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No.17066の一覧
[0] 【ネタ・ギャグ】まったりヴォルケンズ(はやて憑依、原作知識無し)[ネコスキー](2011/01/03 22:37)
[1] プロローグ[ネコスキー](2010/06/11 16:05)
[2] 一話[ネコスキー](2011/01/03 22:50)
[3] 二話[ネコスキー](2011/03/25 20:37)
[4] 三話[ネコスキー](2010/06/24 11:14)
[5] 四話[ネコスキー](2010/06/01 12:16)
[6] 五話[ネコスキー](2011/01/03 22:52)
[7] 六話[ネコスキー](2010/08/15 00:07)
[8] 七話[ネコスキー](2011/01/03 22:54)
[9] 八話[ネコスキー](2011/03/27 03:52)
[10] 九話[ネコスキー](2011/01/03 22:57)
[11] 十話[ネコスキー](2010/08/15 00:13)
[12] 十一話[ネコスキー](2010/08/15 00:14)
[13] 十二話[ネコスキー](2010/08/15 00:15)
[14] 十三話[ネコスキー](2011/01/03 23:01)
[15] 十四話[ネコスキー](2011/01/03 23:02)
[16] 十五話[ネコスキー](2011/01/03 23:06)
[17] 番外編 一話[ネコスキー](2010/08/05 14:33)
[18] 番外編 二話[ネコスキー](2010/08/15 01:23)
[19] 十六話[ネコスキー](2010/08/05 14:40)
[20] 十七話[ネコスキー](2010/08/05 14:41)
[21] 十八話[ネコスキー](2010/08/05 14:43)
[22] 十九話[ネコスキー](2010/08/05 14:45)
[23] 二十話[ネコスキー](2010/08/05 14:46)
[24] 二十一話[ネコスキー](2010/08/05 14:50)
[25] 二十二話[ネコスキー](2010/08/05 14:53)
[26] 番外編 三話[ネコスキー](2010/08/05 14:58)
[27] 番外編 四話[ネコスキー](2010/08/05 15:00)
[28] 二十三話[ネコスキー](2010/08/05 15:02)
[29] 二十四話[ネコスキー](2010/08/05 15:04)
[30] 二十五話[ネコスキー](2010/08/15 00:04)
[31] 二十六話[ネコスキー](2010/08/21 02:47)
[32] 二十七話[ネコスキー](2010/08/14 23:56)
[33] 二十八話[ネコスキー](2010/08/15 00:02)
[34] 二十九話[ネコスキー](2010/08/15 00:24)
[35] 三十話[ネコスキー](2010/08/15 00:34)
[36] 三十一話[ネコスキー](2010/08/15 00:40)
[37] 三十二話[ネコスキー](2010/08/15 00:47)
[38] 三十三話[ネコスキー](2010/08/15 00:53)
[39] 三十四話[ネコスキー](2010/08/15 00:59)
[40] 三十五話[ネコスキー](2010/08/15 01:05)
[41] 三十六話[ネコスキー](2010/08/15 01:08)
[42] 三十七話[ネコスキー](2010/08/15 01:12)
[43] 外伝 『賭博黙示録ハヤテ』[ネコスキー](2010/08/15 01:14)
[44] 番外編 五話[ネコスキー](2010/08/15 01:24)
[45] 番外編 六話[ネコスキー](2010/08/15 01:20)
[46] 三十八話[ネコスキー](2010/08/15 01:27)
[47] 三十九話[ネコスキー](2010/08/15 01:32)
[48] 外伝 『とあるオリ主の軌跡』[ネコスキー](2010/08/15 01:33)
[49] 四十話[ネコスキー](2010/08/15 01:37)
[50] 外伝 『シグナム観察日記』[ネコスキー](2010/08/15 01:49)
[51] 四十一話[ネコスキー](2010/08/15 01:56)
[52] 四十二話[ネコスキー](2010/08/15 02:01)
[53] 四十三話[ネコスキー](2010/08/15 02:05)
[54] 四十四話[ネコスキー](2010/08/15 02:06)
[55] 四十五話[ネコスキー](2010/08/15 02:10)
[56] 四十六話[ネコスキー](2010/08/15 02:12)
[57] 外伝 『漢(おとこ)達の戦い』[ネコスキー](2010/08/15 02:15)
[58] 四十七話[ネコスキー](2010/08/15 02:18)
[59] 四十八話[ネコスキー](2010/06/08 22:47)
[60] 外伝 『とあるオリ主の軌跡2』[ネコスキー](2010/06/12 16:11)
[61] 四十九話[ネコスキー](2010/06/13 15:18)
[62] 五十話[ネコスキー](2010/06/19 23:30)
[63] 五十一話[ネコスキー](2010/08/15 02:24)
[64] 五十二話[ネコスキー](2010/08/15 02:32)
[65] 五十三話[ネコスキー](2010/08/15 02:33)
[66] 五十四話[ネコスキー](2010/08/15 02:39)
[67] 五十五話[ネコスキー](2010/07/01 12:48)
[68] 五十六話[ネコスキー](2010/07/04 14:42)
[69] 外伝 『とあるオリ主の軌跡3』[ネコスキー](2010/08/15 02:45)
[70] 外伝 『とあるオリ主の軌跡4』[ネコスキー](2010/07/21 14:38)
[71] 外伝 『それほど遠くない未来のとある一日』[ネコスキー](2010/08/05 14:51)
[72] 五十七話[ネコスキー](2010/08/15 02:48)
[73] 五十八話[ネコスキー](2010/08/05 14:07)
[74] 五十九話[ネコスキー](2010/08/06 17:11)
[75] 六十話[ネコスキー](2010/08/11 15:05)
[76] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その一』[ネコスキー](2010/08/15 02:54)
[77] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その二』[ネコスキー](2010/08/24 17:29)
[78] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その三』[ネコスキー](2010/08/30 13:06)
[79] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その四』[ネコスキー](2010/08/22 22:41)
[80] 六十一話[ネコスキー](2010/08/24 18:46)
[81] 六十二話[ネコスキー](2010/08/30 13:04)
[82] 外伝 『こんな感じでした』[ネコスキー](2010/09/02 14:29)
[83] 六十三話[ネコスキー](2011/01/03 23:08)
[84] 六十四話[ネコスキー](2010/09/05 22:46)
[85] 外伝 『ザフィーラと狼と弁当と』[ネコスキー](2010/09/12 22:36)
[86] 六十五話[ネコスキー](2010/09/18 13:28)
[87] 六十六話[ネコスキー](2010/11/11 22:55)
[88] 外伝 『バレンタイン』[ネコスキー](2010/11/12 12:49)
[89] 六十七話[ネコスキー](2011/01/03 23:54)
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[17066] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その三』
Name: ネコスキー◆bea0226c ID:54a50290 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/30 13:06
五月十日。

