「皆でリレー小説を書きましょう」
ナイスアイデアを思い浮かべた神谷ハヤテです。
七月も終盤に差し掛かったある日の昼時のこと。図書館で借りてきたラノベをリビングで読んでいた私は、唐突に小説が書きたくなった。小説好きなら誰もが一度は経験があるよね?
しかし、今回私が書きたくなったのはただの小説ではない。リレー小説だ。
「唐突っすね。そのリレー小説ってのは何なんですかい?」
私と同じようにソファーに寝そべってマンガを読んでいたシグナムさんがいち早く反応した。良い質問だ。花丸をあげましょう。
「あれだろ? 何人かが集まって、一人ずつ小説書いていって話を繋げるやつ」
おや、ヴィータちゃんは知ってたか。まあ、最近はネット上で行われるリレー小説なんてのもあるからなぁ。それで知ったのかな。
「そうです、まさにそれです。どうですか? 皆でやりません?」
「あたしは別に構わねぇけど、何でいきなりそんなことを考えたんだ?」
「このラノベに触発されたんです」
そう言い、一冊のラノベを目の前に突き出す。表紙には、ギャルゲーに出てきそうな女の子があどけない微笑みを浮かべている。スカートで体育座りしてるのに、パンツ見えないことに突っ込んではいけない。
「ラノベねぇ。あたしは読んだことないけど、そんなに面白いのか?」
「そこは、一人一人の感性によりますね。誰かがつまらないと言った本でも、別の人が読めば、とんでもなく面白いと感じることもあるでしょうし」
ちなみに、私が今持っている本は三巻までしか出てないが、隠れた良作だと思っている。
「シグナムさんもやりましょうよ」
「面白そうっすね。私もとうとう文豪への道を歩む時が来たか」
よし、残るは狼と料理人だ。
「ザフィーラさんも……あ、狼形態じゃタイピングは無理ですね。今回は諦め──」
「戦闘民族サイヤ人を……舐めるなよ?」
ザフィーラさん、いきなり何を言ってるんですか……って!?
「はあぁぁぁー!」
烈帛(れっぱく)の気迫と共にザフィーラさんの体が光に包まれ、徐々にその体型が人形へと近付いていく。まさか、自力で変身出来るように?
「……変身、完了だ」
そこには、何かをやり遂げた顔をしたザフィーラさんが、騎士甲冑(例の戦闘スーツ)を身に纏い佇んでいた。でも何で騎士甲冑を?
「おい、駄犬。何で騎士甲冑纏ってんの?」
シグナムさんのもっともな質問に、ザフィーラさんはこう答えた。
「形態変化出来るようになったは良いが、なぜか強制的に身に付けてしまうのだ」
どんな呪いですか。
「まあいいです。変身したってことは、参加の意思あり、ということですね。じゃあ、後は……」
「ズタズタよ、ズタズタ! まるでさきイカね!」
キッチンでイカをさばいてるシャマルさんのみ。どうもあの人は、料理している時は性格がおかしくなるようだ。……誘うのは昼御飯を食べた後にしとこう。
『ご馳走さまでした』
「ご馳走Summer」
「お粗末さまでした」
舌に違和感が残る程度になってきたシャマルさんの料理も食べ終わり、いつもなら三々五々に散って、まったりと過ごすこの時間。しかし、今日は一味違う。
食事中にシャマルさんの参加表明を聞いた私達は、食器を片付けた後すぐにリビングに集まって、パソコンを起動させたのだ。もちろん、リレー小説を書くために。
「私はタイピングあまり得意じゃないけど、大丈夫?」
「我もだ」
「構いませんよ。時間はたっぷりありますから、自分のペースで書いて下さい。締め切りなんて無いんですから」
楽しんで書かなきゃ意味がないしね。
「それでは、改めてルールの説明をします」
大筋はさっきヴィータちゃんが言った通り、一人ずつ順番に小説の続きを書いていくというもの。
