「ヴィータちゃん、はいこれ。どうぞ」
「ん? 何だ、これ」
「日記帳ですよ。デパートの福引であたったんです。捨てるのも勿体無いので、ヴィータちゃんにあげようと思って」
「日記ねぇ。ハヤテは書かないのか?」
「私は……日記にはあまり良い思い出がないもので」
「ふぅん。まあいいや、もらっとくな。サンキュー」
つってもなぁ。こんなんもらっても、あたしの毎日はアニメ、マンガ、ゲームで占められてるからなぁ。そんなん記録しても面白味がねえよな。もっとなんかこう、エキサイティングな出来事を記録したいもんだな。んー、どうしたもんか……
「そんな!? スネーク! 嘘だと言ってくれ! スネェェーク!」
「シグナムさん、もう少し静かにお願いしますね?」
「アイムソーリー、ヒゲソーリー」
……そういや、すぐ間近に面白い奴がいたな。
いいこと考えたぜ。
『○月×日 ハヤテから日記帳をもらったので、折角だからつけてみることにした。ただ、あたしの代わり映えしない毎日を記録してもすぐに飽きてしまうだろうから、代わりにシグナムの行動を観察して、ここに記録してみようと思う。毎日のように外出する奴が外で何をやっているのかも気になっていたところだから、丁度いい。早速明日から実施してみよう。どんな珍行動を取るのか楽しみだ』
──観察一日目
今日もシグナムは朝からハイテンションだ。早朝から起きだした奴はリビングに移動し、ここ毎日の日課になっているジョジョ体操を始めた。
「ウリイイイイイ!」
と叫んで上半身をのけ反らしたり、
「やれやれだぜ」
と格好つけてジョジョ立ちをしたりと、なかなかに香ばしい体操だ。ニコニ〇動画でこの体操を発見して以来、飽きずに毎日やっている。どこからかテープまでゲットしてきて大音量でリビングに流すものだから、もう慣れたとはいえ、正直ウザイ。
「ランニングに行ってきますですのことよ」
体操を終えた奴は決まってランニングに行く。いつもなら黙って見送るところだが、今日はこっそりとついて行くことにした。
「翼は天を駆ける!」
玄関を抜けた奴は、雄叫びを上げながら爆走を開始。荒木プロダクション作画と見まごう不思議なフォームで道路を駆ける。心なしか横顔もソルジャードリーム。
「お勤めご苦労様でござる!」
「やあ、ニートさん。今日も元気だね」
道行くサラリーマンに挨拶を交わしながらランニングしていた奴は、近くの河原で止まり、一分ほどシャドーボクシングをする。その後、小石を川に投げて水切りを十回ほど堪能し、満足そうな顔で来た道を戻る。
「ニートさん、今日も働かないんですね」
「フハハ、羨ましかろう」
帰り道に遭遇する学生に声をかけられながら道路をひた走る。あいつ、わりと顔を知られてるんだな。ていうか通り名がニートさんなんだ……
家に帰った奴は、みんなと一緒に朝食を食べた後に掃除と洗濯を開始する。当初はよくサボっていたのだが、ハヤテにお小遣いを減らされそうになったので真面目にやるようになった。
「エッチなのはいけないと思います」
なぜかメイド服の騎士甲冑を装着した奴は、手慣れたように各部屋を掃除していく。あたしもよく手伝うのだが、今日のところは遠くで観察していることにしよう。
一通り掃除を終えると、奴は洗濯機から服を取り出しベランダに干し始めた。
「ハッピー、うれぴー、よろしくねー」
意味不明の言葉を口ずさみながら洗濯物を物干し竿に掛けていく。それにしてもこいつ、独り言が多いな。
「出掛けてくるっぽー」
昼食を食べた奴は、しばらくリビングでゴロゴロしていたが、急にソファーから立ち上がって外に出ていってしまった。
あたしもハヤテに断わって外に出て、シグナムを尾行する。奴は頭の上で手を組んで、のん気そうに鼻歌を歌いながら道を歩いている。さてさて、昼間は外で一体何をしているんだろうか。期待に胸が高鳴るぜ。
「……ゲーセン、か。わりと普通だな」
