「ええっと、アリサちゃんと一郎君の接点って何かな?」
「公園で拾われた身です」
「公園で拾ったのよ」
「こ、子猫とか子犬じゃないんだから……」
「アリサちゃん犬好きだもんね」
「あ、すずかはそこ突っ込むんだね。なのはの友達ってすごいや」
「私もすずかがここまで天然だと思わなかったわよ」
「え? 今すずかちゃん変なこと言った?」
「「なのはは黙ってろ(なさい)」」
「ひどっ!」
拾った云々のところでは、なのはもしっかりボケを拾ってるのに肝心なところが駄目だね。これでは、お笑い界のトップは狙えない。
…………。
まぁなのははどうでもいいとして。
本当のところは俺はアリサの命の恩人らしいのだが、記憶が多少戻った今でもその時のことは覚えてない。
アリサが言うには相当すごいことになってたみたいだからしょうがないことかもしれないけど、事件前後の記憶が抜け落ちるのはよくあることだというしね。
でも、そんなのを正直に言ったところでなまじ同情を誘うだけ。
それに今更であり、過去の話だから詳しく話す必要もないだろう。
そう思っての俺のボケだったが。うん、さすがアリサ。すぐにそれを理解したみたいだね。
「う~ん、じゃあアリサちゃんと一郎君の関係は分かったけど」
分かったんだ。拾われたってだけで分かっちゃったんだ。それはそれでなんかちょっと複雑だなぁ。
アリサがまるで俺の飼い主みたいな感じで。
最近まではあながちそれが間違いじゃなかったけどね。というよりは、昨日まではそうだったね。
居候……しかし、今は晴れて自由の身。自由っていいよね、
やりたい放題で!
「どうして、アリサちゃんがここにいるの?」
「あ、それ私も気になるなぁ」
「そ、それは……」
アリサが言うのを躊躇っている。
無理もないことかもしれない。ホームレスを家に引き取りに来たとなれば、世間体的に恥ずかしくなるのは仕方のないことだ。
だから、諦めればいいのに。
なのはの方でもそう説得して欲しいものだ。
そんな淡い期待しつつも、アリサの回答をみんなが見守る。
「こ、このバカをうちに帰るように説教してたのよ!」
「アリサちゃんの家に? なんでなの?」
「な、なんでかって……一郎はわ、私の……」
なんだ、私のなんなんだ? 俺は。
所有物か? ペットか? はたまた執事か? でも、執事はちょっと……ね。
俺はガンダムじゃないから、さすがに車に轢かれて生きていられる自信はないよ。
もちろん、虎に勝てるとも思わない。
熊なら……雪の中でなら行けるかもしれない。きっと近くに砦もあるだろうしね。
どちらにしろ、逃げ専門かな。あんなのと正面で勝てるのは執事と主婦ぐらいだ。
アリサはうろたえて、もじもじしていると、やっと決心がついたの大きく空気を吸い、予想以上に大きな声で、
「お、お兄ちゃんみたいなものよ!」
「「「ええぇぇぇえええ!?」」」
「な、なんで一郎が驚いてるのよ!?」
「え、だって……な? なのは」
「そ、そうだよね……ね? すずかちゃん」
「うん、その通りだよね。アリサちゃん?」
「そうよね、自分でも驚くわ。って私にまで振るなーーっ!」
アリサの爆弾発言だった。
爆弾発言と言うだけあって、アリサは爆発しそうなほど顔が真っ赤だった。
もしかしたら金髪のツインテールの先は導火線かもしてない。
それにしても……親友とか、ならまだしもいきなり兄とか……そんな妹に育てつもりはありません! リアル問題!
