『申し訳ございませ〜ん! パチュ○ーのねんどろいどは、ただ今完売致しました!』
『ところがどっこい、まだ俺は残っている可能性を信じてるんだなぁ!』
『完売したって言ってんだろ! さっさとどけ、ピザ野郎!』
『はいは〜い、ケンカは厳禁ですよ。出禁食らってもしりませんよ〜』
『押さないでくださーい! せめて20ページの同人誌二冊分は隙間を空けてくださーい!』
『も、漏らしてたまるか。ほっしゃんのサイン入りテレカ付きTシャツを手に入れるまでは!』
『さっさとトイレ行けぇー!』
『パパー、ママー、どこー?』
『おい、両親! 自分の娘よりグッズが大事なのか!?』
『申し訳ございません! こちらのTシャツはただ今完売致しましたー!』
『ほっしゃーん!? ほっしゃ……ほあーっ! ほあーっ!』
『だから早くトイレ行けっての!』
『すいませーん。財布拾ったんですけどー。』
『あ、それ俺の』
『いや俺のだから』
『ところがどっこい、実は俺のだ』
『誰のだよ!?』
『だから押さないでくださーい! 押さない、横入りしない、希望を捨てない。これ大事ですよー!』
「いやー、凄い熱気でしたね。スタッフも大変だ」
「たまに名言が生まれるから、それを楽しみにしているオタクも居るでござるよ」
現在、企業ブースを離れて木陰で昼食を取っているところ。西館に食事処はあるらしいが、昼頃はほぼ満席になっているみたいなので、わざわざこんな所で食事しているという訳だ。ちなみに食べているのはペロリーメイトと十秒チャージの栄養飲料だ。少々味気無いけど、これなら場所も時間も取らないしね。
「次はコスプレコーナーに行くんだっけ?」
「その通りです、ヴィータちゃん。フフフ、待ちに待ったコスプレショーの始まりですよ。デジカメの準備はバッチリですので、気兼ね無く変身してきて下さいね」
ちなみにこのデジカメはロリコンにねだって送ってもらったものだ。使えるものは使わないとね。
「あたしもやるのかよ……」
当然。何のための騎士甲冑か。
「私もシグナムさんもやりますし、周りはみんなレイヤーですからそこまで恥ずかしくはないですよ」
「主もやるんでごわすか。そのバッグの中身はコスプレ衣装だったんすね」
やっぱりコミケに来たならコスプレしないとね。
「おやおや、皆コスプレするでござるか? てっきり見学だけかと思ったんでござるが」
そういえばマルゴッドさんもするんだっけ。
「マルゴッドさん、衣装はどうするんですか? 後のお楽しみとおっしゃってましたけど」
「ふむ、そろそろ種明かししてもいいでござるな……これを見よ!」
懐から取り出したるは……一枚のカード?
「これぞ拙者のデバイス、『ゲシュペンスト』でござる」
ゲシュペンスト……亡霊って意味だったかな。でも何でデバイスを……まさか。
「ふっふっふ、聞いて驚くでござる。なんとこのデバイスには、百種類以上ものデザインのバリアジャケットが保存されているのでござる! コスプレやりたい放題し放題! まさにレイヤーの夢と希望がこの中に!」
『お前もか……』
「おろ?」
やっぱりね。
登録を済ませ、意気揚々とコスプレ広場へと足を向ける私達。しかし、まさかマルゴッドさんが私と同じアイデアを思い付くとは……
「拙者と同じアイデアを思い付くとは、なかなかやるでござるな、ハヤテどの」
「それはこっちのセリフですよ」
「こんなアホなこと考える奴がハヤテ以外にも居たとはな」
「失礼な」
ヴィータちゃん。レイヤーにとっては喉から手が出るほど魅力的な魔法何だよ、これは。
「ところで、主はどんなコスプレをするんだぎゃ?」
「私ですか? 私はですねぇ……これです」
バッグからウィッグとカラーコンタクトを取り出し身に付ける。
「そうきたか」
