よりダンボール。
色々な思惑を考えていたので、忘れていた。一日ぐらいはどうってこと無いけど。
それに食べ物にしても、いつものように狩りをすればいい。
サーマルスコープで動物の熱源反応を調べ、スクライアガイドブックで上手いかどうかを確かめ、魔法のバインドでトラップを仕掛けて捕まえる。
まさに魔法と科学のコンビネーションだ。
ある意味では俺の旅の集大成とも言うべき、狩りの方法かもしれない。
ああ、そういう意味ではステルス機能付き迎撃・防衛システム搭載のダンボールハウスもそうとも言えるか。
本当に……本当に今までの旅を思い返すと感慨深くなるね。
いろいろあったもんな……。
魔法の失敗に始まり、俺の心の師匠ともいうべきダンボールの先輩との出会い……以下省略。
ありすぎて、どれがいつの頃の思い出かも曖昧だけどね。
いつまでも思い出に浸っているわけもいかない。
明日からはこちらへの移住というか、住む準備があって忙しくなるのだ、今日は早めに寝ることにしよう。
明日が楽しみでしょうがないけどね。
◆
朝の目覚めはいつも通りだった。
体調良し、気分良し、ダンボール良し、問題なし。
今日は忙しくなる予定なので、起きてさっそく行動開始となる。
まずは材料探しの散策を……なんて思ってる時だった。
どこかで見たことあるような、少年少女を発見。
向こうもこちらに気付いたらしく、目が合った。
「あ、あなたはあの時助けてくれた!?」
「なんでこんなところに……お久しぶりです、お兄さん」
ビリビリ(赤)と龍使い(ピンク)だった。
これはまたなんとも懐かしい面子だな。
今日の俺は気分もいいから、なんだかちょっと嫌な予感がするが、ジョンですなどと言わずに、ちゃんと挨拶してやるか。
「おう、二人ともお久し──」
「ん? どこかで見たことあるような顔だな……まさかいち──」
「どちら様でしょうか? 私はジョンですヨ?」
ホームレス狩り(ピンク)が現れた。
挨拶
ホームレス狩りを狩る
→逃げる
予定変更。二人には悪いとは思うが、俺は脇目も振らずに一心不乱に逃げることにした。
そういえば、ホームレス狩りの人も確か騎士だったような。
小さい男の子と女の子を連れていると言うことは……ロリコンだったのか……。
俺の中で騎士=ロリコンの式が成り立った瞬間だった。
あ、そうか……。
だから当時ロリだった俺を襲ったのか……納得である。
なのはとかも襲われたらしいから、ますます信憑性が出るなこの式。
いや、男の子もいるからショタもあるか……。
「な、なんか今盛大な勘違いをされた気がする……待て! イチロー」
「助けてもらったお礼も言ってないのに……」
「せっかくまた会えたのに……」
後ろで「イチロー!」と呼び止める声が聞こえるけど……うん、俺はジョンなので関係ないです。
にしても……俺のここでの生活はなんだか前途多難になりそうだ……。
{スカさんフラグ消滅確認。Sts始めました}