みなさん転生トラックって知ってますか?
え? 知ってる? そりゃあそうですよね。有名ですからね、あのトラック。
下手したらそこらへんのトラックの名前より有名ですよ?
まぁ書く言う俺は、転生トラックなんていう、夢紛いなトラックなんかよりも地元の日野自動げふんげふん。
地元愛ですよ?
そんなわけでここまで言えばわかると思いますが、ええ、そうですよ。
奴が現れました。
よくネットとかにある、転生トラックに憧れる人こそ多いけれど、実際に轢かれる人はいない。
いや、例えいたとしてもその人の生存を確認できるわけではないので会ってもないようなものだ。
俺もそんな憧れる人の一人であったわけだけど、実際に目の前にするとやはり生への執着と言うか、例え転生すると分かっても、轢かれるなんて嫌だ。
これは人間の本能とでも言うべきものだと思う。
だから、俺は今必死に逃げてます!
「く、くるなあああああ」
奴との出会いは、今日の朝だった。
俺はしがないどこにでもいる高校生である。
多少趣味でスポーツをやって、学校では優等生を気取りたいがために勉強して学年のトップクラスの学力を誇っているが、決して努力家でもなければ、情熱的でもない。
だからと言って、オタク──でも無いと思ってる。
じゃあ、なぜ転生トラックを知ってるかと言うと、さっきも言ったとおりやつらはよくネットの小説で出てくる。
俺は優等生を気取るだけあって、よく小説を読む。ジャンルは問わず、ラノベでも時代物でも何でもだ。
いいものはアニメ・漫画、ドラマなんでも問わず知りたい性質なんでね。
だが、俺に家自体にお金がないのであまり買うことが出来ない。その結果、ネットで読み漁ると言う結果に……。
あ、あれだよ。貧乏なのになんでパソコンを持ってるという質問はなしだよ?
それぐらいあるさ、現代っ子だもん。
話が逸れた閑話休題。
朝に出会ったとのはまさに運命のような出会いだった。
「遅刻するわよー」
「くっ、とりあえずパンだけでも!」
寝坊して起きた俺は、口にパンをくわえて、慌てて家を飛び出した。
まるでどこかのゲームや漫画のような描写だなと自分で思いつつ、この描写なら、朝学校行く途中の曲がり角で運命の出会いでもあったりしたりしてなぁ。
なんて浮かれ調子で考えながら必死に、走っていた。
そして肝心の曲がり角。
美少女来るか! とありえない想像──いや、妄想と認めよう──を期待しつつ、曲がったら……。
奴が現れたのである。
低重音のブロロロという、これがトッラクといわんばかりの音共に!
これは将来のトラウマ候補確定である。
普通の主人公なら、ここで轢かれてどこかの世界に……と言う展開が丸見え、テンプレなのだが、俺は一味違う。
音で分かったとはいえ、反射的にトラックと確認した瞬間にターン。
つまりは、角をそのまま曲がらずに回避したのだ。
まぁ轢かれて他の世界に行って見たいと言う気持ちは確かにあるのだが、やはり一度死ぬ嫌だ!
そんな生命への執着が俺に力を与え、スポーツをしていたがゆえに難なく交わすことが出来た──はずだったのだが、
やつはあろうことが、恐ろしいドリフトで俺が回避した道へ曲がり、俺目掛けて突っ込んできたのだ。
「え? 転生トラックって意思でもあるのか!?」
というより、転生トラックは現実的に見たら、ただの事故。
もしくは、通り魔の類だ。
そして、轢かれたものはこの世界では確実に死ぬと言う未来が確定している。
そういう意味ではまさに現代を生きる死神。
いや、転生トラック自体がそもそも現実的ではないし。死神が現代を生きていないが。
と冷静に突っ込みをしている場合じゃなかった。
俺は突っ込んできたトッラクから逃げるべく、走った、逃げた。
ここは偶然にも道が狭く、そして曲がり角の多い住宅地。
トラックほどの大きな自動車が自由自在に動き回るには不利な土地。
何よりと地の利が俺にある。地元住民だから当たり前だが。
トラックがこの土地に疎いかどうかはさておき、その土地のおかげで俺は今の今まで逃げ切れている。
直線距離ならとっくのとうにひき殺されているだろう。
以上回想と言うの名の、現実逃避終了。
逃げ始めてからどれほどの時間が経っただろうか……。
いくら俺がスポーツをやっているからと言ってもさすがにそろそろ体力の限界である。
逸れに対し相手はトラック、やつは疲れを知らない。
と言うよりおかしいだろ!
こんだけ激しくトラックが走り回っているのに、轢かれる人がいないどころか、このトラックが現れてから人を見てない。
一時的に避難させてもらおうと、民家に声をかけたが全て留守。
明らかにトラックでは通れない道に逃げ込んでも、壁を壊しながらトラックは追いかける。
「明日の朝刊、どころか今日の夕刊には一面を飾れそうだな」
いい加減に疲れてきたので、頭がおかしくなったのだろうか、もしくは
この状況に慣れたのか若干の余裕が出来ている。
もしかしたら、諦め始めているのかもしれない。
でも、まだ……まだ俺は走れる!
俺は……転生なんていう運命に逆らってみせる!
あ、運命に逆らうとか主人公っぽい。
そんなこといってる場合じゃな……
「え?」
トラックを振り切ろうとして、再びといてももう何度目か分からない角を曲がる。
しかし、その先には……、
「一台じゃなかったのか……」
俺の命運もここまでだった。
ついには轢かれた……。
もはやここまで来るといっそ清々しいくらいだ。
ようやく開放された……。
今はもはや達成感と言うより開放感に満たされている。
追われるということ、生きると言うことはこんなにも難しいんだね。
俺は初めてそれを知ったよ。
ドーンと軽快な音とともに、俺の体は見事にトラックによって轢かれた──と言うよりは吹き飛んだ。
そろそろ気付く方ともいると思うが、なぜこのトラックが転生トラックだと思ったのかについてだ。
そりゃあ、あんなことが堂々と書いてあるトラックが襲ってくればその世界に行くんじゃないの?
『リリカルなのは映画化おめでとう』
遠ざかる意識をよそに最後の言葉を必死に呟く、
「……おそ」
{今更だけど映画化おめでとう!}