シグナムさんとクロノ君。
上空で名乗りを上げたと同時に、両者は行動を開始した。
まずはシグナムさん。
「ハァッ!」
彼女は右手に持つ剣、その切っ先をクロノ君に向けたまま真っすぐ突っ込み、接近戦を仕掛けようとする。
対してクロノ君は、
「……ッ!」
突っ込んでくるシグナムさんとは真逆、自分の後方に素早く後退しながら、猛スピードで迫るシグナムさんに中距離から攻撃を仕掛ける。
「スティンガー──」
彼が両手で横に構えた杖から青い光が漏れ出し、
「スナイプ!」
バットで球を打ち抜くように大きく振った杖の先から、光が光弾となって高速で発射される。発射された青い弾丸はクロノ君の周りをくるっと一周すると、加速しながら一直線にシグナムさんに向かってゆく。
高速で迫る光弾に対して、シグナムさんは怯みもせずに勢いを殺さないまま一直線に空を駆ける。そして、あわやぶつかる、と思った瞬間、彼女は光弾の真上スレスレを体をひねって回避し、体勢を立て直しながら宙に留まるクロノ君に再び突撃する。
シグナムさんの接近を許したクロノ君は、なぜかその場を動かず、肉薄するシグナムさんを杖を構えたまま見つめていたのだが、
「……スナイプショット!」
彼女が大上段に剣を振り上げて今まさに斬りかからんとした際に、大きく叫ぶ。
すると……
「……チッ!」
先ほど放たれた光弾が巻き戻しされるかのように一瞬にして引き戻され、剣を振り上げた状態のシグナムさんの背中を襲う。
それに気付いたシグナムさんは舌打ちを一つして、振り上げた剣を下げて右手に持ち直し、バックハンドで後方に一振り。
「陣風!」
振り切られた剣先からは大気を切り裂くような衝撃波が発生し、背後から迫っていた青い弾丸を吹き散らす。が、
「ブレイク──」
「む?」
その隙を突いて、クロノ君が杖の先端をシグナムさんの腹部に押し当て、
「インパルス!」
魔法を発動。
杖が発光した瞬間、ドゴンッ! と良い音を立ててシグナムさんの体が爆発し、濃霧の様な爆煙が辺りに立ち込める。
……あれ? 死んでないよね、シグナムさん。
一抹の不安を抱えながら煙が漂う上空を仰ぎ見ていると、
「……クッ!?」
いきなり煙の中から刃の付いた鞭が飛び出し、煙の外周から様子を窺っていたクロノ君に巻き付こうと、うねりながら襲い掛かった。
それに反応したクロノ君はギリギリのところで後方に跳び退(すさ)り、杖を構え直して攻撃の発生源を睨む。
「油断した。接近戦もこなすとは、管理局執務官の肩書きは伊達ではないということか」
ヒュンヒュンと鞭を振り回し、煙を拡散させながら現れたのは……無傷のシグナムさん。爆発しときながら無傷ってどういうことじゃい。
攻撃を喰らわしたクロノ君自身も、ピンピンしているシグナムさんの姿を見て眉をひそめている。
「アレを喰らってダメージが皆無とは、恐れ入る」
「いや、少しは堪えたぞ。爆発で周りの空気が一瞬無くなって苦しかったしな」
「……そうか」
苦々しげな表情でシグナムさんを見つめるクロノ君。あの様子だと、さっきの攻撃は結構自信があったみたいだな。シグナムさん余裕で耐えちゃったけど。
「しかし、やはり一対一の決闘は心が躍るな。終わらせるのが勿体無いほどに」
声に愉悦の色を含ませて、シグナムさんはクロノ君の顔を見ながら笑みを浮かべる。その楽しそうな笑みを受けたクロノ君も、釣られるように口の端を上げる。
「否定はしない。だが、いつかは終わるものだ」
「そうだな。残念だ」
戦闘のさなかに語り合った二人は、再度武器を構え直して相手を見据える。シグナムさんはいつの間にか武器を鞭形態から普通の剣に戻しており、一旦鞘に刀身を戻して抜刀の形に構え、クロノ君はいつでも魔法が放てるようにしているのか、杖の先端をシグナムさんに突き付けている。
そのような形で数秒睨み合いが続いていたのだが、
「ふぇ、ふぇ……ふぇーっくしゅ! あ、サーセン」
私達バトルメンバーから少し離れた所で観戦していたマルゴッドさんのくしゃみが、その均衡を破る合図となった。
「ブレイズカノン!」
先手必勝とばかりにクロノ君が杖の先端に光(魔力?)を収束させ、短いチャージ時間でそこから青い砲撃を解き放つ。
