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No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
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[17010] 第参拾番
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:4ac72a85 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/05 19:42




陽が僅かに西に傾き始めたその空間にて、黒い魔女と赤い魔女は互いに向き合う。


「……随分と、物騒な物を持ってるわねお嬢さん?」


その赤い少女を見定めて、プレシアは呟く。
その少女に言葉を投げ掛けながら、プレシアは更に考察を続ける。


(……どうやら、この結界を発動させたのはこの娘みたいね……)


その少女から発せられる魔力を感じ取りながら、プレシアは結論づける。


(……魔力圧、雰囲気、結界の質から察するに…この娘、相当場数踏んでるわね……)


その赤い少女から発せられる魔力、その力量は低く見積もってもAランクは軽く超えている
それに、今自分達を囲んでいるこの結界の質も相応に質が高い

そして持っているハンマーの様な得物、あれは恐らくデバイスだろう

ハンマーを持つ真っ赤なバリアジャケットに身を包んだ幼い少女、通常ならどこか滑稽にも思える光景だが
その姿に不思議と違和感はない。

その少女の持つ魔力、雰囲気、そして自分の経験と勘がこの赤い少女は普通の少女でない事を訴えている。


そして、更にプレシアは考える。


(……さーて、何が狙いかしらこの娘……)


プレシアは、自分達が狙われる理由をざっと考える。
この少女は、自分を「プレシア・テスタロッサ」と知っているのか否か


(……事と次第によっては、かなり面倒な事になるわね……)


その赤い少女、その雰囲気から察するにどうも穏やかではない
そして自分の傍にはアリシアも居る。

故に、プレシアは密かにデバイスを起動させる
結界の解析と、その解除を静かに行う。


(……ジャミング機能付きの多層結界……厄介ね……)


チっと、心の中で舌打ちする。
それにこの結界、自分が良く知るミッドチルダ式の結界とは構造自体が異なる
故にその解析に時間が掛かり、ここから離脱するにも時間と手間を要する。

嘗てフェイトに渡した様な空間転移専用のデバイスがあれば話は別だが、今はソレは手元に無い。


(……一応、『念には念を』入れておいた方が良いわね……)


大凡の考えを纏め上げて、プレシアは密かに静かにソレを行う
そしてそんなプレシアに対して、赤い少女が動く。


「突然でワリーんだけどさ、少しの間大人しくしてくれねーかな」


赤い少女が得物を構え、その片方の手に四つの小さな鉄球を持つ


「……そうね。先ずは事の説明をしてくれると個人的にはありがたいわね」

「そっちの方が早く終わる……そういう事だ、よ!」


次の瞬間、その赤い少女は手に持った鉄球を弾丸の様に射出する。


「……っ!」


その鉄球は少女の魔力を纏い、赤い光弾となってプレシアとアリシアに襲い掛かる。


「……ちっ!」


少女に次いでプレシアも動く
即座に紫電の防御幕を展開して、四つの赤い光弾を全て受け止める

しかし


「アイゼン! カートリッジロード!」

『yes sir!』


赤い少女が得物を構えて一気に間合いを詰める
少女が構えたハンマーの様な得物は「ジャコン」と言う音と共に、そのハンマーの形状が変わる。
ハンマーの片側に噴出口の様な物が形成されて、そこから一気に魔力が放出され、ブースターの様にハンマーは加速する。


