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No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
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[17010] 第壱拾四番
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:4ac72a85 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/07 19:47





……ここは、何処だろう?……



彼女が先ず抱いた疑問はそれだった。

彼女は、とある草原に立っていた

足元には緑の草が生い茂って、頭上には青い空
僅かに視線を動かせばそこには果ての無い海が広がり、青い水面からは巨大な大樹がポツポツと突き出る様に生えていた



……私は、どうしてここにいるんだろう?……


……いや……


……私は、いつ、どうやってここに来たんだろう?……



彼女は、再び疑問に思う

ここが何処だかもそうだが、どうやってここに来たのか、その過程がスッポリと頭の中から消えていた
彼女がここまでの経緯と過程について考えていると



――やっと、ここまで来たか――



不意に、そんな声が頭に響き

一陣の風が吹いた。


……!!……


その突然の風に、彼女は一瞬目を閉じて

目の前に、その男が立っているのに気がついた
白い服を着た、白い肌の男がそこにいた。



――思いの外、時間が掛かったな……待ちくたびれたぞ――


……貴方は、誰ですか?……



彼女は、尋ねる

どこかで会った気がするが、思い出せない
その顔を知っている気がするが、思い出せない

そして彼女の問いを聞いて、その白い男はおかしそうに言う。



――何を言っている? 俺は俺だ――



答えになっていない、と……彼女は率直に思うが、



――俺は俺、お前はお前……そういう事だ――


……どういう意味ですか?……



目の前の男の言っている事は、今一要領を得ない

だが





――意味などない、俺はお前だ――





その瞬間、世界が倒れた




……!!!……




大地が壁になる

青空が奈落になる

彼女の体は支えを失い、その体はそこから落ちていく



……こ、これは!!……


――言っただろう? 俺はお前だ、俺はお前になる――



気がつけば、男は自分の目の前にいた

しかし、自分と違って男は落下などしていない


その男の背からは黒い翼が生えていて、空に立っていた



――この世界は終わる……そしてお前は消えて、俺がこの世界の王になる――



その男は、氷の様に冷たい緑の瞳で彼女を見る

彼女はその男の言っている意味が解からない

解からない、が……一つだけ、解かった事はある


このままでは、自分が消えるという事だ



……それは、困ります……



彼女は、呟く



――何故だ?―


……私は、まだ消える訳にはいかないから……



口に出して、改めて思い出す
自分の気持ちを、消える訳には行かない理由を、自分が守りたい者を思い出す

故に、彼女はここで消える訳にはいかない

故に彼女は、目の前の男に向かって叫ぶ。




……私は、まだ消える訳にはいかない!……


……あの娘を! あの娘達を救うまで!! 絶対に、消える訳にはいかない!!……




――そうか――




男は、再び彼女を見る

そして男は両掌を上げて、その掌からソレらが現れた。





――これが、俺の世界だ――





男の右手にあるのは、刀身のない刀

男の左手にあるのは、半分に割れた仮面




――タイムリミットは迫っている――


――さあ、この世界の王よ――


――俺の世界を、我が物にしてみせろ――













第壱拾四番「動き始めた存在」













「フェイトオォ!!!」


アルフは扉を蹴破って、玉座の間に飛び込む様に踏み入った

アルフは、胸騒ぎがしたからだ
アルフは、とてつもなく嫌な予感がしたからだ

アルフは、フェイトの使い魔である
そして主と使い魔の精神はリンクしており、感情や思考を共有できる

アルフが玉座の前にて待っていると、フェイトから溢れんばかりの感情が流れていた。



流れてきた感情は、溢れんばかりの幸福、幸せの絶頂

今までフェイトの使い魔をしてきて、こんな気持ちが流れ込んできたのは初めてだった


そしてフェイトと感情と気持ちを共有しながら、アルフも気付いた。



