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No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
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[17010] 第弐拾捌番<無印完結>
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:4ac72a85 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/09 23:49
彼女の視界に最初に映ったのは、罅割れた青空だった。

海は壁となり、大地が漂っていた
その空間は鳴動し、地震の様に震えていた。


――随分と、派手にやられた様だな王よ――


それは、聞き覚えのある声
そこに在るのは、どこか見覚えのある顔



――この世界は、崩壊しかけている。どうやら”あちら”で致命傷を負った様だな――



その白い男はそう言うが、彼女の意識はどこか虚ろなままだった。

言っている事を受け止め、理解は出来るが、それだけだった。



――このままでは、俺も王も確実に消える――

――だが生憎と、俺はまだまだ消えてやるつもりはないんだ――

――何時の世も、王の危機を救うのは臣下の役目だ――



そして、その男の手にソレは現れる
それは仮面、真っ白い仮面

ソレを見て、彼女の虚ろな心臓は再び脈打つ。
仮面から発せられる得体の知れないその力を感じて、彼女の中で不安や恐怖が入り混じった負の感情が騒ぎ出す。



――さて、そろそろ始めよう――

――生きるか死ぬかは、王次第――

――だから、死んでも恨むなよ――



そしてその男は、その仮面を彼女の顔にかぶせる
次の瞬間、仮面は黒い闇を吐き出して彼女の全身を包み込んだ。












第弐拾捌番「終わりと始まり」













「……生きてるか、クロノ」

「……ああ、何とかな……」


アースラ・医務室
そこにクロノとユーノは居た。

二人の体は至る所に包帯が巻かれて、腕には点滴の針が刺さっている。

二人共、骨折を初めとする傷を負い、アースラに帰還した直後に緊張が緩み、糸の切れた人形の様に意識を失ったという話だ。

目が覚めた時、二人の傍にはエイミィが付き添っていた。


そして事の詳細を聞かされた。


あの後、ウルキオラが去った後に直ぐに自分達はアースラに帰還した
そして全ての怪我人を医務室へと運び、治療を施した。


そして自分達が撤退した後、時の庭園は大規模の爆発を起こしたらしい。


自分達負傷者がアースラに全て搬送された凡そ数分後、時の庭園の駆動炉と動力炉が暴走状態を起こし
その突然の事態に、駆動炉と動力炉の番に当たっていた管理局員でもその暴走状態を止める事が出来ず
彼等は即座にその時庭園内に残っていた管理局員にその危険を伝え、アースラに撤退


そして、時の庭園は暴走状態のまま爆発を引き起こし、跡形も無く粉々に消し飛んでしまったとの事だ。



そして、アースラ内部は違う意味で再び修羅場になったらしい
アースラ内部の医療設備では手が足りず、大半の負傷者は応急処置を施した後は本局に移送したとの事


アースラに居る負傷者は、クロノとユーノ、そしてなのはとフェイトとアルフとリニスだ

自分達やフェイト達はアースラの医療設備でもどうにかなったが、一部それでは済まない者達も居た。


それは、アリアとロッテの二人だ。


この二人のダメージは、かなり深刻なものだった。
特にアリアに至っては、搬送された時は既に心肺停止状態だったらしく、息を吹き返したのが奇跡に等しかったらしい。

この二人の負ったダメージは、自分達とは桁違いに大きかったらしい
辛うじて一命こそは取り留めたが、いつ容態が急変してその生命活動を停止させてもおかしくない危険な状況が続いているとの事。

