<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.16996の一覧
[0] ゼロのペルソナ使い[雪化粧](2015/05/08 17:18)
[1] プロローグ『平賀才人』[雪化粧](2015/05/08 17:25)
[2] 第一話「契約」[雪化粧](2015/05/08 17:25)
[3] 第二話『ゼロのルイズ』[雪化粧](2015/05/08 17:25)
[4] 第三話『ゼロの使い魔』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[5] 第四話『ペルソナ』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[6] 第五話『コミュニティ』 [雪化粧](2015/05/08 17:26)
[7] 第六話『大人の憂鬱』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[8] 第七話『オールド・オスマン』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[9] 第八話『土くれ』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[10] 第九話『ヴァリヤーグ』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[11] 第十話『主従』[雪化粧](2015/05/08 17:26)
[12] 第十一話『オリヴィエ』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[13] 第十二話『運命』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[14] 第十三話『ボーイ・ミーツ・ボーイ』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[15] 第十四話『フリッグの舞踏会』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[16] 第十五話『閃光と魔剣』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[17] 第十六話『二人のお姫さま』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[18] 第十七話『アンリエッタの頼み』[雪化粧](2015/05/08 17:27)
[19] 第十八話「暗転」[雪化粧](2015/05/08 17:25)
[20] 第十九話「新たなる力」[雪化粧](2015/05/08 17:25)
[28] 第二十話「暗雲」[雪化粧](2015/05/12 05:02)
[29] 第二十一話「伏魔」[雪化粧](2015/05/15 04:50)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[16996] 第六話『大人の憂鬱』
Name: 雪化粧◆cb6314d6 ID:a3eb6a18 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/05/08 17:26
 オールド・オスマンは偉大な方。傍でお世話をしていると、それが良く分かる。
 出会いは酒場だった。何もかもを見通す様な眼差しが酷くイラつき、次のターゲットはこの爺さんにしてやろうと思った。
 貴族は嫌いだ。大事な少女の親を殺し、私の家の家名を取り潰した貴族が嫌いだ……。
 愛する少女の為にお金が必要だった。その為に色んな事をした。貴族だった頃は知らなかった事をいろいろと学んだ。男女の交わり、人の騙し方、人の殺し方、人を陥れた時の悦楽……。
 オールド・オスマンは怖い。私が何をしてきたか、そんな事、とうに知っている筈なのに、どうして、今も私を雇い続けているんだろう? 給金も仕送りして、普通に生活する分には不自由しない程だ。
 貴族だけど、オールド・オスマンの事は嫌いじゃない。取り入る為の演技だったのが、いつの間にか、本気で体を壊して欲しくないと思うようになった。
 キセルを取り上げたり、食事の制限をしたりして……、取り入る為なら、むしろ、彼の好きな様にさせて、機嫌を取るべきだろうに……。
 このまま、ここでオールド・オスマンの秘書を続けるのも悪くないかもしれない。いつしか、そう思うようになっていた。
 それを自覚した途端に、私は怖くなった。このまま、貴族への恨みを忘れてしまうのではないか、と。それに、ここに居れば、私は幸せに生きられるかもしれない。だけど、あの娘は違う。ずっと、人里離れた小さな村で一生を過ごさねばならないのだ。
 あの娘は村で孤児の子供達を育てている。だけど、その子供達だって、いつかはあの村を出て行く。
 一生、外に出る事を許されないあの娘と違って、子供達は自由に生きられる。
 そうなったら、子供達は外であの娘がどういう存在かを知り、あの娘を嫌うかもしれない。下手をすると、あの娘を迫害し、村を貴族に密告するかもしれない。
 私だけが幸せになるなんて事は許されない。それに、あの娘が危機に陥った時の為に牙を研ぎ続けなければいけない。どんな敵も退けられる鋭い牙をあの娘の為に持ち続けなければいけない。
 その為には、こんなぬるま湯の様な生活を送り続けるわけにはいかない……。
 一瞬、あの娘やあの村について、オールド・オスマンに相談してみようかと考えた。オールド・オスマンなら、あの娘を迫害しないでいてくれるかもしれない。
 淡い希望だと吐き捨てた。確かに、オールド・オスマンは他の貴族とは違う。平民と貴族の差別意識も薄い。
 実力に見合えば、例えば、食堂のコック長のマルトーなんかには、下級貴族が及びも付かない程の給金を出している。私みたいな素性も分からない人間にまで、職を与えて、多額の給金をくれる。
 だけど、あの娘の場合は平民と貴族の間にある溝なんて、まったく比じゃない程、大きな溝がある。
 私はこの学園を出る決心をした。二度と戻って来れない様に、この学院にあるという“破壊の杖”を盗み出すのだ。破壊の杖は、オールド・オスマンにとっても大切な秘宝らしく、学院長室で前に一度語り聞かせてもらった事がある。
 オールド・オスマンが若い頃……、そんな頃があったとは信じられないけど、ワイバーンに襲われた所を杖の持ち主が破壊の杖によって救ったのだという。
 命の恩人である男のたった一つの形見なのだと、彼は懐かしむ様に語った。そんな物を盗み出せば、彼はきっと私に失望するだろう。憎み、絶対に許してくれないだろう。
 それでいいのだ。徹底的に恨んで欲しい。そうすれば、私もここへの未練も持たなくて済む。

