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No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
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[17010] 第参拾参番
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:4ac72a85 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/04 06:17




地平線からゆっくりと陽の光が零れ始め、夜天の空を徐々に照らしていく。
陽の光はその町並に降り注いで、一日の始まりを告げる

そしてその町並にある民家にて、その少女は居た。


「……ぅ、う~……ん……ん~……」


安らかな寝息を立てて、時折枕に顔を擦りつけて、少女はそのまま夢の世界に入り浸っている

時間が過ぎ、カーテンの隙間から陽の光が差し込み始めて、時計のアラームが鳴る。


「……ん、んんん……もう、あさー……?」


手を伸ばして、時計のアラームを止める
その少女は栗色の髪を揺らしながら身を起こし、背筋を伸ばして瞼を擦る。


「……ん、んー……さて、朝ごはんやなー」


少女はパンと軽く両頬を叩く
そして器用にベッドの上で上半身の力を駆使して、ベッドの隣に置かれた車椅子に腰を降ろす。

そのまま車椅子を動かして、洗面台に行き顔を洗って台所に向かう
台所の冷蔵庫を開けて、中身をじっくりと見定めて


「お、そう言えば昨日作ったポタージュスープが残っとったなー。
なら今日の朝ごはんはパンでええかー、ハムと卵……お、キュウリにレタスもある、マーガリンとマヨネーズは……よっし、大丈夫や」


そして手早く鍋をコンロに掛けて、トーストの準備をする
まな板の上にキュウリを置いて、そのまま包丁で適当な大きさに切っていく。

卵はフライパンの上に落として、塩胡椒で味付けして目玉焼きにする
台所に食欲をそそる匂いに包まれ始めた頃、不意に台所のドアが開いた。



「主、おはようございます」

「おはようございます、はやてちゃん」



そのドアから、桜色の長い髪をポニーテールに纏めた女性と金髪のショートカットの女性が姿を現す。


「おはようシグナム、おはようシャマル」


その二人の女性に視線を移して、はやてと呼ばれた少女はニッコリと微笑んだ。
はやての笑みを見て、シグナムとシャマルもまた柔らかく微笑み返して


「っと、どうやら今朝は少し出遅れてしまった様ですね。手伝います」

「朝食は……今日はパンですか?」


はやての作業を見ながら二人が呟く
食事の準備を手伝おうと動いた二人を見て、はやてが気付いた様に声を上げる。


「ああ、朝食の準備はええんよ。だけどまだ洗濯機から洗濯物を出してないんや、こっちはええから二人はそっちをしてくれへんかなー?
多分そっちが終わる頃には、こっちも出来上がっとると思うから」

「はい、分かりました」

「了解です」


二人は目の前の少女の言葉に了承して、台所から出て行く
そしてはやては上機嫌に鼻歌を歌いながら、手早く朝食の準備を進めていった。



それは、どこにである光景
それは、どこにでもあるありふれた日常




「「「いただきます」」」

三人は朝食が並べられたテーブルの前の椅子に腰を降ろして、手を合わせて合唱する
それぞれが焼きあがったパンにマーガリンを塗って、ハムやキュウリなどをトッピングして口に運ぶ。