……ああ、そうか……


……やっと、やっと認められたんだねフェイト……



流れ込んで来るフェイトの感情を噛み締めながら、アルフはそう思った

あの鬼ババは心の底から気に入らないが、
フェイトの事を認めてくれたのならそれで良い、フェイトが幸せならそれでいい

アルフは自分の主の幸福に対して、素直に祝うつもりだった



突如、フェイトとの精神リンクが切れるまでは――



「……!!!……」



明らかに不自然、明らかな異常

激流とも言える程に流れ込んできたフェイトの感情が、ピタリと止まったのだ



『……フェイト!? フェイト! どうしたんだいフェイト!!』



試しに念話を飛ばすが、応答はない


次の瞬間
アルフの体に、得体の知れない恐怖が駆け巡った

まるで絶対零度の電撃が体中に流れた様な、そんな異常な悪寒



嫌な予感がした
不吉な予感がした

自分の中にある野生が、本能が、
自分の主に危険が迫っている事を、嘗て無い程に告げていた


気がつけば、アルフは駆け出した


そして思いっ切り、玉座の扉を蹴破った


アルフの眼に映るのは、プレシアに抱かかえられた自分の主

プレシアの腕の中で意識を無くしている、自分の主



「……ああ、誰かと思ったら」

「フェイトに、何をした!!」



面倒くさそうにアルフを見つめ、嫌悪感を隠し切れない様子でプレシアは言う

そして、アルフはそんなプレシアを真っ向から睨みつける。



「まったく、粗暴で野蛮……おまけに品性下劣。全く、頭が痛くなってくるわ」

「質問に答えろおおぉぉ!!! フェイトに何をした!! フェイトをどうするつもりだああぁ!!!」



力の限り思いっ切り叫んで、殺意すら滲み出る様な表情でアルフはプレシアを睨みつける

脳内に響く危険信号は、未だに鳴り止まない
寧ろ眠る様に体を動かさないフェイトと、それを抱えるプレシアを見つけた途端に信号は激しくなった

プレシアに抱えられるフェイトの姿は、アルフの瞳にはまるで悪魔に磔にされた生贄の祭壇の様に見えた。



「……ったく、ギャアギャア五月蝿いわね。まあ良いわ、面倒だけど答えて上げる
別にフェイトの体を如何こうするつもりはないわ」



軽く溜息を吐いて、プレシアはアルフを見る



「それに、私はもうフェイトの体を傷付ける気は無いわ。この子の体はこれからは大事にするし、傷一つ付けるつもりもない
今までとは決して違う……私は一人の母親として、フェイトの体をこれからは一生大事にして、守っていくつもりよ」



まるで、それが自分の使命だと言わんばかりの口調でプレシアは語る

アルフはその言葉を聞いて動揺し、

更に恐怖が跳ね上がった。


プレシアの言葉に、嘘は無い



アルフの中の野生の本能が、そう告げる
それと同時に、もう一つの本能が告げていた。



……プレシアの言葉に、嘘はない……

……だからこそ、止めろ……

……だからこそ! 今すぐに! プレシアを止めろ!!!……



頭の中では、既に轟音の様な危険信号が鳴っている

プレシアは嘘をついてない、それは本能と直感で理解した



だからこそ、アルフは危機を感じている
プレシアの言葉に嘘がないからこそ、アルフの本能は主に迫る危機を知らせている


僅かな違和感

それが、アルフに主の危機を教えている。



「話は終わり? それじゃあ、私はもう行くわ」



プレシアはアルフに背を向けて歩き出す

それと同時に、アルフは気付いた。




「……『体』はって、どういう意味だ?……」




その瞬間
プレシアの足は止まった。



「フェイトの『体』は大事にする、フェイトの『体』には傷一つつけない……フェイトの『体』はこれからは大切にして、一生大事に守る……」



それは、先ほどのプレシアの言葉の復唱だ

そして、プレシアの瞳はアルフを捕らえる

次の瞬間、再びアルフは叫んだ。



「どういう、意味だ……!!……どういう、意味だ!!! どういう意味だあああああぁぁぁ!!!!!答えやがれプレシアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!」



そのアルフの叫びを聞いて、プレシアは小さく溜息を吐いて



「どうやら、お喋りが過ぎた様ね」



その言葉を聞いて

アルフは直感で理解した、本能で理解した。


この女は、プレシアは、恐ろしい事を考えている

自分の出来の悪い頭では想像すら出来ない様な、そんな恐ろしい事を考えて……実行しようとしている!!

そしてフェイトはその犠牲になろうとしている、この女が考えている恐ろしい計画の犠牲になろうとしている!!