現在この二人は本局の医療設備での集中治療室にて治療を受けているが、どう転ぶかは予測が出来ないとの事だ。



また、リーゼ同様の致命傷を負ったリニスだが、このリニスに関しては少し不思議な事が起こった。

医療班がリニスの傷を治療しようとした時、彼女の顔の表面を覆う様に白い「何か」が現れて
そしてその直後、突然リニスが暴れだしたらしい。

胸部に風穴が開いている程の致命傷を受けながらも、大量の血液を失いながらも、彼女は突然その体を跳ねる様に起こして暴れだしたらしい。


直ぐに彼等はバインドでリニスを拘束したが、それでもリニスは拘束の中で暴れる事をやめず
そんな状態が数分間以上も続き、麻酔や睡眠薬の投薬も試したが全く効果は現れず

だがそんな状態が三十分以上続いた所で、急に彼女は大人しくなり、彼女の体の半身を覆っていた白い何かは蒸発する様に消え去って

意識を失い、体中の傷がまるで「再生」したかの様に綺麗に消え去っていたとの事だ。



また、ウルキオラの謎の攻撃で倒れた武装隊の隊員たちも、怪我自体は大した事はないらしい。

怪我は大した事はないのだが…それに不釣合いな程に衰弱状態が激しく、一部の人間は内蔵機能の活動に支障が出ている程らしい。

今は治療も完了し、点滴による栄養摂取を初めとする療養を行っているが……完治までにはかなり時間が掛かるとの事だ。



「大丈夫、リーゼさん達はきっと助かるよ。だからクロノくんも、今は自分の体の事だけを心配しなさい」



リーゼ達の状況を聞いた時の不安が顔に表れたのか、エイミィはそう言ってクロノに微笑んだ。

そして船医にあまり患者に無茶はさせるなと言われて、つい先ほど医務室から退出したのだ。



「……不甲斐ない、な……執務官なんて偉そうな肩書きを持っていながら、このザマか……」

「……それを言ったら僕もだ。そもそも事の原因は、僕がジュエルシードを発掘し、その運搬に失敗した事が原因なんだし……」



その言葉を発して、二人の心情は暗い物になる。
互いの悔やみを思わず口に出してしまい、どうしても話はネガティブな方向に進んでしまう。



「……でも、なのはとフェイトが無事で良かった」

「……ああ、そうだな。本当に、無事で良かった」



ユーノのその言葉を聞いてクロノも同意して、僅かに二人の空気は明るくなった。

フェイトの怪我は火傷と打ち身、そして古傷が少し開いた程度のもの
なのはに至っては、それこそ殆ど無傷な状態だったらしい。


二人は曲りなりも「男の子」だ
守るべき「女の子」が大きな傷を負わなかった事に、少しだけ安堵していた。



「……クロノ……」

「……何だ?」

「ありがとう。あの時、なのはを助けてくれて……」



ユーノは、クロノを真っ直ぐ見据えて礼を言う。

あの時、クロノが砲撃魔法でなのはを突き飛ばさなかったら、確実になのはもウルキオラの餌食になっていただろう。

一般人であったなのはを最初にこの一件に巻き込んだユーノは、その事に対してクロノに礼を言っておきたかったのだ。



「……それを言うのなら僕もだ。あの時君が僕を助けてくれなかったら、今頃は会話なんて贅沢な行為は出来なかっただろう」



次いで、クロノもユーノに対して礼を言う。
ユーノが自分を助けてくれなかったら、自分はこの程度の怪我では済まなかっただろう。

あの時、ユーノが自分に叱責してくれなければ、自分は心を砕かれていただろう。



「……だから、僕も礼を言っておく……ユーノ、ありがとう」

「……どういたしまして」



だから、クロノも礼を言った。

自分を助けてくれたユーノに対して、折れかけていた心を支えてくれたユーノに対して、クロノは礼を言った。



「……強く、ならないとな……」

「……ああ、せめて身近に居る女の子を守れる程度には、ね……」



そのクロノの言葉に、ユーノも頷く。

曲がりなりにも、自分達は男の子だ
ここまで一方的にボロボロにされて、やられっぱなしのままで何もしないのは、やはり性には合わない。

その日、その病室で、その二人の少年は、互いにその目標を心に決めた。











なのはとフェイトは、クロノ達の隣の病室にいた。

二人はベッドで寝ている訳ではない
二人は戦闘で多少怪我を負ったが、他のメンバーに比べればずっと軽傷だったからだ。


そして、二人の視線の先にはベッドに横たわる二人の人物がいる。

アルフとリニスだ。

二人の意識は未だに戻ってはいないが、命には別状は無いとの事だ。

一時リニスが怪我から来るショック症状の様なものを引き起こしたという話を聞いたが
致命傷とも言える傷も消えて、一命を取り留めた事に、フェイトとなのはは心の底から安堵した。

