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No.17066の一覧
[0] 【ネタ・ギャグ】まったりヴォルケンズ(はやて憑依、原作知識無し)[ネコスキー](2011/01/03 22:37)
[1] プロローグ[ネコスキー](2010/06/11 16:05)
[2] 一話[ネコスキー](2011/01/03 22:50)
[3] 二話[ネコスキー](2011/03/25 20:37)
[4] 三話[ネコスキー](2010/06/24 11:14)
[5] 四話[ネコスキー](2010/06/01 12:16)
[6] 五話[ネコスキー](2011/01/03 22:52)
[7] 六話[ネコスキー](2010/08/15 00:07)
[8] 七話[ネコスキー](2011/01/03 22:54)
[9] 八話[ネコスキー](2011/03/27 03:52)
[10] 九話[ネコスキー](2011/01/03 22:57)
[11] 十話[ネコスキー](2010/08/15 00:13)
[12] 十一話[ネコスキー](2010/08/15 00:14)
[13] 十二話[ネコスキー](2010/08/15 00:15)
[14] 十三話[ネコスキー](2011/01/03 23:01)
[15] 十四話[ネコスキー](2011/01/03 23:02)
[16] 十五話[ネコスキー](2011/01/03 23:06)
[17] 番外編 一話[ネコスキー](2010/08/05 14:33)
[18] 番外編 二話[ネコスキー](2010/08/15 01:23)
[19] 十六話[ネコスキー](2010/08/05 14:40)
[20] 十七話[ネコスキー](2010/08/05 14:41)
[21] 十八話[ネコスキー](2010/08/05 14:43)
[22] 十九話[ネコスキー](2010/08/05 14:45)
[23] 二十話[ネコスキー](2010/08/05 14:46)
[24] 二十一話[ネコスキー](2010/08/05 14:50)
[25] 二十二話[ネコスキー](2010/08/05 14:53)
[26] 番外編 三話[ネコスキー](2010/08/05 14:58)
[27] 番外編 四話[ネコスキー](2010/08/05 15:00)
[28] 二十三話[ネコスキー](2010/08/05 15:02)
[29] 二十四話[ネコスキー](2010/08/05 15:04)
[30] 二十五話[ネコスキー](2010/08/15 00:04)
[31] 二十六話[ネコスキー](2010/08/21 02:47)
[32] 二十七話[ネコスキー](2010/08/14 23:56)
[33] 二十八話[ネコスキー](2010/08/15 00:02)
[34] 二十九話[ネコスキー](2010/08/15 00:24)
[35] 三十話[ネコスキー](2010/08/15 00:34)
[36] 三十一話[ネコスキー](2010/08/15 00:40)
[37] 三十二話[ネコスキー](2010/08/15 00:47)
[38] 三十三話[ネコスキー](2010/08/15 00:53)
[39] 三十四話[ネコスキー](2010/08/15 00:59)
[40] 三十五話[ネコスキー](2010/08/15 01:05)
[41] 三十六話[ネコスキー](2010/08/15 01:08)
[42] 三十七話[ネコスキー](2010/08/15 01:12)
[43] 外伝 『賭博黙示録ハヤテ』[ネコスキー](2010/08/15 01:14)
[44] 番外編 五話[ネコスキー](2010/08/15 01:24)
[45] 番外編 六話[ネコスキー](2010/08/15 01:20)
[46] 三十八話[ネコスキー](2010/08/15 01:27)
[47] 三十九話[ネコスキー](2010/08/15 01:32)
[48] 外伝 『とあるオリ主の軌跡』[ネコスキー](2010/08/15 01:33)
[49] 四十話[ネコスキー](2010/08/15 01:37)
[50] 外伝 『シグナム観察日記』[ネコスキー](2010/08/15 01:49)
[51] 四十一話[ネコスキー](2010/08/15 01:56)
[52] 四十二話[ネコスキー](2010/08/15 02:01)
[53] 四十三話[ネコスキー](2010/08/15 02:05)
[54] 四十四話[ネコスキー](2010/08/15 02:06)
[55] 四十五話[ネコスキー](2010/08/15 02:10)
[56] 四十六話[ネコスキー](2010/08/15 02:12)
[57] 外伝 『漢(おとこ)達の戦い』[ネコスキー](2010/08/15 02:15)
[58] 四十七話[ネコスキー](2010/08/15 02:18)
[59] 四十八話[ネコスキー](2010/06/08 22:47)
[60] 外伝 『とあるオリ主の軌跡2』[ネコスキー](2010/06/12 16:11)
[61] 四十九話[ネコスキー](2010/06/13 15:18)
[62] 五十話[ネコスキー](2010/06/19 23:30)
[63] 五十一話[ネコスキー](2010/08/15 02:24)
[64] 五十二話[ネコスキー](2010/08/15 02:32)
[65] 五十三話[ネコスキー](2010/08/15 02:33)
[66] 五十四話[ネコスキー](2010/08/15 02:39)
[67] 五十五話[ネコスキー](2010/07/01 12:48)
[68] 五十六話[ネコスキー](2010/07/04 14:42)
[69] 外伝 『とあるオリ主の軌跡3』[ネコスキー](2010/08/15 02:45)
[70] 外伝 『とあるオリ主の軌跡4』[ネコスキー](2010/07/21 14:38)
[71] 外伝 『それほど遠くない未来のとある一日』[ネコスキー](2010/08/05 14:51)
[72] 五十七話[ネコスキー](2010/08/15 02:48)
[73] 五十八話[ネコスキー](2010/08/05 14:07)
[74] 五十九話[ネコスキー](2010/08/06 17:11)
[75] 六十話[ネコスキー](2010/08/11 15:05)
[76] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その一』[ネコスキー](2010/08/15 02:54)
[77] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その二』[ネコスキー](2010/08/24 17:29)
[78] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その三』[ネコスキー](2010/08/30 13:06)
[79] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その四』[ネコスキー](2010/08/22 22:41)
[80] 六十一話[ネコスキー](2010/08/24 18:46)
[81] 六十二話[ネコスキー](2010/08/30 13:04)
[82] 外伝 『こんな感じでした』[ネコスキー](2010/09/02 14:29)
[83] 六十三話[ネコスキー](2011/01/03 23:08)
[84] 六十四話[ネコスキー](2010/09/05 22:46)
[85] 外伝 『ザフィーラと狼と弁当と』[ネコスキー](2010/09/12 22:36)
[86] 六十五話[ネコスキー](2010/09/18 13:28)
[87] 六十六話[ネコスキー](2010/11/11 22:55)
[88] 外伝 『バレンタイン』[ネコスキー](2010/11/12 12:49)
[89] 六十七話[ネコスキー](2011/01/03 23:54)
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[17066] 外伝 『リーゼ姉妹の監視生活 その二』
Name: ネコスキー◆bea0226c ID:54a50290 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/24 17:29
(あー、やば。食いすぎた)

