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No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
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[17010] 第参拾玖番
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:a15c7ca6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/07 02:33



「フォトン・バースト!!!」
「スティンガー・レイ!!!」

黒い魔女と白い仮面は互いに吼える。
次の瞬間、紫電の魔力弾と光の弾丸が衝突し、閃光と轟音が響き渡る。


「フォトンバレット!」
『multi angle shot!!!』


間髪入れず、魔女は次の一手を撃つ。
灰色の煙幕へ向けて、光の弾丸を射出する。


「ブレイク・インパルス」


しかし撃ち落される
仮面の男が突き出した掌に、光の弾丸は悉く撃ち落される。

迫る光弾を迎撃しながら、仮面の男は尚も前に出る。


「スティンガーブレイド・セイバーフォーム」


仮面の男は光の双剣をその手に握る
両手に宿る双剣を構えて、黒い魔女に一気に斬りかかる。


「成程、『貴方』は近接担当って訳ね」
『arc saber wide wall』

「っ!!!」


仮面の男の行く手を、紫電の刃が阻む
数多の光刃は男の進路方向に剣山の様に展開されて、その牙を剥く。


「この程度で退くと思ったか?」


紫電が弾ける。

男が双剣を振るい、紫電の剣を悉く斬り落とす
仮面の男は尚も歩みを止めず、自分に牙を剥く光剣を切り伏せながら疾走し


しかし


「はい、馬鹿発見」
『blade burst』


次の瞬間、刃が爆ぜる。


「なっ!!!」


刃の欠片は陶器爆弾の様に弾けて、仮面の男の体を蹂躙する
切断特化の魔力刃がバリアジャケットを切り裂いて男の体を蹂躙する。


「……ん?」


プレシアの視線が動く。

男の姿は消える。
その足元に幾何学模様の魔法陣が現れて、その姿は瞬時に消え去り


(……空間転移? いや違う、ソレとはまた別の、光学迷彩魔法ってところかしら……)


