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No.17066の一覧
[0] 【ネタ・ギャグ】まったりヴォルケンズ(はやて憑依、原作知識無し)[ネコスキー](2011/01/03 22:37)
[1] プロローグ[ネコスキー](2010/06/11 16:05)
[2] 一話[ネコスキー](2011/01/03 22:50)
[3] 二話[ネコスキー](2011/03/25 20:37)
[4] 三話[ネコスキー](2010/06/24 11:14)
[5] 四話[ネコスキー](2010/06/01 12:16)
[6] 五話[ネコスキー](2011/01/03 22:52)
[7] 六話[ネコスキー](2010/08/15 00:07)
[8] 七話[ネコスキー](2011/01/03 22:54)
[9] 八話[ネコスキー](2011/03/27 03:52)
[10] 九話[ネコスキー](2011/01/03 22:57)
[11] 十話[ネコスキー](2010/08/15 00:13)
[12] 十一話[ネコスキー](2010/08/15 00:14)
[13] 十二話[ネコスキー](2010/08/15 00:15)
[14] 十三話[ネコスキー](2011/01/03 23:01)
[15] 十四話[ネコスキー](2011/01/03 23:02)
[16] 十五話[ネコスキー](2011/01/03 23:06)
[17] 番外編 一話[ネコスキー](2010/08/05 14:33)
[18] 番外編 二話[ネコスキー](2010/08/15 01:23)
[19] 十六話[ネコスキー](2010/08/05 14:40)
[20] 十七話[ネコスキー](2010/08/05 14:41)
[21] 十八話[ネコスキー](2010/08/05 14:43)
[22] 十九話[ネコスキー](2010/08/05 14:45)
[23] 二十話[ネコスキー](2010/08/05 14:46)
[24] 二十一話[ネコスキー](2010/08/05 14:50)
[25] 二十二話[ネコスキー](2010/08/05 14:53)
[26] 番外編 三話[ネコスキー](2010/08/05 14:58)
[27] 番外編 四話[ネコスキー](2010/08/05 15:00)
[28] 二十三話[ネコスキー](2010/08/05 15:02)
[29] 二十四話[ネコスキー](2010/08/05 15:04)
[30] 二十五話[ネコスキー](2010/08/15 00:04)
[31] 二十六話[ネコスキー](2010/08/21 02:47)
[32] 二十七話[ネコスキー](2010/08/14 23:56)
[33] 二十八話[ネコスキー](2010/08/15 00:02)
[34] 二十九話[ネコスキー](2010/08/15 00:24)
[35] 三十話[ネコスキー](2010/08/15 00:34)
[36] 三十一話[ネコスキー](2010/08/15 00:40)
[37] 三十二話[ネコスキー](2010/08/15 00:47)
[38] 三十三話[ネコスキー](2010/08/15 00:53)
[39] 三十四話[ネコスキー](2010/08/15 00:59)
[40] 三十五話[ネコスキー](2010/08/15 01:05)
[41] 三十六話[ネコスキー](2010/08/15 01:08)
[42] 三十七話[ネコスキー](2010/08/15 01:12)
[43] 外伝 『賭博黙示録ハヤテ』[ネコスキー](2010/08/15 01:14)
[44] 番外編 五話[ネコスキー](2010/08/15 01:24)
[45] 番外編 六話[ネコスキー](2010/08/15 01:20)
[46] 三十八話[ネコスキー](2010/08/15 01:27)
[47] 三十九話[ネコスキー](2010/08/15 01:32)
[48] 外伝 『とあるオリ主の軌跡』[ネコスキー](2010/08/15 01:33)
[49] 四十話[ネコスキー](2010/08/15 01:37)
[50] 外伝 『シグナム観察日記』[ネコスキー](2010/08/15 01:49)
[51] 四十一話[ネコスキー](2010/08/15 01:56)
[52] 四十二話[ネコスキー](2010/08/15 02:01)
[53] 四十三話[ネコスキー](2010/08/15 02:05)
[54] 四十四話[ネコスキー](2010/08/15 02:06)
[55] 四十五話[ネコスキー](2010/08/15 02:10)
[56] 四十六話[ネコスキー](2010/08/15 02:12)
[57] 外伝 『漢(おとこ)達の戦い』[ネコスキー](2010/08/15 02:15)
[58] 四十七話[ネコスキー](2010/08/15 02:18)
[59] 四十八話[ネコスキー](2010/06/08 22:47)
[60] 外伝 『とあるオリ主の軌跡2』[ネコスキー](2010/06/12 16:11)
[61] 四十九話[ネコスキー](2010/06/13 15:18)
[62] 五十話[ネコスキー](2010/06/19 23:30)
[63] 五十一話[ネコスキー](2010/08/15 02:24)
[64] 五十二話[ネコスキー](2010/08/15 02:32)
[65] 五十三話[ネコスキー](2010/08/15 02:33)
[66] 五十四話[ネコスキー](2010/08/15 02:39)
[67] 五十五話[ネコスキー](2010/07/01 12:48)
[68] 五十六話[ネコスキー](2010/07/04 14:42)
[69] 外伝 『とあるオリ主の軌跡3』[ネコスキー](2010/08/15 02:45)
[70] 外伝 『とあるオリ主の軌跡4』[ネコスキー](2010/07/21 14:38)
[71] 外伝 『それほど遠くない未来のとある一日』[ネコスキー](2010/08/05 14:51)
[72] 五十七話[ネコスキー](2010/08/15 02:48)
[73] 五十八話[ネコスキー](2010/08/05 14:07)
[74] 五十九話[ネコスキー](2010/08/06 17:11)
[75] 六十話[ネコスキー](2010/08/11 15:05)
[76] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その一』[ネコスキー](2010/08/15 02:54)
[77] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その二』[ネコスキー](2010/08/24 17:29)
[78] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その三』[ネコスキー](2010/08/30 13:06)
[79] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その四』[ネコスキー](2010/08/22 22:41)
[80] 六十一話[ネコスキー](2010/08/24 18:46)
[81] 六十二話[ネコスキー](2010/08/30 13:04)
[82] 外伝 『こんな感じでした』[ネコスキー](2010/09/02 14:29)
[83] 六十三話[ネコスキー](2011/01/03 23:08)
[84] 六十四話[ネコスキー](2010/09/05 22:46)
[85] 外伝 『ザフィーラと狼と弁当と』[ネコスキー](2010/09/12 22:36)
[86] 六十五話[ネコスキー](2010/09/18 13:28)
[87] 六十六話[ネコスキー](2010/11/11 22:55)
[88] 外伝 『バレンタイン』[ネコスキー](2010/11/12 12:49)
[89] 六十七話[ネコスキー](2011/01/03 23:54)
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[17066] 六十六話
Name: ネコスキー◆bea0226c ID:94e41f3e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/11 22:55
──sideフェイト




