虫を捕って荒稼ぎした夏休み。
金色のカブトムシはオークションで売ろうと思ったら、なんだか偉そうな人が、高値で引き取ってくれたので、驚いた夏休み。
そのカブトムシのお金だけで、去年一年間分以上のお金を手に入れた夏休み。
──そもそも俺が月に使うお金は、どこかの番組の一万円生活よりも少ないので、番組にゲストで呼んでもらえれば、優勝出来る気がする。
お金は手に入れたおかげで、生活がまたちょっとリッチになった夏休み。
リッチ……公園の飲み水を飲むのではなく、99ショップで二リットル水が買えるほどのリッチになった。
わぉ、ちょうりっちだー。
これでおいしい水が飲めるよ。ペットボトルのラベルにも「アルプスのおいしい水」って書いてあるしね。
しかも! きれいなペットボトルも一緒に手に入れることができる一石二鳥。
ペットボトルを加工して色々使える一石三鳥。
地球にやさしいエコな心がけ一石四鳥。
そして思った……片仮名のものを使えるってリッチぽくない?
カブトムシに、リッチに、ペットボトルに、アルプスに、エコ……これらの共通点は全て片仮名。
片仮名だとちょっと贅沢に聞こえるなぁと思った夏休みでもあった。
あれ? 段ボールもカタカナじゃない? じゃあ俺って本当は最初からリッチだったんじゃないか?
それ気付いたのは、夏も過ぎた秋ごろだった。
夏休みという制限のない生活から逆戻りをした実りの秋。
去年の秋同様に、食物の確保に力を注ぐことになった。
食べ物がなくなることは直接的に死につながる死活問題。
世界で死んでいる人の数多くの理由の一つが飢えなので、世界規模の問題であるともいえる。
つまり俺は、その世界規模の問題についてよく考えなければならない事実。
ということは、ある意味自分の身を挺して世界規模の問題の解決に取り組んでいると言えるのではないか?
そう考えると、ちょっと偉そうに聞こえるか不思議だ。
『俺の人生は貧困の問題を解決するために捧げている』こう断言すれば、実はホームレスといえども、堂々と街中を歩けるのではないか? 真剣にそう思う。
では早速、その問題解決のために、自分が生き残るために実践してみようじゃないか。
食べ物の収穫。
秋の食べ物といえば、海ではサンマ、山ではキノコや銀杏、街中ではよく落ちている柿などなど、旬のものはいくらでもある。
秋のうちに食べるのならどれも入手は楽で、秋の間は食べ物に困ることはまずない。
そう、何度も言うが秋の間は……問題は冬だ。
秋のうちに食べ物を確保・保存しておかなければ冬を乗り越えることは困難になる。
去年も、冬の間は特にひもじい思いをした。
それなら今年こそはこの季節にリベンジマッチといきたい。
今度こそ、今度こそ! 俺は季節に勝ってやる! そんな思いを胸に対策を練った。
保存方法、一番手っ取り早く去年もやったのが日干しである。
魚の日干しはもちろんのこと、柿などのフルーツの日干し、片仮名で言うならドライフルーツ。
あれ? ちょっとリッチっぽい。
前にもやった言い回しのような気がするが、そんなのデジャブに決まってる。
この二種類のものはすぐに用意し実際に活用できた。
他には小麦粉などを買い、自分で麺を作るなんてこと、も……!?
ここで俺に電流が走った。
「お金あるから、普通に材料は買えばよくない?」
と思ってた時期が俺にもありました。
これはあくまで最終手段。ただでさえお金は手に入らないのに、すぐに頼ってはいけないよね。お金にすぐに頼る……現代人の悪い癖だな。
よって俺の選択肢は、なんだかんで去年と同じ路線を辿る。
ただ違うと言えば……今年はコタツがあると言うことだ。
これを使うために電気は節電、節電、節電の繰り返し……長きに渡り苦しかった戦いに蓋が閉まるのだ、喜ばざるを得ない。
と言っても、三分の二ほどはなのはのおかげと言っても過言じゃないのだが、まぁ本人も運動音痴の改善という名分でやらせてあげているので、ギブ&テイクだろう。
一度たりとも文句言ったことないしな。
それはさておき、食糧問題と言う現実から逃げてばっかしではなくそろそろ考えなくては。
ぶっちゃけた話、去年と同じでも生きられるなら別段問題があると言うわけじゃない。
なので、同じ方針でもいいのだが……それはそれ。
人間常に上を目指さなければならないといけない。
誰かが言ってた気がする、考えるのをやめたらそれはもう錬金術師じゃないって。
なので、俺は考えるのをやめない。
常に上を目指し頑張るしかない。
なのでとりあえずは、去年と同じ食べ物の調達に出るとしよう。
しかし──やはり、現実はいつだって残酷なものである。いや、非情ともいうべきか。
結局干物にすると言う手立てしか思いつかない、よって今年の冬もまた貧しい暮らしになる予感がし始めた。
生きていける。
結果的には生きていけるのでまぁ最低限の目標はクリアできるので、それはいいとする。
だけど、ここで一つ悔やまれるのが、
「せ、せめて食べ物の冷凍保存が出来れば!」
この一言に尽きた。
冷凍庫を作り、そこに保存すると言う手がある。
しかし、その場合は常に冷凍庫に電気を奪われてしまうので簡単に決断できることではなかった。
雪が降ればあるいは……なんて思いもある。
雪が降れば、自然冷凍と言う手もある。
しかし、雪が降らなければそもそも冷凍は出来ない上に、その時に冷凍する食材があるか?
