「石田先生、少し遅れましたが、新年明けましておめでとうございます」
「ええ。明けましておめでとう、はやてちゃん。……それにしても、胸を揉まれながら新年の挨拶を交わすなんて初めてだわ、私」
「何事も経験ですよ」
「この経験がいつか活かされる時が来るのかしら……」
日々、おっぱいマイスターの活動に余念が無い神谷ハヤテです。
新年が明けてから早十日が経過した。と言っても、私達の生活に何か大きな変化があるというわけでもなく、お餅を食べたりコタツでゴロゴロしたりと、私とヴォルケンズの皆は常と変わらぬ毎日を過ごしてきた。
しいて変化した事を挙げるならば、リインさんがギャルゲーに手を出すようになった事と、ザフィーラさんがたまに外食するようになった事。それと、マルゴットさんから『タスケテ』というメールが届いて以来、彼女と連絡が取れなくなった事くらいか。まあ、そのうちひょっこり現れるだろうから彼女の事は大して気にしていないが。マルゴッドさんだし。
「あら? 今日は付き添いの方はいないの?」
「いえ、シグナムさんと一緒に来たのですが、彼女、待合室の子どもとのポケモン勝負に夢中になってまして」
「ああ、あの個性的な方ね。納得だわ」
ちなみに今日は新年が明けて一回目の検診の日で、朝ごはんを食べてから私はシグナムさんと共に病院へとやって来た。彼女は待合室に入るまでは大人しくしていたのだが、そのすぐ後に入ってきた少年にポケモンバトルを挑んでしまい、私が放送で呼ばれた今も熱いバトルを繰り広げている。
で、診察室に一人で入室した私は恒例の突撃&モミングを新年の挨拶と共に済ませ、現在に至るというわけだ。しかし、ああ、やはり石田先生のおっぱいは良い。決して大きいとは言えないが、揉み心地がたまらん。おっぱいマイスター検定準二級の私が断言しよう。ナイスおっぱいであると。
「……今日はえらく長く揉むのね。そろそろ離れてくれないかしら」
「おっと、失礼つかまつった」
割と久しぶりなので思わず揉み過ぎてしまった。やはりおっぱいマイスターたるもの節度をわきまえねばな。……嫌がる女性の胸は嬉々として揉むけどね!
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした……って、何かおかしいわね。まあいいわ、真面目な話に移りましょう」
私が後ろ髪を引かれる思いで胸から手を離し、グレン号を操作して後ろに下がると、石田先生は乱れた白衣を直しながら真剣な顔をこちらに向けてくる。だが、以前まで顔に出ていた緊迫感は鳴りを潜め、その表情には安堵が見て取れた。
やっぱり麻痺が着実に回復していってるからだろうな。今まで心労をかけていたようで本当に申し訳ない。
「大体の進捗(しんちょく)状況はこの前の診察の時に話したわよね?」
「あ、はい。今のペースで麻痺が治れば、二月頃には完全に麻痺が消えて感覚が全て戻ると。それと、それからのリハビリ次第では、早ければ四月に歩けるようになる、でしたよね」
「歩けるようになると言っても、松葉杖は必須よ。本当に自由に歩き回れるようになるにはまだまだ時間が掛かるわ。それこそ年単位の時間がね」
っと、そういえばそうだった。でも、一人で立ち上がれるだけでも随分と違うだろう。ヴォルケンズの皆の手をわずらわせることも少なくなるし、学校にだって通えるようになる。お風呂だって一人で……いや、これはマイナス要素か。けど、色々と生活に融通がきくようになるのは確かだ。
「完治するまでは、ずっとリハビリが続くんですよね?」
「そうよ。辛くて地味なのが、長々とね。リハビリっていうのは、とにかく焦らずじっくり進めていくものだから。そこのところは理解してほしいのだけど……」
「大丈夫です。苦労もなくいきなり完治するなんて思ってませんから。いつか自由に歩けるようになるのなら、五年だって十年だって苦行に耐えてみせますよ」
「……頼もしいわね、はやてちゃんは」
そうだ、死ぬかどうかの瀬戸際に比べたら数年のリハビリくらいなんてことない。何年か病院に通ってちょっと辛い思いをするだけで治るのだ。楽勝、楽勝。
「その余裕、いったいいつまで持つのかしらね……」
なんか石田先生が横を向いて怖いこと言ってるが、うん、きっと大丈夫……だといいなぁ。まったく、怖がらせるようなことを言わないでほしいものだ。っていうか、リハビリってそんなにきついものなんだろうか。今度調べてみよう。
「何はともあれ、これからが本当の勝負よ、はやてちゃん。完治目指して頑張っていきましょう」
「あ、はい」
私を励ますためなのか、石田先生は握った両手を前に出して笑顔でエールを送ってくれる。ああ、やっぱりおっぱいもいいけど笑顔も素敵です、石田先生。私が男なら惚れていたところだ。
……っと、そうだ。新年も明けたことだし、もう一回改めてお礼を言っておこう。去年もお世話になったけど、これからも長期間お世話になるのだから。
「あの、先生。先生からしたら私は厄介な患者だったと思いますが、これまで嫌な顔一つせず付き合ってくれてありがとうございます。これからも、どうかよろしくお願いします」
一礼する私を見て、椅子に座る石田先生は鳩が豆鉄砲食らったような顔をする。あれ? 別におかしなことは言ってないよね?
