自分にとっては今が最もな山場だった。
季節はこの世界に来て最初の冬。
年齢は約2年で二桁になる──仮に年齢がなのはたちと一緒とした場合だ。
実際には分からないし、見た目では周囲の年相応の子供に比べ身長を含む身体的特徴の成長が早い、もしくは優れているので、
何も知らない人が見れば、中学生くらいに見えないこともないと思う。
あくまで主観的にだけどね。
つまり、後数年を我慢すれば義務教育が終わるような外見年齢に達し、道端でホームレスをしていても怪しまれない……いや、ホームレスって時点で怪しいとは思うけど。
まぁそこは置いとくとして、怪しまれない年ではある。
だが、それはあくまでで数年後の話であり、今ではない。
今現在はというと……日々ひっそりとした毎日だ。
大方の予想はつくと思うが、これは保護などに対する対策である。
別段、学校の時間などに主だった動きをしなければ怪しくは見えないはずだし、最初こそは寝る場所も橋の下だったが、可動式に改造できた為、
場所の移動により、撤去や人の目につく可能性がかなり減ったと思う。
また、移動場所を人目のつかない場所にすればホームレスであるということはバレずに、通報されることもないだろう。
もちろん、ハウス移動中に見られる可能性はあるのだが、それは事前の調査に傾向は分かっているので見られる可能性は非常に低い。
と、ここまではかなりの努力の成果によって持たされた今の状態だ。
しかし、この努力をなぜか知っているアリサはここまで必死になっているのを見て、疑問に思ったのか、真剣な眼差しで聞いてきた。
「すぐに諦めると思ったのにもうかれこれ半年以上よ。そこまで頑なにホームレスしようとする理由ってなんなのよ? 納得の説明がしてほしいわね」
納得のいく説明。
つまりは明確な理由と言うやつだろう。
もちろん、ある。
ホームレスを始めたころ──アリサの家を飛び出した時は興味本意とあまり迷惑をかけるのも忍びないと言う理由で出て行った。
しかし、現状を考え見るに迷惑なのは今のほうかもしれない。
こうやって、心配させてるぽいから。
それなら……アリサに答える義務は必然と出てくれる。
「人の手を借りたくない、自由が欲しい、かな?」
「ありたいていだけど、相変わらず考えることが壮大よね。それで、どうして人の手を借りたくないのかしら? まだ私たちには必要だと思うけど?」
確かに……人の手を借りずに生きるなんて不可能かもしれない。
俺はこの生活を充実させる為に、忍さんの知識を借り、技術を学んだ。
これが人の手を借りた以外の何ものでもないとは思う。
しかし、同時に自分が努力して手に入れようとしてるものでもあるから否定はされたくない。
これは、この世界での自分の生き方として‘目標’になりつつあるものだ。
一応過去の年齢と合わせれば最低でも24くらいは行ってるだろうしね。
十分に独り立ちする年齢だ、もちろん精神的にもそうだと思ってる。
まぁ社会経験ゼロではあるけどね。バイトはしていたけど。
「自分の力だけで生きていく、これが目標みたいなものだから」
「またすごい目標よね……」
「男のプライドってやつかな?」
「その年でなに決め込んでるのよ。でも、まぁ分かったわ。一郎の覚悟はその目と今までの行動を見れば。じゃあ、自由のほうはどうなのよ?」
「それこそ、男の夢じゃないかな?」
自分にとって自由とは、しがらみに捕らわれないというのは当たり前のことだが、違う言い方をすれば開放的な暮らし、とでも言うべきなのか。
前の人生においては高校生。
高校生は子供と言う立場なので親はいるし、もちろん学校にも行かなくてはいけない。
それもそのはず、それが普通だから。
別段その普通が嫌だって言うわけじゃない。
むしろその環境を自ら楽しんでいたのも事実だ。
しかし、今はそれとは違う新しい生での新しい環境。
だから……前にやった事を繰り返すなんていうのは、できれば避けたいし、やれるのならば新しい事をしたいと思うのは当然のことじゃないのか?