『Raketen hammer』

「ぶっ潰せぇ!!!」


その魔力、その威力、正に必殺
その赤い少女の必殺の一撃は赤い光弾を受け止めていた紫電の防御幕に一気に食い込んで、
それに罅が入り、亀裂が走り


そして、プロテクションは音を立てて粉々に砕け散った。


その両腕に、重い衝撃が走る
その衝撃、反動、手応え、それら全ての要因がその赤い少女に「直撃」と「勝利」を教えていた。



――だが



「――随分と、せっかちなお嬢さんね」



その瞬間、ソレらは一気に崩れ去る。


「んな!」


少女は思わず驚愕の声を上げる。

届いていなかった
その少女の一撃は、相手に届いていなかった。

その赤い少女とその母子の間に展開されていた紫電の壁に、その一撃は完全に塞き止められていた。


「二重の、プロテクション……!」


少女は瞬時にその答えに辿り着く
最初のプロテクション……アレは元々、捨て駒だったのだ

最初のプロテクションで威力と衝撃を軽減させて、二枚目の「本命」で完全に止める


「カートリッジシステムを組み込んだデバイス……『ベルカ式』か、まさか現物をこの目で見れる日が来るなんて思わなかったわ」

「……くっ!」


その予想外の結果に、少女は即座に距離を取ろうとするが


「……あぐ! が! ぐあああああぁぁぁぁぁぁ!」


その体に、電撃が流れる
紫電を帯びたプロテクションから、その少女の得物を通して電撃が少女の体を襲う

その痺れるような激痛が体中を襲い、少女の顔は苦痛に歪み


「……貴方の目的とか、ここからの脱出方法とか、この娘の安全とか考えて、
色々と聞きたい事とか言いたい事があったりしたけど……今の私の正直な気持ちその全てを
この一言に纏める事にしたわ」

「……な、に?」


紫電越しに、赤い少女は目の前のプレシアと向き合う
プレシアは口元を微笑む様に形作り、ゆっくりとそして真っ直ぐに少女に向き合って






「―――図に乗るなよ小娘が――――」







ゾクリ、と鳥肌が立った
その目を見た瞬間、赤い少女の体に悪寒が走り体中が総毛立つ。

そして次の瞬間、少女の体が弾かれる様に後ろへ飛ぶ
その予期せぬ衝撃に赤い少女の体は木の葉の様に凪ぎ飛ばされ、ザザザと地面を抉りながら着地をする。


「……おかあ、さん……」


ギュっと、アリシアはプレシアにしがみ付く
先程までのやり取りで、幼子と言えど自分達の身に何か良からぬ事が起きている事を察知した様だ

アリシアは不安げな表情を浮かべ、プレシアの顔を見る。



「大丈夫よ、アリシア」



プレシアは、そんなアリシアに微笑む。



「貴方は、おかあさんが守るから」



そして、その頭をそっと撫でる



「お母さんは、とっても強い魔導師だから」



プレシアが手に持った紫の宝玉が、魔力光を宿して輝く
魔力光はアリシアの周囲に集まって、光の砦となる。



その魔力光は、更にプレシアを包み上げる。



「……セットアップ」

『OK master』



紫電が轟く、魔力が奔る
その体は黒衣のバリアジャケットを纏い、その片手には一つの杖が握られている。


「だから、安心して待ってなさいアリシア」


その目に戦意の光を宿して、その胸に確かな意志を宿して、

愛する娘を守る為に
黒い魔女と赤い少女の戦いが始まる。











第参拾番「大魔導師VS鉄槌の騎士」












そこは、どこかの世界のどこかの空の上だった
夕闇に沈みつつあるその世界で、眼下に広がる景色に視線を置きながらその女は宙に佇んでいた。


「……そっちの収穫はどうだ、シグナム?」

「……ザフィーラか……」


シグナムと呼ばれた桜色の長い髪をポニーテールに纏めて、甲冑を着込んだ女が振り向く。
その視線の先には筋肉質な体に青い服に身を包んだ、短い銀髪から犬の様に長い耳が突き出た男が佇んでいた。


「……今一つだな。多く見積もって三ページと言ったところだ……そっちは?」

「こっちも同じ様なものだ。やはり、管理局の目が届かない管理外世界では収穫は思わしくないな……」


どこか口惜しい様に、ザフィーラと呼ばれた男は呟く
その意見にシグナムと呼ばれた女も思う所があったのか、僅かに考えて


「……だが、コレがまた最善なのも事実だ。下手な行動をして管理局に目をつけられれば……それこそ、我々は打つ手が無くなる。
それにまだ時間はある、ここは焦らずじっくり確実に事を進めていく方が懸命だ」