 夜、私は学院長室や図書室、食堂などがある本塔の五階にある宝物庫の外壁の上に垂直に立っていた。
 宝物庫の一つ上は学院長室だ。僅かな音も洩らさない様に、サイレントの呪文を唱える。
 背の高い木々が二つの巨大な月の光を遮って、私の姿を隠してくれている。
 足元に感じる感触に、私は思わず舌を打った。

「さすがは魔法学院本塔の壁ね……。“スクエアクラス”の“固定化”なんて、さすがに“錬金”出来ないか……」

 “固定化”の呪文は物質を酸化や腐敗なんかのあらゆる化学反応から保護する呪文で、呪文を唱えたメイジ以上の力量を持つメイジでなければ錬金する事も出来なくなる。
 恐らく、スクエアクラスのメイジが複数人掛りで掛けたのだろう。試しに四系統の初歩的な呪文をそれぞれ掛けてみたが、どれも弾かれてしまった。

「物理衝撃なら……、駄目だね……。これだけ壁が分厚いと……」

 私はトライアングルメイジだ。30メイルを越えるゴーレムを作る事も出来る。それでも、この壁を破壊出来るかどうかは分からない。
 正直、ここまで硬い守りだとは思っていなかった。だが、この程度の障害で諦めるわけにはいかない。オールド・オスマンは穢れ切った私を信頼してくれた。それを裏切るのだから、生半可な仕事などしたくない。
 私は対策を練る事にして、地上に降り立った。
 …………!!? …………どこからか視線を感じた。
 私は周囲に目を走らせた。……誰も居ない。上を見上げるが、何も見えない。気のせいだったのだろうか……。
 ハッと私は笑った。

「弱気になるなんて、本気で牙を研ぎ直さないといけないね……」

ゼロのペルソナ使い 第六話『大人の憂鬱』

 私の研究室は火の塔にある。窓の外からはヴェストリの広場で戯れる生徒達の声が聞こえ、ヴェストリの広場を挟んだ向こう側にある風の塔から爆発音が聞こた……。

「そう言えば、ミスタ・ギトーはミス・ヴァリエールを教えるのは初めてだったか……」

 私は今、サイト君の持ち物を広げたシートの前に立っていた。サイト君の持ち物はどれも素晴らしい。魔法を用いても、これほど見事な物を作る事は出来ないだろうと私は確信している。
 だからこそ、一つ一つに丹念に固定化の呪文を掛けていたのだ。固定化の呪文を掛ければ、物体が錆びたり、腐敗したりするのを防ぐ事が出来る。

