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No.16875の一覧
[0] ルイズさんが109回目にして平民を召喚しました (オリ主)[しゃき](2011/02/28 21:49)
[1] 第1話 使い魔などという意味不明な供述[しゃき](2010/04/26 20:50)
[2] 第2話 文化の違いは恐ろしい[しゃき](2010/04/26 20:53)
[3] 第3話 嘘は言っていません。誇張はあります。[しゃき](2010/04/26 20:56)
[4] 第4話 郷に入っては郷に従えと言われても限界はある[しゃき](2010/04/26 21:00)
[5] 第5話 『ゼロ』ではないという希望[しゃき](2010/03/15 13:15)
[6] 第6話 男の友情も案外脆いがすぐ修復する[しゃき](2010/04/26 21:02)
[7] 第7話 紳士(おとこ)は女性の涙に弱いのではなく、女性の笑顔に弱い[しゃき](2010/04/26 21:03)
[8] 第8話 男の夢が24時間営業とは限らない[しゃき](2010/04/26 21:08)
[9] 第9話 だから貴方は独身貴族[しゃき](2010/04/26 21:15)
[10] 第10話 君は僕にやや似ている[しゃき](2010/04/26 21:17)
[11] 第11話 空気を読み違えると大抵碌な事にならない[しゃき](2010/04/26 21:21)
[12] 第12話 意外と後ろに人が近づいてきても気づかない事はある[しゃき](2010/04/26 21:25)
[13] 第13話 一方的な勧誘にははっきりNoと言え[しゃき](2010/04/26 21:28)
[14] 第14話 分かりやすい虚飾は気の毒になるのでやめてくれ[しゃき](2010/03/10 21:53)
[15] 第15話 ストレスを発散するときの力加減は難しい[しゃき](2010/04/26 21:29)
[16] 第16話 友達友達ってしつこく言わなくてもいいんだよォ!![しゃき](2010/03/11 23:15)
[17] 第17話 いちゃつくのは勝手だが場所を選べ[しゃき](2010/03/13 00:32)
[18] 第18話 自分の言葉にはある程度責任は持て[しゃき](2010/03/13 23:43)
[19] 第19話 ラッキーヒットが一番怖い[しゃき](2010/03/15 19:43)
[20] 第20話 軽々しくおばさん呼ばわりするとブーメランで帰ってくる[しゃき](2010/03/15 00:13)
[21] 第21話 ここにもフラグを掴み損ねた漢がまた一人・・・[しゃき](2010/03/15 20:00)
[22] 第22話 未練がない人生なんてない[しゃき](2010/03/15 15:36)
[23] 第23話 わたしの王子様(前編)[しゃき](2010/03/15 21:22)
[24] 第24話 わたしの王子様(後編)[しゃき](2010/04/19 16:03)
[25] 第25話 身体検査でいちいち妙な妄想をするな[しゃき](2010/03/17 14:57)
[26] 第26話 人を陥れようとする奴はしっぺ返しを受けるはず[しゃき](2010/03/17 20:50)
[27] 第27話 裸の付き合いもほどほどに[しゃき](2010/03/18 15:25)
[28] 第28話 彼女が彼に抱く感情は恋愛ではなく親愛である[しゃき](2010/03/31 17:41)
[29] 第29話 そんな敵の倒し方があっていいのか[しゃき](2010/03/19 18:23)
[30] 第30話 祈る存在は選んだ方が良いと思う[しゃき](2010/03/20 13:02)
[31] 第31話 さらば擬似的シスター!兄の愛は永遠に!(誇張アリ)[しゃき](2010/03/20 12:59)
[32] 第32話 溢れ出る食欲に抗う事は出来ない[しゃき](2010/03/20 19:35)
[33] 第33話 テンションが上がりすぎると言葉が乱暴になる[しゃき](2010/03/25 13:12)
[34] 第34話 そんな子守唄があってたまるか[しゃき](2010/03/21 13:26)
[35] 第35話 戦争は頭を潰せば大打撃[しゃき](2010/03/22 01:51)
[36] 第36話 つまり私は伝説の女[しゃき](2010/03/23 13:20)
[37] 第37話 俺は君の友達なんかじゃない[しゃき](2010/03/23 12:55)
[38] 第38話 何でお前が其処にいるんだ(タルブの村より)[しゃき](2010/03/23 13:46)
[39] 第39話 何より強きは母の愛[しゃき](2010/03/23 16:31)
[40] 第40話 誰も気づかぬ偉業、自分たちも知らぬ偉業[しゃき](2010/03/24 08:05)
[41] 第41話 ただし聞くだけだ。受けるとは言っていない。[しゃき](2010/03/24 12:40)
[42] 第42話 堅実と特殊能力が合わさって最強に見える[しゃき](2010/03/24 21:33)
[43] 第43話 私はそんな軽い女じゃないわよ[しゃき](2010/03/25 13:14)
[44] 第44話 美女は好きだが愛する女はただ一人[しゃき](2010/03/25 17:17)
[45] 第45話 勇気の幻影[しゃき](2010/03/25 23:05)
[46] 第46話 性格だけは良い男[しゃき](2010/03/26 14:38)
[47] 第47話 雨上がりの虹[しゃき](2010/03/26 20:32)
[48] 第48話 存在自体が武器であるお方[しゃき](2010/03/27 12:34)
[49] 第49話 答えは聞いてないんじゃなくて聞けない[しゃき](2010/03/27 17:57)
[50] 第50話 暗闇を彷徨う男[しゃき](2010/03/28 00:36)
[51] 第51話 アンタの私怨に巻き込まないでよね[しゃき](2010/03/28 16:55)
[52] 第52話 母から見た成長した娘の姿の理由[しゃき](2010/03/29 00:15)
[53] 第53話 娘が男を連れてきた日[しゃき](2010/03/29 13:29)
[54] 第54話 手段を選んでいる場合じゃない[しゃき](2010/03/30 17:28)