次の刹那、魔女の背後に仮面の男は居た。


――仕留めた!!!――


その掌を突き出す、一撃必殺を宿したその魔掌を隙だらけの背中に向けて突き出す。



「そんなに、私のリンカーコアが欲しい?」



だが次の瞬間、男の一撃は紫電の壁に止められる。


「っ!!! 障壁!!!?」


その驚愕の声が響き渡る
バチバチと紫電の障壁と男の掌が火花を散らして、たまらず男は拳を引く。



「背後は全生物共通の死角よ。私がそんな場所を、無防備に晒すとでも思ったかしら?」



その刹那、紫電の鎖が男を束縛する。


「……な!!!」


ディレイド・バインド、空間設置型の拘束魔法
プレシアが用意した保険は、防御だけ等ではない

相手の狙いを逆手にとって、反撃の一撃を叩き込むためのもの。


「ぬ!ぐっ!!!」


鎖を解こうと仮面の男が足掻くが、その程度では鎖は崩壊しない。

そして、既にプレシアは次の一手を撃っていた。


「……っ!!!」


男が視線を上に向ける、その視界にその光景は映る。

天上より、紫電が雄々しく猛りながら収束する
収束した紫電は、数多の宝剣の群へと姿を変える。



「今度は死んじゃうかもね」
『thunder blade』



宝剣の群は豪雨となって獲物に降り注ぐ
鎖に束縛された仮面の男に逃げ場はない、このタイミングでは空間転移を使っても確実に相手に妨害される。

故に、仮面の男に宝剣の群から逃れる術はない。

そして剣の雨はその全てが獲物に降り注がれて



その全てが、突如展開された障壁に防がれた。



「……やっと、姿を見せたわね……」



その光景を見て、プレシアは呟く。

プレシアは、薄々勘付いていた
仮面の男と最初に顔を合わせた時から、その可能性を考えていた。

そして実際に戦闘を行い、その確信に至った。


「貴方達、手を抜き過ぎよ」


プレシアは呟く。



「入れ替わるのなら、外見だけじゃなくて戦闘中についた『汚れ』もきちんと再現しなくちゃ」



プレシアは小さく笑って、目の前の光景を見る。


「仮面をつけて顔を隠す事で得られるメリットは大きく二つ、一つは自分の素性を隠し偽るためのもの」


目の前のその光景を見つめて、プレシアは更に言葉を繋げる。


「そしてもう一つは、仮面を用いて複数の人間が同一人物を演じている事を隠すためのもの」


ククっと口元を歪めて



「そうでしょ、『二人目』の変態仮面さん?」



目の前に立つ二人の仮面の男を見つめて、プレシアは愉快気に呟いた。














第参拾玖番「夜天の戦い 傾き始めた天秤」














何度衝撃が弾けたか分からない
何度爆発が起きたか分からない
何度轟音が響いたか分からない

目にも映らぬ速度で行われる攻防

噛み合う様に交差する蒼光と翠光

衝撃と轟音を撒き散らして、空間内を蹂躙という蹂躙で飽和させる


そして、徐々に戦局は傾き始めてきた。


「……は、はぁ……はっ……!!!」

「どうした、随分と辛そうだな?」


白い両肩と青い髪を揺らしながらグリムジョーは呼吸を荒げて、ウルキオラはソレを見つめて冷ややかに呟く。


「心配すんな、やっと体が温まって来たところだあぁ!!!!」


グリムジョーが吼える。

鮮血を振り撒きながら虚空を翔ける
黒い鋭爪と翠の光剣がぶつかり、そのまま火花と衝撃が乱れ咲く。


戦局は、徐々にウルキオラが優勢なものと傾いていった。
グリムジョーはその白い体躯の至る所から流血し鮮血にまみれているが、ウルキオラの体に傷は無い。

理由はウルキオラの能力にある
ウルキオラの能力の最たるものは攻撃ではなく回復、「超速再生」だ
ウルキオラは傷ついたその肉体を、文字通り「再生」する事が出来る。

仮に戦力で拮抗しても、蓄積されるダメージで両者の差が出る
傷を負えば痛みや出血で体力を失い疲労する、疲労が蓄積されればその分戦力は低下する。

そして戦力が低下すれば、より多くのダメージを負う羽目になる
つまり、戦闘が進めば進むほどウルキオラが優勢なものとなる。


そして、両者は互いにその事に気付いている。


「……グッ!!!」


鮮血が飛び散る
白い脇腹に翠閃が奔り、鋼皮と肉体が裂けて出血する。

そのままサイドステップで横に避け、響転で距離を取る。


(……このままじゃ、ジリ貧だな……)


額に流れる血を拭って、呼吸を整えながらグリムジョーは考える。

現状は不利、しかもこれ以上の長期戦になれば今以上に自分は追い込まれる
勝負を仕掛けるとしたら、体力と霊力が残っている今しかない。


(……だが、何で仕掛ける……)


グリムジョーは、己の中でこの状況から逆転し得る手札を考える
下手な技では霊力と体力を消耗するだけ、少なくとも「王虚の閃光」以上の威力と破壊力を持つ技が求められる。

故に、使える手札は自然と限られてくる。


(……ただ撃つ、ただ振り回すだけで当たる訳がねえ……一呼吸でいい、アイツに隙を作らせる事が出来れば……)


足を止めさせて、その隙に叩き込む
実に単純な事だが、それが如何に無理難題か身をもって理解している。

だから、グリムジョーは考える。

考えて、考えて
ウルキオラに通用し得る可能性を考えて



(……『アレ』、やってみるか……)



グリムジョーはその選択肢を導き出す。

やり方と仕組みを知っているだけで、今まで試した事がない……それだけの技。

今の自分に果たして『ソレ』が実践可能なのかどうかは分からない、完全にぶっつけ本番の代物だが

だからこそ、可能性がある
今の自分には使用可能かどうか分からない代物だからこそ



(……ウルキオラの、裏をかける……)