アルフはその事に気付き


紫の鎖で、体中を拘束された。



「……んな!!!」

「……全く、ココに来てこんなミスを犯すなんて私らしくない……それとも、流石の私も浮かれて口が軽くなっていたのかしら?……」

「ぐ! こんなバインド!!」



アルフはその鎖を力ずくで千切ろうとするが

次の瞬間



「が!! がぁっ!!! ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



鎖から紫電が発せられて、焼ける様な激痛がアルフの体中に走った



「全く、耳に障る声ね。コッチの『用件』が終わるまで、暫くそこで大人しくしてなさい」



そう言って、プレシアは再び歩みを進める

だが、アルフは止まらなかった。



「アンタっは!! アンタは!! フェイトの母親だろう!!! フェイトはアンタの娘なんだろう!!!
何でだよ!! 何でアンタはフェイトを認めないんだよ!!! あんな良い娘を!どうして拒絶するんだよおぉ!!!」



眼に涙を浮べて、全ての力と感情を声に込めて、己の全てをプレシアにぶつける

ここまでのやりとりで、アルフが解かったもう一つの事
それは、フェイトは依然プレシアに認められていないという事



「フェイトはなぁ!!! ずっと、ずっとアンタの為に頑張ってきたんだぞ!!! ずっとアンタに笑って欲しくて頑張ってきたんだぞ!!!
アンタに認めて貰いたくて! アンタに褒めて貰いたくて! その為にずっとずっと頑張って来たんだぞ!!!」



もう顔は涙で濡れていた、喉は痛み始めて声は僅かに掠れていた
それでも、アルフは力の限り叫ぶ。



「アンタには! アンタにはそれが解からないのかよ!! アンタの為に努力して! アンタのせいでボロボロになるまで頑張った娘を見て! 何も感じないのかよ!!!
自分が頑張れば、きっと母さんは笑ってくれる、きっと母さんは喜んでくれる……!!!
そう言ってアンタの無茶な要求に愚痴一つ零さず、弱音一つ零さないで今までアンタの為に頑張って来た娘を見ても、何も思わないのかよおおおおぉぉ!!!!」



