正直現在、ラ・ヴァリエール家だろうがガリアがどうだとか関係ない。俺は現在それ以上の問題に直面している。何故、真琴がこの世界について来てしまったのだろうか?答えてくれる何時もの声は聞こえない。姿も見えない。つまりこの状況を説明してくれる奴は誰一人いない状態なのである。「ま、真琴!あまりはしゃぐな!壁にぶつかる・・・ぐはあ!?」「ふえええ!?お兄ちゃんが消えちゃったー!でもこっちにもいる?」現在、真琴は俺の分身相手に遊んでいる。この子の順応は俺より遥かに早い。『何でおにいちゃんが三人いるのー?』『ふ、ふはははは!教えてやろう!実はお兄ちゃんは忍者なんだよ!忍者だから分身の術ぐらい簡単だよ、ハハハハ!』『お兄ちゃんすごーい!!それでここはどこなの?』『ま、魔法の世界だよ!』『まほうのせかい?』『その世界でお兄ちゃんのような忍者は珍しいんだ!』『お兄ちゃんすっごーい!』これで納得する真琴も真琴である。分身たちは既に一体脱落したが、真琴と遊んであげているのだが、真琴は容赦なく遊んでくるので、ひ弱な我が分身は怯えながら相手をしている。・・・真琴がここに来たという事は、瑞希が一人になってしまったという事か。杏里が半ば嫁入り状態になった因幡家だが、少し不安である。「ごふぉ!?腹に頭突きは・・・ない・・・ぜ・・・」「ふにゃ!?また消えちゃった!?」消えていく兄の幻影に涙目になりながら真琴はこちらへゆっくり振り向く。「じゃあ、こっちのおにいちゃんが本物なんだね!」そう言って俺の腹に容赦なきタックルをぶちかますわが愛しき妹。血を分けた家族がいるのはいいが、環境が不味いような気がする。ルイズ達からすれば突然現れた俺の妹なのだ。一体どこから来たんだと言う話になる。元の世界から来ましたとか信じるか普通。東方から来ましたって、こんな小さな子が一人で?と疑われる。最悪誘拐犯扱いされませんか俺?いや、妹なんだけどね、正真正銘。それにルーンの力ではもう戻れないはずだったのに、まさかの2回目の帰還。何このご都合主義展開?消えた幼女は『世界からの贈り物』と言っていた。ルーンの名前を知ったのがきっかけなのか、それともルーンの形が変わったからなのか・・・仮定は出来るが、確信には至らない。時間制限もあり、一時間も向こうにいる事は出来なかったが、やっと杏里の返事を聞けた。それだけで満足しないようにしないとな。恋人の次はそう、妻にジョブチェンジさせねばなるまい。俺の腹の上ですやすや眠る真琴だが、明日になったらどう説明したものか・・・。今は寝てるのでいいが、家族は何処だと真琴は言うだろう。そして彼女は自分が置かれた状況をどう受け止めるのか・・・俺がその時は守らないといけない。俺は真琴の兄なのだから。と、決意したのが昨夜の事である。俺は忘れていた。アンリエッタは杏里にそっくりなのである。魔法の世界ですと言ったが、真琴は外国レベルとかしか思っていない。皆がいる場所に来るなり、真琴はアンリエッタの方を見て言った。『うわー!杏里お姉ちゃん綺麗~!そっか!お兄ちゃんとこいびとになったからけっこんしきをするんだね!』何という発想の飛躍だろうか。恋人即結婚という考えはないが、どうやら真琴の脳内では俺と杏里が結婚するのは確定事項のようである。その考えは誤りではないが、人違いです。昨日までいなかった存在の登場に怪訝な表情をする一同。ただ一人、アンリエッタのみは、「結婚!?恋人!?」・・・彼女に対して恋人だとか、結婚は禁句のような気がする。ウェールズのことや、戦争の事があるからな・・・。まあ、そんな事真琴の知ったこっちゃないが。「・・・いや、タツヤ、その女の子誰?・・・ま、まさか・・・その子がアンタの想い人だと言うの!?」「阿呆か!?誰が幼女愛好家だ!こいつは俺の妹だ!」「因幡真琴です!」