「しかし、興味深いのはコレだな……」

 サイト君の私物は奇妙奇天烈な物ばかりだったが、中には理解出来る物もあった。
 例えば、薄く透明な袋に密閉された書物が一冊。完璧に密閉されている事から、何らかの封印なのではないかと考えられる。
 それに、中に何も記されて射ない奇妙な書物だ。だが、私は中に何も記されていない事よりも、その材質に目を輝かせた。羊皮紙などとは全然違う肌触りだ。
 そして、私が最も興味を持った物……それが、コレだ。馬を模したかの様な形状。銀色の鉄でも銅でも鉛でも無い、不思議な材質の物体。金属製の骨組みにゴムを巻くという斬新なアイディアの車輪が前後に二つ付いている。
 何よりも驚かせたのは、これまた材質不明の不思議なハンドルの様な部位を回してみた時の事だ。なんと、車輪が回転したではないか!
 見た目から、この物体の前後と上下にあたりを付けると、私の脳裏に稲妻が走った!
 恐らくは馬の頭部を模したであろう部位を動かすと、その下にある車輪が連動して曲がる。馬の鞍にあたる部位には見た事も触った事も無い不思議な材質の椅子の様な物がある。
 その椅子の部分に座ると、丁度良く、あのハンドルが脚で回す事が出来る位置にある。そうなのだ、これは脚でハンドルを回し、連動して回転する車輪によって移動する乗り物なのだ!
 私は乗ってみたいという欲求に駆られた。もし、私の推測が正しければ、この物体はこの星の文明に革新的な一歩を歩ませる事が出来る。
 乗りたい……、そして、私の推測が正しい事を証明したい。だが、これはサイト君の私物だ。勝手に乗るわけにもいかない。
 私が葛藤に苦しんでいると、丁度その時、私の研究室をノックする音が聞こえた。

「コルベール先生、居ますか?」

 私は始祖ブリミルに感謝した。なんと言う素晴らしいタイミングだろう。私は彼を招き入れようと扉を開いた。
 扉の外にはサイト君の他にもう一人、メイドのシエスタという少女が居た。マルトーの親父とたまに飲むのだが、その時に知った少女だ。サイト君に仕事を教えるよう頼んだり、サイト君の看病をする様に頼んだりと色々と世話になっている。

「やあ、目が覚めたのだね、サイト君」

 私は一刻も早くあの物体に乗せてくれるよう頼みたいという欲求を必死に抑え、大人として恥しくない態度で言った。

「はい、おかげさまで。リハビリがてら、荷物を取りに来ました」

 やはり……。私としては、もう少し調べてみたいと思っていたのだが、持ち主であるサイト君が返して欲しいと言うのならば、我侭は言えない。

「中に入りなさい。君の荷物に固定化を掛けていた所なんだ」
「固定化……?」

 私は首を傾げているサイト君に固定化の呪文について説明した。サイト君は感心した様に目を輝かせてお礼を私に言った。
 彼は礼儀正しく義理堅い性格な気がする。私は恐る恐る言った。

「時にサイト君……、あの物体はもしかして乗り物かね?」
「自転車の事ッスか? そうですよ」

 やはり! 私の推測は間違っていなかった。是非とも調べたい。私は更に激しく高鳴る心臓の音を耳にしながら言った。

「もし……、よかったらあのジテンシャ? に乗ってみてもいいかね?」

 私は出来る限り丁寧に頭を下げた。すると、彼はキョトンとした顔で言った。

「勿論いいですよ。コルベール先生にはお世話になりっぱなしだし」

 私は歓喜に震えた。サイト君が“ジテンシャ”について教えてくれる。スタンドのロックを脚で外し、スタンドを上げる。そして、ジテンシャの“サドル”という鞍に跨り、“ペダル”というハンドルに脚を掛ける。そして、ペダルを回してタイヤと言う車輪を回して動かす。
 私は何度もサイト君の教えを反芻した。シエスタ君も興味を持ったらしく、私のジテンシャの試乗を目を輝かせながら見守っている。
 少しこそばゆさを感じながら、私はジテンシャに跨った。そして……。

「痛っつぅぅぅ」
「だ、大丈夫ですか、コルベール先生!」
「ミスタ・コルベール!」

 転んでしまった。受身もまともに取れず、私は体を強打してしまった。なんと言う事だ、バランスが殆ど取れなかった。
 心配してくれるサイト君とシエスタ君に大丈夫だ、と言いながら、私は肩を落とした。

