さて、トリスタニアの王宮に戻り、其処に待っていたのはアンリエッタではなく、宰相マザリーニであった。アンリエッタは多忙らしく、現在王宮にはいないらしい。ガリアとの関係が危うくなっているこの頃、彼女もずっと城にこもりきりという訳ではないようだ。「女王陛下からのご命令を申し上げましょう」マザリーニの口からは、ティファニアと子ども達の処遇について、語られた。「彼女をトリステイン魔法学院に?」「はい。既に向こうの方とも話はついております。ティファニア殿には陛下口利きの下、トリステイン魔法学院に入学していただきます。このトリステインにおいて安全な場所の一つですからな」このトリステイン王国において、安全とされる場所は、魔法学院とルイズの実家の領地とマザリーニは笑って言った。首都は色んな人がいる分、危険も多いらしい。「じゃあ、孤児達はどうするのですか?」ルイズはテファの処遇には理解を示したが、では彼女と共に来た孤児達の処遇を聞いた。マザリーニは頷いて言った。「彼らの処遇につきましては、率先して保護する旨を伝えてきた者達がいました」「孤児たちを率先して保護?どこの修道院でしょうか?」ギーシュの疑問に、マザリーニはにっこりと微笑み、俺を見る。「いえ、修道院の類ではありません。子ども達はド・オルニエールに新設される孤児院において生活していただく事になります」「え?」ルイズ達は驚きの表情で俺を見る。俺、言ったよね?テファ達の生活は保障するって。あれ、家の領地で児童福祉施設を作ってるから言えたんだよ。領地の住民達もこの計画には賛成らしい。そりゃあ、近年高齢者しかいなかった場所に子どもの姿が復活するのだ。嬉しい事なのである。国からの補助に関してはゴンドランが上手くやってくれたようである。何せ金はあるからなぁ。子どもは国の宝であり、老人は国の財産。あとは労働力の若者が集まればいいんだが。孤児院の職員が高齢者ばかりなのも問題だしな。ゴンドランの人脈を活用して新聞とかに求人情報を載せてるけど、辺境の孤児院で働こうと言う子ども好きはそうそういないみたいだ。まあ、しばらくは領民のじいさんばあさんに頑張ってもらおう。あの人たちは子育てのプロだからな。「施設は近日中にも完成するようですが、それまでは此方で一時保護いたします。宜しいか?」「はい、子ども達をお願いします」「マザリーニ宰相、ご報告があります」ルイズがマザリーニに、またもやガリアの手の者に襲われた事を言う。マザリーニは眉を顰め、溜息をつく。「分かりました。陛下にはご報告致しましょう。私たちのほうでも抗議を致します。・・・何度もやってはいるのですがね。簡単な任務と思って軽い気持ちで派遣を許可した我々や陛下の落ち度でしたな」「宰相、敵は様々な魔道具を駆使し、此方を監視しています。ご注意を」「分かりました。ご忠告感謝致します」アンリエッタがテファと出会うのはまた次の機会になる。孤児たちと別れて、俺たちは魔法学院に戻った。テファの魔法学院での後見人はオスマン氏らしい。彼はテファを見るなり、真顔で言った。「ワシの常識は今脆くも崩れ去った!これは素晴らしき革命と言えよう」どう考えてもこのじいさんの目はテファの奇乳に注がれていた。どいつもこいつもテファを見るなりそのアンバランスな乳に目が行くようだ。見ろ!テファが困ったように俺の後ろに隠れたじゃないか!自重しやがれ!後なんで前かがみになっているのだ隊長。ハーフエルフであるテファは学院ではエルフの特徴である長い耳を隠す為の帽子を着用する事を特別に許可された。本来屋内では帽子は被ってはいけないのだが、オスマン氏はテファが『肌が日に特別弱い』という理由で誤魔化すと約束してくれた。「外国の環境は色々と戸惑う事もあるだろうが、困った事があれば言いなさい。出来る事ならば最大限助けるぞ」オスマン氏は教師らしい言葉を掛けた。テファはそれに頷く。「勿論私たちも協力するわ。