「フェイトちゃーん! おはよー!」

朝の通学路、電信柱に寄りかかって自分と同じ白い制服に身を包んだ児童達が登校する姿をなんとはなしに眺めていると、少し離れた所から元気な声が聞こえてきた。
声のした方に振り向けば、そちらには特長的なツインテールを揺らして息を弾ませながら駆けて来る女の子がいた。
彼女の名前は高町なのは。私の初めての友達で、今は同じ学校に通う同級生だ。

「おはよう、なのは」

「ごめんねフェイトちゃん、遅れちゃって。待った?」

私の隣にやって来てふぅと一息つくと、なのはは申し訳なさそうに、しかし何かを期待したような上目遣いでこちらを見てくる。
……いつものやり取りと分かっていても、口元が緩むのは抑えられないな。

「ううん、今来たところだから」

「イエス! そのセリフが聞きたかったの! これで今日もがんばれる……!」

「相変わらず大袈裟だね、なのはは」

毎日のように交わすこのやり取り、私には何がなんだかさっぱりだけど、なのはにとっては欠かせないものらしい。
待ち合わせ時間よりわざと遅れて来るのもこのためだとか。本当にわけが分からない。
いや、そういえば初めて会った時からわけが分からない言動をしてたか。それでも大切な友達であるということは変わらないけど。

『ミス・なのは、おはようございます』

合流した私達二人が周りの児童達と同じように学校へと歩き出した時、私の制服のポケットに入っているバルディッシュが声を発した。
以前までのバルディッシュだったら必要な時以外は沈黙を保っていたのだが、今はだいぶ口数が多くなった。こうして自発的に知り合いに挨拶をするほどに。
別にこれが悪いことだとは思っていないけど、話す内容が内容だけに頭が痛くなることが多々ある。……そう、まさに今のように。

「あ、バルディッシュもおはよう。最近の調子はどう?」

『良い感じです。仕事の合間にアニメを見たり、マスターの手を借りてギャルゲーを進めたりと、充実した日々を送っています。日本に来て良かった。それと便座カバー』

こんな感じだ。
正直、アニメや漫画を見せたことを後悔している。すぐにキャラクターの真似をしたがるし、漫画買ってください、ゲーム買ってくださいアニメ録画してください、DVD予約してください、ページめくってください、ボタン押してください、選択肢は真ん中でお願いします、CG回収したいのでロードお願いします、とか、いろんなお願い事をしてくるようにもなってしまったのだ。マリーに頼んで自立機能を付加してもらおうか真剣に検討してしまったほどである。理由が理由だけにそれは諦めたが。
当初は、まさかこんなことになるとは思いもしなかった。いや、春になのはのレイジングハートを見た時点で危機感を抱くべきだったのかもしれない。今さらではあるけど。

そんな風に一人悔恨の念に苛まれながら歩く私の横では、なのはとバルディッシュが楽しそうに会話に花を咲かせている。
……深夜アニメとかギャルゲーの話ばかりで会話に混ざりづらいことこの上ない。普通のゲームの話なら今だったらそれなりに付いていけるのに。ポケモンとか。あとポケモンとか。ついでにポケモンとか。

「うんうん、分かってるねバルディッシュも。あ、そうそう、うちのレイジングハートもやっと最近ギャルゲーに手を出し始めたんだよ」

『萌え、という概念が理解出来なかったので敬遠していましたが、マスターに進められるままやってみて分かりました。あれはいいものです』

いつの間にかレイジングハートまで会話に参加してる……
私も話に付いていけるようにギャルゲーをやったり萌えアニメ(だっけ?)を見た方がいいのだろうか? 
バルディッシュに頼まれてゲームを進行させたりDVD再生したりしているけど、いつもデスクワークや宿題の片手間にやってるから、それらがどういうものなのかよく知らなかったりするんだよな。

でも、たまに夢にリニスや母さんが出てきて厳しい顔して言うんだよな。『ダメ、絶対』って。
……うん、やっぱり止めとこう。せいぜいポケモンとか遊戯王くらいにしておこう。なぜだかそれが最良の選択に思える。脳裏に浮かんだ母さんとリニスもほっとした顔してるし。

『ほう、レイジングハートも分かっているではないか。今までお前のことはいけ好かないアバズレだと思っていたが、認識を改める必要がありそうだな』

『同感です、バルディッシュ。私もあなたのことはすかしたポンコツ野郎だと思っていましたが、どうやら見るべきところはあったようです。オタクデバイス同士、一度腹を割って互いの嗜好をさらけ出し合うのもいいかもしれませんね』

