<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[17010] 第弐拾参番
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:4ac72a85 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/09 21:30

それは、あまりにも唐突な出来事だった。


「……が!おっ!! ごぼ!ご!お!!」


ビチャビチャとそんな不快な耳障りな音と共に
苦痛に顔を歪めて、その苦痛に耐え切れない様な呻き声を上げながら

魔女は、その赤い塊を口から吐き続けていた。


「ごぶ!! げ、ぇ、ぁ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


魔女が咄嗟に片手で口元を押さえるが、それは止まらない。

ビチャリ、ビシャリと
更に巨大な赤い塊を口から吐き出して床に赤い水溜りを作って、魔女はその黒衣の衣装を赤く染め上げながら
とうとうその膝は折れて、片手で口を覆いながら、杖で体を支えながら、魔女はその場に蹲った。


「母さん!!!」


そのあまりにも唐突で異常な事態を目撃して、フェイトは咄嗟に吐血した母の元に駆け寄ろうとした

だが


「ぢがづぐな”あ”あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


返事は紫電だった
プレシアは薙ぎ払う様に激烈の紫電を放って、フェイトと自分の間に紫電の壁を作るが

次の瞬間、再び赤い塊を吐き出した。



「え、ぇ!ぅぇ、かはっ…!!……どうやら、燃料切れ…みたい、ね……」



プレシアは自分の胸元を見つめて、そう呟く
プレシアのその視線の先、そこにあるのは銀色のプレート

そしてそのプレートに埋め込まれていた蒼い宝玉は、もう光を失っていた。


「……母さん、まさか……貴方は!」


そんな母の姿を見て、フェイトはようやくその答えに気づいた

そしてプレシアは口元を歪めて、自嘲的に微笑んで


「……ふ、ふふ……嗤える、でしょ? あれだけの大見得を切っておきながら、この私もこのザマよ……」


そのプレシアの容態をクロノは観察して、そしてリニスからの情報を改めて思い出して
クロノはプレシアにそれを提言する。


「プレシア・テスタロッサ……悪い事は言わない。今すぐこちらに投降するんだ
貴方が罪を認めて此方にジュエルシードを明け渡して投降するのなら、アースラの医療設備と時空管理本局の医療技術を持って
貴方の病を治療する事を約束しよう」

「……さっきも言ったでしょう、寝言は寝て言いなさい」


だが、プレシアは応じない。
顔を、体を、自らの鮮血で染め上げながら、尚もその申し出には応じない

そして次の瞬間、プレシアは咽るように咳き込んだ。


「母さん! お願いです、もう止めてください!!!」

「貴方は自分の状況を解っているのか!!? そんな病の身で、それだけのロストロギアをコントロールしながら戦闘をする!!!
それがどれだけ貴方の体に負担を掛けて、どれ程貴方の命を縮めているのか理解できないのか!!!?」


クロノが叫ぶようにしてプレシアに言う
数秒の咳を続けて、容態が落ち着いたのかプレシアは呼吸を荒くしながらも目の前の五人をギラリと睨みつけて



「理解しているわよ。自分の体の事よ、私が一番理解しているわ」



そしてプレシアは、胸元の銀色のプレートからその蒼い宝玉を取り外して



「ジュエルシードも、こうなってしまえば唯のガラクタね」



そう言ってプレシアはその蒼い宝玉を指で弾いて、魔力弾でソレを跡形も無く破壊した。


「……ジュエルシードの力を利用して、今まで病の進行を抑えていたのか?」

「正解よ。何分性質の悪い病でね……見せた医者には軒並み不治の病と宣告されたわ」


クロノの問いに対して、プレシアは淀みなく答える。
もう隠す必要は無くなったのだろう、特に言い淀む様な事はしなかった。



「……お願いです、母さん……もう、止めて下さい……」



そして、そんな声がプレシアの耳に響いた。

プレシアが視線を移すとそこには金髪の少女が、フェイト・テスタロッサが涙を流していた
その赤い瞳から、ポロポロと大粒の涙を流しながら、涙交じりの声でそう呟いた。



「……このままじゃあ、母さんは、っぅ、本当に、死んでしまいます…っ…だから、もう止めて下さい……
わたし、は……ぅっ、かあさん、が、死んじゃう、のは、っぅ、イヤで、す……っ」



