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No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
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[17010] 第四拾弐番
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:a15c7ca6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/09 22:14





「う~ん、もうこんな時間か……」

とある一室で小さく欠伸の音が響く
長い金髪を揺らして、僅かに重くなった瞼を擦りながらその少女は呟いた。


「……目立った収穫はなし、か……」


自室に取り付けられたモニターを眺めながら、フェイトは疲れた様に呟いた。
フェイトの視線の先、そのモニターでは延々とある戦闘光景が流れている。

白い肌、白い服
黒い髪、翠の瞳
白銀の刃、翠の砲撃


それは嘗て自分達が戦った強敵
先の事件で時空管理局が記録しておいた、ウルキオラの戦闘映像データだ。

フェイトはリンディに頼んで、この映像データを借りてきた
借りてきた理由としては至極単純、少しでも己の可能性を広げたかったからだ。


あの時の庭園での戦いから、既に四ヶ月の時が過ぎた。


その四ヶ月の間に訓練と鍛錬を行い、実力・技術を高めてきたのはクロノやユーノだけじゃない。


フェイトもまた、空いた時間・利用できる時間をトレーニングに費やしてきた。


フェイトの日課である仮想空間でのイメージトレーニング、身体能力の底上げ、魔導技術の向上
そしてクロノやアルフと共に行う模擬戦など、思う限りの鍛錬を繰り返してきた。

初めは順調に右肩上がりで戦力強化を成していたフェイトだったが
徐々に伸び悩んでいき、フェイトは徐々に己の中の壁というモノを感じる様になってきた。

停滞期と言えば分かりやすいだろう
やる気と熱意はあるが、それに結果は伴わず


徐々に焦りと苛立ち、そして鬱憤がフェイトの頭の中を支配していった。


負の連鎖と悪循環の泥沼を感じながら
ここでフェイトは、一つ基本に立ち返ってみる事にしたのである。


急いては事を仕損じる
敵を知り己を知れば百戦危うかず


故にフェイトは、先ずは初心に帰ってみようと思ったのだ。


基礎訓練もそうだが、対策を練るにはまず情報
だからフェイトはリンディに頼んで、ウルキオラとの戦闘記録を収めた映像データを借りたのだ。



「……でも、改めて見ると……やっぱり凄いな……」



その戦闘映像を見ながら、フェイトはしみじみと呟く。


「砲撃一つとってもSランクオーバー、スピードは私のブリッツ・アクション以上
近接戦闘は勿論、中距離・遠距離にも隙らしい隙は殆どなし……改めて見ると、本当に凄い」


画面を翔ける白銀の閃光
炸裂する様に行き交う翠の閃光

目まぐるしくモニターに映し出される光景を見て、フェイトは改めて思う。


強い


自然に、単純に、簡潔に、フェイトは思う。


「……でも、必ず付け入る隙はある筈……」


画面の中の白い死神を見つめながら、フェイトは呟く。

強者が強者であるには、それ相応の理由がある
例えば自分の母親であるプレシア・テスタロッサ

以前の時の庭園での戦闘、自分はなのは達と協力して五人で自分の母に挑んだ。


しかし、結果は惨敗。


死角からの広域魔法の連続発射と無詠唱からの超速発動に、自分達は為す術なくまるで歯が立たなかった。

母は強かった、とても強かった
しかし、自分達があそこまで一方的にやれたのには……やはり種と仕掛けがあった。


あの『時の庭園』は、それ自体が母の切り札だった
庭園のメインシステムを駆動炉と動力炉に直結させ用いる事によって、演算の省略化と発動時間の短縮化を図り
更に時の庭園内に母が己の術式を刻み込む事によって、多角複数から魔法の連続発動を可能としていたのだ。