目で追いきるのが難しい程の速度で空を走る光の奔流は、狙い違わず烈火の騎士目指して突き進んでいった。
だが、
「飛龍──」
それを意に介さないかのように、シグナムさんは鞘に入れたままの剣を上に持ち上げ、眼前に迫った砲撃に対して、
「一閃!」
鞘から抜き放った刀身を勢いよく叩きつける。その刀身は鞘から抜け出たと同時にバラバラにほどけ、再び鞭に変化する。しかし、今度の鞭には燃え盛る炎が付与されており、迫り来る砲撃を真っ二つにカチ割った後、さらにその延長線上、クロノ君目掛けて太い炎の線を走らせる。
「なっ!? くっ!」
自らが放った砲撃の収縮光をなぞるように迫る炎線を避けるべく、クロノ君は大きく身をのけ反らせる。が、それでは避けられないと悟ったのか、彼は杖を眼前に掲げ、半円状の光の膜を前面に展開した。
一瞬後、ゴッ! と展開した膜に炎が絡みつき、クロノ君を呑み込まんとジリジリとその勢いを増す。
「……ッ!」
どうやらこのまま防いでいては防護膜が持たないと思ったようで、クロノ君は急ぎその場を離脱、上空へと逃げのびる。
しかし、
「紫電──」
すでにその場には、渦を巻く炎をまとわりつかせた剣を振り上げて、今にも斬りかからんとする烈火の将の姿があった。
「ッ!」
彼女の存在に気付いたクロノ君は、一瞬にして先ほどと同様の防護膜をシグナムさんと自身との間に形成し、攻撃を防ごうとする。が、
「一閃!」
シグナムさんの放った一撃は、紙を引き裂くかのようにアッサリとその膜を突き破り、そのままクロノ君の胴体に直撃する。
いかにも一撃必殺っぽい攻撃をもろに喰らったクロノ君は、大きく後方に吹き飛び、屹立(きつりつ)していたホテルに激突。その壁に背中をめり込ませる。
……いくら非殺傷って言っても、あれって普通に物理ダメージ喰らうよね。大丈夫なんだろうか。防護服があるから、大丈夫?
「ぐ……」
私が心配しながら見ている中、壁に半身をめり込ませたクロノ君が、苦悶の声を上げながら壁から抜け出ようと体を動かし始めた。……あの様子なら何とか大丈夫そうだな。
「チェックメイトだ」
クロノ君が壁から抜け出た直後、シグナムさんが彼の眼前に現れ、剣を首に突き付けながらそう言い放った。その言葉を受けたクロノ君は、突き付けられた剣とシグナムさんの顔を交互に見て、やれやれといった風に一つ息を吐き、両手を上げて降参のポーズ。
「僕の負けだ。君は強いな」
敗北宣言を受け取ったシグナムさんは、突き付けていた剣を下に降ろし、フッ、と笑う。
「お前もなかなかのものだった。それに最後の一撃、自分から背後に飛んで上手くダメージを軽減しただろう。あれは見事だったぞ。よくぞとっさに反応出来たものだ」
「北野君のように上手くはいかなかったがな」
「くっ、違いない」
「ははっ」
上空で小さく笑いあった二人は、笑いの余韻をそのままに、拳を前に出してゴッとぶつけ合う。
「楽しかったぞ、クロノ。またいつか戦える日を心待ちにしているぞ」
「機会があったらまたやろう。その時までに、せいぜい腕を磨いておくさ」
二人は再び笑い合いながら、上空を見上げる私達の所に降りてくる。……ああ、いいなぁ、ああいうの。激闘の後に生まれる友情ってやつ? まさにこれこそがバトルの醍醐味だね。
「あるじー、見た見たー? オレっち超強いっしょ~」
クロノ君と共に地面に降り立ったシグナムさんが、にぱーっと顔を輝かせてこちらに駆け寄って来た。……ああ、もう元に戻ってら。相変わらず落差が激しい事で。
ま、快勝したってことには違いないんだし、ここはねぎらうべきか。
「お疲れさまでした。格好良かったですよ、さっきまでは」
「え、今は?」
言わずとも分かるだろうから言わない。
【シグナムさんVSクロノ君】 シグナムさん快勝。(クロノ君と友情が芽生えた様子)
「さて、それでは次の対戦ですが……どなたか希望者はいますか?」
しょぼーんとしたシグナムさんを横目に、残った対戦者達に問い掛ける。誰も居なければ私となのはちゃんで始めようかと思っていたのだが、私の質問に光の速さで反応するものが居た。