満腹になるまで寿司をパクついたロッテは、お腹を押さえながら店を出ると本来の目的地に向かって歩き出した。彼女の向かう先、そこは今回の闇の書の主とその両親が住まう家。ロッテに命じられた任務はその家、及び闇の書の主を監視する事である。

(八神はやて、四歳、か)

地図と住所が書かれた紙に添付された闇の書の主の写真を見て、ロッテは罪悪感を大きくする。

写真に映る少女はまだ幼く、車椅子に乗りながらも無邪気な笑みを浮かべている。これから自分達はこんな小さな子を長い間監視し、最終的には永久凍結……殺すことになる。過去の闇の書のデータを鑑みるに、おそらくは十年も経たない内に闇の書は起動し守護プログラム達が出現することだろう。そして、蒐集が始まる。

仮に十年経っても少女はまだまだ幼い。そんな幼い少女をいつか手にかけなければならないという事実に、ロッテは暗澹(あんたん)とした気分になっていた。

(……ていうか父様はこの写真をどこで手に入れたんだろうか)

その事にも気分が滅入るロッテであった。

「ん……ここか」

足を止めてロッテが見上げた視線の先には、なかなかに立派な造りの一軒家が鎮座していた。ここが目的地、闇の書の主の住居。自分達が監視のために張り付くことになる家。

広いベランダと庭を有したその家の前に立ち、ロッテは気持ちを切り替える。自分達の任務は少女とその周辺の監視。余計な感情は仕事の妨げになる。

「……うし、頑張りますか」

小さく気合の声を発し、ロッテは監視中に怪しまれない様にネコの姿に変身する。さらに器用にも盗聴器の受信機能付きイヤホンを耳に装着。これで準備は完了。

(気は乗らないけど、父様のためだもんね)