この二つの武器の力を母は余す事無く引き出す事によって、あの圧倒的戦闘力を身に付けていたのだ。


「だから……きっと、付け入る隙はある筈、ウルキオラの強さの秘密、強さを支える『何か』はきっとある……」


ウルキオラの強さと、自分達の強さは根本的に異なる
種族が違うから、と一言で纏めてしまえば簡単だが

それなら尚更、ソレを知る必要がある。

獅子も水の中では無力な様に
鮫も陸に上がれば跳ねる事しか出来ない様に

ウルキオラの強さに対抗し得る「何か」が、きっとある筈

対策を練るには、ソレを知らねばならない
ウルキオラの強さの理由、ウルキオラの強さの秘密

もしもソレさえ知る事が出来れば


「ウルキオラに近づける……少なくとも、今よりもマシな戦闘は出来る」


だからフェイトは、その映像を見続けていた。

何度も何度も、フェイトは繰り返しその映像を見た
飽きる事無く、フェイトは延々とその映像を見続けていた。


胸の中にある、一握りの『疑惑』と共に。










第四拾弐番「日常回帰?」










「依頼よ」
「いきなりだね」

とあるオフィスビルの一室にて、プレシアはテーブル越しにその男と対面していた
黒い短髪、細身で平均的な体格、やや困惑しながらも愉快気にクスクスと口元を歪めるその男
「イザヤ」という名前の、プレシアが贔屓している情報屋である。

プレシアは先ほどの戦いにて「はやて」の本拠地の所在を確認したその足で、自分の馴染みである情報屋の元に来ていたのだ。


「いやね、仕事が増えるのは大いに喜ぶべき事なんだけどさー。懐事情は平気なの?
結構な資金を使っちゃっていると思うんだけど?」

「ご心配なく、金勘定の善し悪しを失念する程ボケてないわ」

「そりゃ結構」


情報屋の男は砕けた様な笑みと共に、観念したかの様に両手を軽く上げて呟く。
そんな男の反応を見て、プレシアはポケットからカード型デバイスを取り出してテーブルの上に置く。


「今回の依頼は身辺調査。調査対象の住所と対象の一部の顔写真はここに纏めておいたわ」

「……思ったけど、コレって情報屋と言うよりも興信所の仕事じゃない?」

「相手が組織だって魔導師を襲撃しているとしても?」


その言葉を聞いて、情報屋の男の顔つきは僅かに変わる。
そして更にプレシアは言葉を続ける。


「分かっているだけで、対象は四人のSランクオーバーの戦力を所持しているわ。
下手な人間に依頼をすれば、そこから気取られる可能性がある。
対象に気付かれてそこから情報が漏れれば、難易度は格段に跳ね上がるでしょうね」

「……確かに、Sランク四人は少し厄介だね」

「でも、そこに関しては私はアンタを信用しているわ。
少なくともあちらに存在を気取られる事無く、コチラが望む最低限の情報は持ち帰って来てくれると思っているわ」

「これはこれは、光栄の至りだね」


顎の下で両手を組んで、男はクスクスと笑う。


「OK、ここまでお客様から賛辞の言葉を貰って、これ以上つまらない事を尋ねるのは無粋ってものだ」

「……商談成立ね」


男の言葉を聞いて、プレシアも口元を歪めて嗤う。
そして二人は細かな依頼設定、調査期間、最低ノルマ、諸経費等の事を決めていき


「そう言えば、前に頼んだアレは何か進展があったかしら?」


プレシアが尋ねる
黒髪の男は、仕事用のデスクでカタカタとパソコンに何かを打ち込みながら


「ああ、ロストロギア『夜天の書』ね。
それが今一つなんだよねー、幾つかアンダーグラウンドまで潜り込んでみたんだけど収穫なし
今は古代ベルカに詳しい知人に助力を頼んでいるけど、もう少し時間が欲しいかな?」