奴が最初に足を運んだのは、駅前にあるゲームセンター。あたしやハヤテもよく来る場所だ。
あたしもシグナムに続いて中に入り、見付からない様に物陰に隠れながら観察を続行する。しばらく店内をブラブラしていた奴は、とあるクイズゲームの筺体(きょうたい)の前で立ち止まる。どうやらあのゲームで遊ぶことに決めたようで、椅子に座りコインを入れた。
「予習のジャンルは、やはりアニメ&ゲームでござるな」
タッチ操作タイプの画面に触れて、ゲームを始める。あれは確かオンラインのクイズゲームで、全国のプレイヤーとリアルタイムでクイズ勝負出来るってやつか。予習の問題に答えた後に、プレイヤー同士の対戦が始まるんだったな。
「来たな、プレイヤー共が。まとめて葬り去ってくれる」
予習も終わり、プレイヤー同士の勝負が始まったようだ。奴は慣れた感じで画面を指で触れていき、問題に次々と答えていく。
「ふん、ザコ共が。賢者の私に勝てると思うなよ」
一回戦、二回戦と勝ち抜いていき、奴は見事最終ラウンドまで生き残った。この最終戦、十二人から四人まで減ったプレイヤーがそれぞれ自分でジャンルを選んで、その選んだ四つのジャンルの問題が出るといったもので、シグナムは当然のようにアニメ&ゲームを選んだ。
「……く、こいつらあっしの苦手な社会ばっか選びやがって」
どうやらかなり苦戦しているようで、結果は芳しくないようだ。
「おいどんが、四位……シノブ、ノエル、ファリン。貴様ら、覚えていろよ」
結果に不満があるようで、上位三名のプレイヤー達に呪いの言葉を吐きだす。ゲームに熱くなりすぎだろ。
クイズゲームで遊んだ後、奴は格ゲーや音ゲーなどにも手を出し、一時間くらいゲーセンで時間を潰していた。が、
「小腹が空いたな……あそこに行くか」
そう呟くとゲーセンを離れ、どこかへと歩き出した。向かった先は、全国どこにでもあるファストフード店、マク〇ナルド。
「……さて」
奴は店の前で一度立ち止まり、中に入ると見せかけて、なぜか横にある路地裏へと入ってしまう。が、すぐにそこから出てきた。……ドナ〇ドの姿に変身して。
「いらっしゃいま──」
「ドナ〇ドです」
そしてそのまま店内に突入する。あいつ、何考えてんだよ。
「教祖様だ! 教祖様が布教に参られたぞ!」
「教祖様、いつものあれお願いします!」
「もちろんさぁ。みんなも一緒にやってみよう。いくよー? せーの」
『らんらんるー☆』
店内にいた大多数の人間がドナ〇ドと一緒にらんらんるーをやっている。ちょっと待て、何なんだ、それは……
「教祖様、いつもありがとうございます。なにかご所望の品はございますか?」
「ん~、ハンバーガー四個分くらいかな?」
「みんな! 教祖様はハンバーガーをご所望だ!」
「店員さん、ハンバーガーください!」
「こっちもください!」
なぜか次々とドナ〇ドの前にハンバーガーが置かれていく。そろそろついていけないんだが……
「ドナ〇ドのことが大好きだなんてうれしいなぁ。ド〇ルドは嬉しくなるとついやっちゃうんだ。らんらんるー☆」
『らんらんるー☆』
「いやー、ちょろいもんよ」
脇にハンバーガーが詰まった袋を抱えたシグナムは、ホクホク顔でバーガーをパクつきながら道を歩いている。大食漢なあいつが最近夕食におかわりしなくなったと思ったら、こういう訳だったのか。
「さて、腹ごなしに運動でもするか」
歩きながらハンバーガーを食べ尽くした奴は、近くの公園まで移動し、中央の広場でサッカーをしている子ども達に声を掛ける。
「坊主共、キレイなお姉さんが遊びに来たぞー。混ぜろコラ」
「またですか、ニートさん。あんた働かなくて大丈夫なんですか?」
眉をひそめる子ども達の輪の中に無理矢理入り、サッカーに興じるシグナム。奴は色々と駄目な気がするな。
「バズーカチャンネル!」
「ぐほっ!」
「ちょっと! 味方に向けて蹴らないで下さいよ!」
「ストーンヘッジ!」
