俺はあの日、転生トラックに轢かれてこの世界にやってきた。
この世界はとってもリリカルな世界と噂に聞く。
俺はあくまで、優等生を気取ってwikiを模索したり、最近の情報のためにアニメを見ていただけで、決してオタクなどではない。
ああ、オタクじゃない。俺は実にノーマルな人間だ。
どちらにしろ、このリリカルな世界は噂を知ってるだけで、どんな内容かも、どんな世界かも分からないけどね。
ほら、やっぱりオタクじゃない!
そんな俺が数奇な運命でこの世界にやって来たの言うまでも無い。
前世……と言うべきなのかな、前の世界にはやはり愛着がある。
世界に愛着というと一見、大規模と言うか壮大に聞こえるがそんなことはない。
ただ普通に、普通の暮らしをして、普通に時を過ごして、普通に生きていただけだ。
普通で何が悪い!
特別も好きだけど、普通は普通でいいものだ。
でも、もうあの世界には戻れない、俺はこの世界で生きるしかないんだ。ホントに、本当にこの世界に転生してしまったんだな。改めて実感するよ。
もちろん、この間のトラックのせいだけで、実感したんじゃない。この身体のことだ。
これもいわゆる、テンプレと言う名の王道の展開なのだが、第一に幼少化。
小さい手、小さい足はもちろん、一番に気づいたのは目線だ。
元の俺もそんなに高い方ではないが、さすがに幼少化すればこの程度の差は気付くと言うもの。
そして、周りの大人との比較、ぶっちゃけ言えばこれが一番早い、明らかに大人を下から上に見上げる格好になる。
さすれば、一発で把握した。つまりは、これが幼少化であると言うことに。あのトッラクは本当に転生トラックであったと言うことに。
まぁ改めて知ったこのときに、涙を流したの言うまでもない。なぜか泣いてしまう。これがいわゆる身体に引っ張られると言うことなのか?
実際に泣きたくなるようなことではあるのだけれど、大人──元も高校生だが、高校生ともなればその程度我慢というよりは、場所をわきまえることぐらいはできる。
と、ごだごだ主観主体の説明をしたわけだけど、実は現状につい…何も分かっていないことはお分かりかな?
てか、なんか説明口調だと語り方が堅いね。
あー、あー↓、あー↑、あー! OK。これで元に戻った。
ちょっと現状を確認してみよう。ぐだぐだ、回想ばかりしても何も発展ないからね。
昔、先生に言われた、
「貴方のすごいとこはそのポジティブせいね。それで味方につけるんだから大したものだわ」
お褒めの言葉で、それ以前よりさらにポジティブになったのを思い出したよ。
なんか、全然関係ないと思うけど……ってまた回想してるね。
でも、さ。よく考えてみてくれ。
この間、と言うほど昔でもなく、俺にとって昨日のよう、と言うよりもさらに近い過去。
そう、朝に起きた出来事と言ってもいい、あの転生トラック騒ぎに巻き込まれて、最終的に轢かれて、この世界で幼少化だよ?
まともな思考を持てというほうが無理難題さ。せっかく高校生までの過程まで終了したのに、幼少化したらまた勉強じゃないか!
今まで優等気取ってたのが無意味だよ! 水の泡だよ!
この世界でまたやり直しだよ! また勉強しなくちゃいけないのかよ、優等生気取る為に。
あ、パソコンがまず必要だね。ってそうじゃなくて、まずは家が必要だよ!
自分で自分の身寄りが分からないよ。俺は本当にいったい誰で、ここはどこなのさ。
記憶喪失以前に記憶ないんですが!?
よくある、転生憑依ものなら身体から記憶~~とかあるのに、そんなのものない。
せめて、転生するようなまるで主人公みたいな立場ならその程度の補正があってもいいじゃない!