ただ、前の人の小説の設定や世界観などに、必ずしも従わなくてはならない、というルールはない。まあ、バトル、ラブコメ、SF、ミステリー、自分の好きなように、好きな物語を紡いでいけばいいのだ。
文章の量は個人の自由。短くても長くても構わない。あと、出来るだけきりの良い所で次の人に繋げるのがベスト。
「──と、こんな感じですね。何か質問は……無いようですね。では、順番を決めましょう」
ジャンケンで順番を決めることにした。
「おい、ザフィーラ。この前みたいに、『ジャジャン拳!』とか言って魔力飛ばすなよ?」
「魔力ではない、オーラだ」
あの時はびっくりしたなぁ。
気を取り直してジャンケン再開。結果は、一番シグナムさん、二番ヴィータちゃん、三番私、四番ザフィーラさん、ラストがシャマルさんという順番になった。
「シグナムさん、始めが肝心ですよ。頑張って下さい」
「任してチョンマゲ」
心配だ……
【シグナムパート】
「ありがとうございましたー」
愛想笑いを浮かべて、私はコンビニのドアを抜ける客の背中を見送った。くそ、あのブ男、釣り銭渡す時に手握ってきやがった。私じゃなかったらセクハラで訴えてる所だぞ。
レジで怒りに身を震わせながら、店内を見回す。客は居ないようなのでホッと息を吐く。
はあ。コンビニなんかでアルバイトするんじゃなかった。来月に絶対止めてやる。こんなんでコミュニケーション能力が上がるかっての。そんなやり場の無い憤りを感じながら、誰も居ない店内でポツリと言葉を漏らす。
「鬱だ。死のう……」
ああ、また言ってしまった。今日で五回目だ。もはや口癖になってしまったようだ。まあ、実際に行動を起こしたことなんて無いんだけど。だって、死ぬの怖いし。
私、なんでこんなことしてるんだっけ……ああ、そうだ。他人と触れあうことに慣れるためだった。
そう、私こと田中ヴィータは、対人恐怖症ばりに人と話すことが苦手である。
なぜなら、小学生、中学生の九年間、アホみたいにクラスの皆にからかわれ続けたからだ。原因は私の容姿と名前。
ドイツ人と日本人のハーフである私は、ドイツ人である母方の血を濃く受け継いだのか、容姿は完全に異国のそれ。私がどれだけ周りに馴染もうとしても浮いてしまう。故に、出る杭は打たれるという日本の伝統が私に襲いかかったのだ。
小学生の時は特に酷かった。土井津仁とか、B太(ビータ)とか、β(ベータ)とか、ろくでもないアダ名をつけられまくったのだ。まあ、萎縮して反論しなかった私も私だけど。
高校に入ってからはそういったことは無くなったが、小学校、中学校と同様に友達がまったくいない。話しかけてくれることはあるのだが、いつも緊張してドイツ語で返してしまうのだ。その後に日本語で取り繕ってもまともに喋ることが出来ず、その人はいそいそと退却してしまう。毎日がその繰り返しで、一向に友達ができない。
「鬱だ。死のう……」
おっと、また言ってしまった。
まあ、その悪循環をどうにかすべく、アルバイトでもしてコミュニケーション能力を獲得しようと、今に至る訳なのだが……開始三日で意味が無いことに気が付いた。だって、会話らしい会話無いんだもん。
そりゃそうだよね。コンビニ店員と談笑する客なんて居ないよね。……はぁ。
「鬱だ。死のう……」
七回目か。記録更新だ。やったね。……地球滅びないかなぁ。
あ、客だ。面倒だなぁ。立ち読みでもして帰ってくれないかなぁ。……ん? なんでヘルメットかぶってんの、コイツ。それに右手に……出刃(でば)!?
「……強盗だ。金を出せ」
……今時コンビニ強盗ですか。日本の検挙率知らないのかコイツ? ……でも、どうしよう。大人しく金を渡すのも癪(しゃく)だなぁ。 可憐な私が汗水流して働いてるってのに、コイツは「金を出せ」の一言で大金を得る? ふざけるなと言いたい。ぶっ飛ばすぞ?