気軽に言いなさい」ルイズたちもテファの学院生活のフォローをする気のようだ。キュルケも、ギーシュも、タバサでさえも、ルイズの言葉に同調する。テファは感激したような表情を見せた。「ありがとう。みんな」テファはそう言ってルイズ達にお礼を言う。その後、テファは俺をじーっと見つめてきた。面白そうなので無視した。泣きそうな表情になった。助けたい気持ちは山々だが、妹だけでも説明が大変だったんだぞ?『お兄ちゃんについてくー』と真琴が言い、授業についてきた時は、『お前・・・妹を連れてきちゃ不味いだろう』『お兄ちゃん、見て見てー!つるつるー!』『つるつるではありません!?髪はあります!』『真琴?そう言うことを言っちゃ駄目だよ』『はーい。ごめんなさーい』『何!?何なのあの可愛い生物!?』『妬ましい・・・!!幼女と戯れるあの男が妬ましい・・・!!』『無垢なる少女・・・ふぅ・・・』と、教室が混乱したので、今ではシエスタなどに子守をしてもらっている。シエスタは不満を言わずに真琴の面倒を見てくれている。『まず身内から取り入って後は本命を叩く・・・完璧ですね』などと言っていたのが気になるが、真琴とは上手くやっているようなので放置した。休日は我が領地に行っているようである。孤児院完成の暁には友人が出来ればいいな、と思う。大都市ロマリアは、別名光の国とまで言われる場所である。大通りには神官や聖堂騎士が歩いている。活気から言えば今やこの都市はトリスタニア以上である。そんなロマリアにでさえ、光の当たらぬ場所はあった。そこにはアルビオンでの戦争によって流れ着いた戦災孤児達が汚水や生ゴミ溢れる路地に座り込んでいる。ここに人が通れば、彼らは立ち上がり、物乞いや盗みを働くのである。そんな浮浪児集まる場所に、その共同住宅はあった。本の山に埋もれるようにその男は椅子に腰掛けて読書をしていた。男・・・かつて『閃光』と呼ばれたワルドは少し痩せた風貌で、積み上げあられた本の中、黙々と本を読んでいた。まるでその様子は学者のようである。ワルドは樫の木の丸テーブルに置かれた冷めた紅茶を飲んだ。「弾圧、暗殺、破壊活動・・・疑わしきは殺害・・・始祖の御為ならば、世界も滅ぼしそうな国だ。レコンキスタが小物に見える」ワルドはそう言って冷めた紅茶を飲み干す。「紅茶がなくなった。おかわり」「働けェーーーーー!!!!」ワルドの顔に、同居人、フーケの足が命中した。綺麗な飛び蹴りによって、ワルドは本の山の中に突っ込み埋もれる。「いい加減にしな!来る日も来る日もアンタは読書に夢中!あの戦争に負けて、トリステインは嫌だ、ガリアもきな臭いから嫌だ、ゲルマニアも嫌だ、そうだ、ロマリアに行こうと行ったはいいけど、働きもせず!」「ここには聖地の手がかりがあると思って来たが・・・見つかるのは反吐が出そうな歴史書ばかりだ」「その歴史書を盗み出しているのは誰だと思ってるんだい?食事を作ってるのは?僅かな金を作ってくるのは?」「全ては聖地の為であって・・・」「聖地より現実見たほうがいいよアンタ」「いや、マチルダさん。俺が聖地に行くのは母から託された義務で・・・」「知ってるよ!アンタの母親の遺言なんだろ?そしてその母親をアンタが死なせたのだってこの前、聞いたばかりさ!」「そうさ、アカデミーで風石の研究をしていた母は、風石の効率のよい採鉱の方法を研究していた。だが、その研究の最中、母は何かを知ってしまい心を病んだ。俺はそんな母を弾みで殺してしまった。俺はその罪から逃げるように修行に打ち込んだ。だが、あるとき母の日記帳を見つけた。そこには母が俺に宛てた言葉があったんだよ」『可愛いジャン。私のジャン・ジャック。母の代わりに聖地を目指してちょうだい。救いの鍵はおそらく其処にある』『ジャック・・・・聖地へ』「おそらくと書いてるから、其処には何もないかもしれない。だが、何かあるかも知れないんだ」「うん、それも知ってるよ」「分かっているなら・・・!!」「でもね、ワルド」「何だ?」