異変はその日から始まった。

(はやての様子がおかしい……)

昨夜、枕を涙で濡らすはやてにこっそり添い寝して朝方に離脱したロッテは頭をひねる。

昨日まではいつも通りのはやてだった。朝起きて朝食を作って食べ、掃除洗濯を午前中に終わらせてから昼食を済ませ、昼間から夕方にかけてはマンガを読んだりゲームをしたりして過ごし、夕食を食べた後は勉強をして次に入浴、その後にちょっと遊んで就寝。はやての日常はこれの繰り返しだった。

だが、今日のはやてはどこか変だ。いや、どこかと言うか全てがおかしい。

まず朝。起床したはやてはベッド脇に置かれた鏡を見るなり二度寝をしてしまった。いつもならそんなことはしないで必ず一回で起きるのに。

それだけではない。二度寝から起きたはやては、まるで足が動かないことを知らないかのようにベッドから降りようとして地面に落下した。さらに、まるで試運転をするかのように室内で車椅子を乗り回したり、いきなりマンガ読み耽ったり、家探しするかのように部屋中を漁ったりと、意味不明の行動を取り続けた。

クローゼットの中に隠れてこっそり着替えを覗こうとしていたロッテがそれを見た時は、どこかに頭でもぶつけたか? と不安になってしまった。

ロッテは不安になって一日中はやてを近くで観察していたが、はやての異変は留まるところを知らなかった。なんと、はやてはその一日をポテチかじりながらマンガを読むだけで過ごしてしまったのだ。こんなことは今まであり得なかった。