[55] 第55話 夏休み中なので逃げたところで追われます[しゃき](2010/03/30 22:52)
[56] 第56話 パンがなければ作れ。材料がなければ作れ。[しゃき](2010/03/31 14:34)
[57] 第57話 地球外生命体とバッタと餡パン[しゃき](2010/04/04 15:08)
[58] 第58話 勝利の絶対条件[しゃき](2010/04/15 00:30)
[59] 第59話 生徒に手を出す者は等しく許さん[しゃき](2010/04/15 17:11)
[60] 第60話 騎士でしょう?貴女は[しゃき](2010/04/17 17:07)
[61] 第61話 どんだけ心の広い神様だよ[しゃき](2010/04/18 16:28)
[62] 第62話 クリスマスを一人で過ごすのは寂しいのよ[しゃき](2010/04/19 08:58)
[63] 第63話 頭脳労働派の中年女性をを舐めるなよ[しゃき](2010/04/19 12:21)
[64] 第64話 サウスゴータの悪魔[しゃき](2010/04/19 22:36)
[65] 第65話 ルイズさんが110回目にして使い魔を召喚できませんでした[しゃき](2010/04/20 13:22)
[66] 第66話 空白の間のとあるお話(完全版)[しゃき](2010/04/21 08:47)
[67] 第67話 孤児は孤児を呼ぶ[しゃき](2010/04/21 13:05)
[68] 第68話 悪夢の捜索隊追加[しゃき](2010/04/22 10:42)
[69] 第69話 伝説の遭遇と再会[しゃき](2010/04/22 17:55)
[70] 第70話 本当はここにいて欲しいよ[しゃき](2010/04/23 16:30)
[71] 第71話 まさかの左遷通告[しゃき](2010/06/09 15:48)
[72] 第72話 話は聞かせてもらった!この領地は滅亡する![しゃき](2010/04/25 01:18)
[73] 第73話 カオスの権化、現る[しゃき](2010/04/25 16:51)
[74] 第74話 憧れの人[しゃき](2010/04/25 22:41)
[75] 第75話 友人だろうと容赦なし[しゃき](2010/04/26 17:12)
[76] 第76話 幼馴染が上級生?いいじゃないか![しゃき](2010/04/27 00:07)
[77] 第77話 冷静に混乱する女[しゃき](2010/04/27 22:21)
[78] 第78話 努力派VS一発逆転派[しゃき](2010/04/27 22:35)
[79] 第79話 とてつもない修学旅行[しゃき](2010/04/28 15:30)
[80] 第80話 減っていく救出隊[しゃき](2010/04/28 23:12)
[81] 第81話 お前のような歌姫がいるか【注意!ややグロかも!】[しゃき](2010/04/30 01:14)
[82] 第82話 古城に響く俺達の歌[しゃき](2010/04/30 01:18)
[83] 第83話 やりすぎ!カリンちゃん![しゃき](2010/04/30 22:20)
[84] 第84話 真心喫茶[しゃき](2010/04/30 23:21)
[85] 第85話 クローンの襲撃【お食事中の方はご注意下さい】[しゃき](2010/05/01 17:07)
[86] 第86話 狐の嫁入り(修正あり)[しゃき](2010/05/02 18:47)
[87] 第87話 今日も因幡家は平和です(追加あり)[しゃき](2010/05/02 12:49)
[88] 第88話 その子がアンタの想い人だと言うの[しゃき](2010/05/02 21:00)
[89] 第89話 飲酒は二十歳になってから[しゃき](2010/05/05 20:03)
[90] 第90話 気合で解決するほど世の中甘くない[しゃき](2010/05/10 16:56)
[91] 第91話 腹が減っては何も出来ぬ[しゃき](2010/05/10 17:05)
[92] 第92話 大事な事なので二回言いました[しゃき](2010/05/10 22:41)
[93] 第93話 魔法媒体の天敵[しゃき](2010/05/11 17:24)
[94] 第94話 フーケさんとワルド君[しゃき](2010/05/13 17:03)
[95] 第95話 喧嘩は一対一でやろう(前編)[しゃき](2010/05/13 16:52)
[96] 第96話 喧嘩は一対一でやろう(後編)[しゃき](2010/07/01 01:06)
[97] 第97話 変態という名の紳士達[しゃき](2010/05/13 23:46)
[98] 第98話 プロジェクトZ~愚かな挑戦者たち~[しゃき](2010/05/14 18:10)
[99] 第99話 彼女は息抜きのためなら死ねるそうだ[しゃき](2010/05/14 18:11)
[100] 第100話 それはアンタの未来であり、私たちの過去だ[しゃき](2010/05/15 01:16)
[101] 【注意!完全なネタ回です】 第X話 「紳士たちの社交場」[しゃき](2010/03/17 02:13)
[102] 【注意!完全なネタ回です】 第X話 「続・紳士たちの社交場」[しゃき](2010/03/18 19:04)
[103] 【注意!完全なネタ回です】 第X話 「真心喫茶109」[しゃき](2010/04/22 23:28)
[104] 予告篇?【ネタ】 世界の扉の向こう側[しゃき](2010/04/12 17:11)
[105] とりあえずの技能のまとめ(102話まで)[しゃき](2010/06/11 15:40)
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[16875] 第86話 狐の嫁入り(修正あり)
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:1ddacfd7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/02 18:47
ラ・ヴァリエール公爵との稽古を終えた俺だが、食事を摂る気になれない。
おそらく公爵も尻の治療で食事を取れまい。
つまり、晩餐会室は女だけだと思われる。
どのような話をしているのかなど興味はない。どうせ陰口(偏見)だろうから。
ルイズの父親も母親もトンでもない方々である。
カリーヌによって、俺は罰を受け、公爵によって俺は深い哀しみを背負った。
ルイズも大変だな・・・・・・。