「どうやって聖地に行くの?」「・・・・・・どうしよう?」「大体アンタ、ロマリアには協力したくないって」「当然だ。奴らは宗教に狂っている」「レコン・キスタにいた時のアンタみたいだったけどね」フーケの皮肉に鼻を鳴らすワルド。「聖地に行くには金がどうしても必要よね」「盗めばいいじゃないか」「私は其処まで万能じゃないし」「使えないな」「死んどくかおのれは!?」「申し訳ありませんマチルダさん」「それにね。この国も馬鹿じゃない。監視がついてるよ」「もう無害なのに」「どの口が言うか!?宗教庁が管理する秘伝書を盗み出すのは立派な犯罪だよ!?」「俺は盗んでいない」そう言って惚けるワルドだったが、目の前に新聞を突きつけられる。「・・・何だ?」「ここを出るから」「何?行く所でもあるのか?」「働くのよ」「・・・馬鹿か?このロマリアでさえ、身元を偽らねば入国できなかったんだぞ?今更受け入れる場所など・・・ましてや職場など」「仕事を選ぶな!?安心しな。ここの仕事は素性は問わないそうだよ」「・・・随分と物騒な仕事のようだな」「それも安心しな。全然物騒じゃない。むしろ平和すぎて怪しいぐらいさ」フーケはワルドに突きつけた新聞のある場所を指で示す。其処には職員募集と書かれた記事が載っていた。確かに素性は問わないが出来れば20代から30代前半の男女が望ましいと書いてある。待遇は・・・住居を支給!?家賃なし!?何だこの怪しすぎる待遇は!?面接は・・・やはりあるのか。子どもが好きな人は大歓迎・・・ん?場所は・・・トリステインのド・オルエニール?確か過疎化で放って置いても潰れる領地ではなかったか?「・・・俺にトリステインに戻れと?」「素性は問わないらしいよ。それにド・オルニエールはど田舎もど田舎。老人しかいないじゃないか。家はやたらでかいのがあるらしいけど、実際盗むようなものは何もないからね、あそこ」「・・・身を隠すには最高か」「そうさ。まさかトリステインもそんな場所に私達が潜んでるとは思わないだろうからね」「ふん、このロマリアにも飽き飽きしてた所だ。行ってやろうじゃないか」ワルドは立ち上がる。フーケはやれやれといった様子で身支度を始める。監視がある以上、長居は無用であるからだ。彼らは知らない。ド・オルニエールに新たな領主が来た事を。彼らは知らない。その領主は自分達に因縁がある人物である事を。二人の失敗は下調べをしていなかったこと。だが、二人の幸運は、其処の領主がフーケがやっていた事を知っていたことだった。「え?面接希望者?孤児院の?」妹達とド・オルエニールに来ていた俺は、ゴンドランからの使いのお爺さんからそのような事を聞かされた。孤児院『シロウサギ』は来週中に完成するらしい。職員は領内の高齢者が中心だったが、ここに来て職員希望の者が来るらしいのだ。孤児院の発案者の俺には面接官をやってほしいとの事で、俺はゴンドランの屋敷に向かう事にした。「こんな辺境に来る人がいて良かったですよ」「そろそろ来る筈ですな」俺はゴンドランと共に応接室で就職希望者を待った。・・・俺自身の就職活動がまだ先なのに、それより先に面接官するとかどうよ。なお、何故か俺の隣にはタバサが面接担当者の一人として座っている。また、シエスタは、真琴と一緒にいる。彼女には後日、孤児院の専属の調理師の面接官の仕事も待っている。「若様、面接希望者をお連れ致しました」「どうぞ~」「失礼します」「失礼」入ってきたのは二人組みの男女だった。男女が俺たちを見て固まる。タバサやゴンドランも眉を顰めている。俺も正直なんでこいつらがここに就職活動しに来たのかは知らんが、男の方はともかく、女の方は即戦力だった。「これはこれは・・・確かに素性は問わないと書きましたが、思わぬ大物が釣れましたな」「な、何故貴様が・・・」「いいから座れよ。求職に来たんだろう?その事実さえあればいい」タバサは俺を見て「いいの?」というような目だ。