「石田先生?」
私の問いかけに、先生はハッと気を取り戻すと苦笑しながら私の顔を見てきた。
「ああ、ごめんなさい。まさか、はやてちゃんがそんな風に思ってたなんて思わなかったから」
苦笑を意地悪気な笑みに変えた石田先生は、ふふっと小さく笑って言葉を続ける。
「正直に言うとね、確かにはやてちゃんを厄介な患者だと思っていたわ。原因の分からない麻痺に加えて、患者本人はどうせ治らないと内心で諦めていたようだし。それに胸揉むし」
「うぐぅ……」
自分から話振っといてなんだが、グサリときた。石田先生、言うときは言う人なんだな。事実だから言い返せないのが辛い。
そんな風にへこむ私を見た石田先生は、私の頭に手を乗せると優しく撫でてきた。
「なんてね、冗談よ。厄介だと思ってたのは病気だけ。それにね、はやてちゃん。私、神経内科を専門にするようになって長期の患者がはやてちゃんが初めてだったから、逆に良い経験させてもらったって感謝してるのよ? ちょっぴり手を焼かされたりもしたけどね」
……感謝? こんな手の付けようのない病気を患っていた患者に? 治す気が見られなかった私に? エロオヤジみたいに毎回胸を揉む私に感謝ですと?
「……本気で言ってます?」
「あら、私は患者と話す時はいつだって本気よ。これでも医者の端くれだもの」
そう言った石田先生の目には嘘の色は見られない。どうやら本気で言っているようだ。
……マルゴッドさんといい、石田先生といい、私の周りにはお人好しが多いな。でも……そういうのは嫌いじゃない。逆に尊敬しちゃうね。
「あ、そうそう。さっきの返事がまだだったわね」
石田先生。あなたが主治医で、本当によかった。
「はやてちゃん。これからも長いこと付き合うことになると思うけど、よろしくね。リハビリ、挫けちゃだめよ?」
「ふふ、望むところです」
あなたと一緒なら、どんなに辛くても頑張れますから。
軽い診察を終えた私は診察室を出ると、待合室でDS片手に打ちひしがれていたシグナムさんを引っ張って外に出た。どうやらシグナムさんは少年にコテンパンに負けてしまったようで、病院を出てから五分間ずっとうな垂れて私の横を歩いていた。が、シグナムさんがいつまでも落ち込んでいることなどあり得るはずもなく、すぐに気を取り戻して私と雑談をするようになった。
「でさー、スーパーで買った弁当がまた美味くて……はっ、いかん」
「どうかしましたか?」
「天津飯の気が……消えた」
「へえ」
そうして世間話に花を咲かせながら二人で並んで道を進むことしばし、私達は無事に家に帰り着くことが出来た。まあ、そう簡単にトラブルなんて起きるわけがないから無事なのは当然なんだけど。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい、ハヤテちゃん」
家に着いた私とシグナムさんはさっそく中に入り、示し合わせるでもなくリビングの扉を開けてソファーに飛び込む。暖房がきいたリビングには全員が揃っており、各自がそれぞれ好きなことをやっていた。
リインさんとシャマルさんはWiiの格闘ゲームで対戦、ヴィータちゃんは今朝届けられた以前ネット通販で注文したマブ〇ブをヘッドフォン装着でプレイ中、ザフィーラさんはホネッコをかじって床でゴロゴロと、いつも通りの皆。この光景を見てると安心するね。
「シャマルさん、リインさん、私も混ざっていいですか?」
「あ、うちもやる~」
「構わんぞ。二人では味気なかったところだ」
ソファーに座って皆の姿を見ていた私とシグナムさんは、盛り上がりに欠けていたシャマルさん達に混ざってゲームをやることにした。お昼まではまだ時間もあるし、しばらくは皆とゲームをして過ごすことにしよう。
