「どどどどうしましょう。ザフィーラさん潰れちゃいましたよ、プチッて。プチッて!」
わ、私のせいじゃないよね? あのセリフを言ったから粉砕しちゃったわけじゃないよね?
「もちつけ、びびりガール。今のザフィーラがあの程度で死ぬわけないじゃん」
本当に? だって踏み潰されたんだよ? プチッて。
「……今のは痛かった。……痛かったぞおぉー!」
私が狼狽しているところに、ブルーアイズの足元から怒気をはらんだ声が聞こえてきた。こ、この声は!
「界王拳、3倍だぁ!」
ゴウッ! と、足の下から土煙が舞い上がり、
「おおおおおぉぉ! ……フンッ!」
徐々に足が持ち上がっていき、その下から亀仙流の胴着を身に付けたザフィーラさんが足を押し上げながら現れたかと思うと、なんとアッパーカットで足裏を殴りつけ、ブルーアイズを押し返してしまった。
「グオオオオオオ!」
バランスを崩してたたらを踏んだブルーアイズは、数歩後ろに下がってバランスを取り戻した後、自分を後退させた獲物、ザフィーラさんをその青く透き通った瞳で睨みつける。よくもやったなこの野郎、という感じだ。
「さっすが盾の守護獣! ガードの固さは天下一品ですね!」
いやー、良かった。本当に死んだかと思ったよ。
「とはいえ、今のは流石に効いたぞ。身体能力を強化していなかったらやられていた。……癒しの光よ、我に力を」
よく見てみると、確かに体中に傷がついている。ブルーアイズの動向に注意しながら私の近くに戻ったザフィーラさんは、回復魔法を自分にかけてHPの回復を図る。しかし、初めて仲間がダメージを負うところを見たよ。やっぱりこいつ、半端じゃないんだ。
「んふふふ~。あるじー、もうこれは戦うしかないっしょ? 殺っちゃってかまわないっすよね?」
すごい嬉しそうだな、シグナムさん。……そうだな。もう戦闘は避けられないか。もはや、戦って勝つという選択肢しか残されていないみたいだ。
「どうやら相手はやる気満々のようです。ならば、こちらも本気でいかないとまずいでしょう。……皆さん、私は見ていることしか出来ませんが、皆さんの勝利を信じてますからね。どうかお気をつけて」
「待ってました!」
「浮かれてんじゃねーぞ。あいつはかなりやばいんだからな。……ハヤテ、流れ弾に注意しとけよ」
心配そうに私を見るヴィータちゃん。ふふ、平気ですよ。
「大丈夫です。私には鉄壁のパール、じゃなかった。鉄壁の守護獣がついてますから。ヴィータちゃんこそ、油断しないでくださいね」
「……へっ、言うじゃん。本気のあたしに惚れんなよ?」
「お喋りはもう止めなさい。やっこさん、そろそろ様子見に飽きてきたみたいよ」
どうやらそのようだ。後退してから動きが無かったが、今は頭を低くした前傾姿勢になって、すぐにでも突っ込んできそうな体勢をとっている。
「なんだかやばそうだな。……シャマル、お前はザフィーラと一緒にハヤテを守ってやってくれ。あたしとシグナムが前衛で、こっちに近づかせないように上手く立ち回る。援護は出来たらで構わない」
「分かったわ。ハヤテちゃんは私達に任せて、あなた達は心おきなく暴れてきなさい」
「言われなくとも! んじゃ、お先にしっつれーい」
「あ、こら!」
我慢できなくなったシグナムさんが、剣を片手に低空飛行しながら標的に向かって地面を突っ切る。そして、それを待っていたかのようにむこうも突貫を開始した。
ズゴン! ズゴン! と地響きを立てながら接近する巨竜に対して、シグナムさんはそれを意に介さずなおも低空飛行を続ける。踏みつぶされないか心配だ。
「シグナム、まずは足止めだ!」
「分かってるって。……氷神剣! 凍っちゃえ!」