「急いては事を仕損じる、か……」


ザフィーラはそう呟いて、改めて視線を移す
既に陽は落ちて、空は夕闇に包まれ始めている……そろそろ、帰還を考えなければならない。


「……主の帰宅は何時だったか?」

「夕食はご友人の家で馳走になると仰っていたからな。
迎えは要らないそうだから、早ければ後二時間ってところだろうな」

「……そうか。ヴィータのヤツはさっき大物を見つけたと報告があったから、そちらが終われば合流するだろう
後はシャマルだが……ん?」


そして、シグナムは何かに気付いた様に声を上げて


「……妙だな……」

「どうした?」


顎に手を置いて僅かに集中する様に瞼を閉じるが、その顔にはどこか不安がある。
そんなシグナムを見てザフィーラが尋ねて、そしてシグナムが答える。


「何故だが知らんが、シャマルと連絡が取れん」
























「……が、は!」


中空で幾重にも爆発が起き、その苦悶の声が響いた
閃光が弾けるように行き交い、衝撃が乱射する様に発生していた。


戦いは、一方的だった。


余りにも一方的に
黒い魔女が、赤い少女を圧倒していた。


「はあ、はぁ、ぐ……くっ!」

「……粘るわね。大人しく尻尾巻いて逃げるのなら、見逃して上げてもいいわよ」


黒い魔女が、誘うように呟いて


「……ふざ、けんな……っ!」


その言葉を聞いて、赤い少女は激昂の表情を浮べて叫ぶ。


「なめんじゃねええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


轟くように少女は吼えて、得物を構えて飛ぶ
その刹那、紫電の弾幕が赤い少女に雪崩れ込む。


「うおおおおおぉぉおおおおおおおおおおっぉおおおおおおおおぉぉ!!!!」


機関銃の様に撃ち込まれる紫電の弾丸を、赤い少女は瞬時に撃墜する
その鉄槌が縦横無尽に駆け回り、閃光の軌道を描きながら己の身を襲う脅威全てを撃ち落す。

しかし


「ほらほら、足元がお留守になってるわよ」


更に三つ、紫電の光弾が射出される
低空飛行で地面を駆けて、少女の両足を襲う。


「……ぐぅ!」


少女は飛ぶ
迎撃は間に合わない、回避の方が手っ取り早いと踏んだからだ


だが!



「ああ、そこは罠があるから気をつけた方がいいわよ」



次の瞬間、空中に幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。


「な!」


少女が驚愕の声を上げる
突如少女の頭上に現れた、紫電の大剣
まるで神話に出てくる巨人が扱う様な山をも両断する様な剣。


『giga slash』


その大剣が振り下ろされる
風をも追い抜く速度で、大地すらも打ち貫く威力で少女に襲い掛かる。


「アイゼン! ギガント・フォーム!」

『yes sir!』


しかし、少女もここで終わらない
瞬時に得物を構えて、ソレは起きる。

少女の持つハンマーは爆発的に巨大化し、そのまま少女は思いっきり振りかぶる。


「ぶっ潰せえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


鉄槌と大剣が激突し、爆発する様な衝撃音が轟く
次の瞬間、少女の両腕に激痛にも似た衝撃と手応えが伝わり、紫電が体に流れる。


「ぐ! ぐぎ! ぐががっ!」


少女の顔は苦悶に歪み、苦痛の声が思わず漏れ出る
だが


「鉄槌の騎士・ヴィータを嘗めんなあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


少女が咆哮を上げる
両腕を襲う激痛を、体中に流れる電撃を無視して、一気にその鉄槌を振り抜く。

紫電の大剣は砕ける
その刃先から柄の端に至るまで、一気に粉砕する。



「はい、完了」



その声が、冷たく響く。

砕けた大剣の欠片は、そのまま幾多の紫電の弾丸に変化して
次の瞬間、少女の背中にソレは突き刺さる。


「……ごっ!」

「そういう大技は、援護してくれる味方がいる時か絶対の勝機に使う物よお嬢さん」


減り込む様に、紫電の弾丸が突き刺さる
ヴィータと名乗った少女の背中に、脇腹に、鳩尾に、顎に、頬に、蹂躙する様に紫電の弾丸が襲い掛かる。



「ぐ、げ、が!……ごほっ!」



その衝撃に耐え切れず、ヴィータの体は後ろに飛ぶ様に転がる
吐き気を覚える程の激痛、ビリビリと痺れが残る体、そしてその現状。



(……この女……マジで強え……!)