ちなみにシャマルさんとリインさんが遊んでいたゲームは、トィン〇ルクイーンという四つのタイトルの人気美少女ゲームの登場キャラクター達が熱いバトルを繰り広げる、今巷で最もホットな格闘ゲームだった。でも正直これWiiで出すゲームじゃないと思うんだ。きっと多くのギャルゲユーザーが私と同じ事を思ったことだろう。
とりあえずそれは置いといて、ゲームを楽しむことにする。
「恋姫〇双からは貂蝉(ちょうせん)を出してほしかったですね。あ、私は曹操様で」
「私は宇佐美が出てくれただけで満足だがな。あ、もちろん私は宇佐美で」
「それじゃ私はこのスケートで戦う斬新すぎるスタイルの女で」
「んじゃあっしはこの剣使いで」
ゲーム開始。パソコン画面越しにオタク達を虜にしたギャルゲキャラ達が所狭しとテレビ画面内を動き回る。金髪ツンデレが鎌を振るい、不思議キャラが催涙スプレーを噴射し、フィギュアスケート選手がスピンアタックをかまし、女剣士が剣を突き刺す。……ここまでカオスなゲームはなかなか無い気がするな。
「これでおしまいですね。さようなら、勇者」
「宇佐美ぃぃぃぃ!?」
一時間ほど遊んだところでシャマルさんが昼食の準備のために抜けた。しかし、その後、その穴を埋めるようにザフィーラさんが人間形態に変身して乱入してきた。私達がゲームをしている間、ヴィータちゃんはパソコンにかじりついてディスプレイに表示されるテキストを食い入るように読み進めている。あの様子だと今日一日はパソコンから離れようとしないだろうな。
「ごはん出来たわよー」
「は~い」
時間も忘れて皆と楽しく遊んでいるところにシャマルさんから声が掛かる。どうやらいつの間にかお昼の時間を迎えたらしい。
ゲームのスイッチを切り、パソコンから離れようとしないヴィータちゃんを皆で無理やり引き剥がしてダイニングに移動……しようとしたのだが、その時、毎度のごとく彼らが我が家にやって来た。
「おっじゃましま~す!」
「はしたないわよ、ロッテ。あ、おじゃまするわね、皆」
「やあやあ、はやて君、それに騎士諸君。ご機嫌いかがかな? 私? 私は絶好調だとも」
「聞いていません。それと、いい加減窓から侵入してくるのは止めてください。普通に玄関から入ってくれば追い出したりしませんから」
私の言葉などどこ吹く風。狭い窓からニュルニュルと蛇のごとく侵入してきたグレアムさん一行は、リビングの隅に置いてあった彼ら専用の小さな食卓と座椅子を素早くダイニングに運び、腕に下げていた風呂敷袋から料理の詰められたタッパーを取り出してそこに並べていく。
もはや日常風景となってしまったその光景に、私達は軽くため息を吐いて彼らの隣の食卓に座る。流石に総勢九人がダイニングに集うと少々狭苦しく感じられるな。
だからというわけではないだろうが、未練がましくパソコンの方をチラチラ見ていたヴィータちゃんが、座椅子に腰を下ろすグレアムさん達に多少トゲのある口調で話しかけた。
「お前ら、夜に来るとか言っといてなんで昼にも来るんだよ。しかも毎日のように」
それに答えるのはアリアさんから箸を手渡されたグレアムさん。彼はカチカチと食べ物を挟む動作で箸を打ち鳴らし、愉快そうに笑いながらヴィータちゃんの言葉を受け流す。
「いいではないか。食事というのは大勢で食べたほうが美味しく感じられるものだ」
「そうそう、細かいことは言いっこなしだよ」
「こうしておすそ分けもしていることだし、許してもらえないかしら?」
アリアさんからタッパーに入った美味しそうなハンバーグをお皿に乗せてもらったヴィータちゃんは、「しょ、しょうがねーな」と言って見事に買収されてしまった。偉大なるはロッテさんの美味しい手料理か。
「はい、はやてにもおすそ分け」
椅子に座る皆にハンバーグを配っていたアリアさんが、私の方にやって来てお皿にハンバーグを乗せてくれる。うーん、美味しい料理をもらえるのは嬉しいんだけど、いつももらいっぱなしだからなぁ。たまにはこっちからもおすそ分けしてみるか。