嗚咽で声を途切れさせながらも、フェイトは大粒の涙を流しながら母に懇願した。

フェイトは理解したからだ
このままでは、本当に母は死んでしまうという事を、理解してしまったからだ。


母が、死ぬ


その言葉の意味を理解したその瞬間、気がつけばフェイトは涙を流していた。

自分でも止められなかった
あの時、母の真実を知った時以上の痛みが、苦しみが、自分の心を引き裂こうとした。


だから、懇願した
必死の想いで声を絞り上げて、決死の想いで母に懇願した。

もう、恐怖も恥も無かった。

母に死んで欲しくない、母が行っている自殺にも等しい行為を止めて欲しい

もはや、フェイトの頭の中にはソレしか考えられなかった。


「…………」


プレシアは何も言わない。

クロノ達も迂闊に近寄れない
この空間は、未だにプレシアが支配しているからだ。

無闇やたらに近寄ればその瞬間、先刻以上の攻撃が自分達を襲う事になるからだ。


「十一個のジュエルシードは、既に暴走状態に入っている故に治療には使えない。
仮に使えたとしても……あんな暴走状態の魔力を体に流し込んだら、それだけでお陀仏ね……ぐぶっ!!!」


そして、プレシアは再び吐血する
床にビチャビチャと赤い水溜りを形成して、プレシアは再び口元を拭って


「……次元断層まで、短く見積もってあと三十分……確かに、このままじゃあ次元断層が起こる前に私が死ぬわね……」


その言葉を聞いて、フェイトは僅かに安堵した。

これで母も止まってくれるんじゃないか
自分の命を粗末に蔑ろに扱うような真似はもう止めてくれるんじゃないか

そう心の中で思ったからだ。




「だから、予定を早める事にしたわ」




だが






「次元断層は、今すぐ起こす事にしたわ」







魔女は、止まらない

その手に持った杖を、蒼く輝き鳴動するその宝玉に向ける


そして、一つの蒼い宝玉は砕け散った。












第弐拾参番「最終決戦・絶望への序曲」












蒼い世界

それが先ず五人が最初に抱いた感想だった

蒼い波動は激流の様な魔力をそこに止め処も無く放出し、蒼い閃光は太陽の様な恒久的な輝きをそこに放っていた。


それは暴風にも見えたし、竜巻にも見えた

それは閃光にも見えたし、烈火にも見えた

それは水にも見えたし、炎にも見えた

それは命にも見えたし、死にも見えた


そしてそれは希望の光にも見えたし、絶望の輝きにも見えた



そこにある『ソレ』は、五人の理解を遥か超越していた。



「……流石は一級品のロストロギア、一個『暴発』させただけでここまでの力を発揮するなんてね……」



感心した様にプレシアが呟き
その言葉を聞いてクロノは呆然としていた意識を取り戻して、すぐに現状を理解して叫んだ。


「止めろ!!! ソレを今すぐ止めるんだ!!!」


手元に魔力を測定できる計測器の類はない

だが、クロノは肌で理解した

クロノは直感と本能で理解した。


……マズイ……

……これは、危険だ……

……今すぐに止めないと、取り返しのつかない事態が起きる!!!……


「なのは! フェイト!! 直ぐに封印の用意を!!!」

「!!!……う、うん!!!」

「解った!!!」


クロノの声を聞いて二人は頷いて、杖をその蒼い何かへと向けるが



「邪魔を、するなああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



紫電の雷が、三人の目の前に降り注がれた

それは三人に当たりはしなかったが、その威力と破壊力は十分すぎる程伝わった。



「次は当てるわよ……ぐぶっ!!!」



そう言って、プレシアは再び口元を押さえる
指の間から赤い雫が溢れてポタポタと落ちるが、それでも魔女はそこに立っている。



「……まだ、足りないみたいね……」



そして、プレシアは更に二つ……その蒼い宝玉を破壊して

その蒼い『何か』は、爆発的に膨れ上がった。



「あは! あはは!!! あはははははははははははははははははははははははははははは!!!!!
素晴らしい!! 素晴らしい魔力だわ!!! 残念だったわねクロノ執務官!! ここまで巨大化した魔力はもはや私には止められない!!!
今この時! この瞬間をもって! 次元震を止める事は不可能となったわ!!!」