「サイト君、これは本当に乗り物なのかい?」
「本当ですって! えっと、手本を見せますよ」

 サイト君はそう言って、ジテンシャに跨った。なんと言う事だ! サイト君は軽快にジテンシャを乗り回した。私の研究室は割りと広いのだが、歩くよりもずっと早くジテンシャは駆けた。

「素晴らしい……」

 私は思わず感涙の涙を流してしまった。これが、平民のみの星で生まれた技術なのか、と。
 魔法無しにこれ程の素晴らしい物体を作りだせるとは、私はサイト君に頭を下げた。

「サイト君、そのジテンシャを私に調べさせてはくれまいか?」

 私はギョッとして凍りつくサイト君に頭を地面に付けて懇願した。他のサイト君の持ち物は私の理解出来る限界を超えている感じを受けた。だが、ジテンシャは違う。理解出来る。そして、ジテンシャを作る事が出来るかもしれない。
 それは、この星に新たなる移動手段を作り出せる事を証明出来るという事だ。

「あ、頭上げて下さい! 全然大丈夫ッスよ! まぁ、壊されるのは勘弁だけど、壊さない範囲でなら、調べてもらっていいですよ」
「本当かい!?」

 私はサイト君に詰め寄った。サイト君は私の剣幕に顔を引き攣らせているが、言葉を覆させる事はしなかった。
 サイト君は、ミス・ヴァリエールの授業が終わる夕方まで時間を潰す必要があるらしい。その間、私の質問に答えてくれると言ってくれた。

「では、早速なのだが……」
「えっと、これはステンレスっていうので……」
「ステンレス……? それは一体……」
「ここのパーツは……」
「なるほど……、つまりこれがこうなって……」
「あ、それはこうなってて……」
「なんと! サドルというのはこうなっているのか……。身長に合わせられる様になっているわけか……」
「ここは中はギアっていうのにチェーンが……」

 シエスタ君はいつの間にか部屋を退出していたが、私はサイト君に質問し続けた。サイト君はそのつど、自分に分かる範囲で教えてくれた。
 構造は単純だが、この形となるまでにどれ程の数の研究者による試行錯誤があったのか……。
 私はサイト君の星の魔法を持たない研究者達に対して敬意を持った。私はジテンシャの詳細な設計図を羊皮紙に書き込んだ。作り上げるには、トライアングルクラスの土のメイジの協力が必要だ。ミス・シュヴルーズに頼んでみようか……。
 結局、私は夕方になるまでサイト君を引き止めてしまった。サイト君はグッタリしていながらも、気を悪くした様子は無かった。やはり、この少年は心根が真っ直ぐだ。ミス・ヴァリエールの使い魔になったのが彼の様な人間で良かった……。
 サイト君がミス・ヴァリエールと合流する為に保健室に戻ると言うので、私は道が分からないだろうから、と案内を申し出た。サイト君を保健室に連れて行った帰り、私はオールド・オスマンにサイト君が目を覚ました事を報告する為に学院長室に向かった。
 五階に上がった所で宝物庫の前に誰かが居た。近づいてみると、ミス・ロングビルだった。
 なにやら険しい表情で宝物庫を見つめている。様子が少しおかしいようだ。声を掛けてみる事にした。

「おや、ミス・ロングビル。ここで何を?」

 私の存在に気付くと、ミス・ロングビルは途端に表情を和らげた。だが、瞳が笑っていない……。

「ミスタ・コルベール。宝物庫の目録を作っているのですが……」
「それは大変ですな。一つ一つ見て回るだけで、丸一日は掛かりますぞ。何せ、ここにあるのはお宝ガラクタひっくるめて、所狭しと並んでいますからな」
「でしょうね……」

 やはり妙だ……。目録を作ると言いながら、彼女は何故、宝物庫に入ろうとしないのだろうか? ここに鍵が掛かっている事は知らない筈が無いだろうに……。

「入らないのですかな?」
「鍵が閉まっていまして……」
「オールド・オスマンに鍵を借りればいいではありませんか」

 得体の知れない寒気がする。私は表面上はのんびりとした調子で言った。

「それが……、ご就寝中なのです。まあ、目録作成は急ぎの仕事ではないし……」
「なるほど、ご就寝中ですか……。残念です、サイト君が目を覚ました事を報告したかったのですが……」
「サイト君……? ああ、あのミス・ヴァリエールの使い魔の少年、目を覚ましたのですか?」
「ええ、先程……」
「あの怪物について、何か言っていましたか?」

 ミス・ロングビルは私に尋ねた。とても自然に話題を逸らした様に感じたのは、私が彼女に得たいの知れないナニカを感じているからだろうか……?