ゴホゴホと咳き込みながら身を起こして、ヴィータは思う。


(……相性が悪いってのもあるが、魔力が桁違いだ……シグナム以上かもしれねえ……)


体がグラグラとふらつく
顎への一撃が効いているのだろう、視界が定まらず平衡感覚も狂っている。

ハッキリ言って、このまま闘いを続ければ……勝敗は明らか
だが



(……でも、ようやく分かってきた……この女の攻略方が……)



ヴィータとて、ただでやられていた訳ではない
嵐の様な猛攻と暴風の様な魔力に身を晒されながら、これまでの戦いから考察を纏める。



(……この女の戦闘スタイルは典型的な遠距離タイプ……距離を取って、火力に物を言わせて敵を倒すタイプだ……)



火力と魔力に物を言わせた紫電の弾幕、敵の逃走ルートを予測し仕掛けられた罠、
そして相手の間合いには絶対に入らないその戦術

どれも、典型的な遠距離タイプが使うソレだ。


(……魔力を全開にして、一気に突っ込む……間合いに入れなきゃ勝機はねえ、このままじゃあ嬲り殺しだ……)


どちらにしろ、ダメージは避けられない
自分の間合いに入れなければ勝ち目はない。

それに相手はどう見ても自分より格上、無傷で事を済ませること自体が土台無理な話だ
ならば


(……馬鹿げた魔力で機関銃みてぇな弾幕を常時展開してるんだ、その分機動力に割ける魔力は高が知れてる筈だ……)


赤い魔力が奔る
その激流とも言える魔力の奔流がヴィータの体を包み上げる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


風の様に空を翔けて、少女が吼える。


(……肉はくれてやる……だが、骨を潰す!……)


猪突猛進、被弾覚悟、玉砕上等、一発逆転
その猛攻は正にそんな言葉が似合うだろう

紫電の弾幕が彼女の猛攻を迎撃する。


「ウオアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!」


赤い少女は、そのまま突き進む
己の侵攻を妨げる光弾のみを迎撃して、一気にその間合いを詰める。

脇腹に光弾が減り込む
太腿に紫電が流れる
閃光が瞼の上を掠める
胸に重い衝撃が走るがそのまま突き進む


(……見つけた! 弾幕の隙間!……)


