「だからな~『はやて、俺は君が立ち上がれるようになるまで傍で見守ってあげるよ、ずっとね』なんていうはずないやんか?」
「…………」
「うん、うん。一郎君なら確実に『むしろ一生立ち上がれなくしてやんよ』なんて言いかねないの!」
「いや、さすがにそこまでは言わないんだけど……」
せいぜい言って、「ほら立ってみろよ? 立てないのか? この軟弱者!」止まりだと思うぞ?
いや、まて、俺。
そもそもこいつらは突然家にやってきて、行き成り本人の前で愚痴をこぼすわ、本人無視してしゃべってるんだ?
営業妨害なんですか?
ホームレス妨害なんですか!?
「そうやろ? だから分かったんや。これは夢だって」
「そうだよね。そんな優しい一郎君なんて一郎君じゃないもん」
「俺はなのはの発言に傷ついた」
言いたい放題だな。
そして、俺が突っ込むor反論しても無視するとは……いい度胸してるじゃないか。
俺にけんかを売ると言うことの怖さを教えてやるぞ。
そうだな、まずはなのはに報いを取らすべきか。
では、これよりなのはをダンボールの刑に処す。
ターゲットは俺を無視するためにこちらを見ていない。
なので静かに、密やかに背後に接近して……
「被せるべし! 被せるべし!」
「にゃにゃ!? き、急に目の前が暗くなってっ! ふぇ? で、出られないの!?」
「な、なのはちゃん!?」
「俺を無視した罪は重いのだよ。特にここダンボールハウスではな!」
なのはをちょっと大き目のダンボールの中に収納。
俺のちょっとした心遣いとして、なのはに傷がつかないように、あのプチプチもたくさん引き詰めてやる。
なんて、優しいだろう。
「なんかプチプチがすっごい張り付いて熱いよぉ。ベタベタする……」
「な、なのはちゃんしっかりしやぁ!」
「にゃー! ここから出してよー!」
「ふははは、そこでにゃーにゃー言ってるがよい」
ダンボールに収納したなのはが、熱い熱いと言ってるので雪にでも埋めたろか?
ああ、でもやりすぎると死にかねないのでやめるか。
宅急便で北海道に送ってやるぐらいに留めてやるか。
さて、次ははやてだな……
「す、すみませんでした。もう、二度と無視しないので、か、かんにんや」
「そうか……はやて」
「ゆ、許してくれるん?」
「あ……あ」
「ほんまか!?」
「謝って済むなら警察要らないよな?」
「今すぐこの人を通報してーーっ!」
保護されてたまるか。
ということで、はやてにも何らかの罰を与えなくてはなるまい。
さて、今パッと思いつくものが、
1.なのはと同じくダンボール収納の刑
2.自販機の下をめぐって3000円、見つかるまで帰らせない。
3.一緒にホームレス生活を味わおう
4.池ポチャーン
5.珍動物を食べてみよう
6.ラッキーチャンス
と、ちょうどよく6個考え付いたので……
「おっと、こんなところにサイコロキャラメルの空き箱が」
「なんでそんなに都合よくあるんや!? 神様呪うで!」
神様呪うことにより、酷い罰が来るかもしれないよね。
では、さっそく運命の時間がやってきました。
サイコロ片手に~~
「何が出るかな、何が出るかな、それはサイコロ任せよ~~」
ローカル番組って言うなし。
あれだ、下手なコメディ番組は面白いんだから。
「あ、6や……ラッキーチャンスや! た、助かったん、かな?」
「ラッキーチャンスです」
なんとこのラッキーチャンス、何が出来るかと言うと……
全ての体験が出来ます、やったね。
「ど、どこがラッキーやねん!」
なんか文句言ってるが、気にしない気にしない。
そもそも、神様呪うとか行った方が悪いんだ。神様みんなの悪事はちゃんと見てるんだよ?
