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No.16996の一覧
[0] ゼロのペルソナ使い[雪化粧](2015/05/08 17:18)
[1] プロローグ『平賀才人』[雪化粧](2015/05/08 17:25)
[2] 第一話「契約」[雪化粧](2015/05/08 17:25)
[3] 第二話『ゼロのルイズ』[雪化粧](2015/05/08 17:25)
[4] 第三話『ゼロの使い魔』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[5] 第四話『ペルソナ』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[6] 第五話『コミュニティ』 [雪化粧](2015/05/08 17:26)
[7] 第六話『大人の憂鬱』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[8] 第七話『オールド・オスマン』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[9] 第八話『土くれ』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[10] 第九話『ヴァリヤーグ』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[11] 第十話『主従』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[12] 第十一話『オリヴィエ』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[13] 第十二話『運命』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[14] 第十三話『ボーイ・ミーツ・ボーイ』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[15] 第十四話『フリッグの舞踏会』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[16] 第十五話『閃光と魔剣』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[17] 第十六話『二人のお姫さま』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[18] 第十七話『アンリエッタの頼み』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[19] 第十八話「暗転」[雪化粧](2015/05/08 17:25)
[20] 第十九話「新たなる力」[雪化粧](2015/05/08 17:25)
[28] 第二十話「暗雲」[雪化粧](2015/05/12 05:02)
[29] 第二十一話「伏魔」[雪化粧](2015/05/15 04:50)
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[16996] 第八話『土くれ』
Name: 雪化粧◆cb6314d6 ID:a3eb6a18 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/05/08 17:26
 部屋に戻ると違和感を覚えた。前に入った時には無かった物がある。大きなソファーだ。その上には大き目の枕に使えそうなクッションが乗っている。

「それがあんたの寝床よ。さすがに、ベッドを二つも置くスペースは無いからね、我慢なさい」

 ソファーはかなり大きくて、眠るのに全く問題無い大きさだった。触ってみると、硬すぎず、柔らか過ぎない滑らかな肌触りの高級そうなソファーだった。

「ルイズが買ってくれたのか?」
「本当は藁で寝かせようと思ってたんだけど、その……、あの怪物から護ってくれたじゃない? だから……」

 ルイズは頬を赤く染めながら顔を逸らして言った。素直じゃないな、俺はそう思いながらも嬉しく思った。こんなに大きなソファーだ。安いとは思えない。それを俺の為に買ってくれたのだ。

「ありがとう、ルイズ。正直、どこで寝るのか不安だったんだ」
「そ、そう……。まあ、ちゃんとお仕事をしたんだから、ご褒美よ」

 ルイズの部屋は一番奥に天蓋付きのベッドがあり、中央に大きな円形のテーブルがあって、その上にはランプが乗っている。
 入口から見て、右の壁には大きな洋服箪笥や鏡台なんかが置かれている。左の壁にも暖炉があって、その奥に俺の寝床となるソファーは置かれていた。
 荷物の入った紙袋をソファーの裏の狭いスペースに置いて、俺は剣をソファーの横に立て掛けた。

「それにしても、オールド・オスマンにあんな態度を取るなんて!」

 ルイズは途端に腰に手を据えて眦を吊り上げて叱ってきた。
 俺は小さくなって俯いた。一応、反省はしているんだ。

「悪かったよ。本当に反省してるんだ。剣を持った途端に何だか気分が高揚しちゃってさ……」
「剣を持った途端に? そう言えば、あんた、結構軽々と剣を振ってたわよね?」

 ルイズは俺がソファーの隣に立て掛けていたオールド・オスマンから貰った剣を持った。
 少し持ち上げただけでルイズは直ぐに剣を置き直した。

「重ッ――! あんた、こんなに重い物をあんなに軽々振り回してたの!?」

 ルイズは剣を降ろして、肩で息をしながら言った。
 俺はルイズの反応に目を丸くした。

「重いのか? 俺には羽みたいに軽く感じたんだけど……」
「あんたって、意外と力持ちなのね」

 俺はそんなに重かったのか、ともう一度剣を持ち上げてみた。やっぱり、羽の様に軽く感じる。

「明日から、ちょっと練習してみるかな」
「そろそろ夜も遅いし、寝る支度をしないといけないわね」

 そう言うと、ルイズは俺の前で両手を広げた。何をしてるんだろう、人類は十進法を採用しましたってか? 人気のゲームのキャラクターの名前を思い浮かべながら首を傾げた。
 ルイズは困惑している俺に向かって盛大に溜息を吐いた。

