フェイトは悩んでいた。折角新しく作ったウィップフォームのうまい使い方がわからなくて。
別に趣味ではなくシュランゲのような複雑な軌道を描く装備があれば犯罪者を捕まえる時に有効なのではと前から考えて実装したのだ。
だが、いざ使えるとなると使い方がまったくわからなかった。
練習しようにも一人では限界があり、意見を聞くにも似たデバイスの持ち主の心当たりは一人しかいない。
というわけでフェイトはその心当たりに連絡をすることにした。
「シグナム、フェイトです。今大丈夫ですか?」
『ああ、テスタロッサか。構わないが』
ちょうど昼ご飯を食べていたシグナムが通信に出た。
「今度ちょっと訓練に付き合ってもらえないかな?」
『久しぶりだな。予定が合えば構わないが』
シグナムの返事にフェイトは笑う。
「よかった。鞭の練習相手探してたんだ」
フェイトの呟きにシグナムの眉が動く。
『すまない。今なんと言った?』
「? 鞭の練習だけど」
そこにいきなり男の声が割ってはいる。
『ええ? 姐さんとフェイトさん、そんな趣味が?!』
『違う!!』
いきなり現れたヴァイスが画面の中でシグナムにど突かれる。
『す、すまないテスタロッサ。そういえばしばらくは仕事で付き合えない』
なんとか引きつった笑顔を浮かべるシグナム。
「え? でもさっきは」
『すまないヴァイスの顔を見て仕事を思い出した』
「そうなんだ。うん、ごめん」
フェイトは残念そうにため息をつく。
『ああ、そうだ。スクライアならどうだ?』
「ユーノですか?」
いきなり出てきた彼氏の名前にフェイトは戸惑う。
『ああ、そっちの方が都合あわせやすいだろう?』
フェイトは少し考えて、最近は予定をできるだけ合わせてるからそうかもしれないと納得する。
「うん、聞いてみるね」
『そうか。では』
「うん、また」
そう返してフェイトは通信を切った。
ふうとシグナムは溜め息をつく。真逆テスタロッサにそんな趣味があったとは気づかなかった。すまないスクライア。貴様には生け贄になってもらおうと心の中で謝る。
「あの、姉さん?」
恐る恐る殴られた頬を抑えながらヴァイスが声をかけてくる。
「んっ? ああ、ヴァイスか。どうした?」
通信途中に現れた同僚に目を向ける。
「あー、今度の休みなんすが、一緒に遊びに行きませんか? また友達が用事で来れねえって」
ヴァイスがしどろもどろに誘うのにシグナムはクスッと笑う。
主の言うとおりかもしれない。そう連続でドタキャンを言い訳に使うとは、疑えと言っているものじゃないのかとシグナムは笑う。
「別に構わないが」
「あ、そうっすか? よかったあチケット無駄にならなくて」
「次は言い訳使うな」
ヴァイスの言葉にシグナムは微苦笑を浮かべ、聞こえないくらいに小さく呟いた。
「? なんか言ったっすか?」
いや、と答えてシグナムは腰を上げる。さて、残った仕事を片づけるかと気合を入れなおした。
ユーノは司書長室でクロノに頼まれた仕事をしていた時に、フェイトから連絡が入った。
「フェイト、なに?」
『あ、ユーノ、頼みがあるんだけど、練習に付き合ってくれないかな?』
フェイトの頼みにユーノは首を捻る。
「なんで僕?」
『シグナムに頼んだんだけど断られちゃって、そしたらユーノはどうだって言ってたから』
フェイトの言葉にユーノはさらに首を捻る。なんでシグナムは自分の名を出したのだろうと。
確かに結界や援護用の魔法は実戦を離れた今でも得意ではあるとユーノは言えるが、攻撃はセンスのかけらもないのは彼女も知っているはずだった。
だがとユーノは考える。これはいい機会だと考えた。少し前からユーノは戦闘技術を学ぶ必要があると考えていたのだ。
なぜなら、ユーノは怖いのだ。今受けている仕事を引き受けた時、クロノと話をした時に、
『なあ、ユーノ。最近フェイトの様子がおかしいんだが』
『おかしい?』
『ああ、なにか隠しているんだが、なにか嬉しそうでな』
『そうなんだ』
ユーノはそれって僕と付き合い始めたから? と内心冷や汗をかく。
『もしかしたら男ができたのかもしれんな』
びくっとユーノは震える。
『どうしたんだユーノ』
『いや、なんでもないよ。ところで、そのフェイトが付き合い始めたのが僕だって言ったら』
ユーノは画面の向こうに鬼を見た。
『ユーノ、確かなのはと付き合いだしたんだったよな?』
実はユーノはこっそりクロノだけには報告しておいたのだ。
『いや、あくまで例えばだよ』
恐怖に震えそうになりながらユーノは続ける。
『そうだな……』
クロノは少し考え込む。
『その時は、お前がフェイトにふさわしいか僕直々にその器を見定めてやろう。もしもその器じゃなかった場合』
『ごめん、それ以上言わないで』
淡々と語るクロノに、ユーノは真っ青になってガタガタ震える。
『どうしたユーノ? 顔が真っ青だが』
クロノの言葉にユーノはなんでもないと答えつつユーノは通信を切った。
このことからユーノは戦い方を覚えようと強く心に誓った。もし勝つのは無理でも逃げか味方がくる時間を稼ぐ程度にはと。
そうでもしないとハラオウン家に挨拶すらいけない。
「うん、いいよ。この後は特になにもないし」
この時、ついでに戦い方を教えてもらおうとユーノは軽く考えていた。
「ねえ、フェイト、それは何なのかな?」
本局の訓練室でユーノはフェイトに問いかけた。
「鞭だよ」
なに聞いてるのといいたげにフェイトは返す。
「今からなんの練習をするの?」
「鞭の使い方だよ」
当然とばかりにフェイトは返す。
「なんで?」
「せっかく作ったから練習したかったからだよ。それじゃあユーノはじめよう」
「いや、ちょっとま」
そして甲高いピシンと鞭の音が訓練室に響いた。
「流石にすぐにシグナムみたいにいかないか」
ユーノとの練習を終えてからフェイトは自分の鞭を見る。頭の中でシグナムのシュランゲの動きをイメージしながら使ってみたもののすぐには思い通りに動いてくれなかった。
「でも、即席のバインドみたいなことできるし、思ったように色々できるかな」
と、フェイトは今日試した使い方の考察をする。一方のユーノは長年の運動不足が集ってか息も絶え絶えに大の字で寝ている。
「でもザンバーと違ってバリアは斬れないし、なにかいい手がないかな」
フェイトは首を捻ってから、
「そうだ電撃が流れるようにすればダメージ与えられるかも!」
今度試そうと決めてからフェイトはユーノを見る。
「ユーノ、大丈夫?」
「な、なんとか」
息も絶え絶えにユーノは答えつつ起き上がる。
「明日も仕事あるのにごめんね」
「い、いいよ。久しぶりにいい運動したし」
なんとか微笑を浮かべて答えながら起きようとするユーノ。だが、腕にうまく力が入らない。すぐにフェイトはそんなユーノを起こして肩を貸す。
「ありがとうフェイト」
「ううん、いいよ。でもまた付き合ってねユーノ」
楽しそうにフェイトは笑う。その笑顔にユーノは引きつった笑みを返す。
その後も鞭の練習にユーノを付き合わせたことで、フェイトは彼に色々誤解されることになるのだった。