「ああ、ギャルゲーのおかげでデバイス同士の不和が解消されていく! さすが日本の文化は偉大だね。そのうち世界まで救っちゃうかも」

「相変わらず大袈裟だね、なのはは」

苦笑を浮かべながらなのはの言葉に相づちを打っていた私は、そこでふと、彼女に伝えるべき話があったことを思い出す。
何ヶ月も悩んで、やっと昨日の夜に決心がついた。まだ誰にも話していないことだけど、いや、だからこそなのはに一番に聞いてもらいたい。私の一番の親友に。

「……」

苦笑から真面目な表情に戻し、よし、と軽く頷いた私は、いつも笑顔のなのはの横顔に目をやり、次いで口を開く。

「あのね、なのは」

「ん? なにかな?」

バルディッシュとレイジングハートの会話に意識を向けていたなのはは、私の言葉に疑問符を浮かべてこちらに向き直る。その表情はやはり笑顔。なのはにはやっぱり笑顔が似合うと思う。昔、スターライトブレイカーを私に向けてぶっ放した時の笑顔は勘弁だけど。
……いけない、背筋に冷たい汗が流れてきた。嫌な記憶は消去、消去と。
いや、今はそんなことより話が先だ。

「私、決めたよ」

「遂にギャルゲーに手を出すことを?」

セリフの途中でなのはが口を挟んでくるが、そよ風のごとく軽く受け流して話を続ける。

「違くて。今までずっと引き伸ばしてたあの話、私、受けることにしたよ」

「あの話って……もしかしてリンディさんの!?」

私に素っ気無く否定されて落胆した様子のなのはだったが、続く私の言葉を聞くと、一転して嬉々とした表情を浮かべて顔を上げた。
それに釣られるように私も気恥ずかしげに笑みを浮かべ、こちらに視線を送るなのはの目を見てはっきりと答える。

「そう。今日の夜、リンディ提督とクロノ、それにエイミィ達と話そうと思うんだ。ちょうどオフの日だから、みんな海鳴のマンションにいるし」

「わっ、わっ、おめでと~! ついに、だね!」

『おめでとうございます、ミス・フェイト』

「ありがとう、なのは、レイジングハート」

『おや? 私は一言も聞いていないのですが……おやー?』

あ、そういえばバルディッシュに言ってなかった。……まあいいか。

「おめでとう、フェイトちゃん!」

──おめでとう

──おめでとさん

──おめでとう!

「ありが……え?」

なのはとレイジングハートが我が事のように喜び、おめでとう、おめでとう、と何度も祝福の言葉を投げ掛けてくれる。うん、それはいい。そこまでは予想の範囲内だ。
しかし、なぜ周りの児童達までもが私に向き直り、なのはと同じように、おめでとう、おめでとう、と声を掛けてくるのだろう。しかもみんな笑顔で。
というか、気が付けばいつの間にか児童達に囲まれて拍手喝采されている。何だこれ。

「いやー、いい最終回だった」

「俺、あのラストがさっぱりだったんだけど、結局どういう意味なの?」

「こまけぇこたぁいいんだよ」

しばらくの間私を囲んで拍手していた児童達は、登校途中だったことを思い出したのか、一人、また一人と私を中心とした輪から離れていき、学校へと急ぎ足で向かい始める。
最後の一人が離れていくのを私が疲れた目で見送っていると、隣にいたなのはが、「私達も行こっか?」と、まるで何事も無かったように登校を促してきた。

「……ふう」

聖祥学園に通い始めてから三ヶ月経ったけど、なのは同様にここの生徒達は時々わけの分からない行動を取ることがあるから困る。どういったリアクションを取ればいいのかがさっぱり分からないのだ。基本的にみんな良い子なんだけど、それだけに奇行が目立つというか、何というか……まあ、一言で言えば、理解不能。これに尽きる。

「フェイトちゃーん、遅刻しちゃうよー?」

「あ、うん」

前を歩くなのはの声によって自分が無意識に立ち止まっていたことを知った私は、気を取り直すとパタパタと足音を鳴らしてなのはの下まで走る。
そして、なのはの隣という定位置に移動した後は、なのはの歩くペースに合わせて速度を緩め、再びレイジングハートとバルディッシュを加えてお喋りしながら学校に向かう。

話題は尽きない。ゲームの話、アニメの話、勉強の話、テレビの話、管理局の話、魔法の話。
過去に似たような話をしていたとしても、日をまたげばいくらでも会話に花を咲かせることができる。
ゆえに、その話題が出るのも必然だった。

「あー、ハヤテちゃん、早く転校してこないかな~」

「無茶言っちゃダメだよ。先月にリハビリ始めたばかりなんだから」

「それはわかってるけど。でも、やっぱり待ちきれないよ。フェイトちゃんだって楽しみにしてるんでしょ?」

「うん。それはもちろんそうだけど……」

八神ハヤテ。ここ最近、毎日のように話題に上る人物。車椅子に乗った、ちょっと変わったな女の子。

彼女と私が初めて出会ったのは秋ごろだったが、なのはとアリサとすずかはそれよりもっと前に出会い、なおかつあっという間に友達になったという。
かくいう私も、二度目の邂逅を経てハヤテの友達になることが出来た。少し出会いが特殊だったけど、そんなのは些細なことだ。
今では携帯番号も交換し合っているし、休日にはなのはと一緒に彼女の家に遊びに行くようにもなった。

そんな彼女が、そう遠くないうちに私達の学校に転校してくるというのだ。これで話題に上らないはずがない。それに、なのはだけでなく、アリサやすずか達もハヤテが転校してくるという知らせを聞いてから頻繁に口にするようになった。早く転校してこないかな、と。
もちろん私もなのは達と同じ気持ちだ。なのは、アリサ、すずかに加えて、ハヤテとも学校生活を共に送れるようになるのだ。きっと今よりもっと楽しくなることだろう。

