現在、絶賛混乱中の神谷ハヤテです。
「なんですかこれ。私なんでこんな厨二スタイルになってるんですか?」
オマケに動かないはずの足で立ってるし。訳わかんない。
そんな風に混乱している中、またもや頭の中にザクさんの声が響き渡る。
『主よ。それは私と主が融合したからだ』
「ゆ、融合?……先ほどもそんなことをおっしゃってましたけど、あれですか? フュージョンみたいに、合体したら強さが何倍にも跳ね上がるとか?」
その質問に、眼鏡を光らせたマルゴッドさんが嬉しそうに答えてくれる。実は説明好きなのかもしれない。
「うん、その通り。彼女は融合型デバイスといってね、ハヤテ君と融合することで、ハヤテ君の魔法行使の手助けをすることが出来るんだ。オマケに、闇の書に蓄積された魔法も行使出来る。これでハヤテ君は貴重な戦力に早変わりという訳さ。子どもを戦わせるなんて心苦しいけど、今は緊急事態だからね。文句は後で聞くから、この場は協力してくれると嬉しいな」
……な、なるほど、そういうことか。……うん。融合、いいじゃないか。今まで見ていることしか出来なかった私が皆の役に立てるっていうんだ。こんなに嬉しい事はないよ。なにより、一回魔法使ってみたかったし。
「事情は分かりました。そういうことなら、微力ながらお手伝いさせていただきます」
「さっすが主。そこにしびれる、あこがれるぅ!」
「褒めても何も出ませんよ、シグナムさん。まあ、どこまで出来るか分かりませんが、皆さんよろしくお願いしますね」
ぺこりと一礼する私に、手を上げて応えてくれる皆。ああ、これが戦友ってやつか。なんかいいね、こういうの。
「お喋りはここまでにしとこうぜ。あいつ、とうとう動き出しやがった」
怪獣を見てみると、体じゅうから触手やらなんやらを生えさせてウネウネさせながら、
『グオオオオオオオオオオッ!』
なんて、咆哮を上げている姿が目に入った。気持ち悪いなぁ。
「シャマル、管理局が横やりを入れてくるかもしれん。結界を張っておけ」
「そうね。私達はともかく、ハヤテちゃんの顔を見られるのはいただけないわ。強力なのを張っておきましょう。……封絶」
シャマルさんが呟くと、その足元から黒い炎が立ちあがり、彼女を中心にドーム状に広がっていき、私達を、そして怪獣までもを飲み込むほどまでに大きくなる。やがて炎の拡張は収まり、炎の壁が私達と怪獣を閉じ込めるような形になった。
「……ふう。これで心おきなく暴れられるわよ。周りへの被害とかは気にしないで、どんどん魔法ぶっ放しちゃってちょうだい」
「これほどの結界を一瞬で形成するとは、すごいね君は。私のデータによると、ここまでの力を持っているはずはないんだが……」
驚いた様子でシャマルさんを見ているマルゴッドさん。そういえば、レベルアップ現象って今回が初めてみたいだったんだよな。彼女が知らないのも無理は無い。
「そんなんどうでもいいでござるよ。それじゃ、戦闘準備も整ったことだし、一番槍もらうよーん」
「あ、こらっ、またかお前は!」
毎度のごとく突貫するシグナムさん。そしてそれを追うヴィータちゃん。よし、私達も行くとしよう。
「ザクさん。私、魔法初心者なんでサポートお願いしますね」
『それが私の役目だ、任せておけ。……と、そうだ。これを受け取れ』
突然、私の横をふわふわと浮いていた闇の書から光があふれる。が、それは一瞬のことで、すぐに消えた。
「ん、……杖?」
『魔法発動の土台となる、魔法媒体のようなものだ』
光が収まった後、本の横に大きな杖が出現していた。いかにも魔法使いって感じのデザインだ。
浮かんでいる本と杖を手に取り、先行して怪獣に肉薄する二人を見る。
「よおっし、やる気出てきました。っと、……グレン号、私のかっこいいとこ、見ててね。惚れさせてやるんだから」
振り返り、相棒に語りかける。私が実は凄い奴なんだって思い知らせてやる。
───ふっ、楽しみにしているぞ───
……最近、グレン号の声がハッキリ聞こえているように思えてならない。
「ハヤテちゃん、私達も行くわよ。……ザフィーラ、あなたは今回攻撃に参加してもいいけど、ハヤテちゃんが危なくなったら助けてあげるのよ?」
「ふっ、今の主に我の守りなど必要ないと思うがな」
「オーバーSは確実だろうからね。頼りにしてるよ、ハヤテ君」
私に声を掛けながら怪獣目指して飛んでいく三人。よし、私もお空の旅を楽しみますか。……いざ!
