「つまり魔法はあると、そう言いたいのか?」
「うん! うん! そうだよっ!」
ようやく信じてもらえて嬉しかったのか、飛び跳ねるように喜ぶなのは。
ただ、飛び跳ねた次の瞬間「痛っ!」と声を上げ、涙目になった。
怪我か何かをしてるからお互いに入院していると言うのに、調子にのるから悪いんだ。
それに対し俺はいつだって冷静沈着だというのに。
「うぅ……でも、分かってくれたんだよね!?」
「え……まぁ、うん」
本音を言えば、魔法が本当にあることに驚きすぎてなのはの話は右から左へ流れていったが……それでも、なんとなく把握した。
なのはの話を要約すると、魔法=砲撃ってことでいいと思う。
俺の想像してた魔法とは大分違うのでその差に軽くショック受けたりもした。
「なのはちゃんの言ったことが全てじゃないわよ?」
リンディさんがそう補足した。
全てじゃないと言うことは、夢のステルス機能搭載や魔法で炎出したり、電気作ったり……。
夢が膨らむ。
リンディさん曰く、俺にも魔法の才能があるので使うことができるとのことだった。
さて、肝心の才能はどれくらいあるのか、実に興味深いものだ。
「ええとね。一郎君は……」
「はい!」
「……非常に言いにくいんだけど、なのはちゃんの半分もな──」
「なのは、お前の魔力とやらをよこしなさい!」
「え!? ふぇ~~っ!?」
リンディさんの言葉を遮ってなのはを攻撃、もとい吸収。
どうやれば、なのはの魔力手に入れることが出来るだろうか?
あれか? 血を飲めばいいのか?
「吸収じゃなくて、吸血だよね!」
「……別にうまいことも言ってないな」
「一郎君がどこまでも私に冷たい!」
なのはよ、別におまえに限らず俺は誰にだって冷たいから安心しなさい。
そんななのはとじゃれながらの魔法談義であーだこーだとしたあとに、リンディさんが俺の状況について説明してくれた。
俺はなんだか分からないうちに、魔法の戦いに巻き込まれたとのこと。
簡単に言えばそれだけの話で、そんなに深い話……って訳じゃないと思う。
途中に、闇の書云々とか、世界が滅ぶ云々も言ってた気がするけど、きっと気がするだけだろう。
というより、それを知らされたからって俺がどうのこうの出来る問題でもない。
まぁリンディさんも別に俺に何かして欲しいと言うわけではなく、被害にあったための謝罪と言うのが大きな理由のようだ。
そんな俺とは打って変わって、なのはには協力を──なのはが自ら協力してるような口だった。
自ら危険なことに首を突っ込むとか正気じゃない。いや、もしかしたらドMでそういう状況を楽しむ節があるのかもしれない。
もし、そうなら……しばらく話しかけないで欲しいな。危険ごとに巻き込まれる可能性があるからね。
さて、なのはがその事件にどう首を突っ込むかなんて俺には関係ない。
頑張るならせいぜい死なないように頑張れと言うしかない。
俺になのはを止める理由も権利も無いからね。
「──それで、ダンボールに包まれた貴方が見つかった……って聞いてる?」
「え? ああ、はい」
よけいな事を考えてたら、聞き逃してしまった。でも、二度同じ話をさせるわけにはいかないから、とりあえず頷いとくとする。
というか、聞き逃したのは主になのはのせいだ。
なのはの事を真剣に思いやって考えてあげたから、聞き逃したんだ。だからなのはが悪い。と言うことにしとこう、心の中で。
さて、状況説明の後は俺への今後の対応だった。
リンディさんが言うには、元の生活に戻っても大丈夫とのことだった。
リンカーコアは、例の闇の書と言うのは一度リンカーコアを蒐集した人からは、蒐集できなくなるので、また襲われる可能性はまず無いとのこと。
よって、下手に管理局であるリンディさん達と関わるよりは、普通の生活に戻った方が安全らしい。
もちろん、この事件が解決するまではリンディさん含め、なのはとの接触も避けるようにと言うことになるらしいが、それは俺にではなくなのはに言うべきことだと思う。
ちなみに、今回の事件の被害者たる俺は管理局からそれなりの``謝礼``が出るらしい。
さらに言うならば、日本円で出るらしい。これはまさに天からお塩──じゃなくて、天からの贈り物だ。
しかも、入院費もただだというじゃないか!