ふふふ、やっぱり車椅子に乗っているのは大きいよね。カツラとコンタクトだけですぐに誰か分かるんだもん。あ、ちなみにこのカツラとコンタクトもあのロリコンから巻き上げたものだ。使えるものは以下略。
「そちらがそれなら、拙者はアレにするでござるかな……そうだ、シグナムどのとヴィータどのも、せっかくだからアレになされい」
「いや、確かにあるんだが、あたしの場合は違和感バリバリだぜ?」
「別にいいっしょ。一人だけタイプが違ったら浮いちゃうよん」
「それもそうだけど……」
なるほど。アレで来るのか。私のコスに合わせてくれるんだな。
「それじゃ、私は一足先にコスプレ広場に行ってますね。お手洗いで変身が済んだら来てください」
人目に付かない所といったらそこぐらいしかないしね。
『了解』
『見ろ、ナナリーだ……』
『……ふつくしい』
『この胸の動悸は何だ? これが萌えだというのか!?』
ああ、見られてる。めっちゃ見られてる。なんと気持ちの良いことか。やっぱり見られてこそのコスプレだね。家の中で一人で悲しいコスプレショーしてた時なんかとは比べ物にならない充足感を感じるよ。
現在、私はコスプレ広場にて衆人の視線を集めている。さあ、オタク共。見ているだけじゃ物足りないだろう? 記録に残したいだろう? 遠慮は無用、かかってきなさい。
「すいません、写真いいですか?」
キター!
「どうぞどうぞ。心行くまで激写してください」
「は、はあ。では……あ、目をつむってもらえますか?」
おっと、それがデフォだったね。うっかりしてた。
カシャ! カシャ!
暗闇の視界の奥からシャッター音が鳴り響く。ああ……たまらん。これぞ至福の時間だね。
「ありがとうございました」
「いえいえ」
もう終わりか。もっと撮ってもいいのに。
「すいません。こっちもいいですか?」
千客万来! もっちろんですとも!
「どうぞ、どう……ぞ?」
振り向き、目の前の女性を見て見覚えがあることに気付く。猫耳としっぽをつけてるけど、この人は確か……
「あの、ひょっとして、よく家に配達に来るお姉さんじゃありませんか?」
「え? 初対面だと思いますが」
確かによく見てみればちょっと違うかも。でも似てるなぁ。まあ、相手がこう言ってるんだし、別人なんだろうな。
「気のせいだったようですね。お気になさらず。写真、好きなだけ撮って下さいね」
「ええ。では早速」
その後、お姉さんは何回かシャッターを切り、私にお礼を告げて去って行った。
「──なんで──こんなこと──あのロリ野郎──」
謎の呟きを残して。
と、そこで突如周りがざわめく。
『ゼロだ! ゼロが出たぞ!……しかも、三人!?』
『なんて精巧な衣装だ……歪みねぇ』
『本当だ……一人だけ何かちっちゃいけど』
どうやらシグナムさん達が広場に現れたようだ。こちらに向かって、特徴的な仮面とマントを身に付けた黒ずくめの三人組が近付いて来る。そして、私の目の前で止まると同時に叫ぶ。
『私が、ゼロだ!』
……以外とヴィータちゃんもノリノリだな。
「お似合い……と言っていいのか分かりませんが、素敵ですよ、皆さん」
「ハヤテも結構ハマってるぜ」
ヴィータちゃんが誉めてくれた。まあ、車椅子生活も長いからなぁ。板についてても不思議じゃない。
「さながら、今の構図にタイトルを付けるとしたら、【三人のゼロ】といったところでしょうか」
原作のあのシーンを見てるようだ。
「【三人のシスコン】でも良いんじゃないすか?」
それだと妹である私の身が持ちません、シグナムさん。
「シグナムどの、今こそあの技を発動する時でござるよ」
「む。やるか、マル助」
シグナムさんが頷き私の回りを旋回し始めると同時に、マルゴッドさんも同じ行動をとる。突然何を?