適当に雑談を交えつつ、はやてはモグモグと口に入れたパンを咀嚼し、カップに入った牛乳をゴクゴクと飲んで
気が付いた様に声を上げた。


「なあなあ、そう言えばヴィータとザフィーラはまだ帰ってこーへんの?」


カップをテーブルに置いて、何気なくはやてが尋ねると


「そうですね、ザフィーラの方は今日中には帰ってくるかと思います。ですがヴィータの方はまだ少し時間が掛かる様です」

「そっか、でもそんなに長い時間が掛かるなんて……大変なんやね二人の『メンテナンス』って」


シグナムの説明を受けて、はやてはふむふむと頷きながらパンを齧る
それと同時に、シグナムの瞳はどこか暗い影を宿す。



……申し訳ありません、主……



その影の正体は後ろ暗さ、罪悪感


……今はまだ、全てを語る事はできません……


忠義を尽くすべく主への不忠
自分達が守るべき、この優しい主へ吐いた虚言による影


それと同時に、瞳の中に光が射す
それは決意の光、断固たる決意を秘めた眼光


己が選んだ道を突き進むと決めた、決意と覚悟の光だった。











第参拾参番「八神はやて」










全ては、あの日から始まった
今から数ヶ月前の6月4日、我等と主が始めて邂逅したあの日から……我等と主の全ては始まった


我らの主……八神はやて
我等「守護騎士」が忠誠を誓った主君であり、ロストロギア「闇の書」のマスターでもある

我等「守護騎士」と「闇の書」の事を知る者が説明を聞けば、主の事をどれほど恐ろしく危険で異質な存在なのだろうと思うだろう。


しかし、実際の主・はやては……我等から見てあまりにも凡庸で、それこそどこにでもいる普通の少女だった。

普通に笑い、普通に泣き、普通に怒り、普通に驚き
果物や菓子を好み、童話を読みながら一喜一憂する、年相応の振る舞いをするどこにでも居る普通の少女だった。


だが、そんな主にも普通とは違う点が三つあった

一つ、物心ついた時からその両足の神経は麻痺していて、碌に動かせない事

二つ、主の両親は既に他界していて他に親族もいない、天涯孤独の身であった事

そして三つ、「闇の書」の所有者であり、我等「守護騎士」のマスターであった事



今から数ヶ月前の6月4日、闇の書の「守護騎士プログラム」が起動し、我等と主は初めて邂逅した。

……いや、アレは邂逅と言うには些か語弊があるな

プログラムが起動し、初めて我等が主の前に姿を表わした時
主はそのあまりの事態に目を回し、卒倒なされてしまっていた。



……本当に、この少女が我等のマスターか?……



プログラムの繋がりから疑いこそはしていなかったものの、ついそう思ってしまった


だが、我等の戸惑いはそれで終わらなかった


「よーし、ほんなら闇の書の主として皆の面倒はきちんと見なアカンな」


主は、今までの我等の主とはどこか違っていた


「好き嫌いはアカンで~、でもアレルギーとかで食べれない物があったら言ってな。それとリクエストがあったらどんどん言ってな~」


主は、我等に手料理を振舞った


「ひゃ~、ここまで似合うとこっちも選び甲斐があるわー。なあなあシグナム、次はこっちのブラウスも着てみて、きっと似合うでー」


主は、我等に衣服を与えてくれた


「空いてる部屋は、皆で好きに使ってええよ。必要な物・欲しい物があれば遠慮なく言ってええで」


主は、我等に住居を与えてくれた



「ええか、皆は今日からこの八神家の一員、私の家族や。だから主だの騎士だのっちゅーそういう面倒くさいのは無しや
家族が助け合うのは当たり前や、だから私が皆の面倒を見るのも、食事の用意するのも、何もおかしい事じゃあらへんよ」