アルフも肋骨を複数骨折し、内蔵も僅かに損傷したが、命には別状はないとの事だ。


家族が一先ず助かった事にフェイトは安堵して

そして、母の死を思い出した。



「……母さん……」



思い出すのは、最後の母との会話
母が死ぬ直前に交わした、最後の母子の会話


あの時、母は笑ってくれた。
今までの、歪んだ笑みとは違う。



――やっぱり、私は貴方の事が大嫌いよ――



自分が見たかった、母の心からの笑顔。



――じゃあね、フェイト――

――最後の貴方との会話は、少しだけ楽しかったわ――



そして、母は笑ったまま、笑顔のままその命を自ら絶った。


これは願望とも言える自分の考えだが
あの時、母は自分の事を……受け入れてくれた様な気がした。

あの時、自分と母は……少しだけ、ほんの少しだけ解かり合えた気がした。

あの時母は……自分の事を、娘と認めてくれた様な気がしたのだ。

アリシアのクローンではなく、自分のもう一人の娘として、フェイト・テスタロッサとして
自分の事を、娘として受け入れてくれた様な気がしたのだ。


だが、もう母はいない。

全ては、手遅れだった。



フェイトは考える。

自分は、今まで母の事を本当に何も知らなかったと
自分の中にある、過去の母だけを追い求めて……『今』の母を、決して見ようとしなかった事を


だから、フェイトは思う。
もしも、自分がもっと早く真実を知っていれば

母の事もアリシアの事も、もっと早く自分が知っていれば

自分がもっと早く、今の母と真実に向き合っていれば

母は、死なずに済んだのではないか?



「……っ……!」



その考えに至った瞬間、目頭が僅かに熱くなった。


「……フェイト、ちゃん?」

「……私の、せいだ……!」


涙交じりの声で呟く。

止まらなかった
一度決壊した感情の唸りを、フェイトはどうしても止める事が出来なかった。



「……私、が……もっと、もっと早く……気付いて、いれば……!
かあさ、ん、の…事も…ア、リシ…ア、の、事も、もっと…はや、く……きづっいて、むきあって、いれば……!!」



その感情を止められなかった
その涙を、後悔を、止められなかった。

結局、自分は最初から母の事を何も見ていなかったのだ。

結局自分は、自分に都合の良い記憶の中の母の姿だけを追い求め、今の母を見ようともしていなかったのだ。


「……ごめんな、さい…っ…!!……かあさ…!……ごめんな、さい……!」


だから、もしかしたら……違っていたのかもしれない

自分が今の母の事も、最初から見ていれば……違っていたかもしれない

自分がもっと早く真実に気付いていれば、母はあんな事をしなかったかもしれない

自分がもっと早く真実に気付いていれば、母は死ななかったかもしれない

自分がもっと早く母と分かり合えていれば、こんな事にはならなかったかもしれない


「……あ、あぁ……う、ぅ……うあ、あ……!!!」


だから、止められなかった。

遅れてやってきた、その後悔を
声も、涙も、感情も、その全てを、フェイトには止める事が出来なかった。



「……フェイトちゃんの、所為じゃないよ……」



その言葉と共に、空いていた片手に温もりが走った。
気がつけば、その手は隣にいる少女に握られていた。


「……私は、フェイトちゃんの事も、プレシアさんの事も、そんなには良く知らないけど
だけど、ね……これだけは言えるよ、フェイトちゃんは……何も悪くないよ」


そして、なのははそのままフェイトの体を引き寄せ、そして抱きしめた。
震えて涙を流すフェイトの体を、そっと抱きしめた。


「もう一度言うね、フェイトちゃんは……何も悪くないよ」


嘗て泣いている時に母にしてもらった様に、なのははゆっくり、そして静かに、諭す様に呟く。


「フェイトちゃんは悪くない、それはきっと私だけじゃなくて……皆そう思ってる
ユーノくんもクロノくんも、アルフさんもリニスさんも、フェイトちゃんのせいだなんて思ってないよ」


