~八神はやて様のお料理地獄 肉じゃがの巻~
「さあ、覚悟はええかぁ! このはやて様がたっぷりと料理してやるわ!」
材料:豚バラ、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、糸こんにゃく、いんげん
STEP 1
「まずはジャガイモ! そしてニンジン、貴様らや!」
皮をむきむき、
「乱切りじゃあああ!」
ここで一度水洗い。
「お次は玉ねぎ、貴様や! 永沢君の頭みたいな形しおって!」
皮をむきむき、
「くし切りじゃあああ!」
続いて、糸こんにゃくをざるにあげて水洗い。
ザアアアア!
「…………」
さらに、いんげんのスジを取り、塩ゆでをしておく。
グツグツグツ!
「…………」
この間に、豚バラを切り分けておく。
「この豚ヤロウ! いいツヤしてるやないか! ズタズタにしてやんよ!」
STEP 2
鍋に油を入れ、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを炒める。
ジャアアッ! ジャアアッ!
「フハハハハハ! 地獄の業火を受けるがいい! バルス!」
よく野菜に油がなじんだら頃合い。その次は、豚バラをフライパンで炒める。
ジュウウウウ!
この時は、火力は弱めでいい。ミディアムやウェルダンでもなく、レアな感じで。
「どや? じわじわといたぶられる気分はどうや!?」
そして、その軽く炒めた豚バラを鍋に入れる。あと糸こんにゃくも入れる。
ドバドバドバ!
「ああ、ええ感じやで。糸こんにゃくとくんずほぐれつするその姿、なんとエロティックなんや。今すぐ食べてしまいたいくらいや……」
STEP 3
鍋に水を入れて、火にかける。
「消し炭になれ!」
ボオオオオオオ!
火にかけている間、アクを取り除く。
ひょいっ、ひょいっ。
「…………」
沸騰したら火を弱火にして、味をつけていく。
「猿の脳みそがうめーんだよ、脳みそが……」
最初に砂糖を入れる。味をみながら、砂糖の甘みを感じるくらいまで入れること。
ちょび……ぺろ。
「悪くない……悪くなぁい!」
続いて、濃口しょうゆ、薄口しょうゆを入れる。ここではちょっと薄いくらいの味付けでいい。さらにみりんも加える。
ドパドパドパ。
「………あ、ちょっと入れすぎたかな」
STEP 4
ベースとなる味付けは完了。後は、好みで砂糖醤油、みりんを少しずつ入れて自分好みの味付けにする。
ひょい……パク。
「ええで……ええでぇ!」
その後、しばらく弱火で煮る。火を消す目安は、竹串でジャガイモを刺し、スーッと通るようになった時がベスト。
「……アン、ドゥ、トロワ!」
プス……スーッ。
煮物はずっと煮るよりも、冷めている方がより味が染み込むのだ。
LAST STEP
少ししたら、また温めてお皿に盛る。
「盛るぜ~。超盛るぜ~」
最後に、いんげんを切ってその上に散らす。
「ななめ切りじゃあああ!」
ダダダダダダッ! パラパラ。
はい、あっという間に出来上がり。
学校から帰った後、唐突に夕飯が作りたくなった旨を母さまに伝えると、いぶかしみながらも厨房の使用許可を与えてくれたので、さっそく調理を開始したのだった。そして、手慣れたように次々と料理を完成させる。ああ、やっぱり楽しいわぁ、料理。前までそんなことなかったのに、なんでなんやろ?……あ、そういえば、他人に自分の料理食べさせるの今回が初めてや。だからなんやろうかな?
「母さま~、出来上がりました~」
そんなことを考えながら、食堂で待つ母さまの下へ、肉じゃがとその他数品のおかずをお盆に載せて持っていく。
「……厨房の方でなにやら叫び声が聞こえてたけど、何だったの?」
「え? さあ?」
そんなの聞こえたかな? 料理に集中してて耳に入らんかったのかもしれへんな。
「それにしても……ハヤテちゃん、いつの間に料理が出来るようになったのかしら? 私が教えようとしても、いつも煙に巻いて逃げちゃってたのに……」
「え? あ、えっと、……たぶん、ひっそりと練習してたんやないでしょうか。体が勝手に動いてた感じでしたから、長い間料理の勉強してたんやと思いますよ?」
まずい。少し、うかつやったな。ハヤテちゃんの情報をもっと集めてから行動するんやった。こんな言い訳、信じてくれるんかな?
「まあ! まあまあ! 偉いわハヤテちゃん! きっと私をビックリさせようと、陰で努力してたのね! ああ、もう、大好き!」
むぎゅっ、と豊満なおっぱいを私の顔に押し付けて抱きついてくる。ちょろい。ちょろすぎるで、母さま。そしてごちそうさまです。
「あらいけない。せっかくハヤテちゃんが作ってくれた手料理が冷めちゃうわね。早速いただいちゃおうかしら」
しばらく私を抱擁していた母さまだが、料理の存在を思い出したのか、私から離れて料理が並べられたテーブルへと向かい、席に着く。私もその隣に座ることにする。
「……すごいわ。見た目、香り、盛り付け。これだけなら私と遜色ないんじゃないかしら。……ねえ、食べていい?」
「勿論です。そのために作ったんです。……あ、私もいただきます」
並んで一緒に食べる。味見はしたから問題は無いはずや。……他人に食べてもらうって、結構緊張するもんやな。感想がめっちゃ聞きたくなるわ。
「ど、どうですか、味の方は」
「………」
メインの肉じゃがを一口食べてからぴくりともしない母さま。……まずかったんやろうか?