世界に救いを求める前に、俺が救いを求めるよ。
とまぁこんな感じで全然把握できてないです、すみません。
そもそも、転生されるならなんか神様的なものが出てきて、この中から好きな能力を選べ、的なものがあってもいいんじゃないかなと思う。
そしたら、色々と試したいものがあったのに、有無も言わせずこの世界に転生させられて説明も無しじゃあ辛すぎる。
もはや罰ゲームの領域だよ!
人生をかけての罰ゲームだよ! これが本当の人生ゲームなのか!?
…………。
思った以上に上手くなかった。恥ずかしっ。
でも……本当にどうするべきなのか。
俺は非常に悩むわけではあるんだけど、悩む已然に何を悩むべきか……これからどうするべきか、かな?
そろそろ真剣に悩むべき時かもしれない。
今更ながらだけど……。
となると、まずは状況の整理に勤めようではないか。
一に、先ほどあげた身体の幼児化。
これが指し示すことは!? ……まぁ分かるはずも無く。保留をせざるを得ない!
二に、この場所……公園。
人の目に付きやすい、たぶん朝の公園。周りを見渡せば、時計も見え、時間も分かるし……朝の7時だね。
この公園と言う点にメリットとデメリットでも考えよう。
メリット、野宿に最適! ありとあらゆるものから防ぐ力を持っている! と思う。
雨ならあの球体に穴がついたあれ。名前分からないけどあれね、あれだよ、あれだってば!
……分かるよね?
他のメリットは、何とベンチがリッチなベッドに!?
いや、これが意外と固いのを除けばいいんだよ?
昔、家に入れなかった──あれは、たぶん追い出されたんじゃなくて、俺を家に入れれない理由があったんだと思う。
あの有名な番組のリフォームの番組がきてたとかさ。
「なんということでしょう」の、あの番組ね。
その時は仕方なく、公園のベンチで寝たんだけど、案外快適! 布団なんてゴミ箱の新聞使えばいいし。
さすがに冬は辛いかもしれないけどね。特にここは海が目の前に見えるし、結構寒そうだなぁ。
でも、逆に言えばデメリットはそれぐらいじゃないかな?
あとは人の視線が痛いとか、慣れればなんてこと無いけどね。しょせんは他人さ。
身体の状況、場所の確認、時間の確認できたから次は……次は何?
身分の確認は……どうせこんなシチュエーションの王道パターンだろうね。戸籍が無いとか。
こんなもんで、状況の確認は以上かな? となれば、次に考えるべきは、今後どのようにするかだね。
身体はこんななりでも中身はれっきとした? 高校生なので、ある程度のことは出来るから、家探しになるのかな。
でも、公園で野宿も捨てがたい……って、家があるに越したことはないか。
だからと言って、ある場所もあるかさえも分からないんだけどなぁ。
はぁと深いため息をして、今まで地面と会話してるかのごとく、下を向いていた頭を上げる。そのまま、軽く辺りを見渡して、もう一回状況の確認をしようとした矢先、砂場に一人の少女がいた。
俺はその一角に目を奪われた、どうしてかって? だってそこには……砂場があるのだから!
砂場──公園において、もっとも活気溢れる場所となりえるメインのひとつである。
それは、かの有名なブランコなどという遊具や滑り台と言う遊具にも匹敵するほどでもある。
書く言う俺自身も、砂場はとても好きだ。
昔はよく遊んだものだ。
一人で、東京タワー作ったり、通天閣作ったり、凱旋門作ったり……。
なんかこう考えると、すごくやりたくなってきたぁ! 俺の右手と左手が唸ってるよ! がるぅぅぅッて。
…………って、注目するべきはそこじゃないですよね。
少女、推定年齢5歳程度と見た。
おそらくは小学校に入る前か、もしくは小学校に入ったばっかしの子だ。
髪は栗色、服装は……俺は服装に詳しくないからいまいち分からないが、たぶん、スカートにセーターって言うシンプルなもの。
こうやって、まじまじ少女を見てるとただの変態にしか見えないが、外見年齢が若い、幼いのでたぶん平気だと思う。
はたからみれば、楽しそうに……は、遊んではいないんだけど、その少女をものの欲しそうに見ている同い年ぐらいの児童に見えると思われる。
ということは、だ。
俺が砂場で遊んでもいいんですよね!? 東京タワー作りますよ。 今の俺ならビザの斜塔だって作れますよ!