あれ、もしかして、ここでこの強盗を撃退したら私、新聞に載っちゃう? ニュースに映っちゃう? 凄くね? 明日から一躍有名人じゃね? ……友達、できるんじゃね?
「早くしろ、ぶっ殺すぞ、貧乳」
ちんけな脅し文句だこと。そして今ので貴様の寿命は縮まった。偉大な先人よ、技を借りますね。
「僕……」
「あん?」
勢いをつけてカウンターに飛び乗り、力の限りに威嚇する。
「僕、アルバイトオォォォーーー!!」
【次パートへ続く】
「こんなもんすかね」
「なげーんだよ! あと設定が無駄に凝りすぎだ! ついでに主人公の名前をどうにかしろ!」
「まあまあ、B太ちゃん、落ち着いて下さい」
「ヴィータだ!」
これは失礼。
「少し長い気もしますが、中々面白いと思いますよ」
「ハハハこやつめ」
照れてるのかな?
「……もういい。次はあたしの番だな。こんな設定ぶっ壊してやる」
「ワイの渾身の設定が……」
「だったら名前をどうにかしろ、名前を!」
「それはできんでござる」
「ぐ……見てろよ」
【ヴィータパート】
「僕、アルバイトオォォォーー!!」
「だからどうしたあぁぁ!」
グサッ!
「ひょ?」
お腹が熱い。なんだこれ? そう思い、腹を見る。
「……なんじゃこりゃあぁぁー!?」
真っ赤に染まった腹部が目に入る。やべ、刺されたのか。見よう見まねであんな高度な技使うんじゃなかった。目が霞んできちゃった。ああ、もう、ほんとに……
「鬱だ……死……の……」
そこで私の意識は途切れた。
……おや? 私は死んだんじゃないのかな? でも意識はハッキリしてるしお腹も痛くない。なにこれ。それに回り一面真っ白。死後の世界ってやつ?
「おお、ヴィータよ。死んでしまうとは情けない」
目の前に白髭生やしたジイサンが現れた。ああ、やっぱり私は死んだんだ。ひょっとしてこのジイサン神様?
「本来ならあそこで死ぬはずはなかったんじゃが、運命の悪魔がイタズラをしてしまったようじゃ。よって、もう一度お前にチャンスをやろう」
え、これなんてSS?
「サービスとして、望む能力を一つ付けて転生させてやろう。さあ、なにがいい?」
う〜ん、なんというテンプレ。だがそれが良い。それじゃあ、あの能力でも付けてもらいますか。
【次パートへ続く】
「これでどうだ!」
「つまんないでござる」
「インパクトが足りないわね」
「精進あるのみだな」
「ちくしょぉぉー!」
皆辛口だなぁ。まあ、確かに改良の余地は色々あるけど。
「けど最後の、能力を決めるのを次の人に譲る、というのは素晴らしい配慮だと思いますよ」
「ハヤテ……愛してるぜ」
そこまで傷付いてたんですか……
「さて、次は私ですね。それじゃあ──」
「あ、ごめんなさい。そろそろ夕飯の支度しなくちゃならないの。悪いんだけど、私は今日はここまでね」
「我も用事があるのでな。失礼させてもらうぞ」
むう、良いところなのに残念だ。シグナムさんが時間取りすぎたかな?
「分かりました。それじゃあ、また今度時間があったらやりましょう」
「ええ」
「うむ」
「ええー。じゃあこの続きはどうなるんだよ」
あ、そっか。
「なんなら拙者が書いても──」
「断固断る」
「私で良ければ、なんとか終わらせてみようと思うのですが……短いですけど」
「流石ハヤテ! 頼むぜ、田中ヴィータに安らぎを与えてやってくれ!」
では、さっそく。
【ハヤテパート】
「私の望む能力、それは……」
「それは?」
「友達がたくさんできる能力です」
【Fin】
「マジで愛してるぜ、ハヤテ」
大袈裟だなぁ。