その翌日もロッテの驚愕は続いた。ようやくまともな食事を取るかと思いきや、棚に置いてあった乾パンをボリボリ貪るわ、冷蔵庫を物色しておもむろに食材をポリ袋にブチ込むわ、突如外に出かけたかと思えば雄叫びを上げながら道路を爆走して警官に補導されるわと、奇行の連続だった。

(様子がおかしいなんてもんじゃない。たまに意味不明な独り言呟いたりするし、まるで別人みたいだ)

交番から家に帰ってすぐに寝たはやての寝姿を窓の隙間から眺めながら、ロッテは考えを巡らせる。何が原因ではやてがこんなふうになってしまったのか。どうすれば元に戻るのか。

(ん、別人?……でも、そんなまさか……)

ロッテの頭の中に、とある一つの答えが浮上した。それは、今のこの状況を説明するにはピッタリな、しかし、それが本当であったならばあまりにも残酷な答え。

それは──

『ロッテ、お疲れ様。交代に来たわ』

と、そこに現れたのはネコの姿に変身したアリア。なにやらひどくご機嫌な様子だ。

『ああ、アリア。……また寿司食べてきたでしょ』

『ふふー、ご名答。監視前に食べるのが癖になっちゃって』

一度寿司屋を訪れてからというもの、アリアはロッテ同様に寿司にハマりにハマってしまい、最近は監視に来ているというより寿司を食べに地球に訪れているといった感じになってしまっている。ちなみにアリアの好物はイクラと中トロ。これは譲れないらしい。

『ああ、帰りにまた寄ろうかしら……って、どうしたのロッテ。なんだか様子がおかしいわよ?』

イクラのプチプチ感を思い出して悦に浸っていたアリアは、目の前に居る双子が常と違って覇気が無いことに気付く。いつものこの時間帯のロッテだったら寝ているはやての姿にハァハァしているはずなのに、今日はいやに大人しい。

『落ちてたガムでも拾って食べたの?』

『ひっかくよ』

『冗談よ。でも本当にどうしたの? もしかしてはやてに何かあったとか?』

『あー、何かあったと言えばあったんだけど。……変わった? うーん、どう言えばいいもんかな……』

『?』

今この場ではやての現状を説明したとしてもアリアには何がなんだか分からないだろう。というか、自分も何がなんだか分からないのだ。一応予想は立てたけど、まだ確証は持てていないから今言うのもはばかられる。

となれば……

『ま、明日からのはやての行動見てれば分かるよ』

百聞は一見にしかず。口で説明するより今のはやてを実際に見てもらった方が分かりやすいだろう。というより、はやての奇行の数々を口で言ってもなかなか信じられないだろうし。爆走したり、風呂に頭から突っ込んだり、地面にキスしたり。

『どういうこと?』

『だからそのまんまだって。じゃ、アタシ帰るから後よろしく』

頭に疑問符を浮かべるアリアをその場に残し、ロッテは暗闇に紛れるようにその姿を消した。アリアはその背中を黙って見送り、緩んだ気を引き締めて監視任務を引き継ぐことにする。が、やはり先ほどのロッテの言葉が気になるのか、しきりに首をかしげている。

(まあ、明日になれば分かるかな?)

輝く月の下、アリアは寿司の味を思い出してニヤニヤしながら監視を続けたという。






その三日後の昼過ぎ頃。ロッテが再び監視のために海鳴にやって来た。

(さてさて、アリアの奴どんな感想持ったかな?)

人間形態のロッテは長年の監視生活ですでに見慣れた街並みを歩きながら、今も監視を続けているだろうアリアの下へと向かう。当然寿司屋には寄っている。

(余は満腹じゃ……ん?)

お腹をさすりながら歩くこと十数分。ロッテは八神家に到着した、が、そこで彼女は驚きの光景を目にすることになる。

「おいで~、怖くないよ」

「……カ~!」

なんか、アリアが監視対象に見付かってる……

「待てっ、この……オーラバースト!」

ドゴッ!