元気な声で挨拶をするが、彼女達は疑問に思う筈だ。妹とか何時連れてきた?と。その辺にいた幼女といっても、このラ・ヴァリエール家には真琴のような少女はウロウロしていない。基本的にこの妹は人畜無害なのだが、目の前にいるお姉さま方は人畜無害というには疑問符がつく。「真琴、あのお姉ちゃんは、杏里にそっくりだけど違う人なんだよ」「その杏里という方が、タツヤさんの想い人なのですね」アンリエッタが俺に確認するように言う。「そうです」アンリエッタと杏里の姿声は似ていても、やっぱり別人である。そっくりは所詮そっくりであり、本人ではない。だが、ウェールズから頼まれた分、簡単に放り出せん人でもある。・・・あれ?タバサ救出の時は?「そしてその杏里さんは、わたくしにそっくりだと?」「うん、そっくりー!」無邪気に言う真琴にアンリエッタは笑顔で「そうなの」と返す。彼女はトリステインの女王。たとえ俺が杏里と出会ってなくとも、俺には遥か遠くの存在だ。「分かりました」何がでしょうか女王陛下。「タツヤさん、私を弄んでいたのですね」「誤解を招く暴言を放つな!?」「だってそうでしょう!?わたくしの姿をそのアンリさんとやらと重ね合わせて見ていたのでしょう!!なんと破廉恥な!」「いや、姫さんと杏里は別人だし」そっくりだから思い出すことはそりゃああるけど、完全に重ね合わせて好きになることはなかったな。まあ、彼女がいたから、俺は杏里のいる世界に帰ると想い続ける事ができたのだが。まあ、アンリエッタと真琴の遭遇はこのような結果となったが・・・。厄介な奴がもう一人いた。ルイズである。そもそも、異世界から俺を呼び出したのはこいつだ。それに少し責任を感じて、元の世界に戻る方法を探しているのに、異世界の住人がもう一人追加されたのだ。そりゃあぶち切れるだろう。俺も予想外のことである為、混乱しているのだが、ルイズには悪い事をしてしまったのだろう。ルイズは先程から真琴をガン見している。「・・・・・・・・・・」「・・・・・??お姉ちゃん誰?」「・・・お姉ちゃん・・・!?」そういえば末っ子だったなコイツ。ルイズが自分より遥か年下といる場面なんて俺は見たことないが・・・。自分を「お姉ちゃん」という存在に彼女はどういう反応をするのだろうか?ルイズはソワソワと落ち着かない様子である。「ふ、ふん!私を姉と呼ぶなんて、い、いい根性してるじゃないの!どうしてもというなら、お、お姉さまとよんでもいいわよ!」「ルイズ、顔がだらしないわよ」カトレアの指摘後も、だらしなく顔を緩ませるルイズ。妹がいたらやさぐれるんじゃなかったのか。「アンタはちゃんと妹さんを守ってあげなさいよ。私も本腰を入れてアンタが元の世界に戻る術を探すから」「ほう、ではお前は今まで本腰を入れていなかったという訳か」「正直情が移り、帰さなくてもいいんじゃないかしらとふと思うことも」「其処は涙を呑んで欲しかった」俺が考えるに響き的に俺の世界に完全に帰れる方法をもつ可能性があるのは、ルイズの持っている『始祖の祈祷書』の白紙のページのどれかとエルフが言っていた『シャイターンの門』くらいか。エルフの巣窟にある『シャイターンの門』に行くのは自殺行為ではないのか?だとしたら『始祖の祈祷書』に期待だが、そもそも書いてるのかどうか分からない。シャイターンの門とやらも何か分からん状態だし・・・。「・・・彼女が婿殿の妹であることは分かりましたが、その『アンリ』とかいう娘は、所詮想い人でしょう?」「ううん!杏里お姉ちゃんはお兄ちゃんと恋人になったんだよ!昨日!」「「「「「昨日???」」」」」「幻聴であって欲しかった・・・婿殿、まさか先回りをしているなど・・・!!しかも昨日ですと・・・!?」「略奪愛、寝取り、どれも家では普通なんだけど」「真顔で物騒な事を言うな、キュルケ」「どのような手段で恋人同士になったかは知りませんが、それはあまりに唐突ではないでしょうか?」