※まえがき
今回は以前あとがきで書きましたように未来の話です。ぼかしてるところもありますが、ネタバレ満載なのでご注意を。
チュン。チュンチュン。
「……ん……んあ?」
壁越しに外から聞こえるスズメの鳴き声によって、気持ち良く布団にくるまっていた私は目を覚ます。
「……朝、か」
上半身を起こし、寝ぼけ眼(まなこ)をこすりながら枕元に置いてある目覚まし時計を確認する。時刻は6時20分。目覚ましをセットした時間より早く起きてしまった。まあいい、早起きは三文の徳って言うし。
取り敢えず頭をクリアにするために洗面所で顔を洗おうと、私は周りで寝ているみんなを起こさない様に布団を身体の上からどかし、立ち上がろうとした──
「ん?……フフ」
──のだが、右隣で幸せそうに眠る家族の顔を見て、少しだけ寝顔を観察しようとその場に留まる。
頬を緩めた私の視線の先に居るのは、すうすうと寝息を立てるリインさん……の胸の谷間に身体をうずめた、手のひらサイズの女の子。
その子は私が見つめる中、リインさんと同じ綺麗な銀髪を揺らしながらムニャムニャと口を動かし、
「ううん……もう食べられないでしゅ……」
良い夢でも見ているのか、ご機嫌そうな表情で寝言を呟く。ああもう、かーわいいなぁ。
「へへ……もう食えないってば……」
「おっと、こっちにも発見」
反対側から聞こえた声に反応し、視線をそちらに向ける。そこには、むーむーうなりながら手を空中にさまよわせるシグナムさん……の胸の谷間に身体をうずめたもう一人の手のひらサイズの女の子が、銀髪の女の子と同じように幸せそうな表情で眠っていた。うーん、小悪魔的な外見がとってもキュート。
「……さて、と」
右隣と左隣で寝息を立てる小さな女の子達を一分ほど鑑賞した後、満足した私は今度こそ立ち上がって洗面所へと足を向ける。
ややおぼつかない足取りで洗面所に到達した私は、蛇口をひねって冷水を放出。手のひらで水をすくい取ってパシャパシャと顔を洗う。
顔を洗った後はタオルで水を拭き取り、どこかおかしいところが無いか目の前にある鏡で確認する。
「……よし」
確認終了。今日も私は良い女。なんちゃって。
自画自賛もそこそこに、洗面所を出た私は寝室に戻ってジャージに着替える。朝の日課、ランニングのためだ。
「……ん……お? ああ、主、おはようございまする。早いっすね」
「あ、シグナムさん、起きたんですね。おはようございます」
私が着替えを終えると同時に、シグナムさんが起き出した。それと同期するように、他のみんなも眠い目をこすりながら身体を起こし始める。目覚ましが鳴る五分前だし、ちょうどいいかな。
「シグナムさん、それじゃ玄関で待ってますから」
「あーい、着替えたらすぐ行くよん」
布団から立ち上がるみんなに朝の挨拶をした私は、シグナムさんに一声かけてから寝室を抜け出て玄関に向かう。
「うん、良い天気だ」
玄関に到着した私はランニングシューズを履いて扉を開き、空を仰ぎ見て一言。
まだ完全に春が到来していないため少しばかり外の空気は冷たいが、走っていればすぐに身体も温まるだろう。
「主、お待たせ。それじゃ、今日も張り切って行ってみよー」
外に出てストレッチをしながら筋肉をほぐしていると、私と同じくジャージに着替えたシグナムさんがドアを開けて外に出てきた。
シグナムさんと一緒に朝のランニング。
いつからか始めたこれは、すでに毎日の日課となっている。
「今日も河原までですよね。じゃ、行きましょう」
「うい」
道路に出た私達は並んで走りだし、いつものように河原を目指してひた走る。
「はっ……はっ……」
短く息を吐きながら、一定のペースで足を動かして走り慣れた道を進む。ああ、火照った頬に当たる風が気持ち良い。やっぱりランニングはいいもんだね。
「……お」