「それでは、こちらからもお返しとしてシャマルさん特製の四角いミートボール(?)を──」
『丁重にお断りします』
にべもなく全員に敬語でお断りされてしまった。
「あなた達わりと失礼よね」
シャマルさんがプンスカと怒っている。しかし残念だ。これを食べれば気分爽快、元気百倍になるというのに。まあいい、シャマルさんの料理はいつか食べさせるとして、今は食事の挨拶を済ませよう。
「それでは準備も出来たようですし、いただきましょうか」
皆そろってお手を合わせて、
『いただきます!』
「いただきました」
私に合わせて皆が挨拶し、一斉に箸を動かして料理を口に運び始める。わずか一週間の間にグレアムさん達は箸に慣れてしまったらしく、純日本人の私と遜色がないほどに器用に食べ物を掴んで食べている。
ヴォルケンリッターの皆ともそれなりに打ち解けてきたようで、始めの頃は無言だった食卓も、今では談笑の花が咲くようになった。特に、シャマルさんとロッテさんがよく話す。耳を傾けてみると、料理関係の話で盛り上がっているようだ。
それと、意外なことにシグナムさんとグレアムさんの仲も良好だ。なにやら波長が合ったらしく、軽く言葉を交わしては楽しそうに笑い合っている。
こうして見ると、こうやってグレアムさん達を交えて食事をするというのも悪くはない気がするな。最近ではおすそ分けの料理を楽しみにしている節も見られるし、なんだかんだ言って皆はグレアムさん達を受け入れている。他者とあまりコミュニケーションを取ろうとしない皆(シグナムさんを除く)には良い刺激となっているみたいだ。これを機に、半引きこもりのリインさんが多少にでも外に興味を持ってくれたらいいんだけど。彼女、他の皆と違って私の病院の付き添い以外では全く外に出ないし。俗世などに興味は無いとか言ってるけど、きっと面倒くさいだけなんだろうな。そのうち外に出たら負けでござるとか言い出しそうだ。
「ああそうそう、はやて君に言っておくことがあったのだった」
箸を動かしながら考え事をしていると、お茶でノドを潤したグレアムさんが私に向き直る。……グレアムさんのこのイタズラ顔を見るに、ろくな話ではない気がするな。今度は何をしようというんだよ。
「……何でしょうか?」
「はやて君の転入手続き、済ませておいたから。四月にはなのは君達と同じ学校に通えるぞ」
あっさりと口にしたそのセリフに、思わずポカンと口を開けて呆けてしまう。いや、転入手続きって、確かに任せてはいたけどさ……
「早すぎませんか? まだ四月に確実に学校に通えるくらいに回復するって決まったわけじゃありませんし。というか、聖祥学園は小学校から大学までのエスカレータ式の私立学校ですからそれなりの学力が求められるわけで、当然転入試験もあるはずです。試験も受けず、そんな簡単に転入出来るとは思えませんが」
私の当然の疑問に、グレアムさんはあっけらかんとした口調で答えを返す。
「ああ、それなら問題無い。なぜなら私が聖祥学園初等部の校長に就任したからだ」
「ぶはっ!」
吹き出した。
こ、校長、就任? このロリコンが? そんなん、野原で楽しそうに飛び跳ねるウサギの群れに一匹のライオンを解き放つようなもんじゃねーか。教育委員会や学校法人はなんでこんな男を校長に選んだんだよ。貴様らの目は節穴か。
「って、ちょっと待ってください。校長になるには教員資格が必要だったり、教諭として一定期間以上教鞭を執っていなければならなかったりと、いろいろな条件があるはずじゃ?」
「はやて君は博識だなぁ。しかし、一つ大事なことを忘れている。世の中には民間人校長というものがあってな、特に資格がなくとも校長になれたりするのだよ。ま、私の場合は金に物を言わせて強引に前校長を引きずり下ろしたのだがな」
「ぶっちゃけすぎだ!」
金か。やはり世の中金なのか。腐った世の中に絶望してしまいそうだ。