「さっさと脱がせなさいよ」

 俺は凍り付いた。
 ルイズは何を言ってるんだろう、俺はギーシュがモテるのが羨ましいばかりに幻聴を聞いてしまったのだろうか……。

「早くしなさい」
「な、何をしろと……?」

 俺はあまりの事に思わず聞き返した。

「だから、早く脱がせなさいよ」

 聞き間違いでは無かったらしい。どういう事だろう、色んな順番を飛び越してしまっている気がしてならない。
 昨今のエロゲーだって、ここまで唐突な展開は無いだろう。あるかもしれないけど……。
 俺はルイズが錯乱しているのではないかと思った。仮に本気で誘ってるとしても、手を出すには……勇気が足りない。

「お、落ち着けよ。いきなり脱がせって言われても……」
「はぁ? 訳わかんない事言ってないで、さっさと脱がせなさいよ。いつまで経っても寝れないじゃない!」

 訳が分からないのは俺の方だ。

「あんたねぇ、使い魔なんだからさっさと仕事しなさいよ!」
「仕事……?」

 何だか、微妙に話の内容がおかしい事に気が付いた。

「平民のあんたは知らないでしょうけど、貴族は下僕がいる時は自分で服を着替えたりしないのよ」

 そう言う事か、俺は勘違いしていたらしい、口に出さなくて良かった。
 それにしても、と俺はルイズを見た。ファーストキスをして、使い魔になってからの仕事と言えば、|美少女《ルイズ》の使用済みの下着や衣服を洗ったり、床をちょっと掃除したりしたくらいだ。
 それだけで素晴らしいご馳走を食べさせてもらえる。その上、今度は|美少女《ルイズ》の着せ替えという仕事。
 もう仕事というよりご褒美な気がする。実質、俺にとっての仕事っていうのは掃除をちょっとしただけだ。後は全部ご褒美としか思えない。

「そ、それじゃあ、脱がさせていただきます」

 俺はゴクリと唾を飲み込みながら、まずはルイズのマントの留め金を外してマントを脱がせた。丁寧に畳んで、俺のソファーに載せる。
 いよいよだ。俺は手に汗を握りながら恐々とルイズの胸元に手を伸ばした。
 真っ白で肌触りの良い滑らかな布のブラウスの一番上のボタンを外す。一つ目、完了。
 これは仕事だ、仕事なのだ、と俺は何度も言い聞かせながら、間違ってもルイズの胸を触らない様に一生懸命だった。
 ここでこの仕事を手放したくない。心からそう思った。何せ、失敗さえしなければ、生まれて初めて女の子を脱がせる事が出来るのだから。
 変態だと罵りたければ罵るがいい。童貞歴生まれてから現在進行形の俺は性欲旺盛な高校生男児なのだ。こんなチャンスを逃すわけにはいかない。
 二つ目、三つ目を開くと、現れたのは真っ白なルイズのキャミソールだ。ルイズの白くきめ細かい肌が目の前に広がっている。
 頭が沸騰した様にクラクラする。ブラウスを脱がし終えた俺は一休みする為にブラウスをノロノロと畳んだ。さあ、ここからだ。
 俺は再びゴクリと唾を飲み込んだ。ど、どうやって脱がせばいいんだろう……。
 俺はゆっくりとルイズのスカートのボタンを探り当てて外した。
 俺の心臓は飛び出しそうなほどに跳ね回っている。脚に力が入らない。いよいよ、未体験ゾーンへと突入するのだ。俺は覚悟を決めた。

「い、いくぞ……」
「え、ええ……」

 心なしか、ルイズも緊張している様な気がする。きっと気のせいだろう。やらせているのはルイズなのだから。
 余計な事は決して言わない。こんなチャンス、もう一生巡ってこないかもしれないのだから。
 グレーのプリーツスカートをゆっくりと下ろしていく。ソコニハ、コノヨノリソウキョウガヒロガッテイタ……。
 俺の意識があったのはここまでだった。ここから先に進むには、女の子の神秘へと突入する為の勇気と、欲情のあまり襲い掛からない様にする為の自制心という名の根気と、全てを包み込むかの如き寛容さと、服を脱がすのに手間取らない為の知識と、途中でルイズに嫌がられない様に誘導出来る伝達力が必要だ。
 今の俺にはこの先に進む事は出来なかった……。