「話を聞け!」
一時間ほど子ども達とたわむれたシグナムは、
「今度遊ぶ時はポケモンバトルしようぜ!」
という言葉を残して風のように去るのだった。ガキ達にとっちゃいい迷惑だな、あれ。
「ただいまー」
公園を出たシグナムはそのまま家に帰ったので、あたしも少し時間をずらしてから帰った。玄関を抜けると、リビングから顔を覗かせたハヤテが出迎えてくれる。
「あ、お帰りなさい、ヴィータちゃん。そろそろ夕ご飯ですよ」
「ん、分かった」
「……なんか疲れてません?」
「まあ、ちょっとな……」
なんというか……一日観察していて改めて分かったんだが、奴は変人すぎるな。日記に書くネタには困らないけど、見ていて疲れるぜ。毎日長時間観察してたら心が病んでしまいそうだ。観察するのはあと二、三日くらいにしとこうかな。
「みんなー、ご飯できたわよー」
シャマルの声が家中に響く。丁度いい時間に帰って来たようだ。
「めーし、めーし」
食卓まで移動すると、そこには箸でおわんをカンカンと叩いている大食漢の姿が。さっきあれだけバーガー食ったのにまだ入るのかよ。お前の胃袋は宇宙か。
「皆さん揃いましたね。それでは食事の挨拶を」
手を合わせて、
『いただきます』
「いただきマスオ」
……こいつの挨拶、今までツッコンだ事ないけど、実はツッコミ待ちしてんじゃねえかな。まあ、ツッコンでやらんが。
「びゃああああ! うまい!」
「シグナムさん、もう少し静かにお願いしますね?」
「アイムソーリー、イヌソーリー」
「あ、そうだ。犬ソリと言ったら、ザフィーラさん、もし冬に雪が降って積もったら、ソリを引いて乗せてもらえませんかね?」
「我はエスキモー犬ではないのだが。まあ、考えてやらんでもない」
「ならあたしも乗せてくれ」
「あら、いいわね。私も乗りたいわ」
「拙者も」
「貴様ら……」
いつも通りの夕食を終え、就寝の時間を迎えたあたしは、今日見たシグナムの行動を日記に書きこんでから床につくのだった。
『○月×日 ニートは朝からハイテンション。エッチなのはいけないと思う。ゲーセン通いのニートは始末に負えない。ドナ〇ド降臨。自重しろ』
……まあ、こんなもんか。
──観察二日目
翌日。体操をしているシグナムの「フリィィーズ!」という奇声で目が覚めたあたしは、再び奴の観察をすることにした。
奴は昨日と同様に体操の後にランニングに行き、道行く人に声を掛けられながら河原まで移動。中国拳法の型のようなものを一分間反復練習し、その後水切りを楽しんで家に戻る。
「禁則事項です」
家に帰り朝食を食べた後、奴はミニスカートのウェイトレス姿になり、鼻歌を歌いながら軽快に掃除機を操り部屋を綺麗にしていく。掃除を終えると、今度は洗濯物をベランダに干す。
ここまでは昨日と大差ないな、なんて思っていると──
「あー、主。あちき、今日は昼と夜は外で済ませてくるんで。それと帰りも遅くなるっす。深夜あたりに帰ると思うんで、先に寝てて構わないよん」
「おや、珍しい。遠くへお出かけですか?」
「ふふーん。ちょっとデートにね」
「ふぇ、デート?」
いきなり爆弾発言をかましやがった。こいつ、誰かと付き合ってやがるのか? 今までそんなそぶり見せたこと無かったのに。
「恋人でも出来たんですか? 相手はどんな方ですか?」
「主も知っている奴ナリよ」
「なんと。んー、でも、心当たりがまったくありませんねぇ」
「ま、帰ってきたら話すっすよ」
「土産話、期待してますね」
「あい。んじゃ行ってくるじゃん……転移!」
「ちょっ!?」
デートだというのに次元転送で別の世界へと行ってしまった。相手は別世界の住人? 遠距離恋愛にもほどがあるだろ。
しかし相手が気になるな。あのシグナムと付き合える人間なんて本当にいるんだろうか。……あたしも後を追って尾行してみるか。
「ハヤテ、ちょっと後つけてくるわ。あたしも帰り遅くなるかもしんない」