暴虐の嵐を乗り越えて、ヴィータのその僅かな勝機を掴み取る
黒い魔女の周囲に絶えず展開されていた壁にも似た弾幕に、隙間が出来たのだ

それは余りにも小さく細い隙間
だが、それは今のヴィータにとって十分過ぎる程の隙間



「貰ったあぁ!」



その一歩で、ヴィータは己の間合いに黒い魔女を捕らえる
紫電の弾幕を完全に潜り抜け、黒い魔女を眼前に捕らえる


「ぶっ潰せええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


唸りを上げて鉄槌が振り下ろされる
その必殺の一撃が繰り出される。

回避は不可能、相手の防御ごとまとめて粉砕するその一撃

赤い少女は、己の勝利を確信した。







「――チェック・メイト――」

『delayed bind』








その瞬間、紫電の鎖が現れる。


「……な!」


気が付けば、少女は束縛されていた。


「な、なんだよコレ! クソ、解け……ガぁっ!!」


少女は驚愕する、自分のその現状を信じられない様に声を上げる
その鎖は少女の鉄槌を、四肢を、全身を、瞬時に束縛してその場に縫い止める。


「近距離タイプは単身で遠距離タイプに挑む時、先ずは自分の間合いに相手を捕らえる必要がある」


黒い魔女は赤い少女を見つめて、ゆっくりと呟く。


「だから、距離を詰めてくる。多少のダメージは覚悟の上で、魔力を練り上げて距離を詰める」


魔女の杖の宝玉が紫電の光を宿して輝く。



「――だから、手に取る様に分かったわ。美味しい「餌」を見つけた後の貴方の行動が――」

「っ!!?」



その黒い魔女の言葉を聞いて、ヴィータは気付く。

自分が勝機とみて見つけた、弾幕の隙間
そして、己を束縛する空間設置型のバインド

その意味を悟る、相手の真の思惑に気付く
自分は、まんまと相手の掌で踊らされていたのだ。




「て、てめえぇ!」

「三流は罠に追い込むものだけど、一流は誘い込むものよ……良かったわね、一つ勉強になったわよ」


少女の足元に、魔法陣が現れる
魔法陣は光輝き、少女の体を紫光で照らす。


「アルタス・クルタス・エイギアス……」


そして魔女は、杖を構えて詠う様に告げる。


「英雄殺しの名を持つ凶戦士よ、我が名において咎人を断罪せよ」

『execution』


魔女の杖が呟き
魔法陣から紫電の光柱が聳え立ち、赤い少女を一気に飲み込んだ。


















そこは、どこかの部屋の中だった
その部屋は薄暗く、部屋には僅かな光源しか存在していなかった。

そしてその部屋の僅かな光源
その部屋の中にて幾つか展開されたモニターを見ながら、「ソレ」は考える。



……面倒な事になった……



そのモニターに映る光景を見ながら、その人物は思う
そのモニターに映る映像は、とあるサーチャーから送られてくる映像

自分達の「監視対象」の動きを、逐一チェックするための物
とある「人物」が、何かの役に立つからと……自分達に渡した物。



……仕方ない、もしもの事態に備えて……念には念を入れておこう……



何事にも、イレギュラーというモノは付き物だ
今はまだ時期じゃない……まだ『アレ等』にリタイアされては困る。

予定よりも少し早いが、自分も当事者としてステージに上がっても良い頃だろう

そして、その人物は立ち上がる
次の瞬間、その人物の体を魔力光が輝いて何かを形作る。

それは、バリアジャケット
青と白を基調とした、戦闘用のバリアジャケットだ。


「……行くか」


その人物は呟き、手に持った白い仮面を己の顔にかぶせた。






















「――――っ!!!」

炸裂する様に聳え立った紫電の柱
それを視界に納めると同時に、プレシアの表情は強張った。


(……今一瞬、何かが魔法陣に……それにこの手応え、まさか……!!)

「おかあさん!上!?」

「……!!!」


傍にいる娘の叫びを聞くと共に、プレシアは即座にプロテクションを形成する。

次いで、衝撃
紫電の防御幕と上空からの「ソレ」は火花と放電を撒き散らし、互いに拮抗する

そして、防御幕に罅が入り亀裂が走る。



「……ちぃ!」

「っ!!!」


幕の内から亀裂に向かって、プレシアは砲撃を放つ
乱入者はプレシアの砲撃が放たれるその瞬間、即座に飛び砲撃を回避する。



「……やるな」

「……新手?」



後ろへ飛び、自分と距離を取るその乱入者を見て呟く。
そこに在るのは、三つの人影
赤い少女を抱えた銀髪の筋肉質の男、その二人の横に立つ甲冑を身に纏った長い桃色の髪の女。


「……間一髪だったな、ヴィータ」

「う、五月蝿え! あそこから逆転する予定だったんだよ!」


銀髪の男が低く呟き、赤い少女がどこかムキになって反論する。
恐らくあの銀髪の男が魔法発動前にバインドを破壊しあの赤い少女を助け出したのであろう。


「あらあらお迎えが来たようね。
良い保護者を持っているみたいね、お子様は家に帰って温かいマンマを食べて寝る時間よお嬢さん?」

「……て、てめえ!」


ギリっと奥歯を噛んで少女が反論しようとするが、それを甲冑の女が制する
その様子を見て、プレシアは思う。


(……厄介な展開になったわね……)