そして、その新しい目論見に、自分の力でと言う目標──条件を付け加えることで、たまたま自由を得る為にホームレスをする、という考えに至った。
まぁホームレスという選択肢はあくまで現状のもので、これ以上にいいものがあればそっちに移るかも知れないけどね。
ただ小学生と言う立場にお金がないとなると人の手を借りずに生きるとなると、家に住むことなどできない。
「自分の力で自由を掴むって? はぁ、現実はそんなに甘くないでしょうに」
「まぁそれでも不可能じゃないと思ってる」
「本当に一郎って面倒くさいわね!」
「悪かったな。それでも説得によく来るアリサも物好きだよね」
「悪かったわね!」
感謝してるってば。
絶対に言わないけどね。
アリサは本当に俺の事を心配してくれているみたいだし、なのはもたぶん……そうだと思う。
なのははよくここに食べ物を持ってきてくれるので、食事は少し助かったりしてるしね。
今も主食はパンの耳なので……図書館で調べたりして、野草で他の栄養を補充することも出来るし。
集めた缶を換金できるあれで、カロリーメ○トぐらいなら買えるお金が出るので買ったりはするが。
おもな炭水化物の摂取ではあるけどね。
ただそれでも足りないことはあるので、しばしば川でザリガニなどを取ることはある。
しかし、それらのことは冬では厳しいのでこの冬を乗り越えられるか鍵でもある。
そういえば、なのははなんだかんだで秘密基地って言葉を未だに好き好んでるみたいだしね。
なのはに限ってはホームレスって言葉の意味も分からないみたいだしな。
まぁそのおかげでなのはの親……士郎さんたちには一回会っただけだからこの状況がばれていないんだけどね。
もしかしたら心配はしてくれてるかもしれないけど……。
どうだろう、そこまでは分からないな。
逆にアリサの親……以前会ったアリサのお父さんだが監視のような感じだった。
いや、実際にしてるわけじゃないだろうし監視なんて物騒なは言い方だが、アリサから話を聞いて様子見でもしてるんじゃないだろうか。
今は俺が孤軍奮闘してるから、実力を見ようじゃないかとかそんなんらしい
でもいざとなったら……みたいな感じらしい。
らしいというのは、アリサからそのような事を聞いたからだ。
うん、まぁ男の子が一人でどうにかしようとしてるというのを好意的に受け止めてくれたのかもしれない。
「説明はこんなもんでいいかな?」
「……はぁ、分かったわよ。分かったけど納得は仕切れない、意味は分かるわよね?」
「まぁ、ね」
「ならいいわ。じゃあ、自分でちゃんと公言したからには、自由気ままに暮らすといいわ」
「お、おう」
「だから、私は手を貸さないわよ。でも……利用なら」
「でも?」
「な……なんでもないわよ!。今日のところはもう帰るわ。もう日が暮れそうだから」
「うん、そうだね」
とりあえずは分かってくれたようで何よりだ。
あとは本当に自分の手で、何もかもが出来るようになるだけだ。
あ、でも人を利用するのは人の手を借りるのとは違うよね?
◆
「冬は寒いわね」
「この家がダンボールだからじゃないかな?」
「でも、こうやってみんなで一緒の毛布に包まれるの好きだよっ!」
「そうね、みんなで固まれば暖かいわ」
「おしくらまんじゅうなのっ!」
「……」
「「「どうしたの(かしら)?」」」
「なぜ俺が中心だし!」
海鳴市の冬は寒いどころか雪まで降るさまだった。
雪が降るということはかなりの寒さと言うことであり、雪は空気中のちりやごみのはずなのになぜそんなに冷たくなるんだよ!