「ニャガッ!?」

「あっ、サーセン」

しかも、車椅子に轢かれて気絶したあげく、その後どこかに連行されてしまった。おそらくは動物病院にでも連れて行かれるのだろうが……

(おいおい。使い魔が車椅子にはねられて気絶とか、プッ、ククク……)

アリアの思わぬ失態に激怒するでもなく、ロッテはこれをネタにアリアをからかおうと画策しつつはやての後を付け始める。ロッテはこういう性格であった。


──二十分後。


ロッテの予想通り、はやてはアリアを近くの動物病院まで運んでどこかに去った。アリアを回収するためにはやてを付けていたロッテは、家に戻ると思っていたはやてが別の方向に進む姿を見て尾行を続けるべきか一瞬迷ったが、なんか今のはやてなら大抵の危機は自分で何とかしてしまいそうな気がしたので、アリアの回収を優先することにした。

アリアが運ばれた動物病院に入ったロッテは、ネコの姿のアリアの特徴を受付の人間に伝え、もしかしてここに運ばれていないかと質問する。それを受けた受付の女性は、たった今運ばれたばかりですよ、と返し、ロッテを奥の部屋に案内した。

通された部屋で若い女性獣医と意識を取り戻したばかりのアリアの姿を目にしたロッテは、自身がそのネコの飼い主であると説明し、獣医からアリアを預かる。

「いやー、すいませんでした。この子しょっちゅう遠くに行っては人に迷惑ばっか掛けるんですよ。ホントすいませんでした。ほら、あんたも謝る」

「……にゃー」

「いえいえ、飼い主が見付かって本当に良かったです。でも首輪は付けておいた方がいいですよ? 野良猫と間違われてしまいますから」

「ええ、気を付けます。それじゃ、失礼させてもらいます」

「はい、さようなら」

部屋を出て受付の女性にも挨拶をしたロッテは、うな垂れるアリアを腕に抱えたまま動物病院を後にする。

「…………」

「…………」

そうして、そのまま少しの間目的も無く歩いていたのだが、しばらくするとロッテが立ち止まって、肩をプルプル振るわせたかと思うと──

「プッ……アハハハッ! ダメ、もう耐えらんない。無理、無~理~。ク、クク、お腹痛い。歴戦の勇士の使い魔が、車椅子に轢かれて気絶! アハ、アハハハハ!……げほっ、げほっ。ひー、アリアはアタシを笑い殺す気か」

これ以上ないほどの大爆笑。いい恥をかいてしまったアリアは、ロッテの腕の中で羞恥に身を縮こまらせながらも反論を試みる。

『し、仕方ないじゃない。まさかはやてが追い掛けてくるとは思わなかったし、車椅子にあんな機能があるなんて知らなかったし、それに、隠れてたのが見付かって気が動転してたし……ちょっと、それ以上笑うならひっかくわよ。あと声出すな』

『こいつは失敬。いやー、でも笑わせてもらったわ。映像記録に残しとけばよかったよ。父様にも見せたかったのに』

『そんなことしたら父様にからかわれるのが目に見えてるじゃない。勘弁してちょうだい』

ひとしきり笑ったロッテは、そろそろ本題に入るべく笑みを引っ込め、腕に抱えたアリアを見下ろして質問する。

『ふぅ……さて、んじゃ真面目な話に入るよ。この三日間はやてを監視してて、アリアはどう思った?』

真上からの問いにアリアは、やはり来たか、と視線を上げてロッテの顔を見上げる。ちなみにアリアは、抱えられたままでは格好がつかないので離れようとしたものの、なぜかロッテが放してくれないのでそのまま会話することを余儀なくされている。

『そうね、あなたがこの前言っていたように、変わった、というのが私が最初に持った感想かしら。それで、三日間監視してまた別の考えを持ったんだけど、これはあなたも考えたんじゃない?』

そう前置きしたアリアは、きっとロッテも同じ結論に至ったのだろう、とそんな確信を持った目で双子の顔を見上げながら念話を送る。

『二重人格。ハッキリ言ってこれ以外ではやての現状を説明出来るものってないんじゃないかしら』

『……だよね。それしかないよね』

そう小さく呟いたロッテは、アリアの身体をぎゅっと抱き締めて顔を伏せる。アリアの「むぎゅっ」という悲鳴に気付かず、強く体を掻き抱いてはやてを想う。

二重人格による人格交代。アリアの言うように、今のはやての状態を言い表すのにこれ以外は考えられない。だが、その原因は何なのか? なぜこんなことになってしまったのか?