「そうか!? あの日誓ったのは桃の木の下だったのか……」
そういば、庭にはピンク色の花びらがたくさん咲いていたなぁ。
きっとそこで俺の知らない間に義兄弟の契りでも交わしたのかもしれない。
全国統一するぞ! みたいな感じで。
でも、本当は誓っていないどころかあの客室以外の場所にほとんど行ったことないけどね。
「だ、だってアリサちゃんと一郎君全然顔似てないし」
「俺は明日から一郎・バニングスって名乗るよ」
「改めてよろしくお願いします、バニングス君」
「ああ、こちらこそよろしくすずか。世界のバニングスって読んでくれ。後敬語じゃなくていいぞ」
「……もう突っ込まなくていいかしら?」
「振ってきたのはアリサだけどな」
実際アリサが妹ならどれだけいいことか……。
けれども、アリサがいい加減俺たちのボケについてこられなくなり始めていたので、収拾をつけてあげよう。
あまりにもアリサが可哀想なのと、なのはが暴走し始めたからだ。
なのははさっきから「アリサちゃんは実は一郎君の妹で、一郎君はバニングスで、鈴木で……あれ? 鈴木・バニングス・一郎君だっけ?」と意味の分からない事を言い出してる。
鈴木・バニングス・一郎って、なんでミドルネーム!? って突っ込みたいけど、突っ込んだら負けなんだろうなぁ。
そもそも鈴木って言うのも本名じゃないけどね。
忘れがちだけど。
「う、嘘に決まってるじゃない! な、何みんな信じてるのよ!! バカじゃないの!?」
「にゃあ!? アリサちゃんに騙されたの!」
「そうか、嘘だったのか」
「な、なに落ち込んでるのよ!」
いや、アリサみたいなかわいい妹がいたらいいなと思っただけだよ。
たぶん一人っ子の夢だと思うんだ。かわいい妹がいるのって。
もちろん、俺もその例に違わずかわいい妹がいたら嬉しいけど……。
アリサが実は嘘だったなんていうならしょうがない。
諦めよう。
諦めてなのはでいいや。
「なんで私が『余ったからこれでいいや』みたいな扱いなの!?」
「なのははこれから鈴木なのはと名乗るように──ああ、でもなんか語呂が悪いからなのは・バニングスでいいや」
「すごくてきとうな扱いだよぅ。しかも、もう一郎君の妹でもないよ……」
なのは云々は置いといて、いや、頭の片隅からすらも外してアリサの発言をもう一回思い出そう。
アリサによる俺が兄発言。
これ自体は驚きはしたが非常に嬉しいことなので、嘘といわれた瞬間はかなりショックだ。
アリサのお兄ちゃんなんて言われたら……うん、後世に悔い無しだね。
「し、しょうがないわね。そんなにショックなら、あ……あんたがうちに帰ってくるなら呼んでやってもいいわよ」
「本当かアリサ?」
「も、もちろんよ! ……ただしこの家を破棄すること、それが条件よ」
「なん……だと?」
アリサに兄といわれ慕われる(ここ重要)か、ホームレス生活を自由(ここ大切)に満喫するか……む、難しい。
なんなんだこの究極の選択肢は……。
ホームレス生活を楽しみながらアリサに兄といわれると言うルートは存在しないのか?
この厳しい世界は、つまりは現実はこの二つにの内一つしか選べないと言うことなのか?
「私とホームレス生活を天秤で測られるのって意外と侮辱よね? そもそもこの二つに考える余地があることが一番の不思議よね」
「一郎君だもん」
「今日初めて会ったけど本当に不思議な人だね」
「くっ! しょうがない……お兄ちゃんは諦めよう!」
「ホームレスに負けた!? 名誉毀損よね!?」
「苦渋の選択だったんだ……察してくれ」
「むしろ、一郎が察して欲しいわよ。私のプライドがズタボロよ……」
「お兄ちゃんが慰めてあげようか?」
「誰がお兄ちゃんかーーっ!」
結局、悩み悩んだ末に俺はホームレス生活を選んだ。
そう結局大切なのは自由なのだ。
いくらアリサが俺の事をお兄ちゃんと呼んでも、ダーリンと呼ぼうがこの信念が揺らぐことはない。
このことは今、自分自身がよく学んだ。
もしかしたら、俺がこの世界に飛ばされた(事故的な意味で)理由は、ホームレスになる為だったのかもしれない。
…………。
あ、やっぱりダーリンって呼ばれてみたいな。今度頼んでみようかな。
結局この日はこの言葉を最後に解散した。
それはもう懇切丁寧に一人ずつ家に送らせて頂きました。
アリサ曰くそれが当然の行いらしい。
エスコートって難しいっ!
◆
俺の家には家電製品の類はない。
それどころか、俺は今の最先端科学を突っ走るケータイ電話すらも持ちえていない。
なぜか?
それは明白である。
俺がひとえにホームレスであり、ホームレスは基本的にお金を持たない。それは周知の事実であり、それがホームレスになる理由でもあるからだ。
よってこの法則に基づいて考えれば答えはおのずと出る。
そう……俺はお金がない。
「今更じゃない!」
「アリサ、回想にまで出てこないでくれ」
「……回想じゃないわよ。一郎は自分が今どこにいるか分かってるの?」
「アリサやなのは、すずかが通う小学校……の前」
「はい、正解。それで……何しに来たのよ!」
「あ、アリサちゃん暴力は駄目だよぅ」
「そうだよアリサちゃん! 一郎君を叩いたら叩き返されるよ!」
「え? 俺そんなことしないんだけど?」
「殴られてたの私だけ!? ひ、ひどいよ一郎君……」
アリサを叩いたりなどはしない、絶対にだ!
叩いたら叩き返してきそうだし、ああいうタイプは恨みを何倍返しにもするタイプだろう。
それに比べなのは、叩いたところで問題ないし。
やりかえされても、ぽこぽこがいいところだろう。
痛いどころかむしろなんだか癒される光景になること間違い無しだった。
あれ? そう思うと叩きたくなってきた。
不思議!
