「今日は、蒐集はお休みです」
休息を申し入れる神谷ハヤテです。
魔力蒐集開始から一ヶ月半ほど過ぎた日の朝、私は朝ごはんを食べながら、食卓に着いている皆にそう提案した。
その言葉に一番に反応したのは、山盛りの納豆が入った容器に醤油を入れて箸でぐるぐるとかき混ぜていたシグナムさん。
「お休みって、いいんすか? やっと終わりが見えてきたってのに」
怪訝そうにこちらを窺う納豆スキーに同意するように、ヴィータちゃんも頷く。
「そうだぜ、あともうちょいじゃんか。一気に終わらせようぜ」
「いいえ。お休みと言ったらお休みなんです。皆さん、ここ一ヶ月以上戦いっぱなしじゃないですか。この間は強敵との戦闘もありましたし、身体を壊したら元も子もないです。今日一日くらいはゆっくりして、身体を休めてください」
私のために、毎日毎日モンスターと犯罪者との戦闘を繰り返している皆だ。一日くらい休んでもらわないと、こっちが心苦しいよ。
「まあ、ハヤテちゃんがそう言うのなら大人しく従いましょうか。まだ時間に余裕はあるだろうし。それに、そうしないとハヤテちゃんの気が済まないのよね?」
シャマルさんが私に問いかけながら、皆に同意を求めるように目配せする。うん、やっぱりシャマルさんは私のことをよく分かってるな。
「そういうことです。家でゲームするもよし。図書館に行ってガードが堅いおねーさんの胸を揉むもよし。今日は戦闘のことは忘れて、好きなことをして過ごしてください」
「……ま、一日ぐらいはいいか」
「うむ。そうだな」
頷いてくれる皆。よしよし。そんな素直な皆が好きですよ。
「ん~、ちょっと多かったかな? おいロリッ子、光栄に思え。私の納豆を分けてしんぜよう」
皆の同意も得てまったりと食事が進む中、納豆をごはんにかけたシグナムさんが、ヴィータちゃんのおわんに、余った納豆を無理矢理ぶっこむ。
「うおぉ!? てめー、あたしが納豆嫌いだって知ってんだろうが!」
「お残しは許しまへんで~」
「こ、この野郎……出ろ、ハンマー!」
ピコッ! とシグナムさんの頭に小さいハンマーを落とすヴィータちゃん。可愛い仕返しだなぁ。
「はりゃ……はりゃほりゃ? はりゃほりゃうまうー!?」
「シ、シグナムさん? 頭大丈夫ですか? いきなり奇声上げたりして……」
なぜか奇声を上げながらヴィータちゃんの頭をぽかすか叩いているシグナムさん。何してんだこの人は。
「ははははは! ざまーみろ。あたしのハンマーにはこんな効果も付与できるんだぜ。まっ、服を脱がされなかっただけ感謝するんだな」
「うまうー!」
なるほど。これはヴィータちゃんのしわざだったのか。なかなかえげつない事をする。可愛い仕返しだなんてとんでもないよ。
「しばらくしたら勝手に直るから、それまでは自分の行いを反省してるんだな」
「うまうー! うまうー!」
ポカポカヴィータちゃんを叩きながら叫ぶシグナムさん。きっと、今すぐ戻せ! とか言ってるんだろうな。
「そうだ、主。昨日でホネッコのストックがきれてしまったのだ。新たに買いだめしたいのだが……」
そんな微笑ましい食卓風景を見ていると、床でご飯をパクついてるザフィーラさんが話しかけてきた。ホネッコかぁ。デパートに行かなきゃならないな。……お、そうだ。
「でしたら、皆さんでデパートに出掛けませんか? ちょうど冬服も揃えたいと思っていたところですし。あ、帰りにゲーセンに寄って遊んで帰るというのもいいですね」
「あら、いいわね。私、一回外の人間と対戦したかったのよ」
シャマルさんは行く気満々だ。マンガやラノベは読まないけど、ゲームはするようになったんだよなぁ。
「ヴィータちゃんとシグナムさんも行きましょうよ」
「そうだな。あたしらだけ残ってんのもなんだし、行くか。なぁシグナム、お前も行くよな?」
「はりゃ! ほりゃ! うまうー!」