ロッテは考えて、答えを見つけた。いや、考えるまでもなく分かっていたことなのだ。しかし、認めたくなかった。なぜなら、認めてしまえば自分達が今のはやてを生み出した原因ということになってしまうのだから。

二重人格、いわゆる解離性同一性障害と言うのは、往々にして幼児期の心的外傷や強いストレスが原因で引き起こされる。自我を守るために、苦痛から逃れるために別の人格を生み出し、その人格に苦痛を肩代わりしてもらうのだ。高度な現実逃避とも言われている。

では、はやてのその苦痛とは何か?

(決まってる。「孤独」だ。両親を失った小さな女の子がたった一人で暮らして、他者ともほとんど交流することなく一日の大半を無言で過ごしている。これが苦痛でないはずがないんだ)

ロッテは下唇を血が出るほどに噛み締める。自分達の自己満足とも呼べる非道な行いによって、はやてがこれまでどれほど苦しんできたのかを具体的な形を伴って見せ付けられたのだ。まるで心臓に剣を突き立てられたかのような痛みがロッテを襲った。

(ごめんね。ごめんね、はやて。こんなに、現実から逃げたくなるほどに辛かったんだね)

ロッテの頬を涙が伝う。いけない、とロッテは思う。はやてが辛いということを自分は知っていたはずだ。夜に泣いている姿も何度も見て、それでも何もしてこなかったのだ(添い寝はしたが)。そんな自分が泣いていいわけがない。泣く資格なんて無い。なのに……涙が止まらない。

(ロッテ……)

真上から聞こえる嗚咽と落ちてくる水滴に、アリアは返す言葉を持たない。なにより、ロッテほどではないにしろ、自分達の行いの結果に自身も少なからずショックを受けていたのだ。ロッテを慰めるだけの余裕は無かった。

そうして無言の時が過ぎ、やがて、落ち着きを取り戻したロッテがポツリとアリアに呟いた。

『ねえ、アタシ達これからどうすればいいのかな』

ロッテに抱きかかえられたままのアリアは、前方を見ながら淡々と答える。

『……何も変わりは無いわ。人格が変わったとはいえあの子が闇の書の主であることに変わりは無い。いつも通り、これからも監視を続けていくだけよ』

その答えが帰ってくる事を予想していたのか、ロッテは気落ちするでもなく、そう、と呟くのみ。

『あの子、家事全般が出来なくなってるみたいなんだよね。どうしよっか。またアタシが一から教える?』

『その心配はいらないと思うわ。監視してて分かったんだけど、今のはやてはなんだか凄くバイタリティがあるのよ。まあ、元が元だからそうなのかもしれないけど。食事も弁当が主だけど栄養補助食品とかでそれなりに栄養バランス整えてるみたいだし、あの子、放っておいても自分でなんとかしそうな感じよ』

それに、とアリアは言葉を続ける。

『あの子の前に立ってもう一度同じ事教えるの、辛いでしょう?』

『……うん』

そのアリアの言葉に、ロッテは小さく頷く。

そう、辛い。まるで過去の自分が丸ごと否定されたみたいに。今でさえ泣きそうなほどなのだ。実際にはやての前に立ったら泣いてしまうかもしれない。

でも、いつまでもこんな調子ではいられない。これからも監視は続くし、また昔のようにはやてが命の危険に晒されるかもしれないのだ。しっかりと気を引き締めねば。

「あ、そうだ。はやてだ」

と、そこでやっとはやての現在の所在が分からない事に思い至る。

『アタシ、はやて探してそのまま監視に入るわ。アリアはもう帰っていいよ』

そう念話で伝えたロッテは、抱えていたアリアを地面に降ろしてはやてを探すために歩き去ろうとする。やっと地面に降りられたアリアは、そのロッテの背中に一声。

『しっかりね』

『……うん、分かってる』

アリアの激励を受けたロッテは心の中でお礼を言い、頬を両手でパンッと叩いて己に気合を入れると、はやての姿を求めてその場を去るのであった。







はやてに異変が起きた後も、ロッテとアリアの監視生活に大きな変化は無かった。

交代で八神家に張り付き、怪しげな人物がはやてに近づかないように注意したり、変身魔法で顔を変えてグレアムからのプレゼントを配達したり、寿司を食べて頬を緩めたりと、今までの監視生活とほとんど変わらぬ行動を取って来た。