魔女は嗤う
己の絶対の勝利を確信して、その顔を愉悦に歪ませて宣言する。

そして、五人は悟ってしまう。

その言葉が事実である事を、自分達程度の魔力ではソレを止める事など到底不可能であるという事を


「まだ! まだ解らない!! まだ終わってない!!! 今すぐに封印をすれば……!!!」

「止めろなのはぁ!!! 下手に刺激を与えればアレはそのまま次元断層を起こす!!! だから止めるんだぁ!!!」


なのはの言葉を、クロノは即座に否定する。

もはや、先刻のソレとは状況が異なり過ぎている
今なのはが言った行いは、パンパンに膨れ上がった風船に針を突き刺すのと同じだ。


生半可な魔力では、アレはそのまま暴発する
かと言って、このままでは次元断層は起こる

つまり、早いか遅いかの違いしかないのだ。



「さて、それじゃあダメ押しをしておきましょう」

「「「「「!!!!?」」」」」



魔女は、まだ止まらない

いや、止まれない


それは、プレシア自身も言っていた事

人には、無限の可能性がある

故に、その僅かな可能性も握り潰すつもりなのだろう



次元断層という絶対の結果を



ここで

絶対に

確実に

引き起こすつもりなのだろう。



そして、自分の勝利を揺ぎ無いモノにするつもりなのだろう。


「クソオオォォ!!! こうなったらイチかバチかだ!!! なのは! フェイト!! ジュエルシードを封印する!!!」

「!!!……うん!!!」

「了解!!!」


このままでは、確実に次元断層は起こる
ならば、その僅かな可能性に賭けるしかない

しかし



「言ったでしょう? 次は当てるって」



その瞬間、頭上から雨の様な紫電の砲撃が降り注いだ。


「!!!?…プロテクション!!!」


クロノの言葉を聞いて、五人はそこにプロテクションを形成する。

五重の防御幕
それはプレシアの攻撃の一切を、完全に遮断する……筈だった。


「……ぐ!!」

「……なんて、出鱈目な……!!」


その防護に、罅が入る
豪雨と言っても差し支えの無い砲撃の雨が、絶えず五人の下に降り注がれる。

バキリ、メキリ、ミシリと
小さく、短く、だが確実に、その防御幕は砲撃の雨に削り取られていく。


それだけで、手一杯だった。


もしも五人の内の誰かがプロテクションを解いたら……
否、僅かにでも力を緩めたら、あっという間にこの雨はこの防御幕を喰らい尽くすだろう


だから、動けない

砲撃の雨は、五人を完全にその場に縫いとめていた



故に


もはや、魔女を止められる者はいない。




「これでフィナーレよ!!!
さあ、ジュエルシードよ!!! このプレシア・テスタロッサを! アルハザードへと導きなさい!!!」




魔女が宣言して、杖をその蒼い宝玉に向ける

ここで更に蒼い宝玉を破壊すれば、もはやそれは絶対の結果となる


筈だった。










『ええ……コレで終わりです、プレシア・テスタロッサ』










その蒼い鳴動は、突如鎮静した

閃光は淡光に、暴風は疾風に、ソレは目に見える勢いで静まっていった。


「……んな!!! どういう事よ!!!」


その現状を見て、プレシアは顔を歪める。

そして、更にジュエルシードを破壊する。

一個、二個、……だが、変わらない
破壊した瞬間、瞬時に蒼い魔力は膨れ上がったが……ソレだけだ。


次元震は、完全にその存在を掌握されていた。


「……今の声って、まさか……」

「かあさ、じゃなくてっ、艦長!!?」


なのはとクロノが驚いた様に声を上げる
突如自分達の下に届いた念話、その声の主はリンディだった。


『プレシア・テスタロッサ、もう終わりです。私が時の庭園内部にてディストーション・フィールドを形成している限りこれ以上次元震は拡大しません
そして六個のジュエルシードの魔力では、次元断層は起こせません』