「恋は何時でも唐突と思います、母様」「ルイズ、貴女は一体誰の味方なの?」「姉様、私は何時でも自分の味方ですわ」やいのやいの言っていた女性陣の中で、一人だけ満面の笑みを浮かべていた男がいる。娘を取られると戦々恐々としていたラ・ヴァリエール公爵である。「何を混乱しているのだ諸君!折角彼が身持ちを固める決心をしたのだ!我々が出来るのは彼に対する祝福及び、支援ではあるまいか?」「貴方は黙っててください」「はい!」満面の笑顔から一瞬で恐怖に引き攣った表情になる公爵。見ていて非常に面白いが、残念ながらそれを楽しむ余裕は俺にはない。俺の妹の存在は認知されたようだが、杏里の存在は彼女達の何を刺激したのか、何故か波紋を呼んでいる。「お兄ちゃん」「どうした?」「うわきはダメだよ?」向日葵のような笑顔で言うのは良いが、そんなセリフ何処で覚えてきたのだ?俺は反応に困って肩を竦め、真琴の頭を撫でた。「大丈夫さ。ここにいる女の人は魅力的だけど、俺の恋人は杏里だけだからな」俺がそう言うと、真琴は微笑む。真琴にはド・オルニエールの地も見せてあげたい。そういえばそろそろ屋敷の修理が終わる頃だ。・・・行ってみようかな。領地の状況がどうなってるのか興味あるし。俺は目の前で行なわれているルイズ・公爵とその他の言い争いを見ながらそんな事を思うのだった。達也が目の前で消えたのを確認した因幡家と杏里。絶対戻ってくると彼は言った。ならば私はそれを信じて待つだけだ。それが恋人として、彼の信頼に応える事だと思うから。ねえ達也。ありがとう。私なんかを大好きってまた言ってくれて。キス一つで縛り付けられるなんて初心な女だと笑われるかもしれない。だけど、私はアンタが好きでいられる女でいたいとあの時決心した。もう、私は寂しいだなんて言って泣かない。私はアンタの彼女だから。待ってるから。アンタの帰りを。「・・・あれ?真琴は?」瑞希は先程まで達也の左隣にいたはずの妹の姿が見えないことに気付いた。そういえば、真琴は達也にべったりくっ付いていたが・・・・・・。沈黙する一同。「ま、まさかとは思うけど・・・お兄ちゃんにくっ付いて行ったとか?」瑞希が青い顔で言う。信じられないが、先程消えた兄にべったりだった妹がいないのは事実である。・・・兄と同じ場所に行ってしまったのか?瑞希は杏里を見る。杏里は静かに微笑んでいた。「大丈夫ですよ。真琴ちゃんが、アイツと一緒にいるなら、アイツは絶対真琴ちゃんを守っているはずです。そして一緒に帰ってきます」兄と恋人になったことで、何か吹っ切れたような表情をしている杏里。そこには絶望的なものは何も無かった。兄が目の前で消えたと言ったときの彼女のうろたえっぷりからは信じられなかった。そんな杏里の言葉を聞き、達也の両親は顔を見合わせて微笑んだ。「そうだな、達也の将来の奥さんが言うんだからな」「心配だけど・・・待ちましょう。あの子達の帰りを」両親はそうは言うが、瑞希は兄と妹が同時にいなくなったのだ。心中穏やかではない。「瑞希ちゃん。私はさっき、貴女に会わなかったら達也から逃げ回っていたと思うわ。貴女に会ったから、私は達也を待つことができる。貴女のお陰よ」「杏里ちゃん・・・」「達也の代わりにはなれないかもしれないけど・・・私は瑞希ちゃんの姉的存在として頑張るわ。一緒に待ちましょう。あのバカと、真琴ちゃんを」「・・・うん、わかったよ」「ありがとう」そう言って笑う杏里は、瑞希が見とれるほど綺麗だった。兄が夢中になるわけだ、と瑞希は思った。その日、因幡家に通い妻(公認)が誕生し、瑞希に姉が出来た。なお、達也達の世界では、ルイズに妹(非公認)が出来たのであった。(続く)・86話のような事はもうありません。