アルフの全力の叫びが届いたのか
プレシアの足は止まった



「本当に五月蝿い獣……一つ、良い事を教えて上げるわ」



そしてプレシアは、アルフに視線を移して








「無駄な努力って言葉を、知っているかしら?」









その瞬間
アルフの中のナニかが、完全に切れた。









「テメエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェ!!!!!!!」









体中に走る激痛を完全に無視して、力のままに思いっ切り鎖を引き千切る

肉の焼ける不快な臭いと、皮と肉が僅かに裂けて体中から滲み出る血を振り撒きながら
鎖から己の体を解き放って、アルフは疾風の速度でプレシアに襲い掛かった。



……殺す!!!……


……殺す殺す殺す!!! 絶対に殺す!!!……


……コイツは!! コイツだけは!!! 絶対に今ここでぶち殺す!!!!……



もはやアルフの頭の中にはそれしかなかった

怒りと憎しみによって構築された、黒い殺意

本能のままに感情を爆発させて、主を救う為、そして目の前の魔女を確実に葬るためにその牙を剥いた



だが



「本当、獣って単純ね」

『lightning prison』



球状の紫電がアルフを飲み込み



「がっあぁ! あぐ!ぐは!! ぐあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



紫電の牢獄に幽閉されて、アルフの絶叫が響く

実体を持たない牢獄は、その内部の囚人をそのまま電撃で嬲り蹂躙する

牢獄とは、囚人の逃亡を阻止し幽閉する為のもの
その中でアルフがどれだけもがき、力のままに暴れても、決して壊れる事はない


そして数秒後
アルフは声すらも出なくなり、その体は音を立てて倒れ落ちた。



「ふぅ、あの娘がココにいないで良かった。あの娘にはちょっと刺激が強い光景だものね」



そしてプレシアは、パチリと指を鳴らす。



「暫く牢獄にでも入って、大人しくしていなさい」



今は殺す手間と時間すら惜しい、そんな口調でプレシアはアルフに言う。

次いでアルフの下に魔法陣が浮かび上がり、アルフはそこから姿を消す
空間転移だ



「さて、時間が惜しいわ……早く残りの準備を終わらせないとね」



最早、自分の邪魔をする者は存在しない

最早、自分を止められる者は存在しない

最早、自分の勝利を覆せる者は存在しない



黒い魔女は己の勝利を確信し、そこから姿を消した。
















あれからどれだけの時間が過ぎただろう?
彼女は、海の底深く沈んでいた

その五体には力がなく、ただ虚ろな存在へと成り果てていた。



……ダメ、だった……

……どうやっても、何をしても……あの人から剣も仮面も奪えなかった……



彼女は、全力を尽くした

崩れる世界の中で、僅かとすらも言えない程に少ない力を振り絞って、白い男に挑んだ


だが、それらは全て無駄だった


足で跳べば、あちらは翼で飛翔し

拳を出せば、相手の掌が炸裂し

脚を出せば、相手の爪先が突き刺さった



崩壊する世界の中で幾十幾百の攻防の繰り返し、あの白い男からあの男が“世界”と言った者を奪おうとした

だが、出来なかった
刀も仮面も、彼女は奪う事は出来なかった


だが、彼女は諦めなかった

それでも諦めずに、死力を振り絞った

しかし



――所詮は、この程度か――



落胆にも似た、男の呟き

次の瞬間、翠色の光が彼女の胸を貫いた。



――じゃあな、この世界の王よ――



咽喉下にポッカリと穴が開き、彼女は海に堕ちた

もう、限界だった

肉体的にも精神的にも、彼女は自分の限界を悟っていた

だが



……ま、だ……

……まだ、諦める訳にはいかない……



彼女は、まだ諦めない


大海にその身を沈めながらも、その五体に必死に力を込める。



……考えないと、あの人から“世界”を奪う方法を考えないと……



でなければ、それが出来ければ、自分は消滅する。



……あの人に勝てなくてもいい。あの仮面か、あの剣か、そのどちらかを手に入れれば私は私で居られる筈……



思い出すのは、あの男は自分の世界といった二つの物

刀身がない剣

半分に割れた仮面



……全く、思い返せばおかしな物です……


……あれが、自分の世界だなんて……



あの白い男の言葉を思い出す

あの剣も、あの仮面も、本来の形ではない

その半身を失った、言ってしまえば未完成な代物

そんな物が自分の世界と言ってしまえば、まるで自分の存在そのものが未完成という事と同じ意味





……ん? 未完成?……





そして、彼女はソレに気付く

そして、彼女は思い出す



――俺の世界を、我が物にしてみせろ――





……あの人は、一言も「奪え」とは言わなかった……





そして、更に思い出す



――俺はお前だ――



あの白い男の言葉を思い出す

そして気付く



……まさか……


……まさか、あの言葉の意味は……


……あの男が今まで言っていた言葉の、『本当の意味』は!!!……




点と点が線になり、その答えを導き出す

そして次の瞬間