「行くって言ってるぜ」
「それはよかった。では、十時ごろに出ましょうか。お昼は外で済ませても構いませんよね、シャマルさん」
「そうね。たまにはいいんじゃないかしら」
ということで、皆そろって以前服を買ったデパートに行くことになったのだった。そういえば、蒐集を始めてから皆で遊びに行くことが無かったな。久しぶりだな、この感じ。うん、楽しみだ。
「うまうー!」
「シグナムうるさい」
「ラガン、お前に命を吹き込んでやる」
朝ご飯も食べ終わり、しばらくリビングでごろごろしていると出発の時間になった。ヴィータちゃんは玄関に置いてあったラガン号に乗り込み、準備万端の体(てい)だ。
「今日はラガンを使うんですね」
「たまには乗ってやらないとな。機嫌を損ねちまう」
ラガン号はヴィータちゃんに従順なんだよなぁ。うちのグレンなんていまだに言うこと聞いてくれない時があるってのに。勝手に加速したり、微速前進が全速後退になったり。私の何が不満だというんだよ。
「ふう。……皆さん、準備は整いましたね。それでは出発しましょう」
「ウイーッス。……ああ、ひどい目にあった」
「自業自得だぜ」
一時間ほど経ってからシグナムさんがやっと話せるようになったのだ。食べ物の恨みってのはやっぱり恐ろしいね。
「鍵はかけたわね。それじゃ行きましょう」
玄関を抜けて空を仰ぎ見る。うん、快晴だ。
「……ん?」
「ホネ……ホネ……ボーン!」
いけない。ザフィーラさんが禁断症状を起こしている。朝のサンマの骨では効果が無かったか。
「ザフィーラさん、もうしばらくの辛抱ですよ」
「はっ。我はなにを……」
早くホネッコを与えないと。このままでは自我を失った狼が野に解き放たれてしまう。
「おーい、早くいこうぜー」
皆より一足早く外に出たヴィータちゃんが、ラガン号を操作してぐるぐると回りながら呼んでいる。腕はなまってないようだな。またいつか競争したいものだ。
「では、今度こそ出発進行です。いざデパートへ」
意気揚々と出発した私達。心なしか皆の足取りが軽いように感じる。やっぱり連日の戦闘で、体は平気でも心が疲弊してたんじゃないかな。今日はリフレッシュしてもらいたいものだ。
「あたしが一番ラガンをうまく使えるんだ!」
先行して道路を爆走するヴィータちゃん。久しぶりに乗ったからはしゃぎたくなったみたいだ。
「トラックに轢かれて転生してしまえばいいのに……」
そんなヴィータちゃんを見ながら呪いの言葉を吐くシグナムさん。結構根に持っているみたいだ。
「そういえば、血液パックも補充しなくちゃならないわね。あのデパート、妙に品ぞろえがいいのよ。すべての血液型が揃ってるし。私以外にも買う人間が居るのかしらね?」
「少なくとも、飲み物として購入する人間は居ないと思います」
吸血鬼ぐらいだよ、そんなの。……あれ? 魔法生物なんてのが存在するくらいだから、どこかに吸血鬼みたいのが居てもおかしくはないかもしれないな。
そんな風にシャマルさんと話していると、前方からチワワを連れたおねーさんが歩いてきた。おや? ザフィ-ラさんの様子が……
「……グルルルルル。……ガウッ!」
「クゥーン……」
「あっ、こら。すいません、うちのザフィーラさんが吠えちゃって」
「お気になさらず。それにしてもずいぶんおっきいワンちゃんですね……ワンちゃん、ですよね?」
「え、ええ。すくすくと育っちゃって、こんなに大きくなってしまいました」
「そ、そうですか。あ、それでは失礼しますね」
一礼して去っていくおねーさん。礼儀正しい人だな。……っと、そんなことよりこっちのビッグドッグをしつけなくては。
「もう、人様のワンちゃんをビビらせちゃだめじゃないですか」
「むう、すまん。あのつぶらな瞳を見ていたら嗜虐心がくすぐられて、つい」
犬の本能ってやつかな。いや狼か。……犬と狼って、どこが違うんだろうか?