と、ついつい突っ込みたくなるほどの寒さだった。
さすがにダンボールだけで雪に覆われる山の中で過ごすのは生命活動に関わるので、廃墟へと避難してきた。
ダンボールin廃墟である。
廃墟inダンボールだった恐ろしいことになるからね。
このまま廃墟に過ごすのもいいけど、こういう場所は音とか出すと目立つのでなるべく避けたい。
避けたいが……死んでは意味がないので一時的な処置だ。
そんな時にやってきたのはこの三人組。
ご丁寧に家に帰ってから各自に防寒グッズを持参して現れたのだ。
その一つが毛布であり、この様である。
たしかにおしくらまんじゅうの真ん中でこんな美少女達に囲まれれば天国ではあるのだが、ある意味地獄でもあった。
自分のこの状況が恥ずかしくて体中が熱くなると同時に、動けないと言うストレスを抱えながらも人とはすでに密着し……何が言いたいのかと言うと、
「暑苦しいわ!」
「え、私は暖かいよぉ。ふにゃ~ってなるよ? ふにゃ~」
「別にいいんじゃない、この寒い冬に暑いなんて贅沢なホームレスね」
確かにそう言われれば、今頃普通のホームレスたちは寒空の中肩を震わせていると言うのに俺は暑いって……。
いやいや、確かに贅沢ではあるがなら他の方法があるだろうに。
「一郎が前になのはを抱きたいって言ったから、行動に移しただけなのに。なのはを生贄に」
「言ってないし、生贄って……」
「い、一郎君って……」
「絶対にすずかは変な意味を思い浮かべていると思うぞ? てか、小学1年生がよくそんなの知ってるな」
「一郎君が私を抱く? 抱きつきたいの?」
「なんで、ようやくこの時が来た! 見たいな顔をしてるんだ? 断じてそんなことはないから安心してくれ」
すずかは少し顔を赤く染めながら驚いたような顔をし、なのは目を子猫のようにきらきらさせ、アリサはにやりと言ってやったとばかりにしたり顔。
すずかがませてるかどうかはともかく、なのははなぜそんなに抱きつきにこだわる。
あれか、前にかわされたのを未だに根に持ってるとか?
リベンジみたいな?
アリサは……俺を弄りたいのかなのはを弄りたいのかの二択だな。
「でも、実際はありがたいでしょ?」
「人の手は借りたくないとあれほど……」
「貸すんじゃなくてあげるんだからいいじゃない」
屁理屈ですね! でも突っ込んだらせっかくの善意に水を差すので、やめておこう。
決して助かったなんて思ってないよ?
「私からこの毛布ね」
「え……ああ、ありがとう」
「ええと、これは私とおねえちゃんからね」
アリサが今使っている毛布を俺に渡した後に、今度はすずかがバッグからボタン見たいのを渡した。
見るからに……怪しいし、忍さんからと言う時点で危険臭がすごい。
でも見た目だけではどういうものなのか分からないので、
「これは、なにかな?」
「お姉ちゃんが言うには、ボタンを押せば暖かくなるって」
「へぇ~」
「……丸焦げになるくらい」
「爆弾かよ!」
読めてた、この程度なら読めてた。
伊達に忍さんの下で、教えを請うてたわけじゃない。
「これを押すときは、周りに人がいないことを確認してから──」
「誰が押すか!」
ついついすずかに突っ込んじゃったけど、一瞬すずかは驚いた顔をしてからぷぷと笑い。
お姉ちゃんの言った通りの反応だと言われた。
やはり師匠は格が違った。
だからクリスマスに、爆弾の形したビックリ箱を送ってメリークリスマスと言ってやることにしよう。
さぞかし喜ぶだろうな。
……くそっ!
「じゃあ、私からはこれっ」
「……」
あまりにもありきたりして、ウケにもならないよ。
どう突っ込めばいいんだ?
庶民的だねっ! っていうべきかな?
それとも冬の必需品だよね、って言うべきなのか。
……よし決めた、こう突っ込もう。
「せめて束でくれやっ!」
「あ、またぶったのーーっ!」
そりゃ、カイロ一枚だけなんてそれじゃあ下手したら一日も持たないじゃないか。
まぁそれでも貰える物は貰うんだけどね。
でもまぁ……おかげで心は暖まったんじゃないかなと少しきざな事を心の中で呟くとしよう。
絶対に口には出せないが。
「そういえば、明日は吹雪らしいわよ」
「うわぁ、パンの耳貰いに行くのが大変そうだな」
「そこっ!? 寒さじゃなくてそこっ!?」
{色々と解説の回。指摘された部分をしっかり修正や解説できてるはずと思って書き上げました。さて、次回はいよいよ原作にはまだ入りません(キリ}
修正点・補足
余計な描写を少し切って、食事の描写を足しました。
さすがに栄養失調で死んでしまうので。
補足事項
通報に関して→今通報される可能性があるのはアリサ父とパン屋の人のみとお考えください。
普段の行動は作品中に書きましたが、ホームレスとばれぬよう活動時間を限定することで回避しています。
これはつまり、大人たちと関わっていないから彼を正確に知りえる人がいないと言うことです。
アリサ父は作中どおり。
パン屋については近いうちに書こうと思ってます。