冬に新鮮な食べ物を手に入れるのは至難の業な上に、そのためには寒い中を出歩かなければならない。
なので、この案も却下だ。
まぁそれでも山に小動物を狩りに行く、なんてことはするが……。でも、それで死ぬような思いもするのも出来れば避けたいものである。
となれば、やはり秋のうちに対策となる。
「こうやって考えるだけで楽しいんだけど、さすがに同じことだと飽きるな」
実はこの議論は去年を合わせ、何百何千何万と繰り返してきた。
生きるために知恵を絞るには致し方ないこととはいえ、さすがにこうも繰り返すと考えもぼんやりとしてくる上に、飽き、眠くもなると言うものだ。
明日こそはいい案が思いつきますようにと願いを込めて目を閉じる。
◆
冬がやってきた。
秋ではいい案が思いつかず、リッチとは程遠いひもじい生活を送る毎日である。
でも、それがある意味ではいつも通りであることもまた真実であった。
俺の日常はこうして去年と同じく、何とか生きながらえると言う生活……のはずだった。
──突然の来客である。
十二月に入ったばっかしだと言うのに、非常に寒い日。
しかし、その寒さはダンボールの前では無意味とかし、コタツの前ではむしろ眠気を誘うプラス要因でしかなかった。
そんな日の夜。
世界が一変する、と言う表現が正しいかは分からないが、現実離れしたようなそんな感覚を味わった直後、我が家に来客が来た。
中にはまだ入ってこないどころか、外で様子を見ているようだった。
それならなぜ来客かわかるか。
答えは簡単、ここは冬の立てこもり専用の廃墟。
ここに住んでいるのは俺ぐらいのものであるからだ。
外監視用スコープを覗き、来客の様子を伺う。
「おいおい、日本人じゃないどころか、なんで武器を持ってるんだ? ホームレス狩り!? ホームレス狩りなの!?」
噂はかねがね、まさかホームレス狩りなのか?
まさか、そんなのに俺が出くわすなんて思いもしなかったよ。って、そんなことよりも姿が異常だろう……。
ピンクの長い髪をポニーテルでまとめ、着ている服はいかにも騎士ですと言ってるかのようで。
手には武器──剣を持ち、腰には鞘を携えて、来客は戸惑った様子で家の前を立っていた。
「こ、こんなところに人間が住んでるのか?」
「住んでるわーー!」
「!?」
俺の傑作であるダンボールハウスをこんなところ呼ばわりした挙句に、人間が住んでるのかと来たもんだ。
そりゃあ、反論もしたくなる。
ちゃんと普通の人間が住んでいると言うのに。
俺のその反論を聞き、一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに顔を引き締まらせた。
「貴様のリンカーコアをもらいうけ……」
決め台詞かのように言おうとしたのに途中で止め、俺を見て、そしてダンボールハウスを見る。
一回、二回と繰り返し見て、来客は哀れんだような目をして俺を見る。
「あの……なんだ、その……困ったことがあるなら助けにな──」
「う、うわぁぁああ。よけいなお世話だーー!」
初めて会った人に同情された。
しかも、ホームレスを狩りに来た人に同情された。
なんなんだよ、この羞恥プレイは……そんなに酷かった俺の容姿が!?
「ほら、人生まだ始まったばかりだから希望はある」
「励まされたよ!? さっきまでのぴりぴりした雰囲気から、すごい穏やかな雰囲気になっちゃったよ!?」
「!? ……貴様のリンカーコア貰い受ける!」
「今更引き締めても、手遅れだから!」
ダメだ、この人何とかしないと……。
あれ? 本当に何とかしないといけないのは俺じゃないのか。
ああ、そんなことりも、なんだかシリアスな雰囲気漂ってきたから空気読まないとな。
とりあえず、向こうはリンカーコアって奴が欲しいんだよな?