「遅い! 遅いぞ! 貴様らには絶対的にぃっ……速さが足りない!」
「黙れロリッ子」
いつの間にかサングラスをかけたヴィータちゃんがシグナムさんの周りを旋回している。はしゃぎすぎだ、ヴィータちゃん。
そんなこんなでようやくデパートに到着。……したのはいいのだが、一つ忘れていたことがあった。
「ザフィーラさん。変身してもらわないと中に入れないんですけど……」
盲導犬くらいしか犬は入れないしね。
「それなんだがな、どうやらホネッコ分が足りていないようで変身出来ないのだ。我はここで待機しているから、主達のみで買い物を済ませるがいい」
「ホネッコ分てなんだよ……」
ヴィータちゃんが呟くが、応える者は誰もいない。にしても、ザフィーラさんはここで待機か。まあサイズは分かってるから、私達で適当に服を見繕うか。
「分かりました。なるべく早く戻るので、大人しくしててくださいね」
「善処はしよう」
確約はできないんかい。
「ハヤテー、行こうぜ」
「はいはい、ただいま」
せかすヴィータちゃんのあとに続き自動ドアを通り抜ける。今日は平日だが、デパートの中には主婦と見受けられるおばさんを中心に、沢山の人がひしめいていた。だが……
「ふっ、夏コミに比べればこの程度の人波、どうということはないですね」
「だな。あれに比べたらここは天国だぜ」
ひと夏の経験を経た私達にとっては、スムーズに移動することなど造作もないことなのだ。
「ちょっと待ちなさい。あなた達速いわよ」
……一人だけ遅れている人物が居た。
『ピンポンパンポーン』
「お?」
館内アナウンスか。大抵は迷子のお知らせだったりするんだよなぁ。
『迷子のお知らせです。ピンクのワンピースに、白いパンツをお召しのワカメちゃんがお母様をお探しです。お母さまは、至急サービスカウンターまでお越しくださいますよう、お願い申しあげます。繰り返します。ピンクの──』
「……DQNな名前を付ける親もアレっすけど、あんな名前を付ける親も相当アレっすね」
「ぜってー学校でいじめられるだろ、あれ」
「というか白いパンツってなによ。丸見えなの?」
突っ込みがいのある放送だなぁ。
「あら? あなたは確か……」
「ん?」
アナウンスに気を取られていると、綺麗な女性が横から話しかけてきた。あれ、この人は……
「槙原さん……でしたよね?」
そうだ、槙原さんだ。私がひいてしまったぬこを見てもらった獣医さんじゃないか。
「覚えててくれたのね。あなたの名前は……聞いてなかったわね、そういえば」
「神谷……八神です。八神ハヤテ。今日はお買いものですか?」
「ええ、そうよ。……そちらの方達はご家族?」
「遠い親戚なのですが、今は訳あって同居しているんです。まあ、今はもう家族みたいなものですが」
「へぇ……」
後ろに居る皆を見ている槙原さん。あまり突っ込まれた質問されたくないし、こっちから話題を振るか。
「あの、以前預かってもらった猫なんですが、その後どうなりましたか?」
ちょっと気になってたんだよね。
「ああ、あの子ね。あれからすぐ飼い主が現れたから、連れて帰ってもらったわ。野良猫じゃなかったみたい」
「そうなんですか。それは良かった。ちなみにどんな方が引き取りに来たんですか?」
「確か若い女性だったわね。……あ、そうだわ。こっちも質問があるのだけれど、いいかしら」
質問? ヴォルケンズの皆のことについては聞かれたくないなぁ。
「……どうぞ」
「このデパートの中で、あなたと同い年くらいの一人で行動してる男の子見なかった?」
予想だにしない質問だな。しかし男の子か。見てないなぁ。
「私は見てませんが、皆さんは?」
「知んないよん」
「見てねーぜ」
「右に同じ」
うしろを振りむき尋ねるが、答えは私と同じ。
「……だそうです。お役に立てず、申し訳ありませんね」
「ああ、いいのよ。あの子すぐにどっか行っちゃうから。今回が初めてじゃないしね」