「この間約束したばっかしなのに……」
「約束? ホームレスは約束やルールに縛られない。国家権力には屈しない!」
「ああ、そっか。もうホームレスだもんね」
「すずか、そこは感心するところじゃないわよ」
すずかとはいい関係を築いていけそうで一安心だ。
なぜ俺がすずかといい関係になることを望んでいるか。
もちろん、恋心があったり下心があるわけなどないのだが、悪く言えば利用価値。綺麗に言うならば協力をして欲しいからである。
これはすずかに初めて会ったときに聞いた、お姉ちゃんが機械弄りが得意と言う発言から来たものだ。
先ほどに、述べたように我が家には家電製品の類はない。
人が生きるのに必要なのは水と食料、そして必要に応じて火である。
しかし、それがあれば生きていられると言うのは遠い昔の話。
近代社会では、電気。および、電気を使った電化製品類。
それはパソコンやケータイなどの情報ツールも含めての話だ。
ケータイの場合は登録が必要なので使用は厳しいかもしれないけど、パソコンなら電波ジャックして……たぶんできるはず!
法律違反かもしれないが、なんとかギリギリのところをやりくりしてみせる。
まぁこれらの話もろもろは、すずかのお姉さんが、こういった電気を使う製品の修理が出来るという最前提があるんだけどね。
他にも、電気が必要という最大の難所もあるわけだが……実は秘策がある。
それに関してはまた今度でいいだろう。
では、さっそく交渉に入るとしよう。
第一の関門、すずかだ。
「すずか」
「なにかな? 一郎君」
「今日、すずかの家に招待してくれ!」
「ちょ! い、いきなりなに言ってる──」
「うん、いいよ」
「って、すずか!?」
アリサが意表を突かれた様で間抜けな声を出したが、そんなに意外なことだったのかな。
確かに予想よりはるかに、あっさり関門通過しちゃったけど、そこまで驚くことではないとは思うんだ。
「この間知り合ったばっかしの奴に、そんなに気を許していいのかしら?」
「う~ん、確かにそうなんだけど」
すずかはやや悩む素振りはするもののちょっと間をおいたという感じだ。
「アリサちゃんがお兄ちゃんと言うほど慕われてて、なのはちゃんの思い出の友達なんだよね?」
「え? お兄ちゃんとは呼んでないけど……まぁそう、ね」
「うん、思い出の公園の」
「……だったら」
別に平気だと思うよ、だってさ。
全くの無警戒、もしくは天然なのか。そして、謎の信用だね。信頼と言うほど厚いものではないけど、それでも信用するに値する人物であると。
もしくは……友達の友達はみな友達、理論かな。
それにしても、えらく信用されているなこの二人は。
よほどの絆があるんじゃないか? まだ出会って少ししか経っていないんじゃなかったのかな。
第三者から見ると、その友情が少し……
「羨ましいな」
「なにか、言った?」
「いや、なにも」
まぁ彼女達にできて俺に出来ないわけがないとは思うけどね。
友情に時間はないのさ。
だけど、あえて言うなら、彼女達には健やかに育って欲しいね。
…………。
あ、ちょっとお兄ちゃんっぽいかも。
「じゃあ、一郎君。今日のところは習い事があるから明日でもいいかな?」
「いいともーっ!」
何はともわれ、第一段階は終了。
電化製品の家への投入はホームレス生活の充実に直接関係してくるのでなんとしてもうやっておきたい。
出来るなら、技術も盗みたいな。
どちらにしろ、それらは明日、そう明日だ。
明日はある意味で大切な分岐点だ!
…………。
あ、閃いた。
近くに川と海があるので水車を使っての水力発電もいいかもしれないね。
◆
「そういえば、一郎は食事は結局どうしてんのよ。あの時はなのはたちが来たからうやむやになっちゃったけど」
「食事? ああ、それならパンの耳とか」
「パンの耳!?」
そう、ありがちなパンの耳である。パンの耳は本当に英雄だね。
しかも、パンの耳をパン屋から買うのではなくもらえるのだ。
もらえると言ってもご自由におとりください的なもので、その店を探すのも酷く大変だった。
隣町まで走って見つけたからね。
おかげで、毎朝パンの耳をもらいに行く為に走り込みだよ。
「パンの耳だけで食べてるの?」
「あと、塩と水かな」
「……もういいわ、分かったわよ。あんたが馬鹿ってことは」
塩は海水を蒸留する際についでに出来た副産物だ。
まさかの調味料の発見でそのときは喜びまくったものだ。
思わず、海に沈んでいく夕日に「ホームレス最高~~っ!」って叫ぶほどに。
ちなみに火はと言うと、拾ったライターで何とかやりくりしている。
これってリサイクルだよね?
{ホームレス生活>越えられない壁>アリサの式が出来上がった! 変態紳士多すぎる、ワロタwご協力ありがとうございます!}