俺は今魔法の世界に行く方法を模索中である。
時に、なのはに魔法の世界に行きたいと頼んだのだが、なのは自身もアースラという船のようなものを経由して、行っているので詳しいことは分からないとのことだった。
そこのところもっと詳しい人がいるからその人に聞いてみれば? とのことだったので、その人とはだれぞやと思ったのが、なんてことはない。
金髪の女の子、フェイトのことだった。
彼女はなんと魔法世界の生まれだと言うではないか。
生まれながらにファンタジーな世界であり、育ちもファンタジーな世界。
そう、まさにフェイトはファンタジーな人物と言えるだろう。
つまりそのようなファンタジーなことにはなのは以上に詳しいと言うことだろう。
適材適所。
そういうことだった。
しかし、実はなのは、フェイトを紹介する前に「他にもっと詳しい人もいるんだけど……」と言って、渋った上でフェイトを紹介したのだ。
ということはフェイト以上にファンタジーな人が居るのかもしれない。
そういえば、ピンクの髪で騎士の姿で剣を持ちホームレス狩りのシグナムさんは、その姿だけを見れば非常にファンタジーだ。
というか奇怪だ。
俺は金髪だって珍しいと思ってるのに、ピンクって……そんな感じだ。
まぁそれはそれで似合って見えるのが不思議ではある。
そこを含めファンタジーなのかもしれないが。
「ひ、久しぶりだね……イチローだよね?」
「ああ、世界のイチローとはまさに俺のこと……得意技はレーザービームです」
「ビーム出せるの? すごいね」
「え……ま、まぁな。と、今回来てもらったのは他でもない、魔法の事を教えて欲しいんだけど」
フェイトに会うのが実はこれが四回目であったりする。
一回目は、海の中。
二回目は、病院で。
三回目は、雪の中。
あれ? まともにしゃべった記憶が無い。
ということは、今回がある意味フェイトとまともに話す機会と言うことになる。
そう思うとなんだか緊張……はしないな、別に。そんな初心な心無いし。
「魔法の世界に行きたいんだっけ? 転移魔法、でいいのかな?」
「転移魔法?」
「うん、説明すると……」
曰く、転移魔法は魔力を使ってどうする瞬間移動的なものであるらしい。
ただ、移動するにはその場所の座標を正確に指定しなければならない。
そして、そのその指定はかなり繊細なものらしく、魔力の運用がそれなりに上手くならなくてはならないし、失敗をすることが出来ない魔法とのことだった。
そういわれると、なんだか怖気づく。
座標指定に失敗すると、海のなかに入ってしまったり、雪の中、山の中なんてこともあるみたいだ……。
あれ、全然怖くない。
というか俺の日々の生活の一部じゃない?
「でもね、それはまだマシな方で、もっと酷いと他の世界に行ったりしちゃうんだよ。だからとても繊細で大変なんだよ?」
「なるほど……それはそれで……」
目的の場所に行けずに他の世界に旅立つ。
それはそれで面白いと思うのは、まさにどこにも家の無いホームレスならではの楽しみなのかもしれない。
時空を駆けるホームレス。
すごいロマンティックだ。
旅は回り道? とは言わないかもしれないが、自分の見たことの無い世界を旅できるのは魅力的だ。
なるほど旅か……これは別に世界に限らず、今の俺にでも出来そうなことだね。
まぁそれをするのには、行動しても補導されないような年齢にならないと駄目か……。
いや、他の世界ならそういうのが無い可能性もあるんじゃないか?
「それにその世界によっては人もいない世界だってあるし……」
「なんと!? それはそれは……」
人がいないなら保護されることもない、自由。
いや、もし人以外に何も無かったら野垂れ死にだし、いても人より凶暴な生物だったら殺されるし……。
となると、今よりさらにサバイバル技術を身につけなくてはならないわけか。
それ以前の問題もあるけど。
「ええと、イチローはどこまで魔法使えるの?」
「バリアジャケットをカップラーメン作る時間で出来る!」
「……三分ってこと?」
「いや、俺の食うのは四分だね」
今、カッ○ヌードルって高いからね。
赤いのとか緑のとかのほうがやすいんよ。
カップラーメン自体は最終手段でしか食べないけど。
そういえば、カップラーメンの奥義として、まずはカップラーメンの面を半分にして、食べて。
次はさらに半分、その次はさらに半分と、永遠に繰り返せるんじゃないかと思ったけど、そんなことはないんだよね。
あの粉を適量にするのが難しいからだ。
「ど、どっちでもいいけど」
フェイトが少しあたふたしながら、答えた。
どうやら俺とのやり取りがやりにくいらしい。
もしくは、フェイトはそういうギャグ的なものが苦手なのか、しゃべるのが苦手なのかもしれない。
「そんなに時間かかると、ちょっと転移魔法は難しいかもしれない……。デバイスは持って──るわけないよね」
俺の姿を見て、いいかけたことを自己完結させる。
まぁ確かに、そういう便利な物を持っていそうではないのは認めるけど……ちょっと失礼のような。
別にいいけどさ。
魔法対談はこんなもんで終わった。
今の俺にはどうしようもなく魔法を使うことは夢に近いものだからだ。
「ねぇイチローとなのはの出会いってどんなんだったの?」
フェイトが何の前触れも無く、そう聞いてきた。
何をいきなり、と思ったがなるほど深い質問ではある。
俺となのはの出会い。
過去を振り返るにはちょうどいいかもしれない。
「そうだな……俺がなのはに会ったのは」
「うん」
「砂の上だったな。俺がそこに巨大な建築物を作ってやったのさ」
「? 砂の上に建築?」
「そうだ。パルテノン神殿って言ってな、歴史的建造物なんだぞ」
「イチローが歴史的建造物を建てたの?」
「ああ、大変だった」
一夜にわたって建てたからな。パルテノン。
「そうなんだ……イチローって実はすごい?」
「ああ、そういうのは得意だな」
「じゃあ、この家も?」
「まぁ……ね」
砂場で何かを作るのは好きだし、得意だからね。
その特技が相余って、このダンボールハウスにつながり、忘れがちだが忍さんに教えてもらった技術で生活を円滑にしている。
良くも悪くも、いや、これだけを言うのならこの特技がかなりいい方向にこの特技は向かっている。
特技でもあるし趣味でもあるが正しいが。
ただ、フェイトよ。
目をキラキラさせ、なんで尊敬のような眼差しを俺にむけるのかが分からない。
今の俺の発言のどこに俺に尊敬をむけられるようなことがあっただろうか?