けれど、物事には順序があるようで、いくら私達が催促したところで今すぐにという訳にはいかないのが現実だ。
ハヤテの転校の一番のネックとなっているもの、それは動かない足。一ヶ月前辺りからようやくリハビリに取り組み始めたが、ハヤテの話では学校に通えるようになるにはまだまだ時間が掛かるという。

だから、今私達に出来ることといえば……

「今はリハビリが順調に進むことを願うしかないんじゃないかな」

「う~、もどかしいなぁ」

「みんな同じだよ。私も、アリサも、すずかも。それにハヤテだって」

「……うん、そうだよね」

こうしてようやく会話に一段落ついた、ちょうどその時。前方に見慣れた建物の姿が見えてきた。

「あ、もう着いちゃった。会話しながら歩いてるとあっという間に時間が過ぎちゃうね。時間はわりとギリギリだけど」

『それはマスターが待ち合わせ場所にわざと遅れて来るからで……いえ、何も言いますまい』

前方にそびえ立つ建物は、私立聖祥大学付属小学校。私となのはが通う学校だ。
あそこでたくさんの友達と出会い、なのは達と一緒に授業を受け、半日を過ごす。今ではこうした学校生活にももう慣れたが、転校当初は色々と戸惑ったことを覚えている。
緊張しながらの自己紹介から始まり、見知らぬ生徒達に好奇の視線を向けられて萎縮したり、質問攻めにあっていたところをアリサに助けられたり、すずかの尋常じゃない運動神経に驚いたり、リンディ提督に作ってもらったお弁当を食べて危うくリニスと母さんの所に逝きかけたり(以降、お弁当は自分で作るようになった)と、様々なことがあった。

まあ、転校してから三ヶ月経った今となってはそれらも良い思い出なのだけど──

「校長先生~、おはようございま~す」

「はい、おはよう」

「ロリアム校長先生、おはようございます」

「はい、おはよう。ちなみに私の名前はグレアムだ」

「オッス、ヒゲ校長。ヒゲ触らせろ」

「はっはっは、よつば君は相変わらず怖いもの知らずだな。でも可愛いから許す」

……訂正。今でも充分に戸惑っている。

「グレアム校長先生、朝から元気だよね~。なんであんなに元気なんだろ?」

「子どもが好きだからじゃないかな。前にそんなこと言ってた気がする」

歩を進めながら私となのはが見つめる先、入り口にある校門の前には、スーツをピシッと着こなし、白いヒゲを形よく揃えた一人の男性が立っており、校門を抜けて校舎へと向かう生徒達と朝の挨拶を交わしていた。
彼の名前はギル・グレアム。知る人ぞ知る、時空管理局歴戦の勇士。数々の功績を打ち立て、管理局に大きく貢献したことで有名な局員で、役職は提督。
……ただし、「元」、であるが。

なぜあんな大人物がこんな管理外世界の小学校の校門で子ども達に笑顔を振りまいているのかと言えば、答えは簡単。彼がこの学校の校長に就任したからだ。
いつの間にか。そう、気が付けばいつの間にか校長先生になっていた。
先月、月に一回ある朝礼で前置きも無くいきなりあの人が全校生徒の前に現れた時は酷く驚いたものだ。それもそうだろう。誰がこんなことを予想出来ただろうか。
管理局を辞職したとは聞いていたが、新たな就職先がまさか私達の学校の校長先生とは思いもしなかった。

「……」

校長に就任してから毎日校門の前に立って朝の挨拶をするあの人の姿を見るたびに、動揺が顔に出てしまう。まるで雲の上の存在だった人がいきなり地上に飛び降りて来た、といった感じだ。
しかし、いい加減に慣れなければならないだろう。これからも毎日のようにあの姿を見ることになるのだから。

そう決心した私は、すぐ近くに迫ったグレアム(元)提督の顔を見上げ、緊張が声に出ないように努めながらなのはと一緒に挨拶をする。

「グレアム提督、あ、いえ、校長先生、おはようございます」

「おはようございま~す」

「おお、フェイト君、それになのは君。おはよう。今日も勉学に励みたまえよ」

私の言い間違いなんて気にした風も無く、グレアム(元)提督は笑顔で挨拶を返してくれた。さらにこちらに一歩歩み寄ると、彼は私の頭に手を乗せてナデナデしてくれる。

「あ……」

大きくて無骨な手だけど、なんだか暖かくてとても安心できる。お父さんがいたら、こんな感じなのかな?
そんなことを思いながら、若干の気恥ずかしさを感じつつ頭を撫でられること数秒。頭から手の感覚が消える。もうおしまい? と、少し残念に思って視線を上げると……なぜか、グレアム(元)提督が泣いていた。表情は笑顔だが、大粒の涙を流している。なんでさ。

「な、なぜ泣いているのですか?」

「む、いや、すまない。少し感動してしまってね。ハヤテ君のように私の手を弾いて『やめてよね!』とか言うものだとばかり思っていたから」

相変わらずハヤテはこの人の事を誤解しているようだ。優しくて良い人なのに。

「グレアム提督……校長先生にそんな無礼な真似は出来ません。それに、その、今みたいに男の人に撫でられるのって初めてで、なんだか嬉しかったですし……」

「フェ、フェイトちゃん、まさかナデポを? いけません、いけません! 気をしっかり持って!」

何を言ってるんだろうか、なのはは。まったく、大袈裟だなぁ。
……それにしても、気持ちよかったな。また撫でてもらいたいくらいだ。

「あの、よろしければ、また今度お願いしてもいいでしょうか?」

「フェイトちゃん!?」

「ん? うむ、こんな老いぼれでよければいつでも撫でてあげよう」

「あ、ありがとうございます」

笑顔で快く返事をしてくれたグレアム(元)提督に一礼した私は、隣でなにやら騒ぐなのはの手を取ると、予鈴が鳴り響く校舎へと気分よく走り出した。
先ほどまであった戸惑いや動揺なんてすでに掻き消えている。いま私の胸中に残るものは、喜びと、グレアム提督、いや、グレアム校長への思慕の念だけだ。