なんだかんだ言ってもやっぱり自分の主が大好きなロッテであった。

(それに、闇の書は破滅をもたらすロストロギア。このはやてって子には悪いけど、闇の書は絶対に野放しには出来ないんだ)

グレアムが異常なまでに闇の書に固執する理由、その一つに復讐が挙げられるが、それだけではない。闇の書を野放しにしておけば多くの命が失われ、最悪一つの世界が丸ごと消えてしまう可能性がある。それを防ぐためにグレアムは闇の書を追い求め、そして、見付けた際の対処方法として永久凍結という手段を取る事に決めた。闇の書の主と共に、闇の書を封印するという方法を。

リーゼ姉妹はその計画を聞き、最終的に賛同した。闇の書の主、それに守護プログラム達に蒐集されて運が悪ければ死ぬ魔導師達の命と、闇の書を野放しにしたせいで失われる多くの命。どちらを救いたいと問われれば、後者を選ぶしかないだろう。

それに、多くの命を救うためという免罪符があるからといって少女を殺すことに忌避感を抱かないというわけではないが、ロッテは決めたのだ。自分達の主に一生付いていくと。私怨で闇の書に固執しているのは分かっているが、それでも協力すると。

(恨まれるのは覚悟の上。許してなんて言わないよ)

八神家の塀の上に乗り、ロッテは苛(さいな)む良心に顔をしかめながら監視を開始する。

今日、この日から、リーゼ姉妹の長い監視生活が幕を開ける。






『お疲れ、ロッテ。交代に来たわよ』

監視開始から二日後の夜。アリアが交代のために八神家の前に訪れた。この場に現れる前からすでにネコの姿に変身していたアリアは、塀の上でじっと八神家の方を向いているロッテを見付けると、地面からピョン、と同じ塀の上に飛び上がり、彼女の隣に移動して念話で話しかける。

『……ア、アリア』

アリアの存在に気付いたロッテは、隣に現れた双子の使い魔の方に弱々しく振り向く。かなり憔悴している様子だ。

『ちょ、どうしたのよ。顔色悪いわよ?』

ネコの姿で顔色が良いも悪いもねえだろ、とロッテは心の中で突っ込む。比喩だと分かっているから実際には突っ込まないが。

『気を付けた方がいいよ。この任務はかなり胃にくる』

『胃にくる?』

首をかしげるアリアに、ロッテはイヤホンを装着するように指示する。疑問に思いながらもアリアは素直に耳にイヤホンを付け、ロッテに促されるままスイッチをオンにする。

ちなみに、グレアムが仕掛けた盗聴器はリビングとダイニングキッチン、闇の書が安置されているはやての私室にあり、この盗聴器はそのいずれの部屋から発せられる音声であるならば、かなり鮮明にロッテ達が装着するイヤホンに届けることが出来る。商品名『大事なあの人の声、届けます』は伊達ではない。

その謳い文句通り、スイッチを入れたアリアの耳に、鮮明な音声が流れ込んできた。



《──お父さん! もっかい! もっかいお馬さんやってー!》

《うーん、しゃーないなぁ。ほな、あと一回だけやで? お父ちゃんそろそろ腰がきつくなってきたわ》

《はやてちゃん、お父さんお仕事で疲れてるからあんまり無茶しちゃダメよ?》

《はーい! ほんなら乗るでー! ……ハイヤーッ! 馬車馬のように働け!》

ビシ! バシ!