主は、我等を「家族」と言ってくれた


そう……違っていた、主・はやては



「……闇の書を覚醒させて私が真の主になれば、この足は治る……でもな、それをしたらアカンよ」



今までの主と、主はやては違っていた。



「私達の勝手な我侭で、色々な人に沢山の迷惑を掛けたらダメや。これは家長として、皆の主としての私と皆の約束や」



今までのどの主とも、主は違っていた


だから、思わず尋ねてしまった


……本当に、よろしいのですか?……

……闇の書の力を使えば、主の両足は治るのですよ?……

……自分の両足で立って、思いのままに歩けるのですよ? 陽の下を思うがままに走る事も出来るのですよ?……

……今までしたくても出来なかった事を、思う存分出来るようになるのですよ?……


「それでも、や」


……どうして、ですか?……



「簡単な事や、私の願いはもう叶ってるからや」



初めての経験だった
闇の書を守護する騎士として生まれ、悠久の時を生きた我等が初めて経験する事の連続だった。


主は、優しい人だった

主は、暖かな人だった

我等にどこまでも優しく、温かく、愛情を持って接してくれた

我等を己の道具としてではなく、一人の人間として……家族として接してくれた。


そしてそんな主と共に暮らしいく内に、我等にも変化が訪れた。


「ねえねえはやて、冷蔵庫の中のアイス、食べてもいい?」

「はやてちゃん、私にも、その、ぇと……お料理、教えてくれませんか?」

「あの主、毛繕いくらいは一人で出来るのだが……え? こういうのに憧れていた?……分かりました、それではお願いします」


主と共に暮らす生活と日常の中で、我等も徐々に変わっていった
戦いの無い、静かで穏やかな時間

それは、我等プログラムには不要な時間だった筈

何の意味もない事柄だった筈

闇の書の覚醒のために存在し、その主を守護する為に存在する我等にとって……そんな生活はアンデンティティーの大半を失ったに等しい筈


なのに


それなのに、我等は笑えていた

そんな生活の中、我等は心から幸せを感じていた



……そう、我等は……幸せだった……



だから、守ろうと思った

この優しい主を

優しい主が、我等に与えてくれた暖かな日常を

優しく暖かな、この幸せな時間を

我等は、絶対に守り抜こうと誓った






――その日常に、罅が入るまでは――。






今から一月ほど前、主は病を患った
四十度近い高熱に魘され、食事をすれば嘔吐し、市販の風邪薬も効果がなく、我等は主の掛付けの医者である石田医師の下に運んだ。


病自体は、別段大した事はなかった
夏風邪で体が弱ったところに、少々タチの悪い菌が入り込んでしまったらしい

石田医師が処方してくれた薬と点滴による栄養補給で、主の体調は三日程度の療養で元に戻す事が出来た。


しかし、その時石田医師に告げられた言葉に……我等は我が身を呪う事になる。



「治療のついでに、はやてちゃんの体の方も診てみたのですが……少しだけ、麻痺が今までよりも進行しているみたいなんです……
こんな事、今まで一度も無かったのに……」



その言葉で、我等は己の迂闊さに気付いた……否、気付かされた。

主の足の麻痺は、先天性の病などではなく……闇の書の魔力負荷によるモノだと
麻痺の進行は闇の書の第一覚醒……我等「守護騎士プログラム」によって、主への魔力負荷が増大した事が原因だと