考えは纏まる
どの道、今のままでは限り無く勝機は薄い

ならば、その選択肢にかけよう。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!」


咆哮と共に、蒼い奔流が放たれる。
今までグリムジョーが発していたモノとはレベルが違う、激流とも言える蒼い波動が解き放たれる。

その蒼い奔流を全身に纏い、強大な霊力を練り上げて解放する
後ろに跳んで距離を十分に取る、そして一気に虚空を蹴る。



「行くぜ!ウルキオラアァ!!!!」



十分な助走をつけて、最大速力で響転を発動させる。


「やはり、そう来るか」


己の身に迫る蒼い迅風を見つめながら、ウルキオラは呟く
現状では自分が優勢、長期戦は尚も自分が優勢、グリムジョーに残された手段は短期決戦という手段のみ

生半可な攻撃では自分の首を絞めるだけ
故にグリムジョーが短時間で優劣を逆転させるには、全力の一撃を自分に叩き込むしか方法は残されていない。

小細工なしのパワーとスピードによる一点突破、即ち捨て身覚悟の特攻


(……下手な迎撃・防御では、簡単に突破されるな……)


全霊圧を解放した、全速力からのグリムジョーの特攻
下手な手段で対処しようものなら、一気に優劣は覆されるだろう。

故に、ウルキオラのその選択肢を手に取る。


「……迅いな、だが……」


捉えられる、その蒼い暴風を見つめてウルキオラは結論付ける。

やはり速力は自分が上、しかも助走をつけて全速力からの攻撃
寧ろ、狙い易い。


「終わりだ、グリムジョー」


その手に翠剣を携えて、黒の双翼が羽ばたく
蒼い暴風に向かって、白い閃光は翔ける。

次の瞬間、二人は互いの間合いに敵を捕捉する。



「くたばれ」



翠閃が放たれる
閃光が弧月の軌道を描いて、蒼い暴風に襲い掛かる。


「……っ!!!」


次いで、蒼い暴風が動く
蒼の瞳を見開かせ襲い掛かる翠閃をその視界に捉え、翠の光剣は蒼い暴風を切り裂いて





ウルキオラの瞳は、驚愕に見開かれた。





(……!!!…この手応え……まさか……)

あまりにも、手応えが軽すぎる
あまりにも、手応えが無さすぎる

そして次の瞬間、切り裂かれた獲物の姿が霧の様に消えた。


(……まさか……)


ウルキオラは、「ソレ」を察知する。
その反応を捉える。


(……まさか、この技は……)