……ハヤテの転入だけでなく、もう一つ楽しみが増えたな。これからの学校生活、さらに楽しくなりそうだ。

「いや、なんでそんなに嬉しそうなのフェイトちゃん。撫でられてそんなに嬉しかったの? オッサンにナデポされちゃったの? お~い」

「早く行かないと遅刻しちゃうよ、なのは」

「無視ですか、そうですか」

よーし、今日も勉強がんばろうっと。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「フェイトちゃん、ばいばい。リンディさん達とのお話、明日聞かせてね」

「うん。それじゃ、また明日。ばいばい、なのは」

放課後。全ての授業を終えて解放的な気分になりながら校舎を出た私は、途中までなのはとお喋りしながら一緒に下校し、マンションの近くで彼女と別れた。
私となのは、どちらも用事が無いときはいつもマンションで一緒にゲームをしたりして遊ぶのだが、今日はなのはの都合がつかないとのことで、遊ぶのはまたの機会になった。

ちなみに、学校が終わった後になのはがマンションに寄っていかないのは非常に珍しいことで、塾が無い時と欲しいギャルゲーの発売日以外は必ずと言っていいほどマンションに寄って私と遊ぶ。
そんななのはがなぜ今日マンションに寄らなかったかというと、来月に控えた嘱託魔導師認定試験に備えて勉強をするためだとか。

最近教えてもらったのだが、どうやらなのはは近い将来管理局に就職するそうで、そのために毎日レイジングハート指導の下、魔法関連の勉強や訓練をしているらしい。それと、嘱託魔導師の試験を受けるのは腕試しのようなもので、最終的には武装隊士官、それも戦技教導隊入りを目指しているそうだ。

正直、このことを最初に聞いたときは耳を疑った。あのなのはが、ギャルゲーやアニメをこよなく愛してやまないあのなのはが、士官、それも戦技教導官を目指すのか? と。何の冗談かと思ったほどだ。てっきりゲームプログラマーとか声優とか目指すものだと思っていたのに。
けれど、なのはは本気だった。クロノから管理局に関する資料や魔法技術のテキストをもらって読み込んだり、授業中にマルチタスクを使用して密かに魔法の勉強をしたり、休日に私に模擬戦を挑んできたりと、本気で任官のために取り組んでいる。そう遠くないうちに士官学校の短期プログラムまで受けるつもりだと言っていた。

なぜそこまで頑張るのか、疑問に思ってそう尋ねたことがある。するとなのはは、にゃはは、といつものように可愛らしく笑ってこう答えた。

「お給料もらったら、好きなだけゲームやDVDが買えるでしょ?」

納得の一言だった。

確かに、日本では小学生は働けない。その点、管理局ならば実力があれば誰だって働かせてもらえる。
理由は不純に思えなくもないけど、なのはらしくて何だか安心したものだ。
あと、なのはが戦技教導官を目指す理由だが、これはなんだかよく分からなかった。一応なのはに聞いてみたのだが、

「教導隊って言ったらゼンガーだよね。あの格好良さにシビれる惹かれる憧れるぅ!」

とのことで、私にはさっぱりだった。クロノやエイミィ達がうんうん頷いていた辺り、またゲームか何かのネタなのだろうとは思うが。
まあ、なのはが管理局員になってくれるのは私としても歓迎すべきことだからそこら辺は突っ込まないでいた。私も執務官を目指して勉強中だし、将来、任務を共にすることがあるかもしれないからだ。……それに、地球でも管理局でもなのはと一緒の時間が過ごせるのは嬉しいし。

『マスター、到着しました。……考え事ですか?』

「え? あ、うん、ちょっとね」

気が付けばマンションの階段を登り切り、自室の扉の前で立ち止まっていた。バルディッシュに声を掛けられることでそれに気付いた私は、肩に下げたカバンからカギを取り出そうと中に手を突っ込み、……そこで、はたと気付く。

扉の奥に、誰かがいる。しかも、おそらく覗き穴からこちらを見ている。

これは、エイミィかな? いや、もしかしたらあの人かもしれない。
しかし、どちらにせよ、扉の奥に陣取っているということは私をすんなりと中には入れてくれないということだ。カギを差し込んでもどうせあちらがドアを押さえ込むだろうし。
……やはり、いつものあれをやるしかないのか。

「……バルディッシュ、頼むね」

『大丈夫だ、問題ない』

相棒の頼もしい返事に勇気付けられた私は、ドア横に備え付けられたインターホンを見上げる。そして、『押すなよ? 絶対押すなよ!』と書かれた張り紙をボタンの上からペリペリと剥がし、押してはいけないらしいボタンを強く押し込んだ。

《のみこんで、僕のエクスカリバー……!》

それと同時に通路に響き渡る謎の音、いや、声。
この悪寒を催すようなインターホンの音(?)を設定したのは、十中八九リンディ提督だろう。近所から苦情が来なければいいけど。
まあいい。今は目前に迫った問題を片付けるのが先決だ。

「……クックック、はぁーはっはっは! よくぞここまで来たな。その健闘をたたえて我輩が直々に相手をしてやろう」

ボタンから指を離し扉を睨みつけていると、愉悦を含んだ声が扉越しに聞こえてきた。
この無駄な演出、それにこの声、どうやら扉の奥にいるのはあの人のようだ。また遊びに来ていたのか。オフの日にはたいてい来るんだよな。こっちとしても望むところだけど。