「はいはい! 次は僕達の番で!」
それは、先ほどからギラギラと目を血走らせていた可愛い顔の男の子。確か、名前はユーノ君って言ったかな。その子が、手を上げながらすごい剣幕で対戦相手のシャマルさんを睨んでいる。
その視線に気付いたシャマルさんも、彼にガンを飛ばしながら私に答える。
「そうね、次は私達がやるわ。あの小僧の整った顔が醜く歪む様を早く見たいもの」
おおう、やる気満々、いや、殺る気満々だぁ。本当に殺ってしまわないか心配だけど、バトルを望むってなら止める事は出来ない。私は彼が死なないようにただ祈るのみだ。
「では次はシャマルさん達で──」
「うおっしゃー!」
私が言い終わらぬうちに、ユーノ君は雄叫びを上げて上空に飛び立ってしまった。何が彼をあそこまで戦いに駆り立てるのか。……あ、シグナムさんのおっぱいか。
「せっかちね。まあいいわ。それじゃハヤテちゃん、サクッと潰してくるから見てて──」
「あ、ちょいとお待ちを」
ユーノ君に続いて空に飛び上がろうとしたシャマルさんを、すんでのところで呼び止める。私の言葉でピタリと止まったシャマルさんは、こちらを振り向いて疑問の声を上げる。
「なに? 殺しはしないから大丈夫よ? 命以外は保障できないけど」
「いえ、そうではなく、シャマルさんにも新しい騎士甲冑を作ろうかと思いまして。シャ〇専用、じゃなくて、シャマルさん専用のやつを」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」
シグナムさんだけに与えるというのも差別してるようでなんだし、ここはやはりみんなにもプレゼントするべきだろう。コスプレではなく、一人一人に似合った騎士甲冑を。
デザインならシグナムさんが戦っている間に頭の中でイメージしたからすぐに作れるしね。
「それじゃ、上で対戦者が待っていますし、パパッと作っちゃいましょう。いきますよ?」
「ええ、お願いするわ。期待してるわよ」
「お任せあれ」
シャマルさんの言葉に頷いた私は、目をつぶって彼女がこれから身に纏う騎士甲冑をイメージする。
イメージはすでに固まっている。
シャマルさん。綺麗な金髪に、おっとりとした顔付きの女性。毒舌家であり、みんなのお母さん的存在。たまにうっかりさん。
そんな彼女に似合う騎士甲冑、それは……これだ!
頭の中で明確にそれを思い浮かべた瞬間、シャマルさんの体を光が包み込む。一瞬後にその光は消え去り、後に残されたのは──
「へえ……悪くないわね」
緑を基調とし、シグナムさんの甲冑にロングスカートをくっ付けた感じの騎士甲冑を見に纏ったシャマルさん。自分で作っといてなんだが、袖長のゆったりしたベストと丸い帽子がシャマルさんによく似合っている。私って結構センス良いかも。
新たな甲冑を身に付けたシャマルさんも、スカートをつまんだり帽子をぽふぽふしたりと、まんざらでもないご様子。
「……悪くは無いんだけど、ちょっとさわやか過ぎるわねぇ。もう少し配色が濃い方が私好みかも」
「迷彩柄とかも考えたんですが、そちらの方が良かったですか? グリーンベレーみたいなやつ」
「これでいいわ。いえ、これがいいわ」
残念だ。気に入らなかったらそっちにしようと思ってたのだが。
「さてと、じゃあ……ん? あら? こ、この感触、まさか……」
騎士甲冑も身に付け戦闘準備万端になったシャマルさんだったが、空で待つユーノ君の下に行くために飛び立とうとした瞬間、その動きを止めてお尻の辺りをさする。そして、その存在に気付いたシャマルさんは、驚愕の表情を浮かべながら再び私に振り返る。
……ふ、ようやく気付いたか。
「ハヤテちゃん、これ……」
「ああ、それですか。流石にスカートで空中戦をやらかしたら下からパンツ丸見えですからね。お節介かとは思いましたが、それもプレゼントさせてもらいました。ええ……ブルマを」
「せめてスパッツにしなさいよ!」
やれやれ、分かってないなぁシャマルさんは。ブルマかスパッツかと言われたら、ブルマを選ぶに決まってるじゃないか。え? 短パンもあるじゃないかって? 短パンなんぞ邪道だ!