「……失礼ですが、その子、あなたのお子さんですか?」
とても九歳の子どもがいるようには見えないくらい若々しいけど。
「ん~、私の子ではないのよね。行き倒れているところを拾って、施設に預けようとしたんだけど、すごく懐かれちゃってね。どうやら捨て子みたいなんだけど、施設に入るくらいなら俺は死ぬ! とか言うもんだから、気が変わるまで私が面倒見ることにしたのよ。……まあ、もうすっかり私の家に馴染んじゃって、こうして一緒に買い物に来るくらい仲良くなっちゃったのよね……」
この人も大概お人よしだな。そんな子ども、無理矢理施設に入れてしまえばいいものを。
「あ、時間取らせてごめんなさいね。放送で呼び出してもらうから気にしないで。そっちはショッピングを楽しんできてね。……それじゃ、さようなら」
ぺこりと後ろの皆にもおじぎして、槙原さんは去っていった。……やっぱり、あの人の胸は揉めないなぁ。
「なあ、ハヤテ。あいつ、誰なんだ?」
「……昔お世話になった、とてつもないほどの善人、ですかね」
「?」
「今日も他人のおごりでメシが美味い!」
「他人のというか私の……いえ、間接的にあのロリコンのおごりとなってしまいますが」
「メシがまずくなるようなことを言わないでくれ……」
デパートでの買い物を済ませた後、昼時になったということで、私達はデパートの近くにあったレストラン『ワグナリア』にて食事を取ることにした。
「ほう、なかなかイケるではないか」
「悪くないわね」
ホネッコ分を摂取したザフィーラさんは、今は人間形態となって私達と食事を共にしており、シャマルさんと一緒にレストランの料理に舌鼓を打っている。
「なあハヤテ。さっきからあの眼鏡のウェイターがこっちをちらちら見てるんだけど、何だと思う?」
「はあ。おそらく車椅子に乗った少女が二人も居るもんだから、気になってるんじゃないでしょうか」
「絶対違う気がする……」
気にしすぎだと思うけどなぁ。
「そんなことはどうでもいいとして。皆さん、ここを出た後はゲームセンターに行くってことでいいんですよね?」
私の問いに首肯を返す皆。シャマルさんが一番楽しみにしてそうだな。
「我は行くのは初めてだが、どのような物があるのだ?」
「そうですねぇ。色々ありますが、ザフィーラさんが楽しめそうな物といえば……パンチングマシーン?」
「止めときなさい、オチが見えてるわ」
だよなぁ。弁償費なんて払いたくないよ。
「ガンシューティングなんていいんじゃねーか? 素人でもそれなりに楽しめるし」
「あとメダルゲー……は、ハマると抜け出せないから止めたほうがいいですね」
「クイズゲームもみんなで協力して出来るから面白そうじゃん」
てな感じに盛り上がりながら食事を進める私達であった。
ゲーセンにて、バトル勃発。
「私を殺した責任、取ってもらうわよ」
「な、なにぃ!? あたしの都古がやられただと!?」
「17分割? ならこっちは18分割よ」
「ばかな! 拙者のシッキーが!?」
「メガネカレーは消えなさい」
「そんな!? 代行者たる私がこんなところで!?」
「もう終わり? つまんなーい、ぜんぜ~ん」
レストランを出た後、私達は近場のゲームセンターに入り一緒に色々なゲームで遊んでいたのだが、シャマルさんが格ゲーをやりたいと言い出したのをきっかけに対戦を始めることとなった。で、結果がシャマルさんの一人勝ち。
まさか、シャマルさんがこれほどのポテンシャルを秘めていたとは……私達以外のチャレンジャーも含めて30連勝とか半端ねえ。家ではそこまで強くないのに、なぜかゲーセンで力を発揮するタイプか。
「くっ、シャマルさん。今回は私達の完敗です。いさぎよく負けを認めましょう」
「だがこのままじゃ終わらせねーからな」
「ふふふ、いつでもかかってらっしゃい。まあ、無駄だろうけど」
いつかこの天狗っぱなへし折ってやる!