「……何故、だ……何故、気付かなかった!!!」



我等が気付いた時は、もう遅かった。

主の麻痺の進行は、止まらない
一定期間、蒐集行為がされなかった闇の書は主のリンカーコアを侵食し、主の命が尽きるまで止まる事はないからだ。

主の麻痺の進行は、決して止まらない
このまま放っておけば、その麻痺は内臓機能の低下・自律機能の衰退へと繋がり、その生命を維持できないレベルへと発展する

そしてその末に辿る結末は唯一つ

即ち、主の死


「ごめんなさい、ごめんなさい! 私が、もっと早く気付いていれば!」

「……違う、自分の迂闊さに……言っている!」


私は、思わず壁に拳を打ちつけていた
シャマルは、懺悔する様に「ごめんなさい」と繰り返していた。


「なあシャマル! シャマルは治療魔法が得意だろ! そんな病気なおしてくれよ!はやての体を治してくれよ! はやてを、助けてくれよぉ!!!」

「ごめん、なさい……!……私程度の魔法じゃ、はやてちゃんは……っ!!!」


縋り付く様に放ったヴィータの言葉は、到底不可能なものだった
ヴィータは「ちくしょう!」と嘆く様に涙を流し、ザフィーラはただ静かに打開案を考えていた。


そんな時間が数分だろうか? それとも数時間だろうか? それとも数秒程度だろうか?
体感時間が曖昧になる程に思考する中で、ヴィータが呟いた。



「……助けな、きゃ……」



それは重く響く言葉
何か重要な事を決意したかの様な言葉



「はやてを、助けなきゃ!!!」



我等は、どうしても主を救いたかった

あの優しい主を、どうしても助けたかった



「――主の体を蝕んでいるのは、闇の書の呪い――」

「――なら、はやてちゃんが闇の書の主としての、真の覚醒をすれば――」

「――病は治る。少なくとも、悪化は止まる――」

「――はやての未来を、血で汚したりなんかはしない……だけど、それ以外は何だってやる!!!――」



だから、その方法を手に取った

主を救うために残された、最後の方法を

主と我等が交わした、絶対に行わないと誓った禁忌を



――申し訳ありません、主――

――ただ一度だけ、貴方との誓いを破ります――

――我等の不義理を、お許し下さい!!――



他者のリンカーコアを蒐集し、闇の書を完全覚醒させるという最後の希望を

我等は、手に取った。







「……シグナム、手が止まっていますよ?」

「ん? ああ、すまない」


その言葉で、意識が現実に引き戻される
止まっていた両手を動かして、持っていた食器をスポンジで磨いて泡立てる。

泡立てた食器をざっと水洗いして、食器立てにかける。


『……それでシグナム、話の続きですが……』

『ああ、先日の蒐集についてだったな』


そのシャマルの言葉で、再び念話を行う
この会話を肉声で行うには、主に聞かれてしまう危険性があるからだ。


『……貴方達を助けて、闇の書の秘密を知る仮面の男……貴方から見て、その男は信用できますか?』

『……難しいな……』


数日前、とある管理外世界にて白い魔導師との戦闘において……ヴィータとザフィーラの二人は重傷を負わされて、自分も窮地に陥った
窮地に陥っていた我等を救い……重傷を負わされた二人に『ソレ』を提言した男



――闇の書の「守護騎士プログラム」、それに備わっている肉体構築システムを使え――

――幸い、二人のリンカーコアは無傷だ。完全覚醒していない「闇の書」でも、相応に頁を使えば二人の肉体を再構築するのは難しくない筈だ――

――早く決断しろ、急がなければ手遅れになるぞ――



今、二人は闇の書の中で肉体を再構築している
我等、守護騎士が「闇の書」の内から外に出でる時に行使される「肉体構築システム」

完全回復までかなりの時間が要るが、日常生活を送るだけなら数日程度で二人は外に出てこれるだろう


だが、疑問はある
どうして、あの仮面の男はソレを知っていたのか?

いや、そもそもだ
あの男は、どうして我等が「闇の書の守護騎士」と知っていたのか?


『……窮地を救われたのは事実だが、それだけで信用するのは早計だな……少なくとも、あの男は手放しで信用できる存在ではない……』

『……私も、それについては概ね同意です。私達の事を知り、その上で接触を図ってきた。それに加えて他にもいくつか疑問に思う点もあります……あまり楽観的に考えるのは危険ですね』


シャマルと意見が纏まる
やはり、状況的にはあまり楽観視はできないだろう

我等は他者から見れば、危険物以外の何物でもない
そんな存在だと知りつつ好んで接触を図る輩がいれば、それは悪人か狂人かのどちらかだ。


『……まあ、用心するに越した事はないな。この家のセキュリティーも強化を施したし、今後はより一層警戒を強める必要があるな……』

『……そうですね……』


用心と警戒は、やり過ぎると言う事はない
その程度の事は、今までの経験で嫌という程に身を持って学んできた

濡れた両手をタオルで拭きながら、今後のプランを纏める。





『……それと、私からも一つ……相談したい事があります……』





思考を纏めている最中に、不意にシャマルの念話が頭に響いて意識を向ける。


『何だ?』

『……内容が内容なので、ここでは少し……出来れば二人だけで、腰を降ろして落ち着ける場所と時間の方があれば……』

『……了解した。ならばこちらで都合をつけよう』


その言葉を機に、シャマルとの会話を一旦区切る
食器も概ね洗い終わって、主の待つリビングへ行こうと足を進める。


そして、改めてその意思を胸に宿す。



……もはや、我等は後戻りはできない……

……我等は、ひたすら歩み続けるしかない……



……だが、それでいい……

……それで主を救えるのなら……

……それで主の笑顔を守れるのなら、それで主の命を救えるのなら……



……我等は、決して歩みを止める事無く……己が意思を貫いてみせよう……。

























「……ふむ、とりあえずは及第点……と言ったところかしら?」


その薄暗い一室にて、紫電の光が弾けて粒子状となって散布する。

そしてその光の中心にて、納得が言ったかの様にプレシアは呟く
ここはとある次元世界にあるプレシアの隠れ家の一室、プレシアの研究室だ。


「……クク、ホロに感謝しなくちゃね……まさかたったの三日で、私の要望の品を逐一揃えてくれたのだから」


口元を僅かに歪めて、プレシアは己の悪友に感謝の言葉を述べる。
注文の品の半分でも揃えて貰えれば上出来……と判断していたのに、これ以上にない理想的な形で自分の要望を叶えてくれたのだ。

