「想いだけでも、力だけでも!」
「あんたって人はぁー!」
シグナムさんとガチバトル中の神谷ハヤテです。
朝ごはんも食べ終わり、まったりした空気の中、私は日頃から感じていた疑問をぶつけてみることにした。
「シグナムさんってしょっちゅう出かけますけど、どこに行ってるんですか?」
二日に一回は遠出してるみたいだけど、外に友達でもできたのかな。
「ゲーセンっすよ。井の中の蛙を片っ端から叩き潰して回ってるでやんす」
妙にお小遣いせがむと思ったらそういうことだったのか。まあゲーセンなら仕方ない。自分の実力を周りに見せ付けるのは強者の務めだ。そういえば……
「私とシグナムさんってガチバトルしたことありませんね。今からやりません?」
最近はヴィータちゃんも腕を上げてるけど、まだまだ私には敵わない。しかしシグナムさんはどうだろうか? 腕に自信がありそうだが。
「いいでがすよ。それじゃ初めは肩慣らしにガンダムでも……」
というわけで、唐突に己の腕と誇りを賭けた勝負が始まったのだ。
「フリーダムとかチートすぐる」
「デスティニー使いが何を言うか」
結果は二勝一敗で私の勝ち。しかしギリギリだった。これほどの腕前とは。本当に騎士かあんた。
「流石っす。でも勝負はまだこれからだぜ」
そうだ。時間もゲームもアホみたいにある。今日一日はこれで時間が潰せるほどに。
さて、次は何をやろうかな?
二時間ほどぶっ続けで勝負し、一旦休憩をすることにした。私と互角の勝負をするとは、守護騎士、侮れんな。
「そんな! 伊隅大尉ぃぃーー!? 」
キッチンに飲み物を取りに行こうとした矢先、ヴィータちゃんの叫び声がリビングに響き渡った。なんぞ?
「どうしましたか、ヴィータちゃん」
「い、伊隅大尉が……」
ああ、オルタか。そういえばヴィータちゃんにやらせてたっけ(もちろん全年齢対象版)。確かにあのシーンは衝撃的だったな。ここは慰めてあげるとしよう。
「大丈夫ですよ。伊隅大尉ならほら、あのテレビの向こうに」
「え……」
『ゲーロゲロゲロゲロ、我輩は──』
「あれは軍曹だぁー!」
逆効果だったか。
しかし大尉一人でこの有り様だと、桜花作戦の時はどうなるんだろうか? まりもちゃんの時のように精神の安定を守るために記憶から消し去るのかな?
シグナムさんとのバトルも終わり、今は二人で仲良く借りてきたDVDを見ている。ちなみに全てのゲームに渡り実力はほぼ互角。センス良すぎだろ、シグナムさん。
「うおお! 渚ぁぁー!」
またか、こんどはクラ〇ドか?
「ヴィータちゃん、大丈夫です。渚ちゃんならほら、あのテレビの向こうに」
「え……」
『死ねぇ! 死んでしまえぇー!』
「渚を汚すなぁー!」
どうしろって言うんだよ。まったく。
「ザフィーラさん、散歩の時間ですよ」
「……待っていたぞ、この時を!」
最近は、私とザフィーラさんが一緒に散歩することが日課になっている。
二人とも散歩が大好きなので、どうせなら一緒に行こうと、どちらからともなく言い出したのだ。
「今日は機嫌が良い。背中に乗せてやろう」
なんと、珍しいこともあるもんだ。いつもは乗せろと言っても断るのに。
「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらって……そりゃっ!」
乗っていたグレン号から、上半身に反動をつけて飛び移る。ああ、グレン号。浮気者の私を許しておくれ。
──ハッ──
嘲笑された気がした……
「では行くぞ、しっかりと掴まっていろ」
「お願いします」
玄関を抜け、外へと飛び出す一人と一匹。
おお、これは。上下に揺れてはいるが、振り落とされるほどでもないし、遊園地のアトラクションみたいで楽しいじゃないか。
うん、風も気持ち良い。絶好の散歩日和だ。
「……む」
前方に近所のガキ共の姿を発見。奴ら、私の車椅子姿を見る度に貶してきやがるんだよなぁ。
大人な私は温情を持って見逃してきたが、さて、今回の対応次第では私にも考えがあるぞ?