「いいえ、聞きませんでした。起きたばかりで、怖い記憶を思い出させるのは忍びなかったもので……。いずれにしろ、オールド・オスマンを交えて、事情を聞くつもりですよ」
「そうですか……。あの広場を直すのには手を焼いたので、私自身、怪物について気になっていたのですが……」

 私は首を傾げた。今、彼女は広場を直すのに手を焼いたと言った。怪物に破壊された跡は凄まじいモノだったが、翌日には修復されていた。
 私は、ミス・シュヴルーズが修復したのだと思っていた。あれほどの破壊だ、トライアングルクラスでもなければ修復など出来まい。ミス・ロングビルはトライアングルメイジだったのか? 初耳だ。そもそも、彼女の経歴について、私は知らない。突然、オールド・オスマンが秘書にすると言って、彼女をこの学院に招いたのだ。
 経歴不明の土のトライアングル……。私は何か、引っ掛かるものを感じた。無視してはいけない引っ掛かりがある様に感じたのだ。

「私は用がありますので、これで……」

 ミス・ロングビルは足早に去って行った。私は学院長室へと足を向けた。もしかしたら、今は起きているかもしれない。
 階段を上がり、学院長室の扉をノックする。すると、中で動く物音が聞こえた。
 しばらくして、中からオールド・オスマンが入室を許可した。

「失礼致します」

 中に入ると、オールド・オスマンはソファーで紅茶を嗜んでいらっしゃった。私が入室すると、オールド・オスマンは片方の眉を上げて紅茶を置いた。

「サイト・ヒラガが目を覚ましたか……」

 私は目を見開いた。何故、分かったのだろうか……?

「ミスタ・コルベール、ミス・ロングビルは君にとってどうじゃね?」
「……どういう意味でしょうか?」

 私は慎重に言葉を選んだ。オールド・オスマンは起きていた。ミス・ロングビルが嘘を吐いたのか、それとも、オールド・オスマンが彼女に嘘を吐いたのか……。それに、私の用件を知っていた事から一つの推測が思い浮かんだ。

「彼女は美人じゃろう?」
「……はい?」

 私は思わずよろけそうになった。ミス・ロングビルを不信に思い、監視していたのでは、と思ったのだが、オールド・オスマンの言葉は私の考えの斜め上を行った。

「なに、彼女もそろそろ歳じゃろ? それに、君もそろそろ身を固めねばならんじゃろ」

 私は話の流れが読めた。私は今直ぐにでも回り右をしたくなった。余計なお世話だ。私は結婚よりも大事な研究があるのだ。今は、そう、ジテンシャだ。ジテンシャを自分の手で作り上げたいという目標があるのだ。女性にうつつを抜かしている暇などないのだ。

「た、確かに知的で麗しい女性だとは思いますが……」
「ほっほっほ、頭の隅ででも考えておいてくれればよい。あんまり、年寄りを心配させんどくれよ?」
「……オールド・オスマン、貴方は後千年は現役な気がしますよ」

 私は顔が火照るのを感じながら、憎憎しげに言い捨てた。
 オールド・オスマンは気を悪くした様子も無く笑っている。本当に喰えない老人だ。

「どうかのう。さて、サイト・ヒラガの件じゃな。ミスタ・コルベール、サイト・ヒラガとミス・ヴァリエール、それにミスタ・グラモンを呼んで来てくれるかね?」
「……了解しました、オールド・オスマン」

 私は学院長室を出た。どっと疲れた。そろそろ夕食の時間だ。三人共、恐らくは食堂に居るだろう。そう言えば、あの怪物が現れる前、サイト君とミスタ・グランドプレが衝突したのは食堂での座席を巡るトラブルだったそうだが、問題が起きていないといいのだが。
 食堂に到着すると、中は生徒達で溢れていた――――……。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.030220985412598