「拙者がゼロでござる」
「いやいや拙者がゼロでござる」
『ではどちらもゼロということで』
いつの間にか、ただ旋回するだけでなくヒゲダンスを踊りながら徐々に輪を縮めてきている。
「どちらがシグナムで」
「どちらがマルゴッドか」
『分かるでござるかな?』
「……ウザすぎる」
ヴィータちゃんがポツリと洩らす。まあ、否定はしないが。
『さあ、どっちがどーっちだ?』
目の前で二人が止まり、片手を腰に当てビシッと私を指差す。なんというシンクロ率。本当に今日出会ったばっかなのか?
しかし、問われたのなら答えない訳にはいかないな。……あの手を使うか。
「お二人共、ちょっとかがんでくれます?」
『?』
怪訝に思ったようだが、すぐにかがんでくれた。……かかったな! トラップカード発動!
「左手におっぱい、右手にもおっぱい!」
「なっ!?」
気付いたようだがもう遅い!
「ヘブンアンドヘブン!」
私の魔の手が二人の胸部へと伸び、
ふにょん
という音と共に、五指、いや十指がその柔らかな膨らみにたどり着き、揉みしだく!
もみもみもみもみもみもみぽよんぽよん。
『セクハラにも程があるでござる』
やだなぁ、子どもの可愛いイタズラじゃないですか。……て、それはともかく。
「こちらがシグナムさん。で、こちらがマルゴッドさんですね?」
『なんと!?』
どうやら正解のようだ。と言っても、私が一度揉んだおっぱいを間違える訳がないんだけどね。
「とんでもない特技を持ってるでござるなぁ」
仮面を外したマルゴッドさんが驚嘆の声を上げる。
「いや~、それほどでも」
「ハヤテ、ソイツ呆れてるだけだから」
……まあそうだよね。
「さて、マル助。余興も済んだ事だし、そろそろ始めるでゲス」
「そうでござるな。フフ、拙者のコスプレ衣装は百八式まであるでござるよ」
「おや? 一体何を始めるんですか?」
私の質問にヴィータちゃんが答えてくれる。
「コスプレ勝負だとよ。どちらがオタク共を釘付けに出来るかを競うんだってさ」
なんと。それは素晴らしい。是非ともデジカメに残さなくては。
「ヴィータちゃんは参戦しないんですか?」
「遠慮しとくぜ。コスプレはどうも性に会わないんだよ」
その割には登場シーンはノリノリだったと思うんだけど……
「まさか、おいどんが負けるとは……」
お手洗いとコスプレ広場を行ったり来たりしていた二人の勝負も、一時間ほどで勝敗が決した。というかシグナムさんの自爆。調子に乗ったシグナムさんが、ラムちゃんのあの露出度満点の格好で登場してしまったからだ。登場五秒でスタッフに連行されたシグナムさんは、「すいあせん、すいあせん」と謝ったものの、コスプレコーナーへの入場を禁止されてしまったのだ。
「あれは流石にやりすぎでしたね」
「あの程度の露出、ヌーディストビーチにいる人間の格好に比べればなんてことねぇっすよ」
比べる対象が間違ってます。
「いやー、楽しませてもらったでござるよ。一人でコスプレするのも楽しいでござるが、知り合いとお互いの衣装を批評しあうというのもオツでござるな」
満足気なマルゴッドさん。ふふふ、あなたの姿もちゃんと記録してますよ。
「なあ、次はどこにいくんだ?」
ややげっそりした感じのヴィータちゃん。あの後私服に着替えてきたのに、写真撮らせてってオタクに囲まれてたからね。しかし、次か……
「エロ本買いに行かないんすか? 同人誌ってのがあるんでしょう、主」
「ぶふっ!」
なっ!? なな!?
「何を言うんですか! シグナムさん!」
「いや、だって、ベッドの下に隠して──」
「わー! わー!」
バ、バレてる!?
「ハヤテ……お前」
やめて! そんな目で見ないで!
「流石にハヤテどのにはまだ早いでござるな」
違うの! アレは、はやてちゃんが……いや、私も拾ったけど……でも違うの!
「まあ、主がどうしても行きたいって言うならついていき──」
「黙れ!」
もう、お嫁にいけない……