「……ゴキブリがぁ!!! 次から次へと邪魔をして!!!」

『……更に教えて差し上げましょう。もう間もなく武装隊が時の庭園の駆動炉と動力炉を制圧するでしょう
……焦って判断を誤りましたね、プレシア・テスタロッサ。
貴方の敗因は結果に捉われすぎて、ジュエルシードを破壊するという軽率な判断をしてしまった事です』


もしも、プレシアが次元震の拡大の手段としてジュエルシードの破壊ではなく
動力炉と駆動炉を用いた手段を取っていれば、話はまだ違っていただろう。


いくらリンディが内部から次元震を抑えられると言っても、流石に十二個ものジュエルシードの魔力による次元震を
長時間抑えられる自信はリンディには無かったからだ。


ジュエルシードの破壊という、結果と速さのみに重きを置いた手段をプレシアが取ってくれたから
リンディはその隙間に突け込めたのだ。


だがこの隙間は、決して偶然のモノではない。

プレシアが戦闘という病の身ではあまりに負担が大きい行動をしてくれたから、プレシアの余裕はなくなった

そしてリーゼ姉妹とリニスが、命を賭けてクロノ達をプレシアの元に送ったから、プレシアは自身が闘わざるを得なかった


そう
この結果は、偶然の結果ではない

この結果は、必然であり当然だったのだ。



「ふざけるなあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



その轟音にも近い憤怒の叫びが、その場に響いた。


「なぜ!!! なぜなの!!!? なぜ貴方達は邪魔をするの!!! 私の目的はただ娘を生き返らせて上げたい!!!
もう一度アリシアと親子としての時間を取り戻したい!!! ただそれだけなのよ!!!」

「……貴方のその気持ちは否定しない。だが、その為に何億もの命を犠牲にするというのなら話は別だ!!!
それに、さっき貴方が言っていた事だ。奪われたくないのなら、奪わせない……要は、こういう事だ!!!」


プレシアの憤怒の言葉を、クロノが力強く否定する。

しかし、プレシアは止まらない。


「餓鬼が悟った様な口を利くなあぁ!!!? 二十六年! 二十六年よ!!? アリシアの蘇生を夢見て!
幾千もの挫折と絶望を繰り返して!!! 病に蝕まれながらも! 血を吐きながらも!
必死の想いで努力して決死の想いで研究して!!! やっと後一歩の所まで来たのよ!!!」


血痰を吐きながら、顔を憤怒で歪めながら、プレシアは呪う様に叫ぶ。



「どうして世界はこんなにも理不尽なの!!!? 私から最愛の娘を奪い! 私から時間を奪い!
それだけでは飽き足らず! 私が見つけた娘の蘇生方法すらも奪い!! 更には私から命すらも奪うというのかああぁ!!!」