フェイトの所為じゃない
フェイトは、何も悪くない。

原因があるとすれば、それは悲しいすれ違いがあったからだ。

すれ違いが誤解を生んで、それが小さな罅を作って、そして小さな罅が少しずつ大きくなって…亀裂になってしまっただけなのだ。

今回の話は、恐らくそういう事なのだ。

だから、多分誰も悪くない

だから、フェイトは悪くない

だから、フェイトの所為なんかじゃない



「……だから、泣かないで。アルフさんも、リニスさんも、目が覚めた時にフェイトちゃんが泣いていたら
きっと悲しい気持ちになると思うから……だからフェイトちゃん、もう泣かないで」



なのはは、抱きしめ続けていた。

フェイトの涙が止まるまで、フェイトの悲しみが消えるまで
そのままずっと、なのははフェイトの体を抱きしめていた。









「……落ち着いた?」

「……うん……」


それから、どのくらい時間が流れただろう?
いつしかフェイトの涙も泣き声も止んだが、


「……え、えっと……」

「…………」


二人は互いに掛ける言葉はまだ見つかっておらず、どこか気まずい沈黙が続いていた。


「あはは……ごめんね、色々話したい事があったのに、何を話して良いのか分からなくなっちゃった……」

「……うん、そうだね、私も同じ……かな」

「……ねぇ、フェイトちゃん」


どこかぎこちなく、なのははフェイトに微笑んで
フェイトもそれに応える。


「な、何?」

「覚えてる? 私達が初めて会った時の事」

「……うん……」


その問いに、フェイトは答える。
自分も良く覚えている
その出会いを、決して穏便とは言えなかったその出会いを


「それからずっと私ね、フェイトちゃんにずっと伝えたい事があったんだ」

「え?」


なのはの言葉にフェイトは少し驚いた表情になり
そしてそんなフェイトの表情を見て、なのはもまた言葉を続ける。


「私ねフェイトちゃんと……色々な物を、色々な気持ちを分け合いたいって思ったんだ」

「…………」

「辛い思いも、悲しい思いも……」

「…………」

「楽しい思いも、嬉しい思いも……」


そして、意を決した様にして
それでいて柔らかく温かく微笑んで、なのははその言葉を言う。



「だから、友達に……なりたいんだ」



それは、ずっとフェイトに抱いていたなのはの気持ち
それは、フェイトに対してずっと抱いていたなのはの願いだった。


「……あ、う……ぁ」


差し伸べたなのはの手を、フェイトは少し困った様に、少し照れた様に
ジッと見つめて、なのはの顔を見つめて……


「……あ、あのね、私、アルフやリニス以外で友達とかそう言うの出来た事ないから……どうすればいいか分からなくって」


胸に手を当て、どうすればいいのか困惑しているフェイトに、なのはは優しく微笑んで


「簡単だよ、友達になる方法……すっごく簡単」

「?」


その言葉を聞いて、フェイトは少しだけ不思議そうな表情を浮べて


「名前を呼んで」

「名前?」

「うん、君とか貴方じゃなくて……その人の名前を呼んであげて、全部そこから始まっていくから……
ほら、前にフェイトちゃん……私の事を名前で呼んでくれたでしょ?」

「……あ」


それは、あのウルキオラの闘いの中
確かに、自分はこの娘の事を思わず名前で呼んだ事があった。


「………………」


フェイトは優しく微笑んでいるなのはの顔を見つめ……。


「……な、の……は」

「……うん……」


目の前の少女の名前を呼ぶ。


「なのは……」

「うん」


何度も、何度も。


「なのは」

「うん!」


互いの存在を確かめるように、二人はそんなやり取りを何度も続けて


「……寂しくても、悲しくても、名前を呼べばその気持ちを分けあえる、私はそう信じてる」

「…………」

「これからフェイトちゃんやアルフさんは、本局の方へ行っちゃうんだよね?」

「……うん、局員の人達にこれまでの事情をお話しなくちゃいけないし……