《あ、ちょ、お尻叩かんといて。いた、いたた》

《馬が喋ったらあかんでー。ほら、もっと早く!》

《パカラッ、パカラッ、ヒヒーン! ……あかん、も、もう腰が》

《えー? だらしないわぁ》

《無茶言わないの、はやてちゃん。ほら、こっちいらっしゃい。今度はお母さんと遊びましょう》

《わーい! おっぱい、おっぱい!》

《あ、こら。もう、しょうがない子ねぇ。……こら、そこ、羨ましそうに見ない》

《み、見てへんよ?》

《おっぱい、いっぱい、夢いっぱい!》

《お、いいこと言うなぁ、はやて。そやで、おっぱいには夢がいっぱい詰まっとるんやで》

《……あなた、後でちょっとお話しましょう》

《お、俺は退かんで。男のロマンを娘に語って何が悪い》

《ロマンってなにー? 栗かー?》

《それはマロンな。ええか? ロマンっちゅうのは夢のことや。男はいつもでっかい夢を持っとるんやで》

《おっぱい、いっぱい、夢いっぱい?》

《そうや! さすが俺の娘やな!》

《えへへー。おっぱい、いっぱい、夢いっぱい!》

《おっぱい、いっぱい、夢いっぱい!》

《……はぁ》



イヤホンから聞こえてくる楽しそうな親子の会話に、アリアは思わず胃の辺りを押さえて顔をしかめる。

『これは、確かに胃にくるわ……』

『だよね……』

話の内容はともかくとして、この親子は心の底から笑って家族との幸せな時間を過ごしている。しかし、そう遠くない未来にその幸せが崩れてしまう。そのことを知っている二人からすれば、彼女達にはこの幸せそうに語らう家族の姿が、まるで最後の晩餐(ばんさん)をそうと知らずに楽しむ哀れな人間のように見えてしまうのだ。

しかも、あの無邪気に笑う子どもを(仕方ないとはいえ)殺すのは自分達。その心労たるや、

『正直、今まで味わったどんな苦痛よりも堪えるんだけど』

『胃薬が必要かしらね……』

百戦錬磨の彼女達でさえ弱音をこぼすほど。たった二日でロッテがこれほどまでに憔悴するのだ。アリアはこれから自分にも訪れるであろう心労に憂鬱を隠せない。

『っていうかさ、この胃の痛みとあとどれくらい戦っていかなくちゃいけないんだろうね』

『……最低でも、五年くらいは覚悟しなくちゃダメじゃないかしら』

ハァ、と二人は大きく息を吐き、お互いの肩に手を乗せる。

『頑張ろう』

『ええ、頑張りましょう』

励まし合った二人の瞳には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。

『……んじゃ、アタシは帰るわ。後はよろしくね』

『了解。胃に穴が開かない程度に頑張るわ』

涙を拭いたロッテはアリアに後を任せると、塀から降りて人間形態に変身する。そして、ん~っ、と身体を伸ばして凝りをほぐすと、塀の上のアリアに振り返って一声掛ける。

『そうだ、この近くに寿司屋があるんだけどさ、アリアも一回行ってみるといいよ。もう、すっごい美味しいから』

『SUSHI!? あなた、SUSHIを食べたの!? に、人魚の肉を……』

『そうそ、人魚の肉。いやあれはうまかった。ね、だからアリアも行ってみなって。無愛想なオジさんが居る寿司屋にさ』

『ま、まあ、あなたがそこまで言うなら行ってみようかしら。……結構勇気がいるわね』

『平気だって、普通に美味しいから。ああ、そうそう。人魚の肉は隠しメニューらしくてメニュー表には載ってないから、オジさんにはこう言うといいよ。「へい、オヤジ。ピッチピチのリトルマーメイド一丁!」ってね』

『わ、分かったわ。今度挑戦してみる』

『ク、クフフ……あ、それじゃ帰るわ。チャオ』

アリアに背を向けて帰るロッテの表情は、グレアムが自分の使い魔にイタズラする時の表情とまったく一緒であった。

イタズラ好きの双子と主を持ってしまったかわいそうなアリアはと言えば……

(ピッチピチのリトルマーメイド一丁、か。覚えたわ)

注文時のシミュレーションを頭の中で展開していた。純粋すぎるほどに純粋。それがアリアの美点でもあり、欠点でもあった。

(SUSHI、か)

……ゴクリ。


後日、アリアが寿司屋で大恥をかいたのは言うまでもない。が、寿司があまりにも美味しかったので、ロッテとグレアムに仕返しすることなんてどうでもよくなったアリアであった。






監視開始から二年が経った。

胃の痛みに耐えながら根気よく監視し続けたリーゼ姉妹が、「そろそろ胃に穴が開くんじゃね?」と真面目に心配し始めた頃。

『それ』は起こった。

「父様! 大変だよ! えらい事が起こっちゃったよ!」

「ぬぅおおお!? ロ、ロッテ、部屋に入る時はブザーを鳴らしなさいと何度も──」

「そんなこと言ってる場合じゃないって!」

疾風怒濤の勢いで管理局本局にあるグレアムの私室に駆け込んだロッテは、展開していたモニターを慌ただしく消すグレアムに詰め寄り、今にも泣きそうなほど切羽詰まった様子で『それ』を自らの主に告げる。