ヴィータちゃんの言葉に頷いたシグナムさんが剣を地面に突き立てる。すると、その場所から、迫るドラゴンに向けてパキパキと地面が凍りついてゆく。そして、その凍りついた地面を踏みしめたドラゴンの足が、地面と同じように下から徐々に凍りついていっている。ドラゴンはバキバキと足にまとわりつく氷を砕きながら進んでいたのだが、ついに剣が突き立っている場所の真ん前でその動きが止まることになった。まさに足止めに最適な技だね。
だが、
「スウウゥゥゥ……」
息を大きく吸い込んだドラゴンが、自分の足元に口を向けたかと思うと、
「ボハアアァァァ!」
「うひゃあ!?」
その大きく開けた口から炎を吐きだした。足の間近に居たシグナムさんが剣を引き抜き、急いでその場を離脱する。
「やっぱりドラゴンといったら火炎放射ですよね。敵ながらよく分かっているじゃないですか」
「我だってリクームみたいに口からビーム出せるぞ」
それは素晴らしい。今度ぜひ見せてもらおう。
「緊張感無いわね、あなた達」
呆れたようにこちらを見るシャマルさん。
「あのお二人がなんとかしてくれると信じてますからね。私達はまったりと観戦でもしてましょうよ」
「……まあ、それもそうね。一応流れ弾だけには注意して、危なくなったら援護すればいいかしら」
「和んでる暇があるなら援護しろぉ!」
遠くでヴィータちゃんがなんか叫んでる。
「大丈夫ですよー! ヴィータちゃんならブルーアイズだろうがアルティメットだろうが楽勝ですって! そんな奴けちょんけちょんにして、私を惚れさせてくださいよ!」
「簡単に言うな……うおっと!」
上空にとどまってこちらに気を取られていたヴィータちゃんのもとに、足元の氷を溶かしつくしたドラゴンブレスが迫る。紙一重で避けたはいいが、身に付けた騎士甲冑(ゴスロリバージョン)のスカートの端が焦げている。
「……直撃したらまずそうだな。でも、今度はこっちの番だ! 出ろ、ハンマー!」
鉄槌を持った手を天にかざす。すると、ドラゴンの頭上に光が収束していき、言った通りハンマーの形をとる。って、でかっ!?
「しょぼいしょぼいと言われ続けて一か月。みんなを見返すために密かに血のにじむような訓練を行ってきた成果、今こそ見せつける時!」
最近一人で出掛けることが多いと思ったら、そんな事してたんだ……
「ゴルディオンハンマー、勝手に承認! うおおお! 光になれえぇぇー!」
裂帛(れっぱく)の気合を持って自らが手にしているハンマーを振り下ろす。どうやら二つのハンマーは同期しているようで、ヴィータちゃんの挙動に沿って巨大なハンマーも同時に振り下ろされる。おお、これは威力が期待できそうだ。
そして、凄まじいスピードで振り下ろされたハンマーは狙い違わずドラゴンの額に命中し、
ピコーンッ!
『しょぼっ!』
とてもいい音を出した。ダメージはなさそうだ。期待外れもいいとこだよ……
「このっ! このっ! どうだ! まいったか!」
ピコッ! ピコッ! ピコッ! ピコッ!
一心不乱に、まるで餅つきをするようにハンマーを振り下ろすヴィータちゃん。もういいよ、ヴィータちゃん。君の努力はよーく分かったから。見てて涙が出てくるから。
……ん? あれ、ドラゴンがなんかフラフラしてる。もしかして効いてるの?
「フハハハハハ! いい音が出るだけだと思ったら大間違いだぜ! このハンマーにはスタン効果が付与されてるんだ。こうして叩き続けている限り、なんぴとたりとも動くことはできーん!」
気分が良さそうに高笑いを上げるハンマー幼女。見た目に反してトリッキーな能力だな。
「シグナム、今の内だ! やれ!」
「オッケーイ。大技、いくでござる」
ヴィータちゃんの隣に飛び上がり、眼下でピヨピヨと星を散らしているドラゴンに剣を突き付けるシグナムさん。
「ドラゴン相手にはこの技がピッタリっすね。……黄昏よりも昏(くら)きもの、血の流れより紅きもの……」
こ、これは!? 幼い頃何度呟いたか分からない、あの呪文!