お母さんの弔いもしなくちゃいけないから……ほんの少しだけ、長い旅になる」

「また……会えるよね?」


心配そうに顔を覗き込むなのはに今度はフェイトが優しく微笑み。


「うん、それにね」

「?」

「寂しくなったら、また君の名前を呼ぶよ……なのは」

「……!」


その言葉を聞いて
フェイトがはっきりと呼んでくれた自分の名前を聞いて

なのはは抑えていた感情が少しずつ溢れ出してきて


「なのはの言ったとおり、友達が泣いていると自分も辛く、悲しくなるんだね……
でも、それがとても嬉しい」

「フェイトちゃん!」


涙を流しながら抱きつくなのははフェイトに抱きついて、フェイトも再び涙を流す。


「全部終わったら……また、なのはに逢いに行ってもいい?」

「うん……うん!」


二人は涙を流しながら、それでいて嬉しそうに微笑みあって、何度も頷く。
そして、フェイトから離れたなのはは自分の髪留めを外し、フェイトに差し出す。


「……それ、は?」

「思い出に出来るもの、これくらいしかないから……」

「じゃあ……私も」


そう言ってフェイトも髪留めを外して差し出し
互いの髪留めを交換する。

互いの想いが、いつでも、どこに居ても、通じ合えるように


二人は互いの髪留めをその手で握り、その想いをしっかりと抱きしめていた。

























「……此処、か」

幾つかの中継を挟んだ空間転移を繰り返して、ウルキオラはプレシアよりも一足先に今後の住居となる隠れ家に来ていた。

部屋の雰囲気は、時の庭園と違ってかなり明るい雰囲気だ
そしてその部屋にも、多くの研究用機材が設置されている。

決戦の前に、プレシアは粗方の装置や機材をここに運び出しておいたのだ。


そして、ウルキオラは部屋の内装を眺めながら足を進める
ドアを開いて、その部屋から出て、少し歩みを進めた所で



「ウルキオラー! おかえりなさーい!!」



廊下の角から、その小さな影は飛び出して


「…………」


その金色の小さな影は、そのままウルキオラにダイブする様に飛び掛って


ウルキオラは、ひょいとソレを避けた。



「ひでぶぁ!!!」



そのままドシンと
そしてアリシアは壁に顔面から突き刺さり、ズズズと、床に落ちた。

そしてその一部始終を、ウルキオラは見て



……妙に久しいな、この光景……



等と考えていた。


「……ううぅ、ひどいんだよ!ウルキオラはキチクゲドウなんだよ!!」

「……今更お前は何を言っている?」


アリシアは赤くなった鼻を擦って、ウルキオラに恨みがましい視線を送るが
ウルキオラはソレを軽く受け流している。

しかし、アリシアはそんなウルキオラに更に詰め寄る様に近づいて


「わたしは大いにご立腹なんだよ! なのでウルキオラ!今すぐわたしを楽しくさせる事を要求するんだよ!!」

「鏡でも見ていろ」

「失礼過ぎるんだよ!!!」


ムッキーっと、頭から湯気が出ているのではないかと思う程にアリシアは顔を赤くしてウルキオラにそう詰め寄って


「今日の私は凄く退屈だったんだよ! 凄く寂しかったんだよ!」

「安心しろ、俺は退屈でも寂しくもなかった」

「安心の要素が皆無だよ!!」


更に顔をケチャップの様に赤くさせて、アリシアはその顔に憤怒の色を浮かび上がらせて


「大体ウルキオラはいつも冷たいんだよ! いつもわたしに意地悪するし!折角上げた腕輪だってしてくれないし! もしかしてもう失くしたとかそういうオチ!?」

「……失くしてはいない」

「じゃあ着けてくれても良いじゃない!」


そのアリシアの言葉を聞いて、ウルキオラは少しだけ考える様な素振りを見せた後に
『ソレ』を、服の中から取り出した。

罅割れたビーズと、千切れた紐



「……ウルキオラ、もしかしてこの見覚えのあるビーズと紐は……」

「失くしてはいない、壊れただけだ」



そのウルキオラの言葉を聞いて、アリシアの頭は急激に熱くなった。