襲われたと言うのに良いこと尽くめ……ついに俺にも運気がまわってきたんじゃないかと思う。
この日は、リンディさんの説明となのは弄りで終わった。
聞く話がどれもこれも、初めてのことばかりで楽しいと言えば楽しい一日、だったかもしれない。
◆
「なのは……それドロップやちゃう、それはダンボールや」
「ど、どんな夢を見てるの!?」
「うわっ! なんだ、なのは! 俺のベッドにいきなり……まさか!?」
「ち、違うよ! 一郎君が変なこと言ってたからっ!」
何か寝言でも呟いたのかな? 記憶に無いからね。
ただ夢の中で、なのはが俺のダンボールハウスを、「わぁーお菓子の家だー」とか言ってた気がする。
その後は急に戦争になって……ダメだ、ここまでしか思い出せない。
目が覚めた矢先から、あれやこれやと騒がしかった昨日とはまるで真逆なのんびりとした朝を迎えた。
昨日は自分の状況把握だけで手一杯……になってた気がするので、今この場所の状況は掴めてなかった。
説明によれば、ここは時空管理局と言う組織? の病院で俺となのはは同じ病室──というよりは、俺となのはのための病室とのことだった。
理由は色々あるらしいが、一番には友達同士なんだから一緒のほうが良いよね? って感じらしい。
まぁだからなんで二人きりと言うのは、謎なんだけど……気にしない方向で行こう。
だって今はこのふかふかのベッドに、決まって三食までもらえるんだ、どこに文句のつけようがあるものか。
明日の心配をしなくて良いことは実に魅力的だと、早くも思ってはいるけど……なんだろうな。
何かが……そう、何かが足りない気がする。
それがハラハラなのか、ドキドキなのか、危機感緊張かは分からないが……生温いような、そんな感覚。
そうは言っても、入院生活はまだ強制的にでも続くので、満喫するとするのが吉と言うものかな。
とはいうものの、暇な時間でもあるので、この時間は趣味の一つに当てはめるとする。
「さて、なのは」
「なに?」
「今、俺となのは二人っきりである」
「? そうだよ?」
「一つ屋根の下、大きな部屋の中で誰に邪魔されるわけも無く、男の子と女の子が二人きりだ」
「うん、一郎君と一緒の部屋だね!」
「いや、そうじゃなくて……なんで、そんな純粋な目を俺に向ける……」
俺は必死にからかっている状況なのに、なのはは全く分かっていないとは……
それどころか現状を楽しんでいるような感じがする。
こう……なんというか、なんだ、みだしらな事を考える俺のほうがおかしいんじゃないかと思えてくる。
いや、なのははまだ小学三年生だから分からないのは当然と考えるべきか……
なのはの方をもう一度みると、なに? と言った感じ小首をかしげながらこちらを見ている。
ちなみに、俺のベッドに乗って真横で、である。
正常な男が見れば、誘ってるんじゃないかと……と、いけない。これ以上は色々と危ない思考に突入するところだった。
よく考えれば、突入と言う文字もこれはこれで危険な──って、俺はどこぞのBダッシュの使えるエロいあの人のような思考になりかけてる。
これは早急に話題をそらす必要がありそうだ。
「そういえば、なのはって魔法つかえるんだっけ?」
「うんっ! でも、今はちょっとできないんだ……」
しょげた感じで下を向く。
たかだか魔法がつかえないぐらいで、俺なんてその存在も知らなかった。というか、俺たちの世界では知らないのが普通だろうに。
そこに、偶然たまたま知る機会があって、たまたま魔力を持っていた、それだけだろうに。
そもそも、なんでなのはの方が俺より魔力が多いんだ!
むしろ必要なのは俺のほうじゃないか?