ウルキオラは知っている、その技を知っている。

それは嘗ての同士が得意とした技
自分と同じ主に忠誠を誓い、自分と同じ「十刃」の称号を得た同士の技。


「……馬鹿な……」


それは第7十刃ゾマリ・ルーが考案し実践した、改良と進化を遂げた響転。



「……『双児響転ヌメロス・ソニード』、だと……っ!!!!」



背後を振り向く
翠の瞳に映るのは、十の白き巨爪を携えた豹王。


――獲ったぜ、ウルキオラ――


故に繰り出される
グリムジョーの最強の技が、この瞬間の為にグリムジョーが温存していた切り札が



豹王の爪デス・ガロン!!!!」



ウルキオラに向けて、一気に振り下ろされた。

















「水だ、飲めるか?」

「……あ、ありが…と……」

シグナムが差し出したカップをシャマルは受け取り、コクコクと小さく咽喉を鳴らしながら飲み干して


「……ふう……少し、楽になったわ」


乾き掠れたシャマルの声が潤いを取り戻す。
血と土にまみれたシャマルの顔の汚れもキレイに落とされて、体中の感覚も麻痺は治り始めて徐々に回復の兆しを見せ始めている。


「大丈夫か?」

「……ええ、大分落ち着いてきました…クラールヴィント」


シャマルのペンデュラムが光輝く
シャマルの治療魔法が二人の体を包み込んで、二人の体から徐々に痛みが和らいでいった。


「すまない、助かる」

「いえいえ、こういう時はお互い様……でしょ?」

「確かに」


そんなやり取りをして、二人は軽く微笑み合う。
そして改めて、自分達の現状について考える。

シグナムとシャマルの二人は、あの仮面の男の空間転移で何とか危機から脱出できた
最初はその事に二人は困惑したが、このチャンスは無駄に出来ないと空間転移を繰り返してここまでやってきたのだ。


「……もしもの時の事を考えて、主の家以外の拠点を作っておいてやはり正解だったな」

「ええ、流石にあの傷だらけの姿では帰れませんからね」


今二人が居る場所は、自分達の家ではない。
簡素な造りの廃れた一軒家、部屋には古びたテーブルや椅子、備え付けのクローゼットや戸棚があるだけの簡素な部屋だ。

ここはとある管理外世界にある、人里離れた辺境の土地


切っ掛けは、あのウルキオラとの戦闘だ

シグナムはその時の経験から、自分達の家以外の緊急時に使える別の拠点が必要と考えて、幾つかの次元世界で拠点に出来そうな場所を探した

そして自分達が今居る廃屋がある、廃村を見つけたのだ

その後シグナムとシャマルはこの廃屋を自分達の仮の拠点として、色々と必要な物を予め持ち込んで拠点としての環境を整えておいたのだ。


「……シャマル、服を脱げ。体中の血を拭き落とす」


シャマルは頷いて、バリアジャケットを解いて服を脱ぐ。


「発信機の類は……無いか」


シャマルが脱いだ衣服を調べながら呟く。

そしてシグナムは部屋の戸棚から医療箱を出して、タオルを取り出す
汲んできた水でタオルを濡らして、シグナムはシャマルの体にこびりついた血を拭き落としていく。


「……肩の傷は、もう塞がりかけているな……下手に触らない方がいいな」


体を拭きながら呟く。
シャマルの肩に走る傷口は既に閉じかけている、出血も止まっていて血が既に瘡蓋状態になっていた。


「こんな所か、傷口は隠せるか?」

「多分大丈夫、服を着てれば分からないし、入浴の時とかは怪しまれない様に偽造スキンを貼り付けておくわ」

「……そうか、なら大丈夫か」

「それよりもシグナム、貴方の傷の方は……」


シャマルはそう言いながらシグナムを見る。
単純なダメージで言えば、シグナムは自分と大差ない筈

治療魔法で粗方の傷は塞がり始めているが、それだけだ。


「そうだな、私の方も出血は止まって痛みも軽くなってきた。あの男に負わされた傷は大体……」


言いかけて、シグナムの言葉が途切れる。


「……シグナム?」


シャマルが名を呼ぶが、シグナムは答えない
その瞳はシャマルを見ていなかった、その頭の中はとある男の事を思い出していた。



(……あの男、あの砲撃から私を救ってくれた……あの青髪の男……)



その存在を思い出す
その圧倒的霊力と桁違いの戦闘光景を思い出して


(……あの男は、どうなっただろうか?……)


あの二人の戦闘は、明らかにレベルが違っていた。
青髪の男も、白い男も、明らかに自分とは一線を画している。

だが



(……恐らく、あの男は……勝てない……)



漠然と、シグナムはそう思う。

あの白い男、黒い魔導師、そしてあの青髪の男
それぞれが突出した戦闘力を持っている。


(……仮に、あの二人の戦闘力を同格とすれば、単純に数が多い方が有利だ……)


シグナムは考える。
あの仮面の男もあの場でまだ戦っているかもしれないが、あの青髪の男に助太刀するとは限らない
寧ろあの男は、必要以上に自分達の接触を避けている節が見られる。

現状では、あの仮面の男の助太刀はあまり期待できないだろう

もしも、あの白い男に加えて黒い魔女も戦いに加われば……



(……良いのか、このままで……)



嫌な予感がする。
頭の中で不吉な何かが蠢いている。


(……このまま、何もしないで……本当に良いのか……?)