「あの子の、はやての両親が死んじゃったんだよ!」

「……なんだと?」

眉をひそめるグレアムに対し、ロッテは所どころつっかえながら口早に説明する。

事の始まりはこうだ。

三日前の昼前、ロッテがいつものように八神家を監視していると、玄関を開けて親子三人が揃って出てきた。今日は休日だから親子で外食でもするのかな? と考えながら電信柱の陰に隠れたロッテは、家の門を抜けてどこかに向かう三人の後を監視のためにつけて行くことに決めた。

親子はロッテの予想通り外食のために出掛けたようで、デパートの屋上でヒーローショーを見た後、デパートの近くにあった『すかいてんぷる』と言うレストランに入って食事を楽しんでいた。

ここまでは幸せな家族の休日といった風景だった。しかし、帰り道でその悲劇は起きた。

父親がはやての車椅子を押し、母親がその隣ではやてと喋りながら横断歩道を渡っていた時、親子の下に横から信号を無視してトラックが突っ込んできたのだ。

その事にいち早く気付いたロッテは、人目につくとかそういったことは忘れて、正義感に流されるままに魔法を使用し三人を助けようとした。が、運が良かったのか悪かったのか、助けられたのは闇の書の主であるはやてのみ。両親はそのままトラックに轢かれ……即死。

茫然自失となったはやてを腕に抱えていたロッテは、はやて同様にその惨状を見つめていたのだが、すぐに我に返るとはやてを近くにいた野次馬に預けてその場を離れ、はやてから付かず離れずの距離で成り行きを見守る事にした。

それからは瞬く間に時間が過ぎていった。翌日に親類縁者の下で両親の通夜が行われ、その次の日に葬儀が行われた。はやてはその間、椅子に座ってうつむきながらひたすら涙を流していた。

そして、監視の交代に来たアリアに事情を説明したロッテは、グレアムに今回の出来事を報告するために急ぎ本局に戻り、今に至る、と。

「……そうか。ふむ、いや、よくやった。よくはやて君を助けてくれた」

事情を聴いたグレアムは、しばし目をつむってはやての両親に黙祷を捧げると、沈鬱な表情のロッテの頭に手をやりねぎらいの言葉を掛ける。普段ならばのどを鳴らして喜ぶところだが、流石に今回ばかりはそうもいかない。ロッテはグレアムの言葉を受けて、悔しそうに唇を噛む。

「あの子は救えた。けど、両親が……あの子の家族を救う事が出来なかった。あの時、もっと早く気付いてればこんなことには……」

「気に病むな、ロッテ。お前はよくやったのだ。はやて君を救ってくれただけでも十分だ」

「でも、でもこれからあの子一人ぼっちなんだよ? こんなのって無いよ……」

グレアムに励まされつつもロッテは沈鬱な表情を崩さない。と、そこでグレアムは今のロッテの言葉に違和感を覚える。

一人ぼっち。確かに両親を失ったあの子は今は一人だろう。しかし、葬儀には親類縁者が集ったと聞く。ならば……

「ロッテ、あの子は親類に引き取られるのではないのか?」

その言葉を聞いたロッテは、ハッと顔を上げて、今思い出したかのように勢いよく話しだす。

「それそれ! それなんだよ。聞いてよ父様、酷いんだよ。葬儀に集まった親戚連中、誰もあの子を引き取ろうとしないんだよ。その話題になった途端にみんな顔を背けて無視を決め込んでやがんの。放っておけば施設にでも入れられるだろうって顔に書いてあった。ああムカつく」

「……なんと」

薄情な、と心中でこぼすが、その親類の反応もむべなるかな、とすぐに思い直す。

あの子を引き取りたくない理由。その一番大きなものとして、彼女が車椅子生活を送っていることが挙げられるだろう。足が不自由なあの子を引き取る事により、介助やなんだで自分達の負担が増す、と考えるのは普通であるし、なにより、たとえ足が不自由でなくとも他者の子どもを引き取るという行為には誰もが及び腰になるものだ。