表情こそは平常を装っているが、その心の中で舌を打つ
まだ結界の解析は終わっていない、相手の目的も分かっていない、あの赤い少女も仕留められなかった

それに何より、新手の甲冑を身に纏った桜色の髪の女。


(……さっきの一撃、それにこの突き刺さる様に感じる魔力……)


他の二人と比べて、明らかに一線を画している
恐らく、この三人のリーター格と見て間違いないだろう。


「……成程、確かに大物だ。お前が遅れを取るのも頷ける」

「だから! 負けてなんかねえ!」

「だが我等があと僅かにでも来るのが遅れていたら、確実にお前は倒れていたな」

「……ぅぐ」


甲冑の女が静かに呟いて、赤い少女がそれに噛み付く様に叫ぶが、銀髪の男の言葉で黙り込む
そして、再び三人はプレシアと向き合う。


「話は終わった? それならそろそろ帰らせてくれないかしら?
ベルカ式の結界は専門外だから、解析に時間が掛かってなかなか空間転移できないのよ」


まだ、結界の解析は終わってない
故にプレシアは少しでも時間を稼ぐため、とある行動に出る。


「……悪いが、それは無理な相談だ。勝手な事で申し訳ないが、命まで取るつもりはない……故に、少し我らの事情に付き合って貰う」

「随分勝手な都合ね。命までは取るつもりはないから付き合え? 
そんな戯言がまかり通るのなら強盗、強姦、詐欺、脅迫、暴行、拉致監禁に人身売買……大抵の犯罪は見逃される事になるわねえ?

凄い考えねー、ゲロ以下の臭いがプンプンする考え方だわ

今のセリフだけで、あらゆる次元世界の犯罪被害者の殆どは敵に出来るわね。
これが噂の善悪の区別がつかないモラルの崩壊ってヤツかしら? それとも『真性』の方かしら?
少しの間、窓の無い病院のお世話になる必要があるのではなくて?」


その言葉を聞いて、赤い少女のは額に青筋を浮べてその顔は怒りに更に歪む。


(……さーて、これでどの程度時間が稼げるかしら?……)


プレシアが行ったのは実に単純な事、それは言葉による攻撃……即ち挑発
今にも飛び掛りそうな少女を銀髪の男が制し、それを見てプレシアが更に言葉を続ける。



「ああ、そう言えばそこのお嬢さんは自分の事を騎士と言っていたけれど……
何時から騎士って言うのは見ず知らずの親子に対して、通り魔紛いの真似をする糞にも劣る『汚物』を指す言葉になったのかしら?
差し支えなければ、是非ご教授してくれないかしら?」



嘲笑を浮べて相手を煽る、挑発する
相手の自尊心、尊厳を徹底的に嬲り攻撃する。


(……ま、私が言えた口じゃないんだけどね……)


心の中でそう付け加えて
鼻歌を口ずさむ様に相手に暴言を叩き込む、呼吸をする様に悪意を放つ。


「……テメエ、言わせておけば……!!」

「よせヴィータ、挑発に乗るな」


その甲冑の女の言葉を聞いて、ヴィータは踏み止まる。
先の戦闘において、このヴィータはまんまとプレシアに踊らされて罠に誘い込まれた。

このあからさまな挑発が、そしてその経験がヴィータを踏み止まらせていた。

そしてその作用は、他の二人にも及んでいた

プレシアは圧倒的火力を誇る遠距離タイプの魔術師

故に相手のそのあからさまな挑発は、自分達に先手を撃たせる為の……罠に誘い込むための「待ち」の姿勢から来るものだと思ったからだ。

だからプレシアに警戒し、未だ迂闊に踏み込むことが出来なかったのだ。



(……後、少し……後少しで、ここから離脱できる……)



内心冷や汗を流しながら、プレシアは思う。

プレシアにとっての最優先事項は、この三人に勝つ事ではない
何よりも優先すべきことは、アリシアの安全を確保する事……この場から脱出する事だ。

そしてその時間を稼ぐために、プレシアは三人に対して余裕の面をかぶり、挑発する
明らかに自分が三人の攻撃を待っているかの様に、三人の内の誰かが動き攻撃してくる事を今か今かと待っているかの様に振舞う。

