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No.17171の一覧
[0] 道具屋さんの一日[lune](2010/03/09 20:56)
[1] 道具屋さんの1日 その2[lune](2010/03/10 23:14)
[2] 道具屋さんの一日 その3[lune](2010/03/13 01:02)
[3] 道具屋さんの一日 その4[lune](2010/03/14 11:24)
[4] 道具屋さんの一日 その5[lune](2010/05/29 01:07)
[5] 道具屋さんの一日 その6[lune](2010/05/29 10:02)
[6] 道具屋さんの一日 その7[lune](2010/06/06 18:00)
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[17171] 道具屋さんの一日 その5
Name: lune◆da3a4247 ID:a47281e2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/29 01:07
この世界では冒険者はパーティーと呼ばれる集団を組んで行動するのが、一般的とされる。戦士だけでは近接戦闘しか行えず、かといって魔法使いだけでは距離を詰められれば一巻の終わりだからだ。ゆえに戦士と魔法使いは集団を組む。
 だが中には、一匹狼を気取る輩もいるし、集団になじめずに結果的に一人でいるような者もいる。しかしそういう輩は必然的に仕事からあぶれ気味になるし、遺跡の探索のような真似は決してしない。何が起こるかわからない遺跡のような場所で、単独行など自殺行為以外の何物でもないからである。
 だが、世の中には例外という物が、時として存在する。
 たとえば現在、『剣匠』と呼ばれる冒険者、クロードはその例外の代表だった。
 常に単独行で遺跡を巡り、そして生還する。対人戦では無敗を誇る戦闘技術は、剣匠と呼ばれるが決して剣だけに特化しているわけではない。その辺りに転がっている石ころや棒きれを使ってでも勝つ。その戦い方はきれいなものではないし、騎士のような名誉を重んじる輩からすれば、卑怯とそしられる戦い方だ。
 それでもクロードが剣匠と呼ばれるのは、そんな騎士を剣だけで圧倒する、絶対的な強者だからである。その上で、生き延びるためならばどんな真似も厭わないという男が、果たしてどれほどの強者であるか。それは考えるまでもないのだろう。



道具屋さんの一日 その5



「クロードさんって、すごいですよね」
「そんなことは無いさ。遺跡では魔法を使う魔獣に囲まれないように、必死に逃げ回っているんだぞ?」
 店を訪れた剣士は、ははは、と低いが心地よい笑い声を上げる。
 年の頃が30に届こうかという男性は、頬に残った傷をゆがめて笑っていた。鋭さのある顔立ちは死線をくぐり続ける歴戦の戦士のそれでありながら、笑顔はどこか気安そうでもある。無骨な鎧を軽々と身につけ、鍛え抜かれた腕は鋼のように引き締められている。
 僕は袋の中から荷物を一つ一つ、丁寧に取り出してカウンターの上に並べると、鑑定を始めた。魔力を帯びた品がほぼ全て、という時点で一般的な商店では取り扱われない品ばかりである。
 剣匠の異名を取る、常に単独行の冒険者。たった一人で遺跡に入り、そして誰も到達したことのない深部から帰還する。もはや生きた伝説と呼ばれてもおかしくはない。
 何よりも彼の凄みは、一対一ならば無敗、ということにある。
 競技、戦争、冒険。どのような場面でも、一対一の対人戦で負けたことはないクロードさんは、いつしか剣匠と呼ばれるようになったのだという。
 だというのに、この人は決して自分をそう呼ばないし、驕らない。自分は強くなどない、という。
「いやいやいや。クロードさんが強くないだなんて言われたら、他の冒険者の人たちが何も言えないじゃないですか」
「そうではないよ、クロエ。俺は負けないように戦っているだけだ。正確には勝てると判断した時しか戦わない。それだけなのだよ」
 買い取り品の鑑定と値付けの待ち時間のため、クロードさんは椅子に座って僕が出したお茶を飲みつつ、そう笑う。
「一対一では無敗と人は言う。それはつまり、一対一以外では戦わないということだ。無敗という事は、勝てない相手とは戦わないということだ」
 にやりと笑ってみせるクロードさんは、そう言って両手を打ち合わせた。
「結局のところ、無敗などという物はそんな代物でしかない。クロエ。お前のような少年は、まだ夢を見ていたいのかもしれないが、残念ながらそうはいかん。この世に絶対など存在しない。俺とてどこかの遺跡でのたれ死ぬ事は、いつだってありえる事だ」
 それにだ、とクロードさんは続ける。
「俺を殺したいのなら、毒を盛ればいい。遠くから弓でも魔法でも使えばいい。なんなら俺に罪を着せて投獄するでも良い。俺の剣が届かない場所。俺の剣が役に立たない戦い方をすれば、俺を殺すことは至極簡単だ」
「いやいやいや。それ卑怯でしょ。絶対に」
「冒険者の命のやりとりにおいて、卑怯などという物は存在しないのだよ、クロエ。騎士が名誉に命を賭けるのとは違う。冒険者は命を対価に、莫大な報酬を得ようとする者達だ。死ぬことこそが敗北という輩だ。ならば、死なないために、どんな手段でも講じるべきだろう?」
「えー……。なんかこう、夢が無いですよ、クロードさん」
「夢など豚にでも喰わせてしまえ。俺たちはこれ以上ない現実主義でなければ、生き残れないんだよ」
 そう笑う男こそが、冒険者の夢の体現者であるのはどうなんだろうか、と思う僕である。