走り始めてからしばらくして、不意に、私の隣を並走していたシグナムさんが声を漏らす。シグナムさんの視線は前方に注がれており、そこには私達と同じように朝のランニングに精を出す若者の姿があった。
あの人は確か、近くに住む大学生さんだったかな。たまにこうして朝に会うんだよね。
「おーっす、若者。今日も勉学に励めよ」
若者が目の前に迫ると、シグナムさんは一旦足を止めて彼に挨拶をする。声を掛けられた彼も、足を止めてシグナムさんに挨拶を返す。
「おはようございます、ニートさん。あなたは相変わらず働かないんですね」
「ばっか、昔とは違うのだよ。今はちゃんと働いてますぅ」
「ああ、そういえばそうでしたね。えっと、確か……自宅警備員でしたっけ?」
「ブッブー、冒険野郎です。あと、なんでも屋も兼業。それに、臨時講師みたいなのもしてるんすよ? ああ、なんて働き者な私。敬え」
「いや、どんな職種ですかそれ」
そんな他愛も無い会話を交わした後、彼は私とシグナムさんに挨拶をして去っていった。
去っていく彼の後姿を見送りつつ、私達もランニングを再開する。
十分ほど走り続けて目的の河原に到着した私達は、一分間シャドウボクシングをしてからいつものように水切りを楽しむ。
「二十五回ですか。相変わらず化け物ですね」
「十年近くやってるからこれぐらいは出来て当然」
そうして童心に帰って水切りを楽しんだ私達は、家へと帰るために元来た道を戻るのであった。
「ただいまー」
「おう、お帰りハヤテ、ついでにシグナム。メシの準備出来てるぜ」
「ついでってお前……」
ランニングを終え、家に着いた私達を廊下で出迎えたのはヴィータちゃん。私達が外に出ている間にすっかり目が覚めたのか、さっきは眠そうだった目を今はパッチリと開けている。
「分かりました。着替えたらすぐに行きますね」
「おう」
私の言葉に頷いたヴィータちゃんは、朝食が用意されているであろうダイニングキッチンに入る。
それを見た私とシグナムさんは、靴を脱いで廊下に上がり、寝室に入って着替えを手早く済ませる。そして、ラフな格好に着替えた私達は、みんなが待っているであろう食卓へ二人で向かう。
さてさて、今日の朝食は何かな~っと。
「おかえりなさい、ハヤテちゃん、ついでにシグナム。さ、朝食にしましょう」
「ただいま戻りました。おお、今日も美味しそうですね」
「ウチ何か悪いことした?」
ダイニングキッチンに入った私達は、若妻然としたエプロン姿のシャマルさんに出迎えられる。
シャマルさんから湯気を立てる美味しそうな朝食が並ぶ食卓に目を移すと、そこにはすでにみんなが席についていて、私達が椅子に座るのを今か今かと待っていた。(ザフィーラさんは毎度のごとく狼形態なので床で待機している)
「ハヤテちゃーん、早く早く~。リイン、腹ペコ極まりないです~」
「シグナムも早く来いって。アタシも腹ペコだ」
チーン、チーン、とお皿を箸で叩きながら催促の声を上げるのは、我が家の二大マスコット、リインちゃんとアギトちゃんだ。
ミニチュアサイズの二人に急かされた私とシグナムさんは、マスコット達の行儀の悪さに苦笑しつつ自分の席に座り、みんなの顔を見渡す。うん、準備はオーケー。
「お待たせしましたね。それでは皆さん」
お手を合わせて、
『いただきます!』
「いたがきます」
シグナムさん、ヴィータちゃん、シャマルさん、ザフィーラさん、リインさん、リインちゃん、アギトちゃん、そして私。
総勢8人の八神家。そのかしましライフが、今日もまた始まる。
「いやー、美味しいですねぇ。シャマルさん、また料理の腕上がったんじゃないですか?」
「当り前だのクラッカーよ。日々、料理の研鑽(けんさん)を積んでいるんだもの。もう私に死角は存在しないわね」
「美味いというか、美味いと感じるようになってしまったというか……いや、昔の事は忘れよう」