「……なんかリアクションしろよ。おれっちが一人だけ盛り上がっててバカみたいじゃん」

「あ、ごめんなさい」

ノリノリのセリフに対して黙っていたのがお気に召さなかったらしい。けどリアクションってどうすればいいのだろうか。なのはだったら彼女のノリに付いていけるんだろうけど、私にはちょっと難易度が高い気がするのだが。

「チッ、しけた幼女っすね。まあいいや。そんじゃ今回のお題、いくぞこら」

投げやりな感じでそう言った彼女は、さも今思いついたかのように適当なお題を出してきた。

「えーっと、あれだ、なんか面白いこと言え」

な、難易度が高すぎる……
合言葉や決め台詞だったら何か適当なことを言えば扉を開けてもらえるのだが、今回のこれはそうもいかないだろう。しかも相手はエイミィやクロノではなく、ジャッジが辛口のあの人だ。私では荷が重過ぎる。
ここはやはり、頼みの綱のバルディッシュに任せるしかない。

──お願い、バルディッシュ。私を導いて。

私のそんな思いを汲み取ってくれたのか、ポケットから取り出したバルディッシュが私を安心させるように発光する。続いて、闇を打ち払うかのようにさらに輝きを増し、そして……扉の向こうにいる人物に向けて声高に叫んだ。

『オタクが泣いていいのは、予約していた限定品を確保できなかったというメールをクソ通販サイトから受け取ったときだけだ!』

……そういえば、そんなメールが来たことあったっけ。あの時はクロノやエイミィがバルディッシュのこと励ましてたな。

「……微妙だな。もう一回チャンスをやろう。今度はカッコいいセリフを言え」

『相変わらず辛口な……では、とっておきを!』

駄目だしされてもバルディシュはへこたれず、なおも食らいつく。
その甲斐あったのか……

『もう何もかも終わってると思ってるか? 自暴自棄になってるのか? 残念だが言わせてもらおう。ゲームオーバーの後もお前の人生は続くよ! 負債満載でな! どれだけ恥をかいても、命を絶たない限り人生は続いていくのだ! 取り返しがつかなくなっても人生は続く。汚点は絶対に消えることはない! ……受け入れて、強くなるしかないんだ』

「……ふむ、及第点といったところか。喜べ、中に入ることを許可してやろう」

ようやく中に入ることを許された。
……というか、毎回思うんだけど、このシステムは早急に廃止するべきだろう。中に入るまで時間が掛かるし、なにより私みたいな人間には不利だ。お題に答えられなかったら罰ゲームが待っているし、本当にどうにかしてほしい。発案者のエイミィはなのはの砲撃を喰らって反省するべき。

頭の中でそんな愚痴をこぼしていると、ガチャリとドアが開き、目の前に見知った女性が現れる。彼女は通路に佇む私を見るや否や、私の手を掴んで部屋の中に引っ張り込んだ。

「よく来たな、まあゆっくりしていけ。って、シグナムはシグナムは偉そうに言ってみたり」

「そのセリフ、あなたが言うのは間違っていると思います」

「こまけぇこたぁいいんだよ。それより、今ポケモンで盛り上がっているところでゲソ。もちろん貴様も参加するだろう?」

「あ、はい。ポケモンなら参加せざるを得ません」

それでこそ! と気分を良くした彼女、シグナムは、私が靴を脱ぐのも待たずに手を引っ張って奥に連れ込もうとする。
相変わらず強引な彼女の態度に苦笑しつつ、私は急いで靴を脱いでシグナムと共にみんなが集まっているであろうリビングへと向かう。

……それにしても、この人、最近は本当によくここに来るようになったな。

長いポニーテールを揺らしながら前を歩く女性、シグナムの後姿を眺めつつ思う。
一ヶ月前辺りだろうか、彼女もまた、学校に現れたグレアム校長同様に突然このマンションに出没したのだった。
ポケモンバトルしようぜ! と、DS片手に入り口の扉をすり抜けて来た時は驚いたものだ。不法侵入にもかかわらず彼女の突然の来訪を歓迎したリンディ提督やクロノにも驚いたけど。あと、シグナムと会ったその瞬間に意気投合したエイミィにも。

あの日以降だろうか、彼女はたびたびこのマンションにやって来ては遊んでいくようになった。
破天荒で、言動が読めなくて、普段何を考えてるのかもよく分からない人。けれど、決して悪い人間ではない。ハヤテの家族なのだから、それは当然なんだろうけど。
私は、そんな彼女が嫌いではない。私だけでなく、クロノ達も同じ気持ちだろう。彼女には人を惹きつける何かがある気がする。カリスマ……とはちょっと違う気もするけど。

「おい金髪」

勝手知ったる我が家とばかりに通路を突き進み、リビングのドアに手を掛けたシグナムがこちらを振り返る。ドアの奥からはエイミィとクロノの「僕のラブプラス(ラプラス)がっ!」「よくやった、つよキッス(トゲキッス)!」といった騒がしい声が聞こえてきている。シグナムの言っていた通り盛り上がっているようだ。
……みなぎってきた。

「今日こそはお前に勝ち越してみせるでござるよ」

「出来るものなら、どうぞ」

「吠えよるわ、こわっぱが」

この前偉そうなセリフを吐いて結局一勝も出来ずに涙を浮かべて敗走したのを忘れたのだろうか。どうやらもう一度実力の差を思い知らせなければいけないらしい。

「おーい、フェイト・ステイナイトが来たっすよー」

「フェイト・テスタロッサです」

ドアを開けたシグナムの後に続き私もリビングに入る。それと同時に、ソファーに座っていたクロノ、エイミィ、リンディ提督がこちらに目をやり、DSを掲げて挨拶をしてくる。