「美味しい……」
ポツリと呟く母さま。それから、また一口、二口と別のおかずに口をつけていく。その顔には、驚きと、そして喜びが溢れていた。
「とっても美味しいわ、ハヤテちゃん。あの人に食べさせてあげられないのが残念なくらい」
あの人とは、おそらく仕事で家に帰ってこれない父さまのことだろう。……そうか、そんなに美味しいんか、私の料理は。
「えへへ……」
思わず笑みがこぼれてしまった。人に料理を美味しいって言ってもらうんが、こんなに嬉しいとは思わんかったで。
「ねえ、ハヤテちゃん。あの人が帰ってきた時に、またお料理してくれるかしら。きっと涙を流して食べてくれるわよ?」
「あ、はい! 喜んで!」
父さまに料理か……今度はお好み焼きでも作ってみようかな。
「ホント、美味しいわぁ。……むしろ、美味しすぎる。あれ? これ、私の料理より美味しくない? 私の母親としての立場は? あれぇ?」
その後、首をかしげる母さまと一緒に全ての料理を平らげた私は、暇そうなメイドさんを部屋に引き入れて、一緒にゲームをして夜を過ごすのだった。メイドさんもノリノリやったし、一日の締めとしては上々やな。
深夜、なぜか厨房で料理をしている母さまの姿が目撃されたとか、されてないとか。
「行ってきまーす!」
「はい、行ってらっしゃい」
明けて翌日。昨日と同じように玄関を抜けた私は、目の下にくまを作った母さまに見送られて送迎車に乗り込んだ。運転手は眼鏡のイケメン、アレックスさんだ。今日も爽やかな笑顔を向けながら、座席に座った私に挨拶をしてくる。
「おはようございます、お嬢様。今日もご機嫌麗しゅう」
「おはようございます、アレックスさん。今日も眼鏡が素敵ですよ」
「はは、私の唯一のトレードマークですので。三十分に一回は磨いてるんですよ」
ああ、確かに眼鏡外したら、ただの影の薄いイケメンに成り下がりそうやもんな。キャラづけはきちんとせなあかんよな。
「それでは発車致しますね」
アレックスさんがハンドルを握る。あ、やばい。この人、運転する時は性格が豹変するんやった。シートベルト、シートベルトと。
「……鷹嘴(たかはし)、送迎最速理論、完成させるのは俺が先だ! うおおおおお!」
「ふぬううう!」
この爆走、毎日味わうことになるんかなぁ?
「お嬢様、到着いたしました。今日も一日がんばってください」
「……うう、すでにがんばったんやけど、まあええです。お仕事、お疲れ様でした。また放課後、よろしくお願いします」
「はい、それでは」
去っていく車を見つめて、よしっ、と気合を入れなおす。今日で登校二日目。昨日の段階で友達は沢山できたものの、まだまだ油断は禁物や。ハブられたりせえへんよう、友好度をさらに上げなあかん。……まあ、あのクラスに関しては、そんな心配する必要は無いかもしれんけど。
気合を入れた私は校門を抜け、昨日の記憶を頼りに昇降口へと向かう。えーと、ここを曲がっていくと、確か花壇があって……
「……あ」
道を曲がった先の花壇には、昨日と同じように花に水を与えているナイスミドル、もとい、校長先生の姿があった。ニコニコと楽しそうに花の世話をしている。……あれって、校長先生がやるような仕事なんかな? まあええ。取り敢えず挨拶はしとこか。
「おはようございます、校長先生」
「はい、おはよう。……おや、君は昨日の。もう一人で教室まで行けるのかい。えらいね」
振りかえった校長先生に褒められてしまった。悪い気はせえへんな。
「それに元気もよろしい。私は元気の良い生徒は大好きだよ。……特に、元気の良い幼女はね」
「はあ、そうですか。あ、それでは失礼します」
「うん。がんばりたまえ」
校長先生に見送られながら、再び昇降口へと向かう。しばらく歩いて、ふとなぜか後ろが気になって振り返ってみると、まだ校長先生がこちらを見ていた。あ、手を振ってくれた。生徒思いの良い先生やないか。
『なあ、初めてひたぎクラブってタイトル見て、カニの方を思い浮かべた奴っているのかな?』
『十中八九、いないでしょうね』
『僕さあ、するがモンキーってタイトル見てさ、そんな名前の猿がいるのかと動物辞典引っ張り出しちゃったことあるんだよね』
『まあ、気持ちは分かるわ』
『ねえ、なでこスネイクを、なでぽスネークと読み違えて想像しちゃった私って、病気なのかなぁ?』
『そんなスネーク、誰も望まねえよ……』
『アガサ博士ってさあ、発明品の特許だけで食べていけると思わない?』
『お前、そんなことしたら世界中で大混乱が起きるぞ。サッカーボールが凶器認定されたり、誰でも騙せるオレオレ詐欺が多発したり』
『ああ、そうだよね。腕時計を触ったら目の前の人が昏倒しちゃいました、なんてことが日常茶飯事の世界なんてごめんだよね』
『なあ、マリサ。俺、宿題やり忘れちまったんだ。見せてくんね?』
『え~、マジ~? 宿題忘れ~? きも~い。宿題忘れが許されるのはぁ、小学生までだよね~』
『いや、俺小学生なんだけど』
『黒野、僕でよかったら見せてあげても──』
『マリサはダメか。あ、おーい高町ぃ~、宿題見せてくんねー?』
『こ、この野郎……』
ようやく教室に到着。今は、ドアの前で教室から聞こえてくるクラスメイトの雑談に耳を傾けているところ。一度顔を合わせてるとはいえ、やっぱり緊張はするもんやな。にしても、相変わらずこのクラスの子達はアレやなぁ。意味が分かる私もアレやけど。
「……よし、そろそろ行こか」
だいぶ落ち着いたし、もう入っても問題ないやろ。というわけで、
ガラッ!