「とにかく、はやてもなのはと同じ箱に入ってもらいます」
「いやや! あ、あないなところ入りたくない!」
「ふふふ、ようこそはやてちゃん、ふふふ」
「行きたくない! 行きたくないよー!」
物理的に考えて、なのはが収納されているダンボールの中にはやてが入るのが無理っぽいのだが……
まぁ入ってしまったんだから、気にする必要は無いか。
とりあえず、これで『ダンボールのなのは・はやて詰』が完成した。
ここにあると何かと邪魔なので、欲しい人は下に出ている住所と係りつけに、年齢・住所名前などをご記入の上、秘密の言葉を書いてはがきを送ってください。
なお、抽選によりお一人様にお送りいたします。
ご応募お待ちしております。
…………。
さて、なのはとはやての箱詰めは飽きたので、そろそろ出してあげるとする。
「ひ、久しぶりの日の光やぁ」
「こ、こんなに太陽さんを嬉しく思うなんて……」
どうやら二人とも箱詰めを堪能したようだった。
それならまたやってあげるとし──
「いやだ(や)」
「……冗談だよ」
「「嘘だ(や)!」」
まぁ君らは俺の悪口、愚痴を言わなければ問題ないことなんだけどね。
いつまでもダンボールの話を引きずってもしょうがないので、話を進めるとする。
「そもそも、そうなったのは一郎君のせいやんか」
「あれ? また箱の中が愛しくなったのかな?」
「す、すみませんでした!」
うん、素直でよろしい。
……だんだん自分が外道になってるような気がするけど、気のせいだろう。
ただ生きるのに必死で汚いだけなんだ。
汚い! さすがホームレス汚い!
そんなフレーズが頭の中で浮かんだけど、なんか別の意味でもとれそうだから、思い浮かば無かったことにする。
「ところで、ここに何しきたんだ?」
「あ、それなんだけど……前の約束覚えてる?」
「約束?」
なのはと何か約束しただろうか……
痩せるトレーニングを教えるんだっけ? 今すぐ使えるサバイバル術だっけ?
記憶に無いな……覚えてないからきっと大したことじゃないのだろう。
「覚えてないの? あのね、魔法を教えるっていう約束なんだけど?」
「ああ、そういえば」
したような、気がする。
確か……『もういいや、なのはで!』って感じで決めたんだっけ?
すっかり魔法の事を忘れて暮らしていたよ。
「それじゃあ、はやては何でいるの?」
「私も教えてもらおう思ってなぁ。うちにもシグナムたちがおるけど、こういうのって気分の問題やろ?」
つまり、教えを請うには同世代のなのはに教えてもらった方が自分が教わりやすいと、そう考えたってことか。
ただ、なんで教わり易さばかりを考慮して、教える上手さを考慮しないのだろう。
なのはが上手く教えられるとは思えないんだけど……まぁ実際のところは分からないから、教わってみないと分からないけどね。
なんだかんだで、俺も教わるわけだし。
にしても魔法か……楽しみだ。
◆
バリアジャケットすげぇーと俺が思ってる最中、はやては俺がようやく生成できたバリアジャケットを簡単に作り上げ、空を縦横無尽に飛んでいます、妬ましい。
最初はなのはに教えてもらっていたものの、なのはは感覚的な教え方が多くて俺には到底理解できなかった。
「だから、ここはこう……ビューンって感じで!」
「ビューンって何? なんで飛ぶの? 今話してるのって魔力の使い方だよね?」
これで分かるはやては十分に天才の領域だと思う。
そうか、はやても魔法少女てことなのか……そう考えると急にはやても痛い子に見える。
そんなはやてとは違い俺は、なのはの教えを理解できなくて、俺には魔法がつかえないのかと絶望してるとき、なのはの持っている赤い宝石がしゃべり出したのだ。
今は宝石すらもしゃべれる時代なのかと感心していたら、その宝石はどうやら魔法世界のものらしい。
宝石はデバイスと言うもので、持ち主の魔法を補助したりするそうだ。なんと便利な。
しかも、そのデバイスというものは魔法の補助だけでなく、ネットを使うこともでき、メールなどもお手の物と言うではないか!