シグナムは考える。

自分は疲弊し、傷ついている。
下手な助太刀は逆効果、それ以前に自分が危惧する様な結果になると決まった訳ではない。

だが



(……本当に、私はコレで良いのか?……)



嫌な予感は消えない
不吉な何かは止まらない
頭の中の警笛は鳴り止まない

頭の片隅で、危険を知らせる信号が轟々と鳴り響いている。

分かっている
何が最善の選択で、自分は何をすべきかは、何を優先すべきかは、これ以上にない程に分かっている。

己の役割というモノを、これ以上ない程に理解している。


だが

だがそれでも



「……見過ごす事は、できん……」



解いていたバリアジャケットを再び身に纏う。
その手に愛剣を握り締めて、その瞳に強い決意の光を宿らせる。


「……シグナム?」


次の瞬間、シグナムの足元に魔法陣が形成されていた。


「シグナム!一体何を!?」

「私用だ!お前は先に主達の下に帰還してくれ!」

「シグナム!シグナ……!!」


シャマルの言葉を意に介さず、シグナムの姿は魔法陣と共に消え去り

廃屋にはシャマルだけが残された。




















夜天の空を、鮮血が染め上げる
白い巨爪は獲物目掛けて襲い掛かり、『ソレ』は音を立てて切断された。


「……っ!!」


翠の瞳が驚愕に染まる
その目に映るのは赤い鮮血と、縦に切り裂かれた黒い何か


その正体は黒い翼、ウルキオラが咄嗟に己の盾として使った黒い片翼。


「たった一撃で爪が割れやがった、相変わらず硬え鋼皮だ」


五つの爪に罅が入る
白い巨爪は罅割れて亀裂が入り、その形は徐々に崩壊する。


「だがな」


その瞬間、更なる脅威が動く。
豹王が持つ、もう一つの脅威が唸りを上げる。


「もう一発あるぜえ!!!!」
「っ!!!」


豹王は、二度刺す。


空いた片手に宿る五つの巨爪を、更に振り下ろす
瞬時にウルキオラが響転で横に駆けるが、迫る五つの巨爪の全てを回避できず



ウルキオラの右腕と右脚は、切り落とされた。



「……っ!!!」


その結果に、ウルキオラの両目が見開かれる
肘と膝から吐き出される赤い液体と、脳髄に刻まれる灼熱の激痛でその瞳が僅かに揺らぐ。


(……ち、右腕と右脚がやられたか……だがこの程度なら……)


再生できる
ウルキオラがそう思った、正にその瞬間


「逃がすかあぁ!!!!」


肩に白い爪が突き刺さる。
ウルキオラの頬に、黒い拳は減り込む。


「――っ!!!」

「再生する時間はやらねえぜ、テメエの考えてる事なんざ丸分かりなんだよ!!!」


殴る
殴る殴る!

殴る殴る殴る殴る!!

殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る!!!!