「みんな~、おはよう」
「あ~、ハヤテちゃん、おはよ~」
「おはよう、ハヤテ。遅かったじゃない、もうホームルーム始まるわよ」
「あはは、ゆっくりしすぎやったかな」
「あ、おーい神谷~。宿題見せてくんね?」
「あんたは自分で解きなさい!」
教室に入った私にみんなが挨拶を返してくれる。やっぱり心配するだけ無駄やったみたいやな。(一人を除いて)このクラスの子は良い子ばっかりやで、ホンマに。
ガラッ!
「みんな、おはよう。朝のホームルームを始めますよ」
私がみんなに挨拶を交わしながら席に着くと、すぐにリン先生がやって来た。今日もほがらかな笑顔をみんなに振りまいている。ああ、なんでこんな良い先生の息子があんなダメダメなんやろか。学校での教育と家での教育は勝手が違うもんなんかな?
「きりーつ、礼」
『おはようございます!』
「はい、おはようございます」
私もみんなに少し遅れて立ちあがり、先生に挨拶をする。初めてやったから、タイミングを外してもうた。
「えーと、今日は皆さんにお伝えしなければいけないことがあります」
なにやらばつが悪そうに頬をポリポリとかいている先生。なんやろう?
「せんせー、それ、昨日とほとんど同じセリフですよ」
「……それは、まあ、昨日と同じようなことがあるからなんだけど」
同じこと? まさか、私みたいに記憶が無くなった人間が居るとか?
「えっと、ハヤテちゃんの件ですっかりみんなに言うのを忘れていたのですが、今日は転校生がこのクラスにやってきます。というか、すでにドアの前でスタンばってます」
「また!?」
「フェイトちゃんに続いて転校生が二人目かぁ。すごい偶然だね」
「そうだね。でもわたしと奈乃葉(なのは)の出会いは必然だよ?」
「……気持ちだけで、お腹いっぱいだから」
騒然とざわめく教室。なるほど、転校生やったか。まあ、リン先生が忘れてた理由も納得やけど。
「母さん、転校生は男? それとも女? スカート穿いてる?」
「学校では先生と呼びなさい。転校生は女の子。あと、制服なんだからスカートなのは当り前です」
「あ、いっけね。スパッツ穿いてる? って聞くんだった」
「みんな! このエロノ、転校生を毒牙にかけようとしているわ! ふた目と見られない姿にしてやりましょう!」
『おおー!』
「ま、待て。話せばわか…………らめええええ!?」
ぼこすか、ぼこすか、けちょんけちょん。ふたえの極み、アッーーー!
「皆、そこまでにしてもらえないかしら。その子、まがりなりにも私の子どもだから」
「か、母さん。たまにはアメもくれよ。ムチばっかじゃいつかグレるぞ……」
どうやら、リン先生は叩いて伸ばす教育方針らしい。まあ、このエロノには丁度いいんじゃないだろうか。
「さて、皆さん。そろそろドアの前の子がしびれを切らして突入してきそうなので、紹介したいと思います。迎え入れる準備はよろしいですか?」
はーい、ほーい、と声を返し、入口であるドアを凝視するみんな。さてさて、どんな子が来るのやら。ドキドキや。
「それじゃ、ヴィータちゃん、入ってらっしゃい」
ガラッ!
リン先生の合図を受けて教室に入って来たのは、綺麗な赤毛と勝気な瞳が特徴的な女の子。
その子は、ズンズンと教室で一番目立つ場所、教卓の前に移動したかと思うと、その勝気な顔をクラスのみんなに向けて、言い放った。
「あたしの名前は田中ヴィータ。普通の人間に興味はねえ。マンガ、ラノベ、ギャルゲーが好きな奴が居たらあたしのところに来い。以上」
『お前もかっ!?』