万全の状態なら話は違うが……他の二人はともかく、あの甲冑の女とここで戦闘することは避けたい
そしてこの三人をここで同時に相手にすれば、アリシアに危険が及ぶ可能性もその分大きくなる。

故に、プレシアは密かに静かにソレを進める。

そして、その時が来る。


(……!! よし! 解析が終わった!……)


遂にプレシアが待ち侘びた瞬間が来る
その結界の解析が終わる、そして即座にその結界からの脱出を図る。

自分とアリシアの足元に転移様の魔法陣が形成され、二人はそこから離脱する。

正に、その瞬間だった。





「―――――――――え?」





薄氷の様に、魔法陣が砕け散り
空間転移はキャンセルされ、発動しなかった。



(……失敗!!?……そんな! 私の解析は完璧だった筈、それに対しての空間転移の演算も完璧だった! なのにどうして!……)



瞬時に頭の中に浮かぶ疑問、ほんの数秒間プレシアが動揺して狼狽したその僅かな隙間
その絶対の隙を、彼女は見逃さなかった。



「レヴァンティン! カートリッジロード!」

「――しまっ!!?」



気が付けば、プレシアは甲冑の女の射程内に居た。

女の持つ剣に赤い魔力が収束し、烈火の如くその魔力は激しく唸る
回避は間に合わない、故にプレシアは咄嗟にラウンドシールドを形成し一撃に備える。

だが!


「紫電……一閃!!!」

「……な!」


烈火の一刀の下に、紫電の盾が切り裂かれた
先の一撃を大きく上回るその一撃、それはプレシアの盾を一瞬にして紙の様に切り裂く。


そして



「があ! あっ!!!」



その一撃は、プレシアの体に食い込む
閃光の軌道を描いて、プレシアの義骸を容赦なく蹂躙する。


「……おかあさん!」


その一撃の衝撃に耐え切れず、地面に倒れ伏すプレシアを見てアリシアが叫ぶ。



「……すまない。我々も退けぬ事情があるのだ」



そう言って、女は剣を鞘に納める
必殺の手応えだったのだろう、その背中は己の勝利を確信するものであった。



「……ぐ!……がっ!!」


プレシアは立ち上がらない、いや立ち上がれない
今の一撃で、義骸は大きく破損してその能力を上手く扱えなくなっていたからだ。


「……ヴィータ、お前が蒐集しろ。元々お前が見つけた獲物だ」

「……分かったよ」


隙を突かれたとは言え、自分を圧倒した相手があっさり仲間に仕留められたのが気に入らないのか
ヴィータはどこか不機嫌な様子で返事をする。

そして、目的を果たすために未だ地面に倒れ伏す獲物に歩み寄る。


(……マズい! 何をされるか知らないけど、このままじゃマズい!……)


四肢に力を込めるが動かない、それに体中を襲う違和感
どうやら、先の一撃で義骸は致命的なダメージを負った様だ。

そして、あの赤い少女……ヴィータが一歩、また一歩と自分に近づいてくる。


(……諦めて、たまるか!……ここまで来て、ここまで来れて! 全てを不意にしてたまるかああぁぁぁ!!!……)