拳打強打豪打乱打連打猛打
猛烈に、苛烈に、痛烈に、激烈に、両拳を用いて、火を噴くような猛攻で襲い掛かる。

文字通り己の半身を失ったウルキオラに、その猛攻から逃れる術はない。


「終わりだウルキオラアァ!!!」


黒い拳を白い顔面に打ち込んで、その顎を跳ね上げる。


「テメエは俺に負ける!俺がテメエに勝つ!俺がテメエを斃す!!!」


鳩尾を殴り、胸を叩き、頭蓋を揺らして、尚もグリムジョーのその攻撃の手を緩めない。



「テメエも王の糧となれウルキオラアアアアアアアァァ!!!!」



黒い拳が蒼光を纏う、全身全霊が込められた一撃
その一撃を、グリムジョーはウルキオラに向けて撃ち放ち


白い掌がその拳を止めた。



「――っ!!!」



蒼の瞳が見開かれる
その表情が僅かに驚愕に染まる。

ウルキオラが突き出したのは、右腕
グリムジョーが切り落とした筈の右腕だった。


「……ち、もう再生しやがったか……」


忌々しげに呟く
後一歩の所まで来たが、どうやらまだ詰めが甘かったらしい。



「――正直、驚いている――」



僅かに顔を俯かせ、頭と額から赤い雫をポタポタと垂らしながら
ゆっくりと、ウルキオラが呟く。


「お前は確かに強くなった。油断があったとは言え、ここまで俺を追い詰めたのは賞賛に値する」


黒い拳を白い掌に収めたまま、そのまま言葉を繋げる。



「だが、それだけだ」



空いたもう一つの拳を、グリムジョーは振り上げ
次の瞬間、グリムジョーの体が後方に弾き飛ばされた。


「な!!!」


不意のその衝撃に、グリムジョーの顔が歪む
後ろに跳ぶ体をその場に踏み留めて、再び前を見る。



「そして、俺にも誤りがあった」



ウルキオラが呟く。


「……誤り、だと?」

「その通りだ」


黒い片翼を再生し、その手に翠の光剣を形成させて
ウルキオラは静かに続ける。


「頭の中で、如何にお前の評価を高めようとも……俺は頭の奥底で、お前を見下していた」


その手応えを確かめる様に、翠の剣を振るう。


「お前程度が俺に敵う筈がない、お前程度が俺に勝てる筈がない。そんな腑抜けた思考を、頭の中の何処かで抱き続けていた」

「…………」

「だから、俺はここまで追い詰められた」


顔面にこびり付いた血を軽く掌で拭う。


「故に理解した、グリムジョー。嘗てのお前なら俺を追い詰める事など到底不可能だった
お前が力を大きく上げ、俺をここまで追い詰めてくれたから、ようやく俺はお前を斃すべき『敵』と実感する事が出来た」