「そんなことよりシャマルさん、さっさと来いって相手が催促の視線を飛ばしてますよ。ほら、早く行かなきゃ。ブルマで」
「……くっ、分かったわよ。これで行くわよ、もう」
私の頑として譲らない様子を見て諦めたのか、シャマルさんは唇を噛みしめながらユーノ君の下まで飛んでいった。しきりにお尻の辺りをさすっている様が微妙に哀愁を誘う。すぐに慣れるよ、シャマルさん。ガンバ。
「……ん?」
ふと視線を横から感じたので振り向くと、なのはちゃんが良い顔をしながら私を見ていた。一体なんだろうか? と思って見返していると、なのはちゃんは手を前に出し、親指を立てて良い顔をしながらこう言った。
「ナイスブルマ」
その言葉を受けた私も、当然の返礼としてサムズアップしながら良い顔で応える。
「ナイスブルマ」
分かってる、分かってるじゃないか、なのはちゃん。それでこそ私の親友だ。君が友達でよかった。
「……なるほどな。流石ハヤテのダチのことはある。類は友を呼ぶ、か」
良い顔で見つめ合う私達の横で、ヴィータちゃんが小さく呟いた。まあ、なのはちゃんも立派なオタクだし否定はすまい。というか、この場に居るほとんどの人間がオタクだし。グレアムさんとかネコ耳の人とかは知んないけど。
「……お」
なんてやってる間にシャマルさんがユーノ君の近くに到着し、戦いを始めようとしていた。さてさて、どうなることやら。
「待たせたわね。天国に行くための祈りはもう済ませたかしら?」
初っ端から飛ばすシャマルさんに対して、ユーノ君は先ほどの威勢とは正反対に、低姿勢で彼女に答える。
「あはは、怖いですね。お手柔らかにお願いしますよ?」
さっきの威勢はどこに行ったのかと思うほどに気弱な様子を見せる彼は、ペコリと一礼してから名を名乗る。
「ユーノ・スクライアです。良い勝負をしましょう」
「湖の騎士、シャマルよ。準備はいいわね? それじゃ──」
「ああ、ちょっと待ってください」
「?」
戦闘を開始しようとしたシャマルさんに待ったをかけたユーノ君は、
「すいませんが、そこからもうちょっと手前に寄ってもらえませんか?」
なぜかシャマルさんを引き寄せるように手を上げて招く。それを見て眉根を寄せるシャマルさんだが、断る理由も無いのか、一応言われた通りに前に出る。
「あ、どうもどうも。はい、そこで結構です。ありがとうございます……本当に」
……何だろう。前に出たシャマルさんを見たユーノ君の顔が、してやったりという感じに笑っている気がするんだが。
「あら? これって……」
ユーノ君に指定された位置に静止したシャマルさんが、何かに気付いたように声を上げる。と、それを見たユーノ君は、
「バトル、スタート!」
いきなりバトルの開始宣言をする。それと同時に、
「フハハハー! トラップカード、発動!」
ギュル、とシャマルさんの周囲の空間から緑色をした光の鎖が出現し、彼女の両手足に一瞬にして絡みつき、その動きを封じ込めてしまった。
……え、何アレ? 格ゲーで言うところの設置技ってやつ? きったねー!