「そう、ならなるべく急いで貰えないかしら?」

「やっぱり、前に渡した情報だけじゃソッチも進展が無かったみたいだね」


男はプレシアから受け取ったデバイスをコネクタに接続しながら、更に言葉を続ける。


「前に渡した?……ああ、前金と引き換えに貰ったアレの事」


プレシアは思い出した様に呟いて、次いで軽く息を吐く。


「流石に無理よ。『管理局のとあるお偉い様が、夜天の書に関する情報を集めていた』
コレだけの情報で夜天の書に辿り着けるのなら、そもそも貴方に依頼なんてしてないわ」

「ハハハ、そりゃそうだ」

「……せめて、そのお偉い様の名前だけでも分かっていれば話は別だったんだけど……
確かソレ、十年くらい前の情報でしょ?」

「そうだね。だけどそのお偉いさん……結構な資金と手間、そして時間を使って探していたみたいだよ
さぞかし夜天の書にお熱だったんだろうねー」

「……ま、その点については私も同類だけどね……」


最近は少々『ヤボ用』に熱を上げていたが、プレシアは自分の最優先事項を決して忘れたりはいない。

自分の愛娘の蘇生
そしてその為の手段と道具の模索と確保

故にプレシアは、とある二つのロストロギアに興味を持った。

一つは既に入手した「あらゆる願望を叶える」ロストロギア・ジュエルシード
もう一つが件の「あらゆる魔導技術を蒐集する事ができる」ロストロギア・夜天の書

夜天の書は、古代ベルカ時代に生まれたと言われるロストロギア
過去の文献では、その中に蒐集され蓄積された魔導技術の数は幾百幾千にも及ぶと言われる。

その中には完全に歴史から姿を消した遺失技術
今では多くの災厄を招くとされ禁忌とされた技術
プレシアが今まで知る事も出来なかった稀少技術

そんな技術が少なからずある筈、少なくとも自分の中の知識と見聞は更に広がる。


ソレと同時に、少なからず自分と同じ様な目的を持つ者

管理局の様に遺失物調査と保管を目的としている者

純粋な興味からソレを求める者

そして邪な意思と目的を持つ者


そんな人間が、自分と同じ様な行動を起こしていても不思議ではない。


「……そのお偉い様が秘密裏に『夜天の書』の所在を突き止めていて、既に手元に確保しているのだとしたら?」

「だったら話が簡単で済むよねー。その人の首根っこ捕まえれば、依頼完了なんだから」


カラカラと笑いながら、男はプレシアに告げて


「……って事は、素性は探れなかったの?」

「流石に十年前の情報だけじゃねえー。そのお偉いさんは個人で動いていたみたいだし
管理局を使わなかった事から考えて、『個人的な事情』で夜天の書を探していた可能性が高いし」

「そしてそんな輩が、自分の足跡を残す訳もない……か」

「そういう事、十年前じゃ僕も学生服を着て甘酸っぱい青春と刺激的なスクールライフを満喫してた頃だしねー
せめて僕が情報屋を始めた後の情報だったら、もうちょっとやり様があったんだけどね」