「ただいま」

「お帰りなさい、フェイトさん」

「お、チャンピオンのお出ましだね。今日は負けないよ~」

「お帰り、フェイト。君ももちろん、やるよな?」

クロノの問いにゲーム棚から取り出したDSを掲げることで肯定の意を示した私は、とりあえず制服を着替えようと私室に向かうことにした。
と、そこで自身の使い魔、アルフの姿が見えないことに気付く。
この時間にマンションにいないということは、夕方の散歩か、もしくはハヤテの使い魔、ザフィーラの所に行っているのだろう。いずれにしろ夜には帰ってくるだろうから「あの話」をするのには問題無い。

そう結論付けた私は、止めていた足を動かしリビングを出て私室に向かい、手早く着替えを済ませる。そして、またみんなが集まるリビングに戻り、テーブルに置いていたマイDSを手に取ってソファーに腰を下ろす。
そうして準備が整った私を見たみんなは、互いに視線を交わし合った後、ジャンケンを始める。

何のためのジャンケンか。決まっている。一番最初にチャンピオンに挑む人間を決めるためだ。
ならばそのチャンピオンとは誰か。それも決まっている。

この私だ。

「一番手はこの僕だ。……お手柔らかにな、ポケモンワールドチャンピオンシップス優勝者、フェイト・テスタロッサ」

「ポケモンマスターの辞書に手加減の文字は無いんだよ、クロノ」

ポケモン、最高。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「チックショー! 覚えてやがれーっ! お前のかーちゃんデーベソ!」

「あーりゃりゃ、またシグナムっち泣いて帰っちゃったね」

「まるっきり子どもだな。だがまあ、それが奴の魅力でも……ゴホン! なんでもない」

ポケモンバトルを開始してから一時間ほど経った時、連敗を重ねていたシグナムがついに耐え切れなくなったようで、泣き叫びながらマンションを出て行った。
ちなみに、それを見送るみんなの目は生暖かいものだった。大の大人がゲームで負けてかんしゃくを起こすとか色々と問題がある行動だが、彼女がやる分にはなぜか微笑ましく思えるから不思議だ。だからといって褒められた行動ではないのも事実だが。

「しかし、相変わらずフェイトは強いな。厳選に厳選を重ねたポケモンを使用しているというのもあるが、読みが半端ないんだよな。あれはもはや未来予知に等しい」

「だね~。何度おいうちやちょうはつを喰らったことか。パルシェンとか、からをやぶれなかったらただの貝だよ~」

「そうねえ。さすがフェイトさん、チャンピオンの肩書きは伊達じゃないわね。私なんか手も足も出なかったわ」

「リンディ提督は出すポケモンが毎回同じだから負けるんだと思います。カイリキーとか、エビワラーとか、ダゲキとか」

シグナムがマンションを去ってからもしばらくはポケモンバトルが続いた。ポケモン以外のゲームもたくさんあるのだが、私達の間では今ポケモンがブームとなっているため、他のゲームをやるという選択肢は無かったのだ。

そうしてなおもバトルを続けることしばし。そろそろ夕飯の準備をする時間かな? と時計を見上げた時、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。どうやらアルフが帰ってきたようだ。
ふと、隣にいたエイミィを見てみると、彼女は悔しそうに歯がみをしていた。お題を出せなかったのが悔しかったらしい。まったく、帰宅時間が不規則なアルフが羨ましい。

ドアの前で待ち伏せされなくて済むのだから。

「たっだいま~」

予想通り、リビングのドアを開けて入ってきたのはアルフだった。緩んだ頬やしっぽをぱたぱたと振っている姿を見るに、今はかなり機嫌が良いみたいだ。

「おかえり、アルフ。何か良いことでもあった?」

「ん? ふふ~、聞いてよフェイト。今日散歩してる途中でザフィーラに会ったんだけどさ、なんと一緒に歩いてくれたんだよ。いつもだったらアタシの姿を見た途端に走って逃げちゃうのにだよ? 単なる気まぐれとか言ってたけど、あれはきっと照れ隠しだね。アタシには分かる」

「……君ら、なんだか青臭い青春してるなぁ。いや、否定はしないけどさ」

クロノの言っている意味が分からないのか、アルフは首をかしげる。クロノはそんなアルフを見て肩をすくめると、ダイニングキッチンに移動して冷蔵庫から牛乳を取り出し、それをアルフに向けて投げ渡した。
放物線を描く一リットルの牛乳パックを難なくキャッチしたアルフは、クロノにお礼を言ってゴクゴクと勢いよく飲み始める。

そんなありふれた光景をソファーに座って見ていた私は、全員が揃っている今が「あの話」をする良い機会だということに気付く。

……夕飯を食べた後にしようと思っていたけど、アルフが思っていたよりも早く帰ってきたし、今でも構わないか。それに、今まで先延ばしにしていたから、答えるのは少しでも早くしたいし。

「……よし」

決心した私は小さく呟き、周りを見渡す。
左隣には携帯端末を操作して何やら呟いているリンディ提督、対面のソファーにはオレンジジュースをコップに注いでいるエイミィと、ギリギリまでコップに注がれたオレンジジュースをどう飲もうか思案しているクロノの姿がある。視線を右に向ければ、壁に寄りかかったアルフが片手を腰にやって牛乳を飲んでいる。
やはり、話すなら今か。

「あの、リンディ提督、それにみんな。お話があります」

今の私の言葉から緊張を感じ取ったのか、みんながいぶかしげな顔をして私を注視してくる。それによって緊張感がさらに高まるが、ここで止めるわけにはいかない。

私は、決めたのだ。みんなの家族になるって。

「以前問いかけてもらった言葉に、お返事をしたいと思います」

「っ! それは……もしかして、養子の件?」

「はい、そうです」

隣の驚いた様子のリンディ提督に頷きを返し、私はみんなが注目する中、ゆっくりと、しかしはっきりと言った。

「私を、みんなの家族にしてください。家族に、なりたいです」

リンディ提督が、クロノが、エイミィが、アルフが、私の言葉を聞き、驚きに目を見開く。
けれどそれは一瞬のことで、すぐにその表情を驚愕から喜びに変えると、ソファーから立ち上がって私に詰め寄ってくる。