なら、それに合わせて話を進めればいいのか。
「くっ! お、おまえなんかにリンカーコアを渡してたまるものか!」
やばい、なんか熱い展開が待ってる気がする。
すると、その期待答えるかのような反応が返ってくる。
「なら力ずくでも!」
騎士はそう言った瞬間に俺との間を詰め、手に持つ刀を振りかざそうとした。
しかし、その切っ先は俺の首元で止まる。
騎士の目を見ると、今までの哀れみや同情の目、優しそうな顔から、不思議そうな顔をしていた。
「なぜ……抵抗しない?」
「?」
抵抗しない? 抵抗できないの間違いじゃ……。
俺にとってここまでの動作が一瞬で、どう考えても人間じゃ反応できないと思うんだけど……。
「もしかして貴様……魔法を知らない、のか?」
「魔法? 知ってるよ?」
あれでしょ、変身したり箒で空を飛んだりするやつでしょ。
あとは宅急便したり。
そんなの小さい子でも知ってるさ。昔は魔法にも憧れたけど、魔法なんて存在しないからな。
無い物を欲しがるなんてしょうもないことはもうしないさ。
「そうか……なら、遠慮はしまい!」
俺はこの言葉を最後に、気絶してしまった。
結局俺は、あの騎士が何者で、何を目的に来たかも分からずじまいだった。
次に目を覚ましたとき、酷い脱力感と若干の痛みに襲われた。
それでも上半身だけで起き上がりあたりを見渡せば、いくつも白いシーツのベッドがあることから病院と思われる場所だと予想できた。
そして、ベッドの横に椅子を置きそこに座りながら脚を枕代わりにして寝ている、なのはの姿があった。
その寝ている、なのはの姿も俺と同じような服──つまりは患者用の服を着ていることから、同じ入院者ということなのだろうか。
とりあえず謎だらけで分からないので、なのはを起こすことにした。
すごく気持ちよさそうに寝ているなのははこの上なくかわいく見えるものの、俺からすればそんなのは二の次。
俺にとって意版今やるべきことは、
「こら、起きろ」
「にゃあ!? あ、あれ一郎君目を覚まし──」
「今の俺の状況を三文字から5文字で説明しなさい」
「え? ふぇぇ!? あ──」
「残念、五文字を超えてしまったので高町選手は脱落です。罰ゲームで一回殴らせて?」
「そ、そんなのむちゃくちゃだよ! それに、なんでそんなに綺麗な笑顔で怖いこと言うの!?」
笑顔で騙されるかと思ったら、そんなことは無かったようだ。
とりあえず、なのはの睡眠の妨害とからかうという一番の目的が達成できたのでよしとする。
おかげで体の痛みもぶっ飛んだよ。ありがとう、なのは。
「と、心の中で呟くのであった」
「な、なにを!?」
「なのはへの感謝の気持ち」
「それはちゃんと言おうよ!」
「だが断る!」
「はやっ! というよりそれが言いたかっただけじゃ……」
なのはの突っ込みが図星だったので、黙るしかない。
たぶん人生で言ってみたい言葉第三位だと思う。
ちなみに一位は俺の屍を超えていけで、二位は我が人生に一片の悔いなし、だ。
「病院で死ぬときの言葉は洒落にならないと思うの……」
なのはが意外に突っ込みの才能があることが発覚。
というか、俺との付き合いで上手くなったと考えるべきか……。
なのは遊びもそこそこにしていると、病室に緑色の髪の女の人がやってきた。
お医者さんかなと思ったが、白衣を着ていないことから違うと思われる。
女の人は自らをリンディ・ハラオウンと名乗った。なので俺も自己紹介した。
そうするとリンディさんは真面目な顔で、ごめんなさいと急に謝ってきた。
何のことか分からず俺は呆然としていると、リンディさんはなのはとアイコンタクトをとった。
なのはは一回うなずくと、俺に言った。
「あのね、私、魔法少女なの」
「……ああ、宅急便屋さんってこと?」
「ち、違うよっ! 魔法少女だよ! 魔法でドカーンとかボカーンとかしたりするの!」
「はいはい、ドカーンとかボカーンとか魔法の効果音じゃないよね」
「う……うぅ、私、魔法少女だもん。空とか自由に飛びまわる魔法少女だもん……」
全く、魔法とかそんなのあるわけ無いじゃないか。
{A's編も未介入……なんてことはなかったぜ。気付けば1話投稿から二ヶ月を超えてました。こんなにPVとコメが増えることになるとは思いもしませんでした。これからもよろしくです}