俺はタバサに「いいんだ」と呟き、男女の方を向いた。「ようこそド・オルエニールへ。俺はここの領主、タツヤ・シュヴァリエ・イナバ・ド・オルニエールだ。そして来週完成する児童福祉施設『シロウサギ』の名誉院長であり、今日の面接官でもある。職員希望での面接だったな。知ってるかは知らないが、この領地は住民の大半が高齢者だ。よって貴方達のような若い力は実に貴重であり、現在早急に必要な人材でもある。この面接に来てくれてありがとう。感謝する。俺は個人的にはそちらの男は大嫌いだが、働く意志のあるものに対し、個人の感情によって如何こうする事はしない。貴方達はこれからこの領地の未来を育てる仕事に携わることになる。そのような人物を俺は如何こうする気はない。安心しろ。お前らの安全の保障はこの領地の住民である限り、俺とこのゴンドランが預かる。このド・オルニエールの再生の力となって欲しい。俺からは以上だ」「まずは久しぶりと言っておこうか、ジャン・ジャック・ワルド。私はこの地の領主副官であるゴンドランだ。まずはおめでとう。信じられんかもしれんが、君たち二人共、児童福祉施設『シロウサギ』職員及び院長候補として採用だ。何故君たちがこの地に来たのかは問わぬ。しかしこの地で働く以上、この地を愛してもらいたい。願わくばこの地に骨を埋めてもらっても全く構わん。この地は争いごとはあまり起きんが、厄介なモノが結構あるのでその脅威から子ども達を守ってくれる力は君たちにはあると思う。まあ、正直暴れたいならそいつ相手に暴れてくれたまえ。最近大量発生してるから」「・・・質問がある。その脅威とは一体なんだ?」ワルドの質問にタバサはぽつりと答えた。「ミミズ」「は?」「畑に行けば分かる。耕せば分かる」ワルドは渋い顔をして俺を睨んでいる。「俺とお前の因縁なんぞ、孤児院の子どもたちには関係ない。お前は大嫌いだが、孤児達のためにお前を歓迎してやる」「おや、私は大嫌いじゃないのかい?」「嫌いと言うか哀れになってきて応援したくなってきた」「やかましい!?まだ私は花の二十代だ!四捨五入なんてするな!」「如何するワルド、そして土くれよ。この土地の住人として、孤児の育成に協力するならば、我々は貴様らの安全を約束しよう。レコンキスタが発端となったアルビオン戦役で貴様らは戦災孤児を増やしていった。その貴様らが孤児の世話をするのは皮肉な話だが、それは義務でもあるのではないか?本来の未来の導き手をお前らや私たちはその子どもたちから奪ってしまったのだ。ならば我々がその子ども達の導き手にならねばならない」殆ど脅迫のようだ。「神はいるのかも知れない。神は人を救うのかもしれない。だが神が人を救う頻度より、人が人を救う頻度の方が高いと私は考える。『閃光』のワルドよ。今のお前は闇に縛られているように見える。光を求めるようで何故か闇に向かって前進していたなお前は。そんな貴様を救おうとしているのは誰だ?神か?皇帝気取りの愚か者か?違うだろう?お前の隣にいる女ではないのか?」ゴンドランは淡々と、熱くならないように言っている。「あ、そうそう、マチルダさんや。ウエストウッドの子ども達が孤児院に入ってくる第一集団だから。初日から働いてもらうよ」「まんまと私たちは網に引っかかったって訳かい」「いや、あんた等が勝手に飛び込んできたんでしょうよ・・・」「そういえばティファニアはどうなったんだい」「学生生活を始める事になったよ。本当はこっちに住ませる事も出来たんだが、込み入った事情があってね」「そうかい・・・」「秘書を続けてたら良かったとか思ってるのか?」「・・・あんなセクハラジジイの下に長居は嫌だよ」「ごもっともだな」ゴンドランがワルドへの説教中、俺とフーケは既に世間話をしていた。ワルドはだんだん凹んでいる様子である。助ける気など俺にあるはずはない。「ところで住居支給って書いてあったけど?」「ああ、孤児院は見たよな?」「ああ。黒い屋根の屋敷の隣に出来そうな建物だろう?」