「騎士甲冑?」
疑問符を浮かべる神谷ハヤテです。
とある日の夜、最近〈菜の花〉さん見ないなぁ、と仮想現実世界をウロウロしていた時のこと。
珍しく人間形態になっているザフィーラさんを引き連れたかしまし三人娘が、がんくび揃えて私の所にやって来たと思ったら、いきなり騎士甲冑を作れと迫ってきたのだ。
「そうっすよ。アンタにしか作れないんす。無限の剣製みたいにパパッとイメージして投影してくだせえ」
君が何を言ってるのか分からないよ、シグナムさん。
「あたしが説明するからお前は黙ってろ」
あ、なんかデジャブ。
「アレよ、空想具現化するのよ」
「お前ら皆黙ってろ!」
突っ込みが板についてきたな、ヴィータちゃん。
「騎士甲冑ってのは、あたしらベルカの騎士が戦闘時に身に纏う防護服みたいなもんだ」
はあ、防護服ねえ。
「毎回、新しい主にはその騎士甲冑のデザインを決めてもらうことになってんだよ」
「デザインを決めるって、紙にでも描けばいいんですか?」
デッサン力には自信がありますよ?
「いや、イメージを思い浮かべるだけでいいんだ」
イメージねえ。……しかし、気になることがある。
「その前に幾つか聞きたいことがあるんですが」
「なんだ?」
「以前のものはどんな感じでしたか?」
途端に苦い顔になるヴィータちゃん。なに、言えないほど恥ずかしいデザインだったの?
「前のは……あんまり趣味のいいのじゃなかったな」
やっぱり恥ずかしい格好だったんだ。ヴィータちゃんのエロコスチュームか。見てみたい気も……いや、今は質問が先だ。
「そうですか、それじゃもう一つ。騎士甲冑って言うからには、ゴツゴツした鎧みたいなのじゃないとダメなんですか?」
これは大事な事だ。
「いや、服の体裁が整っていれば何でもいいんでござるよ、ニン」
黙っているのに飽きたのか、シグナムさんが口をはさむ。ヴィータちゃんが何も言わないってことは、言ってることは間違いじゃないのか。……よし、第一関門突破。
後はこの条件さえ揃えば……
「最後にもう一つ質問です」
頼むよ。
「デザインって、一度決めたら変更できないんですか?」
『は?』
何故か全員が口をポカンと開けている。なんでさ。
「どうなんですか?」
「……えっと、変更できたっけ? シャマル」
「前例は無いけど、やろうと思えば出来るわよ。まあ、変更する意味なんて無いから皆やらないんだけど」
よっしゃあー!
「意味がない? 何寝ぼけたこと言ってるんですか、シャマルさん。とんでもなく大きな意味があるじゃないですか!」
そう、変更出来るかどうかで天と地ほどの差がある。
「何なんすか、一体」
「コスプレがやりたい放題じゃないですか!」
「……なんだそりゃー!」
「ヴィータちゃん、うるさい」
イメージするだけでその服を身に纏うことが出来るとか、レイヤーの夢でしょう。 たとえ私自身が変身できなくても、他人の着せ替えショーを見ることができれば、それはそれで充分眼福だ。
フフフ。ザフィーラさんにはアレを着てもらうとしよう。
「あのなぁ、ハヤテ。戦闘時に着るんだぞ。コスプレ衣装で戦う騎士がどこにいるんだよ」
「戦闘なんてこの平和な日本であるわけ無いじゃないですか。そんなあり得ないことの為にゴツい鎧こさえるとか勿体無いです。それなら、私の目を楽しませる為にコスプレする方が万倍もマシでしょう?」
「……ダメだこいつ、早くなんとかしないと」
「面白そうですな。あっしは緑色のボディースーツが着たいんですが……」
「私は、そうねえ。セーラー服とか着てみたいわ」
「我は心Tシャツがよい。あれはいいものだ」
「バグり過ぎなんだよ、お前ら!」
これはまた、楽しくなってきたものだ。
イメージを確かなものにするために、自室にある資料に片っ端から目を通す。おお、これはいい。こっちも有りか。想像が膨らむなぁ。
「マジでやるのかよ。あたしは嫌だぜ、プラグスーツ着ながら戦ったりするのなんか」
「諦めなさい、ヴィータちゃん。今回の主は温かいご飯と寝床を与えてくれるだけマシじゃない」
「前回は酷かったからにゃ〜。あのセクハラ魔神が。何度ぬっ殺そうかと思ったか」
結構苦労してるんですね、アナタ逹。
「補完終了。さて、魔力の貯蔵は充分か?」
魔力が切れるまで変身してもらいますよ?