――やっと、解かったか――








崩壊していた世界が本来の姿に還る

二人は、再び草原の上にいた



そして彼女の両手には、ソレらがあった。



……ええ、解かりました……貴方の言葉の、本当の意味が……



彼女の右手にあるのは、白銀の波紋の光を帯びた一振りの刀

彼女の左手にあるのは、一切の欠損が無い白い仮面



……貴方は私、それはつまり私と貴方は同じ……私と貴方は一つの存在という意味だから……


……つまり、私と貴方が一つの存在なら、貴方の世界は私の世界でもあるという意味だから……


……貴方が剣と仮面を半分しか持っていなかったのは、それはつまりもう半分は他ならぬ私自身が持っていたから……


……そして貴方の世界を我が物にしろというのは、私に先の三つの事に気付き……剣と仮面を完全な形にしろという意味だったから……



全ての意味に気付いた彼女は、男に自分の答えを告げる



……そして私がこの世界の王ならば、この世界の一部である貴方の所有物は、私の所有物でもあるという事だから……

……仮面も剣も……私は最初から、貴方から奪う必要なんてなかった。それらの事に気付くだけで良かったんです……



その答えを聞いて、白い男は頷いた。



――そうだ。だからその事に気付いたお前に、王に……俺はあの二つを献上……いや返上した――

――もっとも、愚鈍な王は少々時間が掛かったようだがな――


……それは仕方ないです。それに私だって混乱していたんですから……

……って言うか、ヒントがヒントになっていませんでしたし……



今までの男の回りくどい発言に対して、彼女が若干恨みがましい視線を男にぶつけるが



――当たり前だ。俺はそれなりに本気でお前を消すつもりだったからな――

――愚かな王に、臣下はついていかないものだろう?――



くくっと、男は僅かに口元を歪める、どうやらその言葉に嘘は無い
男はそれなりに本気で、彼女を消すつもりだったのだろう

そして、男は再び語る。



――だが、これでこの世界の王は再びお前となった――


――崩壊も止まった……どうやら、タイムリミットには間に合ったみたいだな――


――喜べ、今より俺の力は晴れてお前の物だ――



彼女は、男の言葉を聞いて再び頭を傾げた。



……え? 今から? どういう事ですか? 貴方は元々私の一部じゃ……


――俺は元々余所者だ。少し前に俺の『前の王』がここに俺を連れてきた――


――だが、この世界の王が余りにも愚鈍な様だったからな。一つ乗っ取ってやろうと思っただけだ――


――尤も、失敗に終わったがな――



そして、その白い男の体は消えていく

足元から粒子状の様になって、砂塵となって消えていく。



――じゃあな、王よ――


――仮面と刀、好きな方を使え。別に両方を使っても構わんぞ?――


――出来れば、の話だがな――



既に男の体はその胸元まで消えている

そしてその消えゆく男の姿を見て、彼女は尋ねた



……貴方は私の一部という話でしたが、貴方には名前ってあるんですか?……


――名前? ああ、もちろん――


……なら、最後に教えて下さい……



彼女の言葉を聞いて、男は僅かに考えて答える



――良いぞ。…………だ、これが俺の名だ――


……え? 今なんて?……



急に雑音が入った様に、その部分は彼女に聞こえなかった
その様子を見て、男は「ふむ」と僅かな間を置いて



――何だ、『まだ』聞けないか……それじゃあ、それは次までの課題だ――


――仮面と剣は大事に扱えよ、それは元々俺の物なんだからな――


――じゃあな、精々消えるなよ我が王よ――



男はそう言って、その姿は完全にその世界から消え去った。


















「……ぁ、あっ!……ぅ、ぐ……」



そこは地下の牢獄
薄暗い闇が支配するその冷たく不気味な空間


その冷たく硬い床に倒れ伏しながら、苦痛の声を上げる者がいた

フェイトの使い魔のアルフだ
主を救おうと、魔女に戦いを挑んだが……彼女は破れ、ここに幽閉された


「……ぐ! ぅ、ぅ……!!」


自分の腕で自分の体を抱いて、その顔は苦悶の表情となる

突き刺さる様な激痛、灼熱の苦痛
それらが彼女の体を蝕んで嬲って、その奥深くまで蹂躙していた



「……フェ、イ、トォ……」



ギリっと奥歯を咬みながら、主の名を呼ぶ

直ぐに、ここから脱出しなければ

今ならあの魔女も油断している筈、自分の邪魔をする障害を排除したと……油断している筈


ならば、これはある意味好機
直ぐにここから脱出して、主を救いに行かなければ!!


だが



「……がぅっ!!!……」



体に力を入れると、再び電撃にも似た激痛が体中に流れた

その痛み、苦痛、激痛
それは今のアルフにとって、あまりにも大き過ぎる強敵

その強敵は、まともに指を動かす事すらも許そうとしなかった



「……ち、く……しょう!! ちくしょう!!! ちくしょおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



涙が、止まらなかった
涙を、止められなかった


なんで、なんでフェイトを一人で行かせた!!

なんであの時、無理矢理にでもフェイトについて行かなかった!!!