「ぶ、ぶぶ、武空術!」
『……はばたけ、スレイプニール』
バサァっと、背中に生えていた羽が大きく広がり、宙に浮く私。……は、恥ずかしい!
『主は、こうしたいと頭の中で念じるだけでいい。それを元に私が最適な魔法を発動する。幸い、魔導師からの魔力蒐集で使える魔法は膨大だ。大抵のことは出来る』
「うう、ありがとうございます。ええと、では行きましょう」
お礼を言い、バサバサと翼をはためかせながら皆の後を追う。結構スピード出るね、これ。
「ごめんねぇ、強くってさあ!」
皆に追いついた時にはすでに戦闘は始まっていた。というかシグナムさんだけ暴れ回っていた。ハチャメチャに動き回るシグナムさんが邪魔で攻撃に移れないのか、皆は上空で待機しているという形だ。
「ふははははは! そんなに私にエロイことしたいのか、この淫獣がぁ! お仕置きだべー!」
迫りくる無数の触手を斬り伏せ、燃やし、凍りつかせている。
そこで、触手の猛攻をさばききったシグナムさんが本体に攻撃を加えようと接近したのだが、
「むぎゅっ!?」
という無様な声を上げて、見えない壁にぶつかったように弾き飛ばされる。あれは、バリア?
「シグナムくーん。奴は四層式の強力なバリアを常時展開してるんだ。あれを壊してからじゃないと、攻撃は通らないよ」
「先に言えっつーの!」
弾き飛ばされたところを触手に狙われたようで、それを斬り伏せながら叫ぶ突撃ガール。聞く間もなく突貫したのはシグナムさんだと思うんだけど……
「あ、すいません皆さん。私、一回攻撃魔法の試射してみたいんですけど、よろしいですか?」
「ん? ああ、構わないよ。コツを掴むのは大事だからね」
「どうせなら派手なのかましちまえよ」
そうだな。初めてで不安だけど、おもいっきりやってみようか。ザクさんもサポートしてくれてるし。
「というわけでシグナムさーん。ちょっと離れててもらえますかー」
「むー、仕方ねー。主の初戦じゃん。花を持たせてあげまっしょい」
触手とたわむれていたシグナムさんが、こちらへと離脱してくる。
「ザクさん、ではいきますよ」
『ああ』
イメージは、そうだな、フリーザ様のあれなんてどうだろうか。
「……デスボール!」
『……デアボリックエミッション』
天にかかげた杖の上に小さな黒い球体が発生する。それは次第に大きくなっていき、やがて半径二メートルほどまで肥大化し、そこで成長が止まる。
「マ、マジで出た……」
『いいからさっさと放て』
それもそうだな。……でもこれ、クラッシャーボールみたいに杖でアタックしたらどうなるんだろうか。破壊力が増したりして……
『杖を振り下ろすだけだ。余計な事はしなくていい』
「わ、分かってますよ。……そおいっ!」
心の中を読まれたかのような指摘にビビリつつ、杖を怪獣に向けて振り下ろす。黒い球体は勢いよく下降していき、展開されているバリアに着弾。そして……
ゴウッ!
と、爆発的に体積を増した球体が、怪獣とその周りに生えていた触手やら怪物の腕やらを包み込む。半径五十メートルくらいには広がったんじゃないのかな。さすがフリーザ様の技。スゲー。
『まだまだ範囲も広げられるし、遠隔発生も出来たのだがな。まあ、初めはこんなものでいいだろう』
淡々とした声で眼下の惨状を評価するザクさん。全力でやったら一体どうなるんだろうか……
「予想してたよりもずっとすごいじゃないか。これならいける。ハヤテ君、見てごらん」
「え? あ、バリアが……」
攻撃を受けている時は可視状態になるのか、バリアがはっきりと見える。怪獣本体を包み込むように展開されているバリアだが、私の攻撃の負荷に耐えられないのか、ビキビキとヒビが入っていっている。
そして、
パリーン!