不安要素をできるだけ取り除いておきたいプレシアにとって、それは何よりもありがたい事だった。


口元を歪めて、手に持ったデバイスをカチャカチャと音を立ててカスタマイズしながら
プレシアは五日前の事を……ベルカの騎士と名乗る輩に襲われた時の事を思い出す。


――おかあさんを、いじめるな!――


あの時の事を思い出し、頭の中は灼熱にも似た怒りが湧く


――おかあさんに、ひどいことするな!!!――


あの時の事を思い出し、胸の中が抉られる様に憎しみが湧く


――恐かった! 恐かったよおぉ!!!――


あの時の事を思い出し、腹の中にドス黒い感情がグルグルと蠢く


……許せない……

……許せる、筈がない……


プレシアは、許せなかった

自分達の平穏と日常に土足で入り込み、踏み躙ろうとした存在を
自分達に襲い掛かってきたあの三人を、あの三人に襲撃を命じたであろうヤツ等の主を


そして何より、アリシアを守りきる事ができなかった自分自身を


予測できた筈だった
この程度の事は、幾らでも予測が出来た筈だった

この世の理不尽を、世界の不条理をこれ以上に無い程に思い知らされた自分なら……幾らでも、『この程度』の事は予測が出来た筈だ

少なくとも、今回の一件
転移用デバイス一つポケットに入れておくだけで、あの危機から簡単にアリシアを救える事が出来た筈だ



「ほんっと、自分の馬鹿さ加減にはつくづく呆れたわ」



許せる筈がない。

最愛の娘を危険に晒した自分の無力さを
最愛の娘に涙を流させて、恐がらせてしまった自分の不甲斐なさを


――絶対に、許せる筈がない――


手に持ったデバイスのカスタマイズを終えて、プレシアはソレを起動させる。
次の瞬間、粒子状の魔力がプレシアの周囲に集まって、それは徐々にプレシアの全身を包み込む。



「……フム、こちらも問題ないようね……」



その完成度を確かめながら、プレシアは呟く。
基本動作、基本能力に問題はない
プログラムに不備もなく、カスタマイズに使ったパーツは問題なく稼動している。


そして、その電子音が研究室に鳴り響く
音の発信源は一つのデバイス、カードタイプの通信用デバイスだった。

プレシアはソレを手にとって、デバイスの表面に浮かぶ魔力灯の文字を見る。


――From IZAYA――


相手の名を確認して、プレシアは通信回線を開く。


『もしもし?』

『ど~も、I love 人間でお馴染み貴方の街の情報屋さん・イザヤくんで~す』

『ウザいから切ってもいいかしら、ウザヤくん?』

『ナチュラルに酷っ! ノリが悪いなープレシアさんは』


そう言って、通信越しの相手はケラケラと笑い声を上げる
そんな声を聞きながら、プレシアはこめかみを僅かに指で押して


『……で、用件は何かしら? 大した事ない用件だったら本当に切るわよ』

『まあ確かに、用事と言っても大した用事じゃないんだよね~』


プレシアが僅かに苛立った様な口調で言うと、電話越しの相手は笑い声を一旦止めて



『頼まれていた例の件、大体調べがついたよーって言いにきただけだから』


















……そろそろ、頃合か?……


その暗い空間にて、空間モニターに展開される映像を見ながらその人物は思う。


……あの二人のダメージも、そろそろ癒える頃……完治とまではいかないが、戦線をサポートできる程度には回復するだろう……


数日前のとある戦闘
あの戦闘で、予想だにしていなかったイレギュラーによって出た被害
その被害と現状を見据えながら、その人物は考えを進める。


……まぁ、アレ等もそれなりに長い時間を生きてきた存在…同じ愚を犯す真似はしないだろう……

……アレ等にリタイアされるのも困るが、『奴』と顔を合わせるとなると……こちらも相応にリスクがある……

……あの二人の修復にそれなりに蒐集した頁を使用させたが、まあ必要投資というヤツだ……

……こちらも余裕があるわけではない、『化物』の相手は『異物』に任せるのがやはり適任だ……


そして、その部屋に電子音が響き渡る
電子音が響くと同時に、空間に新たなモニターが展開される。


……ヤツからか……


モニターに映し出されるのは、次元通信を知らせる文字
そしてその送信元は、自分達の共犯者からだ。

通信で送られてきたその内容に目を通す