「……っと、もうこんな時間ですね。そろそろ帰りましょうか。……あれ、ザフィーラさんとシグナムさんは?」
「あいつらなら、ほら、あの太鼓の音ゲーやってるぜ」
ヴィータちゃんの指さす先に目を向けると、そこにはバチを持って一心不乱に太鼓を叩く二人の姿があった。
ドドドドドドドド!
『うおおおおおおおお!』
連打すりゃいいってもんじゃねーぞ。
「はあ、はあ、なかなか面白かったぞ。食後の運動には丁度いいではないか」
「そういうゲームじゃないと思いますが、まあいいです。お二人とも、もう帰りますよ」
「もうそんな時間っすか。早いっすね」
時が経つのを忘れるほど楽しんでいたのかな。それなら今日ここに来た意味があったってもんだ。
ゲーセンを出てからも、興奮冷めやらぬといった感じで会話に花を咲かせる私達。楽しんでもらえたようでなによりだ。
「ハヤテちゃん、今日は楽しかったわ。誘ってくれてありがとうね」
今回一番楽しんだのはシャマルさんだろうな。
「あたしらも十分楽しかったぜ。たまにはこういうのも良いよな」
「でもシャマルにゲームで負けるとは思わなかったズラ。次は負かす」
意気込むシグナムさん。まあ、帰ったらすぐにでも対戦できるんだけどね。
「主よ、感謝するぞ。久々に心行くまで楽しめた気がする」
「皆さんには普段からお世話になってますからね。こんなんでお返しが出来るなら安いもんですよ。って言っても、ただ誘っただけなんですが」
「それでも十分よ。これで、また明日からの蒐集に気合が入るってもんだわ」
「そうそう」
「だな」
「ふっ」
ポンポンと私の頭を触ってくる皆。……家族ってのはいいもんだね。
「あ、そうだ。闇の書が完成したら、皆で温泉に行きませんか? シャマルさん、以前に温泉に行きたいなんて言ってましたよね」
「よく覚えてたわね。確かに言ったわよ」
私の記憶力を舐めてもらっては困る。
「ね? いいですよね、皆さん」
「俺、闇の書が完成したら、温泉に行くんだ……」
「だから死亡フラグ立てんな。……にしても、温泉か。いいんじゃねーの」
「そうだな。一度は入ってみたいものだな」
どうやら満場一致で賛成らしい。ふふ、楽しみが増えたよ。
こうして、目標の達成に新たな楽しみを加えた私達は、笑いながら岐路につくのであった。
──翌日
「裂空斬!」
空中で縦に回転しながら剣でデカイ鳥型モンスターに斬りかかるシグナムさん。あれ、リアルでやったら絶対目回すって。
「……うえっぷ。おーい、今っすよー」
「はいはい、蒐集開始、と」
地面に着地したシグナムさんは、フラフラしながらも弱ったモンスターをムチで拘束し、シャマルさんに引き渡す。
今日も今日とて蒐集に精を出す私達。昨日出掛けて遊んだおかげなのか、皆の顔つきが普段より柔らかいものになっている気がする。それでも油断しないところは流石というべきか。いや、シグナムさんはかなり緩んでいるが。
「ん? おい、あっちでデカイ魔力反応があるんだけど、行ってみないか」
ヴィータちゃんが彼方を指さす。デカイ魔力か。流石にブルーアイズ並みの奴は居ないよね。
「どうやらそのようだな。少し距離がある。どれ、我が主を運んで行こう」
車椅子を下からかつぎあげるようにして持ち上げるザフィーラさん。何回か経験があるけど、結構怖いよこれ。