ただ、監視生活に変化は無いが、はやての周囲に変化が起きた。それは……



「ねえねえ、ハヤテちゃんって好きな人とか居る?」

「それはアタシも気になるわね。教えなさいよ」

「あ、気になる気になる。私も知りたい」

「好きな人ですか? もちろん居ますよ」

「ど、どんな人!? 名前は?」

「えーと、あゆあゆに、名雪ちゃんに、真琴ちゃんに、観鈴ちん、風子ちゃん、渚ちゃん、智代ちゃん、鈴ちゃん、乙女さん、なごみん、カニっち、揚羽様、純夏ちゃん、冥夜ちゃん、エルルゥちゃん、アルルゥちゃん、セイバーたん、音夢ちゃん、ことりちゃん、キキョウちゃんとスミレちゃん、雪子ちゃん、妙子ちゃん、きらりちゃん、絵里ちゃん、めぐみちゃん、せなちゃん、春花ちゃん、準ちゃん、景ちゃん、ヨウコちゃん、たま姉、まだまだ居ますよ。水月ちゃん、美月ちゃん、朝美ちゃん、麗南ちゃん──」

「止まりなさい、ハヤテ。誰もあんたの脳内嫁なんて聞いちゃいないわよ」

「というか、今四歳の子の名前が……」

「何を言ってるんです? すべて十八歳以上に決まってるじゃないですか」

「そうだよねー、十八歳以上だよね」

「流石なのはちゃん。分かってらっしゃる」

「ちなみに私の頭の中のお嫁さんは──」

「シャラップ」



はやてに、三人の友達が出来た。

本来ならばそれはあり得ないはずの出来事。なぜなら、グレアムからリーゼ姉妹に命令が下っていたからだ。はやてと深い関係を持つ人間を作らせるな。もしそういった人間が出来そうならば遠ざけろ、と。

だが、現にはやては三人の友を得た。これが意味するもの、それは……

『あー、はやて、楽しそうだね。アタシも混ざりたいなぁ』

『そうね。でも自重なさい』

『なんだよー、アリアははやてと遊びたくないって言うのー?』

『そんなことはないわよ。でも、あの輪の中に入っても一瞬で置いてけぼりにされる気がするのよね』

『ま、まあそれは確かに。……でもさあ、アリア』

『何よ』

『父様に相談して良かったよね。まさか、友達作るのを許可してくれるとは思わなかったな』

『父様も鬼じゃないってことよ。それに、人格変わるくらいにはやてが辛い思いをしてたなんて知ったら、流石に考えも変わるでしょうよ』

グレアムの心変わり。はやての異変によってもたらされたものは、なにも悪い事だけではなかった。リーゼ姉妹からはやての異変を(やや誇張表現ありで)聞かされたグレアムは、二人の説得の甲斐もあって、はやてが友人を作ることに許可を出したのだ。

丁度良い事に、その矢先にはやてと気の合いそうな少女達が彼女と邂逅を果たしたので、リーゼ姉妹はその日からその少女達とはやてが街中で頻繁に出会うように誘導し、仲良くさせようと陰ながらひたすら奮闘した。

そしてその結果が、リーゼ姉妹の見つめる先で笑い合う少女達というわけだ。

『あの気の合い様だったらアタシ達が何もしなくてもそのうち仲良くなってたかもね』

『そうね。それでも、あの笑顔を見てると私達のやった事は無駄じゃなかったって思えるわね』

『うん。人格変わってからのはやては気丈に見えたけど、やっぱりどこか寂しそうだったからね。でも、友達が出来てからは良い顔で笑うようになった』

『ふふ、あなたも胸のつかえが無くなったみたいに良い顔してるわよ』

『そりゃ、まあね。……そういや、あの三人の子の中の一人、やけに大きな魔力持ってるよね。出身世界も父様と同じだし、なんだか昔の父様を見てるみたい』

『ああ、最初見た時は驚いたわね。まあ、今ははやての害になるとは思えないからいいけど』

『うん、ずっとはやてのいい友達でいてくれたらいいんだけどね……あ、そろそろアタシ戻るわ。後よろー』

『ええ、任されたわ』

はやてに異変が起きた当初は慌てたものの、今ではこれで良かったのではないかとリーゼ姉妹は思っている。

辛い現実から逃れるために、はやては別の人格を生み出して自分の全てをその人格に委ねた。新たな人格はすぐにはやての置かれた境遇に慣れ、それなりに充実した日々を送ってきた。さらに、友人が出来てからは本当に楽しそうに笑うようになった。