ただ、それでもこの子は私が引き取る! といった気骨のある人間が居ないということには幻滅したが。

「……しかし、これは好都合か」

「え?」

グレアムは考える。あの子が孤独であれば孤独であるほど、居なくなった時に悲しむ人間が減る、と。そんな、独善的な事を。彼女の心情を蚊帳(かや)の外に置いた、自分勝手が過ぎる事を。

(これでは地獄に落ちても文句は言えんな)

グレアムはしばしの間逡巡し、そして……決意する。

「父様、好都合ってどういう──」

「あの子を、孤独なままにする」

「ッ!? そ、それって……」

今のグレアムの重々しい一言を聞いただけで、ロッテは彼の発言の意味を即座に理解した。彼の苦悩、葛藤までをも共に。

「お前の考えている通り、彼女をあの家に縛り付ける。それに加えて、他人と隔絶させて深い関わりを持たせないようにする。彼女と深い関係を持って悲しむ人間を作らせないようにな」

やはり、とロッテはうつむき下唇を噛む。

主の考えはある程度理解できる。心中では苦悩が渦巻いていることも分かる。しかし、認めたくなかった。時に非情な決断を下す事にためらいを見せない主であるが、ここまで残酷に物事を推し進めようとする姿勢にロッテは僅かに忌避感を覚える。相手は六歳の子ども。他人との触れ合いが必要なこの時期に、無理矢理隔絶させるなんて……

(納得は出来ない。出来っこない。でも、それでも父様が決意を持ってそうすると決めたのなら、私は……)

ロッテは悩み……決断した。

「……分かった。父様に従うよ」

その表情は苦々しく、とても賛同している様には見えない。だがグレアムは、それでいい、と心の中で頷く。

(お前達は私の命令に嫌々従っていてくれればいい。あくまで主犯は私。負担を負うべきは私なのだ)

娘達の精神的負担をなるべく減らしたいグレアムは、ここで一芝居打つことに決めた。

「では、『根回し』の方は私がすべて請け負う。お前達はこれまで通り彼女の監視を続けてくれ」

「……了解」

頷き、頭に鬱雲を纏わり付かせながら退室しようとするロッテの背中に、グレアムはとぼけた口調で声を掛ける。

「ああ、そうそう。彼女、これから一人暮らしをすることになるだろう? さすがに六歳の車椅子に乗った子がすぐに順応出来るとは思えないんだが、うーむ、どこかに手助けをしてくれる人間は居ないものかなぁ」

「ッ!?」

その言葉に即座に反応し、ロッテは勢いよく振り返ってしっぽを振り乱しながらグレアムに跳び付く。そして、彼の胸元に顔をうずめ、ぽつりと一言。

「父様……ありがと」

「……なに、ただの偽善だ。礼を言われては逆に心が痛む」

そう、偽善。何もかもが偽善なのだ。

グレアムは意気揚々と部屋を出ていくロッテを見送り、心中で毒づく。

(ただ、この偽善によってはやて君や娘達が少しでも救われるというのなら、それなりの価値はあるはずだ。……いや、これはただの合理化か。我ながら浅ましいものだ)

やれやれ、と首を振ったグレアムは一度大きく息を吐き、自分がすべき仕事に取り掛かることにした。

(っと、根回しだけではダメだな。資金援助や資産管理も必要か。父親の友人を騙って近づけばいいのだろうが、ふむ、偽名を使うのは止めておこう)

せめてもの誠意として、グレアムは本名を用いてはやてと連絡を取る事に決めた。

「これも、偽善か」

まったく、自分が嫌になる。

再び毒づくと、グレアムは気を重くしながらも仕事に取り掛かるべく私室を出ていった。






『と、そういうわけ。アタシ達の任務は変わらず監視。でも……』

『あの子が一人暮らしに慣れるまで、陰ながら手助けする、と。やっぱり父様も鬼じゃないのね』

アリアがロッテと交代してから二日後、再びロッテが交代のために海鳴にやって来た。そこでロッテは先日のグレアムとの会話をアリアに伝え、これからの自分達の任務に若干の変更があったことも伝えた。

アリアは初めはグレアムの非情な決断に驚いたが、ロッテ同様に主に従うことに決めた。はやてを放っておけ、とでも言われていたら抵抗を見せただろうが、最後にグレアムが見せた仏心が決め手となったのだ。