うつむいて黙々とご飯を口に運ぶリインさんを尻目に、私達は四方山(よもやま)話に花を咲かせて朝食を楽しむ。
しかし、本当にシャマルさんの料理は美味しくなった。流石、十年近く八神家のキッチンを任せただけのことはある。もはやベテランの主婦と言っても過言ではないだろう。レパートリーも豊富だしね。
「そういや、主は今日は高校あるんでしたっけ?」
「いや、シグナムさん。ついこの間卒業したばかりでしょうが」
「あっれー? そうだったっけ?」
卒業式に保護者として出席しといて忘れるとか、どんだけ頭のネジが緩んでるんだか。まあ、シグナムさんらしいと言えばらしいが。
「あれ? ということは、主、とうとう『お仕事』に本格参戦するんすか?」
再度、疑問符を頭に浮かべたシグナムさんが質問してくる。……お仕事、か。アレをこっちの世界で仕事と言っていいものか悩むが、一応仕事ということにしておくか。ニートなんて噂が流れたら嫌だし。
「そうですね。大学には進学しませんし、本格的にアレに従事しようと思っています。今までは休みの合間合間しか出来ませんでしたけど、これからは好きな時にやれますね」
その私の発言を聞いたヴィータちゃんが、顔をこちらに向けて口を開く。
「でもさぁ、勿体無いんじゃねえか? ハヤテ、成績良かったんだし、大学出て良い会社にでも入るかと思ったんだけどな。なにもあんなのを好き好んで仕事にしなくてもいいんじゃねえ? 危険も少なからずあるし」
まるでお母さんみたいなことを言うなぁ、ヴィータちゃん。心配してくれてるってのは分かるけどね。
と、私がヴィータちゃんに言葉を返そうと口を開こうとしたところに、ガツガツと床で食事を取っていたザフィーラさんが顔を上げてヴィータちゃんを見る。
「ヴィータよ、主が自分で決めた事だ。心配なのは分かるが口を挟むのは止めておけ。なにより、主が出る時は我も必ず付いていく。案ずる事は無い」
ナイスアシスト、ザフィーラさん。それでこそ盾の守護獣。
「いや、でもさ、やっぱ──」
「ごめんなさい、ヴィータちゃん。でも、私はアレが好きなんです。大学を出て平凡な暮らしをするより、スリルと興奮を感じられるアレの方が私には魅力的なんです」
「……分かったよ。そこまで言うなら、もうあたしは何も言わない。でも、一人では絶対行くなよ。最低でも二人以上で行くんだぞ」
私の説得に折れたのか、しぶしぶといった感じで矛を収めてくれた。……ありがとね、ヴィータちゃん。
「あー! 何するんですかっ!? 返してくださいー!」
「ん?」
突然、食事を再開した私達の耳にかしましい叫び声が聞こえてきた。声のした方を見てみると、そこには瞳に涙を浮かべたリインちゃんと、それを意地の悪そうな笑顔で見つめるアギトちゃんの姿があった。ちなみに、そのアギトちゃんの両手にはデザート用のプリンが抱えられていた。
……はあ、またか。
「へっへーん、お前のプリンはアタシのプリン。アタシのプリンはアタシのプリン!」
「なんというジャイアニズム! これだから野生のモンキーは!」
「んだとテメー!」
「あなたなんかモンキーで十分! プリンなんて上等なもの食べるより、ジャングルでバナナを皮ごと貪ってた方がよっぽどお似合いですぅ! このエテ公!」
「上等だコラァッ!」
リインちゃんの挑発に眉を逆立てたアギトちゃんは、抱えていたプリンを食卓に置くと、自分の前に置かれていたお皿からむんずとウインナーを両手で掴み取り、
「オラァ!」
背中に生やした赤い羽をはためかせ、リインちゃんに向かって突貫。一瞬で目の前まで移動し、掴んだウインナーをリインちゃんの顔面にミスターフルスイング。
「おふぅっ!?」
ばちーん! と良い音を立ててリインちゃんの頬に命中し、盛大に吹っ飛ぶ。