「つつつ、ついに決心したんだね、フェイトちゃん!」

「よくぞ、よくぞ言ってくれた。僕はこの時を待っていたぞ」

「フェイト~、アタシゃ嬉しいよ」

クロノ、エイミィが歓喜の声を上げて私の頭を撫で、アルフが首に手を回して後ろから抱き付いてくる。隣でそんな光景を笑みを浮かべて眺めていたリンディ提督は、みんなが落ち着くのを見計らってから私に話しかけてきた。

「嬉しいわ、フェイトさん。実はこのまま養子の話が無かったものにされちゃうんじゃないかって心配していたのよ」

「その、随分とお待たせしてしまって申し訳ありませんでした」

「いいのよ。こうして良い返事がもらえたんだから。でも、急に言うものだから驚いてしまったわ。そんな素振りも見られなかったし、何か切っ掛けでもあったの?」

切っ掛け。
そう言われて思い出すのは、昨日の夜に見た夢。暖かい、家族の夢。
私がこの話を切り出す決心が付いたのは、あの夢のおかげに他ならないだろう。

「夢を、見たんです」

「夢?」

みんなが首をかしげるのを見た私は、夢の内容を彼女たちに伝える。

夢の中にはプレシア母さんとリニス、それにアリシアがいた。
プレシア母さんは優しくて、リニスは思い出のままで、アリシアは可愛くて。私はそんなみんなに囲まれて笑っていた。暖かかった。幸せだった。
でも、すぐにそれは夢だって気付いた。いないはずの人間がいて、あり得ない光景が広がっていたのだから、気付かないはずが無い。
私が夢だって気付いた、その時。周りにいたみんなが悲しそうな、けど、どこか誇らしげな表情を浮かべて私を見つめてきて、こう言った。

──さようなら、フェイト。それと……いってらっしゃい。

それを聞いて私は、ああ、みんな、私を送り出してくれたんだな、と思った。いつまでも過去にすがり付いてないで前を見ろって、そう教えてくれたんだって、そう思った。

そんな思考が浮かんだ瞬間、プレシア母さんが、リニスが、アリシアが、私の目の前からゆっくりと消えていった。
それを見た私は、薄れゆくみんなに向かって、ごめんなさい、ありがとうと言って背を向け、歩き出した。
遠くに見える光に向かって歩き出し、長い時間をかけてようやく到達した、その瞬間、私の意識は浮上した。

これが昨日見た夢。みんなが私に勇気をくれた、夢。

「……夢の中で、私はみんなにさよならをしました。それと、ありがとうと、ごめんねをちゃんと言えました。私の勝手な夢かもしれないけど、アリシアは私を妹と呼んでくれて、いってらっしゃいって送り出してくれました。だから、私はやっと、アリシア・テスタロッサのミスコピーじゃなくて、フェイト・テスタロッサになれたんだって、そう思えたんです。前に進もうって、思えたんです」

「…………」

「命を受けて生み出された一人の人間として、もう一度答えさせていただきます。私を、フェイト・テスタロッサを、みんなの家族にしてください」

私の言葉を静かに聴いていたリンディ提督、クロノは、エイミィは、最後のセリフの後に顔を見合わせると、声を合わせて最高の笑顔でこう言った。……言ってくれた。

『ようこそ、ハラオウン家へ!』

……プレシア母さん、リニス、アリシア。私、やったよ。前に進むことが出来たよ。

「……って、ノリで言っちゃったけど、あたしはハラオウン家じゃないんだよね。というか、あたし、この場にいていい人間じゃないような気がするんだけど」

私が感動していると、エイミィが少し気まずそうにそう言う。
そんなことはないのに。

「エイミィもいてくれなきゃやだよ」

「そうだぞ。実質、君はフェイトの姉のようなものだからな」

私に続いてクロノが援護してくれた。それを聞いたエイミィは嬉しそうに、そ、そう? と呟くと、元の調子を取り戻して笑い出す。
でも、エイミィがお姉ちゃんか。なら、クロノは……

「ねえ、クロノ」

「ん? なんだ?」

「お兄ちゃんって、呼んでもいいかな?」

私が恥ずかしそうに上目遣いで見上げると、クロノはぶほっと鼻血を吹き出してソファーに倒れこんだ。なんで?

「ぼ、僕の妹がこんなに可愛いわけが……あった」

ソファーにもたれかかってゼイゼイ言っていたクロノは、鼻にティッシュを詰め込むと、突如キリっとした顔付きになって私に向き直り、なんだかよく分からないことを言ってきた。

「……フェイト、僕がポニーテール萌えだということはすでに周知の事実なわけなんだが──」

いや、そんなの知らないけど。

「──実は、妹萌えでもあるんだ」

「そ、そうなんだ」

何を言ってるのか分からないけど、とりあえず適当に頷いておいた。
なのは同様、ここの家の人たちはたまに訳が分からないことを言うから困る。

……でも、そんなみんなも嫌いじゃないけどね。

「リンディ提督……いえ、母さん」

「あらあら」

「クロノ」

「僕のことはお兄ちゃんと呼ぶこと」

「……お兄ちゃん。それとエイミィお姉ちゃん」

「うーん、それだとなんだか人生の選択肢が狭まる気がするから、今まで通りエイミィでいいよ」

「あ、うん。エイミィ。それにアルフ」

「はいはい」


私の、新しい家族。


「今日から私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンになりました。どうか、これからもよろしくお願いします」


もう、絶対に手放したりなんかしない。



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