「時の流れに埋もれし、偉大な汝の名において、我ここに闇に誓わん……」
詠唱を続けるシグナムさんの持つ剣に光が集まっていく。
「ん?……なっ!?」
と、そこで突然、ハンマーで叩き続けていたヴィータちゃんがドラゴンを見て驚愕の声を上げる。え、どうしたの?
「あ……」
私も見てみると、なんと、ブルーアイズが上空の二人に向けて大きく口を開けている光景が飛び込んできた。しかもシグナムさんと同じように、口の中央に光が集まっている。あれはまさか、滅びのバーストストリーム!?
「くっ、まさかスタン効果に耐性が出来たのか? なんて野郎だ。シグナム、一旦バラけて……シグナム?」
「我らが前に立ち塞がりし、すべての愚かなるものに……」
ヴィータちゃんの言葉に耳を貸さず、今まで見たことが無いくらいに嬉しそうに笑いながら呪文を唱え続けるシグナムさん。まさか、撃ち合う気?
「だ、大丈夫なんでしょうか、あれ」
「信じているんでしょう? なら、見守っていてあげなさい。烈火の将の二つ名は伊達じゃないわよ?」
「……あの人にはとんでもなく不釣り合いな二つ名だと思うんですが」
烈火の笑の間違いじゃないのか?
「……ああもう! あたしはもしもの時のフォローに入るけど、絶対に打ち勝てよ!」
テコでも動かないことを理解したのか、シグナムさんの後ろに回り込んで光の壁を幾重にも展開し、防御体勢に入るヴィータちゃん。苦労人だなぁ。
「汝と我の力もて、等しく滅びを与えんことを!……さあ、撃ち合おう、友(宿敵)よ!」
詠唱を終えたシグナムさんが、まぶしいほどに光り輝く剣を強く握りしめて強敵に語りかける。愉悦に溢れたその表情を見ていると、この人が真正のバトルマニアなんだということがよく分かるな。
「ギョアアアアアアアア!」
それに応えるかのように一際大きな咆哮を上げた青眼の巨竜は、触れたものすべてを破壊し尽くすであろう極太のレーザーを、
カッ!!
上空に向けて、解き放つ。そして同時に、
「力比べといこうじゃん! ドラグ……スレイブ(竜破斬)!!」
突きをするように剣先を相手に向けて、強く押し出す。そこから放たれた極光は、迫りくるレーザーに負けず劣らずの太さと輝きを持っている。……これは、確かに燃えるな。
ギュオッ!
シグナムさんとブルーアイズのちょうど中間地点で光と光がぶつかり合う。押し合い圧し合いしながら互いに相殺し合う二つの光の線。光が光を削り合い、キラキラした光の粒がそこらじゅうにこぼれている。芸術的な美しさがこの場に広がっていた。
「あ、デジカメ持ってたんだった。記念に撮っとこ」
「では我が撮ってやろう。バックに死闘を演じるドラゴンと女が写るが、構わんな?」
「あら、私も一緒に写っていい?」
「お前らいい加減にしろぉ!」
危険の渦中にいるヴィータちゃんから突っ込みが入る。だってこんなにキレイなんだもん。写真くらいいいじゃん。
「ガアアアアアアアアッ!」
「むぐぐぐぐぐぐぐぐっ!」
拮抗したせめぎ合いを見せる美女と野獣。写真コンクールに出したら優勝確実だね。にしても、全くの互角とは……お、そうだ。
「シグナムさァーん! くしゃみです! こういったシチュエーションでは、くしゃみをすれば大抵勝ちます!」
「な、なるへそ! その手があったか!」
「ちょっと待てぇ!」
私のナイスなアイデアに感銘を受けたシグナムさんは、たなびくポニーテールに顔を寄せて鼻をくすぐる。長い髪は普通戦闘には邪魔なはずなのだが、まさかこんなところで役に立つとは……
「いや、ちょっと待て。そんなんでどうにか──」
「へ……へ…………ヘックス!」
グオッ!