「……くっ、こっ、この! よくもやってくれたですぅ!」
食卓の上をゴロゴロと転がったリインちゃんは、体勢を立て直すと近くにあったリインさんのお皿からアギトちゃんと同じようにウインナーを掴み取る。
「あ、私のウインナー……」
そして、雄叫びを上げながらアギトちゃん目掛けて突撃。だが、それを見たアギトちゃんは余裕の表情でウインナーを構え直し、反撃をするために、突っ込んでくるリインちゃんを睨みつける。
「来い、このバッテンチビ! テメーなんかホームランだ!」
「ところがぎっちょん! そうはいかんざき!」
「ん? なっ!?」
驚くアギトちゃんの体には、いつの間にやら光のヒモ、バインドが幾重にも絡みついており、その動きを封じ込めていた。
「テ、テメー! 汚ねえぞ!」
バインドを解除しようと必死に体に力を込めながら、目前に迫ったリインちゃんを睨みつける。が、リインちゃんは聞く耳持たず、突貫の勢いそのままにアギトちゃんに接近し、
「奥義、月架美刃!」
「ぶふぇっ!?」
引きつった顔でリインちゃんを見上げるアギトちゃんの顔面に、大上段から思いっきりウインナーを叩きつける。首が陥没するんじゃないかと思うほどの打撃を喰らったアギトちゃんは、無様な悲鳴を上げて地面に倒れ伏す。
それを見たリインちゃんは、背中を向けてブンッとウインナーを一振りし、決め台詞。
「我に、断てぬもの無し……!」
「う、ぐ……バ、バッテンチビ、よくもやってくれたじゃんか。もう容赦しねーぞ……」
「ほう、まだ息があったですか。安らかに眠っておけば良かったものを」
倒れ伏したアギトちゃんだったが、首をブンブンと振って意識を取り戻し、怨嗟の声を発しながら再びウインナーを手に立ち上がる。
……そろそろ止めた方がいいかな。
「リインちゃん、アギトちゃん、今はお食事中ですよ。ケンカならご飯を食べた後にしましょうよ。それに、食べ物を粗末にしたらお百姓さんが──」
「くたばれーっ!」
「チェストー!」
私の話なんか聞いちゃおらず、うーやーたー、と再びチャンバラごっこを開始してしまった。まったく、相変わらずなんだから。
……こうなったら、少し痛い目を見てもらわないとダメかな?
『シグナムさん、シグナムさん。あの人の話を聞かない二人に、ちょっとお仕置きしてもらえませんかね?』
食卓の上空で暴れている二人に気付かれないよう、念話で部下に指示を出す。
『……オーケー、ボス』
忠実な部下であるシグナムさんは、私にアイコンタクトと念話で返事を返すと、箸を置いて立ち上がり、ガンダム同士でビームサーベルの切り合いをするかのように空中を飛びまわっていた二人を、持っていたウインナーごと両手でガシッと掴む。
「おわ!? なんだよシグナム! 放せよ!」
「シ、シグナム、なんだか目が怖いですぅ……」
そして、その手を大きく開けた自分の口に持っていくと──
「いただきマウス」
ぽいっと口内に放り込んでしまった。
『アッーーーーー!?』
頬をリスのように膨らませたシグナムさんの口の中から、悲惨な悲鳴が聞こえてくる。……うーん、これはちょっとやり過ぎな気もするけど、大人しくなるからいっか。
「……シグナムさん、そろそろ解放してあげてくださいな」
十秒ほど経つと中から悲鳴が聞こえなくなったので、ちょっと心配になった私はシグナムさんにお願いして二人を開放してもらうことにした。
「……ん」
こくっと頷いたシグナムさんは、閉じていた口を開けて哀れな犠牲者を口内から取り出す。でろーっと。
「……お、お前、これはねえだろ」
「……ドロドロ極まりないですぅ」
暗闇と閉所から解放された二人は、さっきの元気はどこへやら、すっかり大人しくなっていた。……そりゃあ、あんだけドロドロになれば嫌でも静かになるか。
そんな大人しくなった二人を見て、シグナムさんが一言。