「止めろって言っても無駄だろ。好きにしろよ、もう」
「お手柔らかにね」
「パイロットスーツとかもいいすか?」
「スパッツは少々抵抗があるが、モノにしてみせる」
さあ、楽しいコスプレショーの始まりだ。
一番バッター、ザフィーラさん。お題はサイヤ人の戦闘スーツ。
「……武空術!」
ブワッ!
「おお!」
それにしても、このザフィーラ、ノリノリである。
二番バッター、シャマルさん。お題は本人希望のセーラー服。
「……ゴメンなさい。ちょっと調子に乗りすぎたわ」
だよね。その年でそれは無いよね。
三番バッター、シグナムさん。お題はプラグスーツ。
「アンタばかぁ?」
この人に言われると無性に腹が立つな。
取りを飾るはヴィータちゃん。お題は……赤い彗星の人。
「おい、前が見えないぞこれ」
設計ミスった。
さあ、もう一巡いってみよう!
再びザフィーラさん。お題は亀仙流の胴着。
「……狼牙風風拳!」
ボッ!
「すげえ!」
かめはめ波とか撃てたりしないかな。
お次はシャマルさん。お題はセー○ームーン。
「喧嘩売ってるでしょ、ねえ」
「サーセン」
続いてシグナムさん。お題は意表を突いてボンテージ。
「乙女になんてもん着せやがる。あ、でもこの圧迫感癖になるかも」
気に入ったようで何より。
締めはヴィータちゃん。お題は……ライダー(エロイ方の)
「だから前が見えねえんだよ!」
脚線美が素敵だよ、ヴィータちゃん。
ああ、楽しすぎる。
「もう、無理。疲れた」
三時間ほどコスプレショーを楽しんだのだが、どうやらみんな疲れてきたようだ。まあ充分楽しんだし、ここらへんでやめとこう。
「あの、今回変身した衣装って、これからいつでも着られるんですか?」
「一応デバイスに保存してあるから着られるけど、メモリの無駄遣いとしか思えないわね」
「絶対に消さないで下さいね」
今日一日の成果だ。消すなんて勿体無さすぎる。
「女王様とお呼び!」
シグナムさんはボンテージが気に入ったようだな。でもその姿で外出ないで下さいね。節穴が飛んできますから。
「もう夜も遅いですし、寝ましょうか」
夕飯を挟んだものの、みんな疲労困憊の様子だ。……一名元気だが。
空き部屋まで移動し、いつものように布団を敷いてもらう。
「やっと眠れる。んじゃ、お休みー」
ヴィータちゃんは疲労がかなり溜まっていたようで、いの一番に布団に潜り込んでしまった。お疲れ、それとありがとうね。
「それじゃ皆さん、お休みなさい」
『お休み』
「私が死んでも、代わりはいるもの」
「シグナムうるさい」
side???
──兄弟、調子はどうだい──
──悪くはない。タイヤの走りも良い。しかし乗り手に不満がある──
──健気で良い子じゃないか。胸も小さいし──
──不満はそれだ。やはり女性はでかくないとな、胸──
──分かってないねぇ。あの自己主張しない健気な小ささこそが至宝なんだよ──
──貴様とは兄弟の契りを交わしたが、やはりこれだけは相容れないようだな──
──分かってもらおうとは思ってないけどね。兄弟はどうしてでかいのにこだわる。小さくても良いじゃないか──
──……でかい方が、揉み心地が良いだろう?──
──……兄弟、やっぱあんたすげぇよ──
──惜しむらくは、我らに揉む手が無いということか──
──一番の問題はそこだな。まあ俺はあの小さいのを近くで眺められるだけで幸せだ。イエスロリコン、ノータッチ──
──くっ、なぜ私の乗り手はあのボインでないのだ! 恨むぞ、神よ──
──まあ落ち着け、兄弟。よく考えてみなよ。あの子はまだ子どもだ。先がある。六年、七年先の光景を想像してみな。きっと桃源郷が待ってるぜ──
──……弟よ、よく気付いた。そうだな、まだ未来がある。悲観するのは早すぎたようだ。その慧眼、恐れ入った──
──そんなもんじゃないさ。俺にとっちゃ、六年、七年先の光景は地獄のようなもんだからな。たまに想像しちまうのさ──
──ままならぬものだな──
──ああ、ままならねぇ──