魔法の補助なんかよりよっぽど利用価値あるじゃないか。
しかも、話し相手になるので、独り身のご老人にももってこいの一品だ。
あ、独り身のホームレスにもいいかも。
デバイス……研究する価値ありか。
デバイスの話はさておき、その宝石レイジングハートに俺は魔法を教えてもらうことになった。
実に理論的で分かりやすかったので、俺も何とかバリアジャケットまで行き着いたということである。
さて、このバリアジャケットであるが、本来は戦闘服とでもいうのであるのか、その名の通りに防御のための服であるらしい。
まぁそんな戦闘とか、防御なんていう機能は俺にいらないので、防寒とか出来ないか聞けば、なんとできると言うのではないか!
例によれば、俺の世界で言う消防隊みたいのが対火対策のバリアジャケットを使ったりするらしい。
つまりそれを応用すれば、対防寒ができるだろうということだった。
でも、今はまだ最低限の機能を備えたバリアジャケットを作成するのが精一杯なので今後の研究にまわすとする。
余談になるが、デバイスがあれば、例え魔法の構築が不完全でも、ある程度は扱えるようになるとのことだった。
ますますデバイスの素適度が上がる。
本格的に勉強したくなってきた。
ただ、誰に教わればいいのか分からないので独学にもなりかねないが……レイジングハートにでも教えてもらおうかと思ったが専門外とのこと。
何かいい案は無いものか。
ああ、そうか……単純な話だ。俺も魔法の世界に行って勉強すればいい。
となれば将来的には、この世界を離れることも考慮しなくてはなるまい。
この日のトレーニング? はバリアジャケットを作るだけで終わりを告げた。
終わった時間にはまだ日が昇っていたので、だんだんと日が伸びているの感じる。
そうか今年も生き残ることが出来たな、と少し考え深くなったりもした。
思えば、この一年出会いばっかしだった。ホームレスなのに。
◆
そういえば、はやてがなぜこんなにも自然に混じっているか、を疑問に思う人が居るかもしれない。
彼女は最初なのはに、俺の事情を説明されたらしい。
そうすれば、彼女は案の定、
「なら、家に住めばええやん!」
そういい獲物を見つけたとばかりに言ったらしい。
あ、ホームレスを獲物ってどこかのホームレス狩りの人みたいだ。
まぁそのホームレス狩りの主がはやてらしいから、つまり子は親に似ると、そういうことなのだろう。
ちなみに闇の書事件と言う、はやての世界滅亡と言うエゴな事件(主観的)についての説明はなのはに説明された。
なぜ説明する必要があったのだろうかはいまだに分からない。
俺は全くの無関係だというのに。はやてには一日だけ会ったことあるけどね。
たった一日だけど。
閑話休題。
つまりはやては俺を拘束すると言い出したのだ。
なんというエゴな! やつは世界滅亡ところか、ホームレスの絶滅を祈願しているのか!?
そう思ったので、今すぐに襲撃にし行こうとしたら、止められた。
「はやてちゃんはもう諦めたみたいだよ?」
なのはが言うには、保護しようとしたはやてを待ったをかけた人物がいるらしい。
それがアリサだ。
何をどういうやり取りがあったのかわからないが、なのはの話を要約してみると、
「やつは私の獲物よ! 新参者のあんたになんかに譲らないわ! この泥棒猫が!」
「キーっ! あんさんこそ黙っとき! 年増女!」
こんな感じかな?
まぁ知らないんだけどさ。
とりあえず、アリサのおかげではやての野望は潰えたと言うことらしい。
その話を聞き、一応はアリサにもお礼を言うことにした。
俺はこう見えても義理堅い男なんだ。
女の子には優しくがモットーだ。
しかし、アリサときたら俺がお礼を言ったと言うのに、
「べ、別にあんたの為じゃ……」
なんていうものだから、つまり彼女が止めた理由は、俺の為でなく自分の野望の為ってことだろう。
なんて恐ろしや……。
これはしばらくアリサにも近寄らないほうがいいかもしれない。
こんなやり取りがあり、俺の日常は変わらず平穏なものになったのだった。
まぁ時々はやてがこの家に来るようにはなったんだけどね。
ああ、これは完全に与太話になるが、今年は神社でお参りをしてきた。
願い事はもちろん……
「地球温暖化で、冬に生きるのが楽になりますように」
俺の生活自体はエコだけどね。
{秘密の言葉は作中のどこかに!? とあるイベントまで時間を気にせず進みます}