「人の恋路を邪魔しちゃいけませんよ? ほどほどにしてくださいね」
「おう。んじゃ……転移!」
シグナムの足跡を辿り、あたしも奴と同じ世界へと転移する。って、あれ? この座標って確か前に行った……
「ブルーっち。傷も癒えたようだし、これで気兼ねなく戦えるねん。今回は一対一の真剣勝負だぜ」
『マッテイタゾ。ヨウシャハセンカラナ』
「ふっ、望むところだっぜ」
転移した先では、以前戦った巨大なドラゴンとシグナムが睨み合っていた。
「デートって、こういうことかよ……」
物陰に隠れて様子を窺いながら、嘆息する。まったく、まぎらわしいこと言いやがって。
まあ、あのバトルマニアにとっちゃ、愛を語らいながら街中を歩きまわることより、剣を振り回して魔法ぶっ放してる方が百倍は楽しいんだろうけどな。
しっかしあのドラゴンに一人で勝てんのかね。大怪我しなけりゃいいが。
……仕方ねえ。ここは一つ、無茶をしない様にあたしが見張っててやるか。
「んじゃ、バトルスタート! シャドウランサー、いけ!」
あたしがこんな気遣いをしているなんて露ほども気付いていないシグナムが宙に飛び上がり、手のひらから光の剣を次々と生み出し、滞空させたそれをドラゴンに向けて一気に放つ。
『フン』
が、その刃の嵐は無造作に振るわれた爪の一薙ぎで霧散してしまう。やっぱあのドラゴン、半端ねえな。
「いいねいいね~。やっぱこういう歯応えがある戦いじゃないとね。そいじゃ続けて、ミラージュサイン!」
改めてドラゴンの実力を目の当たりにして歓喜の声を上げたシグナムは、右手に剣を持ち、ドラゴンに向かって突貫する。
「……ん?」
なんと、突貫した奴の輪郭がブレたと感じた瞬間、シグナムの体が四つに増えた。……幻術魔法か。あんなん使えたんだな、あいつ。
『本物は、どれでしょう!』
幻影を従えたシグナムが、さらに加速して突き進む。それに対してドラゴンは──
「ボハアアアアア!」
灼熱の炎を前方に吐き出し、もろともに蹴散らそうとする。だが、シグナムはそれを予測していたようで、上下左右に分散してかるがると避け、
「く」
「ら」
「い」
「な」
炎をかいくぐったまま速度を落とさずに、ドラゴンの胴体に突っ込み……
スカッ!
「えっ?」
そのまま体をすり抜け、消え去る。あれは……四体とも幻影? じゃあ本体はどこに……
「上か!」
強大な魔力反応を感じて空を見上げてみると、キョロキョロと辺りを見回しているドラゴンに、魔力を凝縮した剣先を向けているシグナムがいた。幻影は大技を決めるためのオトリだったのか。高速移動魔法か幻術魔法を使ったかは分からないが、あたしとドラゴンの目を欺くとはやるじゃねえか。
「風刃閃!」
シグナムの叫びと共に剣先から巨大な竜巻が発生し、眼下にいるドラゴンをすっぽりと包みこむ。風の牢獄に囚われたドラゴンは身をよじらせて脱出を試みているが、その致命的な隙をシグナムは見逃すはずもなく、
「続けて、奥義!」
光り輝く剣を腰だめに構えた後、残像が見えるほどの速度で一気に下降し、
「光刃閃!」
竜巻もろともドラゴンの体を上段から斬り裂く。
「らぁ!」
地面に着地したシグナムは、巻き戻しをするかのように再び驚異的な速度で飛び上がり、下段から斬りつける。
「もういっちょ!」
剣を振りぬくと、今度は斜め上から襲いかかり斬撃を加える。
「まだ終わらん!」
さらに追撃は続く。上下左右正面背面、ありとあらゆる角度から光の剣閃がドラゴンに襲いかかる。
そして、数十の剣撃をドラゴンの体に刻みつけたシグナムは、とどめとばかりに剣を大上段に振り上げ、
「これで、終わり!」
胴体を思いきり斬りつける。
今まで斬撃に耐えていたドラゴンだが、その最後の攻撃を食らい、力尽きたように前のめりに倒れ伏す。この勝負、シグナムの勝ちか。
……それにしても、あいつ、こんな強かったんだな。あたし、ガチでやって勝てるかな?