「……そうかい……」


ウルキオラの言葉を聞いて、グリムジョーは静かに返す
そして次の瞬間、


「そいつは何よりだあぁ!!!!」


グリムジョーは咆哮を上げて夜天の空を蹴り、響転で一気に距離を詰める
その獲物へと向かって、一気に駆け抜ける。



「――雷霆の槍ランサ・デル・レランバーゴ――」



ウルキオラの掌に、更なる翠光が収束される
翠の光剣が更なる光を纏って、翠の光槍へと変貌する。


「認めよう、お前は強い」


己に迫る蒼い脅威を見つめながら、ウルキオラは呟く。



「故に、俺もそれに応えよう」



ウルキオラも動く、翠光と蒼光は交差する。


そして


一つの光が、夜天より墜ちた。

























「……相変わらず、あっちは派手にやってるわねー……」


夜天の空で行われる、戦争と言っても過言ではない攻防を見つめながらプレシアは呟く。


「……ち、また結界維持率が下がってる。ったく、ハシャギすぎよ
結界が破壊されて管理局に見つかったら面倒だって、アレほど言っておいたのに」


ふう、と軽く息を吐いて、プレシアは改めてソレ等を見つめる。
己の前に立つ、二人の仮面の男を見つめる。


「そう思うでしょ、御二方?」

「…………」


二人の仮面の男は何も答えない
その無機質な仮面からは表情というものが読み取れず、感情というものも今一つ感じ取れない。


「また黙んまり? あのお嬢さんといい貴方達といい、最近はコミュニケーションが取れない人間が多いわね」

「…………」

「…まあ良いわ。それじゃーあっちはあっち、こっちはこっちで」


軽く両手をひらひらと振って、プレシアはククっと口元を小さく歪めて



「盛り上げていくと、しましょうかあぁ!!!!」



魔女が吼えて、紫電が走る
紫電の奔流は数多の光弾へと姿を変えて、それは弾幕を形成する。


「……っ!!!」

「チィ!!!」


片割れの仮面の男が、鎖を破壊してもう片方の仮面の男を解放する
そして二人は臨戦体勢を取る。


「フォトンランサー・ジェノサイドシフト!!!」

「ホイール・プロテクション!」


襲い掛かる光弾の群を、渦状のラウンドシールドが塞き止める
渦に捕らえられた光弾は、そのまま徐々に勢いを無くして消滅する。


「へえ、中々良い技もってるじゃない。無力効果の付随は高等技術よ」


感心する様にプレシアが呟き、尚もプレシアは光弾を機関銃の様に掃射する
更に、もう一人の仮面の男が前に出る。


「スナイプ・ショット!」
『multi angle snip shot』

「スティンガー・レイ!」


後衛の仮面が尚も動く
閃光は行き交い、弾け合う

紫電の光弾を、閃光の弾丸が撃ち落す
二つの弾丸は互いに衝突し、その姿を消滅させる。


前衛の仮面は尚も距離を詰めて、己の間合いに獲物を捕らえる
そして、男の足元に魔法陣が浮かび上がる。


――掛かった!――


魔女が嗤う、しかし


「同じ手は食わん!!!」


全身から魔力を滾らせて、纏わり付く紫電の鎖を弾く
バチバチと魔力の奔流と紫電の鎖が火花を散らして、尚も男は前進する。


「っ!!!」
「最初から罠があると分かっていれば、この程度造作もない!」


仮面の男が拳を振りかぶる
魔女の杖が輝く


「チィ!!!」
『defencer plus』


迫る拳を紫電の障壁が受け止めて、その障壁が破壊される
そして男は空いた片腕を尚も振り上げて


『barrier burst』


紫電の障壁が爆発する
至近距離での爆発に仮面の男は防御も回避も間に合わず、仮面の男はその爆風に吹き飛ばされて


「それで凌いだつもりか?」


後衛の仮面は、既に次の手を撃っていた。
仮面の男が手を振って、光のリングがプレシアの四肢を拘束する。


「っ!! ロングレンジ・バインド!!?」
「バインドの扱いに長けているのが、自分だけだとでも思ったか?」


長距離からの拘束に、プレシアの顔が僅かに歪む
そして、二人の仮面の男は同時に動く


「「クリスタル・ケージ!」」
「っ!!!」


二人の仮面の男の声が響く。

光のリングで拘束されたプレシアを、更に半透明の正四角錘が捉える
拘束と牢獄による二重封殺


「これで終わりだ」


その瞬間、既に仮面の男はその仕込みを済ませ終わっていた
プレシアの目に映るのは、数多の宝剣の群

男の周囲に展開される、数百にも及ぶ光の宝剣



「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!!!」



前後左右上下からの360°から、その宝剣は襲い掛かる
黒い魔女目掛けて、幾百の宝剣は唸りを上げて射出されて