こいつ等の目的は分からないが、それは大凡碌な事ではないだろう。

ありったけの力を振り絞って、四肢に力を込める
プルプルと痙攣する様に手足が震えるが、それでも徐々に体は起き上がり

そして、あっさりと倒れ伏す。


「……ぐぅ!がっ!!!」

「暫くは立てやしねーよ。シグナムの一撃をモロに受けたんだ、立とうと思っても体がいう事を聞かねーよ」


だが、プレシアは諦めない
何度も体を起こそうとして、倒れて、それを何度も繰り返す。

勿論、ヴィータはそれに付き合ってやる理由も義理もない
手早く自分達の目的を果たして撤退するつもりだった。










「……やめて、よ……」










その小さな少女が、自分達の間に割って入るまでは


「……てめえは」

「あ、アリシア!?」


その金髪の少女を視界に納めて、プレシアが声を上げる
気が付けば、アリシアに張ったプロテクションは解除されていた。

恐らく義骸が受けたダメージによって、魔力の供給に不具合が出たからだろう。



「何をしてるのアリシア! 逃げなさい!私の事はいいから、直ぐに逃げなさい!」

「いや、だっ!!!」

「お願いだから! お願いだからお母さんの言う事を聞いてちょうだい! 直ぐに逃げて!ここから逃げなさい!」

「いやだ!」



その小さな体で、恐くて恐くて仕方がない様に体を震わせながらも、
その少女は母を守るように、その赤い少女の前に立つ。


そして、ありったけの勇気を振り絞って叫ぶ。



「……おかあさんを、いじめるな……!!!」



今すぐ逃げたいのに

恐くて恐くて仕方がないのに

目元には涙すらも浮べて、アリシアは叫ぶ。



「おかあさんに、ひどいことするな!」



それでも、アリシアはそこに立つ
母を守る為に、大切な母親を守る為に、大好きなおかあさんを守る為に、そこに立つ。


「……だま、れ……」


無視をする事は、簡単だった
少女の相手をしないで、目的を果たすことは簡単だった。

だが


「……黙れ、よ」


その声はどこか暗く、そして重い。

ヴィータは、無視できなかった
ヴィータはその少女を、無視できなかった。




「……そこを、どけよ……」



しかし、その顔に今までの覇気はない。


「……どかない……!」

「いいからどけよ!!!」


アリシアの返事を聞いて、ヴィータの声が僅かに激昂する
何故こんな小さな少女の言葉で、ヴィータが激昂したのかは分からない。

ただ単純に、その小さな少女が自分達の邪魔をしてくる事が気に入らなかったのか
もしくは、その少女の行動を見て自分達が行った事に罪悪感を覚え始めたのか。



それとも

必至に母を守ろうとする少女の姿が、自分達が良く知る「誰か」の姿と重なったのか。



「っ! さっさとどけ! いいからそこをどけ!」

「……どか、ない!……絶対にどかない!」


だから激昂した
少女の姿と重なる「誰か」の影を振り切る為に

そこから生まれた後ろめたさと罪悪感を誤魔化す為に



「いいから、どけええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」



だから、短絡的な行動に出てしまった
少女に向かって、空いた片手を振り上げた

少女はその突然の事態に目を瞑るが、まだそこに居る

倒れた母を守ろうと、まだその場に立っている。


だから、振り下ろした
その小さな少女に向かって、ヴィータは思いっ切り振り上げた手を振り下ろした。



そして、振り下ろした手に衝撃が走る





















「――何をしている貴様――」





















突如現れた、自分の腕を掴んだ白い手によって。



「……え?」



その突然の事態に、ヴィータは思わず声を洩らす

そして次の瞬間、赤い何かが飛び散った。

















続く











あとがき どうもお久しぶりです、作者です。更新が遅くなってすいません
過去に類を見ないスランプに陥って、この一話を書き上げるのに一月以上かかってしまいました。
プロットは出来ているのに、どうしてスランプになるのか疑問です(汗)

あとはプレシアさんVSヴィータ戦とそれ以降についてですが、人によってはプレシアさんの攻めがヌルいと感じる方が居るかもしれませんがそれに対しての補足です。

プレシアさんの最優先事項はアリシアの身の安全です。
アリシアの安全>超えられない壁>自分の安全>戦いに勝つ

こんな感じです。ヴィータ戦でも常にアリシアの安全を第一の戦法を取っていた為、追撃できるところで追撃できなかったり、詰めを誤ったたりしちゃった感じです。

あとはヴィータ達に対してのプレシアさんの言葉ですが、原作のプレシアさんなら挑発でもこのくらいの事は言ってくれると思ったのですが、皆さん的にはどうだったでしょうか?

ヴォルケンサイドの事情を知っている人によっては不快感を覚えるかもしれませんが、何卒ご容赦して下さい


次回はなるべく早めに更新できたらいいなと思ってます。




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