「うん。その黒い屋敷がお前らの家」黒い屋根の屋敷とは一言で言うが広さは庭合わせて大体800坪である。言うまでも無く俺が使っている屋敷より遥かにデカイお屋敷である。3年前まで人は住んでいたが、其処の所持者が亡くなり、今まで放置されていたが修繕しておいた。言っておくが800坪というのは孤児院の土地を譲渡して800坪である。・・・何この格差。しかしこれぐらいしないと人は入ってこないと思った。今では反省している。なお、孤児院の土地は更に広い。・・・一体ここの前の土地所有者は何者だったんだろう?「・・・えらく待遇いいね」「何せ孤児院の院長候補だからな。候補お前らしかいないけど」「事実上院長になれって事かい!?」「孤児に盗みは教えるなよ?」「教えんわ!?」「お前は子どもは沢山欲しいらしいからな。よかったなぁ?大手を振って母親代わりができるぞ?ワルドとの子どもの友人にも困らん」「・・・あんなマザコンの男との間に子供?試したけど縁がないようだよ」「やる事やってたんだなあんた等」「情が移ってしまった・・・今ではそれが人生の分岐点だったと思えるよ・・・」「心中お察しいたします」「貴様ら・・・人を駄目な男扱いしおって・・・!特に貴様に言われる筋合いはないぞ!」「ワルドよ。残念ながら社会的地位は若が遥かに上だ。お前はお尋ね者、そして若は土地持ちの貴族だ」「立派になってお姉さんは本当に嬉しいよ」「親かあんたは!?」「俺は納得いかないのだが?」「思えば・・・レコンキスタに参加したのが運の尽きだったね」「いや、其処の男については、ラ・ヴァリエール家の三女を裏切ったのがすでに運どころか人生も投げ捨てたも同然の行為だったんだ」「思えば・・・きちんと段取りを踏まえて結婚してそれから協力を取り付けて聖地へ向かえば良かったと敗戦後思った・・・」「貴様のせいでヴァリエール三姉妹最後の希望の星が落ちてしまった。そのせいで俺がとばっちりを喰らっています」「ハハハハハハ!!!それは良い事ではないか!いっそ三人纏めてもらって死ねばいい!」「などと言っているのを、ラ・ヴァリエール公爵夫人に言えばどうなるでしょうか?」「すみませんほんとやめてください」ワルド弄りはこれ位にしよう。ここからは真面目に孤児院の経営について、主にマチルダ姐さんと話し合った。ワルドは孤児院の経営に消極的だったのでミミズ対策部隊に勝手に配属した。なお、彼は隊長であり、拒否はゴンドランが許さなかった。何者だ貴方。「あ、そうそう。あの屋敷の所有権はマチルダ姐さんにしときますんで」「賢明な判断だね」「それは普通、主人の俺が世帯主では?」「いや、ワルドよ、貴様ら二人を見ていて、貴様が世帯主はないと思うぞ?」タバサも同意するように頷く。ワルドは絶望したような表情を浮かべた。そのワルドに対してゴンドランは言う。「ワルドよ、それからよい知らせがある。ミミズ対策部隊の責任者は私だ」ワルドの目が死んだ魚のようになった。「ちなみに孤児院の維持費は国から出ますんで安心してください。そもそも国の事業の一つでしたからね」「給金はどれくらいだい?」「秘書時代よりは少し下がるかもしれないけど、金を送る心配も無ければ家賃の心配もないし、前より金は貯まると思うよ?」「生活には困らないんだね、わかった」そもそもここはあんなミミズが跋扈してるぐらい土の質は良いんだから、畑作ればそれなりに食っていける。しかもこいつらが住む屋敷には既に畑の下地が出来上がっているし。俺が住みたいぐらいです。こうしてド・オルエニールに新たな住人が増えた。面接を終えた俺は自分の屋敷に戻り、真琴と一緒に遊んであげようと彼女を探していた。「おにいちゃ~ん!」どうやら彼女も俺を探していたようで、笑顔で俺に抱きついてきた。「お兄ちゃん、お兄ちゃん!今日ね、シエスタお姉ちゃんとお掃除してたらこんなもの見つけたの!」真琴が俺にそう言って差し出したのは、妙に古ぼけた鍵だった。(続く)