「ちょ、どうしたの、サイト!? も、もしかして、疲れが溜まってたのかしら……。うう、きょ、今日だけは大目に見てあげる事にするわ」

 勇気と根気と寛容さと知識と伝達力が少しずつ上がった気がした――――……。

ゼロのペルソナ使い 第八話『土くれ』

 本塔は六階建てで、頑強な壁が聳えている。宝物庫の扉を開けるのは不可能だ。とすれば、後は物理衝撃以外に方法は無い。
 30メイルのゴーレムを作り出したとしても、この壁を破壊出来るかどうかは微妙な所だ。ナニカ、この壁を破壊する為の手段が必要だ。明日は虚無の曜日。王都トリスタニアに出向いてナニカ方法が無いか模索してみよう。
 私は本塔の壁から目を離し、仕事に戻った――。

 翌日、私はトリステイン王国が王都トリスタニアに脚を運んだ。道幅5メイルの街一番の大通りであるブルドンネ街をブラついていた。
 武器でも使ってみようか、私はそんな馬鹿な考えを思いついて、思いついたまま、ピエモンの秘薬屋の前を通り過ぎて、武器屋を覗いてみた。
 予想以上の品揃えに吃驚。長剣、短剣、特殊刀、槍、槌、斧、弓、銃、盾、その他色々……。
 槌で壁を叩いてみようか……、阿呆らしい、そんな事で壊せるんだったらゴーレムの力で事足りる。
 私は武器屋を後にした。大通りに戻ると、遠目にミス・ヴァリエールとその使い魔の姿が見えた。私は慌ててローブを目深に被って裏道に身を隠した。行動を起す前に不信に思われる様な事はしたくない。
 虚無の休日だから、街に出ていても問題があるわけではないが、念には念をだ。
 午前中、ずっと歩きとおしたが、上手い案は思いつかなかった。昼飯でも食べるか、と裏通りであるチクトンネ街の酒場に入った。“魅惑の妖精”亭という店だ。
 中に入ると、年端もいかない平民の少女達が働いていた。少女の一人に席に案内され、私は適当に注文した。
 食べてみると、マルトーの料理には劣るものの、目を見張るほど美味しい料理だった。私は食べながら改めて壁を破壊する案を考え続けた。

「なかなか思い浮かばないねぇ……」
「ナニカ、お悩み事かい? 土くれのフーケ」

 私は思わず椅子を引っくり返しそうになった。声の主に眼を向けると、平々凡々な顔立ちの男が居た。

「あんたは誰だい?」
「私の事は気にするな。それよりも、何かお悩みだったのではないのかね?」
「見ず知らずのあんたに話す事じゃないさ」

 私は席を立って、男を睨み付けながら言った。
 男は小刀を握っていた。男は小刀を軽く振りながら小声で呪文らしきものを唱えた。
 私が咄嗟に警戒し、杖を取り出そうとすると、男はニヤリと笑みを浮かべた。

「ああ、ただのサイレントだよ。気にするな。それより、君はトリステイン魔法学院の宝物庫に用があるんだろう?」
「それがどうしたっていうんだい……」

 正体どころか、目的までバレている事に内心の動揺を見せ無い様にしながら、私は尋ねた。
 何故知っているのか、そんな事は聞かない。どうせ、聞いたとしても答えないだろう。

「協力しようと思ってね」
「協力……?」

 私は怪訝な眼差しで男を見た。私は席に座りながら尋ねた。

「君は、宝物庫に用があるのだろう? その為に宝物庫の壁を壊したい。その為の手段が欲しい、なら、一つ、方法を伝授出来るよ」
「目的はなんだい……?」

 私は目の前の男の不気味な雰囲気に呑まれない様にしながら尋ねた。協力するというが、目的が分からない。

「その昔、強力な兵器として使われていた品だよ。それを盗み出して欲しい」

 強力な兵器……? 私はキナ臭いものを感じて、目を細めた。

「大きな……恐らくは棺桶の様な形の箱の筈だ」
「棺桶だって? そんなの、宝物庫にあるわけないじゃないか」

 宝物庫は宝物を入れる場所だ。棺桶という、人の死体を入れる箱がある筈が無い。腐って、凄まじい臭いを発してしまうではないか。

「まあ、無ければいい。だが、在ったら、その時は一緒に盗み出して欲しい」
「棺桶をかい……?」

 私は目の前の男に生理的な嫌悪感を覚えた。棺桶が欲しいなんて、どういう趣味なんだ?