怪獣を覆っていた球体が消え去ると同時に、一つ目のバリアが砕かれた。確か四層って言ってたよね。ということは……
「残り三つだ。すぐに再生するだろうが、邪魔な触手も消えた今がチャンス。次は私が行かせてもらうよ」
言い終わらぬうちに宙を駆けるマルゴッドさん。怪獣の近くまで一瞬で下降し、その勢いを殺さぬまま足を下に向けて突進する。
「必中必倒! クリティカルブレード!」
叫びを上げて一回転し、体重を乗せたかかと落としをバリアにぶつける。接触と同時に足先から光がほとばしり、ギャリギャリとバリアを削っていっている。
「浅いか。ならっ!」
破壊には至らぬと悟ったのか、ガッ、とバリアを蹴って怪獣から少し距離をとったマルゴッドさん。連続攻撃をする気か。
「宿れ拳神! 轟け鼓動! インフィニティアソウル!」
カッ! とマルゴッドさんの体が光に包まれたかと思うと、まばたきをした瞬間にその姿はかき消えていた。ど、どこに行った!?
「下だ、主」
キョロキョロと彼女の姿を探していると、ザフィーラさんが答えを教えてくれた。って、下?
「うわ……はや」
言われた通り下を見てみると、怪獣の周りに光の軌跡が縦横無尽に生まれていた。おそらく、姿を視認するのが難しいほどのスピードで攻撃を繰り出しているんだろう。その証拠に、先ほどのかかと落としで削った箇所が徐々にひび割れていっている。はっきりとは見えないけど、同じ場所に攻撃しているようだ。
「砕け、ろぉー!」
一旦空中で停止し、とどめとばかりに雄叫びを上げて再び突撃。全体重を掛けたであろう蹴撃がバリアにヒットし、
バキーン!
甲高い音を立てて、粉々に砕け散る。仕事を果たしたマルゴッドさんは、まとっていた光を消しこちらに一時離脱してきた。……あと、二枚。
「次は私ね。ザフィーラ、場繋ぎとして攻撃しててもいいわよ?」
「ふん。壊してしまっても構わんのだろう?」
「言うわね。……天光満つるところに我はあり──」
シャマルさんが詠唱を開始。それと同時にザフィーラさんが狼形態に変身し、口を大きく開ける。あ、あれはまさか!?
『見せてやろう。これが我のとっておき……リクームイレイザーガン!』
口を開けているので喋れないザフィーラさんが、律儀に念話で技名を教えてくれる。ていうかまんまですね。せめてザフィーライレイザーガンとかにしましょうよ。
「はぁー!」
なんて思っている間に口から光線を放つ狼。放たれたビームは狙い違わず怪獣に向かい、バリアに衝突する。光を撒き散らしながら拮抗する障壁と怪光線。……今ザフィーラさんの口を無理矢理閉じたら面白い事になりそうだ。
ビキ、ビキ……
「おっ?」
バリーン!
スゴイ。なんと、本当に破壊してしまった。とっておきというのは嘘じゃなかったのか。てっきりネタかとばかり……
だけど、これで残り一つ。
「──出でよ、神の雷(いかずち)。インディグネイション!」
詠唱を終えたシャマルさんが、間髪いれずに魔法を発動。怪獣を包み込むように、紫電を走らせた透明な壁が三角すいの形で展開され、その巨体を閉じ込める。そして、間を空けずに頂点から巨大な雷が落とされる。
ズガッ!
と、轟音を響かせた雷撃は、バヂバヂと辺りに紫電を撒き散らしながらバリアを蹂躙し、あっという間に──
バギィッ!
破壊する。
残り、ゼロ。後は本体を叩くだけ!