そんなこんな、フェイトと雑談をし、フェイトは家に帰って行った。
なんとフェイトの家はファンタジーな世界ではなくこの世界にあるらしい。
さらに驚いたことに、なのはと同じ小学校とのことだった。
つまり、その小学校は異世界人すらも受け入れOKということなのだろうか。
だとすれば、それはもう寛容すぎる心を持つ学校と言う印象を持つね。
もしかしたら、ホームレスな俺も受け入れてくれるんじゃないか、とかね。
まぁ学校に行こうとは思わないけど。
◆
「だから、何で出来ないの!?」
「ようやくバリアジャケットの構成が分かった程度で、空を飛べるかって話だろ」
「私は飛べたもんっ」
「それはなのはにレイジングハートがあったからであってだな──」
「無くても飛べるもん。ほら!」
俺に見せつけるように空を飛び回るなのは。
その姿は悠々しく、またすごく気持ちよさそうなのに……なんでだろう?
どうして、俺の心はこうもドロドロして、黒いものが……。
ああそうか、これが理不尽な世界ってやつだね、お父さん。
お父さんいないけど、天国に空想のお父さんを想像する。もしくは創造する。というか、お父さんを創造ってすごいな、おい。
「くっ、これが才能の差というやつなのか!? 俺はバリアジャケットすらまだ満足に作れないというのに」
最近こそ、数分で作れるようにはなったものの、構成が甘いのか余計な魔力を使いすぎているのか、作ってもすぐ消えてしまったり、欠陥が出てしまう。
たとえば、防寒完備のバリアジャケットを作ろうとして、完全フル装備── ロシアの兵隊のようなものを想像して作るものの、見た目こそは完璧なのに、中身はただの布のようなものになったり。
ダンボールになったり……。
いや、ダンボールは確かに防寒性は高いけどね!
見た目的にはよくないでしょ? 見た目って重要だしね。
まぁいざとなれば、そんなのなりふり構わずやるんだが、出来れば魔法というものを使いこなしてみたいと思うのが人の常。
人はいつだって強欲で貪欲なのだ。
「むぅ、ちゃんと教えてるのに何で分かってくれないの?」
「凡人のことはいつだって天才には分からない……そういうことじゃないのか?」
「一郎君が凡人って言うのは少し違う気がするけど……」
失礼な、立派に普通な人間だとも。
そもそも魔法はレイジングハートが教えてくれる予定だったのだが、それに異を唱えたのがなのはだった。
彼女曰く「一郎君と約束したのは私だから、私が教えないとだめなの!」とのことだった。
なのはもなのはで結構面倒な性格をしているなと思った発言でもある。
それから延々と俺となのはの講習会。
ああじゃない、こうじゃない、それも違う、分からない、なんで分からないんだ…………キリが無い。
そうしたことを繰り返しているのか、なのはは逆に盛り上がってきたのか、それとも単なる意地か、挙句の果てには、
「絶対に一郎君を立派な魔導師にするの!」
と言い出したからたまんない。
俺は単に日々の生活に生きる魔法を覚えて活用したいだけだというのに……。
なのははきっと教師になったり教える立場になると、勝手に盛り上がるような熱狂教師になるに違いない。
そして、体育祭とかのイベントになると勝手に「特訓だー!」と言いだして、面倒くさそうにしてる生徒を振り回すに違いない。
逆にがんばる生徒にはさらなる課題を……うわぁ、考えるだけで面倒なタイプの人間に思える。
「うん、やっぱりなのはには、人にものを教えるのは向かないな」
「一郎君にそういうこと言われると、逆に見返したくなるのってちょっと不思議だね」
あれ? もしかして地雷踏んだ?
この後、二年間にわたり、なのはの俺に対するいろんな意味での鬼のような特訓の日々が続いたのは語るまでも無いだろう。
噂によると、この時になのはが人に魔法を教えることに快感を覚えたとか何とか……。
{次回から時間が飛ぶ……かも? とりあえず色々建設終了です}