「ああ、大分大きな物だが、君ならば盗み出せるだろう? その代わり、君を手助けするし、成功したら報酬も出そう」

 私は胡散臭げに男を見た。

「棺桶を盗み出すかは別にして、方法ってのは何なんだい?」
「火薬を使うのさ」

 男はそう言うと、テーブルに皮の袋を置いた。かなりの量だ。

「この火薬を君の土系統の魔法で壁に貼り付けて、火系統の魔法で爆発させるのだよ。そうすれば、如何に高名なトリステイン魔法学院の本塔の壁とて、無傷ではいられない。そうなれば、後は君のゴーレムの力でどうとでもなる……だろう?」
「なるほどね……。だが、別にあんたの力を借りる必要性は無いね。その程度の事、私だって考えたさ」
「だが、大量の火薬を手に入れるのは手間が掛かるだろう? 何、棺桶を盗み出すのは、可能であればでいいんだ。この火薬は君に譲ろう」
「……どういう意味だい?」

 私は男の真意が掴めなかった。これだけの火薬は値段も相当なものだ。それに、男の言うとおり、これだけの火薬を調達するのは骨が折れる。それを成功しなくてもいいと言いながら渡すのは何故だ?

「簡単な事だよ。君が壁を破壊してくれれば、君が棺桶を盗み出さなくても、私が後から盗み出す事も可能だ。崩壊した部分を修復するには時間が掛かるだろうからね」

 私は男の考えを読もうと考えを巡らせた。どう考えても、目の前の男は怪しい。
 安易に手を借りる気にはなれない。だが、テーブルの上に置いてある火薬は魅力的だ。これを使えば、絶対に成功する。
 私は乗る事にした。少し、自棄になっているのかもしれない。私はテーブルの上に置かれた皮袋を掴み取った。
 男がニヤリと笑みを浮かべる。それが神経に障った。

「ああ、それからこれを渡しておこう」

 そう言って、男は小瓶を取り出した。

「なんだい?」
「睡眠薬さ。これで、厄介なオスマンを眠らせるんだ。オスマンさえ居なければ、君に敵は居ないだろう。……今の所はね」
「……? はっ、冗談じゃない。火薬は貰うが、睡眠薬ならピエモンの秘薬屋で手に入る。そこまで手を借りる気は無いよ」
「しかしね……」

 男はしつこく食い下がった。私は苛立ちが最高潮に達しそうになり、踵を返した。
 すると、男が私の手を掴んだ。

「仕方ない。幸運を祈っているよ」

 その瞬間、私は猛烈な頭痛に襲われた。だが、それも一瞬の事だった。今のは何だったのだろうか、困惑していると、男の姿はいつの間にか消えていた。
 私は残った皮袋だけを持ち、立ち尽くしていた。
 支払いを済ませて、私はブルドンネ街に戻り、ピエモンの秘薬屋に立ち寄って、睡眠薬を購入した。薬を胸元に仕舞うと、私は街に出た。

「アッ――」

 私は突然の衝撃にバランスを崩してしまった。何とか壁に手をついて転倒は免れたが、私はぶつかって来た馬鹿を睨みつけると、心臓が飛び跳ねた。
 ぶつかって来たのは小柄で鼠の様な出で立ちの男だった。私が驚いたのはその先に居る二人が眼に入ったからだ。そこに居たのは、ミス・ヴァリエールとその使い魔の少年だったのだ。
 どうやら、スリにあったらしく、私とぶつかったのがそのスリだったらしい。私は慌てて薬と火薬が無事かを確かめた。
 二人に火薬を見られたら大事だ。大丈夫だった。私は男を魔法で拘束して、男の盗んだミス・ヴァリエールの財布を使い魔の少年に渡した。
 ミス・ヴァリエールは使い魔の少年の失態に対してプリプリと怒っていたが、安堵の表情を浮かべた少年と一緒に頭を下げてきた。
 私は二人と別れた後、男を衛兵に引き渡すと、トリステイン魔法学院への帰路に着いた――。