一生懸命作った、ウルキオラの為に心を篭めて作った自分のプレゼントの無残な姿を見て
まるで脳が沸騰しているかの様に熱くなって、その頭の中に怒りを覚えたのだ。


――ヒドイ!――

―― 一生懸命作ったのに!!――

――ウルキオラのバカ!!――


と、感情的に怒りをぶち撒けようとした所で、アリシアは気付いた。



………………

……何で……

……ウルキオラは、壊れた腕輪を今も持っていたんだろ?……



それは、言葉よりも先に抱いたアリシアの疑問

ウルキオラは言った。


――ジャジャジャーン! これなーんだ!――

――ゴミ――


ウルキオラは、自分の腕輪をゴミと言った。


――要らん、必要ない――

――要らん物は要らん――


自分が作った腕輪を、要らない物と斬り捨てて、受け取ろうとしなかった。

だから、自分はソレを半ば強引にウルキオラに受け取らせたのだ
ウルキオラが要らないと渋っていたのを、自分が少し強引に手渡したのだ。


だから、アリシアは思った
ウルキオラを良く知るアリシアだからこそ、その疑問を抱いた。

ビーズと言うのは、一度結んだ紐が切れると結構派手に散らばる物だ
そして、コレを拾い集めるのは結構骨が折れるものなのだ。

腕輪の紐が切れているという事は、何かの拍子で切れてしまって、ビーズが散らばってしまったんだろう。


そして、今もウルキオラはソレを持っている。

つまり、それは――



……拾い、集めてくれた?……



それしか、考えられなかった。

何かの拍子で壊れた腕輪のビーズを、ウルキオラは態々拾い集めてくれたんだ。

自分でゴミと言った物を

自分で要らないと言った物を

ウルキオラは、態々拾い集めてくれたんだ。



そして、またその疑問が生まれた。



……どうして、ウルキオラは態々拾い集めてくれたんだろう?……



ウルキオラの性格上、壊れた『ゴミ』、壊れた『要らない物』をこうして態々拾い集めるのは考え難い。

そしてその疑問を抱き、その直後思い出した。



―― 一生懸命作ったんだから、大事にしてねウルキオラ!!――



「……ぁ……」



それは、自分はその腕輪を渡す時に言った言葉

だから、分かった
その答えに、辿り着いた。



……もしかして……


……本当に、大事にしてくれてた?……



まさか
そんな事は有り得ない

と、アリシアは僅かに思ったが


……ビーズに、罅が入ってる……


今更ながらに気付いた、そのビーズのどれもが罅割れて、形も少し欠けていた。

多分、予期せぬ事が原因でこの腕輪は壊れたのだ
ウルキオラにも予想が出来ない事が起きて、この腕輪は壊れてしまったのだ。



「……むぅー……」



アリシアは、思わず唸った。
胸の中にあった怒りは、その矛先を向ける相手を失ってしまったのだ。

それに、怒り以上に胸の中には嬉しさがあった
怒りと嬉しさと相反する感情が入り混じって、気持ちが上手く表現できなくなってしまったのだ。



「どうした? 珍妙な顔が珍妙な表情をしているぞ」

「やっぱりウルキオラはウルキオラなんだよ!!」



怒髪天を突く

その何時もと変わらぬウルキオラの言葉に、アリシアは思わず叫んだ。
そして忘れかけていた感情が再び蘇り、アリシアは提言した。



「もはやわたしの慈悲の心は品切れなんだよ! ウルキオラに誠意ある謝罪を要求するんだよ!」

「……謝罪?」

「この溢れんばかりの怒りをぶつけられたくなければ、わたしの頭を優しくなでなでする事を要求するんだよ!」



その要求を、アリシアはウルキオラに突きつける。


「…………」


その言葉を聞いて、ウルキオラは僅かに目を細めてアリシアを見る。
勿論、アリシアもウルキオラがこんな要求を飲む事なんて有り得ないと思っている。


だから、要求を拒否した瞬間ウルキオラに再び飛び掛ろうと思っていた。
いつものやり取りをする様に、自分が飛び掛って、ウルキオラがそれを迎撃して、自分は逆にやり込められて