残念無念と呟いて、男は深く背もたれて
思い出したかの様に呟いた。


「ああ、そう言えば……確か十年前と言えば、アレ?十一年前だったかな?まあどっちでもいいや
この時期って、ちょうどあの『事件』があった頃じゃないかな?」

「……あの事件?」


その言葉を聞いて、プレシアは不思議そうな表情をしながら返して



「そう、あの悪名高き『闇の書事件』があった頃だよ」



その男は、クスクスと嗤いながらそう答えた。




















「……っ、ぅ……」

掠れる様な呻く声が途切れ途切れに響く
薄暗い部屋の一室、アンティークなランプが光源となって部屋の中を照らしていた。

そしてその光源は、その影を照らす。

その影は、部屋の片隅に備え付けられたベッド
そのベッドの上には一人の男が横たわっている、件の呻き声の発生源もこの男の様だ。


「……く、ぅ……っ……」


その筋肉質な肉体を覆う様に至る所に包帯が巻かれていて、その男がどれだけの重傷者なのか如実に理解できる。

その呻き声がどれだけの間響いただろうか?
その呻き声の声質が、僅かに変わった。


「……つ、ぐ…!……か、は……」


その声と共に男は上半身を僅かに揺らして、ゆっくりとその青い瞳を開いた。


「……どこ、だ……?」


青い瞳を動かしながら男は、グリムジョーは呟く。
目に映るのは見覚えの無いシミだらけの天井、古びれた壁紙、橙色の光を放つランプ

どれもグリムジョーの記憶にない物ばかりだ。



「気が付いたか?」



不意にそんな声が響く。
男のやや頭上からその声が響いて、グリムジョーが視線を動かすと一人の女が目に入った。


「どうやら、シャマルの治療は思いの他効いたようだな……気分はどうだ?」
「テメエは、確か……っ!! ぐ!!!」


その女を視界に納めた瞬間
グリムジョーは僅かに顔を歪ませて上半身を起こそうとするが、全身を切り裂く様に襲う激痛にその顔を歪ませる。

男はその女の顔に見覚えがあった
桜色の長い髪、切れ長目が特徴の凛とした整った顔つき

その女の名前はシグナム
ウルキオラとグリムジョーの戦闘の際に乱入し、窮地に立っていたグリムジョーと共にあの場から離脱した張本人でもある。


「……つ、ぅ!……ぐ…っ!……」

「おい、無茶をするな。手当てが終わったばかりなんだぞ」

「……そうじゃ、ねえ……っ!!!」


呻く様に呟いて、ギラリとグリムジョーはシグナムを睨み上げる
次いでその腕を突き出して、シグナムの胸倉を掴み上げて


「……そうだ、思い出したぜその面……あの時、下らねえ横槍いれてくれた野郎だったな」

「……この身は女である前に、騎士のつもりだが……流石に野郎呼ばわりはやめてくれないか?」

「とぼけんな」


軽く息を吐きながら呟く様に言うシグナムの言葉を、グリムジョーはあっさりと斬り捨てる。
そして更に胸倉を掴む手に力を込めて、更なる眼光で睨みつけて


「……潰し合いの最中に、下らねえ真似しやがって。
俺はな、闘いの最中に横槍を入れられるのが何よりムカつくんだよ」

「だがそうしなければ、貴公は殺されていた」

「……っ!」


そのシグナムの返しを聞いて、グリムジョーの顔が強張る
そしてシグナムはゆっくりと、グリムジョーの手を襟元から離して


「横槍を入れた事は謝罪しよう。だがそうしなければ、貴公はあの男に殺されていた
少なくとも、この程度のダメージでは済まなかった筈だ」

「言ってくれるじゃねえか。勝った方が生き残る、負けた方が垂れ死ぬ、それが潰し合いってもんだろうが」

「……では、貴公は死にたかったのか?」


青い瞳を真っ向から見据えて、シグナムも負けじと眼光に力を込めて対面する。


「俺が自殺志願者にでも見えるか?」

「いや、全然。そして貴公は勝負を途中で捨てる様な男でもない。
分類すれば貴公は他者に望まぬ助太刀をされる位なら、最後まで闘って前のめりで朽ち果てる事を選ぶタイプだ」

「良く分かってるじゃねえか。んじゃ、改めて聞くぜ?何であんなふざけた真似しやがった?」


二つの視線が交差する、青い瞳は憤怒の光を宿して目の前の相手を見る。
返答次第では、容赦しない。

その瞳は、暗にその事を告げていた。



「貴公に、死んで欲しくなかったからだ」



故に、シグナムは一切の事を偽らずに告げた。


「……あん?」

「貴公に自覚はないかもしれんが、私は貴公に命を救われた」


今までの強張った雰囲気から一転して、その雰囲気はどこか角の取れた柔らかいモノとなる
今までの真剣さとは少しベクトルを変えた瞳で、シグナムはグリムジョーを見て


「私はあの時、確実に殺されていた」


思い出すのはあの翠光の砲撃
圧倒的破壊力を秘め、自分に向けて確かな敵意と殺意を持って放たれた一撃


「……貴公が居なければ、私はあの男に確実に殺されていた……」


握った拳に僅かに力を入れて、シグナムは思い出す。

あの時自分は、確かに安堵していた。

死ぬ事は覚悟していた
この身が騎士である以上、闘いの中で傷つき、倒れ、果てる事は覚悟していた。

でも自分は、安堵していたのだ
自分が助かった事に、己の命がまだある事に

あの優しい主に、まだ仕えられる事に
まだあの優しい主の騎士として、存在していられる事に

その事実を噛み締めて、シグナムは心の底から安堵していたのだ。



「だから、貴公には死んで欲しくなかった」



故にシグナムは見過ごせなかった、見殺しに出来なかった。
その男を、グリムジョーを、見殺す事は出来なかった。


(……そういや、ウルキオラも妙な事を言ってやがったな……)