「六角形かよ……って、ホントに威力アップしてる!?」
先ほどまで均衡がとれていた力のぶつかり合いが、今の一瞬で大きく崩れ、
「ギュアアアア!?」
シグナムさんの放つ砲撃が、相手の攻撃を押し返す。
「ファックス!……フォックス!……うぃっくし! バーロー」
調子に乗ったシグナムさんがくしゃみを連発すると、侵食していくスピードが加速度的に上がっていく。そして……
「ふっ……楽しかったぞ。次に会うときは、一対一でやり合おう」
「ギャ!? グアアアアアアア!?」
ついに、太さをさらに増したシグナムさんの光線が、眼下の巨体を飲み込んだ。
「はああああああ!」
とどめとばかりに剣を押し出し、光の奔流を叩きこむ。やべ、シグナムさんがカッコよく見える。
「ガア……グ…………」
しばらくすると、シグナムさんが攻撃の手を緩めたのか、光の線が徐々に細くなっていく。やがて、完全に光が消え、そこに広がる戦禍が明らかになってきた。
そこには、大きくえぐれた大地、そしてうめき声を上げて横たわる、青眼の白龍の姿があった。
「こいつ……強かったな」
「ああ……強かった」
ここでようやく、長かった死闘の幕が下りたのだった……
「蒐集完了、と。……すごいわね。わりと残したつもりだったけど、70ページは埋まったわよ」
シャマルさんが感嘆の声を上げる。へえ、そんなにすごいんだ。
「シャマルン、サンクス、魔力残してくれて。こいつは死なせるには惜しいからにゃー」
「あなたのバトルマニアっぷりは理解してるから、気にしないでいいわよ。ハヤテちゃんも許可したしね」
予想外の強敵との戦いも終わり、いざ蒐集、と意気込んだところに、シグナムさんがこいつの魔力を残してほしいと頼んできた。どうやらこのブルーアイズの強さに惚れこんでしまったようで、回復したらまた戦いたいとのことだ。
「どうしても戦いたいんですか?」
「お願いじゃよ~。許しておくれよ~」
うるむ瞳を私に向けて懇願してくるシグナムさんに、私は非情な決断をくだせる……わけもなく、魔力を残すことと戦闘を許可したのだった。
今回の一件で、シグナムさんが戦闘大好き人間だということがよく分かった。好きな事を禁止されるという苦しみは、私も身を持って経験しているので、無理に抑圧することなんて出来ないしね。
「ただし、無理は禁物ですよ。今回は勝てましたが、次からは分かりませんからね」
「了解でござるよ。ニンニン」
本当に分かってるのかな、この忍者は。
「今日は疲れたわねぇ。早く帰ってお風呂に入りたいわぁ」
「同感です。……シャマルさん、帰りの転移は絶対に失敗しないでくださいね」
「だ、大丈夫よ」
おい、目が泳いでるぞ。
「……あれ? シャマル、闇の書ちょっと見せてくんね?」
「別にいいわよ。はい」
ヴィータちゃんが本を受け取り、中を確認する。ん? そういえば、今回レベルアップが……
「やっぱりだ。ページ消えてないぜ。ってことは……」
「ほう。ようやく我らに限界が来たということか」
おお。ということは、残り600ページくらい集めればいいわけか。指標がハッキリしてる分、やる気も出るってもんだね。
「長かったモンスター狩りの日々も終わりが見えてきましたね。皆さん、あと600ページです。この調子で蒐集しちゃいましょう」
皆が頷き、私に笑顔を返してくれる。よぉっし、頑張るか。
と、光明が見えてきたことで気が緩んでいた私達に、突然声が掛かった。
『オンナ、キニイッタ』
「な、なにやつ!?」
周りを見回すが、ここに居るのは私達5人と倒れたままのドラゴンのみ……あれ? もしかして……
「どうやらこいつが話しかけたようね。通訳魔法がまだ効いてたのかしら?」
このブルーアイズが? でも気に入ったって、誰が?