「……なのはちゃん、あの子っていつもあんな感じなの?」
隣で私と同じように上空を見上げているなのはちゃんに聞いてみる。彼女は、あはは~、と額に一筋の汗を垂らしながら私を見て、言いにくそうに口をもごもごさせる。
「え、え~っと、ユーノ君って普段は大人しいんだけど、エッチなことが絡むと性格が変わったりすごい行動力見せたりしちゃうの」
すごい行動力と言うよりひどい行動力ではなかろうか。一対一の決闘で堂々とトラップ仕掛けるとか、そこまでしてシグナムさんのおっぱいを揉みたいか。
……あれ? 私も人のこと言えない気がするな。まあ、気のせい気のせい。
「さーらーに、バインド! バインド! バインドォ!」
視線を上空に戻すと、トラップのバインドに重ねるように、ユーノ君がリング型のバインドや鎖型のバインドをシャマルさんの全身にまんべんなく巻きつけていた。卑劣にもほどがあるっつーの。
「ハッハー! どうだ、これでもう動く事が出来まい!」
「………」
そんな卑劣な罠にはまって、足首から首元までバインドで雁字搦(がんじがら)めにされ身動きが取れなくなったシャマルさんはと言えば、非難の言葉を浴びせるでもなく、調子に乗って高笑いを上げるユーノ君をただただ無言で見つめるばかり。
……これはユーノ君、死んだかな?
「シャマルさん、と言いましたか。戦場では油断した者から死んでいくのです。相手の姦計(かんけい)に引っ掛かるなんて愚の骨頂。これはもう愚かとしか言い様がありませんね」
「………」
さらに調子に乗って饒舌に口を滑らせるユーノ君だが、その一言一言がシャマルさんの神経を逆撫でしていることに気付かない。
「でも僕も鬼じゃありません。このまま素直に負けを認めるならば、痛い目を見ずに済ませ──」
そして、気付いた時には、もう取り返しがつかない事態になっていたのであった。
「闇よ、有れ」
バキン!
「…………あるぇー?」
堪忍袋の緒が切れたのか、大人しくしていたシャマルさんがついに攻勢にでた。
シャマルさんが一言呟いたと同時に、彼女の周囲に闇の塊がいくつも現れたかと思うと、それらが狼とも犬ともつかない歪(いびつ)な形の獣となり、シャマルさんの体に巻きついていたバインドをひと噛みで食いちぎったのだ。
闇の獣の牙によって光の鎖やヒモは霧散し、シャマルさんの動きを封じるものは跡形も無く消え去った。これが意味するもの、それは……ユーノ君の敗北。いや、死か。
「あー、えーと、……落ち着きましょう。そ、そんな怖い顔しないでくださいよ。綺麗な顔が台無しですよ? あは、はは、そ、それにほら、今のは何て言うか、その、ジョーク! そう、ジョークだったんですよ。いやー、見事に引っ掛かってくれたものですから、つい調子に乗っちゃってあんなことを──」
「黙りなさい、そして死ね」
「ひいいいいぃ!?」
怒りのこもった視線をユーノ君に向けたシャマルさんは、指輪をはめた右手を前に出し、そばに待機する忠実な僕(しもべ)である六匹の獣に命令する。
「アレが獲物よ。せいぜいいたぶってあげなさい」
主の命令を受けた獣達はギラリと赤く光る眼を光らせると、哀れな獲物であるユーノ君の下へと殺到。
「ひい! あわわわ……んぎゅ!?」
それを見たユーノ君は慌てて逃げようとするが、シャマルさんが放った幾本もの鎖に絡めとられ、その場に無理矢理固定される。
「お返しよ、ぼうや」
「く、くそう、こんなところで……こんなところでやられてたまるか! 僕はシグナムさんの胸を揉むんだぁー!」
恐怖に顔を引きつらせながら自分に正直すぎるセリフを放ったユーノ君は、バインドから逃れられないと見るや否や、
「むむむ、はぁー!」
全身に光をみなぎらせたかと思うと、次の瞬間には、なんと小柄な動物、フェレットに変身してバインドの拘束から見事に逃れてしまった。
「はははは! どうだ!……って、ぎゃああああ!」
が、バインドから抜け出せただけで、獣の群れからは逃げだせないでいた。
バインドから脱出したフェレット状態のユーノ君に獣が群がり、死体を貪るハイエナのごとく彼の体を蹂躙している。
「あっ!? ちょっ、そこはダメ! そんなとこ噛まれたら僕……ら、ら、らめえぇぇぇぇぇ!」
それからしばらくの間、シャマルさんの気が済むまでユーノ君の公開処刑が続いたとさ。
……自業自得、かな?
【シャマルさんVSユーノ君】 シャマルさん圧勝。(ユーノ君、しばらく再起不能)
「……嫌な事件だったね、ハヤテちゃん」
「……ええ、そうですね、なのはちゃん」