「……まったりとして、コクがある。ジューシー?」
「知るかボケ!」
「リインは食べても美味しくないのですよぅ……」
ま、ケンカ両成敗ということで二人には大目に見てもらうとしよう。
騒がしくも楽しい朝食を終えた私達は、いつものようにそれぞれが自由な時間を過ごす。
今日は平日だが、高校を卒業した私もその例に洩れず、まったりとオタクライフを楽しんでいる。
「右だ! 姉御!」
「左です! ヴィータちゃん!」
「耳元で怒鳴るな!」
今はリビングでヴィータちゃんと某ガンダムゲームで対戦しているのだが、観戦しているアギトちゃんとリインちゃんがヴィータちゃんの肩の上で騒いでるせいか、実力を出し切れず私にいいようにやられている。
「ああ、やられた……」
「情けねえぞ、姉御!」
「もっと集中するです! タネが割れるくらい!」
「お前らのせいで集中できないんだよ!」
騒ぐヴィータちゃん達を横目に、私はコントローラーを一旦置いて他のみんなの様子を見てみる。
ザフィーラさんはホネッコをかじりながらシッポをパタパタさせてソファーに座っており、その隣でシグナムさんが黙々とマンガを読んでいる。
視線をパソコンに移せば、そこにはリインさんが陣取っており、ヘッドフォンを装着して画面を食い入るように見つめながらマウスをクリックしている。
シャマルさんの姿は見えないが、この時間ならばいつものアレをやっているのだろうから、関わるのは止めておこう。
しかし、なんというか……
「私達って、端から見たらホントにニートの集団ですよね」
思わず、呟いてしまった。
「今さらだろ、そんなの。でも、今は一応働いてるんだし、ニートって言うほどじゃないんじゃね?」
その呟きに答えたのは、隣でコントローラーを握るヴィータちゃん。そちらを見てみると、肩に止まっていたリインちゃんとアギトちゃんはいつの間にか移動しており、ザフィーラさんにまとわり付いていた。
迷惑そうなザフィーラさんと、楽しそうにシッポを引っ張る小さな二人から目を離した私は、置いていたコントローラーを手に取ってゲームをスタートさせながら、ヴィータちゃんに言葉を返す。
「そうでしたね。っと、そういえば、今日はお仕事はありませんでしたっけ?」
「ああ、今日は無いな。って言っても不定期だからな。いきなり連絡が来るかもしんねえし、一週間経っても何も無いかもしんない。……ハヤテは今日は行かないのか? アレ。よかったらあたしが付き合うけど」
「今日は……止めときます。みんなとゆっくりしたい気分なので」
「そっか」
アレも好きと言えば好きなんだけど、こうしてみんなと過ごす時間も大切だからね。それに、学校と言うくびきから解放された今、いつでも好きな時に行く事が出来るんだ。焦る必要は無い。……学校は学校で、結構楽しかったけどね。
「機体決まったな。それじゃ、始めるぜ」
少し堅苦しい話を終えた私達は、気を取り直して再びゲームで対戦することにした。
「ええ、どうぞ。今度もコテンパンにしてあげますよ」
「へっ、邪魔者が居なくなったんだ。負ける理由が無い──」
「あーっ! またやるんですね! ヴィータちゃん、ファイトですぅ!」
「応援してやるよ、姉御!」
「お前らこっちくんなぁ!」
リインちゃんとアギトちゃんを私達の方に追い払ったザフィーラさんが、こちらを見てニヤリと笑った気がした……
夜。
もうニートでいいや、ってな感じで一日中遊び呆けた私達は、夕食を食べ終えた後、順番にお風呂に入ることにした……のだが、ここで一つの問題が発生した。
それは……
「シグナムさん、お風呂一緒に入りましょう」
「いや、ミーはアギトと一緒に入るんで」
「リインさん、一緒に入りましょう」
「いや、私は愛する妹と一緒に入るので」
「シャマルさ──」
「嫌よ」
誰も、一緒にお風呂に入ってくれない!