人格が変わっても八神はやては八神はやて。なら、今のはやても以前のはやてとなんの違いがあろうか。そう前向きに捉えることにしたのだ。

(でも、いつかはあの子達に別れの時が訪れる。出来れば、もう少し先であってほしいけど……)

喫茶店で会話に花を咲かせる少女達を陰から見つめながらアリアは願う。闇の書の起動がまだまだ先でありますようにと。あの少女達の笑顔がもう少し続きますようにと。

そんな、儚い願いを。






(……っ! 来た、か。無駄な願いだったかしらね)

時は六月四日、午前零時。ついに闇の書の起動、はやての覚醒の時が訪れた。

予兆はあった。昼間、はやてが今まで見向きもしなかった闇の書に興味を示した時は、なんとなく今日、明日辺りに来るんじゃないかなー? とアリアは第六感を働かせたものだ。

……まあ、はやてが闇の書を燃やそうとしたり、鈍器で叩いたり、煮たり、切ったり、車椅子で轢いたり、川に捨てた時は肝を冷やしたが。

(でも、とうとう来た。これで、守護プログラム達による魔力蒐集が始まる)

ネコの姿のアリアは塀の上で八神家内部から発せられる魔力反応に身震いしながら、これから自分達が行うべき任務を脳内で反芻する。

まずは蒐集を静観。次に、おそらくは介入してくるであろう管理局の捜査の妨害。蒐集が大詰めに入ったならば守護プログラム達を襲いその魔力を闇の書の糧とする。そして最後は、暴走を開始した直後に──

(はやてごと、凍結封印……)

もうこれは決定事項。それに、たとえ自分達が手を下さなくとも暴走を開始したならば、遅かれ早かれはやては管理局の次元空間航行艦船の砲撃で闇の書もろとも消滅してしまう。それならばいっそ自分達の手で葬ってあげるべきだ。

そうは思うものの、やはり長い間成長を見守って来た少女を手にかけるのは辛いものがある。

「はぁ……」

近いうちに起こる嫌な未来を想像し、アリアは我知らずため息をこぼす。と、そこに……

「アリア! この魔力反応、これって……」

「ロッテ……ああ、丁度交代の時間だったわね。ええ、あなたの想像通り、とうとう闇の書が起動するのよ」

アリアと同じくネコの姿のロッテが現れた。ロッテは今のアリアの言葉を聞き、クッ、と呻くと、八神家を正面に見据えてイヤホンを装着する。

「思ったより早かったね」

すでにイヤホンを装着していたアリアは、その言葉に小さく笑みを漏らす。

「そう思うのはあなたがはやてを大事に思っているからよ。実際にはいつ起動してもおかしくない時期に入っていたもの」

「……そうだったね」

「それより、今は守護プログラム達とはやての会話に集中しましょう。何か重大な情報を漏らすとも限らないし」

「流石にあいつらが出現したんじゃ迂闊に近づけないから、これ(盗聴器)の存在はありがたいよね」

そんな言葉を交わしながら、二人はスイッチを入れて内部の会話の盗聴を試みる。丁度闇の書が置かれていた部屋に盗聴器が仕掛けられているから聞き取れるはず、と意識を耳に集中するリーゼ姉妹。

声が聞こえてくる。鮮明な声が。

だが……



《む、言語回路にバグがあるようだ。でもまあいいっしょ。気にしない気にしない》

《我は盾の守護獣、ザフィーラ!……特技は、お手……伏せ……あとちんちん》

《血が飲みたいわ。はらわたをぶちまけましょうかしら》

《本当になんなんだよ、もうっ!》



そこから聞こえてくる音声は、なんだか予想してたのよりはるか上をぶっ飛んでいた……

「…………」

「…………」

二人同時に顔を見合わせたリーゼ姉妹は、一旦イヤホンのスイッチを切って深呼吸。ああ、空気がおいしい、と寒々しく笑い合った二人は、お互いの肩を肉球でポフポフすると、フェイントをつけるかのように勢いよくイヤホンのスイッチに手を伸ばす。