「……ま、まあグレアムさんが校長になるのは百歩譲っていいとして、私が試験を受けずに転入出来るというのはなぜなんですか?」
「そんなもの決まっているではないか。金の力と校長の特権をフルに活用した結果だよ、きみぃ」
「ありがた迷惑すぎる……」
私のためを思ってやっているってのは分かるが、なんでこの人のやることはこういつも破天荒なんだろう。自重しろと小一時間問いつめたい。こんなことしなくても実力で試験突破してやるっての。
「迷惑だったかね?」
「ええ、果てしなく。ですが、好意は素直に受け取っておきます。またお金を使わせてしまいましたしね」
「なに、今回の件は私の趣味……ああいや、実は私は学校の校長になるのが密かな夢だったからな。夢が叶った喜びのおすそ分けのようなものだ。気にすることはない」
邪(よこしま)な欲望が見え隠れしているが、なにも聞かなかったことにしておこう。
「ああそうだ。四月に通えなくてもいつでも転入することが出来る手筈になっているので、リハビリは無理して進めることはないぞ。医師に従ってゆっくりと治していくといい」
「それは、至れり尽くせりですね。その……色々と、ありがとうございます」
「その一言が聞けただけで充分だよ」
グレアムさんはそう言って笑うと、再び箸を動かして食事に戻る。……この人、まるでおじいちゃんみたいな人だな。これでロリコンじゃなかったら素直に慕っているところなのだが、言っても詮無いことか。
さて、私もさっさとゴハンを胃に収めるとしようかな。
「はやて、ばいび~!」
さらに騒がしさを増した昼食を食べ終えた私達は、手を振って去っていくグレアムさん達を見送ると、再びリビングにてゴロゴロしたりゲームをしたりして午後を過ごした。夜近くになるとザフィーラさんとシグナムさんが外食すると言って出かけ、残った四人は彼女達が戻ってくるまでゲームをして過ごす。
その後、なぜかかすり傷を負って帰ってきたシグナムさんとザフィーラさんを加え、お菓子を食べながら就寝時間まで雑談。そして、11時になったところで皆で寝室に移動する。
「ゲームして、食って、寝て、またゲームする。ニート万歳って感じですね」
「正直、近所の人間の目が怖くて外に出るのに抵抗があるんだけど、あたし」
「ロリッコ、そういう時は開き直って堂々と挨拶をしてやれ。何も怖いものなどなくなるから」
「流石あだ名がニートさんのシグナムさんは言うことが違いますね」
「ふっ、よせやい。照れる」
わいわいと話しながら寝室に布団を敷いた私達は、電気を消すといつものように皆揃って布団に入る。ザフィーラさんは私とヴィータちゃんの枕となってくれている。ふわふわで実に気持ちよく眠れるのだ。
「では皆さん、おやすみなさい」
『おやすみなさい』
「む、今度はチャオズの気が消えたか」
「はいはい」
こうして、平凡で、平和で、楽しかった一日が終わる。明日になれば、また今日と同じような一日が始まることだろう。
「……」
時折、考えることがある。
今の生活は満ち足りている。遠くないうちになのはちゃん達と同じ学校にだって通えるようになる。幸せだ。
でも、なんだろうか、この気持ちは。満ち足りているのに、何か物足らない。そんな矛盾。
どこか不満げな表情をたまに浮かべていたザフィーラさんは、最近になって何か大事なものを取り戻したようにとても満足げな顔を見せるようになった。きっと、失くしていた何かを見つけることが出来たのだろう。
それじゃ、私は? 私にはその何かを見つけることが出来るんだろうか? ……分からない。
「見つかるといいなぁ……」
そんな、皆の寝息にかき消されるほどに小さな呟きが漏れた。
──二時間後。
「グッ……暴れるな……いかん、私の身の内に封じ込めていた化け物が、再び外に出ようと……ぐあっ!」
「お前の場合シャレになってねーから止めろ」
リインさんの発作でなかなか眠れませんでした。
あとがき
次回から時間の流れが速くなります。