  ◇

「……あら、クロード。いらっしゃい」
「やあ、リン。久しぶりだな」
 店の奥から顔を出したリンさんに、クロードさんは軽く手を上げて挨拶する。
「今回も大漁ねえ」
 そしてカウンターに並べられた品々をのぞき込んだリンさんに、僕はリストを差し出した。
「リンさん。これ、買い取りのリストになります」
「ん。ありがと。……今回はどこ行ってきたの?」
 リストを受け取ったリンさんは、内容を確認しながら尋ねる。
「ああ、今回はイシュタルの深部到達記録を更新してきただけだ」
「イシュタルって、たしか近場の大深層遺跡ですよね」
 王都から徒歩で二日ほどで辿り着ける近郊の遺跡である。駆け出しのパーティーが潜ることでよく知られているが、この遺跡、実はとんでもなく深いのだそうだ。
 たしか、現在知られている最深部到達記録は30層。40年ほど前の記録だと聞いている。
「ああ。師匠達が若い頃に潜って、そこまで到達したそうだ。俺が今回、32層まで潜ったがな」
「それ……、当然一人で、ですよね」
「師匠からそこまでの道は聞いていたからな。前情報なしで潜ったなら、もっと浅い所で止めていたよ」
 そう言って肩をすくめるクロードさんは、けれども目は真剣なままだ。
「あそこは深部では出てくる魔獣の質が大きく変わる。師匠の仲間だった魔法使いの話では、異界に通じる穴でも開いているのではないか、という話だったな。たしかに25層以降は空気が違って感じられた」
 どこか粘り着くような、妙な威圧感を感じ続けたのだというクロードさんに、僕は「はあ」と頷く。
「そして得られる財宝の類も、大きく変わる。具体的には、強い魔力を帯びた品が、極端に増える」
「……なるほど」
 カウンターの上で、妙な気配を発している品々を一瞥して頷いた。