そんな風に、いつものやり取りをウルキオラが嫌というまで、嫌と言っても自分の気が済むまで続けてやろうと

ずっと一人で留守番していたこの鬱憤を、ずっとウルキオラに構って貰って解消しようと思っていたのだ。


だから










「………………………………え?」










クシャリ、と

自分の頭の上にある

自分の髪の上にある

その感触が信じられなかった。

自分の頭をそっと撫でて、自分の髪を軽く梳く様なその感触を、アリシアは一瞬信じられなかった。


「……う、ウルキオラ?」


頭の上にある掌は、目の前の人物の掌だった。

その掌は、ウルキオラの掌だった
今、自分の頭を撫でているのは……間違いなく、ウルキオラだった。



「……これで、良いか……?」



尋ねるように、ウルキオラは呟き
アリシアは、応えられなかった。

その余りにも予想外な事態に、その余りにも予想外なウルキオラの行動に、完全に茫然自失していた。

そのまま無言のアリシアを見て、ウルキオラはこれで満足したと判断して手を離し
その瞬間、アリシアは我に返り


そして



「も、ももも! もう一回! もう一回要求するんだよ!!」

「やらん」



アリシアは慌てた様にウルキオラに言うが、それをウルキオラは間髪入れず切り捨てる



……本当に、俺は何をやっている?……



そんな風に、先の自分の行動を思い返しながら
ウルキオラはそのまま歩みを進めて、アリシアはソレを追いかけた。

そして



「撫でるのがダメなら抱っこを要求するんだよ! 寧ろ抱っこの方が良いかも!出来ればお姫様抱っこが良いんだよ!」

「寝言は寝て言え」

「至って真面目なんだよ!」



そんな声を聞きながら

自分の後ろをトコトコとついてくるアリシアを見ながら



……全く……


……本当に、鬱陶しいヤツだ……



その掌に少しだけ残る温もりを感じながら

ウルキオラは、この騒がしい「日常」が戻ってきた事を実感していた。













「……ふー、事後処理も楽じゃないわね」


少し疲れた様に、プレシアは呟いた
今プレシアが居るのは、ウルキオラ達が居る隠れ家ではない。

時の庭園の設備を搬送した、別の隠れ家だ。

自身のデバイスも取り戻し、魔力コーティングの密度も上げて物理干渉も行える様になり、プレシアは先の件の事後処理を行っていた。

本当は自分も直ぐにアリシアの元に行きたかったが、こればかりはどうしようもない。

時の庭園を自爆させたとは言え、幾つかの不安要素はある。
その処理と、後はここにある幾つかの機材と装置を次の隠れ家でも使用可能の状態にしなければならない。


それに加えて、自分は霊体の状態だ。

まだ霊体の状態には慣れていない上に、今自分が行っている擬似死神化もまだまだ改善する必要がある代物だ
肉体的な疲労は微小だが、その分精神的な疲労は大きい。

こういう地味な作業による疲労は、今までの数倍以上にも感じられた。



「……でも、コレで少しはアリシアに『人間らしい』幸せは与えられるわね……」



噛み締める様に、プレシアは呟く
まだまだ改善点が必要だが、自分は確実にその望みに近づいている。

コレをもっと煮詰めていけば、アリシアにもっと『人間らしい』生活と幸せを与える事が出来るだろう。



「……本当、大したものね……」



プレシアは、その蒼い宝玉に目をやる。
蒼く輝く六個の宝玉・願いを叶えるロストロギア・ジュエルシード

六個のジュエルシードを手放したのは痛かったが、コレだけ手元に残せれば十分だろう
管理局に渡したジュエルシードからも、既に十分な魔力を頂いている。


「……ま、これだけ手元に残せれば上等ね」