「シグナム! あたしがダメージを与え続ける。お前は大技をかます準備してろ!」
「了解だす!……出番やで。来い、ブルー!」
丸腰となった怪獣に突貫するヴィータちゃんの要請に、即座に応えるシグナムさん。見慣れぬ正方形の魔法陣が、宙に居るシグナムさんの横に浮かび上がる。あれは確か、召喚魔法陣だったよね。
『ギュアアアアアアアア!』
その魔法陣を突き破るように現れたのは、久方ぶりに見る、青眼の巨竜。すっかり回復したのか、羽をバッサバッサとはためかせて、辺り構わず咆哮を撒き散らしている。
「しょ、召喚魔法……しかも、あんなに強力なドラゴンを。何者なんだい、シグナム君は……」
おののいてるマルゴッドさんなんて意にも返さず、ドラゴンの横に並んだシグナムさんは剣を構え、魔法を放つ準備をする。
「ブルー、今回は共闘をしてもらうぜい。活きのいい獲物が下で調子に乗っててさあ。制裁を加えるためには君の力が必要なんだ。やってくれるよねん?」
『フッ、マカセロ』
ニヤリと口の端を吊り上げ、楽しそうな声音で答えるブルーさん。……こいつ、通訳魔法使わなくても最初っから喋れんじゃん。
「轟天、爆砕!」
ドゴオオオ!
ドラゴンに気を取られていると、眼下から破砕音が聞こえてきた。目を下に向けると、ヴィータちゃんがアホみたいに巨大化したハンマーの柄を両手で握りしめ、
「ふんぬらばっ!」
ドゴオオオ!
怪物の巨体を押し潰していた。餅つきをするように、何度も何度も。
「きりがねえ。潰したそばから回復していきやがる。シグナム、まだか!」
「今やる! 合わせろ、ブルー。……黄昏よりも昏きもの、血の流れよりも紅きもの……」
詠唱を開始するシグナムさん。それに合わせるように、ブルーアイズも口を開き発射体勢に移る。おお、まさかこんな夢のような合体攻撃が見られるとは……
「……我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを! よくやったヴィータ! 退け!」
「待ってたぜ! やっちまえ、シグナム!」
離脱するヴィータちゃんを横目に、まばゆい光をまとった剣を怪獣に向けて突き出し、横に居るドラゴンに話しかけるシグナムさん。
「そちらも準備は整ったか。では、ゆくぞ!」
『ガアアアアアアアアア!』
相棒であるブルーアイズが、咆哮にてそれに答える。口の中央に溜めた光がさんさんとした輝きを放っている。
そして、ついに、破滅の力と破壊の力が、共に放たれる時がきた。
「ドラグ、スレイブ(竜破斬)!」
『グルァァアアアアア!』
キュガッ!
目がくらむほどの輝きを持った二つの光線が、哀れな獲物へと解き放たれる。
同量の太さと輝きを持つ二つの光の奔流は、互いを追い抜き追い越ししながら下方に迫り、どちらが先に獲物に食らいつくかを競っているようにも見える。
そして、獲物に食らいついたのは、ほぼ同時であった。
『グ、ギャアアアアアアア!』
巨大な閃光に飲み込まれた防衛プログラムが、断末魔の悲鳴を上げる。周りに生えている触手や異形の腕が、光に触れたそばから蒸発していく。バリアを失った本体もまた、同じ運命を辿っている。
『ア……ア……』
巨大な口が、足が、胴体が、塵が風に吹き飛ばされるように、ボロボロと形を失い、消滅していく。
やがて、光の線が収縮していき、惨状が明らかになる。
大地は地面の底が見えないほどにえぐり取られ、草木一本に至るまで、砲撃の射線上にあったものが跡形もなく消え去っている。これはもう、完全勝利としか……
「……まだだ。コアが残ってしまっている。あれを破壊しない限り、再生は止まらない」
マルゴッドさんが硬い声で呟く。よく見てみると、えぐれた大地の中心にプカプカと小さな球が浮かんでいる。と、そう気付いた時、いきなりその球から触手やら化け物の顔やらが生えてきた。キモ。
『主、先ほどの魔法、もう一度だ。急げ』
「え、デスボールですか? なん──」
『いいから!』
「は、はいぃ! デスボール!」
ザクさんに急かされ、急いで杖をかかげる。が、黒い玉が出現したのは杖の先ではなく、なんとコアの真ん前。
『デアボリックエミッション……シグナム、ヴォルケンリッターの将は貴様だ。貴様がケリをつけろ』
一瞬にして半径一メートルほどに肥大化した黒い玉が、化け物を生み出していた球体を包み込む。それにより、球体から生えてくる気持ち悪い肉の塊や触手が、生まれるそばから消え去っていく。なるほど。この状態なら再生を食い止めていられる。