「ん。こんなものかしらねー。でもクロエ? そこにある杖は、もっと高値になるわよ?」
「え、そうですか?」
 そしてリストの点検を終えたリンさんが、杖というかステッキというかな代物を指さしつつ、僕にリストを返してくれる。
 ちなみにリンさんが指さしたのは、玩具じみた色彩のステッキだ。
「でも魔力感知じゃ、たいした感じはしませんでしたよ?」
「そりゃそうよ。自前の魔力は使わないんだもの。周囲の魔力を吸収して発現するタイプね。雷撃の魔法がかかってるようだわ」
「はい?」
「もう。駄目よ、クロエ。鑑定の目利きはだいぶ利くようになったけど、最初の魔力感知を過信しすぎる癖が直ってないわよ?」
「あ、はい。すいません」
 ぺこりと頭を下げる僕。確かに僕の鑑定は、魔力感知に頼る部分が大きい。はっきり言えば、見知らぬ品を鑑定する場合は、魔力の大きい品のほうが、より危険度が高く、価値も高い。とはいえ、今はそういう話じゃなくて。
「あの……周囲の魔力を吸収って、それってつまり」
「世界に魔力がある限り、雷撃が打ち放題みたいね。しかも魔法使いじゃなくても、キーワードさえ分かってれば扱えるみたい」
「いやいやいや! 雷撃って中級魔法でしょ!? それが撃ち放題!?」
 一般的な魔法使いの到達点と呼ばれるのは、上級魔法である。だいたいの魔法使いはここを上限としてしまう。というか、それ以上には才能とか運とかが大きく関わってくるらしい。
 中級とは、その名の通りある程度の実力者が到達する領域だ。僕の知り合いでいえば、メリッサさんがそれに当たる。
「そうね。さすが大崩壊以前の遺跡なだけはあるわねー。こんな代物がまだ眠ってたなんて」
 あははー、などと笑いながらステッキを振り回しているリンさんである。
「……どうしますか? これ、売るよりもクロードさんが持っていたほうが良いんじゃ」
 僕の問いにクロードさんは苦笑いを浮かべながら頷いてみせた。
「そうだな。さすがにこれは、俺の奥の手にさせてもらおう」
 リンさんからステッキを受け取ると、けれど微妙な顔つきになる。
「しかし……この見た目だけは何とかならんかな」
 ピンク色の玩具めいた装飾のつけられたステッキは、なんというかクロードさんのような男性が持つには、色々な意味で色物めいて見える。リンさんが持っている分には、まあ年甲斐のない人という印象で、なんとか片付けられるわけだけれど。
「それ表層に威力制御がつけられているから、変えると動かなくなるわよ?」
「……そうか」
 クロードさんは寂しそうに頷くのだった。



「うおーい、邪魔するぞい」
 ドアベルを鳴らして店に入ってきたのは、イルク爺さんだった。
「ほ。珍しい客がおるのう」
 そしてクロードさんを見て、眉を上げる。確かに、僕が店番をしている間に、クロードさんと爺さんが顔を合わせたことは無い。かつては有名な冒険者だったという爺さんだし、クロードさんは現在もっとも有名な冒険者だという事を考えれば、爺さんも知っているのだろう。前に、今の剣匠は昔の自分よりも強いって言っていたし。
 クロードさんは椅子から立ち上がると、びしっと直立して、それから深々と頭を下げた。
「お久しぶりです。師匠」
「ふぉっふぉっふぉ。相変わらず荒稼ぎをしとるようじゃのう」
「師匠!?」
 泰然と礼を受ける爺さんに、思わず叫び声を上げる僕だった。
「ああ。俺の剣の師匠なんだよ、イルク殿は」
「ほっほっほ。どうじゃクロエ坊。見直したか? ん? ん?」
「えー……。いや、爺さんが昔すげえ強い人だったっていうのは前に聞きましたけど。クロードさんの師匠って」
 つるりとした頭を撫でながら、爺さんはカラカラと笑う。
「まあの、実際今のクロードは己の道を歩んでおる。弟子というには、少々気恥ずかしいところはあるかのう」
「いや、師匠。俺にとって師匠から習ったことは、今でも俺の行動原理の一つです。勝てない相手とは戦わない。戦うからには勝てる手段を準備する。そういったことは、師匠から学ばせていただきましたから」
「あー。その卑怯でも勝てばいいっていうの、爺さんからなんですね」
「馬鹿にするもんじゃないぞ、クロエ。冒険者なんぞどこで死ぬかも分からん流れ者じゃ。死ねば何も残らん。逆にいえば、生きている限りは敗北ではない」
「いや、その信念については、さっきクロードさんから聞いたし理解もしたけどさあ。でも、そのためにあらかじめ罠を用意するとか言われると、夢が壊される気がするんだよなぁ」
「一対一に持ち込めば、負けるつもりは無い。しかし勝てそうにないなら、そもそも一対一にすら持ち込まずに逃げる。それは俺の哲学だ」
 自信満々で胸をはり、頷きあう元・剣聖と現・剣匠。なるほど。似たもの同士ですよ、この人たち。
「……そういえば、クロードさんはどうして一人なんですか?」
「ん?」
「爺さんの話じゃ、昔の爺さん達はパーティーを組んでたんでしょ? なんで一人でやってるんですか?」
 ああ、とクロードさんは納得したように頷いて、力強くこう言った。

「分け前が減るだろう。パーティーだと」

 冒険者なんてやってるんだから、当然のことなんだろうけれども。

「俗物だ……。案外俗物だ、この人」
「なにを当たり前なことを言ってるのよ、クロエ」
 苦笑しているリンさんと、胸を張って笑っているクロードさん。
 今日も店は平和である。


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