『……で、今あの子はどんな感じ? 食事とかはちゃんと取ってる?』

今現在、リーゼ姉妹はネコの姿で塀の上に乗って家人の少なくなった八神家を見据えている。ネコ耳にイヤホンを装着して。道行く人は彼女達の姿を見て、すわキャッツ&ドッグスか!? と敵対しているであろう犬の姿を探したりしているが、二人は気付かない。

『一応、冷蔵庫に残ってたそのまま食べられるものを漁ったり、棚に置いてある乾パンを食べたりしてるけど、そろそろ無くなりそうなのよね。買い物に出かけようとするそぶりは見せるけど、一人で外に出るのが不安なのかなかなか外に出てこなくて……』

『……ダメ。そんなんじゃダメだよ!』

『え?』

『育ち盛りの子がそんな食生活じゃダメ。もっと栄養バランスの考えられたもの食べないと』

『それはそうだけど……って、ちょっとどこ行くの? 交代するんじゃないの?』

いきり立ったロッテは塀の上から飛び降りると、そのままどこかに走り去って行こうとする。それを見てアリアは制止の声を掛けるが、ロッテは振り向かないまま『すぐ戻るー』と返してスタコラと走って行ってしまった。

そして十分後。

『おっ待たせ~』

アリアの下に戻って来たロッテは人間形態になっており、その手には袋に詰められたたくさんの食材が抱えられていた。それと、表紙に肉じゃがが載っている、おそらくは料理関係だと思われる本も持っている。

ロッテの突飛な行動に驚くアリアだが、何のためにロッテが買い物をしてきたのかすぐに気付いた。

『あなた、ひょっとして──』

『手助け、手助け。あ、監視はアタシが引き継ぐからアリアは帰っていいよー』

『まったく……』

食材の入った袋を揺らしながら門に付いたインターホンを押そうとするロッテを見て、アリアは苦笑する。

『陰ながら、じゃなかったの?』

アリアの言葉にロッテはインターホンに掛かった指を止め、彼女の顔を見る。

『顔は変身魔法で誤魔化すから大丈夫だし、それに料理教えるのに陰ながらなんて言ってらんないっしょ』

リーゼ姉妹に与えられた任務は監視、そして新たに追加されたもの、それははやてが一人で生活できるようになるまで生活面で援助する事。これからロッテが行おうとする事は、確かに間違ってはいない。が、アリアは一抹の不安を覚える。こんなに彼女に近づいてしまったら、ロッテは彼女に情を移してしまうのではないか、と。

自分達はいずれ彼女を殺さなければならない。その際、彼女に近づいたら近づいた分だけ悲しみが大きくなってしまう。それをロッテは分かっているんだろうか?

アリアが苦笑を浮かべながらそう双子の心情を計っていると、ロッテは快活とした表情で塀の上のアリアを見やる。

『情が移るのなんて端っから覚悟の上だよ。ていうかもう十分移ってるから。アリアだってはやての事、可愛いと思ってるんでしょ?』

『……双子って厄介よね。なんでもお見通しなんだもの』

『もうさ、とことん近づいてやろうよ。そんでさ、あの子と別れる時が来た瞬間は……盛大に泣こう。ごめんなさい、ごめんなさいって謝りながら。それがアタシ達に出来る精一杯の……偽善、なんじゃないかと思うんだ』

いつかは自分達が手にかける。でも、それまでは彼女を助けたい。まさに偽善。しかし、アリアは眼下に居る双子の顔を見て、それでもいいんじゃないかな、と考える。

『……そうね。そうかもしれないわね。けど、やっぱり近づきすぎるのはダメよ。いざという時に迷いが生じるとも限らないわ』

『ん……そだね。おっけ、そんじゃ付かず離れずの距離感を保って手助けすることにしよう。直接会話するのもなるべく控えるよ』

そう言ったロッテは、いたずらっ子の顔をしながら空中で止めていた指を動かし、

ピンポーン。

八神家のインターホンを押す。

『けど、料理の基本的なこと教えるまではいいよね?』

アリアは呆れた顔をしてロッテの顔を見つめるが、小さくため息を吐くと、後は任せたとでも言うように背を向けて去る。

《……はい、八神です。どなたですか?》

そんな双子の背中を見ながら待つこと十秒ほど。インターホンから少女の声が流れてきた。

(さーて、ロッテ先生のお料理教室の始まりだ)

