クリスマス。地球では基本的に休日だったりして家族と過ごす日だが、もちろんミッドにそんな風習はない。
だが、八神家にとってはクリスマスというものに、大切な意味−−家族が空に帰った日ということがあり、その日はだいたい休みを取り、地球に帰省する。
そして、地球の友達とクリスマスパーティーをやって、それからリインフォースが空に帰った場所で、彼女を偲ぶのが八神家のしきたりである。
その地球に帰る前日、はやては行きつけの居酒屋で一人寂しく酒を飲んでいた。
ほっけを啄み、アルコールで喉を潤す。
そうしていたらだ、ぽんとはやては肩を叩かれた。
「よう八神」
「師匠?」
そこに元部下の父であり、自分の師匠であるゲンヤ・ナカジマがいた。
「なんでここに……」
「この店教えたのは誰か忘れたか?」
そうでしたとはやては笑う。まあ、口ではああ言ったものの、もともとゲンヤに会えるんじゃと期待しての行動だったのは秘密だ。
その隣にゲンヤは座り、一緒に飲み始めた。
そして、当たり障りのない会話を交わす。
「そういやあ、お前んとこのシグナムが婚約したらしいじゃねえか。おめでとうさん」
ゲンヤが笑う。
そう、彼女の家族であるシグナムはヴァイス・グランセニックと交際を始め、ついにゴールイン。しかもティアナも一緒にである。
やるなヴァイスくんと、挨拶に来たヴァイスをからかったのも記憶に新しい。
「そちらも息子さんできたそうですね」
エリオがスバルを妊娠させてしまったという話ははやての耳に入っていた。
ミッドでは男女とも結婚は十六からのため、二年後まで結婚自体は見合わせるとのことだ。
ポリポリとゲンヤは頬をかく。
「まあな、しかもギンガも最近カルタスと付き合ってるらしいからな、少し寂しくなるな」
といっても娘はあと四人いるがと笑うゲンヤ。
「みんな変わってくんですね……」
しみじみとはやてが呟くと、ゲンヤは笑う。
「おいおい、なに年寄りじみたこと言ってんだ」
と、ゲンヤが笑う。
「だって、なのはちゃんたちが結婚してから、続けざまにシグナムもいい人見つけて、なんか寂しくて」
「なあに、お前は若いんだ。これからいくらでも出会いがある」
そんなはやての頭をゲンヤが撫でる。
その姿はまるで親子のようだった。
それから、二人は黙って飲み続ける。
「明後日、家族がいなくなった日なんです」
唐突にはやては語る。
「ああ、そういえば言ってたな」
ちびっと酒を飲みながらゲンヤは頷く。
「あの子がいなくなってから、リインが家族に加わって、アギトが来て、今度また家族が増えるんです」
とはやては視線を遠くに向けながら語る。
ゲンヤは黙ってそれを聞く。
「でも、私って罰当たりな欲張りなんです。まだ家族が欲しいって思ってんです」
「いいんじゃねえか? 欲張ってもよ」
そうですかとはやては笑う。
「で、私が欲しいのは旦那さんや子供なんです」
はやての言葉にゲンヤが笑う。
「そうか、いいんじゃねえか。家庭を持つっていいことだと思うぜ?」
はいとはやては頷いて、
「で、師匠、いえゲンヤさん。その……そろそろいいんじゃないんですか?」
なぜ名前? それにいいとは……
「ギンガもスバルもいい相手見つけて、その……もうすぐ巣立ちますし、き、きっとクイントさんも許してくれると思うんです」
と、はやては顔を赤くしながら言葉を紡ぐ。
いやまてまてとはやての言葉にゲンヤは心の中で待ったをかける。
「あの、私と新しい家族になりませんか?」
その言葉にゲンヤは固まる。
なぜだ、どうして俺に?
様々な疑問が湧いて出るが、ゲンヤはこほんと咳払いをする。
「八神、あんまり年上をからかうもんじゃ」
「からかってません。真剣に言ってるんです」
はやてが、まっすぐゲンヤを見つめる。
ゲンヤはその目に少したじろいでしまう。
「本気ですよ」
はやてはじっとゲンヤを見る。
そして、ふうっとゲンヤは息を吐く。
「クイントといいお前といい、俺のどこがそんなにいいんだよ……」
「うーん、どこと言われましても、多すぎますね」
はやての答えに再びため息をつくゲンヤ。
「あー、八神、いやはやて、本当に俺でいいんだな?」
「ゲンヤさんじゃないと嫌ですね」
と、はやてが笑う。クイントといい、こういう相手に弱いんだよなあとゲンヤは内心愚痴る。
「なら、いいが、一つ条件がある」
ゲンヤはたった一つ、譲れないものがあった。
条件? なんなのかとはやては次の言葉を待つ。
「仕事止めろ」
「へ?」
なんでと言いたげにはやてはゲンヤを見る。
「もう、置いていかれるのはごめんだからな」
と、哀しげなゲンヤの言葉にはやてはあっと声を上げる。
そう、クイントは捜査の途中で殉職したのだ。
「この条件が飲めなきゃだめだからな」
さて、どうすると言いたげにゲンヤははやてを見つめる。
そして、はやては、
「はい、わかりました。私はゲンヤさんの帰る場所を守ることにします」
と、とびっきりの笑顔で頷く。ゲンヤも満足げに笑った。
一ヶ月後、八神はやて捜査官が管理局を去り、同時にゲンヤ・ナカジマとの婚約が発表された。
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クリスマス話です。
さて、もう一つあるのだが……