廊下の窓から見える二つの月が、暗い廊下を照らしている。
この空の下には、俺の家族はいない。
煩悩だらけだが、母に対する愛情は人一倍な父。
そんな父や俺たちを優しく見守る母。
俺の周りをちょこまか走り回る二人の妹達・・・。
その家庭を取り巻く人々・・・。

『平凡な日常』が一番の幸せと言ったのは誰だったか。
俺は既にその平凡の日常を脱却している。

『何?パン屋になりたい?』

ある日、俺の父親の一博は俺が将来なりたい職業を聞いたことがある。
今より少し若い頃・・・俺は「パン屋になる」とその頃から断言していた。
母親の湊はそんな俺の野望を聞いて微笑んでいたが、父は溜息をついた。

『母さんの実家を継ぐのか?あそこは母さんの妹さん夫婦がいるじゃん』

『新しい店を構える!』

『簡単に言うなぁ・・・どうしてそう思ったのかは大体分かるがなぁ・・・』

『達也、あそこのパン屋の2号店とか駄目よ?遊びに来る口実を探してるから。あの一家』

『・・・いや、そもそもあのパン屋の2号店とかにしたら、お義母さんが作ったパンが送りつけられてくるだろう・・・これが家のパン屋の名物だ!とかお義父さんは言うぞ、絶対』