自分に言い聞かせる様に呟く。

自分がこの短期間でここまで研究を進める事が出来たのは、一重にジュエルシードの力があったからだ。

ジュエルシードの『願望に最適な魔力』を生み出す力があったからこそ
プレシアは本来行う筈だった、膨大な手間暇を一気に省略する事ができ、短期間でここまで自分の研究を形に出来たのだ。



「……必要に応じて、またロストロギアを手に入れる必要があるかもしれないわね」



今回プレシアが解った事の一つ、それはロストロギアの力だ。

やはり、自分が思い描く形でアリシアに「人間」の幸せを与えるには、自分の技術とジュエルシードの力だけではまだ力不足かもしれない。

今自分が行っている擬似死神化も、ジュエルシードの力による存在が大きいのだ。



「……やっぱり、コチラも探してみた方が良いかしらね?」



プレシアは作業の手を一旦止めて、新たにモニターを展開させる。

そこにあるのは、嘗て自分が集めたデータバンク
あらゆる次元世界に存在するロストロギア、レアスキルの情報が詰まったデータ集だ。


そして、プレシアはその中にある物で一つジュエルシードと同じ程に興味を抱いた物があった。


それは、とあるロストロギア

ありとあらゆる魔導技術を蒐集し、取り込む事が出来るロストロギア

そしてその強大過ぎる力は、自身の主すらも破滅に追いやると言われるロストロギア








「――ロストロギア・『夜天の書』――」






















END









To be continued →Next stage 「A’s」















あとがき
 どうも作者です、更新が遅れてすいませんでした! 先週は急な用事で忙しく更新が出来なかったんです!
ある程度は話は書き溜めてあったんですが、このペースだと次はいつ更新できるのか判らなかったので、一気に完結まで書き溜めてから投稿しようと思い、今まで掛かってしまいました!
長い間待たせてしまって、本当に申し訳ありませんでした!


さて、今話を持って無印編は完結です
作者的には結構前からこの終わりの形を決めて書いていました。しかし、今自分が書いたこの作品を見直すと……まあーテンポが悪い

本来は二十話ちょっと終わらす予定だったのに、今まで掛かってしまいました。
次回からは、もう少しテンポ良く進めていきたいと思っております


さて、本編の話ですが……今回は終番・壱と比べるとかなり不完全燃焼な終わり方です
なまじ終番・壱が完全燃焼な終わり方だったので、やはり差別化を測りたいと思ったので、今回の様な仕上がりになりました

ちなみに管理局勢に関してですが、「今」の所は死人はまだ出ておりません。
……これ以上書くと次回以降のネタバレになりそうなので少し自重します


後はウルキオラとアリシアの久しぶりの絡みですが、やはりこの二人のやり取りを描くのは作者的には楽しいです
アリシアはこの作品の中でトップクラスに動かし易いキャラクターなので、これからも活躍させて行きたいと思っております


さて、次回からはA’s編!……と、行きたい所なんですが、実はまだA’s編のプロットが全部出来ていません
ですので、プロットが完成したらA's編の投稿を始めたいと思っておりますので、
読者の皆さんにはもう少し待って貰う事になります。本当に申し訳ありません。


それでは、最後に一言
自分の描いた作品をここまで読んでくれた皆様、本当にありがとうございます!

これからも「リリカルホロウ!」の応援、よろしくお願いします!






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