皆と一緒に飛行して目的地へと向かう。さーて、鬼が出るか、蛇が出るか……
「究極ぅー! ゲシュペンスト、キィーック!」
オタクが出た……
「ちょっ、あいつって……」
「マル助やんけ。こんなとこでなにしてんじゃん?」
そう、私達が向かった先に居たのは、巨大なワニっぽい生物にとび蹴りをかましているマルゴッドさんであった。栗色の髪の毛に、ポニーテール。それに眼鏡。ついでに奇行。間違いない。
今彼女は、足首から膝まで覆うゴッツイレガース(すねあて)を両足に装着している。前は待機状態のカード型しか見たことなかったけど、あれが起動した状態なのかな。
「あなた達、あれの知り合いなの?」
「ふはーははははは!」
宙を飛びかい、叫びながら蹴りを連発するマルゴッドさんをうさんくさそうに見るシャマルさん。確かに初対面であんな姿を見たら、まあ、うん、引くよね。
「以前お話しした、夏に出会った魔法使い。それが彼女です。あの奇行は、その、大目に見てあげてください」
「ほお、奴が例の……なかなか強そうではないか」
シャマルさんとザフィーラさんは会うのは初めてだね。しかし、第一印象が最悪ですよ、マルゴッドさん。
「お、こっちに気づいた。挨拶くらいはしてやるか」
モンスターを倒したマルゴッドさんが、こちらに気づき近づいてくる。しかし変わってないなぁ、この人も。
「よう、久しぶりじゃねーか」
「ヴィータどの、それにシグナムどの、ハヤテどのまで。しばらくぶりでござるな。こんな世界で会うとはまた奇遇な。おや……そちらのお二方は?」
「お久しぶりです。あ、こちらはシャマルさんとザフィーラさんです。私の家族みたいなもんですね」
「ほほう。良き目をしておられる。お二人とも、なかなかの好人物でござるな」
二人を見てそう呟く二代目忍者。一目見ただけでそんなこと分かるなんてあんたなにもんだよ。
「拙者、マルゴッドと申す。以後、お見知りおきを」
シャマルさんとザフィーラさんに挨拶するマルゴッドさん。
「……話に聞いた通り、変わってるわね。まるでシグナムが増えたみたいだわ」
「そんな……照れるでござるよ」
「シャマルの言葉は的確だな……」
呆れた表情でマルゴッドさんを見る初対面の二人。まあ、そのうち慣れるだろう。
「ところで、マルゴッドさんはこんな世界に何しに来たんですか? ご趣味の旅行ですか?」
「ああ、拙者、普段は引きこもっているでござるから、たまにこうして運動をしに来るんでござる。管理局から逃れるためにも、定期的に魔法訓練を行うことは必須でござるしな」
「気のせいかしら。この女、真顔で犯罪者宣言してるように聞こえたんだけど」
まあ……マルゴッドさんだし。
「拙者はこんな理由でござるが、ハヤテどの達はいかなる理由でこの世界へ? ああ、言いたくなければ答えなくとも……なっ!?」
突然、大きな声を上げて驚くマルゴッドさん。な、なに?
「そ……その、本は……」
マルゴッドさんの視線は、ある一点に注がれていた。それは、シャマルさんが持つ、闇の書。
「や……や……」
確かこの闇の書って、持ってるのが管理局の人間にバレたらやばいんだよね。いや、マルゴッドさんは管理局を嫌ってるから教えても大丈夫なのか? どうしよう。適当にごまかす?
「えーっと、そのですね、この本はなんと言いますか──」
「夜天の書………」
…………はい?