『bind break』


魔女の杖が呟いて、魔女を捕らえる光のリングが破壊される。

だが依然、光の牢獄は尚もそこにある
次の瞬間、光の宝剣が全方位から牢獄を貫き破壊した。

そして囚われていた魔女に宝剣が迫る、その全身が宝剣の群に蹂躙され貫かれる



――正にその瞬間だった。



「魔力解放・出力全開」
『full power!!!!』



その瞬間、魔女の全身が発光する
世界が一瞬、閃光と轟音に支配される。

衝撃と爆風が空間を埋め尽くして、全ての宝剣を一瞬にして飲み込んだ。


「っ!自爆!!?」
「いや違う!ただ力任せに魔力を解放しただけだ!!!」


全身を薙ぎ倒す程の爆風と衝撃に晒されながら、仮面の男は驚愕に言葉を吐き出す。
魔力をただ解放しただけで、これ程の威力と破壊力を生み出すとは思わなかったからだ。





「――危うく、様子見でくたばる所だったわ――」





ゾクリと、鳥肌が立つ。

その声が響いて、二人の仮面の男は凍りつく様な冷たい威圧感が襲い掛かる。


「お陰でオバサン、ちょっと頭にキちゃったわー」
『the operation ended……energy charge』


その視線を上に向ける。


「……な、に……?」

「……まさか……っ!」


その眼に映るのは、紫電の空

夜天を覆い尽くす紫電の奔流、天上を紫の閃光で染め上げる程の圧倒的魔力の咆哮

余りにもレベルが違う、桁違いの魔力の奔流


「生け捕りにしようと思ってたけど、貴方達は結構強いみたいだから、手加減なんていらないわよねー?」


小さく冷たく、魔女が嗤う

ギラリとその双眼を殺意の光で染め上げて、




「――全力・全開――」
『Thunder Rage O.D.J』




天空を、閃光が埋め尽くす。

夜天より、紫電の柱が立つ
その紫電の巨柱は、世界を揺らす。


閃光の巨柱は大地と天上を繋ぎ合わせて、一瞬にして世界を紫電で埋め尽くす。


これが、プレシアの持つ魔法の中でも最強を誇る物の一つ
広域次元魔法「サンダーレイジO.D.J(Occurs of dimension jumped)」
その破壊力は次元空間をも跳躍し、並の武装艦なら一撃で機能不全に追い込む程の威力を持つ


本来は次元空間越しに敵を殲滅する魔法だが、単純な火力と威力そして有効範囲から、プレシアはこの魔法を選出した。


そして閃光と暴風が止み、世界は静寂に包まれる
プレシアの夜天から眼下の世界を静かに見下ろして



「……あーあ、逃げられちゃった……」



僅かに肩を下げて、小さく呟く。

あの瞬間、自分の魔法が発動され仮面の男達に襲い掛かるその瞬間
男たちの足元に、魔法陣が形成されたのをプレシアは見逃さなかった。

単独での空間転移では、あのタイミングでは到底間に合わなかった筈

それはつまり



「……三人目がいた……って所かしら」



確認する様に呟く
他にも可能性があるが、コレが一番可能性が高いだろう。

前回の戦いの時も、撤退要員の仮面の男が居たという話をウルキオラから聞いていたし、恐らく間違いないだろう。


「あーあ、二人の騎士には逃げられるし、仮面の男は取り逃がすし……踏んだり蹴ったりね
あーあ、困っちゃったわ」


少し困惑する様にプレシアは呟く
そして次の瞬間、その掌が小さな魔法陣を形成して、掌サイズのモバイル機がそこに現れる。


「本当に…困っちゃった」


プレシアはソレを手に取り、カチカチと操作してその画面を見つめて





「――本当に、とーっても、困っちゃったわぁ――」





クスクスと、その口元を小さく歪めて

凍てつく様に冷たい笑みを浮べて


黒い魔女は、ただ静かに嗤った。















続く















後書き
 前回の感想でグリムジョー参戦に関して色々と意見を貰いました。少々賛否があった様ですが、現時点では作者から何も言える事はありません
一応作者なりにストーリーとプロットを考えて話を作っているので、A’s編が終わった後に再び評価を再考してくれると助かります。

さて、話は本編
ウルキオラとグリムジョーの戦いもいよいよ終盤。グリムジョーが双児響転を使う展開は前から考えていた展開だったのですが……双児響転を覚えている人っているかな?(汗)

そして、今回も飛ばしているのがやはりプレシアさん
まだまだプレシアさんのターンは終わっていません、次回も色々とプレシアさんには動いて貰う予定です

多分、あと数話進めたら戦闘パートは終了する予定です

それでは次回に続きます、次回はシグナムが色々と動くかもです。







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