そしてシグナムの言葉を聞いて、グリムジョーもその記憶を掘り起こす。
ウルキオラと対面した直後の、そのやり取りを思い出す。


――何故あの女を庇った?――


あの時は深くは考えなかったが、ウルキオラの言う「あの女」が目の前の女の事を指しているのなら、一応の筋は通る。

もしも目の前の女が自分と敵対関係にあるのなら、幾らでも寝首は掻けた筈
もしも目の前の女が自分を利用しようとしているのなら、もっと上手い方法がある筈

甘い拘束に、甘い戯言
少なくとも目の前の相手からは敵意も悪意も、殺意も感じ取れない。

成程、改めて考えてみれば……話の筋としては通っているかもしれない。


しかし


「随分ご大層な理由だな? ソレを信用しろってか?」


だがそれだけだ

自分は相手の素性も知らないし、興味は無い。
だからそんな相手の言う事を、すんなりと信じる道理も付き合う道理も無い。

それがグリムジョーの考えであり
そしてその事を踏まえて、シグナムは改めてグリムジョーと向き合った。


「貴公が私の言う事を信じるか信じないかは自由だ。私は貴公に死んで欲しくなかった、死なせずに済んだ
その事実があれば十分だ」

「……は、まるで聖人君子サマだな」

「私はそんな大層なモノではない。
私は貴公に恩があった、借りがあった、だからそれを返したかった……ただそれだけの話だ」


言うべき事は全て言い終わったのか
シグナムは溜め込んだ息を吐き出して、僅かにリラックスする様に姿勢を直した。


「…………」


再び場が静寂に包まれる。
シグナムとグリムジョーは互いに向き合ったまま視線を逸らさず、そのまま時間だけがゆっくりと過ぎていって


「……ち……」


短く舌打ちして、ゆっくりとグリムジョーはベッドから起き上がる。


「……っ!!ぐ、ぎ……つっ!!!」


全身を蹂躙する様な激痛が走り、グリムジョーの表情が再び苦痛に歪む。
そしてそのグリムジョーの行動を見たシグナムは、声を荒げて叫んだ。


「なっ! 人の話を聞いていなかったのか!?大人しく寝ていろ!傷口が開くぞ!!!」

「……ぅ、る、せえ……」


呻く様に呟いて、グリムジョーはシグナムの手を振り払う。
そのまま顔を苦痛で歪めたままベッドから両足を下ろして、体を引き摺る様に部屋のドアへと歩み寄って


「おい、待て……一体どこへ」
「ついて、くんじゃ…ねえ」


斬り捨てる様に呟いて、グリムジョーはそのままドアを開け放って夕闇の世界へと足を進める。

ドアを潜ると、廃村とも廃墟とも言える光景が眼に入り、そのままズリズリと地面と足を擦る様に歩みを進めた。


「……ぐ、く……つ……」


傷ついた体を引き摺りながら歩いて廃村を抜けて、そこに隣接する森林へと足を進める。
考える事は、沢山あった。

ウルキオラの事

先ほどの戦いの事

己の敗北の事

あの女に借りを作った事

そして、これからの事


「……クソが……」


吐き捨てる様に呟く。

頭の中に怒りはあった、胸の中には悔しさがあった、腹の中には口惜しさがあった。
そんな感情を抱え込んだまま、呑気に眠る事など不可能だった。

この一日だけで多くの事を体験し、考える事が多くできた。
その余りに多くの事柄を、グリムジョーは整理しきれなかった。

だから、グリムジョーは一人になりたかった。

だからあそこから離れた、あの女から離れた。

頭の中で混沌の様に渦巻く事柄について考えるために
胸の中で野獣の様に暴れている感情を鎮めるために


今はただ、一人になりたかった。



















……

…………

……………………


――そこは、どこかの建物の上だった――


果ての無い砂漠の佇む白い王宮
その白い頂と夜天の空が交差する天蓋にて、自分は立っていた

自分は、消えかけていた
双翼の先から白い体躯が灰燼の様に散っていき、風化する様にその体は崩れて行った


その崩壊を、自分は止められなかった
迫り来る己の消滅に、抗う事は出来なかった


――止めを刺せ、さもなくば永遠に決着がつけられなくなるぞ――


目の前の相手に告げる
消滅はもはや避けられぬ運命、それならば目の前の敵に引導を渡された方が幾分かマシだった

しかし、男はソレを拒絶する


――こんな勝ち方があるかよ!!!――


目の前の男は、悔やむ様にして呟く

理解不能だった
その男は自分を打ち負かしたとはいえ、それは予想外のイレギュラーがあったからだ

その勝利を喜びこそしても、それを嘆く様に言う男を自分は理解出来なかった


――最後まで、思い通りにならんヤツだ――


どこか諦めの響きを纏わせて呟く
それと同時に、胸の中に燈る様な「何か」を感じた


――ようやくお前等に少し、興味が出てきたのだがな――


どこか懐かしいその感覚
頭と胸を活気付ける様に刺激するその感覚

最後の最後になって、自分はようやくソレに手を伸ばせた