なのはなんて、魔法を使わずにボケーっと生きている方がお似合いだろうに。
それに比べ俺なんて、毎日生か死の戦いだ。魔法があった方が生存率が高まるに決まっている。
ということで、
「なのはさん、魔法を教えてくださいお願いします」
「ひくっ! なんかすごいしたでに出てるよっ! こんな姿の一郎君初めてだよ!」
「そんなことないです。生きるためには、例えなのはだろうが、かの黒く夏に湧くあの虫だろうが土下座の一つや二つ……」
「そ、そっかぁ。なら、うん! 私が教えてあげても良いよっ!」
本人は気付くまい、あの黒くて忌み嫌われるGと言う生物と同列に並べられていると言う真実に。
それはさておき、上手くなのはに取り入ったので、魔法が今後使える可能性が出て来た。
なに魔力なんて飾りさ。
必要なのは魔力を如何に生活に役立てられるようにする技術と発想だ。
偉い人にはそれが分からんのです!
「ところで、重要な話なんだけど」
「どうしたの?」
「魔法って電気とか炎とかだせるの?」
「うーん、フェイトちゃんは電気を出せるよ?」
フェイトちゃんって誰?
素朴な疑問が思い浮かぶがそんなことより、
「フェイトちゃん``は``って言ったな? ということはなのはは出せないのか?」
「うっ……ごめんなさい。本当のところはまだ私も魔法を知ったばっかしだから分からないの……」
「……つかえないな」
「ひどっ! さっきまでの慕うの姿勢が何一つ残ってないよ……」
つかえない奴に敬語も敬う気持ちも無い。それが、ホームレス魂ぃ。
……聞きようによっては、すごいダメ人間っぽく聞こえるが気にしない。
しかし、この発言によりなのはを師匠にするのはもしかして効率が悪いんじゃないかという疑惑が浮上する。
その電気っ子? のフェイトって言うこの方がいいかもしれない。
電気が使えるから。もう、あの自家発電機に頼らなくてすむからね。
どうせ、大半はなのはに扱がすけど……
なのはとそんな雑談をしていると、お昼になったので食事が運ばれてきた。
ここは異世界なので、日本食を食べられないどころか奇天烈なものが出るんじゃないかと不安だったが、出てきたのは和食。
白いご飯・味噌汁・さばの味噌煮etc
なんというか……渋い食卓だった。
味の方は……まぁあれだ、食べられるものが出てきてよかったと思うことにしよう。
入院食と言えば、日本だとよくまずいと言われるが、最近ではそうでもないらしい。これイチローの豆知識ね。
食事が終わると、一人の来客が来た。
もちろんこの来客と言うのが俺にじゃないのは、明日が来るのと同じくらい明白である。
逆にここに俺への来客が来るようなら、明日が来ないと言うことに……そうすると、是が非でも来て欲しくないな。
そして、その来客と言うのが……
「ええと、一郎君紹介するね。この子がフェイトちゃんで、私と同じで魔法少女なの!」
もはや、魔法少女には突っ込むまい……。
そんなことより、入ってきたのはこれまた美少女だった。
金髪の女の子で、アリサも同じ金髪だが纏う雰囲気は180度違う。ツンツンした感じではなく、穏やかそうで、気弱な感じだ。
今も、入り口でなのはの後ろに隠れながら、もじもじしてこちらの様子を伺っているのが分かる。
そして、これが噂の……
「ビリビリ少女か……」
「びりびり?」
俺の言葉に反応したようだ。今だ不安げにこちらを見ている。早く警戒を解いて欲しい。
少し居心地が悪いからね。
なので、俺からフレンドリーに接するとしよう。第一印象は大切だし、もしかしたら今後の付き合いが長くなるかもしれない。電気関連で。
「俺の名前はええと、一応、鈴木一郎ってことになってます」
「一応?」
「うん、まぁなんというか……詳しいことは面倒なのでなのはに聞いて」
初っ端から面倒とか言う時点で、すでに第一印象云々が無駄になってる気がしないでもないが……まぁいい。
そんなことより、大切なことがある。
フェイトって子の前にジャンピング土下座を魅せながら言う。
「俺の師匠になってください!」
あれ? そういえば、この子どこかで見たことあるような……
ああ、海から覗いたときになのはと抱き合ってた子か。
{gdgダーラズって感じです。あと一話病院編続きます。フェイト初? 登場。そういえば、他に忘れてる人がいるような……男と雄を}