「シグナムさん、今です。ズバッとやっちゃってください」
「ああ、お前なら任せられる」
「行くがいい、我らの将よ」
「たまにはリーダーらしいところ見せなさいよ」
「シグナム君、頼めるかい?」
皆の声援を受けた烈火の将が、笑う。
「そうだな。たまにはこういうのも悪くはない」
チャキッと剣を構えなおし、再生と消滅を繰り返す元凶を見据える。
「……呪われし闇の書の闇よ。長きに渡る因縁、ここで断ち切らせてもらう!」
地面に降り立ったシグナムさんが、一歩一歩コアに近づきながら呪文を唱え始める。
「悪夢の王の一片よ、世界のいましめ解き放たれし凍える黒き虚無の刃よ……」
右手に握った剣に、闇が集い始める。
「我が力、我が身となりて、共に滅びの道を歩まん。神々の魂すらも打ち砕き!」
やがて、刀身はおろか柄までもが闇に包みこまれる。その姿は、剣というよりも、まるで巨大な十字架を握っているようだ。
「ラグナ──」
そして、闇がほとばしる剣の先をコアに向けたシグナムさんは、
「ブレーード!」
進行を邪魔する大気を剣先で貫きながら、
「はあああああ!」
万感の思いを込めて咆哮を上げながらコアへと突き進み、
「時の流れに埋もれて眠れ! 闇よ!」
爆発的な推進力を持って一直線に進撃し、突き刺す。
ピ、キ……
「ベルカの騎士に挑むには──」
ピキピキ……
「まだ足りん!」
パキーン!
闇が、闇を、塗り潰す。
………カ、カ、カッチョイイ!?
「……終わったか。わりとあっけなかったな」
憂いを帯びた表情で苦笑する美貌の騎士。アンタ、今すごく輝いて見えるよ。
「お、終わり? これで終わったんですよね? いきなりビームとかが飛んできて心臓撃ち抜かれたりしませんよね?」
「どうやら本当に終わったようだよ、ハヤテ君」
私を安心させるように、優しい声音で語りかけてくれるマルゴッドさん。やった、勝った。勝ったよ。初戦がラスボスクラスとかふざけた戦闘だったけど、私だってやれば出来るんだ。皆の役に立てるんじゃないか。
「やったー! やりましたね皆さん! 祝杯を上げましょう。家に帰ったらお寿司を頼みましょう。ね? ね? いいですよね?」
「はしゃぎすぎだ、主。だが、皆よくやった」
「ああ。ハヤテも大活躍だったじゃねーか」
「お寿司か。いいわね。流石に今日は夕飯作る気分じゃないしね」
「あっしはアナゴが好物でござりまする。絶対に譲らんぞ」
……シグナムさん。アンタ、落差が激しすぎるよ。さっきの凛々しい騎士はどこに消えたんだ。
『……ネムイ カエル』
「おっと、ブルーっち、ご協力感謝するでござる。今度はバトルしようぜい」
そういえば、ブルーアイズがまだ居たんだった。今回は助けてもらったことだし、帰る前にお礼は言っとかなきゃね。
「ブルーさん、おかげで助かりました。ありがとうございます。また、どこかでお会いしましょうね」
『……フッ』
出てきた時と同じように、魔法陣を通って帰っていくドラゴン。実は結構いい奴なのかもしれない。
「ん? あら、どうやら管理局が来てたみたい。戦闘に気を取られすぎてたかしら?」
皆が戦勝の余韻に浸っている中、シャマルさんが上を向いてそんなことを口走った。って、管理局!?
「あの、まずいんじゃないですか? 見つかったら捕まっちゃうんでしょう?」
「まあそうね。でも結界が壊されないうちに転移しちゃえば──」
バギィッ!
シャマルさんが言い終わらないうちに、炎の壁の一角が破られ、そこから一人の少年が飛び込んできた。今まで見てきたような魔法使いと同じように、杖を持って空に浮かんでいる。
「まったく、なんて強固な結界なんだ。……む、君達! 僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ! ここで巨大な魔力反応を検知したんだが、事情を──」
「まったく、やっかいな……結界、修復」
シャマルさんが少年を睨みつけながら呟く。すると、破られた壁が見る間に塞がっていき、元に戻る。少年を閉じ込めたようだ。
「なっ!? 何をする……あ、き、貴様ら……闇の書の守護プログラム、だと?」
どうやらこの少年は闇の書についての情報を持っているみたいだ。……どうしよう、このままじゃ皆が捕まっちゃうよ。
「……ハンマー!」
突然、様子を窺っていたヴィータちゃんが少年に向けてハンマーの雨を降らせる。く、口封じ!?