遅れてやってくる後悔

そして主の危機を目の前にしながらも、何も出来なかった自分

主に危機が迫っている事にも関わらず、体をまともに動かせない自分



無力、どうしようもない程の無力

そして、次第に意識は遠くなる
体に力は入らず、頭すら持ち上げられなくなる


視界が狭く、閉ざされていく

光が闇に食われていく



……ダ、メだ……もう、いし……き、が……



もうアルフには、僅かな力も残されていなかった

既に意識は消えかかっていた


だが






――カツン――






「……?」




その時、遠くでそんな音が響いた

空耳か? アルフは霞み掛かった意識の中でそう思ったが





――カツン、カツン――コツン――





空耳、ではない
それは明らかな足音


誰かが、ゆっくりと自分に近づいて来ている

一定の速度でその音は続いて、どんどん自分に接近してくる



やがて、その音はアルフの眼と鼻の先にまで近づいていた


体中の力を振り絞って、アルフは僅かに顔を動かす。



「……ダ、レ?」



アルフの目に映るのは、黒い靴、その足首に掛かる白い裾

誰かが、自分の目の前に立っていた。





『アルフ、じっとしていて下さい』





頭上から、そんな声が響いた



……アレ?……


……この声、確か……どこかで……



続いて、アルフの体は淡く輝く



……何だろう、コレ……


……すごく暖かい……


……何だか、すごく安心する……



それは不思議な安らぎ、痛みも苦痛も優しく包み込むような陽の抱擁



『……アルフ、口を開けて……コレを飲んで下さい。体の恒状維持機能を活性化させて、傷を治す効果があります……』



口に入れられたその薬を、アルフは飲み込む
そして声の主はアルフの傷を消毒し、薬を塗り、包帯を巻いていく

普段なら怪しむところだが、この声の主は何故か信用できた。



『良いですかアルフ、良く聞いて下さい。貴方はこれから二時間、薬の副作用でまともに体を動かす事はできません
ですが安心して下さい、プレシアはまだフェイトに何もしていません。プレシアはその準備に、今から最低でも三時間……
いえ、慎重を重ねて……恐らく四時間以上は費やすでしょう』



その声が、アルフの耳に響く



『プレシアは過去に二度、大きな失敗をしています。それ故に準備には一切の抜かりも妥協もせず、念入りにその準備をする筈です
だから、まだ時間はあります……ですから、貴方はここで三時間……体を休めて下さい』



フェイトを助けたければ、先ずは体を癒せ
声の主は、アルフにそう言っていた。



『これを体の下に隠して下さい。このデバイスに、フェイトの幽閉場所と時の庭園のマスターコードを入力しておきました
この牢獄と部屋の鍵も、既に解除してあります。プレシアもすぐには気付かないでしょう』



声の主はそう言って、そのカード型のデバイスをアルフの体の下に潜り込ませる



『そして、今から約三時間後……プレシアからフェイトを取り返す、絶好の機会が訪れます
その時、貴方がフェイトを助け出して下さい……そして助け出したら、すぐにここから逃げて下さい』



やる事を全て終えたのか、声の主は牢獄から出る



『それでは、頼みましたよアルフ』



足音が僅かに遠ざかる
そして咄嗟にアルフは声を上げた



「……ま……待って……」

『何ですか?』



足音は止まる



「……あ、アンタは、一体……」

『…………』



その声の主は、僅かに考えて








『それじゃあ、それはアルフの宿題にしておきます』








その声は、どこか懐かしい響きを纏わせてそう答えた。















続く










あとがき
 今回ウルキオラもアリシアも全然出てねええええぇぇぇぇぇぇ!!!!

どうも作者です、最近は金欠気味なので軽くやれるバイトを探している最中です。
前回に引き続き、今回もそれなりに話が進みました。ここまで書いてくると、なんか段々と物語が終わりに収束していく事を実感しています

今回は、主に二キャラについてしか描かれていません
一人はアルフ、何かアルフに関しては原作とそれほど役は違っていません。ただ怪我酷くなって幽閉されただけです
ですが、次回も少しアルフには頑張って貰う予定です

さて、もう一人……これ、絶対に皆気付いてますよねー、隠す意味なんかないですよねー

だって、アレですもん。明らかなアレですもん……

今回、BLEACH原作でもあった内面世界について描かせてもらいました。原作の一護とは少々違った、感じです
こちらもそれなりにオリジナル色が強いので、人によってはそれなりに違和感があった方もいらっしゃるかもしれませんが
そこはスルーして貰えれば、作者的には非常に助かります


それでは次回、フェイト奪還戦に続きます




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