――俺が恐いか?女――


視線を僅かに変えて、もう一つの存在に目をやる


――こわく、ないよ――


女は呟く
自分の視線を真正面から受け止めて、はっきりとした意思を込めてそう返す


――そうか――


だから、手を伸ばした
その切っ掛けとなった存在に手を伸ばしていた

自分でも、どうしてこんな事をしたのかは分からない

ただ、漠然と思ったのだ

ここでその手を掴み取れれば、何かが分かるのではないか?と




だが、ここで時間が尽きた



その手は届かなかった
伸ばした手は、掴み取ろうとした手に触れる直前に、完全に塵と化していた


――無様だな、最期の最後で何かを欲するなんてな――


その手は掴めなかった、何も掴めなかった

宿敵との決着をつけられず

最後に興味を抱き、掴めたと思った「心」には辿り着けず

それでも「心」を求めようと伸ばした手は、何も掴めなかった


自分には、何も無い
自分には、何も残されていない


――虚無――


ああ成程、ある意味自分にはお似合いの最期かもしれない
何一つ得られず、何一つ掴めず、何一つ持てず、何一つ残せず

あれだけ「下らない」と否定した心を最後に求めて

あれだけ「ゴミ」と侮蔑していた人間に敗北して

そして最期は文字通り、跡形も無く消え去る


――ああ、成程……滑稽な事だ――


自嘲気味に呟く
もはやそれは、避けれらない運命だった

だから、自分はもう諦めた

ただ未練だけを残し、塵となって朽ち果てた
自分はこうして、虚無に還る筈だった







―――大丈夫、安心していいよ――

――ウルキオラは、ここにいるよ―――







誰かが、手を掴んだ

誰かが、塵となった自分の手を掴んだ


消滅した筈の、ある筈の無い自分の掌を、誰かが掴んだ

黒崎一護も井上織姫も掴めなかったその掌を、誰かが掴んだ



――誰だ?――



消えた筈の視線を動かす、無い筈の眼球がソレを捉える


その瞳に映り込んだのは小さな手


そして


見覚えのある、長い金髪だった






……………………

…………

……





気が付けば、視界には見慣れた天井が映っていた。
部屋のカーテンの隙間からは小さく木漏れ日が注がれて、耳には部屋に取り付けられた時計の針が動く音が小さく響いていた。


「……寝ていた、のか……」


翠の双眼をゆっくりと開いて、ウルキオラは呟く。

頭の中がどこか気だるく、微睡を残しているその感覚

疲労からくる睡眠の名残
思い返せば、睡眠を欲する程の戦闘は本当に久しぶりだった。



「……忌々しい……」



クシャリと、僅かに力を込めて頭を掻く。


(……夢なんてモノは、もう見ないかと思っていたが……)


思い返すのはつい先程見た自分の中の記憶
夢現の中で最後に出てきた、あの記憶の中では出てくる筈がない存在。


(……あのガキに、大分毒されているみたいだな……)


軽く息を吐いて、ウルキオラはゆっくりと上半身を起こす。
ベッドから降りて、プレシアと昨晩の戦闘について考察しようと視線を動かして










「…………は?…………」









呆気に取られた様に呟く。

理解不能の事態を目の前にして
視界に入った「ソレ」を見て、ウルキオラは思わず呟く。

自分と同じベッドの上に存在する、自分の隣にある「ソレ」を見てウルキオラは小さく呟く。

次の瞬間、部屋のドアが開く。


「ウルキオラー! おっはよー!!!」


そんな快活な声を響かせて
満面の笑みを浮べながら、アリシアはその部屋に飛び込むようにして侵入し



「…………へ?…………」



その動きが止まる。
その表情が硬直する。

視界に入り込んだ『ソレ』を見つめて、アリシアは呆気に取られた様に呟く。



二人の視線の先


そこにはベッドの上で安らかな寝息を立てている、長い銀髪の女が映っていた。
















続く












後書き
 今回は少し更新が遅くなりました。ちょいと作者の事情が立て込んでいて、少しの間更新速度が落ちるかもです
それでも一定のペースで更新はしていくつもりなので、どうか平にご容赦ください。

さて、話は本編
まあ色々と書くべき事はありますが、今回の内容を一言で纏めると


ウルキオラがやらかした……コレにつきるかと思います(汗)


ウルキオラとアリシアとの絡みを期待していた方も多かった様ですが、それはまだ少しお預けです
次回からは、テスタロッサ家でのイベントがメインになるかもです


ちなみに今回は久しぶりにフェイトの登場でした。フェイトはどうやらアリシアとは違う意味でウルキオラに御執心な様です
次回は管理局サイドも本編に出てくる予定です


それでは、次回に続きます!



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