『お兄ちゃんがお店を作ったら、私が最初のお客さんになってあげる!』

『ちがうのー!わたしがいちばんー!』

『あらあら、気が早い話ねェ。じゃあ、お母さんは3番目でいいわ』

『じゃあ俺は4番目になるんだな・・・』

『杏里ちゃんがいるから5番目でしょう?』

『お隣さん以下かよ!?』

それが幸せな日常だとは、その時気付きもしない。
離れて、初めて気付く事もある。
友人と言う存在とは別次元で、家族という存在は、やはりありがたいのだ。

「異世界の騎士か・・・」

騎士の証であるマントを、俺は着用していた。
アンリエッタから返却されたのを俺は素直に受けとった。
別にトリステインに忠誠を誓ってはいない。
俺は自分の進むべき道に対して後悔はしないように心掛けている。
俺は誓ったのだ。必ずどんなに困難だろうと、杏里のもとに帰ると。家族のもとに帰ると。
それが俺の誓い。それを騎士の誓いとする事で不退転のものとする為に、俺は騎士に返り咲いた。
俺は自分の信じるものに対して誓いを立てた。
その証としてマントを受け取った。
どんな事があっても、絶対・・・!!


さて、一方の晩餐会室。
ルイズの周りに部屋の女性達が集まっている。
何だかんだいって、達也とこの世界で一番付き合いがあるのはルイズである。
達也のネタを持っているのも彼女が一番多いのだ。
共通の話題を持っていると、話は弾む。

「・・・では、タツヤさんには、本当に想い人がいらっしゃるのですね?」

アンリエッタが確認するように言う。

「は、はい。タツヤ自身がそう言っていました。タツヤの故郷にその方はいると」

「でも、まだ恋人じゃないんでしょう?」

キュルケの質問にルイズは頷く。
確かに達也は一途だが、相手の心が分からない以上、所詮は片思いである。

「なかなか靡かないと思えばそういう事か・・・」

アニエスが何事か呟いているが誰も聞いていない。
ルイズとしては達也は帰してあげたいが、いくら調べても、次元が違う場所に達也をピンポイントで送る魔法などないのだ。
虚無魔法にそういうのはないかと始祖の祈祷書も調べるが、反応はない。
つまり今の所、手がかりはない。
達也も虚無魔法にそういう便利な魔法ないの?とか言って聞いてくるが、ないと言えば残念そうにしている。
やはり元の世界の想い人の事を考えてるのだろうか?

「そういう訳ですから、タツヤは諦めたほうがいいかと・・・」

ルイズは丁重に達也から手を引いてもらおうと母に言った。
カリーヌは眼鏡をくいっと上げて言った。

「全然問題ありませんね。恋人でも妻でもない存在ならば、何を躊躇う必要があるのです?何を諦める必要があるのです?奪うも何も現在誰のものでもないとわかり安心しました」

悪魔のような笑みを浮かべるカリーヌ。
それに対して、はっとしたような表情を浮かべる一同。
ルイズのみ、「なにその理屈こわい」といいたげな顔である。
そんなルイズを見て、カリーヌは言う。

「ルイズ、今は悪魔が微笑む時代でもあるのですよ」

「母様!それはタツヤの意志を蔑ろにする発言ですよ!」

「いや、最悪世継ぎだけでもいいからと思うんですよ」

「なに言ってんのアンター!?」

どうやらカリーヌは諦めていない様子だ。
いや、だが流石にアンリエッタとかは・・・。

「世継ぎ・・・世継ぎ・・・?」

「世継ぎで満足していいのか私、それでいいのか私?」

オイコラ其処の姫と銃士隊隊長。
帰って来い。悪魔の囁きに耳を貸してはいけない!


成る程・・・ね。
キュルケは達也の境遇を聞き、そう感想を漏らした。
好きな女性がいる・・・か。
だからどうだというのだろうか?
恋人同士の関係ならば少しは遠慮したかもしれない。
だが、そうではないのだろう?
ルイズは達也の意思を尊重しているのかもしれない。
だが、人の心は強くもあれば、弱く脆い。
彼が惚れている女性のことは知らないが、彼が惚れるほどの女性なのだ。
きっと、それほど魅力的な女性なのだろう。

・・・だからと言ってはいそうですかと納得するわけあるか!
キュルケは密かに燃えていた。


――――例え、決意を新たにしても。

――――例え、異世界で生きていても。

――――例え、愛を貴方が誓っても。




――――その世界にお前はいない。そう、お前は確かにその世界にいないのだ。

――――お前がその世界にいない。

――――それが世界の真実。

――――それが世界の真実ならば、それが・・・

――――お前が愛する女の真実でもあるのだ。




彼がいないのは寂しかった。
いるはずの存在がいない。
彼が言った魔法の世界。
魔法なんてある訳がない。夢でも見ていた。
散々言われたが、彼はその時其処にいた。

『最期に杏里たちに会いに来たんじゃないの?』

友人の言った言葉が頭の中で反芻される。
確かにアレから達也は現れない。
・・・・・・最期の・・・・・お別れだったのか?