通信内容を確認して、その確認と了承を知らせる文書を書き上げて返信する。


……ヤツの方に任せた案件も、概ね順調……

……まだ管理局も、アレ等の動きには気付いていない……

……気付いていないが、やはりそんなに都合良く話は進まないだろう……


管理局はまだその事実には気付いてはいないだろうが、既にその一端は姿を現し始めている
その一端から管理局が掴み、事実を知り、その解決に乗り出すのもそう遅くはないだろう
やはり、今の内に備えられるものは備えておくべきだろう。


……しかし、気になるな……


その人物は手の中のデバイスをカチカチと操作する。

そして次の瞬間、モニターに映し出される映像が切り替わる
そこに映るのは、数日前のとある次元世界の戦闘光景。



……似ている……

……あまりにも、『彼女達』に似ている……



その人物はモニターを食い入る様に見る
モニターに映る白い男と、黒髪の女と金髪の少女を見る。

果たして、これはただの偶然か?
若しくは、ただの他人の空似か?

――それとも――



……いや、『彼女』は間違いなく死んだ筈……

……彼女の遺体は管理局が回収し、検死の結果アレは100%本人の遺体だという結論も出ている……


しかし、それでも疑問は残る
今までの人生と経験で培ってきた、己の勘がどうにも警戒するように信号を鳴らしている


……まあいい……

……どの道、ヤツが敵に回った時点で面倒な事態になるのは目に見えている……

……寧ろ、ここはプラスに捉えるべきだろう……

……あの男が戦いに加わり暴れれば暴れるほど、管理局はそちらに目が行く……

……ならばその分、こちらも動き易くなる……


何事にも、イレギュラーは付き物だ
起こってしまった事に、幾ら動揺し困惑しても仕方がない。

ならば、そのイレギュラーを如何に利用するかを思案した方がよっぽど建設的だ

粗方の思考を終えて、その人物は座っていた椅子に深く背をもたれる
そして再びモニターを操作して、その画面を切り替える。



……そして、更に警戒すべきは……この男……



そのモニターに映し出されるのは、とある次元世界の風景と一人の男
地面に倒れ伏し、その全身は血に塗れている青髪の男


……この衣服、手に持った細身の刀剣……

……そして何より、腹部の孔……

……果たして、『コレ』も偶然か?……


その男の特徴は、己の脳裏に過ぎるとある男の特徴と共通するモノが多い
コレを果たして、ただの偶然と片付けていいのか?



……それに、コレは気のせいか?……



その映像は、更に進んでとあるシーンが映し出される
金髪のショートカットの女性がその男に歩み寄り、何か考える様に立ち止まっている。

その女性は、ゆっくりと男に手を伸ばして、その手が淡く光る

そして次の瞬間、男の姿が消える
一瞬その男の全身は青く発光し、粒子状に分解していく様に女が持つハードカバーの本へ吸い込まれていく。


その光景を見て、その人物は改めて疑問を覚える。



――コレは、気のせいか?――

――この男が、自ら『闇の書』に取り込まれた様に見えるのは――。















続く













後書き すいません、またしても更新が遅れました。十一月中には今話を投下する予定だったのにこの有様……
更新速度を上げようとすると話が上手く描けないし、上手く描こうとすると時間が掛かる
速度と質、何とか両方を向上させたいと思っております。

さて、話は本編
現在、ヴィータとザッフィーは闇の書の中で肉体を修復中です
確か以前読んだファンブックだとこんな感じの事が可能だと描かれていたのですが……何分、記憶があやふやなので少し自信がないです
仮に出来なくっても、やり方したでは可能……みたいな脳内補足をお願いします。

一応今回は話と話の『繋ぎ』の部分を描かせて頂きました。色々な方々が裏で暗躍し、次回からも少し話を動かしていきたいと思っております。


次回からいよいよプレシアさんが動き始め、戦闘パートに突入する予定です
次話以降は動かしていくキャラも増えて上手く描けるかどうか不安ですが、何とかやっていきたいと思います。




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