……いや、分かってたさ。毎日のように頼んで、毎日のように断わられ続けたからね。それこそ小学生の時から。
でも! 諦めきれないんだよ! おっぱいが揉みたいんだよ!
……ああ、最後に生で揉んだのは、一体いつだったかなぁ。寂しいよう、揉みたいよう。
「ハヤテ、その、なんだ……あたしが一緒に入ってもいいぜ?」
「ヴィータちゃん……お気持ちは嬉しいのですが、その……胸が……」
「……だよな」
いけない、要らぬ気遣いをさせてしまった上に、好意を無下にしてしまった。私はなんてダメな主なんだ。反省せねば。
「ヴィータちゃん、あの、やっぱり一緒に入ってもらっても──」
「お姉ちゃん、たまにはハヤテちゃんとお風呂に入ってもいいんじゃないですかぁ? なんだか涙目で悲しんでますし」
「む、まあ、お前がそう言うなら、一緒に入ってもいいかもしれんな」
「お願いしまーす! 一緒に入ってくださーい!」
「ハヤテ……お前って奴は……」
ごめんね、ごめんねヴィータちゃん。こんな主でごめんね。おっぱい星人でごめんね。でもどうか許して。
就寝時。
全員がお風呂に入り、もういい時間になったので、私達はいつもの寝室に移動して床につくことにした。今はみんなで手分けして布団の準備をしているところ。
いやー、しかし今日は楽しかった。お風呂とか、お風呂とか、あとお風呂とか。
「やはり、妹の頼みとはいえ一緒に入るんじゃなかった……」
「ごめんなさい、お姉ちゃん。まさかハヤテちゃんがビーストと化すとは思いもしなかったですぅ……」
ツヤツヤした顔をしている私の横で、憔悴しきったリインさんがうつむいている。……なんというか、ごちそうさまでした!
「……よし、準備完了。それでは皆さん、寝るとしましょうか」
布団も敷き終え、就寝準備は整った。後は寝るだけだ。ふふ、今日は良い夢が見れそうだなぁ。
「そういや、今日はアイツ来なかったよな」
みんなが思い思いの場所に潜り込んで、いざ夢の世界に! と枕に頭を乗せようとしたところで、ヴィータちゃんがふと呟く。……アイツと言うと、あの人か。
「そういう日もあるでしょう。明日あたりにまた訪ねてくるとは思いますけどね」
「ま、それもそうだな。あたしとしてはずっと来てほしくないんだけどな」
うん、気持ちは分かる。あの人は、色々とアレだからな。悪い人ではないんだけど。
取り敢えず、今はさっさと寝ることにしよう。夜更かしは美容の天敵って言うしね。
「それでは皆さん、おやすみなさい。良い夢を」
うーい、とか、おやすみー、とみんなが返事をして、それぞれが眠りにつく。
「……良い夢を」
もう一度小さく呟き、私も夢の世界に旅立つことにした。
こうして、八神家の騒々しくも愉快な一日は終わりを告げる。みんなの温かい体温に包まれながら。
そして、また明日になれば、今日と同じような楽しい一日が始まりを告げることだろう。
ああ、本当に、今日は良い夢が見れそうだ……
翌朝。
「夢は見れたかよ」
「……ええ、おかげさまで」
「そうか。だったら胸から手を離せ、このおっぱい超人が」
「ありがとう、究極の褒め言葉だ」
いい夢が、見れました。
あとがき
というわけで、STSちょっと前の話を書いてみました。
次回からやっと本編の続きが始まります。また更新が遅れそうですが。
あと、今の内に言っておきますと、STSで出てくるキャラはまともな人間がほとんど居ないかと思います。
これは仕様です。悪しからず。
スバルとティアナが……やばいです。エリオとキャロも……ひどいです。
まあ、一番やばいのはスカさんなんですが。