「クッ! 問答無用か。なら、こっちも容赦はしない!」
機敏な動きでハンマーをヒョイヒョイとかわす少年。結構戦い慣れしてそうだ。
だが……
「クロノ君、私よ、マルゴッドよ! お願い、武器を収めて話を聞いて!」
「なっ!? なぜあなたが……ぐあっ!」
シグナムさんの謎の言葉に気を取られたのか、一発ハンマーを食らってしまった。……なんでマルゴッド?
「ぐ……なっ!? バリアジャケットが、解除されている!?」
その言葉通り、少年がまとっていた防護服が消え去り、私服姿が露わになっていた。ヴィータちゃんのハンマーの効果かな?
「シグナム、今だ、やれ!」
「合点承知! ぶわははははは! バーカが、女を信じるからこういう目に会うのだ。あの世で後悔してろ!」
「な、な、な……」
悲しみと恐怖と苦悩とが混ざり合ったような表情でその場に固まる少年の目前に、シグナムさんが瞬時に移動し、そのみぞおちに剣の柄の部分を叩きこむ。
「ぐっ……信じて、たのに……」
「ボーヤ、もう少し人生経験を積んでから出直してくるんだニャー」
シグナムさんの攻撃を受けて気絶する少年。地面に落下しかける体を、シグナムさんがそっと抱き抱える。
「って、その人倒してこれからどうするんですか? まさか脅迫してここで見たことを口外しないようにさせるとか?」
「いんや、もっと確実な方法があるんすよ。シャマルゥ、よろしくー」
地面に降り立ったシグナムさんが、抱えていた少年を下に降ろしシャマルさんを呼びつける。何をする気なんだろう?
「はいはい。それじゃあ、ちゃっちゃと記憶消してここからおさらばしましょうか」
「き、記憶消去ですか。そんな魔法あったんですね」
「ちょっと頭がパーになるかもだけど、構わないわよね」
「……なるべく、パーにならないようにお願いしますね」
しかし、ホントなんでもありだよなぁ、魔法って。出来ないことなんて無いんじゃないだろうか。
そんな事を考えている間に、近寄ってきたシャマルさんがしゃがみこみ、寝転がっている少年の頭に触れて魔法を発動させる。
「……記憶よ、消えろ!」
ベタな掛け声と共にシャマルさんの指先が光り、そして……
ドパーン!
と、いい音を出して、消え去った。……少年の衣服が。
「きゃあああああ!?」
『うるさいぞ、主。融合してるこっちの身にもなれ』
ま、ま、丸裸!? ちょっ、やばい、これやばいって!
「バカ野郎! 記憶消さずにパンツ消してどうすんだ!」
「え、えっと、大丈夫よ。記憶もちゃんと消えてるわよ、たぶん」
「そそそ、そんなことはどうでもいいですから! 早くなんか着せてあげてください!」
「主、そんなこと言いつつも、ベタに指の間から覗いてるのがバレバレっすよ」
「し、知りません!」
「あっはっは。君達はホント愉快だねぇ」
は、初めて見ちゃったよ。もう、もう!
「どれ、では私のジャージでも掛けてあげるかな」
マルゴッドさんが騎士甲冑(バリアジャッケットって言うんだっけ?)を解除し、着ていたジャージを素っ裸の少年に掛けてあげる。なぜか胸のところに『まるごっど』と刺繍されている。
「主よ、またいつ結界が破壊されるやも分からん。早くここを離脱するぞ。」
「そ、そうですね。それじゃ、……あ、グレン号回収しないと」
と、いうわけで、少年を置き去りにし、グレン号の下へと舞い戻る。あっという間に到着した私達はグレン号を回収し、ひとまず落ち着ける場所に行こうということで、私の家へと転移するのであった。
「主、初めて男のあれ見たんすよね。ご感想は?」
「死んでしまえ!」