「なんかこいつ、シグナムのことじっと見てる気がすんだけど」
「ん? わたし~? へーいドラゴン、なんか用かい?」
シグナムさんがブルーアイズの顔の真ん前まで近づき問いかける。うつ伏せになって顎を地面につけているので、鼻息でシグナムさんのポニーテールがそよいでいる。
『オマエ キニイッタ オレサマ イツデモヨベ』
いつでも呼べ? 戦いたくなったら呼べって意味かな。こいつもバトルマニアだったりして。
「……もしかして、召喚に応じてくれるって意味じゃない?」
「召喚? そんな魔法があるんですか?」
私の素朴な疑問にシャマルさんが答えてくれる。某説明お姉さんみたいだ。
「無機物、生物問わずに召喚する魔法というのは存在するわ。生物の場合は、その召喚相手と心を通わせていなければ使役出来ないけどね。ただ、そういった技能を持つ人間は稀なんだけど。……シグナム、あなた召喚スキルなんて覚えてた?」
「ん~、さっき倒した魔導師が覚えてたんじゃにゃーのかな。あいつ、なんか召喚しようとしてた気がするし。速攻でぼこったから分かんなかったけど」
そういえば、『出でよ、我がしもべ、レッドアイズ……ぶふぇえっ!』とか言ってた気がする。
「ドラゴンくーん。本当にいいのかい? お姉さん、頻繁に呼んじゃうよん? 主にバトルのために」
『イイ オマエ ツヨイ ダカラ スキ』
「……ふっ、ドラゴンと心を通い合わせるとは、流石は我らの将だな」
「ちゃんと制御できんのかよ、こんな凶暴なの」
ヴィータちゃん達が話している中、シグナムさんがドラゴンの口に触れながら、長い間苦楽を共にした親友に向けるような表情で呟く。
「嬉しいことをいってくれるな。……そうだ、これから長い付き合いになるだろうから、お前に名前を付けてやろう。お前の名前は……ブルー。ブルーがいいな。これからよろしく頼むぞ、ブルー」
『ブルー イイナダ キニイッタ』
あれ? なんか口調がいつものシグナムさんらしくないような。戦闘の時も、最後は口調が統一されてたし。というか、もしかして……
「シグナムさん、ひょっとして、言語回路のバグというの直ってるんじゃないですか? 実はあの口調が気に入って、わざとふざけた喋り方してるんじゃないでしょうね?」
「な、なんのことでござるかな? ……知らんでござる。拙者は何も知らんでござる!」
怪しいなぁ。
「そんなことはどうでもいいわ。早くかえりましょうよ」
「流石に今回はあたしも疲れたぜ。飯食って寝てー」
「ホネッコが我を待っている」
百戦錬磨の皆でも、今回の戦闘は体に堪えたと見える。……シャマルさんは見てただけだった気もするが。
「本日は苦労の連続でしたね。でも、その甲斐あってページが普通に埋まるようになりました。あと一息といったところです。今日は家に帰ったらゆっくり休んで、今後の蒐集に備えましょう。皆さん、本当にお疲れ様でした」
さて、締めの言葉も済んだことだし、帰るとしましょうか。
「シグナムさーん。帰りますよー。こっち来てくださーい」
ドラゴンからなかなか離れようとしないシグナムさんを呼びつける。別れが寂しいのかな。
「ブルー。お前は私のライバルであり、親友だ。私以外の者に倒されるなんてことは許さんぞ」
『……フッ』
「……いらぬ心配か。では、さらばだ……おっと、そうだ」
きびすを返そうとしたシグナムさんだが、なにかを思い出したかの様に振り返り、
「私も強いお前が好きだよ、ブルー」
チュッと、下アゴに軽く口づけをしたのだった。わぁお。
「お待たせしたッすね。さっ、帰りまっしょい」
何事もなかったか様に戻って来る美貌の騎士。決まってたのに、その一言で台無しだよ、もう。
「それじゃ、今度こそ戻るわよ。……シグナムは髪をおさえていてちょうだいね」
「ウィース」
この世界での冒険も、これで終わりか。ドラゴンに追いかけられたり、チビりそうになったりしたけど、なかなか楽しかったかな。機会があったらまた来てもいいかもしれないな。
「……転移!」
「あ……」
消える直前、ブルーアイズがこちらを向いて、笑ったような気がした……
──その夜
「ドロー! ブルーアイズホワイトドラゴン、召喚!」
『グルゥゥアアアアアアア!』
「ふはははははは! すごいぞー! かっこいいぞー!」
「今すぐ戻せ!!」