機械越しとはいえ初めてする会話に微妙に感動しつつ、ロッテは用意していたセリフを言い放った。

「あー、はやてちゃん? アタシ近所で料理教室開いてる者なんだけど、今出張サービス中なんだ。綺麗なお姉さんに料理教わってみる気、ない?」

《……は?》







監視開始から四年。はやての両親が亡くなり、彼女が一人暮らしを始めてから二年が経った。

(もう二年経ったのか。時間が経つのは早いなぁ)

いつものように塀の上に乗って監視を続けるロッテは、この二年の間にあった様々な出来事を思い出す。

この二年。八神はやてとリーゼ姉妹にとって、激動の二年だったと言わざるを得ないだろう。

まず八神はやて。彼女はとにかくひたすらに努力した。料理、洗濯、掃除、全ての家事を自分一人でこなさねばならない境遇に愚痴をこぼすこともなく、がむしゃらに頑張った。

一番手間取るかと思われた調理技術の習得だが、これは突如家に現れた謎の美女に(ほぼ押し切られるような形で)懇切丁寧に教わったおかげか、そこまで時間が掛からずに基本的な知識と技術を得ることが出来た。

「君に教えることはもう無い。後はレシピを増やして基礎を煮詰めるだけ。アタシの役目は終わったみたいだね。……くうっ! さらば!」

というセリフを残して美女が消え去った後も、はやては慢心することなく料理の研究に努め、気が付いたらなんかいつの間にかプロ顔負けの腕前になっていた。

この二年の間にありとあらゆる家事技能を身に付け、はやては他者に弱音を一度も吐くことなく一人暮らしを続けてきた。これはもう見事と言うほかないだろう。というかもはや化け物レベルだ。本当に八歳児かと。

そしてリーゼ姉妹。彼女達もこの二年間は苦労した。はやての行動を逐一観察し、助けが必要になるたびに陰ながら助け続けてきたのだ。

具体的には、点けっぱなしだったガスを止めたり、側溝にはまった車椅子を動かそうと四苦八苦しているはやてを通行人Aとして助けたり、はやての家に泥棒に入ろうとしたクズを丸めてゴミ捨て場にポイしたり、締め忘れた鍵を締めてあげたり、図書館で取れない本に手を伸ばすはやての隣に立ち一般利用者Aを装って代わりに取ってあげたり、スーパーでタイムセールの商品をオバちゃんと取り合いしているはやてに買い物客Aとして加勢したり、デパートで服選びに困っていたはやてに近寄り店員Aに成り済まして自分好みの服を見繕ったり、はやてのことを椅子女と呼んで貶した近所の悪ガキのパンツをズリ降ろして恥をかかせたり、はやての下着を盗もうとベランダに忍び込んだブタをジャイアントスイングしたり、はやてが遊んでいるゲームを買って一緒に遊んでいる気になったり、一人寂しく自分の誕生日を祝うはやてに匿名で「誕生日おめでとう!」と書かれたバースデーカードを送ったり、勉強中のはやてにリラックス効果のある魔法をかけてあげたり、「お父さん、お母さん、寂しいよう」と夜泣きするはやてに認識阻害の魔法をかけてこっそり添い寝したり、包丁でうっかり指を切ったはやてにこっそり回復魔法をかけたり、こっそりお風呂覗いたり、クリスマスの夜にでかいクマのぬいぐるみをはやての枕元に置いて朝に「うおお! なんやこれ!? 気持ちわるぅ!」と不審がられて結局捨てられたり、四方八方に念話で呼びかけてはやてに混乱をもたらしたアホを闇討ちしたり、とにかく色々とあった。

まあ、これらの行動を取ったのはほとんどがロッテだが。

(はやて可愛いよ、はやて)

今日もロッテは精力的に監視任務に励む。しかし、なんかもう色々とダメになっていた。



時は五月九日。異変がすぐそばに迫っていることに、リーゼ姉妹はまだ気付かない。






















あとがき

この外伝、次回じゃ終わらないかも。おそらくあと二話ほど続くことになると思います。

なんか予想外に長くなってしまいました……


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