「おい、見ろよ。 椅子女がでかい犬に乗ってるぜ。」
椅子女とはもちろん私のこと。ひねりも何もない。まあガキ共が思い付くアダ名なんて、この程度が関の山か。
「いつもの車椅子はどうしたんだよ。壊れたのか?」
なんでこんなに楽しそうなんだ、こいつら。人の不幸は蜜の味なのか?
「グレン号は家で待機中です。ザフィーラさん、もう行きましょう」
相手にするだけムダだったよ。
「グレン号だってよ。車椅子に名前付けるとかバカじゃねぇの。あ、友達いないから車椅子が友達なんだな。それじゃしょうがねぇ」
プッチーン。
「……ザフィーラさん、殺ってしまいなさい」
『承知』
念話で了承の意を伝える我が忠犬。今はあなたが最高の相棒に見えるよ。
「人間なんて、大嫌いだぁー!」
『ぎゃあー!』
某モノノケ姫のように獣にまたがり獲物を蹂躙する。悪いのはみんな人間だ!
「フーッ、フーッ、……残るはあなた一人デスね」
獲物は狩り尽くした。後は涙を流しながら命乞いをする愚か者のみだ。さて、どうしてくれよう。
「たっ、助けてくれ……」
何をいまさら。
「あなたは、そうやって命乞いする人間を今まで見逃したことはあるんですか?」
「いや、そんな経験ねえから──」
「問答無用!」
「問答にすらなってね……あべしっ!」
……フゥー。最高にハイッてやつだぁ!
『主、そろそろ帰るか?』
「おっと、そうですね。美味しい……かどうかは分かりませんが、夕飯が待ってます。帰りましょう」
最近、ようやくシャマルさんの料理が食べられるようになってきた。私達の味覚が変質したのか、シャマルさんの腕が上がったのかは分からないが。
まあ、栄養が偏りがちな弁当よりはマシか。味は置いといて。
「ザフィーラさん、先ほどはお手柄でしたね。焼き鳥を奢りましょう」
「ねぎまだけは勘弁な」
やっぱり狼もネギはダメなのか……
「ただいまー」
「アイルビーバック」
ザフィーラさん、それは家を出るときに使いましょう。
「うう、おがえり」
涙を流しまくりのヴィータちゃんが出迎えてくれた。今度はなにがあったんだろう。
「ハヤテ~、真琴が、真琴が~」
今度は聖典か。一つずつコンプリートしようよ、ヴィータちゃん。
「はいはい、大丈夫ですよ。丁度今はテレビの中でミュウツーと激闘を繰り広げていることでしょう」
「もう止めてくれ!」
いちいち私に報告しなければいいのに。
「あら、お帰りなさい。今日はまたピロシキを作ってみたの。美味しいわよ」
「……真琴ぉー!」
「あら?」
タイミングが悪かったですね。
「あれ、シャマルさんその格好……」
いつものエプロン姿とは違うような……
「分かる? いつものエプロン、ちょっとした手違いで黒焦げにしちゃったから、この前デザインした騎士甲冑を纏ってるのよ」
ちょっとした手違いでエプロンは焦げません。
「わりと便利よね、これ。油跳ねても安心だし、洗濯する必要ないし。大発見だわ」
本来の用途はコスプレですけどね。お題は若奥様だ。
「お腹も空きましたし、ご飯にしましょう。ヴィータちゃん、行きますよ」
「テレビは点けんなよ」
勘がいいことで。
キッチンに移動し席に着く。もう馴れたとはいえ、やっぱり皆で食べる食事というのは良いものだ。
……はやてちゃんは、いつも一人だったんだよね。
もし私が憑依しなければ、ここで談笑しながら食事していたのは、はやてちゃんだったのかな。
……やめよ。仮定なんて想像してたらきりがない。
「それじゃ、皆さん、いただきます」
『いただきます!』
「いただきMAX」
「あ、普通に美味しい」
「いつまでも同じ私だと思わないことね」
はやてちゃん、私は今幸せだよ。
君はどうなのかな?
願わくは、幸福であらんことを──