ゴプリと

その叫びに呼応する様にプレシアは更に吐血した、そして咽る様に咳き込んだ。



「……あんまり、じゃない……!!!」



咳き込んだ後、プレシアはそんな風に呟いた。

もはや、その姿に覇気はなかった
もはや、その姿からは闘志は感じられなかった。


例えるのなら、抜け殻

先程までの魔女の風格は一切感じられない

押せば倒れる、吹けば飛ばされる。


もはや、彼女自身が悟っているのだろう
もうどうする事も出来ない事を、悟っているのだろう。


今のプレシアは、もはや魂が抜け落ちた様な虚ろな存在に見えた。



「……終わりだ、プレシア・テスタロッサ。貴方を時空管理局の法の下に、今から拘束する」



クロノがそう呟いて、ゆっくりとプレシアに近寄る

だが次の瞬間
そのレーザーの様な砲撃は、クロノの足元の床を撃ち抜いた。


「……!!!?」

「……二度も同じ事を言わせないで、近づくな……今の私でも、それなりの抵抗は出来るわよ……」


杖をクロノ達に向けながら、ユラリとプレシアは立ち上がる

そしてそんなプレシアを見て、クロノは尋ねた。


「……抵抗する気か? それとも逃げる気か?」

「ウルキオラを此処に呼ぶって手段もあるわね」


その言葉を聞いて、五人の背中には寒気が走った
確かに、あの死神を此処に呼び寄せれば形勢は逆転されるかもしれない。

それにプレシア自身にも決して油断はできない
次元断層こそは防げたが、戦闘にもなれば話は別だった。



「……でも、流石にソレでも……アリシアに会うのはもう厳しいかもね」



ポツリと、プレシアは呟く
その姿からは、とても此処に死神を呼び寄せて、更なる抵抗を行う様には見えなかった。


そして、今更ながらに五人は思った

そして、本当の意味で理解した


プレシアの目的は、次元断層を起こす事じゃない

自分達と戦い、勝利する事でもない


ただ、会いたいだけ

ただ、最愛の娘にもう一度会いたいだけ

ただ、それだけだったと言う事を



「……母さん……」



そしてそんな中
その少女が、一歩前に出た

魔女に向かって、娘がその一歩を踏み出したのだ。


「……何よ、フェイト……」

「母さん。私は、貴方に言いたい事があって此処に来ました」


その顔に、先程までの涙は無い。

その傷だらけの体で両の足でしっかりと地面に立ち
揺るがない光を瞳に宿して、フェイトは此処に来て初めてプレシアと対面した。



「……私は……アリシア・テスタロッサではありません」



そして、その気持ちを口にする。


「貴方にとっては、私はただの人形なのかもしれません……いいえ
アリシアの肉体になれなかった私は、もしかしたらソレ以下の存在なのかもしれません」


フェイトは、まだ母に何も言えていなかった
自分の気持ちを、自分の真実を、まだ何も言えていなかった

だから、決めた。


「それでも私は、フェイト・テスタロッサは……貴方に生み出して貰って、育てて貰った……」


だから、フェイトは決めたのだ。

自分の気持ちを口にして、自分の気持ちを母親に伝えて





「私は貴方の、プレシア・テスタロッサの娘です」





自分達のこれからを、始めようと決めたのだ。




「……ぷ、くくく……ふははははは!!!!」




そしてそんなフェイトの言葉を聞いて、プレシアは口元を歪めて嗤った。


「じゃあなに? 今更貴方を娘と思えと? 私の長年の悲願をその手で潰した貴方を、娘と思えと?」

「貴方が、ソレを望むのなら」


一通り嗤って、プレシアはフェイトに尋ねて
フェイトは迷う事無く、そう答えた

そして、その母の視線を真正面から受け止めて、更に言葉を続けた。



「貴方がソレを望むのなら、私は世界中の誰からも、どんな出来事からも、貴方を守ります」



それは、揺ぎ無い意思だった

それは、確かな意志を持った言葉だった。





「私が貴方の娘だからじゃない、貴方が私の母さんだからです」





だから、フェイトはその一歩を踏み出した

血にまみれた母に、その手を差し出した

まだ、やり直せる
自分達は、まだ取り戻せる

フェイトは、そう思っていたからだ。



「……よくそんなセリフが言えるわね? 私は貴方を殺そうとしたのよ?」



そんなフェイトの言葉を聞いて

それはフェイトの本心だと感じて、プレシアは尋ねた。


「でも、私はこうして生きています」


フェイトは答える。


「また殺そうとするかもしれないわよ?」

「でも殺そうとしないかもしれませんよ?」


そんなやり取りをして
プレシアは、そう言って疲れた様に溜息を吐いて


「……貴方って、実はかなりの馬鹿でしょ?」

「……かもしれません」


そんなプレシアの言葉を聞いて、フェイトは柔らかな笑みを浮べて






「だから私は、馬鹿で結構です」






その言葉を聞いて