《あ、その前になんか飲み物もらっていいすか? 喉乾いちゃって》

《お前もう黙ってろ!》

《私も欲しいわぁ。赤いのが》

《お前も黙ってろ! あたしが全部説明するから!》

《我が名は……ザフィーラ! 特技は──》

《それはもういいっ!》



フッ、と笑ったロッテは、一拍置いてから空に向かって高らかに叫ぶ。

「なんなんだよ、これはぁーっ!?」

「ちょ、ロッテ、気持ちは分かるけど落ち着いて。聞こえちゃうから、ばれちゃうから」

思わずイヤホンを地面に叩きつけて叫ぶロッテをアリアはいさめるが、自分も叫びたい気持ちでいっぱいだった。

先ほどの守護プログラムのセリフではないが、本当になんなんだこれは。あり得ないだろう。これが守護プログラム? ふざけてるのかと言いたい。

「ああ、もう、あぁーっ!?」

「ちょ、アリア、アタシが悪かったから落ち着いて。聞こえちゃうから、ばれちゃうから」

抑えきれずについ叫んでイヤホンを地面に叩きつけてしまったアリアは、ハッと正気に返ると、落としたイヤホンをロッテの分も一緒に拾って再び塀に登る。その行動で幾分か気持ちは落ち着いたが、動揺は抑えきれていない。

「なに? なんなのこれは? 新手のドッキリ? 仕掛け人ははやて?」

「いや、だから落ち着きなって。なんで普段クールぶってるアリアの方が錯乱してるのさ」

その言葉にアリアは、いけないいけない、ビークールビークール、と再び深呼吸をして、ようやく落ち着きを取り戻す事に成功する。

「しっかし、確かにこれはおかしいよね。なんだろ、バグでも発生したのかな?」

「うーん、それはあるかもしれないわね。昼間にはやて、闇の書に色々と無茶やってたし。煮たり焼いたり」

「うぇ、マジ?……でもさ、仮にもロストロギアである闇の書にそんなことで影響を与えられるもんなの?」

「実際にあんなことになってるんだから、そういうことなんじゃないかしら」

うーん、としばらく腕を組んで考えていたリーゼ姉妹だったが、ここで考えていてもハッキリとした答えが分かるもんじゃない、という答えに辿りついたので、二人はまたイヤホンを装着して会話を聞こうとする。

が、スイッチに手をやったところでピタリと静止し、二人は視線を交差させてゴクリと盛大に喉を鳴らす。

「……正直、あいつらの声を聞くのが怖いんだけど」

「同感ね。またあんな狂った会話聞いてしまったら、今度こそイヤホン破壊してしまいそうだわ」

「でも聞くしかないんだよね」

「少しでも情報を得るためにはね」

ハァ、と二人揃って大きく息を吐くと、愛くるしいネコ目をカッと大きく開き、神よ我らを救いたまえ、とばかりに悲壮な覚悟を持ってスイッチに触れ……

スイッチ、オン。



《で、あなた達はこれからどうするんですか?》

《そりゃもちろん、魔力持ちの人間から蒐集を──》

《はい、ダメ。許しませんよ、そんなの》

《なんで!?》

《私は今の状態が気に入ってるんです。トラブルを持ちこまれるのは迷惑です》

《そんな……それじゃ、あたしらの存在意義が……》

《今回は運が悪かったと思ってください》



そこまで聞いたリーゼ姉妹は、やはり一旦イヤホンのスイッチを切って深呼吸。やれやれ、困ったもんだねまったく、といったジェスチャーを取った二人は、おもむろにイヤホンに手を伸ばしスイッチオン。



《ええ、これから一緒にこの家で暮らしましょう。なあに、存在意義なんてこれから探せばいいんですよ。戦いばかりの人生なんてつまらないでしょう?》



『そうきたか!』


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