 太陽が沈み始めた頃、私は学院長室に居た。
 紅茶を淹れながら、チラリとオールド・オスマンに眼を向けると、彼は山積みの書類に眼を通している。もう直ぐだ、もう直ぐ、私はこの学園を出て行く。
 既に火薬は仕掛けてある。火の系統呪文で起爆させれば、亀裂程度は入るだろう。後は、私のゴーレムで何としても壁を破壊し、中から破壊の杖を頂き、永遠におさらばするだけだ。あの男の言っていた棺桶については盗む気は無い。棺桶なんて担いで逃げられる程、この学院のメイジを甘く見たりはしない。
 紅茶の中に睡眠薬を注ぎ込む。一口飲んだら丸一日グッスリだ。オールド・オスマンに労いの言葉を掛けながら、紅茶を机の上に置く。

「おお、すまんのう」

 オールド・オスマンは上機嫌で私から紅茶を受け取った。胸がチクリと痛んだ。私は自分にまだ心を痛ませる罪悪感なんてものがあった事に軽い驚きを覚えた。
 オールド・オスマンが紅茶をグイッと飲むのを確認すると、オールド・オスマンに背中を向けた。背後で鈍い音が響いた。チラリと見ると、オールド・オスマンが書類の上に頭を乗せてグッスリと眠っていた。

「後遺症は残らない筈……、ごめんなさい」

 私は学院長室の窓に近づきながら、呪文を唱え始める。ああ、もうこれで後戻りは出来ない。窓の下の地面が一気に盛り上がる。
 私はローブを目深に被り、立ち上がった巨大なゴーレムの肩へとフライで飛び乗った。
 これでいいのだ。私は何度も自分に言い聞かせた。ここでの生活は悪くなかった。だけど、あの娘の為にも、私自身の為にも、そして、オールド・オスマンの為にも私はここに居ちゃいけないのだ。

『そう、私には居場所なんて存在しない……』

 ――――!? 私は突然聞こえた声に慌てて周囲を見渡した。誰も居ない。馬鹿な、今の声は直ぐ傍で聞こえた。幻聴だろうか……。
 不意に、凄まじい感情が溢れ出した。
 寂しい、居場所が欲しい、誰かに頼りたい。
 国王によって家名を奪われ、忠誠を誓っていた大公家の遺児であるあの娘を頼れる人間など存在する筈も無く、一人で護り続けた。盗みを働く為に名前も捨てた。
 何もかもを失い、名前すら自分で捨ててしまった“土くれ”、それが私だった。

『あの娘の事を護らないといけない。そう思わなければ、心が壊れてしまう』

 また、声がした。誰の声だろうか、聞き覚えのある声だった。
 怖気が走る。その声をこれ以上聞きたくない。そう強く思った。

『あの娘とあの娘の母親のせいで、私の家は家名を取り上げられた』

 嫌だ、聞きたくない。聞かせるな。

『あの娘を護る為に名前を捨てなければならなかった。あの娘の為に何もかもを失った』

 止めろ。そうじゃない、違う、あの娘の事を私は愛している。愛しているから、何をしたって平気なのだ。
 あの娘が幸せに生きられる為ならなんだってする。そう誓ったのだ。

『全てを奪ったあの娘は私の唯一の拠り所だ。だから生かしているだけだ』

「違う、違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!」

「ミス・ロングビル!?」

 下の方から誰かの声が聞こえた気がした。だけど、誰の声か分からないし、どうでもいい。
 ただ、この声を止めて欲しい。こんなのは違う。私じゃない。私はこんな事を思ったりしていない。

『寂しい。居場所が欲しい。あんな、私から全てを奪った少女じゃない拠り所が欲しい。自由が欲しい。名前を返して欲しい。家族を返しえ欲しい』

「止めろ、止めろ、止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ……止めて」

 否定しても、声は止まらず、私は内から飛び出すナニカを抑え切れなかった。

『我は影、真なる我……』

 その声が耳に届いた時、私の意識は暗い闇の水底へと墜ちて行った――――……。


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