『グ……ヤハリ、ツヨイナ』
ドラゴンが呻きながらシグナムに話しかける。どうやら非殺傷設定で戦っていたらしく、ドラゴンの体には傷は無く、魔力ダメージのみ受けているようだ。
「今回は幻術がうまく決まったからねん。次は分かんないぜい?」
『フ……』
笑みを交わし合うシグナムとドラゴン。その様は、まるで恋人と語り合うカップルのようだ。美女と野獣ってやつか? まあ相手はドラゴンだが。
「んー、ちょっとやりすぎちゃったかな? オレっちの魔力を受け取るがいいさ」
ドラゴンの様子を見て首を傾げたシグナムは、自らが倒した相手に魔力を分け与え始めた。自分のケンカ相手兼使い魔みたいなもんだからな。大事にもするか。
「よしっと。これで動けるっしょ。……運動したらお腹空いちった。飯にしようぜ飯に」
『ソウダナ』
食事の提案をしたシグナムは、元気を取り戻したドラゴンの背中に飛び乗り、一緒にどこかへと飛び去ってしまう。さっきの死闘が嘘みたいに仲が良いな、あいつら。
「にしても、飯か」
一体何を食うんだろうか。戦いも終わったから帰ろうかと思ったけど、ちょっと気になるな。もう少し尾行してみるか。
「そっちに逃げたぞ! 踏み潰せ!」
ズーン! プチッ。
「ナーイス!」
低空飛行しながらシグナム達を尾行すること十分。何を食うのかとしばらく観察していたのだが、ようやく答えが分かった。
ボオオオオ!
「ウンババ、ンバンバ、メラッサメラッサ」
ドラゴンの丸焼き食う気だ、こいつら……
まさか、いきなり地面に降り立ってドラゴン狩りを始めるとは思わなかったぜ。シグナムはまだ分かるが、あのデカイドラゴンは共食いになるんじゃねえのか? いや、ドラゴンって元々そういう生き物だったっけ。
「ウルトラ上手に焼けました~♪」
シグナムが起こした火に全長五メートルほどのドラゴンがあぶられていたのだが、今はこんがりと焼けて香ばしい匂いを放っている。ワイルドだが、なかなか美味そうだな。
「ほれ、あーんしろ、あーん」
『アーン』
切り分けた肉を剣でぶっ刺したままドラゴンの口に運んでやるシグナム。ホント仲良いな、おい。
シグナム自信も肉を運ぶかたわら、かぶりついて美味そうに食っている。
そして、ドラゴンの丸焼きをわずか五分ほどで食いつくしてしまった。まあ、あのデカイドラゴンだったら丸呑みもできそうだったからな。これでも時間かかった方か。
「ふいー、食った食った。ドラゴンってかなり美味いんすね。……ブルーなら、もっと美味いかも?」
『ッ!?』
「冗談さあ。……でも、シッポだったらまた生えてきそうじゃない? 食べちゃダメ?」
『コトワル!』
食事を終えたシグナム達は、そんな会話をしながら食後のひと時を過ごしている。……なるほどな。これは確かにデートと言えなくもないか。あんなに楽しそうなシグナムは滅多に見れないしな。
「よーし、腹も膨れたし、次は飛行勝負しようぜい。どっちが速く飛べるか勝負だ!」
『イイダロウ』
休息もそこそこに、またもや勝負を始めるバトルマニア達。こいつら、こんな調子で一日を過ごすんだろうなぁ。
「……邪魔者は、帰るとしますかね」
シグナムの大事な時間を奪っちゃ敵わないからな。人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやら、だ。
「さーて、それじゃ──」
きゅるるるる。
転移しようとした瞬間、あたしのお腹の虫が咆哮を上げる。ドラゴンの丸焼きの匂いに当てられたか。
ドラゴンの……丸焼き……
「……ゴクリ」
「ウルトラ上手に焼けました~☆」
ドラゴン、ギガうま。
『○月×日 シグナムは相変わらず変人。あとバトルマニア。まあ、あいつが楽しけりゃそれでいいか。……ドラゴン、また食いてえ』
……日記つけんの、めんどくさくなってきたな。もういいや。
あとがき
外伝ばかりですいません。
ここで一つご報告を。三十一話、三十二話で、ボコッた犯罪者はミッドチルダに転送されていた、というような描写がされていましたが、これを「ミッドチルダ」ではなく、「近くの管理世界の警察機関」に修正しました。
修正した理由なんですが、個人で行う次元転送では長距離間の転送は無理だという設定に気が付いたからです。ネタ・ギャグといっても、この設定の無視はまずいかなと思い、修正した次第です。
作者の勘違いで適当なことを書いてしまい、申し訳ありませんでした。