プレシアの頭の中に、とある言葉が過ぎった。




――馬鹿で結構、阿呆で上等、変人狂人は褒め言葉よ――




それは、昨日のやり取り

ウルキオラとの会話で発した、自分の言葉



「……成る程、ね……」



プレシアは、ゆっくりと呟いた

その言葉を聞いて、プレシアは思った
その言葉を聞いて、プレシアは今更ながらに実感した


……確かに、フェイトはアリシアの偽者だ……

……確かに、フェイトは役立たずの出来損ないの人形だ……

……私の大嫌いな、アリシアのクローンだ……


フェイトは、アリシアの偽者

だからフェイトはアリシアじゃない



フェイトが似ているのは、アリシアじゃないからだ



アリシアじゃない癖に、自分と同じ事を言う

アリシアじゃない癖に、自分とどこか似ている



二十六年間、自分が決してアリシアの蘇生を諦めなかった様に

フェイトもまた、虐待を受けながらも自分に愛される事を決して諦めなかった



……ああ、なるほど……

……だから、私はフェイトが嫌いだったんだ……



……アリシアじゃなくて、私に似ていたから……

……変な所で、私とソックリだったから……



……私は……


……フェイトの事が……大嫌いだったんだ……



その事を、プレシアは心から実感して

そして、その口元は自然と緩んで


「……え?」


フェイトが、ソレを見て呟く
母のその顔を見て、呆然とした表情で呟く。




「……やっぱり、私は貴方の事が大嫌いよ……」




なぜなら、ソレは
フェイトが初めて見た

初めて、フェイトに向けられた


プレシアの

母の



初めての、『笑顔』だったからだ。





「……でもね、私はまだ諦めていないわ……」





ユラリと、魔女は動く


「まだ、方法は残されている」

「……何を、するつもりだ?」


クロノが杖を構えてプレシアに尋ねる
そしてそんなクロノに対して、再び口元を歪めて言う


「簡単な話よ。アリシアを生き返らせる手段は、『今』の私にはもう残されていない」


そして、魔女はその杖に囁く


「フォーム・チェンジ……アナザーフォーム『アランカル』」

『Yes sir』


その囁きを聞いて、魔女の杖はその形を変える

杖の宝玉の部分からは紫の魔力刃を形成して、それは一振りの太刀へとなる


「何をするつもりだ!?」

「貴方達には何も危害を加えないわ」


クロノの問いに、プレシアは間髪入れず即答する

そして、その杖を自分の胸元へと向けて




「人には無限の可能性がある。だから、此方からアリシアに会いに行く事にしたわ」




まるで詠う様に、プレシアはそう答えて


「!!!!? やめて母さん!!!!」

「プレシアさんダメええええええぇぇぇぇぇ!!!!」

「止めるんだ! プレシア・テスタロッサアアアアアアアァァァァァ!!!」


その呟きを聞いて、五人が弾けた様に飛び出すが間に合わない



「……アリシア……」



プレシアがそう呟いて、
プレシアと五人の間に、プロテクションは形成される



「……今、お母さんも『そっち』に行くわ……」



SSランクの防護
ソレを瞬時に撃ち破れるほど、五人に力は無く



「イヤああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 止めてぇ!!! やめて母さああああああぁぁぁぁん!!!!」



フェイトの涙交じりの、必死の懇願が響くが


「……じゃあね、フェイト……」


それでも、プレシアは止まらず



「最後の貴方との会話は、少しだけ楽しかったわ」



その魔力刃が、プレシアの胸を深く大きく貫いて



「かあさっ!!!!!」



魔女は、その口から大きな赤い塊を吐き出して



その体は床に崩れ落ち



そして、息を引き取った。













続く













あとがき
 何かもう、本格的に物語も終盤に入って来て思う所が多いです。多分あと数話程度で無印編は終わると思います。

さて本編の話ですが、原作を見てた時から思っていたんですが、フェイトって所々でプレシアに似ているんですよねー。
二十年以上アリシアの事を諦めなかったプレシア、虐待されて拒絶されても母親の愛情を求めたフェイト
二人共変な所で意思が強いと言うか頑固と言うか……まあここの部分も自分のなりの解釈で纏めてみたのですが、皆さん的にはどうだったでしょうか?

そして、なんだかんだでプレシアさんは最終決戦から脱落です
……勘の良い方は、今回の話で大凡の結末は分ってしまったかもしれませんね(汗)


次回は再びウルキオラ戦です。それでは次回に続きます。






前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024977922439575