一級建築士も夢じゃないです。砂場の中なら!
そんなことを思いながら、まずゴミ箱をあさり使えるものは無いか調べる。すると、
「これは上物だ」
ペットボトルを発見した。これは、砂を固める為に使う水を確保できるようになる。
これで準備は整ったわけで、あとは砂場に行き、場所を確保するだけだ。
栗色の少女が、遠慮がちということなのか、端っこをちまちまと使っているので俺は真ん中を使わせてもらう。
結果的には少女の横、ということになるのだろうけど気にしない。
少女は俺が横に来ると、顔を上げこちらに若干の驚きの表情──涙も若干見えて気になったけど……──を見せながらも声もださずに自分の世界へ戻っていた。
なので、俺も自分の世界に引きこもることにした。
今後どうのような展開が待ってるか分からないが、とりあえず今を楽しもう。
この発想がポジティブかどうかは疑問ではあるが、あくまでプラス思考だと思って、砂を一心不乱に弄くる。
「で……できた、渾身の作品が!」
「ふぇ~、すごいね」
隣の少女が始めて口を開いた。
その言葉は明らかに驚きなのだが、俺がこういった大作を作ると驚きよりも呆れる人のほうが多いのだが、
この少女はそのようなそぶりは一切見せずに、俺の作品を評価した。
驚きと言う、俺にとっては最高の賞賛だ。
「でしょ? こんなに時間をかけたんだから、当たり前だけどね」
砂を弄り始めて完成するまで、かなりの時間が過ぎた。たぶん、空が赤みがかっているので夕方だと思われる。
その間の時間、俺と少女は隣同士という関係にも関わらずお互いに関せず無言のまま砂場で遊んでいた。
しかし、ここに来て少女は急に俺に話しかけ始めていた。
俺がこうやって、遊んでいる途中にも何度か話しかけようとするそぶりはあったが、これを機と思ったのだろうか。
自分自身も、人と話すのは好き……というか、まともにしゃべったのが大分昔のような気がする。
「時間かければ、何でも作れるの?」
「たいていのものは作れると思うよ」
「え? じ、じゃあこーーんなに大きなお城とか作れる?」
少女は、手を出来る限り大きく広げて、大きさをアピールした。
その姿は年相応のちっちゃい女の子っぽくて非常にかわいかった。まぁ実際かなりかわいいし。
愛でる対象ではあるよね?
「まぁ頑張れば、できるんじゃないかな?」
「ほんとう?」
「男に二言は無い!」
「じゃあ、えっとね。明日までに作ってくれないかな?」
「明日!? しかも、までって!?」
期待に胸きらめかせる少女とはこのことを言うのかもしれない。
手を後ろで握り、うる目でこちらを覗き込むように「だめ、かな?」なんていわれたら断れるはずもなかった。
俺は渋々承諾し、少女はその答えを聞いて、満足したのか出会ったときのようなくらい雰囲気を纏わずに、明るく元気に家に帰っていった。
その姿を見たら、断然やる気が湧いてきた。
決してロリコンと言うわけではなかったはずだが、たぶん身体に合わせて趣向みたいのも変わったのではないかと、精神的に自己防衛しながら俺は砂場に手をつける。
少女に言われたとおりに、明日までに城を築きあげなくてはならない。
建築士になって以来一番の大きな仕事になる。
「今夜は徹夜だー!」
すっかり、自分の身分も状況も忘れて、夜通し砂場で遊ぶ一人の少年がそこにはいた。
というか、俺はこの世界の名前すら分からんぞ!
{修正}