『杏里!大好きだ!また会おう!』

また会おうって・・・あの世なの?
だって貴方、大好きだなんて言う人じゃないじゃない。
目の前で消えていった達也。
彼は幽霊だったのだろうか・・・。

彼の行方は知れない。
・・・恋人でもないただの幼馴染。




――――そう、彼女と彼の関係は文字に表せばその程度。

――――彼が消えず、彼女の側にいれば、彼女は今頃、幸せに穏やかに過ごしていたろう。

――――正に恋人同士のように。

――――だが、彼はいない。この世界にもう、いないのだ。

――――彼と彼女の絆は深い。

――――だからこそ、彼女には彼がすでにこの世の存在でないとうっすら感じるのだ。

――――嗚呼、もしも彼が異世界に召喚されなければ、彼が邂逅したある可能性の未来に辿り着けたのに。

――――嗚呼、運命の歯車が狂ったばかりに。

――――嗚呼、彼女の心がほんの少し、あと少し強ければ。

――――嗚呼、彼女があと少し、魔法の世界という存在を信じれば。

――――嗚呼、嗚呼。彼女が、彼女が何処にでもいるような平凡な容姿ならばあるいは。

――――嗚呼、彼女の寂しさを彼の家族がもっと深く気付いていれば。

――――嗚呼、嗚呼、嗚呼。彼が、彼がこの世界に居れば!


薄暗い部屋。
其処は彼女の部屋でもない。
ましてや幼馴染の部屋でもない。
その空間に響くのは男女の小さな呻きに似た声。
そして何かが軋む音。
そして何かが倒れる音。

外は満天の星空。
月明かりが部屋を照らす。
照らされた先のベッドには男と女の姿があった。
男は白目を剥いて完全に意識を失っている。

何処か、彼と似ている感じだが、全然違う。
所詮、彼ではなかった。
そう、彼じゃないんだ。
寂しさに潰れそうになってた所を声をかけられた。
何故だろう。彼に似ていると思った。
違う。最初からそいつは身体が目当てだったのだ。
だから優しくしていたに過ぎない。彼が行方不明と何処かで聞いて・・・。
それしきの事に気付かないほど、自分は参っていたのか・・・?
それしきの男に自分は身体を許してしまったのか?
それしきの寂しさで私は彼を裏切る行為に等しい行動をしたのか?


「うっ・・・ひっく・・・ううっ・・・」

静かな薄暗い部屋に月明かりが差し込んでいる。
月明かりに照らされた少女、三国杏里は、『彼』ではない男が眠る隣で呆然とただ、涙を流すのだった。
寂しさという悪魔に精神を蝕まれた少女は・・・愛する彼を裏切ってしまった。

・・・男の顔が酷い事になっているのは何故でしょう?


二つの月がある夜空を見上げる俺。
退屈そうにしていた幼女ルーンが、俺に話しかけてきた。

『お話しましょう、お話』

「何を?お前のぶっ飛んだ話にはついていけそうにないんだけど?」

『いえいえ、貴方は元の世界に戻ったら、真っ先に誰に会うんですか?』

「家族・・・と言いたいけどやっぱり杏里だな!」

『一途ですねェ』

「悪いかよ」

『いいえ、その一途さは敬意を払うに値しますよ』

「そりゃどーも・・・ん?」

月が出てるほどの晴天なのに、雨が降っている。

『狐の嫁入りってやつですねー』



月が出た状態の雨はそれから一時間ほど続いていた。



雨が降っていた。
達也の妹、因幡瑞希は、今日の下校中、信じられないものを見た。
三国杏里が、知らない男と歩いていた。
杏里の様子は明らかにおかしかった。
男の方が彼女の肩を抱いていたが、楽しそうなのは男の方だけだった。
杏里の顔は、死人のようだった。
彼女のミスは、その時、声を掛けなかった事。
そして彼女の幸運は、深夜まで起きていたということだった。

窓の外には、服がやや乱れた姿の三国杏里が、トボトボと歩いていた。
瑞希は思わず、部屋を飛び出していた。


――――その二人の幸せを願うものが居る。

――――その二人の不幸を嘆くものが居る。

――――彼の行く末を見守るものが居る。

――――彼は何時だって人の力を当てにしていた。

――――そう、彼は人の力を当てにしていたのだ。






(続く)



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